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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:52  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1097975
異議申立番号 異議1999-74137  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-01-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-10 
確定日 2004-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2889549号「充実性腫瘍治療法及び組成物」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2889549号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2889549号発明は、平成2年10月19日(パリ条約による優先権主張、1989年10月20日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願平3-501034号の一部を平成9年3月17日に新たな特許出願としたものであって、平成11年2月19日にその特許権の設定登録がなされ、その後、都野キヨコより特許異議申立がなされ、当審より取消理由通知がされ、その指定期間内である平成12年11月20日に訂正請求(後日取下)がなされた後、取消理由通知がされ、その指定期間内である平成14年4月10日に訂正請求(後日取下)がなされた後、取消理由通知がされ、その指定期間内である平成16年3月3日に訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1に、
「充実性腫瘍中に、血流を介して腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を局在化するために使用されるリポソーム組成物であって、
小胞形成脂質と、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質1〜20モル%とから成るリポソームであって、該腫瘍中への溢出に充分なサイズを有するリポソーム、および
リポソームに取り込まれた形態の腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を含む、リポソーム組成物。」とあるのを、
「充実性腫瘍中に、血流を介して腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を局在化するために使用されるリポソーム組成物であって、
小胞形成脂質と、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質(この場合、両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子のポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化されるものである)1〜20モル%とから成るリポソームであって、該腫瘍中への溢出に充分なサイズを有するリポソーム、および
リポソームに取り込まれた形態の腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を含み、
ここで該リポソームは、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤のリポソームへの積載に用いられる、膜を横切るアンモニウムイオン勾配を含む、リポソーム組成物。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正は「ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで 誘導体化された両親媒性小胞形成脂質」を、「両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子のポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化されるもの」に限定し、及び、リポソームへの腫瘍結像剤または抗腫瘍剤の積載手段について、任意であったものを、「リポソームは、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤のリポソームへの積載に用いられる、膜を横切るアンモニウムイオン勾配を含む 」と限定するものであるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、「両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子のポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化される」は、明細書の段落【0022】〜【0033】、及び図1〜図6に実質的に記載されており、「リポソームは、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤のリポソームへの積載に用いられる、膜を横切るアンモニウムイオン勾配を含む 」は、明細書の段落【0052】 、及び 段落【0169】〜【0171】 に記載されているから、この訂正は、願書に添付された明細書及び図面に記載された範囲内のものであり、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(3)独立特許要件に対する判断
後述の「3.特許異議申立についての判断」に記載した理由から明らかなように、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る発明は、独立して特許を受けることができる発明である。
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項で準用する平成5年法改正前の第126条第2項、及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
(1)本件発明
本件発明は、上記のとおり訂正が認められるから、その特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 充実性腫瘍中に、血流を介して腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を局在化するために使用されるリポソーム組成物であって、
小胞形成脂質と、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質(この場合、両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子のポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化されるものである)1〜20モル%とから成るリポソームであって、該腫瘍中への溢出に充分なサイズを有するリポソーム、および
リポソームに取り込まれた形態の腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を含み、
ここで該リポソームは、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤のリポソームへの積載に用いられる、膜を横切るアンモニウムイオン勾配を含む、リポソーム組成物。(以下「本件発明1」という。)
【請求項2】前記親水性ポリマーが約1,000〜5,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールである、請求項1に記載のリポソーム組成物。(以下「本件発明2」という。)
【請求項3】前記抗腫瘍剤の少なくとも約80%がリポソームに取り込まれた形態である、請求項1または2に記載のリポソーム組成物。(以下「本件発明3」という。)
【請求項4】前記抗腫瘍剤がアントラサイクリン抗生物質である、請求項3に記載の組成物。(以下「本件発明4」という。)
【請求項5】前記アントラサイクリンがドキソルビシン、エピルビシン、およびダウノルビシンならびに薬理学的に許容可能なその塩および酸からなる群から選択される、請求項4に記載のリポソーム組成物。(以下「本件発明5」という。)
【請求項6】前記リポソームに取り込まれた前記抗腫瘍剤の濃度が50μg(薬剤)/μmol(リポソーム脂質)を超える、請求項4または5に記載のリポソーム組成物。(以下「本件発明6」という。)
【請求項7】 充実性腫瘍中に、血流を介して局在化するためのリポソーム組成物の調製方法であって、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤をリポソーム中に取り込んで請求項1から6のいずれかに1項に記載のリポソーム組成物を形成する工程を包含する方法。(以下「本件発明7」という。)」である。

(2)異議申立の概要
異議申立人都野キヨコは、甲第1〜4号証、及び参考資料1〜10を提出して、本件発明は特許法第29条第1項第3号、又は同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、また同法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、取り消されるべきであることを主張している。
異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:特表平5-501264号公報(以下「刊行物1」という。)
甲第2号証:特開平1-249717号公報 (以下「刊行物2」という。)
甲第3号証:特開昭61-158932号公報(以下「刊行物3」という。)
甲第4号証:特表平1-502590号公報(以下「刊行物4」という。)
参考資料1:特許第2667051号公報
参考資料2:「一般審査基準、出願の分割」(特許庁編、社団法人発明協会発行) の抜粋
参考資料3:「一般審査基準、発明の同一性に関する審査基準」(特許庁編、社団法人発明協会発行)の抜粋
参考資料4:Life Sciences ,Vol.40, No.16, 1987, pp.1553-1560
参考資料5:International Journal of Pharmaceutics, 29(1986)53-65
参考資料6:Journal of Pharmaceutical Science, Vol.72,No.9,1983,1086-1088
参考資料7:FEBS 1212, Vol.167, No.1., 1984, 79-82
参考資料8:Life Sciences, Vol. 40, No. 4, 1987, pp. 367-374
参考資料9:J. Pharm. Pharmacol. 39, Suppl., 52P, 1987
参考資料10:Advanced Drug Delivery Reviews 16(1995) 157-182

(3)証拠に記載の事項
(a)刊行物2には、
「本発明の目的は、内包する薬物のもれが少ない安定なリポソームの製造法を提供することである。・・・・本発明は、リポソーム膜を脂質および式1で示される2,4-ビス(ポリエチレングリコール)-6-置換アミノ-s-トリアジン誘導体より構成することを特徴とするリポソーム膜の製造方法に関する。・・・・・ポリエチレングリコール部の平均分子量は350〜5000が望ましい」(第2頁左上欄第4行〜最下行)、
「リポソームに取りこませる親水性薬物としては例えば・・・・・抗がん剤・・・・・抗ウイルス剤・・・・・抗生物質・・・・・ペプチドホルモン剤・・・・・酵素剤・・・・・免疫賦活剤・・・・・蛋白質が挙げられる。」(第5頁左上欄第9行〜同右上欄第1行)、
「実施例1.
卵黄レシチン30mg、例示化合物2(10mg)、コレステロール(1.4mg)をクロロホルム(3ml)に溶解し減圧留去して薄膜を作った。充分に乾燥後カルボキシフルオレセインのBuffer 溶液・・・・・3mlを加えて15分間ボルテクシングを行いその後プローブ型の超音波発生装置で10分間ソニケーションを行った。・・・・・次に・・・カルボキシフルオレセインの漏出をけい光測定で追跡した。・・・・・・・本発明の化合物を用いることにより、リポソーム内容物の漏出が少なくなることがわかる。」(第6頁左上欄第4行〜右上欄第8行)(例示化合物2は、1分子あたり2分子のポリエチレングリコールを有する脂質に相当する。)
と記載されている。
また、第2頁左下欄〜第3頁右上欄 には、式1で表される化合物の具体例として、1分子あたり2分子のポリエチレングリコールを有する脂質に相当する化合物が記載されている。
(b)刊行物3には、
「本発明は、体内の腫瘍細胞に対する封入されたイメージング及び化学療法剤の溢出を増大させる簡便な方法を提供するものである。」(第5頁左上欄第7〜第9行)、
「a)化学的に純粋なリン脂質分子を含む2000Åより小さい中性小ミセル粒子を調製し;b)腫瘍内の該粒子の部位を検出する目的のイメージング薬剤、又は該腫瘍を治療する目的の化学療法薬剤を該ミセル粒子内に含有し;c)前記b)段階で得られたミセル粒子を体の血流内に導入し腫瘍内に該粒子を完全なまま位置させる;というステップを含む、該腫瘍の診断又は治療を目的として該薬剤を用いて体内の腫瘍を目標攻撃する方法」(第1ペ-ジ左下欄第6行〜第16行)、
「”ミセル粒子”及び”ミセル”とは両親媒性分子の自発的な凝集によって引き起こされる水溶性粒子を意味する。・・・・・ミセルは・・・・・両親媒性分子の2つの平行な層から成る二重層でもあり得る。・・・・・"リポソーム"としても知られているものである。」(第6頁左上欄第2行〜第12行)、
「前述の全ての小胞は電子顕微鏡によって0.1ミクロン(1000Å)より小さい平均直径を有することが示された」(第7頁左上欄第5行〜第7行)
と記載されている。
(c)刊行物4には、
「薬物がその内部に捕捉され、そのサイズが主として約0.05〜0.5μであるリポソームの懸濁液を静脈注射により投与する、薬物による治療法であって;次のようなリポソームの調製を包含し、血流中におけるリポソームの寿命が長い、方法:(a)実質的に均一相の二重層を有し、該二重層は、主として飽和アシル鎖を有するスフィンゴミエリンおよび中性リン脂質でなる群から選択される膜強化性脂質を少なくとも約50モル%の割合で含有し、そして、(b)該二重層は、約5〜20モル%の糖脂質を含有し、該糖脂質は、ガングリオシドGM1、飽和ホスファチジルイノシトールおよびガラクトセレブロシド硫酸エステルでなる群から選択される 」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第3行)、
「薬物による腫瘍の治療に用いられる請求の範囲第8項に記載の方法であって、腫瘍に供給された薬物量が、薬物の投与24時間後に薬物/腫瘍重量により算出すると、遊離型の薬物を投与したときよりも数倍高い、方法」(第2頁右上欄第1行〜第4行)、
「腫瘍治療における改良された薬剤供給および/または薬剤標的化のために、血流中で薬剤を運搬するリポソームの寿命を著しく延長する方法を提供することは、本発明のさらに別の目的である。」(第4頁左下欄第15行〜第18行)、
「血流中のリポソームの寿命が延長したので、注射されたリポソームの有意な量が、RESによって血液から除去される前に標的部位に到達できるようになる。特に、腫瘍患者に静脈投与することにより、腫瘍組織を標的として薬剤治療を行なうことが望ましい。動物の腫瘍を標的とする本発明のリポソーム組成物の使用は、実施例11〜13に詳細に記載される。結果を要約すると、血液/RES比が増大したときのリポソームは、遊離の薬物に比べて腫瘍への取込みが10〜30倍増大する。腫瘍中に高濃度の薬物が認められるのは、投与後4〜48時間であるが、腫瘍への取込みは投与後24時間がピークであった。」(第8頁左下欄第20行〜右下欄第1行〜第7行)と記載されている。

(4)判断
(I)特許法第29条第1項第3号について
異議申立人は、本件発明は、原出願に係る発明と同一であるから、本件特許は、適法に分割出願されたものでなく、出願日の遡及は認められないと主張しているので、まず、この点について検討する。

原出願は特許第2667051号(参考資料1)として特許され、該特許発明は、その特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 充実性腫瘍中に、血流を介して腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を局在化するために使用されるリポソーム組成物であって、
小胞形成脂質と、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択され、1,000〜5,000ダルトンの分子量を有する親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質1〜20モル%とから成り、平均リポソームサイズが約0.7〜0.12μmのリポソーム、および
リポソームに取り込まれた形態の腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を含む、リポソーム組成物。
【請求項2】前記親水性ポリマーが約1,000〜5,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールである、請求項1に記載のリポソーム組成物。
【請求項3】前記抗腫瘍剤の少なくとも約80%がリポソームに取り込まれた形態である、請求項1または2に記載のリポソーム組成物。
【請求項4】前記抗腫瘍剤がアントラサイクリン抗生物質である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】前記アントラサイクリンがドキソルビシン、エピルビシン、およびダウノルビシンならびに薬理学的に許容可能なその塩および酸である請求項4に記載のリポソーム組成物。
【請求項6】前記リポソームに取り込まれた前記抗腫瘍剤の濃度が50μg(薬剤)/μmol(リポソーム脂質)を超える、請求項4または5に記載のリポソーム組成物。
【請求項7】 充実性腫瘍中に血流を介して局在化するためのリポソーム組成物の調製方法であって、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤をリポソーム中に取り込んだ請求項1から6のいずれかに1項に記載のリポソーム組成物を形成する工程を包含する方法。」

本件発明1と、原出願の請求項1に係る発明とを対比すると、前者は、リポソームへの腫瘍結像剤または抗腫瘍剤の積載手段として、「リポソームは、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤のリポソームへの積載に用いられる、膜を横切るアンモニウムイオン勾配を含む 」のに対し、後者には、リポソームへの腫瘍結像剤または抗腫瘍剤の積載手段について、このような構成が付されていないので、両者を同一発明であるとすることはできない。
また、本件発明2〜7は、本件発明1をさらに限定したものであるか、または本件発明1のリポソーム組成物の調整方法の発明であるので、原出願の請求項2〜7に係る発明と同一発明であるとすることはできない。
したがって、本件発明は、原出願に係る発明と同一であるから、本件特許は、適法に分割出願されたものでなく、出願日の遡及は認められないとの異議申立人の主張は採用できない。また、他に不適法に分割出願されたとする理由もなく、本件特許は、適法に分割出願されたものと認める。

本件特許は、前記したとおり適法な分割出願であり、平成2年10月19日(パリ条約による優先権主張、1989年10月20日、アメリカ合衆国)を出願日とみなされるものであるところ、 刊行物1は、本件の原出願に係る公表公報であって、その公表日は、平成5年3月11日であるから、本件特許の優先権主張日後に頒布されたものであるので、特許法第29条第1項第3号に規定する刊行物に該当しない。
よって、異議申立人の主張は採用しない。

(II)特許法第29条2項について
1)刊行物2の第2頁左下欄〜第3頁右上欄には、式1で示される2,4-ビス(ポリエチレングリコール)-6-置換アミノ-s-トリアジン誘導体の具体例が記載されており、そのうち、2、4、6〜8の化合物は、1分子あたり2分子のポリエチレングリコール(親水性ポリマー)で誘導体化された脂質に相当するものと認められる。
そこで、本件発明1と刊行物2に記載されたものとを対比すると、本件発明1のリポソームを構成する「親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質」が、「両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子の親水性ポリマー(ポリエチレングリコール等)で誘導体化」されたものであるのに対して、刊行物2に記載のものは、上記のとおり、脂質1分子あたり2分子のポリエチレングリコール(親水性ポリマー)で誘導体化されたものであるから、両者は、リポソームを構成する、親水性ポリマーで誘導体化された脂質の構成において相違する。

2)また、本件発明1のリポソームは、明細書の例13に示されるとおり、腫瘍細胞への吸収の局在化の割合が、通常のリポソームの約2倍値となり、腫瘍成長抑制の実験においても、通常のリポソーム(参考例)中のドキソルビシン(抗腫瘍剤)が、遊離のドキソルビシンと比べ、同一、又は良好でないという結果を示すのに対して、例15の本件発明1のリポソーム中のエピルビシン(抗腫瘍剤)は、遊離のエピルビシンに比べ、著しく腫瘍成長を抑制していることからして、本件発明1のリポソームは、全身性の血管外腫瘍中に治療的用量レベルで結像剤または抗腫瘍剤を選択的に局在化させるという顕著な効果が認められる。
これに対し、刊行物2には、該発明のリポソームが、リポソーム中に内包する薬物のもれを少なくするという製剤上の作用効果を奏することが示されているだけであって、抗ガン剤に関する記載について、単に内包される薬物の例として、抗ウイルス剤、抗生物質、ペプチドホルモン剤、酵素剤、免疫賦活剤、蛋白質と並列的にされているに過ぎず、該発明のリポソームが抗ガン剤を腫瘍細胞に選択的に局在化するのに特に適していることを示唆する記載は何らされていない。

3)異議申立人は、腫瘍中への溢出に充分なサイズ(2000Å(0.2μm)以下、及び0.05〜0.5μm)を有するリポソームを腫瘍の治療のために使用すること、そして、リポソームの血中滞留性を高めて腫瘍細胞への溢出を増大させることによりリポソームの腫瘍への局在化を達成することは、刊行物3及び刊行物4に記載されているので、刊行物2に記載された抗ガン剤を含有するポリエチレングリコール修飾リポソームを、刊行物3、又は刊行物4を参酌することによって、腫瘍への溢出を達成するのに適当なサイズに調製することは当業者が容易に想到しうることである、と主張している。
しかしながら、刊行物2に記載されたリポソームと本件発明1のリポソームとが、リポソームを構成する親水性ポリマーで誘導体化された脂質の構成において相違することは、前記したところである。また、本件発明1のリポソームの、結像剤又は抗腫瘍剤を腫瘍へ選択的に局在化させるという効果は、リポソームのサイズにのみ依存するものとは直ちには認められず、むしろリポソームを構成する脂質を「ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質(この場合、両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子のポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化されるものである。)」としたことによるものであることは、本件発明1のリポソーム及び通常のリポソームを、同じサイズ(100nm)のものを使用して行っている明細書の例13の実験において、本件発明1のリポソームの場合、腫瘍細胞への吸収の局在化の割合が通常のリポソームに比べて、約2倍となっていることからしても明らかである。
このため、上記異議申立人の主張は採用できない。

4)なお、異議申立人は、参考資料4〜9(参考資料10は本件優先権主張日1989年10月20日の後、1995年に発行されたものである。)を提出して、リポソーム又は高分子粒子の修飾成分としてポリエチレングリコールを使用すると、RESによる取り込みを回避でき、血液滞留性が向上することは本件特許発明の優先日以前からの周知技術であると主張しているが、該周知技術は、本件発明1のリポソームの「全身性の血管外腫瘍中に治療的用量レベルで結像剤または抗腫瘍剤を選択的に局在化させる」という効果を示唆するものではない。

5)以上のとおり、刊行物2〜4、及び参考資料4〜9には、本件発明1のリポソームを構成する、両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子の親水性ポリマー(ポリエチレングリコール等)で誘導体化された両親媒性小胞形成脂質について記載も示唆もされておらず、また、本件発明1のリポソームは、「全身性の血管外腫瘍中に治療的用量レベルで結像剤または抗腫瘍剤を選択的に局在化させる」という、刊行物2〜4、及び参考資料4〜9の記載からは予測することができない効果を奏するものと認められるから、本件発明1は、刊行物2〜4、及び参考資料4〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6)また、本件発明2〜7は、本件発明1をさらに限定するか、本件発明1のリポソーム組成物の調整方法であるから、刊行物2〜4、及び参考資料4〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

( III )特許法第36条第3項及び第4項について
異議申立人は、
(i)請求項1に記載の「親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質」について、親水性ポリマーの分子量ならびに両親媒性小胞形成脂質に対する誘導体化の程度(即ち、1分子の脂質に対して結合している親水性ポリマーの分子数)が記載されていないので、親水性ポリマーの存在量が規定されず、記載が不十分である,
( ii )請求項1に記載の「親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成物質1〜20モル%とから成るリポソーム」における「1〜20モル%」は、発明の作用効果を発揮できない場合も含まれており、範囲が広すぎる,
( iii )請求項1に記載の「該腫瘍中への溢出に充分なサイズ」は単に発明が達成しようとする課題を記載したにすぎず、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものではない,
( iv )ポリエチレングリコールで誘導体化された脂質を有するリポソームと、該脂質を有さない以外は同一の組成の脂質を有し、かつ同一粒径のリポソームを用いた比較実験が示されてないので、発明の効果が確認できない,として、明細書の記載が不備である旨主張している。
そこで、これらの点について検討する。

(i)について
親水性ポリマーの両親媒性小胞形成脂質に対する誘導体化の程度については、訂正請求により、「両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子のポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化される 」と訂正がされた。
また、本件発明1は、明細書全体の記載からして、リポソーム組成物中に、親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質(この場合、両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子の親水性ポリマーで誘導体化されるものである)を含有させる点に特徴を有するものと認められるところ、該親水性ポリマーの分子量については、本件明細書の記載に基づいて実施に際し当業者が適宜設定し得る事項であるから、構成に欠くことができない事項として特許請求の範囲に記載しなければならないほどのものとは認められない。
したがって、親水性ポリマーの分子量、及び両親媒性小胞形成脂質に対する誘導体化の程度が特許請求の範囲に記載されていないことを理由に、親水性ポリマーの存在量が規定されず、記載不備とした異議申立人の主張は採用できない。
( ii )について
異議申立人は、本件明細書には、親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成物質を1モル%、及び20モル%含む場合についての実施例が示されておらず、1モル%の様に低い場合には、高い血中滞留性を維持するのは困難であり、20モル%を含む場合には安定的にリポソームを作成することが困難となると主張している。
しかしながら、本件明細書には、例6等に5モル%の場合、また、例15等に9モル%の場合の実施例が示されているところ、1モル%、又は20モル%においては所期の目的が達成し得ないとは必ずしもいうことができないので、異議申立人の主張は採用できない。
( iii )について
本件発明1は、明細書全体の記載からして、リポソーム組成物中に、親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質(この場合、両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子の親水性ポリマーで誘導体化されるものである)を含有する点に特徴を有するものと認められるところ、リポソームのサイズの具体的数値については、本件明細書の記載に基づいて実施に際し当業者が適宜設定し得る事項であるから、構成に欠くことができない事項として特許請求の範囲に記載しなければならないほどのものとは認められない。
したがって、「該腫瘍中への溢出に充分なサイズ」は単に発明が達成しようとする課題を記載したにすぎず、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものではないとする異議申立人の主張は採用できない。
(iv )について
本件明細書には、例13(段落【0182】〜【0183】)において、本件発明1のリポソームと通常のリポソームを、ポリエチレングリコールで誘導体化された脂質(PEG-DSPE)を有するリポソームと、該脂質を有さない以外は同一の組成の脂質(DSPC及びChol)を有するもので、同じサイズ、100nm(0.1μm)としたものを使用して、本件発明1のリポソームが通常のリポソームの腫瘍細胞への吸収の局在化の割合の約2倍値となることを示しており、また、腫瘍成長抑制の実験においても、参考例(段落【0201】〜【0202】)において、通常のリポソーム中のドキソルビシン(抗腫瘍剤)が、遊離のドキソルビシンと比べ、同一、又は良好でないという結果を示すのに対して、例15(段落【0191】〜【0195】)の本件発明1のリポソーム中のエピルビシン(抗腫瘍剤)は、遊離のエピルビシンに比べ、著しく腫瘍成長を抑制している という結果を示しているので、特許異議申立人の「ポリエチレングリコールで誘導体化された脂質を有するリポソームと、該脂質を有さない以外は同一の組成の脂質を有し、かつ同一粒径のリポソームを用いた比較実験が示されてないので、発明の効果が確認できない。」という主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、異議申立の理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
充実性腫瘍治療法及び組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 充実性腫瘍中に、血流を介して腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を局在化するために使用されるリポソーム組成物であって、
小胞形成脂質と、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質(この場合、両親媒性小胞形成脂質1分子あたり1分子のポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化されるものである)1〜20モル%とから成るリポソームであって、該腫瘍中への溢出に充分なサイズを有するリポソーム、および
リポソームに取り込まれた形態の腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を含み、
ここで該リポソームは、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤のリポソームへの積載に用いられる、膜を横切るアンモニウムイオン勾配を含む、リポソーム組成物。
【請求項2】 前記親水性ポリマーが約1,000〜5,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールである、請求項1に記載のリポソーム組成物。
【請求項3】 前記抗腫瘍剤の少なくとも約80%がリポソームに取り込まれた形態である、請求項1または2に記載のリポソーム組成物。
【請求項4】 前記抗腫瘍剤がアントラサイクリン抗生物質である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】 前記アントラサイクリンがドキソルビシン、エピルビシン、およびダウノルビシンならびに薬理学的に許容可能なその塩および酸からなる群から選択される、請求項4に記載のリポソーム組成物。
【請求項6】 前記リポソームに取り込まれた前記抗腫瘍剤の濃度が50μg(薬剤)/μmol(リポソーム脂質)を超える、請求項4または5に記載のリポソーム組成物。
【請求項7】 充実性腫瘍中に血流を介して局在化するためのリポソーム組成物の調製方法であって、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤をリポソーム中に取り込んで請求項1から6のいずれかに1項に記載のリポソーム組成物を形成する工程を包含する方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はリポソーム組成物及び方法、特に腫瘍診断および/または治療に使用するためのものに関する。
【0002】
【従来の技術】
血管外腫瘍診断および治療のためには、結像化合物または治療化合物が血流を介して選択的に腫瘍を標的化することが望ましい。診断学において、このような標的化は、腫瘍部位に高濃度の結像剤を提供し、同時に、体の他の部分における結像剤のバックグラウンドのレベルを低減させるために使用されてきた。部位特異的標的化は腫瘍の治療に有用であり、毒性の副作用を低減し、かつ腫瘍部位へ安全に送達され得る薬剤の用量を増加させる。
【0003】
リポソームは、結像化合物および治療化合物の両者を包含する静脈内(IV)投与化合物のための薬剤キャリヤーとして提案されている。しかし、血流を介する部位特異的標的化にリポソームを使用することは、網内細胞系(RES)の細胞によるリポソームの迅速なクリアランスによって厳しく制限される。一般に、RESは1時間以内にIV注射されたリポソームの用量の80〜95%を除去し、リポソームの吸収について、選択された標的部位と有効に競合する。
【0004】
RESのリポソーム吸収率を左右する種々のファクターが報告されている(たとえば、Gregoriadis,1974(文献番号11);Jonah(文献番号18);Gregoriadis,1972(文献番号10);Juliano(文献番号19);Allen,1983(文献番号1b);Kimelberg,1976(文献番号21);Richardson(文献番号29);Lopez-Berestein(文献番号24);Allen,1981(文献番号1a);Scherphof(文献番号32);Gregoriadis,1980(文献番号12);Hwang(文献番号16);Patel,1983(文献番号39);Senior,1985(文献番号34);Ellens(文献番号7);Senior,1982(文献番号33);Ashwell(文献番号4);Hakomori(文献番号14);Karlsson(文献番号20);Schauer(文献番号31);Durocher(文献番号6);Greenberg(文献番号13);Woodruff(文献番号38);Czop(文献番号5);およびOkada(文献番号26))。簡単に述べると、リポソームサイズ、電荷、脂質の飽和度、および表面部分が、すべて、RESによるリポソームのクリアランスに関与する。しかし、長い血中半減期、およびより詳細には、注射の24時間後の血流中のリポソームの比較的高い百分率を提供するために有効なファクターは現在までひとつも確認されていない。
【0005】
長い血中半減期に加えて、腫瘍部位への有効な薬剤送達のためには、リポソームが、腫瘍に血液を供給する血管の周囲の連続内皮細胞層およびその下の基底膜に浸透することができることも要求される。腫瘍は、損傷を受けた、漏れやすい内皮を与え得るが、特に、腫瘍への血流が少ないこと、そのため循環するリポソームに対する曝露が制限されることを考慮すると、リポソームの有効量が腫瘍細胞に到達するためには、リポソームが内皮細胞バリヤーおよび隣接する基底膜を通過することを促進するメカニズムを有しなければならないことが一般に認識されている(Weinstein(文献番号37))。ほとんどの腫瘍内で見いだされる、通常より高い間隙圧によって、腫瘍からの液体の血管外への移動が生じ、リポソームの溢出の機会が減少する傾向もある(Jain(文献番号17))。指摘されているように、腫瘍中での溢出に対するこれらのバリヤーを克服し、同時にRESによる認識および吸収を回避するリポソームを設計することは成功しそうもなかった(Poznanski(文献番号28))。
【0006】
実際、いままで報告されている研究は、血管への透過性が増大した場合でさえも、従来のリポソームの管を通る溢出は著しく増加しないことを示している(Poste)。これらの知見に基づき、疾病によって損なわれた毛管から、制限された検出レベル未満のリポソームの溢出が生じ得るとはいえ、その治療的有用性は最小であると結論された(Poste(文献番号27))。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、腫瘍の標的化に有効であるリポソーム組成物および方法を提供することであり、これによって全身性の血管外腫瘍中に治療的用量レベルで結像剤または抗腫瘍剤を選択的に局在化させることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のリポソーム組成物は、充実性腫瘍中に、血流を介して腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を局在化するために使用されるリポソーム組成物であって、小胞形成脂質と、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーから選択される親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質1〜20モル%とから成るリポソームであって、該腫瘍中への溢出に充分なサイズを有するリポソーム、ならびにリポソームに取り込まれた形態の腫瘍結像剤または抗腫瘍剤を含む。
【0009】
好適な実施態様によれば、上記親水性ポリマーは、約1,000〜5,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールである。
【0010】
好適な実施態様によれば、上記抗腫瘍剤の少なくとも約80%は、リポソームに取り込まれた形態である。
【0011】
好適な実施態様によれば、上記抗腫瘍剤はアントラサイクリン抗生物質である。
【0012】
好適な実施態様によれば、上記アントラサイクリンは、ドキソルビシン、エピルビシン、およびダウノルビシンならびに薬理学的に許容可能なその塩および酸からなる群から選択される。
【0013】
好適な実施態様によれば、上記リポソームに取り込まれた上記抗腫瘍剤の濃度は、50μg(薬剤)/μmol(リポソーム脂質)を超える。
【0014】
本発明の方法は、充実性腫瘍中に血流を介して局在化するためのリポソーム組成物の調製方法であって、腫瘍結像剤または抗腫瘍剤をリポソーム中に取り込んで上記のリポソーム組成物を形成する工程を包含する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、1つの局面によれば、血流を介して下記の第IV章(腫瘍局在化法)に示すように充実性腫瘍中に化合物を局在化させるために使用されるリポソーム組成物であり、以下を包含する:この組成物を形成するリポソームは、(i)小胞形成脂質、および親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質1〜20モルパーセントから成り、かつ(ii)該腫瘍中への溢出に充分なサイズを有する。好ましい実施態様においては、上記リポソームは、約0.07〜0.12ミクロンの間の範囲の選択された平均サイズを有する。化合物は取り込まれた形でリポソーム中に含有される(すなわち、リポソーム膜と結び付いているか、あるいはリポソーム内部の水性部分内に内包される)。この文章中で、小胞形成脂質とは、それ自体で、あるいは他の脂質と組み合わされて二重層構造を形成するすべての脂質として定義される。
【0016】
好ましい実施態様において、親水性ポリマーはポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸であり、約1,000〜5,000ダルトンの分子量を有し、リン脂質へと誘導体化される。
【0017】
腫瘍の処置に使用するための、ある実施態様における化合物は、アントラサイクリン抗生物質または植物アルカロイドであり、化合物の少なくとも約80%は、リポソームに取り込まれた形であり、この薬剤は、アントラサイクリン抗生物質の場合リポソーム中に少なくとも約20μg(化合物)/μmol(リポソーム脂質)の濃度で存在し、そして植物アルカロイドの場合1μg/μmol(脂質)の濃度で存在する。
【0018】
関連する局面において、本発明は以下によって特徴付けられるリポソームの組成物を包含する:
(a)小胞形成脂質、および親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質1〜20モルパーセントから成るリポソーム、
(b)IV投与の24時間後に血液中に存在するリポソームマーカーのパーセントとして測定され、誘導体化された脂質の不存在下でのリポソームのパーセントより数倍長い血中半減期、
(c)約0.07〜0.12ミクロンの間の選択されたサイズ範囲である平均リポソームサイズ、および
(d)リポソームに取り込まれた形の化合物。
【0019】
製剤がIV注射によって投与される場合、充実性腫瘍中に局在化するための製剤を製造する方法も開示される。この場合、IV投与の後、製剤は、注射後最初の48時間の間、薬剤がほとんど漏れないリポソームに取り込まれた形で血流中を運ばれる。この期間RESによる吸収の割合が低いため、リポソームは腫瘍へと運ばれ、そして腫瘍中に侵入する機会がある。一旦、腫瘍の間隙空間に入ってしまえば、腫瘍細胞が実際にリポソームを吸収(internalize)することは必要ではない。取り込まれた薬剤は、腫瘍の近傍で数日間から数週間にわたってリポソームから放出される。この薬剤はさらに、腫瘍塊中に(拡散プロセスによって)自由に浸透し、そして腫瘍細胞中に直接侵入し、その抗増殖活性が作用する。この方法は、上記で特徴付けたタイプのリポソームに薬剤を取り込むことを包含する。アントラサイクリン抗生物質または植物アルカロイド抗腫瘍剤を全身性充実性腫瘍へと輸送させるために好適なリポソーム組成物の1つは、高相転移(high phase transition)リン脂質およびコレステロールを含む。このタイプのリポソームは、投与後最初の24〜48時間、薬剤を放出する傾向がなく、その間、血流中を循環するからである。
【0020】
他の局面において、本発明は被験体の充実性腫瘍中に化合物を局在化する方法を包含する。この方法は、(i)小胞形成脂質、および親水性ポリマーで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質1〜20モルパーセントから成り、(ii)約0.07〜0.12ミクロンの間の選択されたサイズ範囲であり、かつ(iii)リポソームに取り込まれた形で化合物を含む、リポソームの組成物を調製することを包含する。組成物を、充実性腫瘍中に治療上有効な用量の薬剤が局在化するに十分な量で患者にIV注射する。
【0021】
本発明のこれらの目的および他の目的ならびに特徴は、以下の記載および実施例を添付図面と共に読んだ場合に一層十分に明らかになる。
【0022】
(I.誘導体化された脂質の製造)
図1は、生体適合性親水性ポリマーで誘導体化される小胞形成脂質を製造するための一般反応式を示す。生体適合性親水性ポリマーの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸、およびポリグリコール酸が挙げられ、これらは全て容易に水に溶解し、小胞形成脂質と結合することができ、インビボで毒性作用なしに許容される。使用される親水性ポリマー、例えばPEGは、一方の末端がメトキシ、エトキシ、または他の非反応性基によってキャップされるか、あるいはその代わりに一方の末端に他の末端よりもはるかに反応性が高い化学基を有することが好ましい。ポリマーを下記のようにその末端の一方で、適切な活性化剤、たとえばシアヌル酸、ジイミダゾール、無水物試薬などで活性化する。次いで活性化された化合物を小胞形成脂質、たとえばジアシルグリセロールと反応させて、誘導体化された脂質を製造する。このジアシルグリセロールは、ジアシルホスホグリセロールを包含する。ここで2個の炭化水素鎖は、典型的には、炭素原子数14〜22の長さであり、種々の飽和度を有する。ホスファチジルエタノールアミン(PE)がこの目的に好適なリン脂質の例である。なぜなら活性化されたポリマーに結合するのに有利な反応性アミノ基を有するからである。あるいは、脂質基はポリマーとの反応のために活性化され得、あるいはこの2つの基は公知のカップリング法に従って協奏カップリング反応によって結合し得る。一方の末端がメトキシ基またはエトキシ基でキャップされたPEGは、種々のポリマーサイズ(たとえば、分子量500〜20,000ダルトン)で市販されている。
【0023】
小胞形成脂質は、2個の炭化水素鎖、主としてアシル鎖、および極性ヘッド基を有するものが好ましい。このクラスには、リン脂質、たとえばホスファチジルコリン(PC)、PE、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)、およびスフィンゴミエリン(SM)が包含され、ここで2個の炭化水素鎖は典型的には長さが炭素原子数約14〜22であり、そして種々の度合の不飽和度を有する。またこのクラスには、グリコ脂質、たとえばセレブロサイドおよびモノシアロガングリオシドが包含される。
【0024】
使用され得る他の小胞形成脂質は、コレステロールおよび関連するステロールである。一般に、コレステロールは、特にポリアルキルエーテルのような高分子量ポリマーで誘導体化される場合、脂質二重層にあまりしっかりとは固定され得ない。従って、血流中でRESからのリポソームの回避を促進するためにはあまり有効ではない。
【0025】
さらに一般的には、本明細書中では「小胞形成脂質」は、疎水性基と極性ヘッド基とを有するすべての両親媒性脂質を包含することを意図する。そしてこれは(a)たとえばリン脂質のように水中でそれ自体で自発的に二重層を形成し得るか、あるいは(b)リン脂質と組み合わされて安定に脂質二重層中に組み込まれる(その疎水性部分が二重層膜内部の疎水性領域と接し、そしてその極性ヘッド基部分が膜の外部の極性表面に配向する)。後者のタイプの小胞形成脂質の例は、コレステロール、ならびにコレステロールサルフェートおよびコレステロールヘミサクシナートのようなコレステロール誘導体である。
【0026】
本発明の1つの重要な特徴によれば、小胞形成脂質は比較的流動的な脂質であり、典型的にはこれは、その脂質相が、比較的低い、液体から液晶への融点(たとえば室温またはそれ以下)を有することを意味する。あるいは小胞形成脂質は比較的堅い脂質であり、これは脂質が比較的高い融点(たとえば60℃まで)を有することを意味する。原則として、より堅い脂質(すなわち飽和脂質)は脂質二重層構造においてより高い膜硬度に寄与し、そしてまた血清中でのより高い二重層の安定性に寄与する。他の脂質成分、たとえばコレステロールもまた、脂質二重層構造において膜の硬度および安定性に寄与することが知られている。長鎖(たとえばC-18)飽和脂質とコレステロールの組合せは、充実性腫瘍にアントラサイクリン抗生物質および植物アルカロイド抗腫瘍剤を送達するために好適な組成物の1つである。これらのリポソームは、注射後最初の48時間の間に血流を通って循環して腫瘍に入り、その間、血漿中に薬剤を放出する傾向がないからである。アシル鎖が種々の飽和度であるリン脂質は市販されており、あるいは公開された方法に従って製造することができる。
【0027】
図2は、PE-PEG脂質を製造する反応式を示し、ここでPEGはシアヌルクロライド基によってPEに誘導体化される。反応の詳細は例1に示す。簡潔に述べると、メトキシでキャップされたPEGを、炭酸ナトリウムの存在下、図中に示す活性化されたPEG化合物を生じる条件下で、シアヌルクロライドによって活性化する。この材料を精製して、未反応のシアヌル酸を除去する。活性化PEG化合物を、トリエチルアミンの存在下、PEと反応させて、図中に示す所望のPE-PEG化合物を製造する。収率はPEGの最初の量に対して約8〜10%である。
【0028】
いま記載した方法は、PE、コレステリルアミン、および糖-アミン基を有するグリコ脂質を包含する種々の脂質アミンに適用することができる。
【0029】
キャップされたPEGのようなポリアルキルエーテルを脂質アミンにカップリングさせる第二方法を、図3に示す。ここではキャップされたPEGをカルボニルジイミダゾールカップリング試薬で活性化し、図3中に示される活性化されたイミダゾール化合物を形成する。PEのような脂質アミンとの反応によって、図に示されるポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)化合物で例示されるように、アミド結合によって脂質と結合したPEGが導かれる。反応の詳細は例2に示す。
【0030】
キャップされたポリアルキルエーテルを脂質アミンにカップリングさせる第三の反応方法を図4に示す。この場合、まずPEGをその一方の末端でトリメチルシラン基で保護する。この末端保護反応を図中に示す。この反応は、トリエチルアミンの存在下、トリメチルシリルクロライドとPEGとを反応させることを包含する。次いで、保護されたPEGをトリフルオロメチルスルホナートの無水物と反応させて、トリフルオロメチルスルホナートで活性化されたPEG化合物を形成する。この活性化された化合物とPEのような脂質アミンとをトリエチルアミンの存在下で反応させて、所望の誘導体化された脂質生成物、たとえばPEG-PE化合物を得る。この生成物中で、脂質アミン基はポリエーテルポリマーの末端メチレン炭素を介してポリエーテルと結合する。トリメチルシリル保護基は、図に示したような酸処理によって、あるいは第4級アミンフルオライド塩、たとえばテトラブチルアミンのフルオライド塩との反応によって脱離され得る。
【0031】
上記のような反応に加えて、公知の種々のカップリング反応が、PEGのような親水性ポリマーによって誘導体化された小胞形成脂質の製造に適することが理解される。たとえば、図4に示した無水スルホナートカップリング試薬を、両親媒性脂質のヒドロキシル基、たとえばコレステロールの5’-OHに、活性化されたポリアルキルエーテルを結合させるために使用することができる。他の反応性脂質、たとえば酸またはエステル脂質基もまた、公知のカップリング法に従ってカップリングに使用することができる。たとえばホスファチジン酸の酸基を、適切な無水物、たとえば無水酢酸と反応させて活性化し、活性な脂質無水物を形成し、次いでこの反応性脂質をイソチオシアナート試薬の存在下反応させて、保護されたポリアルキルアミンに結合させることができる。
【0032】
他の実施態様においては、誘導体化された脂質成分を、不安定な脂質-ポリマー結合、たとえばペプチド、エステル、またはジスルフィド結合を含むように製造する。この結合は選択された生理的条件下、たとえばペプチダーゼ酵素またはエステラーゼ酵素、あるいはグルタチオンのような血流中に存在する還元剤の存在下において切断され得る。図5は、(A)ペプチド含有結合、(B)エステル含有結合、および(C)ジスルフィド含有結合を介して結合した脂質の例を示す。ペプチド結合化合物は、たとえば、まずポリアルキルエーテルをたとえば図3で示した反応によって、図示したトリペプチドのN-末端アミンにカップリングさせることによって製造され得る。次いでペプチドカルボキシル基を、常法に従ってカルボジイミドカップリング試薬によって脂質アミン基に結合させ得る。エステル結合化合物は、たとえば、ホスファチジン酸のような脂質酸を、無水物カップリング剤によりアルコールを用いて、ポリアルキルエーテルの末端アルコール基に結合させることによって製造され得る。あるいは、内部エステル結合および適切な末端基、たとえば第一アミン基を有する短い結合断片を用いて、ポリアルキルエーテルを両親媒性脂質にアミドまたはカルバメート結合によって結合させることができる。同様に、図5のCに示される化合物の形成に使用するために、この結合断片は内部ジスルフィド結合を有し得る。このような可逆的結合によってリン脂質に結合されるポリマーは、注射後最初の数時間、これを含有するリポソームの高い血中レベルを提供するために有用である。この期間の後、血漿成分がこの可逆的結合を切断してポリマーが離脱し、そして「非保護」リポソームはRESによって迅速に取り込まれる。
【0033】
図6は、ポリ乳酸をPEで誘導体化する方法を示す。例4に詳述するように、ポリ乳酸をPEの存在下にジシクロヘキシルカルボイミド(DCCI)と反応させる。同様に、ポリグリコール酸で誘導体化した小胞形成脂質もまた、例4に詳述するように、適切なカップリング剤、たとえばDCCIの存在下に、ポリグリコール酸またはグリコール酸とPEとの反応によって形成し得る。ポリ乳酸またはポリグリコール酸で誘導体化された小胞形成脂質は、本発明の一部である。また本発明の一部を構成するものは、これらの誘導体化された脂質を1〜20モルパーセント含有するリポソームである。
【0034】
(II.リポソーム組成物の製造)
(A.脂質成分)
本発明のリポソームを形成する際に用いられる脂質成分は、代表的にはリン脂質、スフィンゴ脂質、およびステロールを包含する種々の小胞形成脂質から選択され得る。以下に示すように、本発明のリポソームの1つの必要条件は、長い血中循環寿命である。従って、脂質成分の血中半減期に対する影響を評価するために使用され得る血中寿命の標準化された測定を確立することは有用である。
【0035】
インビボのリポソーム循環時間を評価するために用いられる1つの方法は、IV注射したリポソームの血流中およびRESの主要器官における分布を、注射後選択された時間に測定することである。本明細書で用いる標準化された方法において、RES吸収は、血流中の全リポソームの、RESの主要な器官である肝臓および脾臓中の全リポソームに対する割合として測定される。実際には、例5で詳述するように、年齢および性別を合わせたマウスに放射性標識したリポソーム組成物を尾静脈にIV注射し、そして各時間ポイントで、全血ならびに一緒にした肝臓および脾臓で放射性標識カウントを測定して決定する。
【0036】
肝臓および脾臓はRESによるリポソームの初期吸収のほぼ100%を占めるので、上記の血液/RES割合はインビボにおける血液からRESへの吸収程度を示す良好な近似値を提供する。たとえば、約1またはそれ以上の割合は注射されたリポソームのうち血流中に残存するものが優勢であることを示し、約1未満の割合はRES中のリポソームが優勢であることを示す。目的とする脂質組成物のほとんどに関して、血液/RES割合は注射後1、2、3、4、および24時間後に算出した。
【0037】
本発明のリポソームは、第I章(誘導体化された脂質の製造)に記載した親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成脂質の1〜20モルパーセントを含む。本発明の1つの局面によれば、このリポソームの血中循環半減期はこのリポソームを構成するリン脂質成分の飽和度にほとんど依存しないことが見いだされた。すなわち、リン脂質成分は、主に流動性の比較的不飽和のアシル鎖、またはより飽和した堅いアシル鎖成分から成り得る。本発明のこの特徴は例6中に示される。ここではPEG-PE、コレステロール、およびPCで形成され、異なる飽和度を有するリポソームの血液/RES割合を調べた(表4)。この例の表5のデータから明らかなように、バルクPCリン脂質における脂質不飽和の程度に関係なく、実質的にすべてのリポソーム処方において高い血液/RES割合が達成され、脂質飽和の程度の関数としての系統的な傾向は全く観察されなかった。
【0038】
したがって、選択された度合の流動性または硬度を達成し、血清中のリポソームの安定性ならびにリポソームからの取り込まれた薬剤の血流および/または腫瘍中への放出速度をコントロールするように、小胞形成脂質を選択し得る。小胞形成脂質はまた、所望のリポソーム製造特性を達成するように、脂質飽和特性において選択され得る。一般に、たとえばより流動性の脂質は、より堅い脂質組成物よりも押出しおよび均質化方法によって形成および小型化するのが容易である。
【0039】
同様に、リポソーム中のコレステロールの百分率が、観察される血液/RES割合に対して著しい影響を与えずに変化し得ることが見いだされた。例7Aに示した研究を表6と比較すると、0〜30モルパーセントのコレステロールの範囲で血液/RES割合における実質的な変化を示さない。
【0040】
さらに、本発明に従って行われた研究において、血液/RES割合が、荷電した脂質成分、たとえばホスファチジルグリセロール(PG)の存在によっても比較的影響されないことが見いだされた。これは図7から明らかである。これは、4.7モルパーセントのPG(三角形)または14モルパーセントのPG(丸)のいずれかを含むPEG-PGリポソームについて内包マーカーの損失率をプロットしたものである。24時間にわたって血流中のリポソーム保持の差は実質的に観察されなかった。RES吸収に悪影響を与えることなくリポソーム中に負電荷を包含させるという選択は、多くの可能性のある利点を提供する。負電荷を有するリポソーム懸濁液は、高いイオン強度の緩衝液中における凝集にあまり敏感ではない傾向を示し、それゆえ物理的安定性が増強される。また、リポソーム膜中に存在する負電荷は、多量のカチオン性薬剤を効果的に結合する処方手段として使用され得る。
【0041】
親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成脂質は、誘導体化された脂質のモルに基づき小胞形成脂質の全モルの百分率として、好ましくは約1〜20モルパーセントの量で存在する。より低いモル割合、たとえば1.0モルパーセント未満は、より分子量の大きいポリマー、たとえば100キロダルトンの分子量を有するポリマーによる脂質誘導体に適切であり得ることが理解される。第I章(誘導体化された脂質の製造)に示したように、誘導体化された脂質中の親水性ポリマーは、好ましくは約200〜20,000ダルトン、より好ましくは約500〜5,000ダルトンの分子量を有する。血液/RES割合に対する極めて短いエトキシエーテル部分の影響を調べる例7Bによれば、血液/RES割合を著しく増加させるためには炭素が約5個より大きいポリエーテル部分が必要とされることが示される。
【0042】
(B.リポソーム組成物の製造)
リポソームを、Szoka等、1980(文献番号36)に詳述されているような種々の技術によって製造し得る。薬剤含有リポソームを製造する1つの方法は、Szoka等によって記載され、そして米国特許第4,235,871号中に記載された逆相蒸発法(reverse phase evaporation method)である。逆相蒸発小胞(REV)は、約2〜4ミクロンの典型的な平均サイズを有し、主にオリゴラメラであり、すなわち1つまたは数個の脂質二重層殻を有する。この方法を例4A中に詳述する。
【0043】
多重ラメラ小胞(MLV)を、簡単な脂質-フィルム水和技術によって形成することができる。この操作では、適切な有機溶媒中に溶解した上記タイプのリポソーム形成脂質の混合物を容器中で蒸発させ、薄いフィルムを形成する。次いで、このフィルムは例4B中で詳述するように水性媒体によって覆われる。脂質フィルムは水和されて、典型的には約0.1〜10ミクロンのサイズのMLVを形成する。
【0044】
本発明の1つの重要な局面に従って、リポソームを、約0.07ミクロンと0.12ミクロンとの間の選択されたサイズ範囲内で実質的に均一なサイズを有するように製造する。特に、このサイズ範囲内のリポソームは、以下の第III章(充実性腫瘍中のリポソームの局在化)に記載するように、充実性腫瘍中に容易に溢出することができ、そして同時に、実質的な量の積載薬剤を腫瘍に運ぶことができる(薬剤積載能力が厳しく制限された小さな単ラメラ小胞とは異なる)。
【0045】
REVおよびMLVのための有効な分粒法(sizing)の1つは、0.03から0.2ミクロンの範囲、主として0.05、0.08、0.1、または0.2ミクロンの、選択された均一な細孔サイズを有する一連のポリカーボネート膜を通してリポソームの水性懸濁液を押し出すことを伴う。膜の細孔サイズは、特に同一の膜を通して2回またはそれ以上押し出すことによって製造される場合、その膜を通して押し出されて製造されるリポソームの最も大きいサイズにほぼ相当する。このリポソーム分粒の方法を、下記例中に記載される均一サイズのREVおよびMLV組成物の製造に用いる。より最近の方法は、非対称セラミックフィルターを通す押出しを伴う。この方法は、1988年4月12日に発行されたリポソーム押出しに関する米国特許第4,737,323号に詳述されている。均質化方法もまた、100nmまたはそれ以下のサイズにリポソームを小型化するために有用である(マーチン(文献番号25))。
【0046】
(C.化合物積載)
1つの実施態様において、本発明の組成物を、結像剤、たとえば67Gaまたは111Inを含む放射性同位元素あるいは常磁性化合物を腫瘍部位に局在化するために使用する。この適用においては、放射性標識は比較的低濃度で検出され得るので、結像剤を受動積載(passive loading)によって、すなわちリポソーム形成の間に内包することで一般に十分である。これは、たとえば内包される剤の水溶液で脂質を水和することによって行われ得る。典型的な放射性標識剤は、キレート形態の放射性同位元素、たとえば67Ga-デスフェラルであり、実質的に取り込まれた形でリポソーム中に保持される。リポソーム形成および分粒の後、内包されなかった材料を種々の方法のうちの1つで、たとえばイオン交換またはゲル濾過クロマトグラフィーによって除去し得る。受動積載によって達成することができるキレート金属の濃度は水和媒体中の剤の濃度によって限定される。
【0047】
放射性結像剤の能動積載(active loading)もまた可能であり、これは高い親和性の水溶性キレート剤(たとえばEDTAまたはデスフェロオキサミン)をリポソームの水性コンパートメント内に取り込み、取り込まれなかったキレート剤をすべて透析またはゲル排除カラムクロマトグラフィーによって除去し、より低い親和性の脂溶性キレート剤(たとえば8-ヒドロキシキノリン)に対してキレート形成した金属放射性同位元素の存在下でこのリポソームをインキュベートすることによって行われる。金属放射性同位元素は、脂溶性キレート剤によってリポソーム中に運び込まれる。一旦リポソーム内に入ると、放射性同位元素は、取り込まれた水溶性キレート剤によってキレート形成され、リポソーム内部に放射性同位体が効率的に捕捉される(ガビゾン,1988-1989(文献番号9))。
【0048】
受動積載はまた、比較的低い薬物用量(たとえば約1〜15mg/m2)で治療上活性な、両親媒性の抗腫瘍化合物、たとえばアルカロイドであるビンブラスチンおよびビンクリスチンのために使用され得る。ここで薬剤は、化合物の溶解度に応じて、脂質を水和するために使用される水性相中に溶解されるか、あるいはリポソーム形成工程において脂質中に入れられるかのいずれかである。リポソーム形成および分粒の後、遊離の(非結合)薬剤は、上述のように、たとえばイオン交換またはゲル排除クロマトグラフィー法によって除去され得る。
【0049】
抗腫瘍化合物がペプチドまたはタンパク質薬剤、たとえばインターロイキン-2(IL-2)または組織壊死因子(TNF)を含む場合、あるいはリポソームがペプチド免疫調節物質、たとえばムラミルジ-またはトリ-ペプチド誘導体またはタンパク質免疫調節物質、たとえばマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含むように処方される場合、リポソームは、上記逆相法によって、あるいはタンパク質と単ラメラ小胞の水による懸濁液との凍結乾燥混合物を再水和することによって、製造されることが好ましい(キルビー(文献番号22))。どちらの方法も、受動積載を比較的高い内包効率、たとえば50%までの効率と結び付ける。内包されなかった材料は、たとえば透析、透析濾過、または排除クロマトグラフィーによってリポソーム懸濁液から容易に除去することができる。
【0050】
リポソームに収容され得る疎水性薬剤の濃度は、膜中の薬剤/脂質相互作用に依存するが、一般に、約20μg(薬剤)/mg(脂質)未満の薬剤濃度に限定される。より詳細には、ドキソルビシンおよびエピルビシンのような種々のアントラサイクリン抗生物質に関して、受動積載によってリポソームの水性コンパートメントに取り込むことができる、取り込まれる材料の最高濃度は、(これらの化合物の固有水溶性が低いために)約10〜20μg/μmol(脂質)である。PGのようなアニオン性リン脂質が20〜30モルパーセント膜中に含まれると、積載ファクターは約40μg/μmol(脂質)まで増加し得る。アントラサイクリンは正に荷電しているので、負に荷電したPGと、膜界面で「イオン対」複合体を形成するからである。しかし、このように荷電した複合体化したアントラサイクリンの処方物は、本発明の状況(IV投与の後、最初の24〜48時間、薬剤がリポソームに取り込まれた形で血流中を運ばれることが必要とされる)においては限定された有用性を有しているに過ぎない。なぜならこの薬剤は、血漿中に導入されたときリポソーム膜から迅速に放出される傾向にあるからである。
【0051】
本発明の他の局面によれば、種々の両親媒性抗腫瘍薬剤の治療上有効な薬用量を腫瘍に送達するためには、能動薬剤積載法によって高い薬剤濃度で薬剤をリポソームに積載することが必須であることが見いだされた。たとえばアントラサイクリン抗生物質薬剤、たとえばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、カルシノマイシン、N-アセチルアドリアマイシン、ルビダゾン、5-イミドダウノマイシン、およびN-アセチルダウノマイシンについては、リポソームに取り込まれる薬剤の最終濃度は、約25μg/μmol(脂質)よりも高く、好ましくは50μg/μmol(脂質)が望ましい。100〜200μg/μmol(脂質)という高い内部薬剤濃度が企図される。
【0052】
両親媒性薬剤のリポソームへの能動積載のための1つの方法は、共有に係る米国特許第5192549号に記載されている。この方法においては、リポソームを比較的高濃度のアンモニウムイオン(たとえば0.125Mの硫酸アンモニウム)の存在下で製造する。所望のサイズにリポソームを分粒した後、リポソーム膜を横切って内側から外側へのアンモニウムイオン勾配が生じるようにリポソーム懸濁液を処理する。勾配は、アンモニウムを含まない媒体、たとえば等張のグルコース媒体に対して透析するか、あるいはゲル濾過、たとえば0.15MのNaClまたはKClで平衡化したSephadex G-50カラム上でのゲル濾過によって、外側の相のアンモニウムイオンをナトリウムまたはカリウムイオンで効率的に置換することによって、生じさせることができる。あるいは、リポソーム懸濁液をアンモニウムを含まない溶液で希釈して、これによって、外相のアンモニウムイオン濃度を低下させることができる。リポソームの内側のアンモニウム濃度は、外部リポソーム相の、好ましくは少なくとも10倍、そしてより好ましくは少なくとも100〜1000倍である。
【0053】
次いで、このアンモニウムイオン勾配によって、アンモニウムがリポソーム膜を横切って放出されプロトンがリポソームの内部水性相中に捕捉されるにつれ、pH勾配が生じる。リポソームに選択された薬剤を積載するためには、リポソーム懸濁液(たとえば約20〜200mg/ml(脂質))を薬剤の水溶液と混合し、そしてこの混合物をある期間(たとえば数時間)にわたって、室温から60℃までの温度(リポソームを形成するために使用する脂質の相転移温度に応じる)で平衡化させる。1つの典型的な方法において、脂質濃度が50μmol/mlのリポソーム懸濁液を、濃度約5〜8mg/mlのアントラサイクリン薬剤の等容量と混合する。インキュベート期間の終わりに、懸濁液を処理して遊離の(非結合)薬剤を除去する。アントラサイクリン薬剤についての薬剤除去の好ましい1つの方法は、Dowex 50 WX-4のような、この薬剤と結合し得るイオン交換樹脂を通すことである。
【0054】
上記のように、ビンクリスチンのような植物アルカロイドは抗腫瘍活性が本質的に高いので高い積載ファクターでリポソームに積載される必要はなく、従って受動取り込み法によって積載され得るが、能動法によってこれらの薬剤を積載することもまた可能である。ビンクリスチンは両親媒性であり、かつ弱い塩基なので、ビンクリスチンおよび同様な分子は、アントラサイクリン抗生物質について上で述べたように、硫酸アンモニウムを取り込むことによって形成されるpH勾配を用いてリポソーム中に積載することができる。
【0055】
ここで記載した間接(remote)積載法は、例10中に示される。そこでは、最終濃度約80〜100μg/μmol(脂質)までドキソルビシンを積載した0.1ミクロンのMLVの製造が記載される。このリポソームを4℃で貯蔵した場合、薬剤の漏れ速度は極めて低い。
【0056】
(III.充実性腫瘍中のリポソームの局在化)
(A.延長された血流半減期)
本発明によれば、標的とする腫瘍中のリポソームの局在化のための必要条件の1つは、IVリポソーム投与の後の血流中における延長されたリポソーム寿命である。血流中でのリポソーム寿命の測定の1つは、上記のようにリポソーム投与から選択された時間の後に決定される血液/RES割合である。種々のリポソーム組成物についての血液/RES割合を例5の表3に示す。PEG誘導体化脂質の非存在下では血液/RES割合は0.03またはそれ以下である。PEG誘導体化脂質の存在下では血液/RES割合は、低分子量PEGについては0.2から、いくつかの処方物については1.7〜4の間の範囲であった。これらの処方物のうち1つはコレステロールを欠き、そして3つは荷電したリン脂質(たとえばPG)が添加されていない。
【0057】
例6の表5に示したデータは、約1.26と3.27との間の血液/RES割合(回収率が低い2点を除く)を示し、表3に示すデータと一致する。上記第II章(リポソーム組成物の製造)に示したように、血中寿命の値は、リポソーム脂質の飽和度、コレステロールの存在、および荷電した脂質の存在に実質的に無関係である。
【0058】
上述の血液/RES値を、共有に係る米国特許第4,920,016号で報告された血液/RES値と比較することができる。この特許では、表3および5で示されるデータを得るために使用されたのと同様の血液/RES測定法を用いた。上記特許で報告された最高の24時間での血液/RES割合は、モノシアロガングリオシド(GM1)、飽和PC、およびコレステロールからなる処方物についての、0.9であった。次に高い24時間での血液/RES割合を与える処方物の値は約0.5であった。従って、本発明による処方物のうちの多くで得られる典型的な24時間での血液/RES割合は、いままで報告されてきた最も優れた処方より2倍も高い。さらに、GM1またはHPI脂質による高い血液/RESを達成する能力は、主としてリポソーム中の飽和脂質およびコレステロールの存在に依存した。
【0059】
血流中におけるリポソームマーカーの血漿薬物動態は、本発明のリポソーム処方によって達成される延長されたリポソーム寿命の、別の尺度を提供し得る。図7および図8は、典型的なPEG-リポソーム処方物において、マーカーが脂質であるかあるいは内包された水溶性化合物であるかに実質的に関係なく、リポソームマーカーが血流から24時間にわたってゆっくりと失われることを示す(図8)。どちらのプロットでも、リポソーム注射の24時間後に存在するリポソームマーカーの量は、元々注射される材料の10%より多い。
【0060】
図9は、典型的なPEG-リポソーム処方物およびPEG誘導体化脂質を含まない同様のリポソームについて、血流からのリポソームの損失のキネティックスを示す。24時間後、PEG-リポソーム中に残存するマーカーの百分率は約20%より高いが、通常のリポソームでは、血液中で3時間後には保持率が5%未満であり、そして24時間の時点ではマーカーは実質的に検出されなかった。
【0061】
図7〜9に示した結果は、種々のリポソーム処方物について測定され、以下の例5〜8の表3および表5〜7に記載された24時間での血中リポソーム値と整合する。例5の表3に示されるように、従来のリポソームでは24時間における血中残存薬用量の百分率は1%未満であるのに対し、PEG-リポソームでは少なくとも5%であった。最良の処方では、約20〜40%の間の値が得られた。例6の表5においても同様に、24時間後の血中リポソームレベルは投与された総薬用量の12%と約25%との間であった(回収値の少ない2つは再び無視する)。同様の結果が、例7の表6および7に報告される。
【0062】
リポソームが全身性腫瘍に到達し、かつ侵入する機会を提供するために必要とされる、リポソームが24〜48時間にわたって血流中で両親媒性抗腫瘍薬剤を保持する能力もまた研究された。例11で報告される研究において、PEG-リポソームに積載されたドキソルビシン、遊離形態で与えられるドキソルビシン、および水素化ホスファチジルイノシトール(HPI)を含むリポソーム中に積載されたドキソルビシンの血漿薬物動態を、ビーグル犬で調べた。HPIリポソームは、ほぼ飽和したPC脂質とコレステロールとから処方され、共有に係る上記米国特許で記載された最適処方の1つを代表する。薬剤投与から72時間までの血液中でのドキソルビシンのキネティックスを図10に示す。どちらのリポソーム処方物も薬剤の一次指数関数的減少を示すが、対照的に遊離薬剤は二次指数関数的パターンを示す。しかし、72時間における血流中の薬剤保持量は、PEG-リポソームが約8〜10倍多かった。
【0063】
血液/RES割合および血流中のリポソーム保持時間の両方に関して、モデル動物系から得られるデータから、ヒトおよび目的とする家畜用動物に対して合理的な推定をすることができる。これは、肝臓および脾臓によるリポソームの吸収が、マウス、ラット、サル、およびヒトを含むいくつかの哺乳類において同様の速度で生じることが見いだされているからである(Gregoriadis,1974(文献番号11);Jonah(文献番号18);Kimelberg,1976(文献番号21);Juliano(文献番号19);Richardson(文献番号29);Lopez-Berestein(文献番号24))。この結果は、RESによるリポソームの吸収において最も重要であると考えられる生化学的因子-血清リポタンパク質によるオプシン化、サイズに依存する吸収効果、および表面部分による細胞保護を包含する-が、試験された全ての哺乳類において共通する特徴であるという事実を反映していると思われる。
【0064】
(B.腫瘍への溢出)
本発明によれば、充実性腫瘍を標的化する高活性リポソームのために要求される他の特徴は、毛細血管によって供給を受ける腫瘍細胞から毛細血管を分離する内皮細胞バリヤーおよびその下の基底膜を通って、リポソームが腫瘍中に溢出することである。この特徴は、0.07ミクロンと0.12ミクロンとの間のサイズのリポソームにおいて最適化される。
【0065】
選択された薬剤の標的化のためにはリポソームの腫瘍への送達が必要とされ、このことは例12で報告される研究によって示され得る。マウスにJ-6456リンパ腫を皮下接種し、このリンパ腫は1〜2週間後に約1cm3の充実性腫瘍塊を形成した。次に、この動物に、遊離のドキソルビシンかあるいはPEG-リポソームに積載されたドキソルビシンのいずれかを体重1kg当り10mgの薬用量で注射した。薬剤投与の4時間後、24時間後、および48時間後に、薬剤の組織分布(心臓、筋肉、および腫瘍)を検定した。図11のAは、遊離薬剤について得られた結果を示す。腫瘍中への選択的な薬剤蓄積は起こらず、実際、初期薬剤レベルが最も高いのは、最も高い毒性が生じる心臓であった。
【0066】
比較すると、PEG-リポソームは4〜24時間の間、腫瘍中への薬剤の蓄積の増加を示し、そして24時間と48時間との間、高い選択的腫瘍レベルを示した。心臓および筋肉組織による薬剤の吸収は両方とも、対照的に、遊離薬剤よりも低い。図11のBにおいてプロットされたデータからわかるように、注射24時間後には、腫瘍は健康な筋肉に比べて8倍、そして心臓に比べて6倍の量の薬剤を含んでいた。
【0067】
PEG-リポソームがより多くの抗腫瘍薬剤を腹腔内腫瘍に送達することを確認するために、マウスのグループに106のJ-6456リンパ腫細胞を腹腔内(IP)注射した。5日後、IP腫瘍が確立され、そして遊離薬剤形態またはPEG-含有リポソームに取り込まれた形態のいずれかで、10mg/kgのドキソルビシンでこの動物をIV処置した。薬剤の組織分布を例12の表9に示す。示されたように、リポソーム送達では遊離薬剤よりも腫瘍/心臓割合は24時間で約272倍高く、そして48時間では約47倍高かった。
【0068】
表9に示された結果がリポソームがそのままで腫瘍の管外領域に入るためであることを例証するために、腫瘍組織を細胞画分および上清画分(細胞間液体)に分離し、両画分中のリポソームに結び付いた薬剤および遊離薬剤の存在を検定した。図12は、薬剤の全量(黒菱形)、ならびに腫瘍細胞中に存在する薬剤量(黒まる)およびリポソームに結び付いた形で上清中に存在する薬剤量(黒三角)を、注射後48時間にわたって示す。リポソームに結び付いた薬剤を検定するために、上清をイオン交換樹脂に通して遊離薬剤を除去し、上清中に残存する薬剤を検定した(黒三角)。示されるように、腫瘍中の薬剤のほとんどはリポソームに結び付いている。
【0069】
腫瘍細胞中へのリポソームの溢出のさらなる例証は、例14に詳述するように、正常な肝組織および充実性腫瘍におけるリポソームの分布を顕微鏡で直接観察することによって得られた。図13は、PEG-リポソームのIV注射24時間後の正常な肝組織中でのリポソームの分布(小さい、濃く染色された部分)を示す。リポソームはもっぱらクッパー細胞中に限定され、正常肝組織の肝細胞中または細胞間液体中のいずれにも存在しない。
【0070】
図14は、マウスの肝臓中に移植されたC-26結腸癌の領域の、PEG-リポソーム注射から24時間後を示す。図中、毛細血管領域中、内皮細胞バリヤーおよび基底膜上の腫瘍組織側でリポソームの濃縮が明らかである。リポソームはまた腫瘍細胞の細胞間液体中にも豊富に存在し、これは毛細内腔から腫瘍への通過のさらなる証拠である。図15の顕微鏡写真は腫瘍の別の領域を示し、ここでもまた細胞間液体中にリポソームが豊富であることが明らかである。同様な知見が、図16に示されるように皮下注射されたC-26結腸癌細胞領域へのリポソームの溢出について得られた。
【0071】
(IV.腫瘍局在化法)
上で詳述したように、血流中でのリポソームの延長された寿命、ならびに腫瘍中に溢出することを可能にし、比較的高い薬剤運搬能力を可能にし、かつリポソームが腫瘍に分配され侵入するのに必要とされる時間(注射後、最初の24〜48時間)の間、取り込まれた薬剤の漏れを最小にとどめることを可能にするリポソームサイズのために、本発明のリポソームは特に充実性腫瘍領域に局在化するに有効である。従って、このリポソームは、このようなリポソームに化合物を取り込み、そしてこのリポソームを被験体にIV注射することによって化合物を選択的に充実性腫瘍に局在化させる有効な方法を提供する。本明細書において、充実性腫瘍とは(たとえば、白血病のような血液性腫瘍とは対照的に)血流の外側の解剖学的部位で増殖し、そしてこの増殖する腫瘍塊に栄養等を供給する小血管および毛細管の形成が必要とされる腫瘍として定義される。この場合、IV注射されたリポソーム(および取り込まれた抗腫瘍薬剤)が腫瘍部位に到達するためには、リポソームは血流から離れ、腫瘍中へと侵入しなければならない。1つの実施態様において、この方法は抗腫瘍薬剤を選択的に腫瘍中に局在化させることによる腫瘍の処置のために使用される。使用され得る抗腫瘍薬剤は任意の化合物であり、以下に挙げる化合物を包含し、これらの化合物は、適切な積載ファクターでリポソーム中に安定に取り込まれることができ、かつ治療上有効な薬用量(各化合物の後のかっこの中に示す)で投与することができる。これらの化合物は両親媒性抗腫瘍化合物、たとえば植物アルカロイドであるビンクリスチン(1.4mg/m2)、ビンブラスチン(4〜18mg/m2)、およびエトポサイド(35〜100mg/m2)、ならびにドキソルビシン(65〜75mg/m2)、エピルビシン(60〜120mg/m2)、およびダウノルビシン(25〜45mg/m2)を含むアントラサイクリン抗生物質を包含する。メトトレキセート(3mg/m2)、シトシンアラビノサイド(100mg/m2)、およびフルオロウラシル(10〜15mg/m2)のような水溶性抗代謝産物、ブレオマイシン(10〜20単位/m2)、マイトマイシン(20mg/m2)、プリカマイシン(25〜30μg/m2)、およびダクチノマイシン(15μg/m2)のような抗生物質、ならびにシクロホスファミド(3〜25mg/kg)、チオテパ(0.3〜0.4mg/kg)、およびBCNU(150〜200mg/m2)を含むアルキル化剤もまた、この目的において有用である。上述のように、ビンクリスチンによって例示される植物アルカロイドならびにドキソルビシン、ダウノルビシン、およびエピルビシンを含むアントラサイクリン抗生物質は、好ましくは能動的にリポソームに積載され、受動積載によって達成され得るよりも数倍高い薬剤/脂質割合を達成する。また上述のように、リポソームは内包された、IL-2のような腫瘍治療用のペプチド薬剤およびタンパク質薬剤、および/またはTNF、および/またはM-CSFのような免疫調節剤を含み得、これらは単独で存在するか、あるいはアントラサイクリン抗生物質薬剤のような抗腫瘍薬剤と組み合わされて存在する。
【0072】
本発明によって充実性腫瘍を有効に処置する能力は、種々のインビボ系で示された。例15で報告される方法では、C-26結腸癌を皮下移植された動物において腫瘍の増殖速度を比較する。遊離形態または本発明によるPEG-リポソームに取り込まれた形態のいずれかでのエピルビシンによる処置を行い、結果を図17のA〜Cに示した。示されるように、そしてさらに例15で詳細に述べられるように、エピルビシンを積載したPEG-リポソームによる処置によって腫瘍増殖が著しく抑制され、そして通常の致死量の腫瘍細胞を接種された動物のグループの中で長期間生存するに至った。さらに、エピルビシン積載PEG-リポソームによる動物の遅延処置によって、確立された皮下腫瘍の退化が生じた。遊離薬剤による処置では見られない結果である。
【0073】
例16で詳述するように、同様の結果がマウスの腹腔内に移植されたリンパ腫の処置について得られた。ここでは、遊離形態またはPEG-リポソームに取り込まれた形態のドキソルビシンで動物を処置した。腫瘍移植および薬剤処置から100日間にわたる生存率を図18に示す。その結果は上述の結果と同様であり、PEG-リポソームによって、遊離薬剤処置に比べて生存時間中間値および生存率の著しい上昇が見られた。
【0074】
従来のリポソームに取り込まれたドキソルビシンによる腫瘍の処置ではモデル動物系および臨床試験において毒性の低下が観察されているので(たとえば米国特許第4,898,735号で報告されているように)、本発明の腫瘍処置法で提供される毒性保護の度合を決定することは興味深い。例17で報告される研究において、遊離形態あるいは従来のリポソームまたはPEG-リポソームに取り込まれた形態のドキソルビシンまたはエピルビシンの薬用量を増加させて、動物にIV注射した。種々の薬剤処方についての最大許容薬用量(MTD)をこの例の表11に示す。どちらの薬剤でも、PEG-リポソームへ取り込むことによって、薬剤のMTDはおよそ2倍になる。同様の保護は従来のリポソームによって達成された。
【0075】
毒性の低下は上記で報告された腫瘍処置の効力の増加に寄与し得るが、リポソーム溢出による薬剤の選択的な局在化もまた薬剤の効力の増加のために重要である。このことは例18に記載される薬剤処置法において例証される。ここではドキソルビシンを含む従来のリポソーム(IV投与した場合、溢出による腫瘍での吸収をほとんど示さないかあるいは全く示さない)を、皮下移植腫瘍の増殖速度を低減させる同一の薬用量(10mg/kg)で、遊離薬剤と比較した。図19では、生理食塩水コントロール(実線)、遊離薬剤(黒丸)、および従来のリポソーム(黒三角)について腫瘍移植の後の日数での腫瘍サイズをプロットする。明らかなように、従来のリポソームは同一の薬用量の遊離薬剤よりも大きい度合での腫瘍の増殖の抑制はしない。この知見は、図17のA〜Cおよび図18に示された結果ときわだって対照的である。これらの図においては、PEGリポソームに取り込まれたアントラサイクリン抗腫瘍薬剤によって腫瘍を有する動物を処置すると、遊離の薬剤に比べて生存率および腫瘍増殖の抑制が向上することが示されている。
【0076】
このように、この腫瘍処置法はリポソーム中の薬剤毒性の低下によって投与すべき薬剤のレベルを高めることを可能とし、かつ腫瘍の細胞間液体中のリポソームの選択的局在化によって薬剤の効力を高めることを可能とする。
【0077】
リポソーム溢出によって腫瘍中に選択的に化合物を局在化させる能力はまた、腫瘍の診断のために結像剤の腫瘍への標的化を改良するためにも利用できることが理解される。この場合、結像剤、典型的にはキレート形態の放射性同位体または常磁性分子がリポソーム中に取り込まれ、次いで検査される被験体にIV投与される。選択された期間(典型的には24〜48時間)の後に、たとえば放射性同位体の場合にはガンマシンチレーションラジオグラフィーによって、あるいは常磁性剤の場合にはNMRによって被験体をモニターし、結像剤の局所的な吸収領域を検出する。
【0078】
【実施例】
以下の実施例は、循環時間が増大したリポソームの製造法、およびインビボおよびインビトロにおける循環時間の評価の例示である。これらの例は本発明の特定のリポソーム組成物および方法の具体例を例示することを意図し、本発明の範囲を限定することをいかなる意味でも意図しない。
【0079】
(材料)
コレステロール(Chol)は、シグマ(セントルイス、MO)から入手した。スフィンゴミエリン(SM)、卵ホスファチジルコリン(レシチン又はPC)、組成IV40、IV30、IV20、IV10、及びIV1(表4を参照のこと)を有する部分的に水素化されたPC、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ジパルミトイル-ホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジオレイルPC(DOPC)及びジステアロイルPC(DSPC)は、アバンチ極性脂質(バーミンガム、AL)又はオースチンケミカル社(シカゴ、IL)から入手した。
【0080】
〔125I〕-チラミニル-イヌリンを、公知処理に従って製造した。67ガリウム-8-ヒドロキシキノリンは、NENネオスカン(ボストン、MA)によって供給された。ドキソルビシンHCl及びエピルビシンHClを、アドリア研究所(コロンバス、OH)又はファルミタリアカルロエルバ(ミラノ、イタリー)から入手した。
【0081】
(例1:シアヌル酸クロライドによって結合されたPEG-PEの製造)
(A.活性化されたPEGの製造)
活性化されたPEGとこれまで呼ばれている2-0-メトキシポリエチレングリコール1900-4,6-ジクロロ-1,3,5トリアジンを、次の変法を伴ってJ.Biol.Chem.、252:3582(1977)中に記載した様に製造した。
【0082】
シアヌル酸クロライド(5.5g:0.03モル)を、無水炭酸ナトリウム10gを含有する無水ベンゼン400ml中に溶解し、PEG-1900(19g;0.01モル)を加え、混合物を一晩室温で撹拌した。溶液を濾過し、石油エーテル600ml(沸騰範囲、35〜60°)を、撹拌しながらゆっくり加えた。微細な沈殿をフィルター上に集め、ベンゼン400ml中に再溶解した。沈殿及び濾過工程を、石油エーテルが残存シアヌル酸クロライドを含有しなくなるまで数回くり返した。これは5-m“リクロソルブ(LiChrosorb)”(イー・メルク社)のカラム(250×3.2mm)上でヘキサンで展開され、紫外線検出器で検出される高圧液体クロマトグラフィーによって測定された。水性緩衝液中でpH10.0、室温で一晩の加水分解の後、活性化されたPEG-1900を硝酸銀で滴定して、PEGモルあたり離脱したクロライド1.7モルの値が得られた。
【0083】
生成物のTLC分析を、J.T.Baker社(フィリップスバーグ、NJ)から入手したTLC逆相プレートで、展開剤としてメタノール-水、4:1;v/vを用いて視覚化のためにヨウ素蒸気にさらして行った。この条件下で、出発メトキシポリグリコール1900はRf=0.54〜0.60で現われた。活性化されたPEGはRf=0.41で現われた。未反応シアヌル酸クロライドは、Rf:0.88で現われ、除かれた。
【0084】
活性化されたPEGを、窒素について分析し、適当な修正を、次の合成工程に使用する反応成分の量の選択の際に用いた。従って、生成物が理論量の20%しか窒素を含有しなかった場合、次の合成工程で使用される材料の量を、100/20まで、すなわち5倍まで増加した。生成物が理論量の50%の窒素を含有した場合、100/50すなわち2倍の増加が必要とされた。
【0085】
(B.N-(4-クロロ-ポリグリコール1900)-1,3,5-トリアジニル卵ホスファチジルエタノールアミンの製造)
ねじブタ付き試験管中で、クロロホルム中に卵ホスファチジルエタノールアミンの100mg/ml(0.100mmol)貯蔵溶液の0.74mlを、窒素を流しながら蒸発乾固し、A欄に記載した活性化されたPEGの残部に205mg(0.100mmol)の供給量で加えた。この混合物に、5mlの無水ジメチルホルムアミドを加えた。トリエチルアミン27マイクロリットル(0.200mmol)を混合物に加え、空気を窒素ガスで置換した。混合物を、110℃で保った砂浴中で一晩加熱した。
【0086】
次いで混合物を減圧下で蒸発乾固し、結晶性固体ののり状塊を得た。この固体を、アセトン4容量及び酢酸1容量の混合物5ml中に溶解した。生じた混合物を、シリカゲル(メルクシリカゲル60,70-230メッシュ)で充填された21mm×240mmクロマトグラフィー吸着カラムの頭部に置いた。このシリカゲルは先にアセトン及び酢酸、80/20;v/vから成る溶剤で湿らせた。
【0087】
カラムクロマトグラフィーを、同一の溶剤混合物で展開し、別々の溶出液の一部20〜50mlを集めた。展開剤として2-ブタノン/酢酸/水;40/25/5;v/v/vを用いて及び視覚化のためにヨウ素蒸気さらして、シリカゲル被覆されたプレート上でTLCにより溶出液の各々の部分を検定した。Rf=約0.79の材料しか含有しない画分を一緒にし、減圧下で蒸発乾固した。高減圧下で恒量まで乾燥して、リンを含有するほとんど無色の固体N-(4-クロロ-ポリグリコール1900)-1,3,5-トリアジニル卵ホスファチジルエタノールアミン86mg(31.2マイクロモル)を得た。
【0088】
固体化合物を、24mlのエタノール/クロロホルム;50/50クロロホルム中に取り、遠心分離して、不溶性物質を除去した。澄明化された溶液の減圧下での蒸発乾固により、無色固体21mg(7.62マイクロモル)を得た。
【0089】
(例2:カルバマート及びアミドで連結された親水性ポリマーとPEの製造)
(A.ポリエチレングリコールメチルエーテル1900のイミダゾールカルバマートの製造)
Aldrich Chemical co.から入手したポリエチレングリコールメチルエーテル1900 9.5グラム(5mmol)をモレキュラーシーブで乾燥したベンゼン45ml中に溶解した。純粋なカルボニルジイミダゾール0.89グラム(5.5mmol)を加えた。純度を赤外スペクトルで調べた。反応容器中の空気を窒素で置換した。容器を密封し、砂浴中で75℃で16時間加熱した。
【0090】
反応混合物を冷却し、室温で澄明な溶液が形成した。溶液を乾燥ベンゼンで50.0mlに希釈し、PEGエーテル1900のイミダゾールカルバマートの100マイクロモル/ml貯蔵溶液として冷蔵庫中に保存した。
【0091】
(B.ポリエチレングリコールメチルエーテル1900のホスファチジルエタノールアミンカルバマートの製造)
ポリエチレングリコールメチルエーテル1900のイミダゾールカルバマートの100mmol/ml貯蔵溶液の10.0ml(1mmol)を10mlナス型フラスコ中にピペットで入れた。溶剤を減圧下に除去した。クロロホルム(0.5mmol)中の卵ホスファチジルエタノールアミンの100mg/ml溶液の3.7mlを加えた。溶剤を減圧下で蒸発した。1,1,2,2-テトラクロロエチレン2ml及び139マイクロリットル(1.0mmol)のトリエチルアミンを加えた。容器を閉じ、95℃に保たれた砂浴中で6時間加熱した。この時、薄層クロマトグラフィー分析を上記混合物の画分を用いて行い、ブタノン/酢酸/水;40/5/5;v/v/v;を展開剤として使用して、SiO2被覆されたTLCプレート上に結合する程度を測定した。I2蒸気視覚化により、Rf=0.68の遊離ホスファチジルエタノールアミンのほとんどが反応し、Rf=0.78〜0.80のリン含有脂質によって置換されたことが明らかとなった。
【0092】
残存する反応混合物中の溶剤を、減圧下で蒸発した。残留物をメチレンクロライド10ml中に入れ、予めメチレンクロライドで洗浄したメルクシリカゲル60(70-230メッシュシリカゲル)で充填されたクロマトグラフィー吸着カラム21mm×270mmの頭部に置いた。混合物を下記の溶剤を順番に用いてカラムに通過させた。
【0093】
【表1】

【0094】
溶出液の一部を50ml集め、各々の部分を、SiO2被覆されたプレート上でTLCによって検定した。その際クロロホルム/メタノール/水/濃水酸化アンモニウム;130/70/8/0.5%;v/v/v/vで展開後、視覚化のためにI2蒸気吸着を用いた。ホスファートのほとんどが、画分11,12,13及び14中に見い出された。
【0095】
これらの画分を一緒にし、減圧下で蒸発乾固し、高減圧で恒量まで乾燥した。これにより、ポリエチレングリコールメチルエーテルのホスファチジルエタノールアミンの無色のワックス状物669mgを得た。これは263マイクロモルであり、ホスファチジルエタノールアミンを基準に52.6%の収率を示した。
【0096】
重クロロホルム中に溶解された生成物のNMRスペクトルは、δ=3.4ppmでエチレンオキサイド鎖のメチレン基に帰因する強いシングレットと共に、卵PEのスペクトルに相当するピークを示した。エチレンオキサイドからのメチレンプロトンとPEアシル基の末端メチルプロトンとの割合は、所望の生成物ポリエチレングリコール結合ホスファチジルエタノールアミンカルバマート(分子量2,654)の分子のポリエチレンオキサイド部分の約2000の分子量を確認するのに十分な大きさであった。
【0097】
(C.ホスファチジルエタノールアミンのポリ乳酸アミドの製造)
ポリ(乳酸)、分子量=2,000(ICN,クリーブランド、オハイオ州)200mg(0.1mmol)を、ジメチルスルホキシド2.0ml中に、材料が完全に溶解する様に撹拌しながら加熱して溶解した。次いで溶液を直ちに65℃まで冷却し、ジステアロイルホスファチジル-エタノールアミン(Cal.Biochem,La Jolla)75mg(0.1mmol)とジシクロヘキシルカルボジイミド41mg(0.2mmol)の混合物上に注いだ。次いでトリエチルアミン28ml(0.2mmol)を加え、空気を窒素ガスでチューブから追い出し、チューブに栓をし、65℃で48時間加熱した。
【0098】
この時間の後に、チューブを室温まで冷却し、クロロホルム6mlを加えた。クロロホルム溶液を、3回続けて6ml容量の水で洗浄し、各々の洗浄の後に、遠心分離し、相をパスツールピペットで分離した。残存するクロロホルム相を、吸引濾過して、懸濁したジステアロイルホスファチジルエタノールアミンを除去した。濾液を、減圧下で乾燥し、半結晶性固体212mgを得た。
【0099】
この固体を、エタノール4容量と水1容量の混合物15ml中に溶解し、深さ50mm及び直径21mmのH+Dowex 50カチオン交換樹脂の吸着床を通過させ、同一溶剤100mlで洗浄した。
【0100】
濾液を、蒸発乾固し、無色ワックス状物131mgを得た。
【0101】
この様なワックス状物291mgを、クロロホルム2.5ml中に溶解し、クロロホルムで湿らせたシリカゲルの21mm×280mmカラムの頭部に移した。下記クロロホルム各々100mlを順番にカラムに通して、クロマトグラムを展開した:
100%クロロホルム、0%(メタノール中1% NH4OH);
90%クロロホルム、10%(メタノール中1% NH4OH);
85%クロロホルム、15%(メタノール中1% NH4OH);
80%クロロホルム、20%(メタノール中1% NH4OH);
70%クロロホルム、30%(メタノール中1% NH4OH)。
【0102】
個々に25ml部の溶出液をとっておき、SiO2被覆されたプレート上でTLCによって検定し、その際展開剤としてCHCl3、CH3OH、H2O、濃NH4OH、130、70、8、0.5v/v及び視覚化のためにI2蒸気吸収を使用した。
【0103】
カラム溶出液の275〜325ml部分は、Rf=0.89の単一材料(PO4+)を含有していた。
【0104】
一緒にし、蒸発乾固すると、これらは無色ワックス状物319mgを生じた。
【0105】
ホスファート分析は、約115,000の分子量と一致した。
【0106】
明らかに、ポリ(乳酸)の重合が、ホスファチジルエタノールアミンとの反応速度と匹敵する速度で起こった。
【0107】
この副反応は、より希釈された反応成分溶液を用いて行うことによって恐らく最小にすることができる。
【0108】
(D.DSPEのポリ(グリコール酸)アミドの製造)
グリコール酸266mg(3.50mmol)、ジシクロヘキシルカルボジイミド745mg(3.60mmol)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン75mg(0.10mmol)、トリエチルアミン32マイクロリットル(0.23mmol)、及び乾燥ジメチルスルホキシド5.0mlの混合物を窒素雰囲気下で75℃で加熱し、室温まで冷却し、次いで同容量のクロロホルムで希釈し、次いで3回続けて同量の水で洗浄し、ジメチルスルホキシドを除去した。遠心分離し、相をパスツールピペットでその都度分離する。
【0109】
クロロホルム相を吸引濾過し、少量の懸濁する物質を除き、濾液を減圧で蒸発乾固し、薄いコハク色のワックス状物572mgを得る。
【0110】
クロロホルム2.5ml中にこの材料を再溶解し、クロロホルムで湿らせたシリカゲル(メルクシリカゲル60)の21mm×270mmカラムの頭部に移す。
【0111】
下記クロロホルム各々100mlを順番にカラムに通して、クロマトグラムを展開する:
100%クロロホルム、0%(メタノール中1% NH4OH);
90%クロロホルム、10%(メタノール中1% NH4OH);
85%クロロホルム、15%(メタノール中1% NH4OH);
80%クロロホルム、20%(メタノール中1% NH4OH);
70%クロロホルム、30%(メタノール中1% NH4OH)。
【0112】
個々に25ml部の溶出液を集め、SiO2被覆されたプレート上でTLCによって各々検定し、その際展開剤としてCHCl3、CH3OH、H2O、濃NH4OH;130、70、8、0.5v/vを使用する。
【0113】
ほとんどすべてのPO4+物質は、溶出液の275-300ml部分中に存在する。これを減圧下で蒸発乾固し、高減圧乾燥し、無色ワックス状物281mgを得る。
【0114】
ホスファート分析は、分子量924,000を示した。反応の間の溶剤容量及びグルコール酸とジシクロヘキシルカルボジイミドとのモル割合を操作することにより、恐らく他の大きさの分子を得る。
【0115】
(例3:エチレン結合したPEG-PEの製造)
(A.1-トリメチルシリルオキシ-ポリエチレングリコールの製造)
1-トリメチルシリルオキシ-ポリエチレングリコールの製造は、図4に示した反応式中に示される。
【0116】
ポリエチレングリコール、分子量1500(Adrich Chemical)15.0グラム(10mmol)をベンゼン80ml中に溶解した。クロロトリメチルシラン(Adrich Chemical社)1.40ml(11mmol)及びトリエチルアミン1.53ml(1mmol)を加えた。混合物を、室温で不活性雰囲気下で5時間撹拌した。
【0117】
混合物を、吸引濾過して、トリエチルアンモニウムクロライドの結晶を分離し、結晶をベンゼン5mlで洗浄した。濾液及びベンゼン洗浄液を一緒にした。この溶液を、減圧下で蒸発乾固し、無色油状物15.83グラムを得、これは放置すると固まった。
【0118】
展開剤としてエタノール4容量と水1容量の混合物を用いるSi-C18逆相プレート上での生成物のTLC、及びヨウ素蒸気視覚化は、すべてのポリグリコール1500(Rf=0.93)が使い果され、Rf=0.82の物質に代っていることを示した。赤外スペクトルは、ポリグリコールのみに特徴のある吸収ピークを示した。
【0119】
1-トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール(分子量1500)の収量は、ほぼ定量的であった。
【0120】
(B.1-トリメチルシリルオキシ-ポリエチレングリコールのトリフルオロメタンスルホニルエステルの製造)
上記で得られた、結晶性1-トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール15.74グラム(10mmol)を、無水ベンゼン40ml中に溶解し、粉砕した氷の浴中で冷却した。トリエチルアミン1.53ml(11mmol)及びAldrich Chemical Co.から得られる無水トリフルオロメタンスルホン酸1.85ml(11mmol)を加え、反応混合物が褐色に変わるまで、混合物を不活性雰囲気下で一晩撹拌した。
【0121】
次いで溶剤を減圧下で蒸発し、残存するシロップ状ペーストをメチレンクロライドで希釈して100.0mlにした。トリフルオロメタンスルホン酸エステルの反応性は高いので、1-トリメチルシリルオキシポリエチレングリコールのトリフルオロメタンスルホニルエステルの更なる精製は行わなかった。
【0122】
(C.N-1-トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール1500PEの製造)
1-トリメチルシリルオキシポリエチレングリコールのトリフルオロメタンスルホニルエステルのメチレンクロライド貯蔵溶液10mlを減圧下で蒸発乾固し、残留物約1.2グラム(約0.7mmol)を得た。この残留物に、卵PE372mg(0.5mmol)を含有するクロロホルム溶液3.72mlを加えた。生じた溶液に、トリエチルアミン139マイクロリットル(1.0mmol)を加え、溶剤を減圧下で蒸発した。得られた残留物に、乾燥ジメチルホルムアミド5ml及びトリエチルアミン(IV)70マイクロリットル(0.50mmol)を加えた。反応容器の空気を窒素で置換した。容器を閉じ、砂浴中で110℃で22時間加熱した。溶剤を減圧下で蒸発し、褐色がかった油状物1.58グラムを得た。
【0123】
シリカゲル60シリカ70-230メッシュで充填された21×260mmクロマトグラフィー吸着カラムを調製し、ブタノン40容量、酢酸25容量及び水5容量から成る溶剤で洗浄した。粗生成物を、同一の溶剤3ml中に溶解し、クロマトグラフィーカラムの頭部に移した。クロマトグラムを同一溶剤で展開し、連続して溶出液30ml部を各々TLCによって検出した。
【0124】
TLC検出システムは、ブタノン/酢酸/水の溶剤混合物、40/25/5;v/v/vを用いて、シリカゲル被覆されたガラスプレートを使用した。ヨウ素蒸気吸収は、視覚化に役立った。この溶剤系で、N-1-トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール1500PEは、Rf=0.78で現われた。未変化PEはRf=0.68で現われた。
【0125】
所望のN-1-トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール1500PEは、カラム溶出液の170〜300ml部分の主たる成分であった。減圧で蒸発乾固すると、この部分は薄い黄色油状の化合物111mgを生じた。
【0126】
(D.N-ポリエチレングリコール1500の製造:ホスファチジル-エタノールアミン酢酸脱保護)
一度クロマトグラフィー分離されたPE化合物を、テトラヒドロフラン2ml中に溶解した。これに酢酸6ml及び水2mlを加えた。得られる溶液を3日間、23℃で放置した。反応混合物からの溶剤を、減圧で蒸発し、恒量まで乾燥し、薄い黄色ワックス状物75mgを得た。エタノール4容量部と水1容量部の混合物で展開されたSi-C18逆相プレート上でのTLCは、いくつかの遊離PE及びいくつかのポリグリコール様物質が加水分解中に形成されたことを示した。
【0127】
残留物をテトラヒドロフラン0.5ml中に溶解し、エタノール水(80;20;v:v)の溶液3mlで希釈した。混合物を、オクタデシルが結合した相のシリカゲルで充填された10mm×250mmクロマトグラフィー吸着カラムの頭部に供給し、カラムをエタノール水80:20容量%で展開し、連続して溶出液20ml部を集めた。溶出液を、逆相TLCによって検定した。Rf=0.08〜0.15の生成物しか含有しない画分を一緒にした。これは、主として溶出液の20〜100ml部分であった。減圧で蒸発乾固した場合、これらの部分は無色ワックス状物PEG-PE33gを生じ、これは出発ホスファチジルエタノールアミンを基準にしてわずか3%の収率に相当した。
【0128】
NMR分析は、生成物はPE残基もポリエチレングリコール残基も含んでいるが、一見好ましい元素分析にかかわらず、ポリグリコール鎖の鎖長がエチレンオキシド残基約3個〜4個に減少したことを示した。製造された生成物を、PEG-PEリポソームの製造に使用した。
【0129】
(E.フルオライド脱保護によるN-ポリエチレングリコール1500P.E.の製造)
粗N-1-トリメチルシリルオキシポリエチレングリコールPE500mgを、テトラヒドロフラン5ml中に溶解し、テトラブチルアンモニウムフルオライド189mg(0.600ミリモル)を加え、溶解するまで撹拌した。反応成分を、室温(20℃)で一晩放置した。
【0130】
溶剤を減圧下で蒸発し、残留物をクロロホルム10ml中に溶解し、2回続けて10mlずつの水で洗浄し、遠心分離してクロロホルム相と水相を分けた。クロロホルム相を減圧下で蒸発し、橙褐色ワックス状物390mgが得られ、これは不純なN-ポリエチレングリコール1500PE化合物であることを示した。
【0131】
ワックス状物を、クロロホルム5ml中に再溶解し、クロロホルムで湿らせたシリカゲルを有する21×270mmカラムの頭部に移した。
【0132】
溶剤100mlをカラムに通してカラムを展開した。表2の溶剤を、順番に用いた:
【0133】
【表2】

【0134】
分離したカラム溶出液の画分50mlをとっておいた。カラムの画分を、TLCによってSi-C18逆相プレート上で分離した。TLCプレートを、水1容量と混合されたエタノール4容量で展開した。視覚化を、ヨウ素蒸気にさらすことによって行った。
【0135】
Rf約0.20のヨウ素吸収脂質を含有する画分のみを一緒にし、減圧下で蒸発乾固し、恒量まで高減圧で乾燥した。この方法でワックス状の結晶性固体94mgが、分子量2226で得られた。重クロロホルム中に溶解されたこの物質のプロトンNMRスペクトルは、ポリエチレングリコールに帰因すると考えられるいくつかのメチレンプロトンと共に分子のホスファチジルエタノールアミン部分に原因があると予測されるピークを示した(δ=3.7)。
【0136】
(例4:REV及びMLVの製造)
(A.分粒されたREV)
下記の例中に示されるモル割合で、全部で15μmolの選択された脂質成分をクロロホルム中に溶解し、ロータリーエバポレーターによって薄いフイルムとして乾燥した。この脂質フイルムを、蒸留水で洗浄されたジエチルエーテル1ml中に溶解した。この脂質溶液に5mMトリス、100mM NaCl、0.1mM EDTAを含有する水性緩衝溶液、pH7.4、0.34mlを加え、混合物を、1分間音波処理によって乳化し、溶液の温度を室温又はそれ以下に保った。内包された〔125I〕チラミニル-イヌリンを含有するようにリポソームを製造した場合、チラミニル-イヌリンは約4μCi/ml緩衝液の濃度でホスファート緩衝液中で含まれた。
【0137】
エーテル溶剤を減圧下で室温で除去し、生じるゲルを、上記緩衝液0.1ml中に、取り、激しく振った。生じるREV懸濁液は、顕微鏡検査によって測定される約0.1ないし20ミクロンの粒子サイズを有し、1個又はほんの僅かの二重層ラメラを有する比較的大きい(1ミクロンより大きい)小胞から主に成っていた。
【0138】
リポソームを、選択された細孔サイズ0.4ミクロン又は0.2ミクロンを有するポリカーボネートフイルター(Szoka,1978)を2回通して押し出した。0.4ミクロンフィルターを通して押し出されたリポソームは、0.17±(0.05)ミクロン直径、0.2ミクロンフィルターを通したものは、0.16(0.05)ミクロン直径を平均とした。内包されていない〔125I〕チラミニル-イヌリンを、押し出されたリポソームをセファデックスG-50(ファルマシア)通過させることによって除去した。
【0139】
(B.分粒されたMLV)
多重ラメラ小胞(MLV)リポソームを、標準操作に従って、脂質混合物を主にCHCl3を含有する有機溶剤中に溶解し、減圧下で回転によって薄いフイルムとして脂質を乾燥して、製造した。ある場合には、脂質相のための放射性標識を、乾燥前に脂質溶液に加えた。脂質フイルムを、所望の水性相及び3mmガラスビーズの添加によって水和し、次いでボルテックスで撹拌し、少なくとも1時間リン脂質成分の相転移温度以上で振とうした。ある場合には、水性相のための放射性標識を、緩衝液中に含有させた。ある場合には、次の押出し工程を容易にするために、水和された脂質を、繰り返し3回凍結し解凍した。
【0140】
リポソームサンプルのサイズを、加圧された窒素ガスを用いて、定められた細孔ポリカーボネートフィルターを通して押し出してコントロールした。ある操作では、リポソームを0.4μmの細孔を有するフィルターを1回通し、次いで0.1μmの細孔を有するフィルターを10回通し押し出した。別の操作では、リポソームを0.2μmの細孔を有するフィルターを3回通し、その後粒子の平均直径がDLSにより測定された場合に100nm以下になるまで、0.05μmの細孔での押出しをくり返した。空隙容量のリポソームを包含容量の小分子から分離するゲルパーミエーションカラムに、押し出されたサンプルを通すことによって非内包水性成分を除去した。
【0141】
(C.67GaのDF含有リポソームへの積載)
Ga67-DF標識されたリポソームを製造するプロトコルは、公知手順(ガビゾン,1989(文献番号8))に適合するようにした。簡単に述べると、リポソームを内部水性相中にイオンキレーターデスフェラルメシラートが内包されるように製造し、ヒドロキシキノリン(オキシン)によって二重層を通って運搬されたGaを不可逆的に結合した。
【0142】
(D.動的光散乱)
リポソーム粒子サイズ分布測定が、Brookhaven Instruments BI-2030ATオートコリレーターを備えたNICOMPモデル200を用いてDLSによって得られた。機器を、製造業者による指示書に従って操作した。NICOMP結果は、平均直径及び相対容量による小胞のガウス分布の標準偏差として表わした。
【0143】
(例5:リポソーム血中寿命測定)
(A.血中循環時間及び血液/RES割合の測定)
リポソームのインビボ試験を、2つの異なる動物モデルで行った:各25gのスイス-ウェブスターマウス及び各200〜300gの実験用ラット。マウス試験は、1μMリン脂質/マウスにリポソームサンプルの尾静脈注射を行い、次いで動物を一定の時間後屠殺し、ガンマカウンティングによって標識を定量するために組織除去することを包含した。各組織中で注射された薬用量の重量及びパーセントを測定した。ラットの試験は、大腿静脈中に長時間持続するカテーテルの確立を包含した。この長時間持続するカテーテルは、3〜4μMリン脂質/ラットで他の大腿動脈中のカテーテル中にリポソームサンプルを注射した後の一定の時間に血液サンプルを除去するためのカテーテルである。血液中に残存する注射された薬用量のパーセントを24時間までのいくつかの時点で測定した。
【0144】
(B.血流中のリポソーム保持の時間経過)
メトキシPEG(分子量1900)及び1-パルミトイル-2-オレイル-PE(POPE)から成るPEG-PEを例2と同様に製造した。PEG-POPE脂質を約0.1:2の脂質:脂質モル割合で部分的に水素化された卵PC(PHEPC)と一緒にし、脂質混合物を水和し、例4中に記載した様に0.1ミクロンポリカーボナート膜を通して押し出し、平均サイズ約0.1ミクロンのMLVを生じた。MLV脂質は少量の放射性標識された脂質マーカー14C-コレステリルオレアート、及び内包されたマーカー3H-イヌリンを含んでいた。
【0145】
リポソーム組成物を注射し、マウス中の初期の注射薬用量に対するパーセントを、注射後1、2、3、4及び24時間で例4中に記載した様に測定した。脂質マーカー及び内包されたマーカーは両方とも24時間後最初に注射された薬用量の10%より大きいことを示した。
【0146】
(C.24時間血中リポソームレベル)
血液中に注射される薬用量に対するパーセント、及びリポソームマーカーの血液/RES割合を静脈内リポソーム注射後24時間で測定するための試験を、上述の様に実施した。下記表3中の左欄に示した組成を有するリポソーム処方物を上述の様に製造した。特に明記しない限り、脂質誘導体化されたPEGはPEG-1900であり、リポソームサイズは0.1ミクロンであった。静脈内投与後24時間で血液中に残存する薬用量パーセント、及び測定された24時間血液/RES割合を、表の中央及び右欄にそれぞれ示す。
【0147】
【表3】

【0148】
*すべての処方物は、33%のコレステロール及び7.5%の充填成分を含有し、記載される場合以外は100nm平均直径であった。PEG-DSPEは、記載される場合以外はPEG1900から成った。
【0149】
明らかな様に、注射後24時間の血液中に残存する薬用量パーセントは、PEG誘導体化された脂質を含有するリポソームに関して5〜40%の間であった。対照的に、PEG誘導体化された脂質のない両方のリポソーム処方物においては、24時間後に残存するリポソームマーカーは、1%より小さかった。また表3から明らかな様に、血液/RES割合は、コントロールリポソーム中の0.01〜0.03から、PEG誘導体化されたリポソームを含有するリポソーム中で少なくとも0.2に増加し、4.0の高さまで増加した。
【0150】
(D.ポリ乳酸誘導体化されたPEを用いる血中寿命測定)
静脈内リポソーム注射後、数回血液中の注射された薬用量パーセントを測定するための試験を、上述の様に実施した。2:3.5:1又は1:3.5:1重量%のどちらかの組成のポリ乳酸‐PE:HSPC:Cholを有するMLVリポソーム処方物を製造した。
【0151】
このデータは、ポリ乳酸被覆リポソームのクリアランスがポリ乳酸誘導体化されたPEを含有しない類似の処方物よりも数倍遅いことを示す。
【0152】
(E.ポリグリコール酸誘導体化されたPEを用いる血中寿命測定)
静脈内リポソーム注射後、数回血液中の注射された薬用量パーセントを測定するための試験を、上述の様に実施した。2:3.5:1重量%で組成のポリグリコール酸‐PE:HSPC:Cholを有する押し出されたMLVリポソーム処方物を製造した。
【0153】
これらのデータは、ポリグリコール酸被覆リポソームのクリアランスがポリグリコール酸誘導体化されたPEを含有しない類似の処方物よりも数倍遅いことを示す。
【0154】
(例6:PEG‐PEリポソーム中の血液/RES割合に対するリン脂質アシル鎖飽和の作用)
メトキシPEG(分子量1900)及びジステアリルPE(DSPE)から成るPEG‐PEを、例2と同様に製造した。PEG‐PE脂質を、スフィンゴミエリン(SM)、完全に水素化された大豆PC(PC)、コレステロール(Chol)、部分的に水素化された大豆PC(PHSPC)、及び表4中にPC IV1、IV10、IV20、IV30、及びIV40として同定される一部水素化されたPC脂質のうちから選択された脂質を用いて処方した。脂質成分を、表5中の左欄に示されるモル割合で混合し、例4中に示した様に0.1ミクロンに分粒されたMLVを形成するのに使用した。
【0155】
【表4】

【0156】
【表5】

【0157】
注射後24時間で、血液中、ならびに肝臓(L)及び脾臓(S)中に残存する(14C-コレステリルオレアートのパーセントによって測定される様に)注射された物質のパーセントを測定した。血液及びL+S(RES)値を、各組成物に関する血液/RES値を算出するのに使用した。表5の右欄(%残存率)は、24時間後の動物の放射能の全量から決定した、投与後24時間における動物に残存する投与されたリポソーム用量の百分率を示す。表中の2つの低い全回収値は、異常クリアランス挙動を示す。
【0158】
表からの結果は、血液/RES割合がリポソームを形成するリン脂質成分の流動性又は飽和度と全く無関係であることを示す。特に、飽和度の高いPC成分(たとえばIV1 PC及びIV10 PC)、ほとんど不飽和のPC成分(たとえばIV40)、及び中間的な飽和成分(たとえばIV20)を含有するリポソームの間で観察される血液/RES割合で系統的な変化はない。
【0159】
更に、比較的飽和したPEG-DSPE化合物及び比較的不飽和のPEG-POPE化合物(例5)を用いて得られた血液/RES割合の比較は、誘導体化された脂質の飽和度がそれ自体ではRESによって吸収を逃れるリポソームの能力に対して重要ではないことを示す。
【0160】
(例7:PEG‐PEリポソーム中、血液/RES割合に対するコレステロールとエトキシ化コレステロールの作用)
(A.添加されたコレステロールの作用)
メトキシPEG(分子量1900)およびDSPEから成るPEG‐PEを例2に記載した様に製造した。PEG‐PE脂質を下表6中の左欄に示した様にスフィンゴミエリン(SM)、完全に水素化された大豆PC(PC)及びコレステロール(Chol)の中から選ばれた脂質を用いて処方した。表中に示した3つの処方物は、約30,15及び0モルパーセントのコレステロールを含有する。REV(0.3ミクロンサイズ)及びMLV(0.1ミクロンサイズ)をともに、実質上例4に於ける様に、トリチウム標識されたイヌリンを内包して製造した。
【0161】
投与後2及び24時間で血液中に残存する内包されたイヌリンパーセントは、下表6の右に示す様に0〜30モルパーセントの範囲でコレステロールの測定できる影響を示さない。
【0162】
【表6】

【0163】
(B.エトキシ化コレステロールの作用)
メトキシ‐エトキシ‐コレステロールを、第I章(誘導体化された脂質の製造)で記載したトリフルオロスルホナートカップリング法を経てメトキシエタノールをコレステロールにカップリングすることによって製造した。メトキシPEG(分子量1900)およびDSPEから成るPEG‐PEを、例2に記載した様に製造した。PEG‐PE脂質を表7の右に示す様なジステアリルPC(DSPC)、部分的に水素化された大豆PC(PHSPC)、コレステロール及びエトキシ化コレステロールの中から選択された脂質を用いて処方した。データは、(a)エトキシ化コレステロールは(PEG‐PEと組み合わせて)、PEG‐PE単独とほぼ同一の血液中のリポソーム寿命の増加度を生じることを示す。単独では、エトキシ化コレステロールは、リポソーム寿命の中程度の増加度を生じるが、PEG‐PEによって得られるものよりも実質的に小さい。
【0164】
【表7】

【0165】
(例8:PEG‐PEリポソームにおける血液/RES割合に対する荷電した脂質成分の作用)
メトキシPEG(分子量1900)およびDSPEから成るPEG‐PEを、例2に記載した様に製造した。PEG‐PE脂質を、図7中に示した様に、卵PG(PG)、部分的に水素化された卵PC(PHEPC)、及びコレステロール(Chol)の中から選択された脂質を用いて処方した。図中に示された2つの処方物は、約4.7モルパーセント(三角)又は14モルパーセント(まる)PGを含有していた。脂質を、例4に於けると同様に0.1ミクロンに分粒したMLVとして製造した。
【0166】
注射後0.25、1、2、4、及び24時間で存在する注射されたリポソーム薬用量のパーセントを、図7に両処方物に関してプロットする。明らかな様に、組成物中のPGパーセントは、血流中リポソーム保持に関してほとんど又は全く作用を有しなかった。また示された内包されたマーカーの損失速度は、PCを含有する、同様に製造されたリポソームに対して観察された損失速度と同様である。
【0167】
(例9:PEG‐被覆リポソーム及び非被覆リポソームの血漿のキネティックス)
メトキシPEG(分子量1900)及びジステアリルPE(DSPE)から成るPEG‐PEを、例2に於ける様に製造した。PEG‐PE脂質をPHEPC、及びコレステロールを用いて0.15:1.85:1のモル割合で処方した。第二の脂質混合物は、同一脂質を含有していたが、PEG‐PEは含まなかった。リポソームを、例5に記載した様にデスフェラルメシラートの存在下に脂質水和によって2つの脂質混合物から製造し、0.1ミクロンに分粒し、ゲル濾過によって取り込まれなかったデスフェラルを除去し、次いでリポソームに67Ga-オキシンを積載した。非内包67Gaを、セファデックスG-50ゲル排除カラムの通過の間に除いた。両組成物は0.15M NaCl、0.5mMデスフェラル中に10μmol/mlを含有する。
【0168】
2つのリポソーム組成物(0.4ml)を例6に記載した様に動物にIV注射した。注射後0.25、1、3又は5及び24時間で、血液サンプルを取り、血液中に残存するイヌリン量を検出し、注射直後に測定された量の百分率として表わす。結果を、図9中に示す。明らかな様に、PEG彼覆リポソームは、約11時間の血中半減期を有し、注射された材料のほぼ30%は、24時間後の血液中に存在する。対照的に、非被覆リポソームは、1時間より少ない血液中の半減期を示す。24時間で、注射された物質の量は、検出不可能であった。
【0169】
(例10:ドキソルビシンリポソームの製造)
0.3:0.3:1.4:1のモル割合で、PEG‐PE、PG、PHEPC、及びコレステロールを含有する小胞形成脂質をクロロホルム中に溶解し、25μmolリン脂質/mlの最終脂質濃度とした遊離塩基形でアルファ-トコフェロール(α-TC)を、クロロホルム:メタノール(2:1)溶液中に加え、0.5%の最終モル割合とした。脂質溶液を乾燥して薄い脂質フィルムとし、次いで1mMデスフェラルを含有する125mM硫酸アンモニウムの熱い(60℃)溶液で水和した。水和を、リン脂質50μmolにつき水溶液1mlを用いて実施した。脂質材料を10回の凍結/解凍サイクルで、液体窒素及び熱い水浴を用いて水和した。
【0170】
リポソーム分粒を、2個の核細孔ポリカーボネート膜、3サイクル0.2ミクロンフィルター、次いで10サイクル0.05ミクロンフィルターを通して押出しすることによって実施した。最終リポソームサイズは100nmであった。次いで分粒されたリポソームを、24時間の間3回5%グルコース50〜100容量に対して透析した。第4サイクルを1時間pH6.5〜7.0に滴定された5%グルコースに対して実施した。
【0171】
0.9%NaCl及び1mMデスフェラル中にドキソルビシン10mg/mlを含有する溶液を製造し、透析されたリポソーム製造物の等容量と混合した。混合物中の薬剤の濃度は、約5mg/ml薬剤50μmol/mlリン脂質であった。混合物を1時間60℃で水浴中で振とうしながらインキュベートした。取り込まれていない薬剤を、小さいカラム中に充填されたDowex 50WXを通して除去した。カラムをベンチトップ遠心分離器中で5分間遠心分離して、完全にリポソーム懸濁液を溶離した。混合物の滅菌を、0.45ミクロン膜の通過によって行い、リポソームを5℃で保存した。
【0172】
(例11:遊離ドキソルビシン及びリポソームドキソルビシンの血漿のキネティックス)
メトキシPEG(分子量1900)及びジステアリルPE(DSPE)から成るPEG‐PEを、例2と同様に製造した。PEG-PE脂質を水素化された大豆PC(HSPC)及びコレステロールで0.15:1.85:1(PEG‐Dox)のモル割合で処方した。第二脂質混合物は、水素化されたホスファチジルイノシトール(HPI)、HSPCコレステロールを1:10:5(HPI‐Dox)のモル割合で含有していた。各脂質処方物を、例10と同様に、アンモニウムイオン勾配を有する、分粒されたMLVの製造に使用した。
【0173】
リポソームを、例15と同様にドキソルビシン溶液の等容量(10mg/ml)プラス1mMデスフェラルと混合して、ドキソルビシンを積載した。2つの組成物を、図10及び下記表8にPEG‐DOX及びHPI‐DOXリポソームとしてそれぞれ示す。ドキソルビシンHCl溶液(市販の生成物、遊離Dox)を、病院薬局から入手した。遊離DOX,PEG‐Dox及びHPI‐Doxを、注射日に非緩衝の5%グルコースを用いて同一濃度(1.8mg/ml)に希釈した。犬を3つのグループ(雌2匹、雄1匹)に無作為に選び体重をはかった。18ケージヴェンフロン(Venflon)IVカテーテルを、各々の動物の表面の四肢静脈に挿入した。薬剤及びリポソーム懸濁液を、急速濃縮塊(quick bolus)によって注射した(15秒)。4ml血液サンプルを、注射前、及び注射後5、10、15、30、45分、1、2、4、6、8、10、12、24、48及び72時間で採取した。また、リポソームグループでは、血液を96、120、144、及び168時間後採取した。血漿を、遠心分離によって全血の形成成分から分離し、そしてドキソルビシン濃度を標準蛍光技術によって検出した。血液中に残存するドキソルビシンの量を、注射直後に測定された標識された薬剤のピーク濃度の百分率として表わした。その結果を、図10中にプロットし、PEG-DOX及びHPI-DOX組成物ともに線形対数プロット(シングル-モード指数関数)を生じ、遊離薬剤は下記表8中に示す様な2次モデル(bimodel)指数関数曲線を生じる。これらの曲線から測定される2つのリポソーム処方物の半減期を表8中に示す。
【0174】
また表8中に、72時間のテスト期間にわたって血漿のキネティックス曲線を積分することによって決定される曲線下の領域(AUC)も示す。AUC結果は、注射後72時間でPEG-DOXリポソームからの薬剤の全利用可能性がHPI-DOXリポソームの利用可能性のほぼ2倍であったことを示す。このことはPEG-DOXリポソームのほぼ2倍大きい半減期と一致する。表8中の「CL」記載は、体内からの薬剤の除去速度(mg/hr)を示す。
【0175】
【表8】

【0176】
(例12:ドキソルビシンの組織分布)
(A.皮下腫瘍)
ドキソルビシンが積載されたPEG‐リポソームを、例11と同様に製造した(PEG-DOXリポソーム)。使用される遊離薬剤は、病院薬局から得られる臨床材料であった。
【0177】
12匹のマウスの2つのグループに、106のJ-6456腫瘍細胞を皮下注射した。14日後、腫瘍が皮下空間で約1cm3サイズに成長し、動物に遊離薬剤として(グループ1)又はPEGリポソーム中に内包された形で(グループ2)ドキソルビシン10mg/kgをIV注射(尾静脈)した。薬剤注射後4、24、及び48時間で、各グループ中の4匹の動物を屠殺し、腫瘍、心臓及び筋肉組織の箇所を切除した。各組織をはかりホモジネートし、標準蛍光検定処理(ガビゾン,1989(文献番号8))を用いるドキソルビシン濃度の測定のために抽出した。各ホモジネート物中で測定された全薬剤を、組織1gあたりのμg薬剤として表わした。
【0178】
心臓、筋肉及び肝臓中の薬剤分布に関するデータを、それぞれ図11のA及び図11のB中に遊離及びリポソームに結び付いたドキソルビシンに対してプロットする。図11のA中、最初に薬剤は心臓中に優先的に吸収されるが、すべての3つの組織タイプは組織1gあたりほぼ同一量の薬剤を吸収することが分る。対照的に、PEG‐リポソーム中に取り込まれている時、薬剤は心臓及び筋肉組織中で減少したレベルを有しながら、腫瘍中に強い選択的局在化を示す。
【0179】
(B.腹水腫瘍)
15匹のマウスを有する2つのグループに、106J-6456リンパ腫細胞を腹腔内注射した。腫瘍を1-2週間成長させ、その時腹水液5mlが蓄積していた。次いでマウスにドキソルビシン10mg/kgを遊離薬剤形で(グループ1)又は例11に記載された様なPEGリポソーム中に取り込まれた形のどちらかでIV注射した。腹水液を、処理後1、4、15、24及び48時間で各グループ中の3匹の動物から採取した。更に腹水腫瘍を細胞成分と液体成分に遠心分離(15分、5000rpm)によって分画した。上清中の遊離及びリポソーム結合薬剤を、上述のDowex WX樹脂に液体を通して遊離薬剤を除去して測定した。腹水液、腫瘍細胞、上清、及び樹脂処理された上清中のドキソルビシン濃度を次いで測定し、これらの値からμg(ドキソルビシン)/1グラム(組織)を算出した。腹水液中のドキソルビシンの総濃度(黒菱形)、上清中のリポソームが結び付いた形のドキソルビシンの総濃度(上清から遊離薬剤除去後)(黒三角)、及び単離された腫瘍細胞中のドキソルビシンの総濃度(黒まる)に関する値を図12中にプロットする。明らかな様に、腹水液中の全ドキソルビシンは、約24時間まで一定に増加し、次いで次の24時間にわたって僅かに減少した。腫瘍中のほとんどのドキソルビシンは、リポソームに取り込まれた形であり、リポソームがそのままの形で充実性腫瘍中に溢出することができることを示す。
【0180】
同様な実験で、12匹のマウスの2つのグループに、J-6456リンパ腫をIP移植し、腫瘍を上述の様に生じさせた。いったん腹水腫瘍が約5mlに達すると、動物の1グループに、遊離ドキソルビシン10mg/kgを、及び他のグループにPEGリポソーム中に取り込まれたドキソルビシン10mg/kgを注射した。処理後4、24及び48時間で、腹水液及び血液サンプルを、各グループの動物4匹から採取し、動物を屠殺した。肝臓及び心臓の組織の部分を各動物から切除し、ホモジネート化し、上述の様に薬剤濃度を検出した。血漿を、遠心分離によって全血液から分離し、薬剤濃度を上述の様に検出した。腹水液中のドキソルビシン濃度も測定した。結果を表9中に表わす。血漿及び腹水液レベルを、mlあたりのμgドキソルビシンとして、肝臓及び心臓の組織値を1グラムの組織あたりのμgドキソルビシンとして表わす。各測定に関する標準偏差をかっこ内に示す。示されている様に、すべての時間点でPEGリポソームに取り込まれた形で薬剤を摂取するグループに関して、血漿中にかなり多くのドキソルビシンが存在する。腹水腫瘍レベルも、特により長い時間点(24及び48時間)でリポソームグループに於てより一層高い。これらのデータから、PEGリポソームによって薬剤が腫瘍に選択的に送達されることが確認される。
【0181】
【表9】

【0182】
(例13:通常のリポソームと比較したPEGリポソームの腫瘍による吸収)
6匹のマウスの2つのグループに105〜106のC-26結腸癌細胞を皮下注射し、腫瘍を約1cm3のサイズに達するまで(注射後約2週間)皮下空間内で成長させた。次いで動物の各グループに、例4中に記載した様に放射性ガリウムが積載された通常のリポソーム(100nm DSPC/Chol,1:1)又はPEGリポソーム(100nm DSPC/Chol/PEG-DSPE,10:3:1)のどちらかの0.5mgを注射した。各グループからマウス3匹を、処理後2、24及び48時間で屠殺し、腫瘍を切除し、体重をはかり、ガンマカウンターを用いて放射能の量を定量した。結果を次表中に示し、1グラムの組織あたりの注射された薬用量のパーセントとして表わす。
【0183】
【表10】

【0184】
(例14:無傷の腫瘍へのリポソーム溢出)
(直接顕微鏡視覚化)
メトキシPEG(分子量1900)及びジステアリルPE(DSPE)から成るPEG-PEを例2の様に製造した。PEG-PE脂質をHSPC、及びコレステロールとともに、0.15:1.85:1のモル割合で処方した。コロイド状金(gold)粒子を含有するようにPEG-リポソームを製造した(ホング)。生じるMLVを、上述の様に押出しによって分粒し、平均0.1ミクロンサイズとした。取り込まれていない材料をゲル濾過によって除去した。懸濁液中の最終リポソーム濃度は約10μmol/mlであった。
【0185】
最初の実験で、正常マウスに上記リポソーム処方物0.4mlをIV注射した。注射後24時間で、動物を屠殺し、除去された肝臓の切片を、標準水溶性プラスチック樹脂に固定した。厚い部分をミクロトームで切断し、Jannsen Life Sciences,Inc.(Kingsbridge,Piscataway,N.J.)による“インテンス2”システムキットで提供される説明書に従って硝酸銀溶液を用いてその切片を着色した。更にその切片をエオシン及びヘマトキシリンで着色した。
【0186】
図13は、典型的な肝臓切片の写真であり、より小さい、不規則な形のクッパー細胞、たとえば細胞20が、より大きいもっと規則的な形の肝細胞、たとえば肝細胞22の間に示される。クッパー細胞は、無傷のリポソームの大きい濃度を示し、これは、小さい、暗く着色されたかたまり、たとえば図13中の24として示される。肝細胞は、予想される様に全くリポソームを含まない。
【0187】
第二実験で、C-26結腸癌(約106細胞)を、マウス肝臓中に移植した。移植後14日で、動物に上記リポソーム0.5mgをIV注射した。24時間後、動物を屠殺し、肝臓を灌流し、包埋し、切開し、上述の様に着色した。切片を毛管供給腫瘍域に関して調べた。1つの例となる域を、図14に示し、それは癌細胞、たとえば細胞28の域に供給する毛管26を示す。これらの細胞は、特徴的な着色パターンを有し、しばしば有糸分裂の種々の段階で暗く着色された核を含む。図中の毛管は、内皮バリヤー30、及び下記の様に基底膜32に沿って並ぶ。
【0188】
リポソーム、たとえばリポソーム34は、内皮バリヤー及び基底膜の腫瘍側の毛管に隣接した腫瘍域中で濃密に濃縮され、多くのリポソームも、腫瘍細胞のまわりの細胞間液体中に分散されることが、図14に見いだされる。
【0189】
図15は、上記動物からの肝臓腫瘍の他の域を示す。リポソームは、癌細胞を浸した細胞間液体中に見られる。
【0190】
第三実験に於て、C26結腸癌細胞を、動物に皮下注射し、28日間動物中で成長させた。その後、動物に上記リポソーム0.5mgをIV注射した。24時間後、動物を屠殺し、腫瘍塊を切除した。包埋後、腫瘍塊をミクロトームで切開し、上述の様に着色した。図16は腫瘍細胞の領域を示し、有糸分裂の終りの段階である図中の中央の細胞36を有する。小さい、暗く着色されたリポソームは、細胞間液体中に見られる。
【0191】
(例15:腫瘍処置法)
PEG‐PE,PG,PHEPC及びコレステロール及びα-TCをモル割合0.3:0.3:1.4:1:0.2で含有する小胞形成脂質を、クロロホルム中に溶解し、25μmolリン脂質/mlの最終脂質濃度とした。脂質混合物を減圧下で薄いフィルムにまで乾燥した。フィルムを、0.125M硫酸アンモニウム溶液で水和し、MLVを形成した。MLV懸濁液を、ドライアイスアセトン浴中での凍結及び解凍を3回し、分粒して80〜100nmとした。アンモニウムイオン勾配を実質上例10に記載した様に生じさせた。リポソームにエピルビシンを積載し、ドキソルビシンに関して例10に記載した様に、遊離のもの(未結合薬剤)を除いた。取り込まれた薬剤の最終濃度は、約50〜100μg薬剤/μmol脂質であった。エピルビシンHCl及びドキソルビシンHClの市販生成物は、病院薬局から入手した。
【0192】
約106細胞のC-26結腸癌細胞を、マウス35匹を有する3つのグループに皮下注射した。グループを5つの7匹の動物サブグループに分けた。
【0193】
図17のA中に示された腫瘍抑制実験に関して、各サブグループに腫瘍細胞移植後1,8及び15日目に生理食塩水ベヒクルコントロール(白まる)、エピルビシン6mg/kg(白三角)、ドキソルビシン6mg/kg(黒まる)又は2つの薬用量で薬剤積載されたリポソーム(PEG-DOXリポソーム)、6mg/kg(黒三角)及び12mg/kg(白四角)のどれかを0.5ml IV注射した。各グループを28日間追跡した。腫瘍サイズを、各動物で5、7、12、14、17、21、24及び28日目で測定した。各時点で、各サブグループ中の腫瘍の成長(個々の動物の平均腫瘍サイズとして表わす)を、図17のA中にプロットする。
【0194】
この図に関して、6mg/kgでは遊離ドキソルビシンも遊離エピルビシンも、生理食塩水コントロールと比較して腫瘍成長を著しく抑制しなかった。対照的に、両方の薬用量でPEGリポソームに取り込まれたエピルビシンは、著しく腫瘍成長を抑制する。腫瘍移植後120日で動物の生存に関して、生理食塩水、エピルビシン又はドキソルビシングループ中の動物は生き残らなかったが、6mg/kgリポソームエピルビシン及び12mg/kgリポソームエピルビシングループ中では、7匹のうち5匹及び7匹のうち7匹がそれぞれ生存した。
【0195】
同一の腫瘍モデルを用いて遅延処置実験の結果を、図17のB及び図17のCに示す。同一数の動物に、上述の様に同一数の腫瘍細胞を接種した。図17のB及び図17のCの処置グループは、生理食塩水(実線)、エピルビシン6mg/kg(黒まる)、遊離エピルビシンプラス空のPEGリポソーム6mg/kg(白まる)及びPEGリポソーム中に取り込まれたエピルビシンの2つの薬用量、6mg/kg(黒三角)及び9mg/kg(白四角)から成っていた。図17のAに示した結果と対照的に、2回の処置しかこの実験で行わなかった:図17のBにプロットされた結果に関して3及び10日目;図17のCにプロットされた結果に関して10及び17日目。重要なことは、PEGリポソームに取り込まれた薬剤の場合、両方の薬用量レベルでの2つの遅延処置スケジュールは、腫瘍退化を生じるが、遊離薬剤、及び遊離薬剤プラス空のリポソームでの処置グループは、腫瘍成長の速度のおだやかな抑制しか示さなかった。
【0196】
(例16:腫瘍処置法)
PEG-DOXリポソームを、ドキソルビシンをリポソームに積載して、60〜80μg/μmol全脂質の最終レベルとした以外は、例15と同様に製造した。遊離薬剤コントロールとして使用されるドキソルビシンHCl溶液は、病院薬局で入手した。全部で30匹のマウスに、106のJ-6456リンパ腫細胞をIP注射した。動物を3つの10匹の動物グループに分け、各々に、生理食塩水ベヒクル、ドキソルビシン溶液10mg/kg、又は10mg/kgでリポソームに積載されたドキソルビシンのどれか0.4mlをIV注射した。各グループを、100日間、生き残る動物の数に関して追跡した。各処置グループに対する生存率を、図18中にプロットする。
【0197】
明らかな様に、遊離薬剤(黒まる)は、生理食塩水グループ(黒四角)より生存の点でほとんど向上がない。しかしドキソルビシン積載PEG-リポソーム(黒三角形)で処置された動物に於て、40日間生き残った動物は約50%、70日間20%、実験を100日で終了するまで生き残ったもの10%を示した。
【0198】
(例17:PEG-リポソームの減少された毒性)
遊離ドキソルビシンHCl、エピルビシンHClを有する溶液を、上述の様にして得た。薬剤濃度70-90μg(化合物)/μmol(リポソーム脂質)でドキソルビシン又はエピルビシンのどちらかを含有するPEG-リポソーム処方物を、例16中に記載した様に製造した。通常のリポソーム(PEG‐誘導体化された脂質ではない)に、ドキソルビシンを標準技術を用いて40μg/μmol脂質の薬剤濃度で積載した。
【0199】
5つの処方物の各々を、5mg/kgの増加量で、10〜40mg薬剤/kg体重の間の薬用量で35匹のマウスに投与し、各薬用量に対して5匹をあてた。下記表11中に示した最大許容薬用量は、14日以内に注射された動物中で死亡又は劇的な体重損失を生じない最高薬用量である。データから明らかな様に、DOX-リポソームもPEG-DOXリポソームも遊離形での薬剤のドキソルビシンの許容薬用量の2倍以上であり、PEG-DOXリポソームは、少し高い許容薬用量を示す。同様な結果が、許容エピルビシンの薬用量に関して遊離及びPEG-リポソーム形で得られた。
【0200】
【表11】

【0201】
(参考例:腫瘍処置法)
通常のドキソルビシンリポソーム(L-DOX)を、公知方法に従って製造した。簡単に述べると、モル割合0.3:1.4:1:0.2で卵PG、卵PC、コレステロール及びα-TCを有する混合物をクロロホルム中で調製した。溶剤を、減圧下で除き、乾燥脂質フィルムを2-5mgドキソルビシンHClを含有するNaCl 155mMの溶液で水和した。生じるMLV製造物を一連のポリカーボネート膜を通して押し出して小型化し、約250nmの最終サイズとした。遊離の(取り込まれていない)薬剤を懸濁液のDowex樹脂床上の通過によって除去した。最終ドキソルビシン濃度は、脂質1μmolにつき約40であった。
【0202】
マウス7匹の3つのグループに、例15に詳述した様に105〜106のC-26結腸癌細胞を皮下接種した。動物を3つの7匹動物処置グループに分け、グループの1つはコントロールとして生理食塩水ベヒクル0.5mlを与えた。他の2つのグループに、ドキソルビシンを遊離薬剤溶液として又は薬用量10mg/kgのL-DOXリポソームの形のいずれかで処置した。処置を、腫瘍細胞接種後、8、15及び22日目に行った。腫瘍サイズを処置した日及び28日目に測定した。図19から明らかな様に、遊離薬剤(黒まる)は腫瘍成長を生理食塩水コントロール(実線)に比して中程度まで抑制した。L-Dox-処置されたグループ(黒三角)中の腫瘍は、遊離薬剤処置グループに比して僅かに速く、かつ未処置グループの場合よりもほんの少し遅く成長した。この結果は、L-DOX製造物の抗腫瘍活性が遊離薬剤とほぼ同一であり、確かに遊離薬剤の同一薬用量よりも良好でないことを示す。これは、同等の薬用量では、PEG-リポソーム中に取り込まれたエピルビシンが、この同一腫瘍モデル中で遊離薬剤よりも極めて良好な抗腫瘍活性を有することを示す例15(及び図17のA〜C)に示した結果と著しく対照的である。
【0203】
本発明は、特に誘導体化された脂質組成物、リポソーム組成物、及びその使用に関して記載し、説明したが、種々の変更及び変化が本発明から離れることなく行われ得ることは明白である。
【0204】
以下に本発明に関連する文献を文献番号と共に示す。
【0205】
【表12】

【0206】
【表13】

【0207】
【発明の効果】
本発明によれば、腫瘍の標的化に有効であるリポソーム組成物および方法を提供され、これによって全身性の血管外腫瘍中に治療的用量レベルで結像剤または抗腫瘍剤を選択的に局在化させるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
小胞形成脂質アミンをポリアルキルエーテルで誘導体化する、一般反応式を示す。
【図2】
シアヌルクロライド結合剤を介してポリエチレングリコールで誘導体化されたホスファチジルエタノールアミン(PE)を製造する反応式である。
【図3】
ジイミダゾール活性化剤によってポリエチレングリコールで誘導体化されたホスファチジルエタノールアミン(PE)を製造する反応式を示す。
【図4】
トリフルオロメタンスルホナート試薬によってポリエチレングリコールで誘導体化されたホスファチジルエタノールアミン(PE)を製造する反応式を示す。
【図5】
ペプチド(A)、エステル(B)、およびジスルフィド(C)結合によってポリエチレングリコールで誘導体化された小胞形成脂質を示す。
【図6】
ポリ乳酸、またはポリグリコール酸で誘導体化されたホスファチジルエタノールアミン(PE)を製造する反応式を示す。
【図7】
血液中のリポソーム存在時間のプロットであり、これは種々の量のホスファチジルグリセロールを含有するポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)リポソームに関してIV注射後時間の関数として注射された薬用量パーセントで表される。
【図8】
図7のプロットと同様のプロットであり、これは主として不飽和のリン脂質成分から成るリポソームの血中存在時間を示す。
【図9】
図7のプロットと同様のプロットであり、これはPEG被覆されたリポソーム(黒三角)、および従来の被覆されていないリポソーム(黒丸)の血中存在時間を示す。
【図10】
ビーグル犬の血中からのドキソルビシンのクリアランスのキネティックスを示すプロットであり、遊離形態で(白丸)、飽和リン脂質および水素化ホスファチジルイノシトール(HPI)によって形成されたリポソームによって(白四角)、およびPEGで被覆されたリポソームによって(白三角)IV投与された薬剤に関する。
【図11】
遊離形態(図11のA)およびPEG-リポソーム形態(図11のB)でIV投与された薬剤について、心臓(黒菱形)、筋肉(黒丸)、および腫瘍(黒三角)による血中からのドキソルビシンの吸収の時間経過のプロットである。
【図12】
マウスの腹腔内(IP)に移植されたJ-6454腫瘍細胞による血中からのドキソルビシンの吸収の時間経過のプロットであり、薬剤全体(黒菱形)を、腫瘍に結び付いた薬剤(黒丸)およびリポソームに結び付いた形態(黒三角)として測定した。
【図13】
正常肝臓中のクッパー細胞中におけるリポソームの局在化(濃く染色された小さい粒子)を示す光学顕微鏡写真である。
【図14】
肝臓の毛細管が腫瘍細胞に供給する領域に移植されたC-26結腸癌の間質液中におけるリポソームの局在化(濃く染色された小さい粒子)を示す光学顕微鏡写真である。
【図15】
肝臓に移植されたC-26腫瘍細胞の活発に分裂する領域におけるリポソームの局在化(濃く染色された小さい粒子)を示す光学顕微鏡写真である。
【図16】
または皮下に移植されたC-26腫瘍細胞の活発に分裂する領域におけるリポソームの局在化(濃く染色された小さい粒子)を示す光学顕微鏡写真である。
【図17】
C-26結腸癌の皮下移植後の日数に対する腫瘍サイズの生長を示すプロットであって、生理食塩水コントロール(白丸)、6mg/kgのドキソルビシン(黒丸)、6mg/kgのエピルビシン(白三角)、またはPEG-リポソームに取り込まれたエピルビシンの2種の薬用量(6mg/kg(黒三角)または12mg/kg(白四角))で、1日目、8日目、および15日目に処置されたマウス;生理食塩水(実線)、6mg/kgのエピルビシン(黒丸)、6mg/kgのエピルビシンおよび空のリポソーム(白丸)、またはPEG-リポソームに取り込まれた2種の薬用量(6mg/kg(黒三角)および9mg/kg(白四角))で、3日目および10日目(図17のB)、または10日目および17日目(図17のC)に処置されたマウスに関する。
【図18】
J-6456リンパ腫の腹腔内移植後の日数に対する生存率を示すプロットであり、遊離形態(黒丸)またはPEG-リポソーム形態(黒三角)のドキソルビシンで処置された動物、または未処置の動物(黒四角)に関する。
【図19】
C-26結腸癌の皮下移植後の日数における腫瘍サイズの生長を、図17と同様にプロットしたものであり、生理食塩水コントロールで処置された動物(実線)、または10mg/kgのドキソルビシンの遊離形態(黒丸)または従来のリポソーム(黒三角)で処置された動物に関する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-29 
出願番号 特願平9-63661
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A61K)
P 1 651・ 113- YA (A61K)
P 1 651・ 52- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後藤 圭次星野 紹英  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 谷口 博
渕野 留香
登録日 1999-02-19 
登録番号 特許第2889549号(P2889549)
権利者 アルザ コーポレイション
発明の名称 充実性腫瘍治療法及び組成物  
代理人 川俣 静子  
代理人 山本 秀策  
代理人 實川 栄一郎  
代理人 山本 秀策  

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