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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01C
管理番号 1097983
異議申立番号 異議2002-72945  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-12-10 
確定日 2004-03-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3289554号「イメージセンサによる距離検出方法」の請求項1ないし3、6、7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3289554号の請求項3ないし4に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第3289554号の請求項1乃至7に係る発明についての出願は、平成7年7月26日に特許出願され、平成14年3月22日に設定登録され、その後、有限会社オフィスアテナより請求項1〜3、6、7に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされたところ、その指定期間内である平成16年1月28日に訂正請求がなされたものである。
【2】訂正の適否
1.訂正事項
a.特許請求の範囲の請求項1乃至3を削除する。
b.特許請求の範囲の請求項4を次のように訂正する。
「【請求項1】対象の映像を互いに異なる光路を介して受け映像のパターンを表す映像データをそれぞれ発する1対のイメージセンサ手段と、映像データから視野部分を抽出して各イメージセンサ手段により対象の映像を捉えるべき視野を設定する視野設定手段と、視野部分内の対象の映像を含む部分の両視野部分間の相対的ずれから対象の距離を検出するとともに,この映像部分の両視野部分間の相関を表す相関値を発する距離検出手段とを用い、距離検出手段による相関値が所定のレベルより低相関を示したとき視野設定手段により視野部分を映像データから抽出する位置を相関値がそのレベルより高相関を示すようにずらせるイメージセンサによる距離検出方法において、視野部分の抽出位置を任意の方向にずらせる試行を行ない,そのときに距離検出手段による相関値が増減する傾向から視野設定手段により視野部分の抽出位置をずらせるべき方向を決定するようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。」
c.特許請求の範囲の請求項5を次のように訂正する。
「【請求項2】請求項1に記載の方法において、距離検出手段による相関値に対応する視野部分内の対象の映像を含む部分の視野部分対間の相対的なずれを一定に保った条件で視野部分の抽出位置をずらせて行き、相関値が所定のレベルより高相関を示すよう抽出位置をずらせるべき方向と程度を決めるようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。」
d.特許請求の範囲の請求項6を次のように訂正する。
「 【請求項3】対象の映像を互いに異なる光路を介して受け映像のパターンを表す映像データをそれぞれ発する1対のイメージセンサ手段と、映像データから視野部分を抽出して各イメージセンサ手段により対象の映像を捉えるべき視野を設定する視野設定手段と、視野部分内の対象の映像を含む部分の両視野部分間の相対的ずれから対象の距離を検出するとともに,この映像部分の両視野部分間の相関を表す相関値を発する距離検出手段とを用い、距離検出手段による相関値が所定のレベルより低相関を示したとき視野設定手段により視野部分の映像データから抽出すべき大きさを縮小し、かつその抽出位置をずらせるようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。」
e.請求項7を次のように訂正する。
「【請求項4】請求項3に記載の方法において、視野部分を抽出する大きさの縮小により相関値が所定レベルよりなお低い相関を示すとき抽出位置をずらせるようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。」
f.特許明細書中、次の個所の「調整」を「縮小」と訂正する。
・段落番号【0013】(特許公報3頁右欄20行及び特許公報3頁右欄23行の2個所)、
・段落番号【0014】(特許公報3頁右欄36行)
・段落番号【0021】(特許公報4頁右欄17行)
・段落番号【0022】(特許公報4頁右欄27行)
・段落番号【0028】(特許公報5頁左欄37行)
・段落番号【0039】(特許公報6頁右欄16行)
・段落番号【0042】(特許公報6頁右47行)
・段落番号【0043】(特許公報7頁左欄5行)
・段落番号【0044】(特許公報7頁左欄16行)
・段落番号【0046】(特許公報7頁左欄
48行及び特許公報7頁右欄1行の2個所)

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正aについて
訂正aは請求項を削除する訂正であって、特許請求の範囲の減縮に相当する。

(2)訂正bについて
訂正bは、訂正aに伴い生じる特許請求の範囲の請求項番号の整合性をとるためのものであり、明りょうでない記載の釈明に相当するものである。
(3)訂正cについて
訂正cは、旧請求項5において、「請求項3または4」を「請求項1」とする訂正であって、訂正aに伴い生じる特許請求の範囲の請求項番号の整合性をとるための訂正、並びに引用する請求項の減縮であって、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮に相当するものである。
(4)訂正dについて
訂正dは、旧請求項6において、「調整」を「縮小」とする訂正であって、特許請求の範囲の減縮に相当するものである。
(5)訂正eについて
訂正eは旧請求項7において、「調整」を「縮小」とする訂正であって、特許請求の範囲の減縮に相当するものである。
(6)訂正fについて
訂正fは、訂正d、eに合わせて特許明細書中の記載との整合性をとるためのものであって、明りょうでない記載の釈明に相当するものである。
また、訂正d〜fは、訂正前の特許明細書中段落番号【0012】、並びに【0045】の記載に基づくものである。
したがって、訂正a〜fは訂正前の特許明細書に記載された事項に基づくものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
3.独立特許要件
特許異議の申立てがされていない請求項2(旧請求項5)については前記訂正cのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされたので、訂正明細書の請求項2に係る発明の独立特許要件について検討する。
(請求項2に係る発明について)
請求項2に係る発明のうち、「相関値が所定のレベルより高相関を示すよう抽出位置をずらせるべき方向と程度を決めるように」する構成については、下記【3】[2]で述べるように、特許異議申立人が提出した引用刊行物に記載されておらず、かつ、該引用刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。
したがって、請求項2に係る発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、前記訂正(訂正a〜f)は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
【3】特許異議の申立てについての判断(取消理由についての判断)
[1]本件発明
訂正前の請求項1〜3については訂正により削除されたので、同請求項に対する異議申し立ては解消された。
また、異議の申し立てられていない訂正前の請求項4、5については、それぞれ請求項1及び2と訂正された。
そこで、訂正後の請求項3、4について検討する。
訂正後の請求項3、4に係る発明は、訂正された明細書及び図面の記載からみて、訂正された特許請求の範囲の請求項3、4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項3】対象の映像を互いに異なる光路を介して受け映像のパターンを表す映像データをそれぞれ発する1対のイメージセンサ手段と、映像データから視野部分を抽出して各イメージセンサ手段により対象の映像を捉えるべき視野を設定する視野設定手段と、視野部分内の対象の映像を含む部分の両視野部分間の相対的ずれから対象の距離を検出するとともに,この映像部分の両視野部分間の相関を表す相関値を発する距離検出手段とを用い、距離検出手段による相関値が所定のレベルより低相関を示したとき視野設定手段により視野部分の映像データから抽出すべき大きさを縮小し、かつその抽出位置をずらせるようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。
【請求項4】請求項3に記載の方法において、視野部分を抽出する大きさの縮小により相関値が所定レベルよりなお低い相関を示すとき抽出位置をずらせるようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。」
[2]引用刊行物に記載の発明
(刊行物1に記載された発明)
これに対して特許異議申立人有限会社オフィスアテナの提出した甲第1号証(特開昭63-17416号公報、以下、「刊行物1」という。)は、焦点検出装置に関するものであり、次の事項が記載されている。
1.「撮影レンズを通過した被写体光に基いて焦点検出エリア内の被写体に対する撮影レンズの合焦状態を検出する焦点検出装置において、焦点検出用受光手段と、位置と面積の異なる複数の焦点検出エリアを設定し、これに対応して複数の焦点検出ゾーンを前記焦点検出用受光手段上に設定する焦点検出ゾーン設定手段と、撮影画面中央部に対応する焦点検出ゾーンから焦点検出を開始し、焦点検出不能と判断されたときは前記焦点検出ゾーン設定手段により設定された複数の焦点検出ゾーンから所定の順序で順次焦点検出すべき焦点検出ゾーンを選択して焦点検出をおこない、最も近距離の被写体の存在する焦点検出エリアに対応する焦点検出ゾーンの検出信号に基いて撮影レンズの合焦状態を検出する焦点検出手段を備えたことを特徴とする焦点検出装置」(特許請求の範囲(1))
2.「この発明は、撮影レンズを通過した被写体光に基いて撮影レンズの合焦状態を検出するカメラ及びビデオカメラの焦点検出装置に関する。」(公報1頁右下欄15行〜17行)
3.「第1の焦点検出手段であるスポット優先方式は第1図(a)、(b)、(c)に示すように焦点検出エリアとしてAa、Ba、Ca、Daの4個が用意されており、通常は中央のエリアAaを用いて焦点検出をおこなう。エリアAaに被写体がない場合、又は被写体コントラストが低い等の理由から焦点検出不能の場合にエリアBaを選択し、このエリアによっても焦点検出不能の場合にエリアCaを選択して焦点検出をおこなう。そしてエリアAa,Ba,Caいづれによっても焦点検出不能の場合に焦点検出エリアを拡大してエリアBaとエリアCaを合わせたエリアDaにより焦点検出をおこなうものである。」(3頁左上欄6行〜17行)
4.「次に焦点検出部の構成について説明する。
第3図は焦点検出部の構成を光学系を含めて示したもので、10は撮影レンズ、11はコンデンサレンズ、12は1対の再結像レンズ、13はCCDラインセンサ、14は絞りマスクである。
撮影レンズ10の所定の瞳位置を通過した被写体光は絞りマスク14を通過して一対の再結像レンズ12によりCCDラインセンサ13上に設定された基準部Lと参照部Rの2つの領域に結像する。CCD上に結像した2つの像間隔は、第4図に示すように合焦時をl0とすると前ピンの場合はl0より小さく、また後ピンの場合はl0より大となる。そしてこの像間隔はデフォーカス量にほぼ比例する。したがって、この像間隔を検出することにより、合焦、非合焦、非合焦にあってはデフォーカス量を知ることができる。」(3頁右上欄7行〜左下欄2行)
5.「以下、その演算内容を説明する。
まず、CCD画素のうち、中3個を隔てた2個の画素の出力差分データを基準部、参照部のそれぞれについて求める。
即ち、基準部の差分データlsk
lsk=lk-l(k+4) 但し、k=1〜31
参照部の差分データrsk
rsk=rk-r(k+4) 但し、k=1〜35
・・・
即ち、ゾーンA上の像のコントラストCAは
CA=Σ|lsk-ls(k+1)|・・(1)
・・・
即ち、ゾーンAの相関量HA(l)は
HA(l)=Σ|ls(k+9)-rs(k+l)|・・・・(5)」(4頁右上欄下から4行〜右下欄2行)
6.「正規化した最良相関量は、
YMA=HA(lMA)/CA・・・・・(7)
で表わされ、これをあらかじめ設定してある所定の基準レベルYsと比較する。この結果
YMA≦Ys・・・・(8)
であればゾーンAで焦点検出可能(焦点検出結果が信頼できる)であると判断される。また、
YMA>Ys・・・・・・(9)
であれば、エリアAでは焦点検出不能(焦点検出結果に信頼性が乏しい)であると判断される。」(4頁右下欄下から3行〜5頁左上欄7行)
7.「焦点検出可能か否かを判断した結果、前記(8)式に示したものとなり、焦点検出可能であればこのゾーンAで合焦演算をおこなう。合焦基準位置からのラインセンサ上の2つの像のずれ量XMAは
XMA=lMA-11 ・・・(10)
であり、lMAは基準部の画素単位での左右シフト量(0,・・・22のいずれか)であって、合焦時にはlMA=11,XMA=0となる。
一方、焦点検出可能か否かを判断した結果、前記(9)式に示すものとなり、焦点検出不可能となったときは焦点検出ゾーンを他のゾーンに切り換える。
他のゾーンについての演算内容もゾーンAに準ずるものであるから演算式のみを示す。」(5頁左上欄14行〜右上欄6行)
8.「マイクロプロセッサ23はこの入力信号に基いて各焦点検出ゾーン(これはマイクロプロセッサのプログラムによりCCDを構成している画素の上に形成されている)について、先に説明した演算式によってコントラスト、相関量などを算出し、焦点検出可能か否かの判断、焦点検出不能の場合の検出ゾーンの変更、選択の処理、最終的に決定された焦点検出ゾーンでの合焦演算をおこなう。」(6頁右上欄15行〜左下欄3行)
9.「次に、焦点検出モードの判定を行なう(ステップS2)。その結果、スポット優先方式の場合はステップS3に進み、ゾーンAを選択する。・・・
この結果、YMA>Ys、即ち焦点検出不能のときはステップS5に進み、ゾーンBを選択する。・・・
ゾーンAの場合と同様にゾーンBで焦点検出可能か否かの判断をおこない(ステップS6)、この結果、YMS>Ys、即ち焦点検出不能のときはステップS7に進み、ゾーンCを選択する。・・・
ゾーンAの場合と同様にゾーンCで焦点検出可能か否かの判断をおこない(ステップS8)、この結果、YMC>Ys、即ち焦点検出不能のときはステップS9に進み、ゾーンDを選択する。
ゾーンDはゾーンBとゾーンCとを合わせた範囲の焦点検出ゾーンであって、ゾーンB、ゾーンCではそれぞれコントラスト不足であった場合でも、両焦点検出範囲全体でみると少しづつコントラストが捕捉できる場合があり、ゾーンDで焦点検出結果の信頼性を判別する意義がある。」」(6頁左下欄下から2行〜7頁左上欄11行)
・上記記載1.から、刊行物1のものは、「複数の焦点検出ゾーンを前記焦点検出用受光手段上に設定する焦点検出ゾーン設定手段」を有することが記載されている。
・上記記載4.から、「被写体光は・・・CCDラインセンサ13上に設定された基準部Lと参照部Rの2つの領域に結像する」ことが読みとれる。
・第3図に依れば、CCDラインセンサは一対の再結像レンズ12、12のそれぞれに対向して1対設けられていることが示されていることから、刊行物1に記載されたものでは、詳細な説明中に特に明記されてはいないものの、1対のCCDラインセンサ13、13を有すると解するのが自然である。
・上記記載4.から、「CCD上に結像した2つの像間隔・・・を検出することにより・・・デフォーカス量を知ることができる」ことが読みとれる。
以上のことから、刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。

被写体の映像を互いに異なる光路を介して受けてその像パターンを表す画素データをそれぞれ発する1対のCCDラインセンサ13、13と、複数の焦点検出ゾーンを前記CCDラインセンサ13、13上に設定する焦点検出ゾーン設定手段と、検出ゾーン内の基準部L及び参照部R上の2つの像間隔からデフォーカス量の演算をおこなうとともに、基準部L及び参照部R上の2つの像間の相関を表す正規化した最良相関量YMB、YMCを演算するマイクロプロセッサ23とを用い、
マイクロプロセッサ23による正規化された最良相関量YMBが基準レベルYsより大きいとき、焦点検出ゾーン設定手段により焦点検出ゾーンをゾーンBからゾーンCにずらせるようにし、次いで、正規化された最良相関量YMCが基準レベルYsより大きいとき、焦点検出ゾーン設定手段により焦点検出ゾーンをゾーンDに選択するようにした焦点検出方法。
(刊行物2に記載された発明)
一方、取消理由において引用した特開昭63-26611号公報(以下、「刊行物2」という。)には、
刊行物1と大略同様の焦点検出装置が記載されており、特に焦点検出ゾーンの選択に関して次のように記載されている。
1.「カメラからの距離が異なる複数の被写体が存在する場合との2つのケースがある。そして、後者の場合には複数の被写体の1つが移動して撮影画面の中央に来れば、小さい焦点検出エリアでこれを捕捉し、撮影レンズを合焦させることができる。」(2頁左上欄下から6行〜末行)
2.「マイクロプロセッサ9では入力信号に基いて先に説明した演算式によりコントラスト、相関量など相関演算をおこない、・・・大ゾーンIIで焦点検出可能か否かの判定をおこなう。その結果、大ゾーンIIでも焦点検出不能のときは再び小ゾーンIに戻って先と同様の手順にしたがって焦点検出を続行し、これを繰返す。」(6頁右上欄10行〜左下欄2行)
3.「この発明は大きさの異なる第1、第2の焦点検出エリアを用意してこれに対応する第1、第2の焦点検出ゾーンを設定し、いづれのゾーンでも焦点検出不能と判断される間は自動的に他の焦点検出ゾーンに循環的に切換えて焦点検出を続行するものであるから、撮影画面に複数の被写体があって移動しているような場合に、いづれかの焦点検出ゾーンで焦点検出可能となる可能性が高く、それだけ焦点検出不能状態が発生しても早期に焦点検出を可能にすることができる。」(8頁右上欄6行〜16行)
以上のことから、刊行物2には次の発明が記載されていることになる。
被写体の映像を互いに異なる光路を介して受けてその像パターンを表す画素データをそれぞれ発する1対のCCDラインセンサ33、33と、複数の焦点検出ゾーンを前記CCDラインセンサ33、33上に設定する焦点検出ゾーン設定手段と、検出ゾーン内の基準部及び参照部上の2つの像間隔からデフォーカス量の演算をおこなうとともに、基準部及び参照部上の2つの像間の相関を表す正規化した最良相関量YMIIを演算するマイクロプロセッサ9とを用い、マイクロプロセッサ9による正規化された最良相関量YMIIが基準レベルYsより大きいとき、焦点検出ゾーン設定手段により焦点検出ゾーンを大ゾーンIIから小ゾーンIに選択するようにした焦点検出方法。
[3]対比・当審の判断
(請求項3に係る発明)
請求項3に係る発明と、刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明は、「相関量YMBが基準レベルYsより大きいとき、焦点検出ゾーン設定手段により焦点検出ゾーンをゾーンBからゾーンCにずらせるようにした」構成を有するものの、請求項3に係る発明を特定する事項である「距離検出手段による相関値が所定のレベルより低相関を示したとき視野設定手段により視野部分の映像データから抽出すべき大きさを縮小」する構成を有しない。
すなわち、刊行物1のものは、
・最良相関量はコントラストCAで正規化していること(【3】[2]6.(7)式参照)、
・コントラストの定義式
CA=Σ|lsk-ls(k+1)|
(【3】[2]6.(5)式参照)
から見て、ゾーンを拡大するとコントラスト値は増大する方向に向かうこと、したがって、ゾーンを拡大することにより最大相関量YMBは減少する方向に向かうこと、
・「ゾーンDはゾーンBとゾーンCとを合わせた範囲の焦点検出ゾーンであって、ゾーンB、ゾーンCではそれぞれコントラスト不足であった場合でも、両焦点検出範囲全体でみると少しづつコントラストが捕捉できる場合があり、ゾーンDで焦点検出結果の信頼性を判別する意義がある。」(【3】[2]9.参照)との記載、
以上3点のことから、刊行物1に記載された発明ではゾーンの拡大は相関量の減少(相関の上昇)に寄与すると言えるものである。
そうすると、刊行物1に記載された発明において、低相関を示したとき、視野部分の映像データから抽出すべき大きさを縮小することを想起し得るはずがない。
一方刊行物2は、「マイクロプロセッサ9による正規化された最良相関量YMIIが基準レベルYsより大きいとき、焦点検出ゾーン設定手段により焦点検出ゾーンを大ゾーンIIから小ゾーンIに選択するようにした」構成を有するものの、請求項3に係る発明の如く、「抽出位置をずらせるようにした」構成を有するものではない。
そして、刊行物2に記載された発明は、被写体が移動することを前提としたものである(【3】[2](刊行物2に記載された発明)1、3参照)と解される以上、刊行物2に記載された発明において、あえて「抽出位置をずらせるように」する構成を採用する必然性がない。
そうしてみると、刊行物1及び2を組み合わせる必然性がないことになるから、請求項3に係る発明を刊行物1、2に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるとすることはできないことになる。

(請求項4に係る発明)
請求項3に係る発明に対する判断と同様である。
【4】むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件請求項3、4に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
イメージセンサによる距離検出方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】対象の映像を互いに異なる光路を介して受け映像のパターンを表す映像データをそれぞれ発する1対のイメージセンサ手段と、映像データから視野部分を抽出して各イメージセンサ手段により対象の映像を捉えるべき視野を設定する視野設定手段と、視野部分内の対象の映像を含む部分の両視野部分間の相対的ずれから対象の距離を検出するとともに,この映像部分の両視野部分間の相関を表す相関値を発する距離検出手段とを用い、距離検出手段による相関値が所定のレベルより低相関を示したとき視野設定手段により視野部分を映像データから抽出する位置を相関値がそのレベルより高相関を示すようにずらせるイメージセンサによる距離検出方法において、視野部分の抽出位置を任意の方向にずらせる試行を行ない,そのときに距離検出手段による相関値が増減する傾向から視野設定手段により視野部分の抽出位置をずらせるべき方向を決定するようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。
【請求項2】請求項1に記載の方法において、距離検出手段による相関値に対応する視野部分内の対象の映像を含む部分の視野部分対間の相対的なずれを一定に保った条件で視野部分の抽出位置をずらせて行き、相関値が所定のレベルより高相関を示すよう抽出位置をずらせるべき方向と程度を決めるようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。
【請求項3】対象の映像を互いに異なる光路を介して受け映像のパターンを表す映像データをそれぞれ発する1対のイメージセンサ手段と、映像データから視野部分を抽出して各イメージセンサ手段により対象の映像を捉えるべき視野を設定する視野設定手段と、視野部分内の対象の映像を含む部分の両視野部分間の相対的ずれから対象の距離を検出するとともに,この映像部分の両視野部分間の相関を表す相関値を発する距離検出手段とを用い、距離検出手段による相関値が所定のレベルより低相関を示したとき視野設定手段により視野部分の映像データから抽出すべき大きさを縮小し、かつその抽出位置をずらせるようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。
【請求項4】請求項3に記載の方法において、視野部分を抽出する大きさの縮小により相関値が所定レベルよりなお低い相関を示すとき抽出位置をずらせるようにしたことを特徴とするイメージセンサによる距離検出方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は1対のイメージセンサにより対象までの距離を検出する方法,とくに衝突防止のため先行自動車等である検出対象の距離を検出するに適するイメージセンサによる距離検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1対のイメージセンサにより捉えた対象の映像相互間の視差を利用して距離を検出するいわゆるパッシブ方式の距離検出方法は、赤外線や超音波の反射時間を利用して距離を検出するいわゆるアクティブ方式より遠距離の検出に適し,かつイメージセンサの視界内の特定された対象の距離だけを正確に検出できる優れた特長があるため、例えば自動焦点カメラのファインダでねらわれる被写体までの距離の検出に広く採用されるに至っている。
【0003】
この従来方法を上述の自動車の衝突防止に利用する場合は対象をファインダを介して特定することなく正面にある対象までの距離を検出するのが通常である。しかし、検出対象である先行自動車がいつでも真正面にあるとは限らないから、正面から所定の角度をもつ方向にある対象の距離を検出する必要が生じることがあり、このための技術は例えば特公平3-67203号公報や特開平3-141311号公報に開示されている。以下、かかる従来技術による距離検出方法の原理および概要を図4を参照して簡単に説明する。
【0004】
図4の上部に示す自動車である対象1が正面から角度θの方向にあり、1対のレンズ11と12によってその映像l1とl2が1対のイメージセンサ21と22上に互いに異なる光路L1とL2を介してそれぞれ結像されるものとする。対象1が無限遠点にあれば映像l1とl2はレンズ11と12の光軸と角度θをなす斜めの線に対応する図にP1とP2で示す基準点に結像されるはずであるが、対象1の距離dが有限の場合の映像l1とl2は図のようにこれら基準点P1とP2からそれぞれσ1とσ2だけ両側にずれた位置に結像される。いま、レンズ11と12の光軸間の距離を基線長bとし,それらの焦点距離をfとすると、対象1までの距離dはごく簡単な三角測距法の原理から角度θに関せず次式で表される。
【0005】
d=bf/σ (1)
ただし、σ=σ1+σ2であって、基準点P1とP2が角度θに対応する位置にあるときのイメージセンサ21と22上の映像l1とl2間の相対的なずれである。もちろん基線長bと焦点距離fは距離dに依存しない定数なので、この相対的なずれσを検出すれば距離dが直ちに求まることになるが、実用上ではこの相対的ずれσを距離を示す指標としてそのまま用いるのが通例である。
【0006】
この距離指標σを求めるためには、イメージセンサ21と22からそれらが受ける対象1とその背景の映像のパターンがもつ光強度の分布を表す映像データID1とID2をその下側に模式的に示すようにそれぞれ取り出した上で、この1対の映像データID1とID2からそれぞれその部分群d1とd2を図のように位置を順次交互にずらせながら抽出して部分群の組み合わせC0,C1,C2等を複数個作り、かかる組み合わせCk(ただし,k=0〜km)ごとに両部分群d1とd2間の相関度を検定して行き、その中から最高相関を示す組み合わせ番号koを求める。
【0007】
このようにして最高相関を示す組み合わせ番号koがわかると、それから前述の映像l1とl2間の相対的ずれとしての距離の指標σを簡単に求めることができる。その要領は映像データID1とID2から部分群d1とd2を抽出する大きさ等に応じて異なってくるが、組み合わせ番号koに対して加減算を行なうだけで距離指標σをごく簡単に計算できる。例えば、映像データID1とID2からそれぞれ抽出すべき部分群d1やd2の大きさ,つまりそれに含ませる光強度データの個数を映像データID1とID2内のレンズL1とL2の光軸と対応する位置よりも内側の光強度データの個数の和に等しくなるよう設定すれば、最高相関を示す組み合わせ番号koをそのまま距離指標σ=koとすることでよい。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述の距離検出の従来方法を自動車の衝突防止等に適用して見ると、イメージセンサがもつ視界内に存在する対象以外の物体に惑わされて検出誤差が発生することがあり、とくに遠近差が若干ある物体が検出対象に近接してないし重なり合って存在する場合に検出誤差が大きくなる傾向があることが判明した。衝突防止の場合は道路上に検出対象である先行自動車のほかに複数台の自動車が走行中であることが多く、かつそれらが対象に始終近づいたり遠ざかったりするので、距離検出結果がこのように対象と遠近が混在する物体の影響をできるだけ受けないようにする必要がある。
【0009】
また、従来の距離検出方法では前述のように対象を捉える方向を特定してその距離を検出することはできるが、その逆に対象が存在する方向を特定することはできず、ましてその方向が時間的に変化するとそれに対応できない問題がある。衝突防止の場合は検出対象の方向や距離が絶えず変化しているのがふつうであるから、衝突防止装置を実用化するには距離検出方法をこのような使用条件に充分対応できる距離検出方法が要求される。
【0010】
本発明はかかる問題点を解決して、イメージセンサの視界内に検出対象以外の物体,とくに検出対象と遠近が混在する物体に影響されることなく対象の距離を正確に検出できるようにすることを第1の目的とし、さらに対象自体の方向等の状態が絶えず変化する場合にも変化に対応ないしは追従して対象を捉えて距離を検出できるようにすることを第2の目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明では、対象の映像を互いに異なる光路を介して受けそのパターンを表す映像データをそれぞれ発する1対のイメージセンサ手段と、映像データから視野部分を抽出して各イメージセンサ手段により対象の映像を捉える視野を設定する視野設定手段と、視野部分内の対象の映像を含む部分の両視野部分間の相対的なずれから対象の距離を検出し,かつかかる映像部分の両視野部分間の相関を表す相関値を発する距離検出手段とを用い、その第1の方法では距離検出手段による相関値が所定レベルより低相関を示したとき視野設定手段により映像データから抽出する視野部分の大きさを相関値がそのレベルより高相関を示すよう調整することにより上述の第1の目的を達成し、その第2の方法では距離検出手段による相関値が所定レベルより低相関を示したとき視野設定手段により視野部分を映像データから抽出する位置を相関値がそのレベルより高相関を示すようにずらせることにより上述の第2の目的を達成する。
【0012】
上記の第1の方法では相関値が所定レベルより低い相関を示したとき視野設定手段により映像データから抽出する視野部分の大きさをふつうは縮小して対象を捉える視野を狭めて行くことでよい。また、第2の方法では相関値が低い相関を示したとき視野部分の抽出位置をまず任意の方向にずらせて見る試行を行ない,そのとき相関値が増減した傾向から視野部分の抽出位置をずらせる方向を決めるのが実際的である。または、距離検出手段による相関値に対応する視野部分内の対象の映像を含む部分の視野部分対間の相対的なずれを一定に保った条件で視野部分の抽出位置を順次ずらせながらそのつど距離検出手段に相関値を計算させ,その際に相関値が変化する傾向から視野部分の抽出位置をずらせる方向を決め、さらにはずらせるべき程度も決めるのがより合理的である。
【0013】
もちろん、上述の第1と第2の方法を組み合わせて相関値が所定のレベルより低相関を示したときに視野部分を映像データから抽出すべき大きさを縮小するとともに抽出位置もずらせるようにしてもよく、この場合はまず第1の方法により視野部分を抽出する大きさを縮小して見た上でまだ相関値が所定レベルより低い相関を示したときに限って第2の方法により視野部分の抽出位置をずらせて行くようにするのが有利である。
【0014】
【作用】
前述のように従来の方法ではイメージセンサがもつ視界内で対象を捉えていたのであるが、本発明による距離検出方法では各イメージセンサの視界から一部を視野として抽出してその中で対象を従来よりシャープに捉えて距離を検出するとともに,この検出距離の確実性を正確に評価するため各視野内の対象を含む映像部分の1対の視野間の検出距離に対応する相関値を必ず計算するようにし、この相関値が所定のないし所期のレベルより低い相関を示した場合に第1の方法では視野の大きさを縮小し,第2の方法では視野の抽出位置をずらせることによって相関値が所定のレベルより高い相関を示すようにし,従って検出距離の信頼性が保証されるようにしたものである。
【0015】
【実施例】
以下、図を参照して本発明の実施例を説明する。図1は本発明による距離検出方法の実施に適するハードウエアの構成例をイメージセンサ手段の視界とともに示すブロック回路図,および映像データから視野部分を抽出する要領をレンズやイメージセンサとともに示す模式図、図2は本発明方法で用いる視野設定手段と距離検出手段の動作例を示す流れ図、図3は本発明方法により計算した相関値を例示する分布特性図である。なお、図示の実施例ではすべて自動車の衝突防止のために対象までの距離が検出されるものとする。
【0016】
図1(a)の上部は対象1を含む全体的な視界の例を示し、これには道路RD上を走行中の自動車である検出対象1とそれと重なって見える先行自動車1aのほかに道路RDの両側に存在する樹木TRや建物BD等が含まれている。その下側に示された1対のレンズ11と12は図4と同様に基線長bである光軸間距離をもち、図の全体視界の映像をその焦点距離fの個所に配置された1対のイメージセンサ手段20の上にそれぞれ結像する。各イメージセンサ手段20内に実際には複数個のイメージセンサを組み込んでおいてそれらを切り換え使用するのが通例であるが、図には互いに対応する各1個のイメージセンサ21と22だけが示されており、この1対のイメージセンサ21と22が全体視界の中でもつ視界がVで示されている。対象1はレンズ11と12から距離dだけ離れた位置にあるが、常にそれらの正面にあるとは限らず一般にはそれから角度θだけ傾いた斜め方向に存在する。
【0017】
各イメージセンサ手段20は例えばCCDのイメージセンサ21や22を作り込んだ1チップの集積回路装置であって、その中に組み込んだ増幅器23によりイメージセンサ21や22内の各光センサにより光強度を検出したアナログな信号を増幅し,AD変換器24により例えば8ビットのディジタルな光強度データに順次変換した上で,メモリ25内に一連の光強度データからなる映像データとして一時記憶しておいて必要に応じ随時出力できるようになっている。
【0018】
本発明方法の実施に当たってはこの1対のイメージセンサ手段20にその下側に示す小形のプロセッサ60を組み合わせて、上述の映像データID1とID2を図示のようにその中にまず読み取るのがよい。本発明の前述の第1の方法で用いる視野設定手段30や第2の方法で用いる視野設定手段40もこのプロセッサ60内にソフトウエアの形で装荷するのが便利である。距離検出手段50は高速動作が必要なのでプロセッサ60とは別の専用の集積回路装置とする場合もあるが、この実施例ではプロセッサ60にソフトウエアとして装荷されるものとする。
【0019】
視野設定手段30と40の動作の概要を図1(b)を参照して説明する。図の上部にレンズ11と12によりイメージセンサ21と22上に結像される対象1の映像l1とl2を台形で示し、それに接して先行自動車1aの映像を簡略に示す。その下側に便宜上同じ長さで示す映像データID1とID2は各M個の光強度データを含み、その内の対象1がある角度θの方向に対応する検出上の基準位置のデータ番号をirとjrで示す。視野設定手段30と40は映像データID1とID2から下側に示すm個の光強度データを含む視野部分D1とD2をそれぞれ抽出して対象1を捉える視野を設定するもので、図にはこの設定視野を視野角φ1とφ2で示す。視野部分D1とD2は同じデータ数とするが視野角φ1とφ2は場合により若干異なってくる。
【0020】
距離検出手段50はかかる視野部分D1とD2内の対象1の映像l1やl2を含む部分の両者間の相対的なずれを前に図4で説明したような要領で距離指標σとして検出するものである。ただし、本発明では視野部分D1とD2を図4の映像データID1とID2のかわりに用い、それらから部分群d1とd2を位置を交互にずらせながらそれぞれ抽出して組み合わせCkを順次作り、そのつどに両部分群d1とd2間の相関値を計算して行って相関値が最高の相関を示した組み合わせ番号koから距離指標σを前述のように例えばσ=koとして求めることでよい。
【0021】
さらに、本発明ではこの距離指標σの信頼度を判定するためにこの最高相関を示した組み合わせ番号koに対応する部分群d1とd2間の相関値を距離検出手段50に発生させてそれが所期のレベルより高い相関を示すか否かをチェックする。その結果が然りであれば距離指標σをそのまま採用してよいが、否の場合はその値が誤差を含むおそれがあるので第1の方法では映像データID1とID2から抽出する視野部分D1とD2の大きさを視野設定手段30によって縮小し、第2の方法では視野部分D1とD2を抽出する位置を視野設定手段40によってずらせる。相関値が所定のレベルより高相関を示すようにするには、もちろん第1と第2の方法のいずれを用いてもよいが、必要に応じて両方法を併用するのが望ましい。
【0022】
次に、このような視野設定手段30と40のより具体的な動作例を図2の流れ図を参照して距離検出手段50と関連させて説明する。図2ではこれら手段はそれぞれ一点鎖線で囲んで示されている。図示の実施例では第1と第2の方法を併用して第1の方法により視野部分D1とD2の大きさを縮小して見てもなお相関値が所定のレベルより低い相関を示すときに第2の方法により視野部分D1とD2の抽出位置をずらせるものとする。
【0023】
なお、以下の説明の都合上図1(b)のように映像データID1と視野部分D1内のデータ番号を示す変数をiとし,映像データID2と視野部分D2内のデータ番号の変数をjとする。また、視野部分D1とD2の先頭データ番号をisとjs,末尾データ番号をieとjeとし、それらの映像データID1とID2内の前述の基準位置のデータ番号irとjrより先頭側にあるデータの個数をそれぞれm1とm2とする。
【0024】
図2の左側の列の流れは準備ステップであって、最初のステップS1では上述の基準データ番号ir,jrに対し初期値iro,jroを設定しかつそれらに初期化する。これは図1(a)の角度θの設定に当たるが、対象1の方向が予測できないときは基準位置をθ=0のレンズ11と12の光軸位置に初期化する。次のステップS2では相関値の許容レベルLを所定値に設定する。視野設定手段30用のステップS3では視野部分D1とD2のデータ数mに対する初期値moを設定してそれに初期化し、かつその調整分dmと調整限界mmを設定する。視野設定手段40用のステップS4では視野部分D1とD2をずらせる回数rの上限rmを設定する。ステップS5では動作モードの指定フラグMFに視野設定手段30の動作を指定する0を入れる。
【0025】
次の動作は視野設定手段30としての動作に入り、その最初のステップS31では視野部分D1とD2の前述の先頭側データ数m1とm2をまず設定し、それに応じて先頭データ番号is,jsと末尾データ番号ie,jeとを設定する。容易にわかるように、is=ir-m1,js=jr-m2とし、ie=is+m-1,je=js+m-1とすればよい。なお、図1(b)の視野部分D1とD2内の基準データ番号ir,jrより内側のデータの個数の和であるm-m1+m2が図4の部分群d1やd2のデータ数nと等しくなるよう先頭側データ数m1とm2をこのステップS31で設定しておけば、距離検出手段50により部分群d1やd2間の相関値が最高相関を示した前述の組み合わせ番号koが検出されたときその値をそのまま距離指標σとすることができる。
【0026】
ついで動作は距離検出手段50としてのステップS51に一旦移り、前に説明したような要領で距離指標σを検出し、さらにその信頼性を示す指標としてこの距離指標σに対応する図4の部分群d1やd2間の相関値Vmを出力する。この実施例では相関値Vmは部分群d1やd2間の対応するデータの差の絶対値の和として計算され、従ってその値が小さいほど高い相関を示すものとする。次の動作は再び視野設定手段30に入ってそのステップS32で相関値Vmが許容レベルLより小さいか否かを判定する。然りの場合は距離指標σの値が信頼できるからステップS33でそれを出力しかつ流れの制御上の都合からモード指定フラグMFに0を入れた上で動作を最初のステップS31に戻して同じ動作を継続する。
【0027】
しかし、ステップS32の判定結果が否と出て距離指標σが信頼できない場合は動作をステップS34に移す。ここではモード指定フラグMFが0か否かを調べるがいまは0であるから動作はステップS35に入り、視野部分D1とD2のデータ数mを調整分dmだけ変化,この実施例では減少させることにより視野の広さを調整し、次のステップS36でデータ数mが調整限界mmより大なことを確かめた上で流れをステップS31に戻して調整後の広さの視野で距離を検出する。
【0028】
このように、対象1を捉える視野の広さを視野設定手段30により縮小しながら距離検出手段50に相関値Vmが許容レベルLを下回る高相関を示すようになるまで距離指標σを計算させて行き、成功の場合は視野部分D1とD2のデータ数mをそのときの値にもちろん固定するが、失敗してデータ数mが限界mmを下回ると流れはステップS36から第2の方法としての視野指定手段40の動作に移る。
【0029】
この図2の実施例の視野設定手段40では相関値Vmが増減する傾向から視野部分D1とD2の抽出位置をずらせるべき方向を決定する。また、その動作の一部に視野設定手段30内の動作ステップが利用される。最初のステップS41ではまずモード指定フラグMFに第2の方法の動作に入ったことを示す1を立て、それまでに計算されている相関値Vmを前回の相関値Voとして記憶し、抽出位置をずらせる方向の指定フラグDFとずらせるべき正しい方向が見付かった旨を示すフラグFとに0を入れ、かつずらせた回数を示す変数rの値を0に初期化する。
【0030】
ついで動作はステップS42に入ってずらせ回数rに1を加え、ステップS43でその値が上限rm以下であることを確かめた上で動作をステップS44に移す。このステップでは方向指定フラグDFが0か否かを判定するが、いまは然りであるから動作はステップS45に入って基準データ番号ir,jrを所定数だけ歩進させて視野部分D1とD2をまず図1(b)の右の方にずらせて見ることを指定する。これにより対象1を捉える視野の方向の角度θが調整されることになる。
【0031】
ステップS45の後に動作は視野設定手段30の先頭ステップS31に入り、ついでステップS51で距離検出手段50により距離指標σと相関値Vmが計算される。この相関値Vmが許容レベルLより小であれば距離指標σを採用してよいから、動作をステップS32からステップS33に入れてこの距離指標σを出力しかつモード指定フラグMFを0に戻す。しかし、相関値Vmがまだ許容レベルLを下回らない場合は動作をステップS34を経由して視野設定手段40のステップS46に移し、今回計算された相関値Vmが前回の相関値Voより小か否かを判定する。
【0032】
ステップS46の判定結果が然りであれば視野部分D1とD2をずらせて見た方向が正しかったのであるから、ステップS47でフラグFに1を立ててずらせる方向が見付かった旨を登録し、さらに前回の相関値Voを相関値Vmに更新した上で動作をステップS42に入れてそれ以降は同じ動作を繰り返す。しかし、ステップS46の判定結果が否の場合はずらせて見た方向が正しくなかったのであるから、動作をそれからステップS48とステップS49を経由してステップS50に移し、方向指定フラグDFに1を立てて逆方向にずらせるべきことを指定し、基準データ番号ir,jrを歩退させて当初の値に一旦戻し、さらにずらせ回数rを0に初期化した上で前述のステップS42に動作を移す。
【0033】
ステップS42以降の動作は前述と同様であるが、こんどは方向指定フラグDFに1が立っているからステップS44の判定が否と出て動作はステップS51に移る。このステップ51では基準データ番号ir,jrを所定数ずつ歩退させてこんどは視野部分D1とD2を図1(b)の左側に向けてずらせた状態で前と同様に流れを視野指定手段30のステップS31に入れる。この逆方向にずらせた状態で距離検出手段50のステップS51で計算された相関値Vmが許容レベルLより小であれば対応する距離指標σを採用してステップS33で出力させ、そうでない場合にはステップS46で今回の相関値Vmを前回の相関値Voと比較するのは前と同じである。また、前者が後者より小さい場合はステップS47でフラグFに1を立てかつ前回の相関値Voを更新して上で動作をステップS42に入れるのも同じである。
【0034】
このように視野部分D1とD2をずらせるべき方向は見付かったが相関値Vmが許容レベルLを下回らない場合は、相関値Vmの減少傾向が続いている限り相関値Vmが許容レベルLを下回って距離指標σが信頼できるようになるまでステップS45やステップS51により視野部分D1とD2を所定の方向に順次ずらせて行く。しかし、その途中で相関値Vmが減少しなくなると動作はステップS46からステップS48に入り、フラグFに1が立っているからさらにステップS52に動作が移る。また、相関値Vmの減少傾向は続いているがずらせ回数rがその上限rmに達してしまった場合にもステップS43から動作をステップS52に移す。
【0035】
ステップS52では、それまでに視野部分D1とD2が当初の位置からかなりずれている可能性があるので、データ数mに初期値moを入れた上で流れをステップS5に戻す。これにより、視野部分D1とD2の位置は当初からずれているがその大きさを当初に戻した状態で以上に説明した動作が再開される。なお、視野設定手段40により視野部分D1とD2を最初の方向およびその逆方向のいずれにずらせて見ても、相関値Vmが許容レベルLおよび前回の相関値Voのいずれをも下回らない場合は、フラグFが0のままであるから動作はステップS46からステップS48を経由してステップS49に入り、そのときには方向指定フラグDFにもちろん1が立っているからさらにステップS6に移り、距離検出が不能になった旨を報知した上で動作を中止させる。本発明方法では対象1の距離や方向が変化しやすいのでかかる検出不能の場合を除いて図2の動作を絶えず継続させる。
【0036】
図3に以上説明した本発明方法において距離検出手段50に計算させた相関値の例を示す。図の横軸は図4の部分群d1とd2の組み合わせCkの組み合わせ番号kであり、縦軸はこの各番号kに対応する相関値Vkである。特性Aは当初に距離検出手段50により計算された相関値Vkの分布で、特性Bは視野設定手段30と40および距離検出手段50を動作させた結果の相関値Vkの分布であり、これら特性AとBの相関値Vkがそれぞれ最小をとる前述の組み合わせ番号koが距離指標σaとσbの検出値とされる。ただし、両特性AとBについて組み合わせ番号kの変化範囲が同じになるよう、かつ距離指標σがσ=koとなるよう部分群d1とd2の大きさ等が設定されているものとする。
【0037】
図示のように、本発明方法の実施前である特性Aでは最高相関に対応する最小相関値Vmaがその許容レベルLを越えており、距離指標σaの付近の相関値Vkの変化が緩やかである。これに対して、本発明方法の実施後である特性Bでは最小相関値Vmbが許容レベルLを下回っており、かつ距離指標σb付近の相関値Vkの変化が非常に急峻である。これから見て、相関値Vmaに対応する距離指標σaは若干の検出誤差を含んでおり、相関値Vmbに対応する距離指標σbの方を正しい検出結果として採用すべきものと判断される。
【0038】
このように特性AとBの相関値VmaとVmbが大きく異なる理由は次のとおりと考えられる。特性Aの場合は図1(b)の視野角φ1やφ2や視野の方向θがまだ不適正で視野内に対象1以外にそれと距離,従って視差が異なる先行自動車1aや背景の映像がかなり含まれており、この視差が異なる余分な映像を表すデータが混入するため相関値Vmaが低相関を示すが、特性Bの場合は視野角と視野方向が適正化されて余分な映像データの混入がほぼなくなるので相関値Vmbが高相関を示すようになり、それに応じて距離指標σbの精度も向上する。
【0039】
以上説明した実施例に限らず本発明は種々な態様で実施をすることができる。例えば、視野設定手段30を用いる図2の流れによる第1の方法では、相関値Vmが許容レベルLより小か否かだけに応じて視野部分D1とD2のデータ数mを縮小するようにしたが、視野設定手段40を用いる第2の方法と同様に相関値Vmが増減する傾向に応じてそのデータ数mを減少させる動作を停止させ,あるいは逆にそれを増加させるようにすることもできる。
【0040】
また、第2の方法では、図2に示した視野設定手段40の動作のかわりに、視野部分D1とD2内の相関値Vmに対応する部分群d1とd2間の相対的なずれとしての距離指標σを一定に保持した条件で映像データID1とID2から視野部分D1とD2を抽出する位置をずらせながら相関値Vmを計算して行ってその分布状態を調べるようにすれば、この分布中の相関値Vmが許容レベルLよりも高き相関を示した範囲から視野部分D1とD2の抽出位置をずらせるべき方向と程度を図示の実施例より正確に決定することができる。
【0041】
さらに、図2の実施例では本発明の第1の方法と第2の方法を併用するようにしたが、場合によってないしは必要に応じてその一方だけを用いるようにしても本発明方法を実施できることはもちろんである。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように本発明による距離検出方法では、検出対象の映像を互いに異なる光路を介して受けそのパターンを表す映像データをそれぞれ発する1対のイメージセンサ手段と,各映像データから視野部分を抽出して各イメージセンサ手段により検出対象を捉えるべき視野を設定する視野設定手段と,視野部分内の対象の映像を含む部分の両視野部分間の相対的なずれから対象の距離を検出し,かつこの映像部分の両視野部分間の相関を表す相関値を発する距離検出手段とを用い、距離検出手段による相関値が許容レベルより低相関を示したときに第1の方法では視野設定手段に映像データから抽出させる視野部分の大きさを縮小し、第2の方法では視野設定手段によって映像データから視野部分を抽出する位置をずらせることにより、次の効果を挙げることができる。
【0043】
(a)従来は対象をイメージセンサの視界内で捉えていたのに対し、本発明では視野設定手段により各イメージセンサの視界から抽出した一部を視野として検出対象をシャープに捉え、かつ距離検出手段による相関値に応じて視野の大きさを縮小し、あるいは視野の方向をずらることにより検出対象と視差が異なる余分な映像の混入を極力排除するようにしたので、検出対象以外の物体,とくにそれと遠近が混在する紛らわしい物体に惑わされることなく距離を常に正確に検出することができ、さらには検出対象の方向が絶えず変化する場合にも変化に対処して対象を確実に捉えて距離を検出することができる。
【0044】
(b)距離の検出と同時にその確実性を正確に評価するために対応する相関値を必ず計算し、それが許容レベルより低相関を示す場合は高相関を示すようになるまで視野の大きさを縮小し,あるいはその抽出位置をずらせるようにしたので、本発明により検出された距離の信頼性を保証することができる。
(c)検出対象を捉えるために従来のようにイメージセンサによる映像データを全部用いるかわりにその一部を抽出した視野部分を用いるので、相関値の計算と距離の検出に用いるデータベースが従来よりもずっと少なくなって、距離検出に要する時間を従来の数分の1に短縮することができる。
【0045】
かかる特長を備える本発明方法は自動車の衝突防止のための距離検出にとくに適し、距離の検出精度と検出速度の格段の向上,検出上の妨害要素の混入排除,対象の状態変化に対する適応性等の諸点で従来からの技術的難点を解決してその実用化に貢献し得るものである。
なお、本発明の第1の方法において相関値が許容レベルより低い相関を示したときに映像データから抽出すべき視野部分の大きさを縮小して行く実施態様は、対象を狭い視野内にシャープに捉えて距離検出の精度を向上できる効果がある。また、第2の方法において相関値が低い相関を示したとき視野部分の抽出位置をまず任意の方向にずらせる試行を行ない,そのときに相関値が増減する傾向から視野部分の抽出位置をずらせる方向を決める実施態様は第2の方法の動作時間を短縮できる点で有利であり、検出距離に対応する視野部分内の対象の映像を含む部分の視野部分対間の相対的なずれを一定に保った条件で視野部分の抽出位置を順次ずらせながらそのつど距離検出手段に相関値を計算させ,その際の相関値の変化傾向から視野部分の抽出位置をずらせる方向と程度を決定する実施態様は、計算に若干の時間を要するが第2の方法の動作を確実にする効果を有する。
【0046】
本発明の第1と第2の方法を組み合わせて相関値が許容レベルより低い相関を示すとき視野部分を映像データから抽出する大きさを縮小しかつ位置もずらせる実施態様は、対象を最適な視野で捉えて検出精度を高め得る効果があり、第1の方法により視野部分の大きさをまず縮小して見た上で相関値がまだ低相関を示すときに限り第2の方法により視野部分の抽出位置をずらせる実施態様は、むだな動作を省いて最適視野を短時間内に設定できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の距離検出方法の実施に適するハードウエアの構成例と映像データから視野部分を抽出する要領例を示し、同図(a)はハードウエアの構成例をイメージセンサ手段の視界とともに示すブロック回路図,同図(b)は映像データから視野部分を抽出する要領例をレンズやイメージセンサとともに示す模式図である。
【図2】
本発明の第1の方法と第2の方法で用いる視野設定手段および距離検出手段の動作例を示す流れ図である。
【図3】
本発明方法により計算した相関値を例示するその分布特性図である。
【図4】
従来方法におけるイメージセンサとそれによる映像データ,および距離検出に際して相関値を計算するため映像データから部分群を抽出する要領を検出対象の映像を結像させるレンズとともに示す模式図である。
【符号の説明】
1 検出対象としての自動車
1a 検出対象に近接する先行自動車
11,12 イメージセンサに検出対象の映像を結像するレンズ
20 1対のイメージセンサ手段
21,22 イメージセンサ
30 第1の方法で用いる視野設定手段
40 第2の方法で用いる視野設定手段
50 距離検出手段
60 プロセッサ
b 距離検出上の基線長
d 検出対象の距離
D1,D2 視野部分
f レンズの焦点距離
i 映像データID1と視野部分D1内のデータ番号変数
l1,l2 検出対象の映像
ID1,ID2 1対の映像データ
ie 視野部分D1内の末尾データ番号
ir 映像データID1内の基準位置のデータ番号
is 視野部分D1内の先頭データ番号
j 映像データID2と視野部分D2内のデータ番号変数
je 視野部分D2内の末尾データ番号
jr 映像データーID2内の基準位置のデータ番号
js 視野部分D2内の先頭データ番号
M 映像データ内のデータ数
m 視野部分内のデータ数
V イメージセンサの視界
σ 検出対象の距離の指標
σ1,σ2 距離指標σの一部
θ 視野の方向の正面からの傾き角度
φ1,φ2 検出対象を捉える視野角
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-04 
出願番号 特願平7-190022
審決分類 P 1 652・ 121- YA (G01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 西川 一
特許庁審判官 中塚 直樹
三輪 学
登録日 2002-03-22 
登録番号 特許第3289554号(P3289554)
権利者 富士電機ホールディングス株式会社
発明の名称 イメージセンサによる距離検出方法  
代理人 篠部 正治  
代理人 篠部 正治  

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