• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 一部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1097998
異議申立番号 異議2002-72350  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-01-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-26 
確定日 2004-03-22 
分離された異議申立 有 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3270022号「光学ガラスおよび光学製品」の請求項1〜3、及び10〜13に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3270022号の請求項7〜12に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3270022号の出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴い平成11年4月26日(優先日:平成10年4月30日)に出願されたものであって、平成14年1月18日にその特許の設定登録がなされ、これに対して、平成14年9月26日付け及び平成14年10月1日付けで株式会社オハラより、その特許の一部につき、特許異議の申立がなされ、その後、以下の手続を経ている。
取消理由通知書 平成15年 3月25日
特許異議意見書 平成15年 6月 2日
訂正請求書 平成15年 6月 2日
審尋(特許異議申立人) 平成15年 6月 5日
上申書(権利者) 平成15年 6月16日
審尋回答書(特許異議申立人) 平成16年 8月 1日
なお、平成14年9月26日付けの特許異議の申立は、平成14年10月4日付け特許異議申立取下書により取下げられている。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
本件明細書につき、平成15年6月2日付け訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりの、次の(イ)〜(ヲ)の訂正を求めるものである(以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された明細書を「訂正明細書」という)。
(イ)特許明細書の特許請求の範囲第1〜3項の記載を削除する。
(ロ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項4における、
「【請求項4】酸化ランタンを2.5〜16wt%未満含有している、請求項3に記載の光学ガラス。」を、
「【請求項1】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、
酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下であり、
酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量が63wt%以上であり、酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素を1〜25wt%、酸化リチウムを5〜11wt%、酸化カルシウムを5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタンを1〜20wt%、酸化ジルコニウムを0〜10wt%それそれ含有し、酸化ランタンを2.5〜16wt%未満含有していることを特徴とする光学ガラス。」に訂正する。
(ハ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項5における、請求項番号「5」を、「2」に訂正し、併せて、請求項を引用する箇所の「請求項1〜請求項4のいずれか」を「請求項1」に訂正する。
(ニ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項6における、請求項番号「6」を、「3」に訂正し、併せて、請求項を引用する箇所の「請求項1〜請求項5」を「請求項1または請求項2」に訂正する。
(ホ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項7及び8における、請求項番号「7」及び「8」を、それぞれ、「4」及び「5」に訂正する。
(ヘ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項9における、請求項番号「9」を、「6」に訂正し、併せて、請求項を引用する箇所の「請求項7に記載の」を「請求項4に記載の」に訂正する。
(ト)特許明細書の特許請求の範囲の請求項10における、
「【請求項10】請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする精密プレス成形用素材。」を、
「【請求項7】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、
酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下である光学ガラスから得られたガラス成形予備体からなることを特徴とする精密プレス成形用素材。
【請求項8】酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量が63wt%以上であり、酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素を1〜25wt%、酸化リチウムを5〜11wt%、酸化カルシウムを5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタンを1〜20wt%、酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化ジルコニウムを0〜10wt%それぞれ含有する光学ガラスからなることを特徴とする請求項7に記載の精密プレス成形用素材。
【請求項9】請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする精密プレス成形用素材。」に訂正する。
(チ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項11における、
「【請求項11】請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラスが得られるガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得ることを特徴とする精密プレス成形用素材の製造方法。」を
「【請求項10】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、
酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下である光学ガラスが得られるガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得ることを特徴とする精密プレス成形用素材の製造方法。」に訂正する。
(リ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項12における、請求項番号「12」を、「11」に訂正し、併せて、請求項を引用する箇所の「請求項1〜6」を「請求項1〜3」に訂正する。
(ヌ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項13における、請求項番号「13」を、「12」に訂正し、併せて、請求項を引用する箇所の「請求項7,8,9および11」を「請求項4,5,6および10」に訂正する。
(ル)特許明細書の段落0065における、
「・・・酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.76wt%・・・」を、
「・・・酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.76・・・」に訂正する。
(ヲ)特許明細書の段落0067における、
「・・・酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.16wt%・・・」を、
「・・・酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.16・・・」に訂正する。

II-2.訂正の適否の判断
II-2-1.訂正の目的
〈上記(イ)の訂正〉
当該(イ)の訂正は、特許明細書の請求項1〜3の記載を削除するだけのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
〈上記(ロ)の訂正〉
当該(ロ)の訂正では、「酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、・・・、酸化ジルコニウムを0〜10wt%それそれ含有し」との事項を付加するものであるが、該訂正は、特許明細書の請求項4における発明が請求項3を引用して記載されていたところ、上記(イ)の訂正で特許明細書の請求項3の記載が削除されたことから同請求項3を引用して記載することができなくなったため、その表現方法を改めて、同請求項4を独立形式で記載するものであり、したがって、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、当該(ロ)の訂正では、請求項番号を4から1に訂正するものであるが、これは、上記(イ)の訂正に伴い請求項番号を揃えるだけのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
〈上記(ハ)〜(ヘ)の訂正〉
当該(ハ)〜(ヘ)の訂正は、上記(イ)の訂正に伴い、請求項番号を揃え、ないしは、引用する請求項の記載をそれに整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
〈上記(ト)の訂正〉
当該(ト)の訂正は、まず、特許明細書の請求項10における発明は、請求項1〜6を引用して記載していたところ、特許明細書の請求項1〜6の記載が訂正された(当該請求項1〜3の削除を含む)結果、当該請求項1〜6を引用して表現することができなくなったため、その表現方法を改め、訂正後の請求項7、8及び9の三つに分割して記載するものである。
具体的には、特許明細書の請求項1〜6を引用する請求項10における発明のうち、当該請求項1を引用する態様の発明を廃止したうえで、当該請求項2を引用する(当該請求項2は更に当該請求項1を引用する)態様の発明を訂正後の請求項7に、当該請求項3を引用する(当該請求項3は更に当該請求項2を引用し、当該請求項2は更に当該請求項1を引用する)態様の発明を訂正後の請求項8の発明に、当該請求項4〜6を引用する態様の発明を訂正後の請求項9に、それぞれ、記載することとしたものであり、まずこれらの訂正は、その発明の態様を限定し且つ特許請求の範囲の記載の明瞭化を意図するものであるということができるものであり、次に、
(1)訂正後の請求項7においては、請求項を引用する記載を全て独立形式で記載するものであるが、この訂正はその記載の明瞭化を意図するものであり、また、その光学ガラスにつき、「酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有する」ことを付加し、精密プレス成形用素材につき、「成形予備体」であることを付加するものであるが、これらの訂正は、それぞれ、光学ガラスの組成を限定し、精密プレス成形用素材の形態を限定することを意図するということができるものであり、
(2)訂正後の請求項8においては、「酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量が63wt%以上であり、・・・、酸化ジルコニウムを0〜10wt%それぞれ含有する」と付加するものであるが、これは当該請求項3に記載される事項を具体的に記載して、その明瞭化を意図するものであり、また、訂正後の請求項7を引用することを付加するものであるが、これは、訂正後の請求項7と同様に、光学ガラスの組成及び精密プレス成形用素材の形態を限定することを意図するということができるものであり、
(3)訂正後の請求項9においては、当該請求項4〜6を引用する記載を、これに対応する訂正後の請求項1〜3を引用する記載に、訂正するものであり、当該訂正はその記載の明瞭化を意図するものであるということができるものであり、
したがって、上記訂正(ト)の以上の訂正は、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
〈上記(チ)の訂正〉
当該(チ)の訂正では、「酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、・・・、屈伏点Tsが580℃以下である」との事項を付加するものであるが、当該訂正は、特許明細書の請求項11における発明が請求項1〜6を引用して記載されていたところ、特許明細書の請求項1〜6の記載が訂正されたことから同請求項を引用して記載することができなくなったため、その表現方法を改め、これを独立形式で記載すると共に、特許明細書の請求項1のみをを引用する態様の発明を廃止するのであって、この訂正は明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、当該(チ)の訂正における、請求項番号を11から10に替えることは、上記(イ)及び(ト)の訂正に伴い、請求項番号を揃えるだけのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
〈上記(リ)及び(ヌ)の訂正〉
当該(リ)及び(ヌ)の訂正は、上記(イ)〜(チ)の訂正に伴い、請求項番号を揃え、また、引用する請求項の記載をそれに整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
〈上記(ル)及び(ヲ)の訂正〉
当該(ル)及び(ヲ)の訂正は、「酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合」につき、その単位の明らかな誤りを正すものであって、誤記の訂正を目的とするものに該当する。

II-2-2.新規事項の有無
上記(ト)及び(チ)の訂正における、光学ガラスを、「酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有する」と規定し、また、上記(ト)の訂正における、精密プレス成形用素材を、「成形予備体」と規定することは、それぞれ、特許明細書の段落0032及び0022の記載に基づくものである。
この他、上記(イ)〜(へ)の訂正、上記(ト)のその他の訂正、上記(チ)のその他の訂正、及び、上記(リ)〜(ヲ)の訂正は、請求項を単に削除し、請求項を引用する態様の発明を単に廃止し、明細書の記載を明確化し、又は、誤記を正すだけのものであって、それぞれ、特許明細書の記載の範囲でなされたものであることは明らかである。
そうすると、上記(イ)〜(ヲ)の訂正は、いずれも、新規事項の追加には該当せず、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされるものである。

II-2-3.拡張・変更の存否
上記(イ)〜(ヲ)の訂正は、III-2-1.で説示したとおり、特許請求の範囲を減縮し、明細書の記載を明瞭化し、又は、誤記を訂正するだけのものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しないことは明らかである。

II-3.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、及び、同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
本件明細書は、前記のとおり、平成15年6月2日付けで訂正請求がなされ、その請求どおり訂正されたものであって、訂正後の本件特許第3270022号の請求項1〜12に係る発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲に記載されるとおりのものである。そして、その請求項7〜12には、以下のことが記載されている。
(以下、訂正後の請求項7〜12に係る発明を、必要に応じて、それぞれ、「本件発明7」〜「本件発明12」という)
【請求項7】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、
酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下である光学ガラスから得られたガラス成形予備体からなることを特徴とする精密プレス成形用素材。
【請求項8】酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量が63wt%以上であり、酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素を1〜25wt%、酸化リチウムを5〜11wt%、酸化カルシウムを5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタンを1〜20wt%、酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化ジルコニウムを0〜10wt%それぞれ含有する光学ガラスからなることを特徴とする請求項7に記載の精密プレス成形用素材。
【請求項9】請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする精密プレス成形用素材。
【請求項10】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、
酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下である光学ガラスが得られるガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得ることを特徴とする精密プレス成形用素材の製造方法。
【請求項11】請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学製品。
【請求項12】所定形状のキャビティを形成するための型要素として少なくとも上型と下型とを備えている成形型内に請求項4,5,6および10のいずれかに記載の方法によって製造された精密プレス成形用素材を配置し、この精密プレス成形用素材が加熱によって軟化した状態下で当該精密プレス成形用素材を前記の成形型を用いて所定形状に精密プレス成形する工程を含んでいることを特徴とする光学製品の製造方法。

IV.特許異議申立の概要
特許異議申立人は、平成14年10月1日付け特許異議申立において、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
(1)特許明細書の請求項1及び2(訂正により削除)に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証の記載を参照すれば、甲第3又は4号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する(理由-1)、
(2)特許明細書の請求項3(訂正により削除)に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証の記載を参照すれば、甲第4号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する(理由-2)
(3)特許明細書の請求項1(訂正により削除)に係る発明は、甲第1号証及び甲第5号証の記載を参照すれば、甲第6号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない(理由-3)
(4)特許明細書の請求項10〜13(訂正後の請求項7〜12)に係る発明は、甲第1及び2号証の記載を参照すれば、甲第3、4、12及び13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由-4)、
(5)甲第7〜11号証の記載をみれば、特許明細書の記載に不備があり、特許明細書の請求項1、2及び10〜13(訂正後の請求項7〜12)に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである(理由-5)、
したがって、特許明細書の請求項1〜3及び10〜13(訂正後の請求項7〜12)の特許は取り消されるべきものである旨主張する。
甲第1号証:平成14年9月17日、株式会社オハラ 商品開発部材料開
発一課上原進による「実験成績証明書1」
甲第2号証:平成14年9月17日、株式会社オハラ 商品開発部材料開
発一課上原進による「実験成績証明書2」
甲第3号証:特開昭54-161620号公報
甲第4号証:特開昭57-51149号公報
甲第5号証:平成14年9月17日、株式会社オハラ 商品開発部材料開
発一課上原進による「実験成績証明書3」
甲第6号証:特願平9-90157号の願書に最初に添付した明細書又は
図面に替える特開平10-265238号公報
甲第7号証:平成14年9月17日、株式会社オハラ 商品開発部材料開
発一課上原進による「実験成績証明書4」
甲第8号証:特開昭61-232243号公報
甲第9号証:特開昭61-146730号公報
甲第10号証:特開昭60-221338号公報
甲第11号証:特公昭45-2311号公報
甲第12号証:特公平7-51446号公報
甲第13号証:特開昭61-146721号公報

V.証拠の記載内容
甲第1号証(実験成績証明書1)では、以下のことが報告されている。
(A-1)「本件特許第3270022号公報に記載される実施例1、2、7及び9につき、追試試験を実施した結果を下記表2に示す。
表2
測定項目 実施例1 実施例2 実施例7 実施例9
nd 1.7295 1.7891 1.8125 1.7349
νd 40.4 31.2 29.9 40.2
Tg(℃) 534 527 521 525
Ts(℃)
昇温速度8℃/min 583 585 575 577
昇温速度4℃/min 576 574 569 566
液相温度LT 977 1011 1048 973
接触角
95Pt5Auプレート 67.2° 59.6° 51.0° 56.3°
Ptプレート ※1 ※1 - -
※1:軟化したガラスがPtプレートの上面全体に広がった状態となった。」旨(第2頁目の表2)
(A-2)「上記表2に見られる通り、各物性値はほぼ同一の値が得られている。しかしながら、接触角測定においてPtプレートを使用するとPtプレート上面全体に軟化したガラスが広がってしまい、特許第3270022号公報に記載の図2(b)のような形状にはなっていない。正確な接触角は測定できないが、参考までに測定したところ、実施例1では12.5°という値になり、特許第3270022号公報の請求項1に記載される接触角40°以上を満たしていない。
また、屈伏点Ts(℃)は、特許第3270022号公報の記載では、昇温速度8℃/minの条件で測定しているが、本実験で得られた測定結果では、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-1975「光学硝子の熱膨張の測定方法」の規定に基づき昇温温度4℃/minで測定した方が、昇温速度8℃/minの条件で測定した値よりも、特許第3270022号公報の表1および2に記載されている値により近い値となっており、かつ、特許第3270022号公報の表1および2に記載されている値とほぼ同等または高めの値となっている。」(第2頁目の末行〜第3頁目の末行)

甲第2号証(実験成績証明書2)では、以下のことが報告されている。
(B-1)特開昭57-51149号公報(甲第4号証)の実施例5および特開昭54-161620号公報(甲第3号証)の実施例2の再現実験で得られた光学ガラスの諸物性を表2に示す。
実験成績証明書1の実験結果から、昇温速度を4℃/minとしたときの屈伏点(Ts)を測定し、95Pt-5Au製プレートにより接触角を測定した。
表2
測定項目 特開昭57-51149 特開昭54-161620
実施例5 実施例2
nd 1.7013 1.8010
νd 40.5 30.6
Tg(℃) 490 530
Ts(℃) 535 580
SiO2/B2O3 1.97 4.48
液相温度LT(℃) 1033 1034
接触角(℃) 58.5 55.3

甲第3号証(特開昭54-161620号公報)には、以下のことが記載されている。
(C-1)「本発明は1.79〜1.81の屈折率nd、31〜29の分散νdおよび3.4〜3.7の比重sを有する遠視および近視用眼鏡レンズ(・・・)用の限られた比重の高屈折光学ガラスに関するものである。」(第2頁左上欄第11〜15行)
(C-2)「実施例2
〔ガラスの酸化物組成(重量%)〕
SiO2(25.8)、B2O3(5.76)、Li2O(6.57)、Na2O(1.43)、MgO(0.65)、CaO(1.63)、SrO(5.81)、BaO(9.71)、La2O3(3.83)、ZrO2(4.54)、TiO2(11.94)、Nb2O5(20.93)、Gd2O3(1.20)、As2O3(0.20)
〔ガラスの物性〕
nd(1.80008)、νd(30.5)」旨(第4頁下段第1a表、第5頁上段第1b表)
(C-3)「供給物は注意しながら1260℃の白金るつぼまたはセラミツクス浴に混合して供給した。清澄化は約1300〜1320℃で起つた。約970℃(≧500ポイズ)で供給物を抜出し、ついで自動的手段で直ちに眼鏡レンズの素材にプレスした。」(第6頁右上欄第6〜10行)

甲第4号証(特開昭57-51149号公報)には、以下のことが記載されている。
(D-1)「本発明は、屈折率nd≧1.69、アツベ数νd≧37および密度s≦3.30g/cm3を有する計量で耐酸性であり、かつ加水分解抵抗性の光学および眼科ガラスに関するものである。」(第2頁右上欄第19行〜左下欄第2行)
(D-2)「その後、バッチは充分に混合され、Ptるつぼあるいはセラミツク槽中で約8時間の範囲内でおよそ1400℃で溶融される。約3時間の清澄時間後、バツチは排出あるいは流し込み温度に達するまで攪拌される。ガラスは通常注型用金型に注入されるかまたはプレス成形される。」(第5頁左下欄第8〜14行)
(D-3)「実施例No5
〔ガラスの組成(重量%)〕
B2O3(12.95)、SiO2(25.55)、P2O5(4.75)、Li2O(9.15)、MgO(5.00)、CaO(14.90)、BaO(2.15)、ZnO(2.25)、TiO2(8.90)、ZrO2(6.90)、Nb2O5(7.50)
〔ガラスの物性〕
nd(1.7026)、νd(39.9)」旨(第6頁上段第1表-(1))

VI.異議申立に対する当審の判断
異議申立の理由-1〜理由-3については、特許明細書の請求項1〜3が訂正請求により削除された結果、取消の対象となる請求項がもはや存在しないこととなったので、これ以上は審及しない。
また、異議申立の理由-4及び理由-5については、取消を請求する特許明細書の請求項1、2及び10〜13のうち、特許明細書の請求項1及び2は削除されたものの、特許明細書の請求項10〜13が訂正後の請求項7〜12として残存しているので、当該訂正後の請求項7〜12に限って以下に審理することとする。

VI-1.理由-5(特許法第36条第6項第2号及び第36条第4項に規定する要件について)
ここでの、特許異議申立人の主張を要約すれば、以下の(イ)及び(ロ)のとおりである。
(イ)「酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を0.78より大きくする」との構成による発明の作用効果(屈折率、アッペ数、接触角、及び、屈伏点の数値)は、特許明細書の請求項1、2及び10〜3におけるあらゆる組成のガラスについて普遍的に奏せられるものである。
しかし、実験成績証明書4の表3及び4に示したように、甲第8号証の実施例3、6及び14、甲第9号証の実施例11、甲第10号証の実施例30、並びに、甲第11号証の実施例9においては、発明の構成である「酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を0.78より大きくする」との要件は、発明の構成である屈折率、アッベ数、接触角、及び、屈伏点の数値範囲の要件と関連がないものである。
そして、あらゆるガラス組成につき、「酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を0.78より大きくする」との構成が、接触角及び屈伏点等の請求項の数値範囲を満たすために必要であり、この構成により発明の作用効果を奏することができるものとした特許明細書の請求項1、2及び10〜3は、発明を特定するための事項の内容において技術的な誤りを含むものであり、発明を不明確にし、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものである旨、主張する。
(ロ)上記(イ)で述べたとおり、「酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を0.78より大きくする」との構成は、特許明細書の請求項1、2及び10〜3におけるあらゆる組成のガラスについて発明の作用効果を奏するものでなければならない。
それにもかかわらず、本件明細書には、その実施例以外に、どのような組成のガラス原料を用いてどのような条件で光学ガラスを製造した場合に、「酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を0.78より大きくする」との構成を有し、かつ接触角及び屈伏点等のその他の構成を有するものが得られ、かつ発明の作用効果が得られるかについて何らの記載もなされていない。
したがって、本件明細書の記載は特許法第36条第4項の規定に違反する旨、主張する。
そこで、上記主張(イ)及び(ロ)につき、検討する。
上記(イ)について
上記したことと一部重複するが、特許明細書は前記した訂正請求により、特許明細書の請求項1及び2が削除され、また、特許明細書の請求項10〜13のものは、訂正後の請求項7〜12のものに訂正されたものである。
その結果、訂正後においてもなお残存する訂正後の請求項7〜12は、前記III.等の記載からみて明らかなとおり、その全ての請求項において、光学ガラスが、(a)酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を0.78より大きくする、(b)酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している、及び、(c)酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有する、との特定事項を具備するものとなったものである。
そこで、訂正後の請求項7〜12の上記特定事項(a)〜(c)に関し、特許異議申立人の主張の根拠とする甲第8〜11号証の各実施例の記載をみると、甲第8号証のものは酸化ケイ素の含有量が12.0重量%、16.0重量%、8.0重量%であって上記(c)を充足せず、甲第9号証のものは少なくとも酸化チタンを含有しない点で上記(b)を充足せず、甲第10号証のものは酸化チタン及び酸化ニオブを含有しない点で上記(b)を充足せず、そして、甲第11号証のものは少なくとも酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化チタン及び酸化ニオブを含有しない点で上記(b)を充足しないものであることが解る。
このように、特許異議申立人が実験成績証明書4で示した甲第8〜11号証のものは、訂正後の請求項7〜12の発明の特定事項と直接関連のないものとなっている。そうすると、特許異議申立人が実験成績証明書4で摘示した事実及びそれに基づく主張は、そこで扱われる甲第8〜11号証に記載の技術につきいうことができるとしても、訂正後の請求項7〜12の発明についてまでは直接当てはまるとはいえない。
そのうえ、訂正明細書(特許明細書でも同じ)の比較例4の記載(表6)をみると、「酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を0.78より大きくする」との特定事項を満たした場合であっても、アッベ数を満たすとはいえないものであり、訂正後の発明は、このような比較例4の例を前提になされたものであり、したがって、その特定事項としては、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合だけでなく、その他の屈折率、アッベ数、接触角、及び、屈伏点の数値範囲もその特定事項として含むものである。そうすると、当該酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きいとの特定事項を満たす場合、その他の屈折率、アッベ数、接触角、及び、屈伏点の数値範囲の特定事項を満たすことがない例が存在したとしても、そのガラスは発明の対象外のものとなるだけであって、そのことから、訂正後の請求項の発明が技術的な誤りを含むとはいえないものである。
してみれば、特許異議申立人の上記(イ)に関する主張は、屈折率、アッベ数、接触角、及び、屈伏点の数値を作用効果であるとみなす点で合理的なものであるとはいえず、また、実験成績証明書4で摘示した事実を訂正後の請求項7〜12の発明に当てはめようとする点で無理があるものである。
したがって、訂正後の請求項7〜12に係る発明を特定するための事項の内容において技術的な誤りを含むものであり、発明を不明確にするものであり、その記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものであるとの主張は、採用できない。
上記(ロ)について
上記(イ)で記載したとおり、訂正後の請求項7〜12に係る発明では、当該酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きいとの特定事項を満たす場合、その他の屈折率、アッベ数、接触角、及び、屈伏点の数値範囲の特定事項が必ず満たさなければならないといえるものでもなく、前者の特定事項を満たし後者の特定事項を満たすことがない光学ガラスが存在したとしても、そのガラスは発明の対象外のものとなるだけであって、そのことから、訂正後の請求項の発明が技術的な誤りを含むとはいえないものである。
そして、訂正明細書においては、上記(a)〜(c)の特定事項を満たす光学ガラスがその実施例1〜29において製造され、また、当該特定事項を満たさない光学ガラスがその比較例1〜5において製造され、また、それらの光学ガラスの性能が確認されるものである。
したがって、訂正後の明細書には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されておらず、その記載は特許法第36条第4項の規定に違反するとの主張は採用できない。

VI-2.理由-4(特許法第29条第2項違反について)
訂正後の本件請求項7〜12に係る発明は、前記IV.で記載したとおりのものである。
この場合、その光学ガラスが「屈伏点Tsが580℃以下」であるとの特定事項の測定方法につき、特許異議申立人が、実験成績証明書である甲第1号証で、屈伏点Ts(℃)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-1975「光学硝子の熱膨張率の測定方法」の規定の下に、昇温温度4℃/minで測定した方が、特許明細書で採用される昇温速度8℃/minの条件で測定した値よりも、特許明細書に記載されている値により近い値となったと指摘するものである。しかし、権利者が提出した実験証明書である乙第2号証によると、訂正明細書(特許明細書でも同じ)の実施例1、2、7及び9を追試して得た光学ガラスにつき、日本光学硝子工業会規格の同測定方法により、訂正明細書の実施例に従って、「昇温速度8℃/分」で測定したところ、当該実施例の光学ガラスの屈伏点Ts(℃)が、それぞれ、574℃、580℃、570℃及び565℃を示したもので、若干の誤差はあるにしても、上記甲第1号証の昇温温度4℃/minを採択した場合よりも訂正明細書に記載される数値により合致するものである。
このように、訂正明細書においては、元々、昇温速度8℃/分で測定することが明記され、かつ、乙第2号証における実験証明書においてもその昇温速度の妥当性が確認されるのであるから、当該特定事項の「屈伏点Tsが580℃以下」とは、「昇温速度8℃/分」で測定した数値をいうものと認める。

VI-2-1.本件発明7(訂正後の請求項7に係る発明)について
甲第3号証には、その実施例2において、「SiO225.8重量%とB2O35.76重量%を含有し、他に、Li2O、CaO、TiO2及びNb2O3成分を含有している屈折率(nd)が1.80008、アッベ数(νd)が30.5である」光学ガラスが記載されており、また、この実施例2につき再現実験した甲第2号証により、その光学ガラスの屈伏点の数値と接触角の数値が報告されており、これによれば、当該実施例2の光学ガラスは、「昇温速度が4℃/minの条件で測定した屈伏点が580℃であり、接触角が55.3°である」との物性値を内在しているといえる。ただし、甲第3号証には、その摘示箇所(C-3)により、「・・・清澄化は約1300〜1320℃で起つた。約970℃(≧500ポイズ)で供給物を抜出し、ついで自動的手段で直ちに眼鏡レンズの素材にプレスした」と記載されるように、そこでの溶融ガラスからガラス成形予備体又はガラスゴブからなる精密プレス成形用素材を製造することが具体的に示されない。
また、甲第4号証には、その実施例5において、「SiO225.55重量%とB2O312.95重量%を含有し、他に、Li2O、CaO、TiO2及びNb2O3成分を含有している屈折率(nd)が1.7026、アッベ数(νd)が39.9である」光学ガラスが記載されており、また、この実施例5につき再現実験した甲第2号証により、その光学ガラスの屈伏点の数値と接触角の数値が報告されており、これによれば、当該実施例5の光学ガラスは、「昇温速度が4℃/minの条件で測定した屈伏点が535℃であり、接触角が58.5°である」との物性を内在しているといえる。ただし、甲第4号証には、その摘示箇所(D-2)により、「・・・約3時間の清澄時間後、バツチは排出あるいは流し込み温度に達するまで攪拌される。ガラスは通常注型用金型に注入されるかまたはプレス成形される。」と記載されるように、そこでの溶融ガラスからガラス成形予備体又はガラスゴブからなる精密プレス成形用素材を製造することが具体的に示されない。
そこで、本件発明7と、甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明とを対比する。
甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明の光学ガラスは、いずれも、本件発明7と同じように、「酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有する」ものであって、「酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きい」ものである。
また、甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明の光学ガラスは、いずれも、「屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上」の数値範囲に含まれる物性値を具備する。
更に、甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明では、プレス成形しているのであるから、何らかのプレス成形用素材を得ているものである。
よって、両者は、
「酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム、酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、
酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となる、光学ガラスから得られたプレス成形用素材」である点で一致し、以下の点で、相違する。
【相違点1】当該光学ガラスが、本件発明7では、「屈伏点Tsが580℃以下である」であるのに対して、甲第3及び4号証に記載のものではその測定条件が異なり、本件発明7のように、昇温速度8℃/分で測定した数値が580℃以下であることが示さず、当該特定事項を具備しない点
【相違点2】当該プレス成形用素材が、本件発明7では、「ガラス成形予備体からなる精密プレス成形用素材」であるとするのに対して、甲第3及び4号証に記載のものでは、プレス成形用素材とすることが示されるだけで、当該特定事項を具備しない点。
以下、上記相違点につき検討する。
相違点1について
甲第3及び4号証においては、屈伏点Ts(℃)につき記載されるところはなく、また、甲第3及び4号証の実施例を再現実験した甲第2号証でも、他に、昇温速度8℃/分で測定した数値が580℃以下であることが示されない。
そして、甲第3及び4号証に記載の発明において当該屈伏点を調整しようとしても、そこでの昇温速度8℃/分で測定した数値がそもそも不明である以上、その数値を580℃以下にすることが、直ちに、なし得るものでもない。
この他、甲第12号証及び甲第13号証では、当該相違点につき示唆するものはない。
してみれば、甲第12号証及び甲第13号証に記載の発明を併せてみても、甲第3及び4号証に記載の発明において当該相違点の特定事項を、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
相違点2について
訂正明細書の記載によれば、本件発明7は、プレス成形用素材が、上記相違点にかかる「ガラス成形予備体からなる精密プレス成形用素材」であるとの特定事項を採択することにより、そのガラス成形予備体の光学ガラスが「液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となる」ものであるとの特定事項と一体となって、精密プレス成形において通常用いられるPtまたはPt合金製の流出パイプにガラス融液が濡れにくく、そのパイプの外側を濡れ上がる現象が押さえられる結果、脈理が押さえられた重量精度に優れたガラス成形予備体からなる精密プレス成形用素材を得ることができ、且つ、これを用いることにより所望の光学特性を有する光学ガラス製品を容易に製造できたというものである。
このように、本件発明7は、光学ガラスの接触角との関連で、当該相違点2に関する特定事項が採択されているものである。
これに対して、甲第3及び4号証の発明における光学ガラスでは、その接触角が40°以上であることが内在されるとしても、それが本件出願前に明示されるものではない以上、甲第3及び4号証の発明において、当該接触角との関連で、そのプレス成形用素材を、「ガラス成形予備体からなる精密プレス成形用素材」に特定しようとする動機付けがない。
また、甲第12及び13号証では、白金製又は白金合金製の流出パイプから光学ガラスを熔融し滴下させ、プレス成形用ガラスゴブ又は球状の素材を得ることが示されるが、それらの技術は、「所定の温度もしくは所定の温度領域におけるPtまたはPt合金との接触角が40°以上となる」という物性ないしは組成の光学ガラスとの関連で説明されるものではないし、また、当該組成の光学ガラスでプレス成形用ガラスゴブ又は球状の素材を得た場合の利点につき教示されるものでもない。更に、当然のことではあるが、甲第3及び4号証の発明における光学ガラスの接触角につき示唆するものではない。
なお、特許異議申立人は、その審尋回答書において、添付書類を提出して、ノズル先端における光学ガラスのこの種の濡れ上がりは公知の事実である等主張するが、それら、添付書類においても、接触角が40°以上となるように光学ガラスの物性ないしは組成を調整することは示されないものであり、また、当然のことではあるが、甲第3及び4号証の発明における光学ガラスの接触角につき示唆するものではない。
したがって、甲第12及び13号証に記載の発明を併せてみても、甲第3及び4号証に記載の発明において、上記する所望の光学特性を有する光学ガラス製品を容易に製造するために、上記相違点に関する特定事項を採択することが、容易に想到し得るものであるということができない。
以上のとおり、本件発明7は、甲第1及び2号証の記載を参照したとしても、甲第3、4、12及び13号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

VI-2-2.本件発明8(訂正後の請求項8に係る発明)について
本件発明8は、本件発明7の特定事項を引用するものである。
したがって、上記VI-2-1.で説示した理由と同じ理由により、本件発明8は、甲第1及び2号証の記載を参照したとしても、甲第3、4、12及び13号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-2-3.本件発明10(訂正後の請求項10に係る発明)について
甲第3及び4号証には、上記VI-2-1.で記載したとおりの発明が記載されている。
そこで、本件発明10と、甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明とを対比すると、両者は、
「酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、
酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上である光学ガラスが得られるガラス融液から、プレス成形用素材を得るプレス成形用素材の製造方法」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点イ】当該光学ガラスが、本件発明10では、「屈伏点Tsが580℃以下である」であるのに対して、甲第3及び4号証に記載のものではその測定条件が異なり、本件発明7のように、昇温速度8℃/分で測定した数値が580℃以下であることが示さず、当該特定事項を具備しない点
【相違点ロ】当該プレス成形用素材の製造方法が、本件発明10では、ガラス融液を「Pt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得る」というものであるのに対して、甲第3及び4号証に記載のものでは、ガラス融液からプレス成形用素材を得るものであるとしても、そこでは、Pt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形することが示されず、また精密プレス用の素材として得るものでもなく、したがって、当該特定事項を具備しない点。
以下、上記相違点につき検討する。
相違点イについて
上記VI-2-1.における相違点1の箇所で説示したとおり、甲第3及び4号証に記載の発明において当該屈伏点を調整しようとしても、そこでの昇温速度8℃/分で測定した数値がそもそも不明である以上、その数値を580℃以下にすることが、直ちに、なし得るものでもない。
この他、甲第12号証及び甲第13号証では、当該相違点につき示唆するものはない。
してみれば、甲第12号証及び甲第13号証に記載の発明を併せてみても、甲第3及び4号証に記載の発明において当該相違点の特定事項を、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
相違点ロについて
訂正明細書の記載によれば、本件発明10は、光学ガラスが得られるガラス融液を「Pt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得る」との特定事項を採択することにより、その光学ガラスが「液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となる」ものであるとの特定事項と一体となって、ガラス融液が流出パイプに濡れにくく、そのパイプの外側を濡れ上がる現象が押さえられることから、脈理が押さえられ重量精度に優れたガラス成形予備体を得ることができ、これを用いることにより所望の光学特性を有する光学ガラス製品を容易に製造できたというものである。
このように、本件発明10は、光学ガラスの接触角との関連で、当該相違点ロに関する特定事項が採択されているものである。
これに対して、上記VI-2-1.の相違点2の箇所で説示したように、甲第3及び4号証の発明における光学ガラスでは、その接触角が40°以上であることが内在されるとしても、それが本件出願前に明示されるものではない以上、甲第3及び4号証の発明において、当該接触角との関連で、そのプレス成形用素材を、「ガラス成形予備体からなる精密プレス成形用素材」に特定しようとする動機付けがない。
また、上記VI-2-1.の相違点2の箇所で説示したように、甲第12及び13号証では、白金製又は白金合金製の流出パイプから光学ガラスを熔融し滴下させ、プレス成形用ガラスゴブ又は球状の素材を得ることが示されるが、それらの技術は、「所定の温度もしくは所定の温度領域におけるPtまたはPt合金との接触角が40°以上となる」という光学ガラスとの関連で説明されるものではないし、また、当該物性ないしは組成の光学ガラスでプレス成形用ガラスゴブ又は球状の素材を得た場合の利点につき教示されない。更に、当然のことではあるが、甲第3及び4号証の発明における光学ガラスの接触角につき示唆するものではない。
なお、上記VI-2-1.の相違点2の箇所で説示したように、特許異議申立人は、その審尋回答書において、添付書類を提出して、ノズル先端における光学ガラスのこの種の濡れ上がりは公知の事実である等主張するが、それら、添付書類においても、接触角が40°以上となるように光学ガラスの物性ないしは組成を調整することは示されないものであり、また、当然のことではあるが、甲第3及び4号証の発明における光学ガラスの接触角につき示唆するものではない。
したがって、甲第12及び13号証に記載の発明を併せてみても、甲第3及び4号証に記載の発明において、上記する所望の光学特性を有する光学ガラス製品を容易に製造するために、上記相違点に関する特定事項を採択することが、容易に想到し得るものであるということができない。
以上のとおり、本件発明10は、甲第1及び2号証の記載を参照したとしても、甲第3、4、12及び13号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

VI-2-4.本件発明9及び11(訂正後の請求項9及び11に係る発明)について
本件発明9及び11は訂正後の請求項1〜3を引用し、訂正後の請求項2及び3は直接又は間接的に訂正後の請求項1を引用するものであるから、本件発明9及び11は、少なくとも、
「【請求項1】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、
酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下であり、
酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量が63wt%以上であり、酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素を1〜25wt%、酸化リチウムを5〜11wt%、酸化カルシウムを5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタンを1〜20wt%、酸化ジルコニウムを0〜10wt%それそれ含有し、酸化ランタンを2.5〜16wt%未満含有していることを特徴とする光学ガラス。」との訂正後の請求項1の特定事項を具備するものであるが、当該特定事項については、その特定事項を具備する発明に対して特許異議申立人が取消を請求すなかったことからみても明らかなとおり、甲第1及び2号証の記載を参照したとしても、甲第3、4、12及び13に記載の発明に基づいて容易に想到することができないものである。
してみれば、本件発明9及び11は、訂正後の請求項1の特定事項を具備する点で、甲第1及び2号証の記載を参照したとしても、甲第3、4、12及び13に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない。

VI-2-4.本件発明12(訂正後の請求項12に係る発明)について
本件発明12は、訂正後の請求項4、5、6又は10を引用するものである。
引用する請求項のうち、請求項4、5及び6の特定事項については、その特定事項を具備する発明に対して特許異議申立人が取消を請求しなかったことからみても明らかなとおり、甲第1及び2号証の記載を参照したとしても、甲第3、4、12及び13に記載の発明に基づいて容易に想到することができないものである。
また、引用する請求項のうち、請求項10については、上記VI-2-3.で説示したとおり、甲第1及び2号証の記載を参照したとしても、甲第3、4、12及び13号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、本件発明12は、甲第1及び2号証の記載を参照したとしても、甲第3、4、12及び13号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項7〜12に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項7〜12に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光学ガラスおよび光学製品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd )1.7以上、アッベ数(νd )28〜41の光学ガラスであり、
酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下であり、
酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量が63wt%以上であり、酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素を1〜25wt%、酸化リチウムを5〜11wt%、酸化カルシウムを5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタンを1〜20wt%酸化ジルコニウムを0〜10wt%それぞれ含有し、酸化ランタンを2.5〜16wt%未満含有していることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを合量で63wt%以上含有しており、
これらの成分それぞれの含有量が、酸化ケイ素17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素1〜25wt%、酸化リチウム5〜11wt%、酸化カルシウム5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタン1〜20wt%、酸化ニオブ13〜30wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)で、かつ、前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量が20〜50wt%であり、
酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化亜鉛を0〜12wt%、酸化バリウムを0〜15wt%、酸化ジルコニウムを0〜10wt%、酸化ストロンチウムを0〜10wt%、酸化タングステンを0〜6wt%、酸化アルミニウムを0〜7wt%、酸化ナトリウムを0〜5wt%、酸化カリウムを0〜5wt%、酸化イットリウムを0〜5wt%、酸化ガドリニウムを0〜5wt%、酸化イッテルビウムを0〜5wt%、酸化タンタルを0〜5wt%、酸化ヒ素を0〜2wt%、酸化アンチモンを0〜2wt%それぞれ含有している、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを合量で63wt%以上含有しており、
これらの成分それぞれの含有量が、酸化ケイ素17.5〜31wt%、酸化ホウ素1.5〜22wt%、酸化リチウム5.3〜9.5wt%、酸化カルシウム5.5〜24.5wt%、酸化チタン2.5〜18wt%、酸化ニオブ13〜27.5wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)であり、かつ、前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量が24〜43wt%で、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.80より大きく、
酸化ランタンを0〜15wt%、酸化亜鉛を0〜11wt%、酸化バリウムを0〜12wt%、酸化ジルコニウムを0〜7wt%、酸化ストロンチウムを0〜8wt%、酸化タングステンを0〜4wt%、酸化アルミニウムを0〜5wt%、酸化ナトリウムを0〜3wt%、酸化カリウムを0〜3wt%、酸化イットリウムを0〜3wt%、酸化ガドリニウムを0〜3wt%、酸化イッテルビウムを0〜3wt%、酸化タンタルを0〜3wt%、酸化ヒ素を0〜2wt%、酸化アンチモンを0〜2wt%それぞれ含有している、請求項1または請求項2のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項4】酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを合量で63wt%以上含有しており、
これらの成分それぞれの含有量が、酸化ケイ素17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素1〜25wt%、酸化リチウム5〜11wt%、酸化カルシウム5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタン1〜20wt%、酸化ニオブ13〜30wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)であり、かつ、前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量が20〜50wt%で、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、
酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化亜鉛を0〜12wt%、酸化バリウムを0〜15wt%、酸化ジルコニウムを0〜10wt%、酸化ストロンチウムを0〜10wt%、酸化タングステンを0〜6wt%、酸化アルミニウムを0〜7wt%、酸化ナトリウムを0〜5wt%、酸化カリウムを0〜5wt%、酸化イットリウムを0〜5wt%、酸化ガドリニウムを0〜5wt%、酸化イッテルビウムを0〜5wt%、酸化タンタルを0〜5wt%、酸化ヒ素を0〜2wt%、酸化アンチモンを0〜2wt%それぞれ含有している、
光学ガラスが得られるガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得ることを特徴とする精密プレス成形用素材の製造方法。
【請求項5】酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有し、前記成分の合量が63wt%以上であり、これら成分の含有量が、酸化ケイ素17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素1〜25wt%、酸化リチウム5〜11wt%、酸化カルシウム5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタン1〜20wt%であり、かつ前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量が20〜50wt%で、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、酸化ランタンを2.5〜16wt%未満、酸化ジルコニウムを0〜10wt%それぞれ含有している、
光学ガラスが得られるガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得ることを特徴とする精密プレス成形用素材の製造方法。
【請求項6】光学ガラスが、酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブそれぞれの含有量が、酸化ケイ素17.5〜31wt%、酸化ホウ素1.5〜22wt%、酸化リチウム5.3〜9.5wt%、酸化カルシウム5.5〜24.5wt%、酸化チタン2.5〜18wt%、酸化ニオブ13〜27.5wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)であり、かつ、前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量が24〜43wt%で、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.80より大きく、
酸化ランタンを0〜15wt%、酸化亜鉛を0〜11wt%、酸化バリウムを0〜12wt%、酸化ジルコニウムを0〜7wt%、酸化ストロンチウムを0〜8wt%、酸化タングステンを0〜4wt%、酸化アルミニウムを0〜5wt%、酸化ナトリウムを0〜3wt%、酸化カリウムを0〜3wt%、酸化イットリウムを0〜3wt%、酸化ガドリニウムを0〜3wt%、酸化イッテルビウムを0〜3wt%、酸化タンタルを0〜3wt%、酸化ヒ素を0〜2wt%、酸化アンチモンを0〜2wt%それぞれ含有している光学ガラスである、請求項4に記載の精密プレス成形用素材の製造方法。
【請求項7】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd )1.7以上、アッベ数(νd )28〜41の光学ガラスであり、
酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下である光学ガラスから得られたガラス成形予備体からなることを特徴とする精密プレス成形用素材。
【請求項8】酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量が63wt%以上であり、酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素を1〜25wt%、酸化リチウムを5〜11wt%、酸化カルシウムを5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタンを1〜20wt%、酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化ジルコニウムを0〜10wt%それぞれ含有する光学ガラスからなることを特徴とする請求項7に記載の精密プレス成形用素材。
【請求項9】請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする精密プレス成形用素材。
【請求項10】酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有し、他に酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化チタンおよび酸化ニオブを含有している屈折率(nd )1.7以上、アッベ数(νd )28〜41の光学ガラスであり、
酸化ケイ素を17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)含有し、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下である光学ガラスが得られるガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得ることを特徴とする精密プレス成形用素材の製造方法。
【請求項11】請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学製品。
【請求項12】所定形状のキャビティを形成するための型要素として少なくとも上型と下型とを備えている成形型内に請求項4,5,6および10のいずれかに記載の方法によって製造された精密プレス成形用素材を配置し、この精密プレス成形用素材が加熱によって軟化した状態下で当該精密プレス成形用素材を前記の成形型を用いて所定形状に精密プレス成形する工程を含んでいることを特徴とする光学製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学ガラス,当該光学ガラスからなる成形用素材およびその製造方法ならびに前記の光学ガラスを素材として用いて得られる光学製品およびその製造方法に係り、特に、高屈折率,高〜中分散の光学ガラス,当該光学ガラスからなる精密プレス成形用素材およびその製造方法
ならびに前記の光学ガラスを素材として用いて得られる光学製品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
所望の光学系を形成するにあたっては、一般に、屈折率ndやアッベ数νdが異なる種々の光学素子を組み合わせる必要がある。このため、屈折率ndやアッベ数νdが異なる種々の光学ガラスが開発されている。例えば、屈折率ndが概ね1.7以上でアッベ数νdが概ね28〜41である高屈折率,高〜中分散の光学ガラスとしては、重バリウムフリントガラス,重フリントガラス,ランタンフリントガラス、あるいは重ランタンフリントガラス等に分類される種々のガラスが開発されている(JIS Z8120参照)。
【0003】
ところで、光学素子(レンズやプリズム等)等の光学製品や光ファイバ固定用部材等をガラスによって形成する際の一法として、現在では精密プレス成形が広く利用されている。ガラス製の成形品を得る際の精密プレス成形は、所定形状のキャビティを有する成形型を用いて所定の精密プレス成形用素材(ガラス成形予備体)を高温下で加圧成形して、最終製品形状もしくはそれに極めて近い形状のガラス成形品を作製するものである。精密プレス成形に用いられる成形型の各成形面は高い表面精度を有しており、この成形型と前記の精密プレス成形用素材(ガラス成形予備体)とが所定の温度範囲内にあるときに当該成形型を用いて前記の精密プレス成形用素材(ガラス成形予備体)をプレスすることにより、前記の成形面それぞれの形状が精密プレス成形用素材(ガラス成形予備体)に転写される。
【0004】
精密プレス成形によってガラス製の成形品を得るにあたっては、上記のように精密プレス成形用素材を高温下で加圧成形することが必要であるので、このとき使用される成形型も高温に曝され、かつ、高い圧力が加えられる。このため、精密プレス成形用素材については、(1)プレス成形の際の高温環境によって成形型自体や当該成形型の内側表面に設けられている離型膜が損傷することを抑制するという観点から、そのガラス屈伏点をできるだけ低くすることが望まれており、また、(2)精密プレス成形用素材と成形型とが反応すること等によって反応生成物が生じて成形品の表面性状が劣化することを抑制するという観点から、成形型との反応性をできるだけ低く抑えることが望まれている。さらに、(3)環境保護の観点から、酸化鉛(PbO)を含有しないことが望まれている。
【0005】
上記(2)および(3)の観点からみて精密プレス成形用素材として好ましい高屈折率,高〜中分散の光学ガラスは、酸化鉛を必須成分としていない高屈折率,高〜中分散の光学ガラス、例えばランタンフリントガラスまたは重ランタンフリントガラスとして分類される光学ガラスである。酸化鉛を必須成分として含有している高屈折率,高〜中分散の光学ガラス、例えば重バリウムフリントガラスまたは重フリントガラスとして分類される光学ガラスは、上記(2)および(3)の観点から、前記の精密プレス成形用素材として好ましいものとはいえない。
【0006】
酸化鉛を必須成分としていない高屈折率,高〜中分散の光学ガラスは、一般にホウ酸塩ガラスまたはホウケイ酸塩ガラスであり、当該光学ガラスとしては、例えば特開昭61-232243号公報に開示されているB2O3-SiO2-Li2O-CaO-La2O3-TiO2-ZrO2-Nb2O5系の光学ガラスや、特開昭61-146730号公報に開示されているSiO2-B2O3-Li2O-La2O3-ZrO2-Nb2O5系の光学ガラスが知られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
精密プレス成形で使用されるプレス成形用素材の製造方法としては、目的とする成形品の種類等に応じて種々の方法があるが、いずれの方法による場合でも、熔解炉において所望のガラス融液を調製し、このガラス融液を流出パイプによって所望の場所まで導いてその流出口から流下させる必要がある。
【0008】
上記の熔解炉や流出パイプの材料としては、一般にPt(白金)またはPt合金が使用されているわけであるが、酸化鉛を必須成分としていない従来の高屈折率,高〜中分散光学ガラス、すなわち、ホウ酸塩ガラスまたはホウケイ酸塩ガラスからなる従来の高屈折率,高〜中分散光学ガラスは、ガラス融液時において、熔解炉や流出パイプの材料として使用されているPtまたはPt合金と濡れやすい。
【0009】
そして、ガラス融液がPt製またはPt合金製の流出パイプと濡れやすい場合には、図1に示すように、流出パイプ1をその流出口が鉛直下方を向くようにして配設したとしても、流出パイプ1から流下するガラス融液2の一部2aが流出パイプ1における流出口側の先端部の外側を濡れ上がるという現象(以下、この現象を「濡れ上がり現象」という。)が起こるようになり、この濡れ上がり現象は流出パイプ1の径が細くなれば細くなるほど顕著になる。なお、図1における符号3は、流出パイプ1を加熱しておくための流出炉を示している。
【0010】
小型の光学製品用の精密プレス成形用素材、例えば小径レンズ用の精密プレス成形用素材を得ようとすると流出パイプ1の径が必然的に小さくなるので、酸化鉛を必須成分としていない上記従来の高屈折率,高〜中分散光学ガラスでは、前記小型の光学製品用の精密プレス成形用素材を得ようとしたときに上記の濡れ上がり現象が顕著となる。そして、上記の濡れ上がり現象が顕著になった場合には、(i)ガラス融液を流出パイプから流下させてガラスゴブを得たときに当該ガラスゴブに脈理が生じ、その結果として、当該ガラスゴブから所望の光学特性を有する光学製品を得ることができなくなる、といった問題や、(ii)ガラス融液を流出パイプから流下させてガラスゴブを得る際に当該ガラスゴブの重量調節ができなくなり、その結果として、当該ガラスゴブから得ようとする光学製品の重量調節ができなくなるか、または、光学製品の重量を調節するための工程が必要になる、といった問題が生じる。
【0011】
本発明の第1の目的は、上記の濡れ上がり現象が起こり難く、かつ、高屈折率,高〜中分散のものを得ることが容易な光学ガラスを提供することにある。また、本発明の第2の目的は、高屈折率,高〜中分散の光学ガラスからなる小型のものを得ることが容易な精密プレス成形用素材およびその製造方法を提供することにある。そして、本発明の第3の目的は、高屈折率,高〜中分散の光学ガラスからなる小型のものを得ることが容易な光学製品およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記第1の目的を達成する本発明の光学ガラスは、酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、屈伏点Tsが580℃以下である、ことを特徴とするものである(以下、この光学ガラスを「光学ガラスI」という。)。
【0013】
また、上記第1の目的を達成する本発明の他の光学ガラスは、酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを合量で63wt%以上含有しており、これらの成分それぞれの含有量が、酸化ケイ素17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素1〜25wt%、酸化リチウム5〜11wt%、酸化カルシウム5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタン1〜20wt%、酸化ニオブ13〜30wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)であり、かつ、前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量が20〜50wt%で、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化亜鉛を0〜12wt%、酸化バリウムを0〜15wt%、酸化ジルコニウムを0〜10wt%、酸化ストロンチウムを0〜10wt%、酸化タングステンを0〜6wt%、酸化アルミニウムを0〜7wt%、酸化ナトリウムを0〜5wt%、酸化カリウムを0〜5wt%、酸化イットリウムを0〜5wt%、酸化ガドリニウムを0〜5wt%、酸化イッテルビウムを0〜5wt%、酸化タンタルを0〜5wt%、酸化ヒ素を0〜2wt%、酸化アンチモンを0〜2wt%それぞれ含有している、ことを特徴とするものである(以下、この光学ガラスを「光学ガラスII」という。)。
【0014】
一方、上記第2の目的を達成する本発明の精密プレス成形用素材は、上記本発明の光学ガラスからなることを特徴とするものである。また、当該精密プレス成形用素材の製造方法は、上記本発明の光学ガラスが得られるガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して、精密プレス成形用素材を得ることを特徴とするものである。
【0015】
上記第3の目的を達成する本発明の光学製品は、上記本発明の光学ガラスからなることを特徴とするものである。
【0016】
そして、当該光学製品の製造方法は、所定形状のキャビティを形成するための型要素として少なくとも上型と下型とを備えている成形型内に上記本発明の精密プレス成形用素材の製造方法によって製造された精密プレス成形用素材を配置し、この精密プレス成形用素材が加熱によって軟化した状態下で当該精密プレス成形用素材を前記の成形型を用いて所定形状に精密プレス成形する工程を含んでいることを特徴とするものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の光学ガラスIについて説明する。本発明の光学ガラスIは、上述したように、酸化ケイ素と酸化ホウ素とを含有している屈折率(nd)1.7以上、アッベ数(νd)28〜41の光学ガラスであり、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、液相温度以上の所定の温度もしくは所定の温度領域においてPtまたはPt合金との接触角が40°以上となり、液相温度が980℃以下、屈伏点Tsが580℃以下のものである。
【0018】
ここで、本明細書でいう「Pt合金」とは、溶融ガラス(ガラス融液)を熔解炉あるいは溶融ガラス槽から所望の場所に導くために使用される流出パイプの材料として用いることができるPt合金を意味する。当該「Pt合金」の具体例としては、例えば、Au(金),Rh(ロジウム),Ir(イリジウム)およびPd(パラジウム)からなる群より選択された少なくとも1種とPtとの合金が挙げられる。中でも、Ptを80at%以上含有し、Auを20at%以下含有し、RhとIrとPdとを合量で10at%以下(Rh,IrおよびPdのいずれをも含有しない場合を含む。)含有するもの、特に95Pt-5Au合金は、上記の流出パイプの材料として用いられている。
【0019】
また、本明細書でいう「接触角」とは、次のようにして測定した、ガラスとPt製プレートもしくはPt合金製プレートとの接触角の大きさを意味する。まず、図2(a)に示すように、水平に保持されているPt製もしくはPt合金製のプレート5(表面を鏡面加工したもの。平面視上の大きさは10×10mm。以下、単に「プレート5」という。)の中央付近に4×4×4mmの大きさのガラス試料6aを載せ、大気中において前記のガラス試料6aをその液相温度(L.T)以上の所望の温度に加熱し、この状態で30分間保持することによって前記のガラス試料を一旦溶融させた後、アニールする。このアニールは、溶融したガラス試料をそのガラス転移点温度下で1時間保持した後に-30℃/hrの降温速度の下に室温まで冷却することによって行われる。次に、図2(b)に示すように、固化したガラス試料6bを液体とみなして、当該ガラス試料6bと前記のプレート5との接触角θを測定する。
【0020】
なお、「表面を鏡面加工したPt製もしくはPt合金製のプレート」とは、表面のRzが500〜10000オングストロームとなるように加工したPt製もしくはPt合金製のプレートのことである。Rzの値が小さい方が測定結果にバラツキが生じ難くなるが、前記の範囲内であれば、例えば5000〜10000オングストロームであってもよいし、1000〜10000オングストロームであってもよい。
【0021】
本発明者は、流出パイプからガラス融液(溶融ガラス)を流出させる際の温度もしくは温度領域、すなわち、ガラスの液相温度以上の所定の温度もしくは温度領域において上記の接触角が40°以上となるようにガラスの組成を選択することにより、例えば細径の流出パイプ(内径が1〜8mmの流出パイプを意味するものとする。以下同じ。)を用いた場合においても、前述した「濡れ上がり現象」を抑制することができることをみいだした。
【0022】
ガラスが接触角についての上記の条件を満たせば、前記細径の流出パイプからそのガラス融液を流下させたとしても、脈理や重量バラツキが少ないガラスゴブを容易に形成することが可能になる。その結果として、所望の光学特性および重量を有する小型の光学製品(例えば小径レンズ)用の精密プレス成形用素材(ガラス成形予備体)を高い生産性の下に得ることや、当該精密プレス成形用素材を精密プレス成形法あるいは他の成形法によって所定形状に成形することによって製造される光学製品、例えばレンズ等の光学素子を高い生産性の下に得ることが、それぞれ容易になる。上記の接触角は40°乃至概ね120°であることが好ましく、概ね50°乃至概ね120°であることがより好ましく、概ね60°乃至概ね120°であることが更に好ましい。
【0023】
なお、上記の接触角を求める際のガラス試料の加熱温度(ガラス試料を一旦溶融させるための加熱温度)は、流出パイプからガラス融液を流出させる際の当該ガラス融液の温度が、通常、その液相温度L.Tから[(L.T)+40]℃の範囲内であることから、この温度範囲内の所定の温度とすることが好ましく、[(L.T)+10]℃から[(L.T)+20]℃という温度範囲内の所定の温度とすることがより好ましい。
【0024】
さらに、本発明者は、ガラス形成成分として酸化ケイ素および酸化ホウ素を使用し、かつ、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を0.78より大きくすることにより、接触角についての上記の条件を満たし、屈折率(nd)が1.7以上でアッベ数(νd)が28〜41である高屈折率,高〜中分散の光学ガラスを容易に得ることができ、さらには、その屈伏点を580℃以下にすることも可能であることをみいだした。
【0025】
本発明の光学ガラスIは、上述した2つの知見に基づいて発明されたものである。したがって、当該光学ガラスIは、Pt製またはPt合金製の細径の流出パイプからそのガラス融液を流下させた場合でも前述した濡れ上がり現象が起こり難く、かつ、高屈折率,高〜中分散のものを得ることが容易な光学ガラスである。そして、Pt製またはPt合金製の細径の流出パイプからそのガラス融液を流下させたときに前述した濡れ上がり現象が起こり難くければ、1〜5mm径の精密プレス成形用素材を得る際に使用されるPt製またはPt合金製の細径の流出パイプ(内径は1〜3mm程度)からそのガラス融液を流下させたときにも前述した濡れ上がり現象が起こり難いので、前記の精密プレス成形用素材を高い重量精度の下に容易に得ることが可能になる。
【0026】
上述した利点を有する光学ガラスIは、その組成を適宜選択することにより、上記の接触角が40°以上で、屈伏点が580℃以下で、光学恒数(nd,νd)が異なる種々のものを得ることが可能なものである。屈折率ndが概ね1.70以上で、アッベ数νdが概ね28〜41で、接触角が40°以上で、屈伏点が580℃以下である光学ガラスIを得るうえからは、酸化ケイ素および酸化ホウ素の他に、酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを含有させることが好ましい。
【0027】
上記のガラス成分のうち、酸化ケイ素および酸化ホウ素は、共にガラス形成成分として必要である。そして、酸化ケイ素はPtおよびPt合金との濡れ性の小さい光学ガラスを得るうえでも重要な成分である。酸化リチウムは酸化ケイ素の熔解性を向上させる成分であり、屈伏点Tsの低いガラスを得るうえでも重要な成分である。
【0028】
酸化カルシウムは、高屈折率,高〜中分散の光学ガラスを得るにあったその液相温度を下げる働きをする成分であると同時に、PtおよびPt合金との濡れ性の小さい光学ガラスを得るうえでも必要な成分である。酸化チタンおよび酸化ニオブは、共に高屈折率の光学ガラスを得るうえで必要な成分であり、また、高分散の光学ガラスを得るうえでも必要な成分である。
【0029】
光学ガラスIを用いて精密プレス成形用素材を得ようとする場合には、精密プレス成形時に成形型が損傷することを抑制するうえから、当該光学ガラスIの屈伏点Tsを概ね580℃以下にすることが好ましいわけであるが、上記6種類のガラス成分を組み合わせることにより、また、必要に応じて他の成分を添加することにより、屈折率ndが概ね1.70以上で、アッベ数νdが概ね28〜41で、前記の接触角が40°以上で、屈伏点Tsが概ね580℃以下である光学ガラスIを容易に得ることができる。
【0030】
屈折率ndが概ね1.70以上で、アッベ数νdが概ね28〜41で、前記の接触角が40°以上で、屈伏点Tsが概ね580℃以下である光学ガラスIは、その組成を例えば以下(1)または(2)のようにすることによって得ることができる。
【0031】
(1)酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量を63wt%以上とし、これらの成分それぞれの含有量を、酸化ケイ素17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素1〜25wt%、酸化リチウム5〜11wt%、酸化カルシウム5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタン1〜20wt%、酸化ニオブ13〜30wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)とし、かつ、前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量を20〜50wt%とし、酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化亜鉛を0〜12wt%、酸化バリウムを0〜15wt%、酸化ジルコニウムを0〜10wt%、酸化ストロンチウムを0〜10wt%、酸化タングステンを0〜6wt%、酸化アルミニウムを0〜7wt%、酸化ナトリウムを0〜5wt%、酸化カリウムを0〜5wt%、酸化イットリウムを0〜5wt%、酸化ガドリニウムを0〜5wt%、酸化イッテルビウムを0〜5wt%、酸化タンタルを0〜5wt%、酸化ヒ素を0〜2wt%、酸化アンチモンを0〜2wt%それぞれ含有させる。勿論、このときのガラス組成においては、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を、前述のように0.78より大きくする。
【0032】
(2)酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブの合量を63wt%以上とし、これらの成分それぞれの含有量を、酸化ケイ素17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素1〜25wt%、酸化リチウム5〜11wt%、酸化カルシウム5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタン1〜20wt%、酸化ニオブ13〜30wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)とし、かつ、前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量を20〜50wt%とし、酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化亜鉛を0〜12wt%、酸化バリウムを0〜15wt%、酸化ジルコニウムを0〜10wt%、酸化ストロンチウムを0〜10wt%、酸化アンチモンを0〜2wt%それぞれ含有させる。勿論、このときのガラス組成においては、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合を、前述のように0.78より大きくする。
【0033】
上記(1)および(2)の組成において各成分の含有量を上記の範囲とすることが好ましい理由は、以下の通りである。すなわち、酸化ケイ素の含有量が17wt%以下では前記の接触角が40°以上の光学ガラスを得ることが困難になることがあり、当該含有量が33wt%以上になると屈折率の高い光学ガラスを得ることが困難になることがある。酸化ケイ素の含有量は、17.5〜31wt%であることがより好ましい。
【0034】
また、酸化ホウ素の含有量が1wt%未満ではガラス化が困難になることがあり、当該含有量が25wt%を超えると屈折率の高い光学ガラスを得ることが困難になることがあるとともに、当該酸化ホウ素の揮発によってガラスに脈理が生じやすくなることがる。酸化ホウ素の含有量は、1.5〜22wt%であることがより好ましい。
【0035】
酸化リチウムの含有量が5wt%未満では酸化ケイ素の未熔解物がガラス中に残りやすくなることがあったり、屈伏点Tsが概ね580℃以下の光学ガラスを得ることが困難になったりすることがあり、当該含有量が11wt%を超えるとガラスの液相温度が高くなって量産性が低下することがあるとともに、屈折率の高い光学ガラスを得ることが困難になることがある。酸化リチウム含有量は、5.3〜9.5wt%であることがより好ましく、6.5〜9.5wt%であることが更に好ましい。
【0036】
酸化カルシウムの含有量が5wt%以下では、酸化カルシウムを含有させることによって生じる前述の効果が実質的に得られなくなることがあり、当該含有量が27wt%を超えるとガラスの液相温度が高くなることがある。酸化カルシウムの含有量は、5.5〜24.5wt%であることがより好ましく、6.5〜22wt%であることが更に好ましい。
【0037】
酸化チタンの含有量が1wt%未満では、酸化チタンを含有させることによって生じる前述の効果が実質的に得られなくなることがあり、当該含有量が20wt%を超えるとガラスの液相温度が高くなることがあり、また、着色が強まることがある。酸化チタンの含有量は、2.5〜18wt%であることがより好ましい。
【0038】
そして、酸化ニオブの含有量が13wt%以下では、酸化ニオブを含有させることによって生じる前述の効果が実質的に得られなくなることがあり、当該含有量が30wt%を超えるとガラスの液相温度が高くなることがある。酸化ニオブの含有量は、13〜27.5wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)であることがより好ましい。
【0039】
上述した酸化ケイ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタン,酸化ニオブおよび酸化ホウ素の含有量がそれぞれ上記の範囲内であったとしても、これら必須成分の合量が63wt%未満では、屈折率ndが概ね1.70以上で、アッベ数νdが概ね28〜41で、ガラス屈伏点Tsが概ね580℃以下である光学ガラスを得ることが困難になることがある。当該合量は、65wt%以上であることがより好ましい。
【0040】
また、酸化ケイ素と酸化ホウ素の合量が20wt%未満ではガラス化が困難になることがあり、当該合量が50wt%を超えると屈折率の高い光学ガラスを得ることが困難になることがある。酸化ケイ素と酸化ホウ素の合量は、24〜43wt%であることがより好ましい。
【0041】
さらに、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78以下であると、前記の接触角が40°以上の光学ガラスを得ることが困難になることがあり、当該割合が30を超えると液相温度が高くなることがある。この割合は、0.8〜27であることが特に好ましい。
【0042】
一方、含有量が0wt%であってもよい成分(以下、当該成分を「任意成分」という。)として挙げた物質のうち、酸化ランタン,酸化バリウム,酸化ジルコニウム,酸化ストロンチウム,酸化タングステン,酸化アルミニウム,酸化イットリウム,酸化ガドリニウム,酸化イッテルビウムおよび酸化タンタルは、それぞれ適量の添加によってガラスの液相温度を下げる働きをし、これらの成分の含有量を前記の範囲内で適宜選択することにより、ガラスの光学恒数(nd,νd)を調整することが可能である。しかしながら、これらの成分の1つでもその含有量が前記の範囲を超えると、ガラスの液相温度が逆に上昇することがある。これらの成分のより好ましい含有量は、酸化ランタン0〜15wt%,酸化バリウム0〜12wt%,酸化ジルコニウム0〜7wt%,酸化ストロンチウム0〜8wt%,酸化タングステン0〜4wt%,酸化アルミニウム0〜5wt%,酸化イットリウム0〜3wt%,酸化ガドリニウム0〜3wt%,酸化イッテルビウム0〜3wt%,酸化タンタル0〜3wt%である。そして、酸化ランタンについては、その含有量を0〜13wt%とすることが更に好ましい。
【0043】
また、任意成分として挙げた酸化亜鉛,酸化ナトリウムおよび酸化カリウムは、それぞれ適量の添加によってガラスの屈伏点Tsを下げる働きをする。しかしながら、これらの成分の1つでもその含有量が前記の範囲を超えると、ガラスの液相温度が上昇し、失透性が強くなることがある。これらの成分のより好ましい含有量は、酸化亜鉛0〜11wt%,酸化ナトリウム0〜3wt%,酸化カリウム0〜3wt%である。
【0044】
そして、任意成分として挙げた酸化ヒ素および酸化アンチモンは、それぞれ適量の添加によって脱泡剤あるいは清澄剤としての働きをする。しかしながら、これらの成分の1つでもその含有量が前記の範囲を超えると、ガラスの液相温度が上昇することがある。これらの成分のより好ましい含有量は、酸化ヒ素0〜2wt%,酸化アンチモン0〜2wt%である。上述した任意成分のうち、酸化ランタン,酸化ジルコニウムおよび酸化亜鉛は、上述した他の任意成分に比べてガラスの耐失透性を低下させにくいという利点を有している。
【0045】
なお、本発明の光学ガラスIは、本発明の目的を損なわない範囲内で、酸化リン,酸化ゲルマニウム,酸化セシウム,酸化マンガン,酸化テルル,酸化ビスマスまたは酸化鉛を含有していてもよい。ただし、酸化リンは、PtまたはPt合金に対するガラスの接触角を小さくしてしまう作用があるので、その含有量は4重量%未満とすることが好ましく、3重量%未満とすることがより好ましい。
【0046】
以上説明した本発明の光学ガラスIを得るにあたっては、まず、目的とする光学ガラスの組成に応じて所望の原料をそれぞれ所定量秤量し、これらの原料を混合して調合原料を得る。次いで、この調合原料を1000〜1350℃に加熱した熔解炉において熔解させてガラス融液とし、このガラス融液を清澄化した後に撹拌して均一化する。その後、均一化したガラス融液を流出パイプによって所望の場所まで導き、流出パイプから流下したガラス融液を所望形状に成形した後に、または成形しつつ、徐冷することにより得ることができる。このとき、酸化ホウ素用の原料としてはB2O3,H3BO3等を、また、酸化アルミニウム用の原料としてはAl2O3,Al(OH)3等を、そして、他の成分用の原料としては目的とする成分を構成しているカチオン元素についての炭酸塩,硝酸塩,酸化物等を適宜用いることができる。
【0047】
次に、本発明の光学ガラスIIについて説明する。本発明の光学ガラスIIは、前述したように、酸化ケイ素,酸化ホウ素,酸化リチウム,酸化カルシウム,酸化チタンおよび酸化ニオブを合量で63wt%以上含有しており、これらの成分それぞれの含有量が、酸化ケイ素17〜33wt%(ただし、17wt%である場合および33wt%である場合をそれぞれ除く。)、酸化ホウ素1〜25wt%、酸化リチウム5〜11wt%、酸化カルシウム5〜27wt%(ただし、5wt%である場合を除く。)、酸化チタン1〜20wt%、酸化ニオブ13〜30wt%(ただし、13wt%である場合を除く。)であり、かつ、前記酸化ケイ素と前記酸化ホウ素の合量が20〜50wt%で、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.78より大きく、酸化ランタンを0〜16wt%未満、酸化亜鉛を0〜12wt%、酸化バリウムを0〜15wt%、酸化ジルコニウムを0〜10wt%、酸化ストロンチウムを0〜10wt%、酸化タングステンを0〜6wt%、酸化アルミニウムを0〜7wt%、酸化ナトリウムを0〜5wt%、酸化カリウムを0〜5wt%、酸化イットリウムを0〜5wt%、酸化ガドリニウムを0〜5wt%、酸化イッテルビウムを0〜5wt%、酸化タンタルを0〜5wt%、酸化ヒ素を0〜2wt%、酸化アンチモンを0〜2wt%それぞれ含有している、ことを特徴とするものである。
【0048】
すなわち、本発明の光学ガラスIIは上述した本発明の光学ガラスIのうちの好ましい態様の1つである。したがって、ここでは各成分についての具体的な説明を省略する。当該光学ガラスIIは、屈折率ndが概ね1.70以上で、アッベ数νdが概ね28〜41で、前述した接触角が40°以上で、屈伏点Tsが概ね580℃以下のものを得ることが容易な光学ガラスである。
【0049】
次に、本発明の精密プレス成形用素材について説明する。本発明の精密プレス成形用素材は、前述したように、上記本発明の光学ガラスIまたは光学ガラスIIを所定形状に成形したものである。当該精密プレス成形用素材の形状は特に限定されるものではなく、当該精密プレス成形用素材を用いた精密プレス成形によって得ようとする成形品の形状に応じて、球状,マーブル状,平板状,柱状,碁石状等、適宜選択される。
【0050】
本発明の精密プレス成形用素材は、前述した本発明の光学ガラスIまたは光学ガラスII、すなわち、細径の流出パイプから流下させた場合でも前述した濡れ上がり現象が起こり難く、かつ、高屈折率,高〜中分散のものを得ることが容易な光学ガラスからなっているので、高屈折率,高〜中分散の光学ガラスからなる小型のものを得ることが容易な精密プレス成形用素材である。
【0051】
上記の利点を有する本発明の精密プレス成形用素材を得るにあたっての製造方法は特に限定されるものではなく、目的とする形状等に応じて、研削研磨等の冷間加工、特開昭61-146721号公報に記載されている発明の方法、特公平7-51446号公報に記載されている発明の方法等の方法を適宜適用することができる。
【0052】
これらの方法のなかでも、前述した本発明の光学ガラスIおよび光学ガラスIIの特性および目的とする精密プレス成形用素材の製造から当該精密プレス成形用素材を用いた光学製品の製造までの生産性を総合的に勘案すると、本発明の精密プレス成形用素材の製造方法、すなわち、前述した本発明の光学ガラスIまたは光学ガラスIIが得られるガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して精密プレス成形用素材を得る方法、によって目的とする精密プレス成形用素材を得ることが好ましい。
【0053】
次に、本発明の光学製品について説明する。本発明の光学製品は、前述したように、本発明の光学ガラスIまたは光学ガラスIIからなることを特徴とするものである。ここで、当該光学製品の具体例としては、レンズ,プリズム等の光学素子が挙げられる。
【0054】
目的とする光学製品の生産性を勘案すると、当該光学製品は、前述した本発明の精密プレス成形用素材を所定形状のキャビティを有する成形型を用いて精密プレス成形することによって製造されたものであることが好ましい。この場合、上記の光学製品の種類が限定されないことに伴って、上記の精密プレス成形用素材の形状も特に限定されるものではなく、目的とする光学製品の種類や形状に応じて、例えばマーブル状,平板状,柱状,球状,碁石状等、適宜選択可能である。ただし、前述したように、本発明の光学ガラスIおよび光学ガラスIIの特性および目的とする精密プレス成形用素材の製造から当該精密プレス成形用素材を用いた光学製品の製造までの生産性を総合的に勘案すると、上記の精密プレス成形用素材は、前述した本発明の精密プレス成形用素材の製造方法によって製造されたものであることが好ましい。
【0055】
本発明の光学製品は、上述したように、本発明の光学ガラスIまたは光学ガラスIIからなるものである。そして、本発明の光学ガラスIは、既に説明したように、細径の流出パイプから流下させた場合でも前述した濡れ上がり現象が起こり難く、かつ、高屈折率,高〜中分散のものを得ることが容易で、しかも、屈伏点が580℃以下の光学ガラスである。また、本発明の光学ガラスIIは、既に説明したように、細径の流出パイプから流下させた場合でも前述した濡れ上がり現象が起こり難い高屈折率,高〜中分散の光学ガラスであって、屈伏点が580℃以下のものを得ること容易な光学ガラスである。したがって、本発明の光学製品は、高屈折率,高〜中分散の光学ガラスからなる小型のものを得ることが容易な光学製品であり、しかも、当該光学製品を製造するにあたって精密プレス成形法を適用することが容易な光学製品である。
【0056】
本発明の光学製品として例えばレンズを得ようとする場合、当該レンズとしては種々の大きさのレンズ、例えば径が20mmを超える大物レンズ,径が20mm以下の小物レンズ,径が12mm以下のマイクロレンズ,径が8mm以下の超マイクロレンズ,径が4mm以下の微小マイクロレンズを得ることが可能である。これらのレンズは、例えばカメラやVTR等に組み込んで使用することができ、また、光ピックアップ等におけるレーザ光学系で使用される対物レンズ,コリメータレンズ等として使用することができる。精密プレス成形法によって本発明の光学製品を製造しようとする際には、例えば以下に述べる本発明の光学製品の製造方法を適用することができる。
【0057】
次に、本発明の光学製品の製造方法について説明する。本発明の光学製品の製造方法は、上述した本発明の光学製品を精密プレス成形法を利用して製造するものであり、当該製造方法は、前述したように、所定形状のキャビティを形成するための型要素として少なくとも上型と下型とを備えている成形型内に上述した本発明の精密プレス成形用素材の製造方法によって製造された精密プレス成形用素材を配置し、この精密プレス成形用素材が加熱によって軟化した状態下で当該精密プレス成形用素材を前記の成形型を用いて所定形状に精密プレス成形する工程を含んでいる。上記の成形型は、上型と下型とによって所定形状のキャビティを形成するものであってもよいし、上型,下型および案内型(胴型)によって所定形状のキャビティを形成するものであってもよい。
【0058】
当該成形型を用いての精密プレス成形は、前記の精密プレス成形用素材の粘度が概ね106〜109ポイズ(概ね105〜108Pa・s)、好ましくは概ね107〜109ポイズ(概ね106〜108Pa・s)、更に好ましくは概ね107.5〜108.5ポイズ(概ね106.5〜107.5Pa・s)の時に行うことが好ましい。
【0059】
この精密プレス成形により、目的とする光学製品(上述した本発明の光学製品)または当該光学製品の最終形状に極めて近い形状を有する光学製品(この光学製品も上述した本発明の光学製品の1つである。)を得ることができる。目的とする光学製品の最終形状に極めて近い形状を有する光学製品を得た場合には、精密プレス成形を行った後に、必要に応じて所定の後工程を行って、所望の光学製品(この光学製品も上述した本発明の光学製品の1つである。)を得る。
【0060】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1〜実施例29および比較例1〜比較例5まず、実施例毎または比較例毎に、表1,表2,表3,表4,表5または表6に示すガラス組成となるように所望の原料をそれぞれ所定量秤量し、これらの原料を混合して調合原料を得た。次に、実施例毎または比較例毎に、前記の調合原料を1000〜1350℃に加熱した熔解炉において熔解させてガラス融液とし、このガラス融液を清澄化し、撹拌により均一化してから所定形状の鋳型に鋳込んだ後、徐冷して、目的とする光学ガラスを得た。
【0061】
このとき、酸化ホウ素用の原料としてはH3BO3を、また、酸化アルミニウム用の原料としてはAl(OH)3を用い、さらに、酸化リチウム,酸化ナトリウム,酸化カリウム,酸化カルシウムおよび酸化バリウムそれぞれの原料としてはこれらの酸化物を構成しているカチオン元素についての炭酸塩を、酸化ストロンチウムの原料としてはストロンチウムの硝酸塩を、他の成分の原料としては酸化物をそれぞれ用いた。
【0062】
上述のようにして得た各光学ガラスについて、屈折率nd,アッベ数νd,屈伏点Ts,液相温度L.Tおよび接触角をそれぞれ以下のようにして測定した。これらの結果を表1〜表6に併記する。
・屈折率ndおよびアッベ数νd
鋳型に鋳込んだガラス融液を徐冷する際の降温速度を-30℃/hにして目的とする光学ガラスを得、当該光学ガラスについて測定した。
・屈伏点Ts
熱膨張測定機を用いて昇温速度8℃/分の条件下で測定した。
・液相温度L.T
まず、実施例および比較例毎に所定個の試料を用意し、これらの試料を500〜1100℃の温度勾配を設けた失透試験炉に入れて30分間保持した後、室温まで冷却した。次いで、これらの試料における結晶の生成の有無を倍率100倍の顕微鏡によって観察し、試料に結晶の生成が認められなかった最も低い失透試験温度を液相温度とした。
【0063】
・接触角
プレート5(図2参照)として95Pt-5Au製のものを用い、ガラス試料を一旦溶融させるための加熱温度を当該ガラス試料の液相温度L.T+20℃として、前述した方法によって測定した。なお、上述のようにして測定された接触角の値は、上記の条件で溶融させた状態下のガラス試料とプレート5(図2参照)との接触角を高温顕微鏡を用いて測定した場合の値とほぼ同じになることが確認された。
【0064】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

表1〜表5に示したように、実施例1〜実施例29で得た各光学ガラスは、屈折率ndが1.7209〜1.8197、アッベ数νdが28.6〜40.9という高屈折率,高〜中分散の光学ガラスであり、これらの光学ガラスの接触角は53〜65°と大きい。したがって、実施例1〜実施例29で得た各光学ガラスは、そのガラス融液を例えば1〜8mmという小さな内径を有するPt製もしくはPt合金製の流出パイプから流下させたときでも、前述した「濡れ上がり現象」が起こり難いものである。
【0065】
一方、表6に示したように、比較例1および比較例2でそれぞれ得た光学ガラスは高屈折率,高〜中分散の光学ガラスであるが、これらの光学ガラスにおいては、酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.11または0.18と本願発明における限定範囲外であり、かつ、接触角も35°または34°と小さい。また、比較例3で得た光学ガラスは、特開昭61-232243号公報に記載されている実施例6のガラスに相当する高屈折率,高分散のガラスであるが、この光学ガラスにおいては酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.76と本願発明における限定範囲外であり、かつ、接触角も37°と小さい。このように、比較例1〜比較例3で得た各光学ガラスは接触角が小さいので、そのガラス融液を上記の流出パイプから流下させたときには、前述した「濡れ上がり現象」が起こりやすいものである。
【0066】
比較例4で得た光学ガラスは、特開昭61-146730号公報に記載されている実施例10のガラスに相当するものであり、当該光学ガラスは1.7113という高い屈折率を有している。また、その接触角は45°と大きい。しかしながら、この光学ガラスのアッベ数νdは45と大きいので、当該光学ガラスは本発明が目的としている高〜中分散の光学ガラスではない。
【0067】
比較例5で得た光学ガラスは、特開昭61-146730号公報に記載されている実施例11のガラスに相当する高屈折率,高〜中分散の光学ガラスである。しかしながら、この光学ガラスにおいては酸化ホウ素の含有量に対する酸化ケイ素の含有量の割合が0.17と本願発明における限定範囲外であり、かつ、接触角も37°と小さい。したがって、この光学ガラスのガラス融液を上記の流出パイプから流下させたときには、前述した「濡れ上がり現象」が起こりやすい。
【0068】
例えば小型のレンズを精密プレス成形によって量産するための一法として、所定のガラス融液をPt製またはPt合金製の流出パイプの流出口から滴下させることで得たガラスゴブを成形して球状,真球状,碁石状等の精密プレス成形用素材を得、この精密プレス成形用素材を所定形状のキャビティを有する成形型を用いて前記のレンズに精密プレス成形する方法がある。実施例1〜実施例29として示した組成の光学ガラスが得られるガラス融液は、前述したように、本発明でいう接触角が53〜65°と大きいので、上記の方法によって小型レンズ用の精密プレス成形用素材を得る際の材料として好適である。
【0069】
実際、実施例1〜実施例29として示した組成の光学ガラスが得られるガラス融液(温度は、その粘度が8ポイズ(0.8Pa・s)となる温度)を内径2mmのPt合金(95Pt-5Au)製流出パイプから滴下させてマイクロレンズ用の精密プレス成形用素材を連続的に所定個作製したところ、脈理がない精密プレス成形用素材を得ることできた。そして、これらの精密プレス成形用素材は、個々の素材間での重量バラツキが小さいものであった。
【0070】
以下、実施例1〜実施例29として示した組成の光学ガラスが得られるガラス融液のうちの幾つかについて、当該ガラス融液が小型の精密プレス成形用素材や小型の精密プレス成形品を量産するうえで好適な材料であることを、より具体的に説明する。
【0071】
重量差の測定
実施例11として示した組成の光学ガラスが得られるガラス融液を調製し、流出口が鉛直下方を向くようにして配設された内径2mmのPt合金製流出パイプによって前記のガラス融液を所望の場所まで導き、当該Pt合金製流出パイプの流出口から連続的に滴下してくるガラスゴブを複数個の鋳型を用いて順次連続的に成形して、所定形状を呈する計1000個のガラス成形品を得た。そして、これらのガラス成形品について、下式
重量差(%)=[(最大重量-最小重量)/基準重量]×100
最大重量:上記1000個のガラス成形品の中で最も重いものの重量
最小重量:上記1000個のガラス成形品の中で最も軽いものの重量
基準重量:ガラス成形品の設計重量
により重量差を求めた。また、比較例1として示した組成の光学ガラスおよび比較例2として示した組成の光学ガラスそれぞれについても、上記と同じ要領でその重量差を求めた。
【0072】
その結果、実施例11として示した組成の光学ガラスが得られるガラス融液から製造したガラス成形品は重量差が0.3%と小さいものであったのに対し、比較例2として示した組成の光学ガラスが得られるガラス融液から製造したガラス成形品は重量差が1.3%と大きなものであり、比較例1として示した組成の光学ガラスが得られるガラス融液から製造したガラス成形品は重量差が1.5%と更に大きなものであった。
【0073】
上記の重量差は、得られたガラス成形品間の重量のバラツキ具合を表すものであり、光学製品を得ようとする場合に当該重量差が1%を超えると製品として使用できなくなる場合もある。例えば小物の光学製品(重量が100mg以下の光学製品)を得るための精密プレス成形用素材においては、その重量バラツキを±2%以下とすることが好ましく、±1%以下とすることが好ましい。また、小物より大きい光学製品(重量が100mgを超えるもの)を得るための精密プレス成形用素材においては、その重量バラツキを±5%以下とすることが好ましく、±3%以下とすることがより好ましく、±1%以下とすることが特に好ましい。したがって、上記の重量差が0.3%であるガラス成形品を得ることができる実施例11の光学ガラスは、光学製品を量産する際の材料ガラスとして好適なものである。
【0074】
実施例30(精密プレス成形用素材の製造)
まず、所定形状の凹部と当該凹部の底に開口している気体吹き出し用の細孔とを有し、前記の凹部の垂直断面が鉛直上方(使用時における鉛直上方)に向かって開いたラッパ状になっている成形型を所定個用意した。また、実施例1で得た光学ガラスと同一組成の光学ガラスが得られるガラス融液を調製した。そして、特公平7-51446号公報に記載されている成形方法に従って、前記のガラス融液から球形の成形品を所定個得た。
【0075】
このときの成形条件は、同公報の「実験結果1」の欄に示されている成形条件と同じにした。すなわち、上記の成形型それぞれにおける凹部の「広がり角度θ」を15°、上記の細孔の径を2mmとし、また、ガラス融液は、流出口が鉛直下方を向くようにして配設された内径1mm,先端の外径2.5mmの流出パイプによって前記の成形型の鉛直上方まで導き、その粘度を8ポイズ(0.8Pa・s)に保持した状態でここから自然滴下させた。そして、上記の成形型における気体吹き出し用の細孔からは、予め毎分1リットルの空気を吹き出しておき、当該空気の吹き出しは、前記の流出パイプから自然滴下してきたガラス塊が十分に冷却されるまで続けた。上記の条件下においては、流出パイプから自然滴下したガラス塊は成形型の凹部の内面とほとんど接触することなく当該凹部によって受けられ、かつ、ほとんど接触せずにわずかに浮上した状態で回転し、球形化された。
【0076】
このようにして得られた球形の成形品のそれぞれは、4.92mm±0.04mmという高い真球度を有する球形を呈し、その表面にキズや汚れは認められなかった。また、その重量精度は220mg±0.5mgと高かった。これらの成形品は、例えば高屈折率,高〜中分散の非球面レンズを精密プレス成形によって得る際の精密プレス成形用素材として好適である。
【0077】
実施例31(光学製品の製造)
実施例30で得た精密プレス成形用素材を被成形物として用い、図3に示した精密プレス成形装置によって当該被成形物を精密プレス成形して、6.4mmφの非球面レンズを得た。このときの成形条件は、成形温度を前記の被成形物の粘度(ガラスの粘度)が109ポイズ(108Pa・s)となる温度とし、プレス圧力を180kg/cm2とし、プレス時間を10秒とした。
【0078】
なお、図3に示した精密プレス成形装置11においては、支持棒12の一端に配設されている支持台13の上に上型14a,下型14bおよび案内型(胴型)14cからなる成形型14が置かれ、これらは、下型14bの成形面上に被成形物(精密プレス成形用素材)15を置き、その上に上型14aを載せた後に、外周にヒーター16が巻き付けられている石英管17中に配置される。前記の上型14aは可動型となっており、精密プレス成形時には、当該上型14aの鉛直上方から押し棒18によって荷重が付加される。また、前記の下型14bの内部には、支持棒12および支持台13を介して熱伝対19が挿入されており、成形型14の温度は前記の熱伝対19を利用してモニターされる。
【0079】
このようにして得られた非球面レンズは、形状精度が極めて高いものであった。また、上記の被成形物(精密プレス成形用素材)15の重量バラツキが0.45%と非常に小さい(実施例30参照)ことから、精密プレス成形に際して成形型14のキャビティの体積に対して被成形物(精密プレス成形用素材)15の体積に過不足が生じず、その結果として、上記の非球面レンズを量産した場合でも、個々の非球面レンズ間での重量バラツキは非常に小さかった。
【0080】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の光学ガラスは、PtもしくはPt合金からなる細径の流出パイプからそのガラス融液を流下させたときでも、ガラス融液の一部が流出パイプの先端部の外側を濡れ上がるという現象が起こり難い高屈折率,高〜中分散の光学ガラスである。したがって、本発明によれば、高屈折率,高〜中分散の光学ガラスからなる小型の光学製品を量産することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Pt製もしくはPt合金製の流出パイプからガラス融液を流下させたときに起こる「ガラス融液の一部が流出パイプの先端部の外側を濡れ上がる」という現象を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明でいう「接触角」の測定方法を説明するための側面図である。
【図3】実施例31で使用した精密プレス成形装置の概略を示す断面図である。
【符号の説明】
1…Pt製もしくはPt合金製の流出パイプ、 2…ガラス融液、 2a…流出パイプの先端部の外側を濡れ上がったガラス融液、 5…95Pt-5Au合金製のプレート、 6a…溶融させる前のガラス試料、 6b…溶融させ、固化させたガラス試料、 θ…接触角、 15…精密プレス成形用素材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-02-23 
出願番号 特願平11-118278
審決分類 P 1 652・ 536- YA (C03C)
P 1 652・ 121- YA (C03C)
P 1 652・ 537- YA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高崎▼ 久子  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 山田 充
米田 健志
登録日 2002-01-18 
登録番号 特許第3270022号(P3270022)
権利者 HOYA株式会社
発明の名称 光学ガラスおよび光学製品  
代理人 中村 静男  
代理人 中村 静男  
代理人 原田 卓治  
代理人 坂本 徹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ