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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1098100
異議申立番号 異議2001-73357  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-13 
確定日 2004-06-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第3176580号「電子部品の実装方法及び実装装置」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについてされた平成15年5月30日付の異議の決定に対し、東京高等裁判所において、「特許庁が異議2001-73357号事件について平成15年5月30日にした決定中「特許第3176580号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。」との判決言渡(平成15年(行ケ)319号、平成16年3月11日判決言渡)があったので、更に審理の上、次のとおり決定する。 
結論 特許第3176580号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3176580号(平成10年4月9日出願、平成13年4月6日設定登録)の請求項1〜7に係る特許について、平成13年12月13日に特許異議の申立がなされ、平成15年1月16日付で取消理由が通知され、平成15年5月30日付で「特許第3176580号の請求項1、2に係る特許を取り消す。同請求項3〜7に係る特許を維持する。」との決定がなされ、平成15年7月18日に、請求項1、2に係る特許の取消決定に対して特許取消決定取消請求が東京高等裁判所に提訴された(平成15年(行ケ)319号)。
一方、本件特許第3176580号について、平成15年12月5日に訂正審判が請求され(訂正2003-39260号)、平成16年1月21日に「特許第3176580号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との訂正認容審決がなされ、確定した。
そして、上記平成15年(行ケ)319号特許取消決定取消請求について、平成16年3月11日に、「特許庁が異議2001-73357号事件について平成15年5月30日にした決定中「特許第3176580号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。」との判決言渡がなされた。

2.本件発明
本件の請求項1〜7に係る発明は、前記訂正審判(訂正2003-39260号)の訂正認容審決により訂正が認められた明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1、2に係る発明(それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】超音波振動発生装置と、ホーンと、コレットツールと、基板導体加熱装置と、制御系装置と、からなり、フリップチップボンディング方式の超音波併用熱圧着拡散接合を行う電子部品の実装装置において、
電子部品の電極または基板導体の電極に設けたAuバンプの沈み込み量をモニタリングする高さ測定装置を前記制御系装置と連結して備え、前記制御系装置は前記高さ測定装置で得たAuバンプの加重と超音波の印加時における沈み込み量が所望の範囲内か否かで接合の良否判定を行いつつ実装することを特徴とする電子部品の実装装置。
【請求項2】請求項1記載の電子部品の実装装置にて電子部品を基板導体に対して降下させ、電子部品の電極または基板導体の電極に設けたAuバンプが対向する相手側の電極と接した時点から所定加重を印加し、次に所定加重と超音波振動を所定時間印加することによるAuバンプの沈み込み量を高さ測定装置にてモニタリングし、前記超音波振動印加時のAuバンプの沈み込み量が所望の範囲内であるか否かによってフリップチップボンディング方式の超音波併用熱圧着拡散接合による接合の良否判定を行うことを特徴とする電子部品の実装方法。」

3.当審が通知した取消理由及び異議申立理由について
本件の請求項3〜7に係る発明の特許については、平成15年5月30日付で特許を維持する旨の決定が既になされているので、以下では、本件の請求項1、2に係る発明の特許、即ち、本件発明1、2に係る特許について、取り消されるべきものか否かを検討する。
本件発明1、2に係る特許について、平成15年1月16日付で当審が通知した取消理由は、
「本件発明1、2は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。」
というものであり、また、
本件発明1、2に係る特許について、異議申立人が主張する異議申立理由は、
「本件発明1は、甲第1、2、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、本件発明2は、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。」
というものである。

4.各証拠の記載事項
当審が通知した取消理由で引用した刊行物1、2及び異議申立人の提出した証拠方法である甲第1〜3、5号証には、以下の事項が記載されている。
4-1.刊行物1(特開昭63-288031号公報);
(1)「金からなる山形のバンプ6を形成する。その後・・・半導体チップ1を得る。つぎに前記半導体チップ1をホーンの先端部に取り付けられた吸着溝7を持つツール8によって、まず前記半導体チップ1の裏面を吸着した後、20℃〜300℃に加熱されたテーブル9上に置かれた、たとえばガラスからなる配線基板10の・・・電極部11と前記半導体チップ1のバンプ6とを位置合わせして、前記ツール8に圧力(P)と超音波(U.S)とを付加して配線基板10の電極部11と半導体チップ1のバンプ6とをボンディングする。」(第2頁左下欄5〜末行)
4-2.刊行物2(特開平3-183527号公報。甲第2号証に同じ);《甲第2号証の記載事項「4-4.(1)〜(3)」を参照》
4-3.甲第1号証(特開平5-218147号公報);
(1)「接合時に充分な接合が生じたか否かを検査する方法が幾つか提案されており、…中略…この自動ワイヤ接合装置の特徴とするところは、接合時に、超音波励起によるワイヤに変形についての所定最大値及び所定最小値の間に属しない接合部を識別することにより、ワイヤと、それを接合するべき面との間に形成される接合の質を監視する手段を更に備えていることである。」(【0007】)
(2)「自動ワイヤ接合機は、超音波振動トランスデューサ6のホーン4に取り付けられた接合ウェッジ2を備えている。…中略…運転時には、変形センサー12からのデータがワイヤ変形測定システム702を介してプロセッサ704に送られ、ここでプロセスが連続的に監視され、超音波エネルギーの所要レベルが計算される。計算されたレベルについてのデータは、超音波調整装置706によって超音波発生器708を制御するために使われる。変形センサー12とワイヤ変形測定システム702とは、任意の適当な変形システムであり、例えば電子システムや、レーザーシステムなどの光学システムである。自動ワイヤ接合装置の他の実施例が図8に略図示されている。…中略…圧電テーブル16は、接合力を測定するために素子10の下に配置され…中略…接合力調整装置14を制御して情報をプロセッサ804に送るために圧電テーブル16からのデータが使われる。」(【0024】〜【0027】、第7、8図)
(3)第6図及び図面の簡単な説明の欄には、ワイヤ接合プロセスにおける3段階を示すグラフが開示されている。
4-4.甲第2号証(特開平3-183527号公報。刊行物2に同じ);
(1)「2)振動子と、この振動子を超音波振動させるための電気信号を発生する超音波発振器と、前記超音波振動を第1の部材に伝達する超音波振動伝送体と、この超音波振動伝送体により前記第1の部材を第2の部材に押圧する押圧手段とを備え、前記第1の部材に超音波振動を与えつつ押圧することにより、第1の部材を第2の部材に接合する超音波接合装置において、前記超音波振動伝送体の押圧方向の変位を検出する変位検出手段と、接合開始時は前記第1の部材に高エネルギーを与え、所定時間経過後は該エネルギーを低下させるべく前記変位検出手段の出力に基づいて前記変位を制御する制御手段を備えることを特徴とする超音波接合装置。」(特許請求の範囲の請求項2)
(2)「例えば半導体チップ(第1の部材)を基板(第2の部材)に接合するに当たり、・・・半導体チップの電極を基板上の電極に押圧しつつ超音波振動を与える方法が考えられる。この場合、押圧による荷重と超音波振動により、半導体チップを介してフイルム状接着剤に超音波エネルギーが加わってこれが発熱溶融し、半導体チップ上の電極が基板上の電極に接合される。」(第2頁左上欄13行〜右上欄1行)
(3)「次に、第5図〜第7図に基づいて、超音波振動伝送体7の変位を制御して超音波振動エネルギーを調整する第2の実施例を説明する。第5図は請求項2の発明に係る超音波接合装置の全体構成を示し、・・・。ここで、第7図(a)は、導電性フィルム状接着剤22の温度の時間的変化を、第7図(b)は超音波振動伝送体7の変位(波線)および半導体チップ23に作用する荷重(実線)の時間的変化を示している。
制御回路38は、第7図(a)の時点P21で超音波発振器40をオン信号を出力して所定振幅の電気信号を発生せしめる(ステップS15)。この電気信号は、振動子6で機械的な超音波振動に変換され、超音波振動伝送体7を介して半導体チップ23および導電性フィルム状接着剤22に伝送される。これにより導電性フィルム状接着剤22に所定のエネルギーが加わり、第7図(a)に波線で示したようにその温度が時点P21から急激に上昇し、温度の上昇に伴って導電性フィルム状接着剤22が柔らかくなるため、導電性フィルム状接着剤22に作用する荷重は第7図(b)に実線で示す如く減少する。これに伴って接着剤22に加わるエネルギーが減少し、接着剤22の温度上昇が抑制され、第7図(a)の如くT0とT1の間で保持される。
ステップS16では、時点P21から時間t21が経過するまで待ち、経過後、ステップS17に進む。この時間t21は、接着剤22が完全に溶融する時間だけ温度T0とT1との間で保持される時間だけ設定される。ステップS17では、超音波発振器40にオフ信号を出力して発振を解除するとともに、変位を仕上変位L22とすべくモータ32によりネジ棒33を駆動して超音波振動伝送体7をさらに下降させる(時点P22)。次にステップS18で変位L22になるまで待ち、L22になると(時点P23)ステップS19でモータ32を停止させる。時点P22での超音波振動伝送体7の下降により導電性フィルム状接着剤22に作用する荷重は図示の如く上昇し、変位がL22に達すると、その後は一定となる。
次いでステップS20で時点P22から時間t22が経過するまで待ち、経過後、ステップS21でモータ32を駆動して超音波振動伝送体7を初期位置まで上昇させて処理を終了させる(時点P24)。この時間t22は、接着剤22が完全に凝固する時間、すなわち完全凝固温度T2(第7図(a))に達する時間より長く設定される。」(第5頁左上欄16行〜第6頁左下欄6行)
4-5.甲第3号証(特開平6-260522号公報);
(1)「具体的には、例えば、ボール部70が半導体チップ50に接触して、軽荷重による初期潰れが起きた後(この時のキャピラリ部12の高さを初期潰れ高さh3とする。)、数ミリ秒程度の微小時間内にキャピラリ部12の初期潰れ高さh3に変異が生じない(…中略…)場合に、ボール部70が着地したと判断する。ステップS11で“Y”即ちキャピラリ部12が着地高さh2に達している場合には、ステップS12に進み、CPU21から出力されていた信号SIG1、SIG2のHi/Loが切り換わってスイッチSW1およびSW2が夫々開(オフ)および閉(オン)となる。そして、CPU21で、メモリからボンド荷重指令データを読み込んでから(ステップS13)、ボイスコイルモータ13に駆動電流を流すための制御信号を出力する(ステップS14)。この信号により、…中略…キャピラリ部12にボンド荷重が与えられる。このボンド荷重によって、ボール部70は半導体チップ50に押し付けられて潰されていくが、この際、超音波が印加されるのはいうまでもない。ステップS11で“N”即ち未だその高さに達していない場合には、先のステップS6に戻り、再びステップS11で“Y”になるまでキャピラリ部12が下降する。ステップS14に続いて、ボンド荷重状態のまま、キャピラリ部12はさらに下降するとともに、位置センサ30からの位置データがCPU21に入力され(ステップS15)、それに基きCPU21においてキャピラリ部12の高さが圧着高さh4(図7参照)に一致したか否かの判断を行う(ステップS16)。ステップS16で“Y”即ちキャピラリ部12が圧着高さh4に達している場合には、ボンド荷重指令データに基く制御信号の出力が停止し(ステップS17)、従ってキャピラリ部12の下降が停止する。同時に超音波の印加も停止し、ボンディングが終了する。また、ステップS16で“N”即ち未だその高さに達していない場合には、先のステップS13に戻り、再びステップS16で“Y”になるまでキャピラリ部12にボンド荷重を与え続けるとともに、超音波を印加し続ける。」(【0023】〜【0029】、第2、4〜9図)、
(2)「上記実施例のワイヤボンディング装置1によれば、所望の圧着高さh4となるようにボール部70を潰すことができるので、常に一定の圧着強度で半導体チップ50にボール部70を圧着させることができ、歩留りの向上並びに品質の向上を図ることができる。また、ボール部70の径を小さくしても最適な圧着状態が得られるため、ワイヤのピッチが微細になっても、ボール径70を小さくすることにより対処することができ、より一層高集積化を図ることができる。」(【0032】)
4-6.甲第5号証(特開平7-115109号公報);
(1)「半導体集積回路を形成したチップ1上のアルミニウムまたは金等でできたパッドメタル2に金属バンプ3を形成し接続用搭載機のボンディングツール6に固定する。同様に、金属パッドメタル5を形成した回路基板4を接続用搭載機のボンディングステージ7に固定する。その後、位置合わせを実施し、加圧装置10で加圧する。接続用搭載機のボンディングツール6およびボンディングステージ7にそれぞれ設けられた加熱・冷却温度プロファイル制御装置11、12および超音波振動装置13、14により接続作業を実施する。この作業を繰り返してマルチチップの実装が完了する。」(【0016】、第1図)

5.対比・判断
5-1.本件発明1について
刊行物1に記載された「超音波(U.S)を付加する手段」、「ホーンの先端部に取り付けられた吸着溝を持つツール」、「加熱されたテーブル」、「バンプを持つ半導体チップ」、「金からなる山形のバンプ」は、それぞれ、本件発明1の「超音波振動発生装置」、「コレットツール」、「基板導体加熱装置」、「フリップチップ」、「Auバンプ」に相当する。
また、刊行物1記載のものにおいて、金からなる山形のバンプと配線基板の電極部とは熱圧着されているのであるから、その接合部分は当然に拡散接合されているといえる。
そうすると、刊行物1には、「超音波振動発生装置と、ホーンと、コレットツールと、基板導体加熱装置と、からなり、Auバンプを設けたフリップチップボンディング方式の超音波併用熱圧着拡散接合を行う電子部品の実装装置」(以下、「刊行物1発明」という)が記載されているものと認められる。
本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、両者は、「超音波振動発生装置と、ホーンと、コレットツールと、基板導体加熱装置と、からなり、フリップチップボンディング方式の超音波併用熱圧着拡散接合を行う電子部品の実装装置」である点及びバンプが「Auバンプ」である点で一致しており、以下の点で相違する。
相違点:本件発明1が「制御系装置」を有し、「電子部品の電極または基板導体の電極に設けたAuバンプの沈み込み量をモニタリングする高さ測定装置を前記制御系装置と連結して備え、前記制御系装置は前記高さ測定装置で得たAuバンプの加重と超音波の印加時における沈み込み量が所望の範囲内か否かで接合の良否判定を行いつつ実装」しているのに対し、刊行物1発明ではこれが明らかでない点。
そこで、上記相違点について検討する。
甲第1号証には、その記載事項(1)〜(3)からみて、「超音波振動トランスデューサ6のホーン4に取り付けられた接合ウェッジ2を備え、かつ、変形センサー12が閉ループ・システムにおいてワイヤ変形測定システム702、プロセッサ704、超音波調整装置706、トランスデューサ6を駆動する超音波パワー発生器708に接続され、運転時には、変形センサー12からのデータがプロセッサ704に送られ、ここでプロセスが連続的に監視され、超音波エネルギーの所要レベルが計算され、計算されたレベルについてのデータは、超音波発生器708を制御するために使われるものであり、変形センサー12とワイヤ変形測定システム702とは、電子システムや、レーザーシステムなどの光学システムであり、また、圧電テーブルを組み込むこともできること、および、ワイヤ接合の各段階を3つに分けた、接合時に充分な接合が生じたか否かを検査する自動ワイヤ接合機」が記載されていることは認められるが、「Auバンプの沈み込み量をモニタリングする高さ測定装置を前記制御系装置と連結して備え、前記制御系装置は前記高さ測定装置で得たAuバンプの加重と超音波の印加時における沈み込み量が所望の範囲内か否かで接合の良否判定を行いつつ実装」するという上記相違点についての開示乃至示唆があるとはいえない。
また、甲第2号証(刊行物2)の記載事項(1)、(2)によれば、「振動子と、この振動子を超音波振動させるための電気信号を発生する超音波発振器と、前記超音波振動を半導体チップに伝達する超音波振動伝送体と、この超音波振動伝送体により前記半導体チップを基板に押圧する押圧手段とを備え、前記半導体チップに超音波振動を与えつつ押圧することにより、半導体チップを基板に接合する超音波接合装置において、前記超音波振動伝送体の押圧方向の変位を検出する変位検出手段と、接合開始時は前記半導体チップに高エネルギーを与え、所定時間経過後は該エネルギーを低下させるべく前記変位検出手段の出力に基づいて前記変位を制御する制御手段を備える」超音波接合装置が記載されていることが認められる。さらに、甲第2号証(刊行物2)の記載事項(3)によれば、超音波接合装置の具体的態様として、特に「仕上変位」とするために、「ステップS17では、超音波発振器40にオフ信号を出力して発振を解除するとともに、変位を仕上変位L22とすべくモータ32によりネジ棒33を駆動して超音波振動伝送体7をさらに下降させる(時点P22)。次にステップS18で変位L22になるまで待ち、L22になると(時点P23)ステップS19でモータ32を停止させる。時点P22での超音波振動伝送体7の下降により導電性フィルム状接着剤22に作用する荷重は図示の如く上昇し、変位がL22に達すると、その後は一定となる。」と記載されていることが認められ、そして、この記載によれば、超音波の印加を解除するとともに、超音波振動伝送体を下降させることによって仕上変位に達し、この超音波振動伝送体を下降させている最中に荷重(本件発明1の「加重」と同義である)の印加が増加していることが示されており、これは、仕上変位に達する時には、超音波は印加されておらず、加重のみが印可されていることになる。
そうすると、甲第2号証(刊行物2)記載のものでは、「接合開始時は前記半導体チップに高エネルギーを与え、所定時間経過後は該エネルギーを低下させるべく前記変位検出手段の出力に基づいて前記変位を制御する制御手段」は備えるものの、仕上変位、すなわち「所望の範囲内」の変位とするために加重のみを印可して制御しており、上記相違点における「制御系装置は前記高さ測定装置で得たAuバンプの加重と超音波の印加時における沈み込み量が所望の範囲内か否かで接合の良否判定を行いつつ実装」とは異なるものである。
したがって、甲第2号証(刊行物2)に、上記相違点が記載乃至示唆されているとすることはできない。
また、甲第5号証には、「半導体集積回路を形成したチップ1上のアルミニウムまたは金等でできたパッドメタル2に金属バンプ3を形成し接続用搭載機のボンディングツール6に固定する。同様に、金属パッドメタル5を形成した回路基板4を接続用搭載機のボンディングステージ7に固定する。その後、位置合わせを実施し、加圧装置10で加圧する。接続用搭載機のボンディングツール6およびボンディングステージ7にそれぞれ設けられた加熱・冷却温度プロファイル制御装置11、12および超音波振動装置13、14により接続作業を実施する。この作業を繰り返してマルチチップの実装が完了する。」との記載はあるものの、上記相違点における「制御系装置は前記高さ測定装置で得たAuバンプの加重と超音波の印加時における沈み込み量が所望の範囲内か否かで接合の良否判定を行いつつ実装」する点についての開示乃至示唆はない。
したがって、甲第1、2、5号証の何れにも、上記相違点についての開示乃至示唆があるわけではなく、そして、本件発明1は、上記相違点をその発明特定事項とすることにより、「電子部品の電極または基板導体の電極に設けたバンプの沈み込み量・・・をモニタリングして基準値・・・と比較することにより、当該電子部品のバンプによる接合状態・超音波振動状態が正常かどうか実装と同時に判断できるので、それにより異常が生じた場合には、(a)直ちに機械を停止して異常を報知する、(b)製品を不良としてマーキングする、(c)再度超音波を印加して製品を再生する、(d)正常となるまで超音波を印加し続ける、という措置を適宜採ることができ、接合不良を判別あるいは再生できるという優れた効果を有する。」(【0059】)という明細書に記載される顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、刊行物1、甲第1、2、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

5-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の電子部品の実装装置を用いて行う電子部品の実装方法であるといえる。
そこで、まず、本件発明1と刊行物1発明との前記相違点を、甲第3号証の記載から容易に想到し得るか否かについて検討する。
甲第3号証の記載事項(1)、(2)によれば、甲第3号証には、キャピラリ部12にボンド荷重を与え、超音波を印加しつつ、ボール部70を半導体チップ50に押し付け、所望の圧着高さh4となるようにボール部70を潰し、常に一定の圧着強度で半導体チップ50にボール部70を圧着させるようにしたワイヤボンディング装置及び方法が記載されているから、甲第3号証が、超音波を併用しつつ所望の圧着高さh4となるようにボール部70を潰すワイヤボンディング技術を開示していることは認められる。
しかしながら、甲第3号証に記載されるワイヤボンディング技術は、本件発明1のようなAuバンプを設けたフリップチップボンディング方式の超音波併用熱圧着拡散接合を行う電子部品の実装装置とは異なる技術であるばかりか、本件発明1のように、「・・・Auバンプの加重と超音波の印加時における沈み込み量が所望の範囲内か否かで接合の良否判定を行いつつ実装」するものでもない。
そうすると、甲第3号証の記載からでは、少なくとも前記相違点を容易に想到し得るとすることはできないのであるから、結局、本件発明2は、刊行物1、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

5-3.まとめ
よって、本件発明1は、刊行物1、甲第1、2、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また、本件発明2は、刊行物1、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

6.むすび
以上のとおり、当審が通知した取消理由、異議申立人が主張する理由及び提出した証拠によっては、本件の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-05-30 
出願番号 特願平10-97335
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池渕 立  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 市川 裕司
城所 宏
登録日 2001-04-06 
登録番号 特許第3176580号(P3176580)
権利者 太陽誘電株式会社
発明の名称 電子部品の実装方法及び実装装置  
代理人 羽鳥 亘  

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