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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:356  C09B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09B
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:357  C09B
管理番号 1098125
異議申立番号 異議2003-72650  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-04-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-28 
確定日 2004-05-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3402137号「ジスアゾ顔料組成物及び印刷インキ」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3402137号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3402132号の請求項1〜10に係る発明は、平成9年7月30日に出願され、平成15年2月28日に特許の設定登録がなされ、その後、藤田 肇(以下、「異議申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件の請求項1〜10に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明10」という)は、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 (1)ジスアゾ顔料、(2)一般式(I)

(式中、X及びYは、各々独立的に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシル基又は炭素原子数1〜4のアルコキシル基を有するアルコキシカルボニル基を表わすが、X及びYは同時に水素原子を表わすことはない。Z1は、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基を表わす。Z2は、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基であって、カルボン酸基及び/又はスルホン酸基を1〜4個有するフェニル基又はナフチル基を表わす。ただし、Z2において、カルボン酸基及び/又はスルホン酸基は、アルカリ土類金属、アルミニウム、マグネシウム及び亜鉛から成る群から選ばれる1種以上の金属の塩であっても良い。)
で表わされるジスアゾ化合物、及び(3)一般式(II)

(式中、X及びYは、各々独立的に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシル基又は炭素原子数1〜4のアルコキシル基を有するアルコキシカルボニル基を表わすが、X及びYは同時に水素原子を表わすことはない。Z1は、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基を表わす。Z3は、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基であって、カルボンアミド基、スルホンアミド基及びアセトアミノ基から成る群から選ばれる置換基を1〜4個有するフェニル基もしくはナフチル基、又は、ベンツイミダゾロン環残基もしくはフタルイミド環残基を表わす。)
で表わされるジスアゾ化合物を含有するジスアゾ顔料組成物。
【請求項2】 一般式(I)中のX及びYが、各々独立的に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシル基又は炭素原子数1〜4のアルコキシル基を有するアルコキシカルボニル基(ただし、X及びYは同時に水素原子であることはない。)、Z1が、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基、Z2が、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基であって、カルボン酸基及び/又はスルホン酸基を1〜4個有するフェニル基又はナフチル基であり、かつ、
一般式(II)中のX及びYが、各々独立的に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシル基又は炭素原子数1〜4のアルコキシル基を有するアルコキシカルボニル基(ただし、X及びYは同時に水素原子であることはない。)、Z1は、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基、Z3は、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基であって、カルボンアミド基、スルホンアミド基及びアセトアミノ基から成る群から選ばれる置換基を1〜4個有するフェニル基又はナフチル基である請求項1記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項3】 一般式(I)及び一般式(II)中のX及びYが、各々独立的に、水素原子又は塩素原子(ただし、X及びYは同時に水素原子であることはない。)、Z1が、1〜2個のメチル基又はメトキシ基を有していても良いフェニル基、Z2が、水酸基又は塩素原子を有していても良いフェニル基であって、カルボン酸基又はスルホン酸基(ただし、これらはアルミニウム塩であっても良い。)を有するフェニル基、かつ、Z3が、カルバモイル基、アセトアミノ基又はスルファモイル基を有するフェニル基、又は、ベンツイミダゾロン環残基である請求項1記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項4】 一般式(I)及び一般式(II)中のX及びYが、各々独立的に、水素原子又は塩素原子(ただし、X及びYは同時に水素原子であることはない。)、Z1が、1〜2個のメチル基又はメトキシ基を有していても良いフェニル基、Z2が、水酸基を有していても良い、カルボン酸基(ただし、アルミニウム塩であっても良い。)を有するフェニル基、かつ、Z3が、カルバモイル基又はアセトアミノ基を有するフェニル基である請求項1記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項5】 ジスアゾ顔料組成物の固形分中の一般式(I)で表わされるジスアゾ化合物の含有割合が1〜20重量%の範囲にあり、一般式(II)で表わされるジスアゾ化合物の含有割合が1〜20重量%の範囲にある請求項1〜4のいずれか1つに記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項6】 ジスアゾ顔料組成物の固形分中の一般式(I)で表わされるジスアゾ化合物と一般式(II)で表わされるジスアゾ化合物の合計の含有割合が4〜35重量%の範囲にあり、かつ、これらの重量比(I)/(II)が30/70〜75/25の範囲である請求項1〜4のいずれか1つに記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項7】 ジスアゾ顔料が、一般式(VII)

(式中、X及びYは、各々独立的に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシル基又は炭素原子数1〜4のアルコキシル基を有するアルコキシカルボニル基を表わすが、X及びYは同時に水素原子を表わすことはない。Z1は、低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基を表わす。)
で表わされるジスアゾ顔料である請求項1〜6のいずれか1つに記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項8】 一般式(I)と一般式(II)と一般式(VII)中のX、Y及びZ1が、それぞれ同一である請求項7記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項9】 ジスアゾ顔料が、CIピグメント番号のY-12、Y-13、Y-14、Y-17、Y-55、Y-57及びY-81から成る群から選ばれる1種以上の顔料である請求項1〜6のいずれか1つに記載のジスアゾ顔料組成物。
【請求項10】 請求項1〜9のいずれか1つに記載のジスアゾ顔料組成物を含有してなることを特徴とする印刷インキ。」

3.異議申立て理由の概要
異議申立人は、証拠として甲第1号証を提出し、本件発明1〜10は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり(理由1)、また、本件特許明細書の記載には不備があり、特許法第36条第4項、又は同条第6項第1号若しくは第2号に規定する要件を満たしていない(理由2)ので、本件発明1〜10の特許は取り消されるべきものである旨主張している。

4.甲号証の記載内容
甲第1号証(特許第2503468号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】ジスアゾ顔料と一般式(I)で示されるジスアゾ化合物とからなるジスアゾ顔料組成物。


[式中、X及びYは、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルコキシカルボニル基を示すが、すべて同時に水素原子をとらない。
A2は、(1)一般式(A)

(式中、Wはスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を1〜4個含むフェニル基又はスルホン酸基を1〜4個含むナフチル基で、更に置換基として低級アルキル基、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、水酸基、アセトアミノ基のうち1〜4個を含んでいても良く、これらは同種のものでも異種のものでもよい。)
で示される基、又は(2)一般式(B)

(式中、Rは炭素原子が1〜4個の脂肪族鎖、Vはスルホン酸基又はカルボン酸基を示す。)
で示される基を示す。
A1は、一般式

(式中、Zは、(1)無置換ナフチル基、或いは(2)低級アルキル基、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、カルボンアミド基、スルホンアミド基又はアセトアミノ基から成る群から選ばれる1〜4個の置換基で置換されたフェニル基を示す。
但し、X及びYが、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示すが、すべて同時に水素原子をとらない場合であって、かつ、A2が一般式(A)で示される基であって、Wが(a)塩素原子、メチル基及びメトキシ基から成る群から選ばれる1〜2個の置換基を有していても良いスルホン酸基又はカルボキシル基を1個のみ有するフェニル基、又は(b)塩素原子、メチル基及びメトキシ基から成る群から選ばれる1〜2個の置換基を有していても良いスルホン酸基を1個のみ有するナフチル基である場合、Zは無置換フェニル基、メチル基、メトキシ基及び塩素原子から成る群から選ばれる置換基を1〜3個有するフェニル基をとらない。)
で示される基を示す。
また、スルホン酸基及び/又はカルボン酸基はそれぞれアルカリ土類金属塩又はアルミニウム塩の形であってもよい。」(特許請求の範囲)
(2)「(産業上の利用分野)
本発明は印刷インキ、塗料等に用いた場合、改良された流動性、着色力、透明性を有するジスアゾ顔料組成物に関する。
(従来の技術)
従来、ジスアゾ顔料を印刷インキ、塗料等に用いた場合、当該製品の流動性、透明性を改良する方法として、ジスアゾ顔料にそれらのスルホン酸塩を混合したり(特公昭45-11026号公報)、カップリング成分としてカルボン酸基及び/又はスルホン酸基を有する極性カップリング成分と非極性カップリング成分との混合物を使用するジスアゾ顔料の合成法(特公昭55-49087号公報)が示されている。
(発明が解決しようとする問題点)
しかしながら、これらの方法では、流動性、着色力、透明性の改良効果が必ずしも十分ではなく、例えば、インキの初期粘度を低下させることができても経時増粘を生じ実用上問題となることがあるなど、必ずしも満足する効果を得ることができなかった。
(問題点を解決するための手段)
本発明者等は鋭意研究の結果、特定の構造を有するジスアゾ化合物をジスアゾ顔料に混合することにより、これらの適性を満足させ得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。」(第2頁第4欄第5〜28行)
(3)「(発明の効果)
本発明に係るジスアゾ化合物を混合してなるジスアゾ顔料組成物は、印刷インキ、塗料等に用いた場合、改良された流動性、着色力、透明性を有する。」(第4頁第8欄第20〜22行)
(4)「試験例1
実施例1〜4及び比較例1〜3により得たC.I.ピグメントイエロー14を主成分とする顔料組成物(いずれもスルホン酸基を含むカップリング成分が全カップリング成分に対して1.5モル%含まれている)、及びC.I.ピグメントイエロー14顔料について、ウレタングラビアインキを作成し、流動性、着色力、透明性を調べた。
・・・(中略)・・・
結果は表-3に示したとおりであり、本発明による顔料組成物は、流動性、インキ保存性、着色力、透明性に優れていた。特に注目すべきことは、一般式(II)に相当するジスアゾ染料を混合した比較例1の顔料組成物は、従来公知のC.I.ピグメントイエロー14顔料よりも流動性が劣っていることであり、このことは、混合する水溶性基を含むカップリング成分を持つジスアゾ化合物の構造が、適性改良上、極めて重要なことを示している。


」(第9頁)
(5)「試験例2
実施例5で得たC.I.ピグメントイエロー83系顔料組成物、C.I.ピグメントイエロー83、実施例6〜8で得たC.I.ピグメントオレンジ16系顔料組成物およびC.I.ピグメントオレンジ16についても試験例1と同様にウレタングラビアインキを作成し、流動性、着色力、透明性を調べた。結果は表-5に示したとおりであり、本発明に係る顔料組成物は、流動性、経時安定性、着色力、透明性に優れていた。尚、透明性の評価は、C.I.ピグメントイエロー83及びC.I.ピグメントオレンジ16を用いたインキの展色フィルムを標準サンプルとして用いた。

」(第9頁〜第10頁)
(6)「試験例3
実施例9〜10及び比較例4により生成したC.I.ピグメントイエロー12を主成分とする顔料組成物(いずれもカルボン酸基を含むカップリング成分が全カップリング成分に対して約5モル%含まれている)、及びC.I.ピグメントイエロー12顔料について、平版インキを作成し、流動性、着色力、透明性を調べた。
・・・(中略)・・・
結果は表-6に示したとおりであり、本発明に係る顔料組成物は、流動性、着色力、透明性に優れていた。


」(第10頁)

5.当審の判断
(1)理由1について
(ア)本件発明1について
(a)本件発明1と甲第1号証に記載されたものとを対比すると、まず、甲第1号証には本件発明1において一般式(II)で表わされるジスアゾ化合物が記載ないし示唆されていない。
すなわち、甲第1号証の特許請求の範囲には、一般式(I)で表わされるジスアゾ化合物におけるA1として一般式

が示され、「式中、Zは、・・・カルボンアミド基、スルホンアミド基又はアセトアミノ基から成る群から選ばれる1〜4個の置換基で置換されたフェニル基を示す。」と記載されているが、これについては本件発明1の一般式(II)で表わされるジスアゾ化合物のZ3に対応する。
しかしながら、甲第1号証の特許請求の範囲に記載された一般式(I)で表わされるジスアゾ化合物におけるA2は、
「(1)一般式(A)

(式中、Wはスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を1〜4個含むフェニル基又はスルホン酸基を1〜4個含むナフチル基で、更に置換基として低級アルキル基、ハロゲン原子、低級アルコキシ基、水酸基、アセトアミノ基のうち1〜4個を含んでいても良く、これらは同種のものでも異種のものでもよい。)
で示される基、又は(2)一般式(B)

(式中、Rは炭素原子が1〜4個の脂肪族鎖、Vはスルホン酸基又はカルボン酸基を示す。)
で示される基を示す。」
とされており、これは本件発明1の一般式(II)で表わされるジスアゾ化合物のZ1 、「低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基及び低級アルコキシカルボニル基から成る群から選ばれる同一又は異なる1〜4個の置換基を有していても良いフェニル基又はナフチル基を表わす。」と異なるものである。
したがって、甲第1号証の特許請求の範囲に記載された一般式(I)で表わされるジスアゾ化合物は、本件発明1の一般式(II)で表わされるジスアゾ化合物とは異なる化合物である。
また、甲第1号証のその他の記載をみても、本件発明1の一般式(II)で表わされるジスアゾ化合物は記載ないし示唆されていない。

(b)また、本件発明1と甲第1号証とは技術思想及び効果が相違している。
すなわち、本件発明1は、「近年の印刷や塗装の高速化に伴って、インキや塗料の流動性は著しく改善されたが、その流動性の改善が、一方では、インキや塗料の粘性の低下を引き起こした。粘性の低下に伴い、例えば、油性インキの粘性が低いと、網点の太りが生じ、印刷物の鮮明性が損なわれたり、印刷時にミスチングというインキの飛散現象が発生する、という実用上の問題が発生した。」(段落番号【0005】)という問題点に対し、ジスアゾ顔料と特定のジスアゾ化合物(二種)を含有するジスアゾ顔料組成物により、高流動性と高粘性を併せ持つジスアゾ顔料組成物が得られるという技術思想(例えば、段落番号【0006】〜【0008】)からなるものである。
そして、本件発明1の効果は、「印刷の高速化に対応しうる高流動性と、網点の太りや、印刷物の鮮明性の喪失や、印刷時のミスチングというインキの飛散現象が発生しない高粘性とを有する平版インキを提供することができる。」(段落番号【0164】)というものである。
これに対し、甲第1号証は、従来、ジスアゾ顔料を印刷インキ、塗料等に用いた場合には「流動性、着色力、透明性の改良効果が必ずしも十分ではなく、例えば、インキの初期粘度を低下させることができても経時増粘を生じ実用上問題となることがあるなど、必ずしも満足する効果を得ることができなかった。」(第2頁第4欄第19〜23行)という問題点に対し、ジスアゾ顔料と特定のジスアゾ化合物(一種)を含有するジスアゾ顔料組成物により、例えば、インキの初期粘度を低下させることができても経時増粘を生じ実用上問題となることがあるなどの問題点を解決したジスアゾ顔料組成物を得ようとする技術思想(第2頁第4欄第25〜28行)からなるものである。
そして、甲第1号証の効果として、表-3及び表-5には、甲第1号証の発明である、ジスアゾ顔料と特定のジスアゾ化合物(一種)を含有するジスアゾ顔料組成物は、ジスアゾ顔料(単独)に対し、インキ作成直後、及び50℃1週間後の粘度が何れも低くなる効果を奏することが示されている。
したがって、本件発明1と甲第1号証とは技術思想及び効果においても相違するものである。

(c)そして、本件発明1のジスアゾ顔料組成物は、ジスアゾ顔料、一般式(I)で表わされるジスアゾ化合物、及び一般式(II)で表わされるジスアゾ化合物を必須成分として含有することにより、明細書記載の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとものとはいえない。

(イ)本件発明2〜10について
本件発明2〜10は、本件発明1を引用してそれをさらに技術的に限定するものであるから、上記(ア)に述べた理由と同様の理由により、本件発明2〜10は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとものとはいえない。

(2)理由2について
異議申立人は、(i)「本件特許発明の請求項1における顔料組成物は、ジスアゾ顔料に添加する一般式(I)及び(II)で表わされるジスアゾ化合物以外のジスアゾ化合物の添加を含んでいる。しかし、本件特許発明の段落〔0051〕〜〔0054〕の上記顔料組成物の製造方法に関する記載からは上記以外のジスアゾ化合物は含まれていないことは明らかであるから、請求項1に係る本件特許発明は不明確である。」(異議申立書第11頁第17〜22行)、及び(ii)「本件特許発明の段落〔0056〕〜〔0057〕の記載から、上記顔料組成物における各成分使用割合に寄らず、効果か奏されるとはいえない。この点でも請求項1に係る本件特許発明は不明確である。」(同第22〜24行)と主張するので、これらの主張について検討する。
まず、上記(i)については、本件特許明細書の段落番号【0051】〜【0054】に記載されているのは単なる例示であって、そこに具体的に開示されたものに本件発明1を限定すべき技術的根拠は見いだせないし、また、本件特許明細書の段落番号【0051】〜【0054】に開示されたものに本件発明1を限定すべき技術的根拠を異議申立人が提示しているわけでもないので、本件発明1が不明確であるとはいえない。
次に、上記(ii)については、本件発明1は、ジスアゾ顔料と特定のジスアゾ化合物(二種)を含有するジスアゾ顔料組成物であることを特徴とする発明であって、各成分の使用割合に特徴がある発明ではないと解されるし、また、ジスアゾ顔料と特定のジスアゾ化合物(二種)の使用割合を本件特許明細書の段落番号【0056】〜【0057】に開示されたものに限定すべき技術的根拠を異議申立人が提示しているわけでもないので、本件発明1が不明確であるとはいえない。
したがって、本件特許明細書の記載に不備があるとはいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜10についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜10についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-04-21 
出願番号 特願平9-204487
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09B)
P 1 651・ 356- Y (C09B)
P 1 651・ 357- Y (C09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 爾見 武志  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 唐木 以知良
岩瀬 眞紀子
登録日 2003-02-28 
登録番号 特許第3402137号(P3402137)
権利者 大日本インキ化学工業株式会社
発明の名称 ジスアゾ顔料組成物及び印刷インキ  
代理人 高橋 勝利  

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