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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 発明同一  C09K
管理番号 1098129
異議申立番号 異議2003-71705  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-03-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-07 
確定日 2004-06-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第3362440号「有機エレクトロルミネッセンス素子」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3362440号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3362440号の請求項1、2に係る発明は、平成5年5月7日(優先権主張 平成4年6月24日)に出願され、平成14年10月25日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人小池美知(以下、「異議申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に少なくとも発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、該発光層が、下式
【化1】

(ここでArは、繰り返し単位を示し、芳香族環または芳香族性複素環に少なくとも1つの炭素数1〜22のアルキル、アルコキシおよびアルキルチオ基ならびに炭素数6〜22の芳香族炭化水素基から選ばれた置換基を有するアリーレン基または芳香族性複素環化合物基であり、且つ該芳香族環または芳香族性複素環が隣接する繰り返し単位の該芳香族環または芳香族性複素環と連続したπ電子共役系を形成するものであり、nは5以上の整数である。)で表される構造を有し、有機溶媒に可溶な共役系高分子よりなり、且つ陰極と該発光層との間に、該発光層に隣接して電子輸送性化合物からなる層を設けたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】 電子輸送性化合物からなる層が、厚さ5〜200nmの層であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」

3.異議申立て理由の概要
異議申立人は、証拠として甲第1号証〜甲第3号証、及び参考資料1、2を提出し、本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり(理由1)、また、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第3号証)に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである(理由2)ので、本件特許の請求項1、2に係る発明についての特許は取り消されるべきものである旨主張している。

4.各甲号証等の記載内容
(1)甲第1号証(特開平3-230583号公報)
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「本発明は、有機膜を用いた発光素子に係り、特に複数の有機膜の組合わせにより高効率の発光を可能とした有機膜発光素子に関する。」(第2頁左下欄第12〜14行)
(イ)「第1図は一実施例の発光素子断面構造を示す。この素子は、上から見て第1の電極(M1)6、第1の有機膜(O1)5、第3の有機膜4、第2の有機膜(O2)4および第2の電極(M2)2により構成されている。第2の電極2はこの実施例ではガラス基板1に形成されたITO等の透明電極であって、光は基板1側から取出される。」(第4頁左下欄最下行〜右下欄第6行)
(ウ)「第1の電極6からは第1の有機膜5に電子が注入され、第2の電極2からは第2の有機膜3に正孔が注入されて、これらの電子、正孔は、電子、正孔に対して共に電位の井戸となっている第3の有機膜4に閉込められる。この閉込められた電子、正孔が互いに再結合する事によって、発光する。」(第5頁右上欄第1〜6行)
(エ)第1図には、上から、第1の電極6、第1の有機膜5、第3の有機膜4、第2の有機膜3、第2の電極2、ガラス基板1の順に積層して構成された発光素子の断面図が示されている。

(2)甲第2号証(JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, VOL.30, No.11B, NOVEMBER, 1991, pp.L 1938-L 1940.)
甲第2号証は「ポリ(3-アルキルチオフェン)を利用した可視光エレクトロルミネッセンスダイオード」と題する技術論文であり、以下の事項が記載されている。
(ア)「ポリ(3-アルキルチオフェン)を利用した可視光エレクトロルミネッセンスダイオードが初めて開示される。発光強度は注入した電流の増加に従って直線的に増加する。」(第L 1938頁要約部第1〜2行)
(イ)「発光ダイオード(LEDs)は、インジウム/スズオキサイド(ITO)で被覆されたガラス基板、ポリ(3-アルキルチオフェン)の発光層、及びマグネシウム含有インジウム(Mg:In)電極からなる。・・・この実験で使用したポリ(3-アルキルチオフェン)の分子構造はFig.1に示されている。ポリ(3-アルキルチオフェン)の薄層はクロロホルムを溶媒としてITO被覆ガラス基板の上にスピンコーティングすることにより製造された。」(第L 1938頁左欄下から第8行〜右欄第4行)
(ウ)第L 1938頁右欄のFig1には、実験で用いられたポリ(3-アルキルチオフェン)の分子構造が示されている。

(3)甲第3号証(特願平3-221744号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開平5-59356号公報))
甲第3号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、水素原子、ハロゲン原子、アルカリ金属原子または炭化水素残基を、Z1およびZ2は、ヘテロ原子、あるいは二重結合、三重結合またはヘテロ原子を含む原子団を、Xは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、イミノ基、アルキルイミノ基またはアリールイミノ基を示す。k、l、m、nは0を含む正の整数であり、R1に含まれる炭素原子の数とkおよびmの整数の和ならびにR2に含まれる炭素原子の数とlおよびnの整数の和は、いずれも3以上50以下である)で表される3、4-ジ置換複素5員環化合物を基本単位とする重合体を発光層として使用することを特徴とする有機発光素子。」(特許請求の範囲、請求項1)
(イ)「【産業上の利用分野】本発明は、高分子化合物を発光体として用いた有機発光素子に関する。詳しくは、3、4-ジ置換複素5員環化合物を基本単位とする重合体を発光体として用いた有機発光素子に関する。」(段落番号【0001】)
(ウ)「最近になって溶媒に可溶であり、かつ溶融成形の出来る導電性高分子化合物が知られるようになってきた。例えば、そのような導電性高分子化合物として、3位、または3位と4位に置換基を有する複素5員環式化合物の重合体が知られている。なかでも3位に置換基を有する3置換ポリチオフェンや3置換ポリピロールは、加工性が高くドーピングにより高電導体となることから多くの研究が成されている。しかしながら、現在まで提案された、3位および4位に置換基を有する3,4位ジ置換ポリチオフェン、3,4位ジ置換ポリピロール等はドーピングしても電導度があまり高くないため、殆どその物性は調べられていなかった。
【発明が解決しようとする課題】
従来の発光素子は、輝度が低く、青色の発光が困難であり、表示面の大型化は容易であるものの、例えば、蛍光体粒子分散型では蛍光体粒子の粒径や粒度分布により、発光素子の特性が変わり、性能がバラつくと言う問題があった。また、有機発光体を使用する場合には蒸着法で行われるため製膜工程が複雑である。さらに青色に発光させるために禁止帯幅の大きな化合物を使用することがあり、そのため抵抗が大きくなり電荷の注入が困難となって、電圧を大きくしなければならないといった問題があった。本発明の課題は、適当な禁止幅帯を持ち、適度な同電率を有し、しかも無機系材料に比べて加工性の優れた、また低分子化合物に比べて強度に優れ安定な発光素子を、安価に提供することである。」(段落番号【0003】〜【0004】)
(エ)「一般式(1)で表される3,4-ジ置換複素5員環化合物を基本単位とする重合体の分子量は、特に制限はないが、加工性の点から3量体以上分子量100万までの重合体が好ましい。」(段落番号【0008】)
(オ)「本発明の有機発光素子の構造は、3,4-ジ置換複素5員環化合物の薄膜を少なくとも2枚の導体間に挟んだ構造で、必要に応じて発光層と共にキャリヤーを移動しないようにブロックする層、キャリヤーを輸送する層、キャリャーをとどめる層、キャリヤーを有効に運ぶ層などを含む複数の層を導体間に挟んだ構造とすることもできる。これらの層を導入することにより発光の効率を高めたり、波長の交換も可能となる。電極に使用される材料は導体ならば特に規定なく、無機金属や無機の導電性酸化物または導電性高分子等が用いられる。さらに、面発光型の素子では、これらの電極のうち少なくとも一方が透光性である導体とすることが必要である。」(段落番号【0009】)
(カ)「さらに、3,4-ジ置換複素5員環化合物の重合体の薄膜を形成する別の方法として、3,4-ジ置換複素5員環化合物を含む溶液は高分子溶液であることから、粘性を有するので、印刷用刷版に3,4-ジ置換複素5員環化合物を含む溶液を吸着させて、電極の上に3,4-ジ置換複素5員環化合物の重合体の薄膜を形成させ、ついでこの薄膜を導体上に転写したり、スクリーン印刷して形成させることも可能である。また、これらの薄膜を形成する場合に、電極の上に直接形成する以外に、電極と発光層の間にさらに電子や正孔輸送層、さらには電子や正孔を閉じ込める層などを先に積層させておき、これらの上にさらに積層させて形成させることもできる。」(段落番号【0012】)
(キ)「実施例1 ポリ(3,4-ジテトラデシルチオフェン)をトルエンに溶解して均一溶液とした。透明電極としてITOガラス(酸化インジウム-錫を表面に有する導電性ガラス)を用いて、この表面に上記のポリマー溶液をスピンキャスト法によりキャストして厚さ1000オングストロームの厚さの薄膜を形成した。さらにその上にインジウム マグネシウムを真空中で蒸着してポリマー-金属接合を形成して素子とした。両電極面に端子用の電線を取り付けたのち両端子間に10Vの電圧を印加したところ青色の光が放射された。」(段落番号【0014】)

(4)参考資料1(特開平2-261889号公報)
参考資料1には、マイナス極と発光層との間に電子移動層を設けた構造の有機電界発光素子が記載されている。(第2頁右下欄第10〜12行、第4頁左下欄第3〜7行、第5頁右下欄第6〜14行、第1図)

(5)参考資料2(JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, VOL.30, No.11B, NOVEMBER, 1991, pp.L 1941-L 1943.)
参考資料2には、インジウム/スズオキサイド(ITO)で被覆されたガラス基板、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)の発光層、及びマグネシウム含有インジウム(Mg:In)電極からなる発光ダイオード(LEDs)が記載されている。

5.当審の判断
(1)理由1(特許法第29条第2項)について
本件特許の請求項1、2に係る発明と甲第1号証及び甲第2号証に記載されたものとを対比すると、甲第1号証及び甲第2号証には、本件特許の請求項1、2に係る発明における必須の構成要件である「発光層が、下式
【化1】

(ここでArは、繰り返し単位を示し、芳香族環または芳香族性複素環に少なくとも1つの炭素数1〜22のアルキル、アルコキシおよびアルキルチオ基ならびに炭素数6〜22の芳香族炭化水素基から選ばれた置換基を有するアリーレン基または芳香族性複素環化合物基であり、且つ該芳香族環または芳香族性複素環が隣接する繰り返し単位の該芳香族環または芳香族性複素環と連続したπ電子共役系を形成するものであり、nは5以上の整数である。)で表される構造を有し、有機溶媒に可溶な共役系高分子よりなり、且つ陰極と該発光層との間に、該発光層に隣接して電子輸送性化合物からなる層を設けた有機エレクトロルミネッセンス素子」(以下、「本件必須構成要件」という。)が記載も示唆もされていない。
すなわち、甲第1号証には「陰極と該発光層との間に、該発光層に隣接して電子輸送性化合物からなる層を設けた有機エレクトロルミネッセンス素子」は記載ないし示唆されているといえるが、「発光層が、下式
【化1】

(ここでArは、繰り返し単位を示し、芳香族環または芳香族性複素環に少なくとも1つの炭素数1〜22のアルキル、アルコキシおよびアルキルチオ基ならびに炭素数6〜22の芳香族炭化水素基から選ばれた置換基を有するアリーレン基または芳香族性複素環化合物基であり、且つ該芳香族環または芳香族性複素環が隣接する繰り返し単位の該芳香族環または芳香族性複素環と連続したπ電子共役系を形成するものであり、nは5以上の整数である。)で表される構造を有し、有機溶媒に可溶な共役系高分子」よりなる有機エレクトロルミネッセンス素子は記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証には「発光層が、Fig.1に示されたポリ(3-アルキルチオフェン)で表される分子構造を有し、有機溶媒に可溶な共役系高分子」よりなる有機エレクトロルミネッセンス素子」は記載されているが、「陰極と該発光層との間に、該発光層に隣接して電子輸送性化合物からなる層を設けた有機エレクトロルミネッセンス素子」は記載も示唆もされていない。
(なお、参考資料1、2にも、本件必須構成要件は記載も示唆もされていない。)
これに対して、本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件必須構成要件により、その他の構成要件と相俟って、低電圧駆動で、しかも輝度が向上する(段落番号【0040】)という、本件特許明細書に記載の顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)理由2(特許法第29条の2)について
(a)請求項1に係る発明について
甲第3号証である、特願平3-221744号の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、先に4.(3)に摘記した事項が記載されている。
ところで、先願明細書に記載された事項のうち、本件特許の請求項1に係る発明における「発光層に隣接して電子輸送性化合物からなる層を設けた」に関連する記述は「これらの薄膜(注.「3,4-ジ置換複素5員環化合物の重合体の薄膜」のこと。)を形成する場合に、電極の上に直接形成する以外に、電極と発光層の間にさらに電子や正孔輸送層・・・などを先に積層させておき、これらの上にさらに積層させて形成させることもできる。」(段落番号【0012】)という記載のみである。
そこで、先願明細書に記載された「これらの薄膜を形成する場合に、電極の上に直接形成する以外に、電極と発光層の間にさらに電子や正孔輸送層・・・などを先に積層させておき、これらの上にさらに積層させて形成させることもできる。」なる記載の意義について検討すると、まず、先願明細書には前記記載の目的や効果については何ら記載していない。そして、例えば、甲第1号証及び参考資料1に示されているように、電極と発光層の間に電子輸送層や正孔輸送層などを積層させることは周知である。
してみると、前記記載の意義は、電極と発光層の間に電子輸送層や正孔輸送層などを積層させることを示す一般的な従来技術水準に基づく記載に過ぎないものと推認されるので、先願明細書には、特定の発光層に隣接して電子輸送性化合物からなる層を設けることにより、その他の構成要件と相俟って、低電圧駆動で、しかも輝度が向上する(段落番号【0040】)という、本件特許の請求項1に係る発明が記載ないし示唆されているとは認められない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は先願明細書に記載された発明と同一ではない。

なお、異議申立人は、「甲第3号証には、輝度が低く青色の発光が困難であることや、青色に発光させるためには電圧を大きくしなければならないことという従来の発光素子が有する問題を解決すること、換言すれば低電圧で輝度を高めるという本件特許と同一の効果が記載されている。」(特許異議申立書第9頁第13〜16行)と主張している。
しかしながら、先願明細書には、確かに、【発明が解決しようとする課題】の項目に、従来の発光素子は、輝度が低く青色の発光が困難であることや、電圧を大きくしなければならないといった問題があったことが記載されている(段落番号【0004】)が、これは単に従来の発光素子が有する問題点を指摘したに過ぎず、先願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された3,4-ジ置換複素5員環化合物を基本単位とする重合体を発光層として使用するとともに、それに隣接して電子輸送層を設けることにより、そのような積層構造をとらないものと比較して、低電圧駆動で、しかも輝度が向上することを記載ないし示唆するものではない。
したがって、異議申立人の主張を考慮しても上記判断に変わりはない。

(b)請求項2に係る発明について
本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の請求項1に係る発明を引用してそれをさらに技術的に限定するものであるから、上記(a)で述べた理由と同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一ではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1、2に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件特許の請求項1、2に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-05-20 
出願番号 特願平5-106483
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09K)
P 1 651・ 161- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 唐木 以知良
後藤 圭次
登録日 2002-10-25 
登録番号 特許第3362440号(P3362440)
権利者 住友化学工業株式会社
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 榎本 雅之  
代理人 中山 亨  
代理人 久保山 隆  

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