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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 G05F |
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管理番号 | 1098147 |
異議申立番号 | 異議2003-71550 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-05-07 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-06-13 |
確定日 | 2004-04-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3358326号「高圧電源装置および画像形成装置」の請求項1、3ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3358326号の請求項1、3ないし5に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.本件発明 本件特許の発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。) 「【請求項1】 AC成分にDC成分をバイアスした高電圧を出力する高圧電源装置において、 前記AC成分を発生するAC電源と、 前記AC電源に直列に接続され且つ定電流制御により前記DC成分を発生するDC電源と、 前記DC電源の出力電流によって定電圧を発生する極性で前記DC電源と直列に接続された定電圧素子と、 を備えたことを特徴とする高圧電源装置。 【請求項2】 請求項1記載の高圧電源装置において、前記定電圧素子と並列にコンデンサを設けたことを特徴とする高圧電源装置。 【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の高圧電源装置において、前記定電圧素子は、出力端のDC電圧が前記DC電源の逆極性の電圧に変化したときの少なくとも当該DC電圧値を定電圧値として持つことを特徴とする高圧電源装置。 【請求項4】 請求項3記載高圧電源装置において、定電圧素子は、ツエナーダイオードであり、前記定電圧値がクランプ電圧であることを特徴とする高圧電源装置。 【請求項5】 請求項1ないし4記載の高圧電源装置により高電圧が付加されるコロナ放電器を有することを特徴とする画像形成装置。」 2.引用刊行物 刊行物1:特開平6-27828号公報(異議申立人の提出した甲第1号証) 3.刊行物に記載された発明 当審が通知した取消しの理由に引用した刊行物1には、以下の記載がある。 ア.「【産業上の利用分野】この発明は、複写機等の画像形成装置に用いられる分離用高圧制御装置に関する。」(段落【0001】) イ.「【発明が解決しようとする課題】ところで、感光体から転写紙を分離するための分離用電極に交流高圧を印加するものでは、図7に破線で示すような交流電圧を印加すると、実線で示すような放電電流が得られる。この印加電圧Vがプラス側とマイナス側が同じ電圧であっても、放電電流Iはマイナス側が放電し易いため、プラス側よりマイナス側が大きくなる傾向にある。この放電電流Iは、交流成分電流I(ac)と、直流成分電流I(dc)の和で表わされ、この高圧出力特性を図8に示す。図8では、放電電流Iがプラス側よりマイナス側が大きくなる傾向にあるため、放電電流Iによる高圧出力特性が実使用範囲Aよりマイナス側へ外れており、実使用範囲Aに対応することができない。」(段落【0003】) ウ.「この発明は、前記の課題に鑑みてなされたもので、簡単な回路構成で、感光体電流の直流成分をプラス側とマイナス側の両方に補正し、実使用範囲の放電を行なうことができる分離用高圧制御装置を提供することを目的としている。」(段落【0009】) エ.「【実施例】以下、この発明の分離用高圧制御装置の一実施例を添付図面に基づき説明する。図1は分離用高圧制御装置を備える画像形成装置の概略構成図である。」(段落【0012】) オ.「感光体2の周囲には、帯電用電極9、現像ユニット10、転写用電極11、分離用電極12、クリーニングユニット13が配置され、光学系で感光体2上に露光された画像を現像して、転写紙14に転写して記録される。転写紙14は複数の給紙段、即ち上部より第一給紙段15、第二給紙段16、第三給紙段17、第四給紙段18にそれぞれ収容されている。各給紙段15〜18の転写紙14の上面には、それぞれ給紙ローラ19〜22が配置され、それぞれが連結する図示しない給紙駆動モータの回転により転写紙14を間欠的に送り出す。各給紙ローラ19〜22には重送防止ローラ23〜26が併設されており、転写紙14を1枚づつ次工程に送り出している。」(段落【0014】) カ.「図2は分離用高圧制御装置のブロック図、図3は分離用高圧電源の構成図、図4及び図5は電圧補正回路図、図6は高圧出力特性を示す図である。感光体2の上方に配置された帯電用電極9には、帯電用高圧電源50が接続され、感光体2の下方に配置された転写用電極11には転写用高圧電源51が接続されている。また、転写用電極11に近接して配置された分離用電極12には分離用高圧電源52が接続されている。このそれぞれの帯電用高圧電源50、転写用高圧電源51及び分離用高圧電源52は制御部53からの指令で駆動され、帯電用高圧電源50には帯電電流値指令が、転写用高圧電源51には転写電流値指令が、分離用高圧電源52には交流成分分離電流指令と、直流成分分離電流指令が出力される。 この分離用高圧電源52は、図3のように構成されている。即ち、分離用高圧電源52には、感光体2より転写紙14を分離するための定電圧交流を出力する定電圧交流回路520と、感光体2に流入する直流電流成分を補正するため交流出力に転写高圧と同一極性に可変可能な定電流補正を行う定電流補正回路521と、転写高圧と逆極性に固定定数による電圧補正を行う電圧補正回路522とを備えている。」(段落【0016】、【0017】) キ.「電圧補正回路522は、例えば図4に示すようにダイオードD1と抵抗R1の並列回路、あるいは図5に示すように定電圧ダイオードZDで構成することができ、転写高圧と逆極性に固定定数による電圧補正を行う。 このように、定電圧交流回路520で、感光体2より転写紙14を分離するための定電圧交流を出力し、定電流補正回路521で、交流出力に転写高圧と同一極性に可変可能な定電流補正を行ない、感光体2に流入する直流電流成分を補正し、電圧補正回路522で、転写高圧と逆極性に固定定数による電圧補正を行なうことで、図6に示すような高圧出力特性を得ることができる。この放電電流の直流成分電流I(ac)、直流成分電流I(dc)とも可変することができるため、実使用範囲Aに対応させることができ、しかも補正する回路構成が簡単である」(段落【0020】、【0021】) 以上の記載からみて、刊行物1には、 「感光体2より転写紙14を分離するための定電圧交流を出力する定電圧交流回路520と、感光体2に流入する直流電流成分を補正するため交流出力に転写高圧と同一極性に可変可能な定電流補正を行う定電流補正回路521と、転写高圧と逆極性に固定定数による電圧補正を行うために定電圧ダイオードZDで構成された電圧補正回路522とを備えた分離用高圧電源52、及び該分離用高圧電源52を備えた画像形成装置。」 の発明が記載されているものと認められる。 4.対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と刊行物1に記載の発明とを対比する。 刊行物1に記載の発明の「定電圧交流回路520」は、定電圧交流を出力するものであるから、本件発明1の「AC電源」に相当し、刊行物1に記載の発明の「定電流補正回路521」は、直流電流成分を補正するために定電流補正を行うものであるから、本件発明1の、定電流制御によりDC成分を発生する「DC電源」に相当し、刊行物1に記載の発明の「電圧補正回路522」は、固定定数による電圧、すなわち直流電圧により補正を行うものであるから、本件発明1の「定電圧素子」に相当する。 刊行物1に記載の発明の「分離用電源装置52」は、交流成分である定電圧交流回路520の出力に、直流成分である定電流補正回路521の出力と、同じく直流成分である電圧補正回路522の出力とを重畳するものであるから、本件発明の、AC成分にDC成分をバイアスした高電圧を出力する「高圧電源装置」に相当する。 刊行物1の図3の記載から、定電圧交流回路520と、定電流補正回路521と、電圧補正回路とは、直列に接続されている。 したがって、本件発明1と刊行物1に記載の発明とは、 「AC成分にDC成分をバイアスした高電圧を出力する高圧電源装置において、前記AC成分を発生するAC電源と、前記AC電源に直列に接続されかつ定電流制御により前記DC成分を発生するDC電源と、前記DC電源と直列に接続された定電圧素子と、を備えたことを特徴とする高圧電源装置。」 である点で一致し、以下の点で一応相違する。 [相違点1] 本件発明1では、定電圧素子はDC電源に対し、DC電源の出力電流によって定電圧を発生する極性で接続されるとされているのに対し、刊行物1に記載の発明では、定電圧素子に相当する電圧補正回路522は、転写電圧と逆極性に電圧補正を行うとされている点。 以下、上記相違点1について検討する。 刊行物1においては、定電流補正回路521と電圧補正回路522の極性を、分離用高圧電源52とは別の電源の電圧である転写高圧との対比によって規定している。すなわち、定電流補正回路521の極性は転写高圧と同一極性に可変可能であり、電圧補正回路522の極性は転写高圧と逆極性である。したがって、定電流補正回路521の極性に対し電圧補正回路522は逆極性と規定できるものである。本件発明1においても、「DC電源の出力電流によって定電圧を発生する極性」で接続されるとは、「ツェナーダイオード4はDCコンバータ回路2aと逆電圧極性となるように接続されている」(段落【0024】)との記載からみて、定電圧素子がDC電源に対し逆極性で接続されることを示していることは明らかである。 電源相互の極性の関係については、それぞれの電源内部における極性の関係とは別に、それぞれの電源の機能等から、一定の極性関係を有するべきであることは当然のことであり、それぞれの電源内部における極性の関係とは別途考慮すべきものである。 そして、本件発明1では、他の電源との極性の関係については何ら言及されていない以上、刊行物1に記載の発明において、転写高圧との関係に関わることなく、電圧補正回路522は定電流補正回路521に対し逆極性で接続される、すなわち、本件発明1でいうところの「DC電源の出力電流によって定電圧を発生する極性」で接続されると規定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 したがって、本件発明1は、刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明3について 本件発明3は、本件発明1(または2)を引用した発明であって、前記本件発明1の特許についての対比・判断で挙げた一致点・相違点に加えて、本件発明3では、「定電圧素子は、出力端のDC電圧がDC電源の逆極性の電圧に変化したときの少なくとも当該DC電圧値を定電圧値として持つ」旨の構成が付加された。 上記の構成について、刊行物1に記載の発明と更に対比・検討すると、両者は以下の点で相違する。 [相違点2] 本件発明3では、定電圧素子は、出力端のDC電圧がDC電源の逆極性の電圧に変化したときの少なくとも当該DC電圧値を定電圧値として持つものであるのに対し、刊行物1に記載の発明では、定電圧素子に相当する電圧補正回路522の出力電圧について規定していない点。 以下、上記相違点2について検討する。 刊行物1に記載の発明も、マイナス側に大きくなる高圧出力特性を補正することをその機能に含むものであるから、電圧補正回路522の出力電圧値は、マイナス側に大きくなった出力を補正し得る電圧値を出力できるものであることは明らかである。 そして、上記マイナス側に大きくなった出力を補正し得る電圧値として、マイナス側の変動幅、すなわち出力端のDC電圧がDC電源の逆極性の電圧に変化したときのDC電圧値を選択することは、設計的事項にすぎない。 したがって、本件発明3は、刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明4について 本件発明4は、本件発明3を引用した発明であって、前記本件発明1及び3の特許についての対比・判断で挙げた一致点・相違点に加えて、本件発明4では、「定電圧素子は、ツエナーダイオードであり、前記定電圧値がクランプ電圧である」旨の構成が付加された。 上記の構成について、刊行物1に記載の発明と更に対比・検討すると、前記「ツェナーダイオード」は、刊行物1の図5の記載からみても刊行物1に記載の発明の「定電圧ダイオードZD」に相当し、電圧補正回路522としてツェナーダイオード(定電圧ダイオード)を利用している以上、その出力電圧はツェナー電圧である。。 したがって、本件発明4と刊行物1に記載の発明とは、上記本件発明1及び3との対比・判断で挙げた相違点でのみ相違するので、本件発明4は、刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)本件発明5について 本件発明5は、本件発明1(ないし4)の高圧電源装置を採用した画像形成装置の発明であって、前記本件発明1の特許についての対比・判断で挙げた一致点・相違点に加えて、本件発明5では、本件発明1の高電圧装置により高電圧が付加される「コロナ放電器を有する画像形成装置」に用途を限定するものである。 そこで、本件発明5と刊行物1に記載の発明とを更に対比・検討すると、刊行物1にも、上記分離用高圧電源52を備えた画像形成装置の発明が記載されている。そして、刊行物1においても、上記3.イ.の記載からみて放電電流はマイナス側が放電し易いというコロナ放電器に見られる特性を有すること、及び画像形成装置においてはコロナ放電器が広く用いられるものであることから、刊行物1に記載の発明も、上記分離用高圧電源52により電圧が付加されるコロナ放電器を有する画像形成装置である。 したがって、本件発明5と刊行物1に記載の発明とは、上記本件発明1との対比・判断で挙げた相違点でのみ相違するので、本件発明5は、刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1、3ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2004-03-15 |
出願番号 | 特願平6-250598 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Z
(G05F)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 川端 修 |
特許庁審判長 |
三友 英二 |
特許庁審判官 |
牧 初 岩本 正義 |
登録日 | 2002-10-11 |
登録番号 | 特許第3358326号(P3358326) |
権利者 | 富士ゼロックス株式会社 |
発明の名称 | 高圧電源装置および画像形成装置 |
代理人 | 片山 修平 |