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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1098152
異議申立番号 異議2003-70504  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-25 
確定日 2004-05-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3317226号「熱圧着装置」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3317226号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3317226号の発明についての出願は、平成10年1月16日に出願されたものであって、請求項1〜8に係る発明につき平成14年6月14日に特許権の設定登録がなされた後、平成15年2月25日に特許異議申立人である佐藤義光(以下、「申立人1」という。)から請求項1〜8に係る発明の特許について、平成15年2月26日に特許異議申立人である太田眞理子(以下、「申立人2」という。)から請求項1〜8に係る発明の特許について特許異議の申立がなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月24日に訂正請求がなされた。それについて、訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月29日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項(a)
特許請求の範囲を「【請求項1】異方性導電接着フィルムを介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、被熱圧着物に接触するステージの表面がセラミックヒータから構成されており、且つステージ温度よりも加圧ヘッド温度を高温に設定し、ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置を備えていることを特徴とする熱圧着装置。
【請求項2】被熱圧着物に接触する加圧ヘッドの表面がセラミックヒータから構成されている請求項1記載の熱圧着装置。
【請求項3】セラミックヒータがパルスヒータである請求項1又は2記載の熱圧着装置。
【請求項4】更に、熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置を備えている請求項1記載の熱圧着装置。」と訂正する。
訂正事項(b)
明細書の段落【0011】を
「即ち、本発明は、異方性導電接着フィルムを介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、被熱圧着物に接触するステージの表面がセラミックヒータから構成されており、且つステージ温度よりも加圧ヘッド温度を高温に設定し、ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置を備えていることを特徴とする熱圧着装置を提供する。この場合、熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置を備えていることが更に好ましい。」と訂正する。

(2)訂正拒絶理由
上記訂正の内容について、以下のとおりの訂正拒絶理由が通知された。
訂正事項(a)における請求項4は、訂正請求書の請求の原因に「請求項5を請求項1の従属請求項とし」と記載されているとおり、特許明細書の請求項5を訂正明細書の請求項1の従属項形式の請求項としたものである。しかし、特許明細書の請求項5は独立項形式の請求項であり、特許明細書の請求項1の従属項形式の請求項ではない。そこで、特許明細書の請求項5を請求項1の従属項形式の請求項とした場合の発明が、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて検討する。
特許明細書【0011】には、「即ち、本発明は、接着膜を介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、被熱圧着物に接触するステージの表面がセラミックヒータから構成されており、且つステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置、あるいは熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置を備えていることを特徴とする熱圧着装置を提供する。」と記載されており、「ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置」、あるいは「熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置」の二つの装置は、どちらか一方のみを備える記載となっており、両装置を同時に備えることは示されていない。また、特許明細書の実験例においても、実験例1〜5はステージと加圧ヘッドとの間の温度差の調整について言及したもので、実験例6はステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルについて言及したものであり、ステージと加圧ヘッドとの間の温度差の調整とステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルの両方同時に言及している実験例はない。特許明細書又は図面のその他の箇所にも、「ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置」と「熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置」の両装置を同時に備えることを示す記載はない。
よって、特許明細書の請求項5を請求項1の従属項形式の請求項とした場合の発明は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、訂正明細書の請求項1に「異方性導電接着フィルム」及び「ステージ温度よりも加圧ヘッド温度を高温に設定し」との特定事項が追加されているにしても、特許明細書の請求項5を訂正明細書の請求項1の従属項形式の請求項とした訂正明細書の請求項4が、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるとは認められない。
訂正事項(b)は、「・・・ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置を備えていることを特徴とする熱圧着装置を提供する。この場合、熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置を備えていることが更に好ましい。」とし、「ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置」と「熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置」の両装置を同時に備えることが好ましいことを示すものであるが、これについても、訂正事項(a)と同様に、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるとは認められない。
したがって、平成15年12月24日付けの訂正請求書の訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第2項の規定に適合しない。

(3)意見書の内容
上記訂正拒絶理由に対して、出願人は意見書で「特許明細書には、「ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置」と「熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置」の二つの装置を同時に備えることが、以下の理由により実質的に記載されているものと思料します。」(意見書第2頁第9〜13行)と記載し、その理由として特許明細書の段落【0014】、【0016】、【0019】、【0021】及び【0022】の記載を基にしていると主張しているが、段落【0014】、【0016】及び【0019】の記載では、セラミックヒーターを用いるとステージと加圧ヘッドとの温度差を小さくすることができ、更にセラミックヒーター表面の温度プロファイルを意図的に設計できるという、セラミックヒーターを用いたことによる二つの利点を示しているに過ぎず、段落【0021】及び【0022】の記載では、温度調整装置を温度プロファイル制御装置として使用できることを示しているにとどまっている。このように、「ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置」とは別途、「熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置」を設置するという、二つの装置を同時に備えることについては示されていない。
したがって、上記意見書を参酌しても、上記訂正拒絶理由は解消されない。

(4)むすび
よって、平成15年12月24日付けの訂正請求書の訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正を認められない。

3.特許異議の申立についての判断
(1)本件発明
上記「2.訂正の適否についての判断」で示したように上記訂正は認められないから、本件請求項1〜8に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明8」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】接着膜を介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、被熱圧着物に接触するステージの表面がセラミックヒータから構成されており、且つステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにするための温度調整装置を備えていることを特徴とする熱圧着装置。
【請求項2】接着膜が異方性導電接着フィルムである請求項1記載の熱圧着装置。
【請求項3】被熱圧着物に接触する加圧ヘッドの表面がセラミックヒータから構成されている請求項1又は2記載の熱圧着装置。
【請求項4】セラミックヒータがパルスヒータである請求項1〜3のいずれかに記載の熱圧着装置。
【請求項5】接着膜を介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、被熱圧着物に接触するステージの表面がセラミックヒータから構成されており、且つ熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置を備えていることを特徴とする熱圧着装置。
【請求項6】接着膜が異方性導電接着フィルムである請求項5記載の熱圧着装置。
【請求項7】被熱圧着物に接触する加圧ヘッドの表面がセラミックヒータから構成されている請求項5又は6記載の熱圧着装置。
【請求項8】セラミックヒータがパルスヒータである請求項5〜7のいずれかに記載の熱圧着装置。」

(2)取消理由の概要
本件発明1〜8は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
刊行物1:特開平7-130795号公報(申立人1の提示した甲第1号証、申立人2の提示した甲第1号証)
刊行物2:特開平9-219417号公報(申立人2の提示した甲第2号証)
刊行物3:特開平9-260445号公報(申立人2の提示した甲第4号証)
刊行物4:特開平3-104134号公報(申立人1の提示した甲第2号証、申立人2の提示した甲第7号証)
刊行物5:特開平8-8530号公報(申立人2の提示した甲第6号証)

(3)各刊行物の記載事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】被接続基板上に異方導電性接着シートを介して半導体素子を配置する工程と、
温度を変えることの出来る可変温度ステージ上に前記被接続基板を配置した後、その可変温度ステージを昇温し前記被接続基板を加熱する工程と、
前記被接続基板の温度が前記異方導電性接着シートの硬化開始温度以上の一定値に到達した後、前記被接続基板温度と実質上等しい温度の加圧装置にて、前記被接続基板及び/又は半導体素子を所定の時間加圧、加熱する工程と、
を備えたことを特徴とする半導体素子接続方法。
【請求項2】加熱および冷却機構を有する、異方導電性接着シートを介して半導体素子が配置された被接続基板を設置するための、設置ステージと、
前記被接続基板及び/又は半導体素子を加圧、加熱する、所定の温度に制御された加圧装置と、
を備えたことを特徴とする半導体素子接続装置。」(特許請求の範囲)
(1b)【図3】、【図8】、【図9】には、「温度コントローラ」が示されている。
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】熱硬化性樹脂を介して被実装体にフェイスダウン方式で半導体装置を実装し、チップモジュールを作製するに際し、
作製するチップモジュールの被実装体側と半導体装置側との両側より、該被実装体側と半導体装置側とが略同等の熱プロファイルとなるようにして加熱し、被実装体と半導体装置との間の熱硬化性樹脂を硬化させ、
その後、作製するチップモジュールの被実装体側と半導体装置側との両側より、該被実装体側と半導体装置側とが略同等の熱プロファイルとなるようにして冷却することを特徴とする半導体装置の実装方法。
【請求項2】被実装体とこれの上に硬化前の熱硬化性樹脂を介してフェイスダウン方式に載置される半導体装置とを、前記熱硬化性樹脂を熱硬化させることにより該被実装体に半導体装置を実装してチップモジュールを作製する実装装置であって、
前記被実装体側と半導体装置側とのうちの一方の側を載置するステージと、
前記被実装体側と半導体装置側とのうちの他方の側の面を押圧するツールと、
前記ツールを加熱することによって該ツールを介して前記被実装体、熱硬化性樹脂、半導体装置を所定温度に加熱する加熱手段と、
前記ツールを冷却することによって該ツールを介して前記被実装体、熱硬化性樹脂、半導体装置を所定温度に冷却する冷却手段とを備え、
かつ、前記ステージを加熱することによって該ステージを介して前記被実装体、熱硬化性樹脂、半導体装置を所定温度に加熱する加熱手段と、
前記ステージを冷却することによって該ステージを介して前記被実装体、熱硬化性樹脂、半導体装置を所定温度に冷却する冷却手段とを備えたことを特徴とする半導体装置の実装装置。」(請求項1、2)
(2b)「この状態で温度制御装置16、温度制御装置26による制御を行いつつツール12側のヒータチップ14、およびステージ21側のヒータチップ22に通電し、これらヒータチップ14、22によってツール12およびステージ21を所定時間加熱する。」(【0022】)
(2c)「接続箇所に予め配した熱硬化型(熱硬化性)の異方導電性樹脂(以下、ACFと称する)を挟んで双方の電極を圧接する」(【0002】)
引用例3には、以下の事項が記載されている。
(3a)「前記ヒータブロックと前記ヒータが、半導体チップ・基板等のワークを吸着する吸着孔を中心軸としさらにワークを加熱する円板状のセラミックヒータと、前記セラミックヒータの吸着孔の中心軸と同軸に接合し中心軸にワーク吸着用の穴があり外周の固定部をテーパ状にし先端に雄ネジを有するヒータ支持棒とする請求項1記載の加熱ステージ。」(請求項2)
(3b)「本発明は加熱ステージ、特に、半導体素子の高精度搭載や・・・など加熱冷却時のステージの熱変動を抑える必要のある加熱ステージに関する。」(【0001】)
(3c)「本発明の加熱ステージは、・・・、加熱冷却時のステージの熱変動を抑える必要のある半導体素子の高精度搭載や・・・などに適用できるという効果がある。
さらに、ヒータをセラミックヒータとしワークを直接加熱することにより、急速加熱を行うこともできるという効果もある。」(【0020】【0021】)
引用例4には、以下の事項が記載されている。
(4a)「発熱体を内在させたファインセラミックスを熱圧着ヘッドに用いることを特徴とする熱圧着ヘッド。」(特許請求の範囲)
(4b)「第1図に於いて、予め液晶OLB用熱圧着ヘッド下に設置されたOLBワーク(液晶セル8の各辺上に異方性導電膜を介してFPC9を予備接合したもの)へ、導線11を介して発熱体10へ電源を加えセラミックヒーター1下部(熱圧着面)を加熱した液晶OLB用熱圧着ヘッドを降下し、EPC9をセラミックヒーター1や液晶OLB用熱圧着ヘッド全体で各々加熱、加圧しながら、発熱体10への電流を変化させることにより熱圧着面の温度を短時間に変化させて熱圧着を行う。
また、本発明の熱圧着ヘッドは、この液晶OLBの他にもインナーリードボンディング(ILB)やチップオンボード(COB)等の各種実装方式に使用できる。」(第2頁右上欄第19行〜左下欄第13行)
(4c)「以上述べた様に本発明によれば、発熱体を内在させたファインセラミックスを熱圧着ヘッドに用いることにより、・・・、そのため熱圧着途中の温度変更を短時間で可能にするとともに、高温高圧時の熱圧着精度及び熱圧着ヘッド強度の維持が可能になり、被熱圧着物の品質が向上、安定化するという効果を有する。」(第2頁左下欄第15行〜右下欄第2行)
引用例5には、以下の事項が記載されている。
(5a)「【請求項1】所定の半導体チップを所定の配線パターンが形成された配線基板に接続して前記半導体チップを前記配線基板に装着するための半導体チップの装着装置において、前記半導体チップおよび前記配線基板を載置する載置台を配設するとともに、この載置台の上方に前記半導体チップの端子部分を押圧する溶融押圧部が形成されたヒータチップを昇降自在に配設し、このヒータチップの内部にヒータを埋設したことを特徴とする半導体チップの装着装置。
【請求項2】前記ヒータにパルスヒート方式の電源を用いて通電することにより、前記ヒータチップを所定温度に加熱させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の半導体チップの装着装置。
【請求項3】前記ヒータをセラミックヒータにより形成したことを特徴とする請求項1に記載の半導体チップの装着装置。」(請求項1〜3)

(4)対比・判断
本件発明1について
摘記事項(1a)の「異方導電性接着シート」、「加圧装置」、「半導体接続装置」は、順に本件発明1の「接着膜」、「加圧ヘッド」、「熱圧着装置」に相当し、そして、摘記事項(1a)の「被接続基板」及び「半導体素子」は、本件発明1の「被熱圧着物」に相当している。また、摘記事項(1b)の「温度コントローラ」は本件発明1の温度調整装置に相当している。してみれば、刊行物1には、摘記事項(1a)及び(1b)によれば、「接着膜を介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、前記被熱圧着物の温度が前記接着膜の硬化開始温度以上の一定値に到達した後、前記被熱圧着物温度と実質上等しい温度の加圧装置にて、前記二つの被熱圧着物又は片方の被熱圧着物を所定の時間加圧、加熱する温度調整装置を備えている熱圧着装置」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されている。
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、「接着膜を介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、温度調整装置を備えている熱圧着装置」の点で一致しているが、本件発明1の「ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにする」こと(相違点1)及び「被熱圧着物に接触するステージの表面がセラミックヒータから構成」されていること(相違点2)が刊行物1記載の発明には明示されていないことで一応相違する。
相違点1について検討するに、刊行物1記載の発明の「前記被熱圧着物の温度が前記接着膜の硬化開始温度以上の一定値に到達した後、前記被熱圧着物温度と実質上等しい温度の加圧装置にて、前記二つの被熱圧着物又は片方の被熱圧着物を所定の時間加圧、加熱する」において、被熱圧着物はステージ上に載置されており、摘記事項(1a)にそのステージが「温度を変えることの出来る可変温度ステージ」と記載されているように、被熱圧着物の温度はステージの温度によって調整されるものであるから、被熱圧着物温度はステージの温度と同等であることは明らかである。してみれば、「前記被熱圧着物温度と実質上等しい温度の加圧装置」は、ステージと加圧ヘッドは実質上等しい温度であることを示しており、本件発明1の「ステージと加圧ヘッドとの間の温度差が熱圧着の際に50℃以内となるようにする」ことを満たしていることは自明のことである。したがって、相違点1については、本件発明1と刊行物1記載の発明においては実質的な相違点とは認められない。
次に相違点2について検討するに、刊行物3〜5に記載されているように、半導体素子の基板への装着等の際の加熱手段としてセラミックヒータを用いることは本出願前周知慣用手段でり、さらに、刊行物3には、ステージをセラミックヒータとしてワークを直接加熱すること、すなわち、被加熱物に接触するステージの表面がセラミックヒータから構成されていることが示されており、刊行物4には、その装着が熱圧着によるものであることも示されている。してみれば、刊行物1記載の発明において、被熱圧着物を加熱する際に、被熱圧着物に接触するステージの表面をセラミックヒータで構成することによって被熱圧着物を加熱することは、当業者が適宜なし得る程度のことであり、また、本件発明1の接続性の高い熱圧着が可能であるという効果も、刊行物3の摘記事項(3b)、(3c)、刊行物4の(4c)の記載から、当然予期される効果に過ぎない。
したがって、本件発明1は、刊行物1、3〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明2〜4について
本件発明2は、本件発明1にさらに「接着膜が異方性導電接着フィルムである」ことを追加する発明であるが、刊行物1の「異方導電性接着シート」は 「異方性導電接着フィルム」に他ならない。
本件発明3は、本件発明1又は2にさらに「被熱圧着物に接触する加圧ヘッドの表面がセラミックヒータから構成されている」ことを追加する発明であるが、刊行物4には、熱圧着する際の加圧ヘッドにセラミックヒータを用いることが記載されており、特に摘記事項(4b)に「セラミックヒーター1下部(熱圧着面)」と記載されていることから、「被熱圧着物に接触する加圧ヘッドの表面がセラミックヒータから構成されている」ことは明らかである。
本件発明4は、本件発明1〜3のいずれかに「セラミックヒータがパルスヒータである」ことを追加する発明であるが、刊行物5には、セラミックヒータがパルスヒータであることが記載されている。
したがって、本件発明2〜4についても、引用例1、3〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明5について
摘記事項(2a)における「熱硬化性樹脂」、「被実装体」、「実装装置」、「押圧するツール」は、順に本件発明5の「接着膜」、「被熱圧着物」、「熱圧着装置」、「加圧ヘッド」に相当し、摘記事項(2b)における「温度制御装置」は、本件発明5の「温度プロファイル制御装置」に相当している。また、摘記事項(2a)の「被実装体側」、「半導体装置側」とは、摘記事項(2b)の「前記被実装体側と半導体装置側とのうちの一方の側を載置するステージと、前記被実装体側と半導体装置側とのうちの他方の側の面を押圧するツール」、「前記ツールを加熱することによって該ツールを介して前記被実装体、熱硬化性樹脂、半導体装置を所定温度に加熱する加熱手段」及び「前記ステージを加熱することによって該ステージを介して前記被実装体、熱硬化性樹脂、半導体装置を所定温度に加熱する加熱手段」との記載によれば、本件発明5の「ステージ」、「加圧ヘッド」と同等であることから、摘記事項(2a)の「被実装体側と半導体装置側とが略同等の熱プロファイルとなるようにして加熱し」とは、本件発明5の「ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにする」ことに他ならない。してみれば、刊行物2には、摘記事項(2a)及び(2b)によれば、「接着膜を介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置を備えている熱圧着装置」(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されている。
本件発明5と刊行物2記載の発明とを対比すると、「接着膜を介して少なくとも二つの被熱圧着物を互いに熱圧着するための熱圧着装置であって、被熱圧着物を載せるためのステージと、ステージに載せられた被熱圧着物を加圧するための加圧ヘッドとを有する熱圧着装置において、熱圧着の際に、ステージ及び加圧ヘッドのそれぞれの温度プロファイルが略同一になるようにするための温度プロファイル制御装置を備えている熱圧着装置」の点で一致しているが、本件発明5の「被熱圧着物に接触するステージの表面がセラミックヒータから構成」されていることが刊行物2記載の発明には示されていないことで相違する。
上記相違点は、本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点2と同じであるから、刊行物3〜5の記載を参酌すれば、刊行物2記載の発明において、被熱圧着物を加熱する際に、被熱圧着物に接触するステージの表面をセラミックヒータで構成することによって被熱圧着物を加熱することは、当業者が適宜なし得る程度のことであり、また、本件発明5の接続性の高い熱圧着が可能であるという効果も、当然予期される効果に過ぎない。
したがって、本件発明5は、刊行物2〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本件発明6〜8について
本件発明6は、本件発明5にさらに「接着膜が異方性導電接着フィルムである」ことを追加する発明であるが、摘記事項(2c)に「接続箇所に予め配した熱硬化型(熱硬化性)の異方導電性樹脂(以下、ACFと称する)を挟んで双方の電極を圧接する」と記載され、ここでACFとはAnisotropic Conductive Filmであるから、刊行物2には異方性導電接着フィルムが記載されている。
本件発明7、8については、本件発明3、4と本件発明1との関係と同様、本件発明5又はその下位の発明に順に「被熱圧着物に接触する加圧ヘッドの表面がセラミックヒータから構成されている」、「セラミックヒータがパルスヒータである」ことを追加する発明であるから、これらについては刊行物4、5に記載されている。
したがって、本件発明6〜8についても、引用例2〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜8は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜8についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜8についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-03-30 
出願番号 特願平10-7075
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 川真田 秀男北島 健次  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 伊藤 明
三崎 仁
登録日 2002-06-14 
登録番号 特許第3317226号(P3317226)
権利者 ソニーケミカル株式会社
発明の名称 熱圧着装置  
代理人 田治米 惠子  
代理人 田治米 登  

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