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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K |
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管理番号 | 1098161 |
異議申立番号 | 異議1998-70056 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-11-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-01-08 |
確定日 | 2004-06-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2629144号「ケラチン繊維の酸化染色組成物および該染色組成物を用いた染色方法」の請求項1ないし20に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2629144号の請求項1ないし20に係る特許を取り消す。 |
理由 |
[1]手続きの経緯 本件特許第2629144号の請求項1〜20に係る発明は、平成7年5月8日に出願(優先権主張1994年5月9日 フランス)され、平成9年4月18日にその特許の設定登録がなされ、特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年7月27日に特許異議意見書が提出されたものである。 [2]本件特許発明 本件の請求項1〜20に係る各発明は、特許明細書の記載からみて、請求項1〜20に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 使用時に組成物(A)と組成物(B)を混合して得られる、ケラチン繊維を酸化染色する染色組成物であって、 一方の組成物(A)は、染色に適した媒体中に、 - 式(I) 【化1】 (上式において、- R1は、水素原子もしくはC2-C6のモノ-またはポリヒドロキシアルキル基を示し、 - R2は、C2-C6のモノ-またはポリヒドロキシアルキル基、β-アミノエチル基もしくは以下の式(II)で表される基 【化2】 を示す)で表される少なくとも一つの酸化染料前駆物質、もしくは該酸化染料前駆物質の化粧品に許容される少なくとも一つの塩類と、 - メタアミノフェノール、2-メチル-5-アミノフェノール、メタジフェノール、2-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンおよびこれらの化合物の化粧品に許容される塩類からなる群から選択された少なくとも一つのカップラーとを含有し、もう一方の組成物(B)は、染色に適した媒体中に少なくとも一つの酸化剤を含有し、 該組成物(A)を該組成物(B)と0.5〜5の範囲の重量比で混合して得られた染色組成物のpHが7未満とされたことを特徴とする染色組成物。 【請求項2】 式(I)で表される化合物およびカップラーの塩類が、ヒドロクロリド、ヒドロブロミド、スルファートおよび酒石酸塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の染色組成物。 【請求項3】 R1に定義されるC2-C6のモノ-またはポリヒドロキシアルキル基が、β-ヒドロキシエチル基またはβ,γ-ジヒドロキシプロピル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の染色組成物。 【請求項4】 式(I)で表される化合物が、N,N-ビス(β-ヒドロキシエチル)アミノ-パラ-フェニレンジアミン、1-アミノ-4-(N-β-ヒドロキシエチル-N-β-アミノエチル)アミノベンゼン、N,N′‐ビス(β-ドロキシエチル)-N,N′-ビス(4′-アミノフェニル)-1,3-ジアミノ-2-プロパノールおよび化粧品に許容される上記化合物の塩類からなる群から選択されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項5】 酸化剤が、過酸化水素、過酸化尿素、アルカリ金属ブロマート類、およびペルボラートおよびペルスルファート等の過塩類からなる群から選択されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項6】 pHが3〜7の値を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項7】 組成物(A)のpHが、3〜11の間とされたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項8】 組成物(B)のpHが、7未満の値とされたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項9】 式(I)で表される酸化染料前駆物質が、得られた染色組成物の全重量に対して好ましくは0.01〜4重量%の間とされる割合で存在することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項10】 メタアミノフェノールおよび/または2-メチル-5-アミノフェノールおよび/またはメタ-ジフェノールおよび/または2-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンおよび/またはこれらの塩類が、染色組成物の全重量に対して0.005〜5重量%の間の割合で存在することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項11】 組成物(A)が、式(I)で表される染料前駆物質に加えて他のパラ型またはオルト型の酸化染料前駆物質および/または請求項1に記載したカップラーと異なる他のカップラーおよび/または直接染料を含有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項12】 染色に適切な媒体が、水もしくは、水とC1-C4の低級アルカノール類、グリセロール類、グリコール類、グリコールエーテル類、芳香族アルコール類およびこれらの混合物からなる群から選択された溶媒との混合物からなることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の染色組成物 【請求項13】 陰イオン性、陽イオン性、非イオン性、両性または双性界面活性剤もしくはこれらの混合物、増粘剤、酸化防止剤および/または化粧品に許容される他のアジュバントをさらに含有することを特徴とする請求項1ないし1 2のいずれか1項に記載の染色組成物。 【請求項14】 使用する際に組成物(A)と組成物(B)とを混合し、得られた染色組成物を、ケラチン繊維に適用してケラチン繊維を酸化染色する染色方法であって、一方の組成物(A)は、染色に適した媒体中に、 - 式(I) 【化3】 (上式において、 - R1は、水素原子もしくはC2-C6のモノ-またはポリヒドロキシアルキル基を示し、 - R2は、C2-C6のモノ-またはポリヒドロキシアルキル基、β-アミノエチル基もしくは以下の式(II)で表される基 【化4】 を示す)で表される少なくとも一つの酸化染料前駆物質、もしくは該酸化染料前駆物質の化粧品に許容される少なくとも一つの塩類と、 - メタアミノフェノール、2-メチル-5-アミノフェノール、メタジフェノール、2-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンおよびこれらの化合物の化粧品に許容される塩類からなる群から選択された少なくとも一つのカップラーとを含有し、もう一方の組成物(B)は、染色に適した媒体中に少なくとも一つの酸化剤を含有し、 前記組成物(A)および前記組成物(B)のpHは、該組成物(A)を該組成物(B)と0.5〜5の範囲の重量比で混合した後に、得られた染色組成物のpHが7未満となるようにされたことを特徴とする染色方法。 【請求項15】 式(I)で表される化合物が、N,N-ビス(β-ヒドロキシエチル)アミノ-パラ-フェニレンジアミン、1-アミノ-4-(N-β-ヒドロキシエチル-N-β-アミノエチル)アミノベンゼン、N,N′-ビス(β-ヒドロキシエチル)-N,N′-ビス(4′-アミノフェニル)-1,3-ジアミノ-2-プロパノールおよび化粧品に許容される上記化合物の塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項14記載の染色方法。 【請求項16】 酸化剤が、過酸化水素、過酸化尿素、アルカリ金属ブロマート類、およびペルボラートおよびペルスルファート等の過塩類からなる群から選択されることを特徴とする請求項14または15に記載の染色方法。 【請求項17】 前記繊維に適用される染色組成物のpHが、3〜7の間とされることを特徴とする請求項14ないし16のいずれか1項に記載の染色方法。 【請求項18】 前記染色組成物を前記繊維に適用して10分未満の待ち時間をとることを特徴とする請求項14ないし17のいずれか1項に記載の染色方法。 【請求項19】 前記染色組成物を前記繊維に適用して3〜5分の待ち時間をとることを特徴とする請求項14ないし18のいずれか1項に記載の染色方法。 【請求項20】 少なくとも二つの区分を備え、第一の区分が請求項1ないし13のいずれか1項に記載の組成物(A)を含有し、かつ第二の区分が請求項1ないし13のいずれか1項に記載の組成物(B)を含有することを特徴とする染色用キットまたは多区分ユニット。 [3]特許異議申立について 1.特許異議申立人 ホーユー株式会社は、甲第1号証(特開平4-235909号公報)、甲第2号証(特開平6-107530号公報)、甲第3号証(特開昭61-78714号公報)、参考資料1(特許第2629144号公報)を提出して、本件請求項1〜20に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべき旨主張する。 2.当審が取消理由通知に引用した刊行物及び刊行物の記載事項 刊行物1.「特開平4-235909号公報」(異議申立人ホーユー株式会社の提出した甲第1号証) 刊行物1には以下の点が記載されている。 (1)特許請求の範囲 【請求項1】 染色に適する媒体中に、 ・カップラーとしての少くとも一つの2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼンまたはその塩の一つ、 ・少くとも一つの酸化染料前駆体、 ・少くとも一つの酸化剤 を含有するpHが7より低い組成物をケラチン繊維、特に毛髪のようなヒトのケラチン繊維に適用することを特徴とする、ケラチン繊維の染色方法。 【請求項2】 酸化染料前駆体をパラフェニレンジアミン、パラ-アミノフェノール、パラ複素環前駆体のうちから選択する、請求項1記載の方法。 【請求項3】 パラフェニレンジアミンを式: 【化1】 (式中、同一であるか異なるかR1 、R2およびR3は水素または……………アルコキシ基を表わし、同一であるか異なるかR4およびR5は、水素原子、アルキル、ヒドロキシアルキル、……………………モルホリノアルキル基を表わし、これらのアルキルまたはアルコキシ基が炭素原子1〜4個をもち、あるいはR4およびR5は………………水素原子を表わす)に相当する化合物及びその塩のうちから選択するが、2,6-ジメチルパラフェニレンジアミンおよび2,3-ジメチルパラフェニレンジアミンは除外する、請求項2記載の方法。 【請求項4】 式(I)の化合物を、遊離塩基または塩の形の………………N,N-ジ-(β-ヒドロキシエチル)パラフェニレンジアミン、………………のうちから選択する、請求項2または3に記載の方法。 ………………………………………………………………………………………… 【請求項6】 酸化染料前駆体が、オルト-アミノフェノールおよびオルトフェニレンジアミンのうちから選択するオルト型の酸化染色前駆体である、請求項1記載の方法。 【請求項7】 酸化剤を過酸化水素、過酸化尿素、アルカリ金属の臭素酸塩、過酸塩のうちから選択する、請求項1から6のいづれか1項に記載の方法。 【請求項8】 ケラチン繊維に適用する組成物のpHが3〜6.9の範囲にある、請求項1から7のいづれか1項に記載の方法。 【請求項9】 ケラチン繊維の染色に用いる組成物が、2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼンに加えて、メタジフェノール、メタアミノフェノール、…………α-ナフトール;ジケトン化合物およびピラゾロンのうちから選択する活性メチレン基を有するカップラーのうちから選択する他のカップラーを含有する、請求項1から8のいづれか1項に記載の方法。 【請求項10】 カップラーを、………………、メタアミノフェノール、………………………2-メチル-5-アミノフェノール……………およびこれらの塩のうちから選択する、請求項9記載の方法。 【請求項11】 組成物が陰イオン、陽イオン、非イオン、両性界面活性剤またはこれらの混合物、増粘剤、酸化防止剤および(または)化粧品として許容できる他のあらゆる補助剤を含有する、請求項1から10のいづれか1項に記載の方法。 【請求項12】 染色に適する媒体が、水または、水とC1〜C4低級アルカノール、グリセロール、グリコールもしくはグリコールエーテル、ジエチレングリコールおよびモノメチルエーテル、芳香族アルコールまたはこれらの混合物のうちから選択する溶媒との混合物からなる、請求項1から11のいづれか1項に記載の方法。 【請求項13】 染色に適する媒体中に2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼンカップラーと、請求項2から6のいづれか1項に記載するごとき酸化染料前駆体とを含有する組成物からなる成分(A)および、染色に適する媒体中に酸化剤を含有する組成物からなる成分(B)という少くとも二つの成分を染色剤が含有し、………………………毛髪の染色剤。 ………………………………………………………………………………………… 【請求項22】 毛髪に組成物を適用しかつ3〜40分間にわたって組成物を放置し、毛髪をリンスし必要ならばシャンプーしかつ改めてリンスし乾燥する、請求項1から12のいづれか1項に記載の染色方法。 …………………………………………………………………………… (2)発明の詳細な説明 段落【0017】:「これらのパラ型酸化染料前駆体は、遊離塩基の形でまたは塩酸塩、臭化水素酸塩もしくは硫酸塩のような塩の形で染色組成物中に導入することができる。」 段落【0023】:「ケラチン繊維の染色に適用する上記に規定する組成物は、2,4一ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼンに加えて、メタジフェノール、メタアミノフェノール、……………………のような活性メチレン基をもつカップラーのごときそれ自体知られた他のカップラーも含有してよい。」 段落【0031】:「本発明の好ましい一態様に従う場合、本方法は、一方で、染色に適する媒体中に2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼンと酸化染料前駆体とを含有する組成物を成分(A)の形で、そして他方、上記に規定したごとき酸化剤を含有する組成物を成分(B)の形で、別個な形で保存しておき、かつ上記したように、ケラチン繊維に混合物を適用する前にこれら両成分をその場で混合することからなる予備段階を包含する。………………」 段落【0032】:「ケラチン繊維に適用する本組成物は、10%から90%の成分(A)と90%から10%の酸化剤を含有する成分(B)とを混合して得る。」 段落【0034】:「この実施態様において、少くとも2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼンと酸化染料前駆体とを含有する成分(A)は3〜10.5の範囲のpHを有し、……………所定のpH値に調整することができる。」 段落【0035】:「本組成物は、上記したごとき他の種々な補助剤、特に2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼン以外のカップラーを含有してよい。」 段落【0038】:「上記に規定した酸化剤を含有する成分(B)は7より低いpHをもつ。……………………………………………」 段落【0039】:「二つの成分をもつ本染色剤は、区画部の一つに成分(A)が入っており、第二の区画部に成分(B)が入っている、複数の区画部のある用具または染色キット中にあるいは複数の区画部をもつ他のあらゆる包装物中に包装されてよく、…………………………………」 段落【0041】:「本発明に従う染色法法は、得られる混合物を毛髪に適用し、3〜40分間放置し、次いで毛髪をリンスしかつ必要ならシャンプーすることからなる。」 段落【0043】〜【0048】の実施例には、2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼン,2HCl(必須のカップラー)、パラフェニレンジアミン、パラアミノフェノール、2-メチルパラフェニレンジアミン,2HClなどの酸化染料前駆体、2-メチル5-N-(β-ヒドロキシエチルアミノ)フェノール、メタアミノフェノール、α-ナフトールなどの任意のカップラー、を使用した染料組成物(A)、と過酸化水素溶液(B)を等量混合した染色組成物について具体的に毛髪に適用した実験結果が記載されている。 3.刊行物1との対比判断 (1)本件請求項1に係る発明について 刊行物1の第2頁請求項4には酸化染料前駆体としてN,N-ジ-(β-ヒドロキシエチル)パラフェニレンジアミンが記載されており、これは本件請求項1の式(I)においてR1およびR2がいずれもモノ-ヒドロキシアルキル基である化合物に該当するものである。 また、刊行物1の発明は、カップラーとして少なくとも一つの2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼンまたはその塩(以後必須カップラーということあり)の一つを含有するものであり(請求項1)、このことはこの必須カップラー以外のカップラーをも併用する場合があることを意味しており、段落【0023】および段落【0035】では必須カップラー以外のカップラーを含有してもよいと記載され、また、刊行物1の請求項9にはこの必須カップラー以外のカップラーとしてメタジフェノールやメタアミノフェノールが含有されることおよび同第3頁請求項10にはそのようなカップラーとして2-メチル-5-アミノフェノールも記載されている。 そして、本件請求項1に係る発明は「……………なる群から選択された少なくとも一つのカップラーとを含有し…………」と言うものであるから、それ以外のカップラーを併用する場合を排除してはいないといえる。 そうであるとすると、本件請求項1に記載された特定の酸化染料前駆物質とカップラーの組み合わせについては、刊行物1に記載されていたといえる。 そして、酸化染料前駆体とカップラーを含有する成分(A)と酸化剤を含有する成分(B)に分けておき、使用時に混合してケラチン繊維に適用することは刊行物1の段落【0031】に記載され、また、酸化剤は染色に適した媒体中に含有させることは当然且つ自明のことであり、そのことは刊行物1の請求項13の記載からもわかることである。また、刊行物1の実施例においても酸化剤は染色媒体中に含有させ、予め作った(A)と(B)はその場で混合している。 また、刊行物1の段落【0032】で成分(A)と成分(B)がそれぞれ90%〜10%の範囲で混合されることが記載され(実施例では等量混合)、このことは本件請求項1の「(A)を(B)と0.5〜5の範囲の重量比で混合すること」と重複する範囲を有するものである。 さらに組成物のpHの範囲が両者の発明で一致している。 以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明の技術的事項は実質的にすべて刊行物1に記載されたものであるということができる。 したがって、本件請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 これについて特許権者は、刊行物1に係る発明は2,4-ジアミノ-1,3-ジメトキシベンゼンを必須のカップラーとして使用するものであり、これと本件請求項1に係る発明で使用するカップラーは相違するというが、上述の如く、本件請求項1に係る発明は二者以上のカップラーの併用を排除するものではなく、また、刊行物1の発明もその点は同様であるから、この点で両者の発明が相違するということはできない。 また、特許権者は、酸化染料前駆体とカップラーの組み合わせについて、それぞれに属する化合物群から特定のものを組み合わせたことにより従来のものより優れるという技術的意義が存在し、そのような組み合わせは刊行物1からは把握されない旨、主張するが、上述の如く、刊行物1の請求項1と請求項2〜5、請求項9〜10の記載から、本件請求項1の酸化染料前駆体とカップラーの組み合わせは見えてくるのであり、また、本件明細書の記載を見ても従来のものに較べて優れているとする比較例も示されていないのであるから、かかる主張は採用できない。 (2)本件請求項2に係る発明について 請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の式(I)で表される化合物およびカップラーの塩類が、ヒドロクロリド、ヒドロブロミド、スルファートおよび酒石酸塩からなる群から選択されるものであるとの限定を付すものである。 一方、刊行物1の段落【0017】には染料前駆体が塩酸塩や硫酸塩の形で組成物中に導入されることが示されている。 そうすると、請求項2に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (3)本件請求項3に係る発明について 請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の式(I)中のR1基がβ-ヒドロキシエチル基またはβ,γ-ジヒドロキシプロピル基であるとの限定を付すものである。 一方、刊行物1の請求項4に記載の酸化染料前駆体であるN,N-ジ-(β-ヒドロキシエチル)パラフェニレンジアミンは本件請求項1の式(I)に相当する化合物である。 そうすると、請求項3に係る発明も刊行物1記載の発明と同一である。 (4)本件請求項4に係る発明について 請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の式(I)で表される化合物をN,N-ビス(β-ヒドロキシエチル)アミノ-パラ-フェニレンジアミン、等の化合物に特定するものであるが、N,N-ビス(β-ヒドロキシエチル)アミノ-パラ-フェニレンジアミンと刊行物1の請求項4に記載の酸化染料前駆体のN,N-ジ-(β-ヒドロキシエチル)パラフェニレンジアミンは正に本件請求項1の式(I)に相当する化合物であるから、請求項4に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (5)本件請求項5に係る発明について 請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明で使用する酸化剤を、過酸化水素、過酸化尿素、アルカリ金属ブロマート(即ち臭素酸塩)、等の化合物に特定するものである。 一方、刊行物1の請求項7には酸化剤として過酸化水素、過酸化尿素、アルカリ金属の臭素酸塩が記載されている。 そうすると、請求項5に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (6)本件請求項6に係る発明について 請求項6に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の組成物のpHを3〜7と範囲を規定するものである。 一方、刊行物1の請求項8には組成物のpHを3〜6.9の範囲とすることが記載されている。 そうすると、請求項6に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (7)本件請求項7に係る発明について 請求項7に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の組成物(A)のpHを3〜11と規定するものであるが、刊行物1の段落【0034】には成分(A)のpHを3〜10.3とすることが記載されているので、請求項7に係る発明も刊行物1記載の発明と同一である。 (8)本件請求項8に係る発明について 請求項8に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の組成物(B)のpHを7未満と規定するものであるが、刊行物1の段落【0038】には成分(B)のpHを7未満とすることが記載されている。 そうすると、請求項8に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (9)本件請求項9に係る発明について 請求項9に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の式(I)で表される酸化染料前駆物質の染色組成物の全重量に対する割合を0.01〜4重量%とするものであるが、刊行物1の実施例においては、酸化染料前駆体(具体的に使用されている化合物は本件請求項1に係る発明の式(I)の化合物ではないが)は染色組成物全体(即ち酸化剤を含めて全200g)中0.324〜0.553g(即ち、0.16〜0.0.27重量%)の割合で使用されているのであるから、刊行物1において本件発明の式(I)に含まれる酸化染料前駆物質であるN,N-ジー(β-ヒドロキシエチル)パラフェニレンジアミンを用いる場合であっても、その使用割合がこれと大きく異なるものとは考え難いことを考慮すると、請求項9に係る発明も刊行物1記載の発明と実質的に同一である。 (10)本件請求項10に係る発明について 請求項10に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明のカップラーとして使用されるメタアミノフェノール、2-メチル-5-アミノフェノール、メタジフェノール、2-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンおよび/またはこれらの塩類の染色組成物の全重量に対する割合を0.005〜5重量%とするものであるが、刊行物1の実施例においては、カップラー(具体的に使用されている化合物は本件請求項1に係る発明で必須のカップラーとして使用する化合物ではないものもあるが)は染色組成物全体(即ち酸化剤を含めて全200g)中0.723〜0.816g(即ち、0.36〜0.41重量%)の割合で使用されているのであるから、刊行物1において本件発明でカップラーとして使用する化合物を用いる場合であっても、その使用割合がこれと大きく異なるものとは考え難いことを考慮すると、請求項10に係る発明も刊行物1記載の発明と実質的に同一である。 (11)請求項11に係る発明について 請求項11に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明に他のパラ型またはオルト型酸化染料前駆物質を併用することおよび/または他のカップラーを併用することを要件とするものであるが、刊行物1の請求項1には、カップラーとして少なくとも一つのと記載され、また、少なくとも一つの酸化染料前駆体と記載され、他の酸化染料前駆体やカップラーを併用することが示唆されており、また、刊行物1の請求項2にはパラ型、請求項5にはオルト型の酸化染料前駆体も記載されているのであるから、本件請求項11に係る発明も刊行物1記載の発明と実質的に同一である。 (12)請求項12に係る発明について 請求項12に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明で使用する染色に適切な媒体について、それが水もしくは、水とC1-C4の低級アルカノール類、グリセロール類、グリコール類、グリコールエーテル類、芳香族アルコール類およびこれらの混合物からなる群から選択された溶媒との混合物からなるものであることを規定するものである。 一方、刊行物1の請求項12には、水または、水とC1〜C4低級アルカノール、グリセロール、グリコールもしくはグリコールエーテル、ジエチレングリコールおよびモノメチルエーテル、芳香族アルコールまたはこれらの混合物のうちから選択する溶媒との混合物からなる媒体が記載されている。 そうすると、請求項12に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (13)請求項13に係る発明について 請求項13に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の染色組成物にさらに混合される成分として、陰イオン性、陽イオン性、非イオン性、両性界面活性剤、増粘剤、酸化防止剤、アジュバント(補助剤)、等を付加するものである。 一方、刊行物1の請求項11には、組成物が陰イオン、陽イオン、非イオン、両性界面活性剤またはこれらの混合物、増粘剤、酸化防止剤および(または)化粧品として許容できる他のあらゆる補助剤を含有すると記載されている。 そうすると、請求項13に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (14)請求項14に係る発明について 請求項14に係る発明は、請求項1に係る発明において、請求項1に係る発明の染色組成物の発明を染色方法の発明にカテゴリーを変更した表現としただけであって、その技術的内容は実質的に異なることはないから、上記(1)で述べた理由と同様な理由により、本件請求項14に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (15)請求項15に係る発明について 請求項15に係る発明は、請求項4に係る発明において、請求項4に係る発明の染色組成物の発明を染色方法の発明にカテゴリーを変更した表現としただけであって、その技術的内容は実質的に異なることはないから、上記(4)で述べた理由と同様な理由により、本件請求項15に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (16)請求項16に係る発明について 請求項16に係る発明は、請求項5に係る発明において、請求項5に係る発明の染色組成物の発明を染色方法の発明にカテゴリーを変更した表現としただけであって、その技術的内容は実質的に異なることはないから、上記(5)で述べた理由と同様な理由により、本件請求項16に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (17)請求項17に係る発明について 請求項17に係る発明は、請求項6に係る発明において、請求項6に係る発明の染色組成物の発明を染色方法の発明にカテゴリーを変更した表現としただけであって、その技術的内容は実質的に異なることはないから、上記(6)で述べた理由と同様な理由により、本件請求項17に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (18)請求項18に係る発明について 請求項18に係る発明は、請求項14に係る発明において、染色組成物を繊維に適用して10分未満の待ち時間をとるものである。 これに対し、刊行物1の段落【0041】には、本発明に従う染色方法は、得られる混合物を毛髪に適用し、3〜40分間放置し、次いで毛髪をリンスしかつ必要ならばシャンプーすることからなる、と記載されている。 してみると、上記(14)で述べたのと同様な理由で、本件請求項18に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (19)請求項19に係る発明について 請求項19に係る発明は、請求項14に係る発明において、染色組成物を繊維に適用して3〜7分間の待ち時間をとるものである。 これに対し、刊行物1の段落【0041】には、本発明に従う染色法法は、得られる混合物を毛髪に適用し、3〜40分放置し、次いで毛髪をリンスしかつ必要ならばシャンプーすることからなる、と記載されている。 してみると、上記(14)で述べたのと同様な理由で、本件請求項19に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 (20)請求項20に係る発明について 請求項20に係る発明は、要は、請求項1に係る発明の(A)を含有する第一区分と同(B)を含有する第二区分とを備えた染色用キットまたは他区分ユニットである。 しかしながら、同様なキットについては刊行物1の段落【0039】には、二つの成分をもつ本染色剤は、区画部の一つに成分(A)が入っており、第二の区画部に成分(B)が入っている、複数の区画部のある用具または染色キット中にあるいは複数の区画部をもつと記載されており、そして、刊行物1の(A)と本件請求項20に係る発明の(A)および刊行物1の(B)と本件請求項20に係る発明の(B)とが共通の成分や化合物を含むものであることは既に上で述べたところである。 そうすると、本件請求項20に係る発明は刊行物1に記載された発明である。 [4]むすび 以上のとおりであるから、請求項1〜20に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-05-29 |
出願番号 | 特願平7-109798 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 齋藤 恵 |
特許庁審判長 |
谷口 浩行 |
特許庁審判官 |
柿崎 良男 三浦 均 |
登録日 | 1997-04-18 |
登録番号 | 特許第2629144号(P2629144) |
権利者 | ロレアル |
発明の名称 | ケラチン繊維の酸化染色組成物および該染色組成物を用いた染色方法 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 足立 勉 |
代理人 | 田中 敏博 |
代理人 | 成瀬 重雄 |