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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) A01N
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A01N
管理番号 1099098
審判番号 無効2003-35480  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-11-19 
確定日 2004-06-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3267387号抗菌・防カビ性釉薬組成物及び特許第3447241号衛生用具および特許第3447246号抗菌・防カビ性釉薬層の形成方法の特許無効審判事件について、審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3267387号の請求項1に係る発明、特許第3447241号の請求項1〜4に係る発明、および特許第3447246号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯
(1)無効2003-35479号審判事件は、特許第3267387号の請求項1に係る発明(以下、本件発明Aという。)の特許を無効とする旨の審決を求めるとして、株式会社INAXより平成15年11月19日に提起されたものであり、当該本件発明Aは、平成5年5月31日に特願平5-129418号として特許出願され、平成14年1月11日に特許権が設定登録され、その後、特許異議の申立てにおいて訂正請求(平成15年4月14日付)がなされ、平成15年6月2日付けで「訂正を認める。特許第3267387号の請求項1に係る特許を維持する。」旨の特許異議の決定がなされたものである。
(2)無効2003-35480号審判事件は、特許第3447241号の請求項1〜4に係る発明(以下、本件発明B1〜B4という。)の特許を無効とする旨の審決を求めるとして、株式会社INAXより平成15年11月19日に提起されたものであり、当該本件発明B1〜B4は、前記特願平5-129418号の一部を平成11年4月2日に新たな特許出願としたものであるとして、平成15年7月4日に特許権が設定登録されたものである。
(3)無効2003-35481号審判事件は、特許第3447246号の請求項1に係る発明(以下、本件発明Cという。)の特許を無効とする旨の審決を求めるとして、株式会社INAXより平成15年11月19日に提起されたものであり、当該本件発明Cは、前記特願平5-129418号の一部を平成11年8月19日に新たな特許出願としたものであるとして、平成15年7月4日に特許権が設定登録されたものである。
(4)当審は、前記各審判事件の被請求人である住友大阪セメント株式会社に対して、各審判請求書の副本を送達し、60日の期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、当該期間を経過した時点においても被請求人からは何の応答もない。
(5)当審は、両当事者に、前記各審判事件の審理を併合する旨および書面審理する旨を通知した。

II.本件発明
(1)前記本件発明Aは、特許第3267387号の前記平成15年4月14日付の訂正請求で訂正された願書に添付した明細書の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、有機酸の銀塩、酸化銀、水酸化銀およびイオン交換反応により銀を担持しているイオン交換性化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の銀含有物質と、シリカ及びアルミナを含有し、鉛を含有しない釉薬とを含有する、トイレット、バス、洗面台、洗面器、用水タンク、給水容器、及びタイルのいずれかの基体表面に抗菌・防カビ性釉薬層を形成するための抗菌・防カビ性釉薬組成物であって、該釉薬組成物中における前記銀含有物質の配合量は、金属銀換算で0.01〜1重量%であることを特徴とする抗菌・防カビ性釉薬組成物。」
(2)前記本件発明B1〜B4は、特許第3447241号の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
本件発明B1:「【請求項1】金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、有機酸の銀塩、酸化銀、水酸化銀およびイオン交換反応により銀を担持しているイオン交換性化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀含有物質と、釉薬とを含有する表面層が衛生用具基体上に形成され、前記表面層中における前記銀含有物質の含有量は金属銀に換算して0.01〜1重量%であることを特徴とする衛生用具。」
本件発明B2:「【請求項2】前記イオン交換性化合物が、ケイ酸アルミニウム系化合物、チタニア系化合物、およびシリカ系化合物から選ばれる、請求項1に記載の衛生用具。」
本件発明B3:「【請求項3】前記衛生用具が、トイレット、洗面台、又は洗面器である、請求項1または2のいずれか1項に記載の衛生用具。
本件発明B4:「【請求項4】前記衛生用具が、抗菌性及び/または防黴性を呈する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の衛生用具。」
(3)前記本件発明Cは、特許第3447246号の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】陶磁器製品又はホウロウ製品用基体の表面上に、金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、有機酸の銀塩、酸化銀、水酸化銀、並びにイオン交換反応による銀担持ケイ酸アルミニウム系化合物、銀担持リン酸塩化合物、銀担持チタニア系化合物、および銀担持シリカ系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀含有物質と釉薬とを含有する水性スラリーを塗布し、焼成して、前記銀含有物質の金属銀換算含有量が0.01〜1重量%である抗菌・防カビ性釉薬層を形成することを特徴とする抗菌・防カビ性釉薬層の形成方法。」

III.請求人の主張
請求人は、下記1〜9の証拠方法を提示して、前記した各特許は、次の(あ)〜(え)の理由により無効とされるべきである旨を主張する。
(あ)本件発明A、B1〜B4、Cは、本件出願前に頒布された刊行物である証拠方法1に記載された発明および本件出願時の技術水準に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(い)特許第3267387号の願書に添付した明細書の記載は、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。
(う)特許第3447241号および特許第3447246号の出願は、特願平5-129418号の一部を新たな特許出願としたものでないから、当該もとの特許出願のときに出願したものとみなされるものでなく、したがって、本件発明B1〜B4およびCは、その出願前に頒布された刊行物であるもとの特許出願の公開公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(え)特許第3447241号および特許第3447246号の願書に添付した明細書の記載は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない。
請求人の提示した証拠方法:
証拠方法1:「日本防菌防黴学会第19回年次大会要旨集」(平成4年5月11日発行)第65頁8(無効2003-35479、無効2003-35480及び2003-35481の甲第1号証)、
証拠方法2:請求人側実験成績報告書(株式会社INAX設備事業部生産部榎戸工場技術課石田親一郎作成の平成15年11月13日付け実験成績報告書)、
証拠方法3:住友大阪セメント株式会社「TECHN1CAL REPORT 2001(新材料と光エレクトロニクス(ADVANCED MATERIALS AND OPTO‐ELECTRONICS))」表紙、中表紙、目次(2枚)、第35〜36頁、奥付及び裏表紙、
証拠方法4:被請求人側実験成績報告書(住友大阪セメント株式会社の飯島智彦作成の実験成績報告書、無効2003-35480及び2003-35481の甲第4号証の1)、
証拠方法5:被請求人側実験成績報告書(住友大阪セメント株式会社新材料事業部飯島智彦作成の実験成績報告書(第2回)、無効2003-35480及び2003-35481の甲第4号証の2)、
証拠方法6:被請求人側実験成績報告書(住友大阪セメント株式会社新材料事業部飯島智彦作成の平成15年4月2日付け実験成績報告書、無効2003-35479の甲第2号証)、
証拠方法7:被請求人がもとの出願である特願平5-129418号に対する拒絶査定不服審判(不服11-11641)の審理の過程で平成12年4月28日に上申書とともに提出した参考資料1〜4に係る新聞記事、
証拠方法8:住友大阪セメント株式会社新材料事業部飯島智彦氏(証人)、
証拠方法9:徳島大学工学部生物工学科教授高麗寛紀氏(鑑定人)。

IV.証拠方法の内容
証拠方法1:
「D-4 抗菌性を有する陶板の試作について
〇江川宏(近畿大学教養部)
病院手術室、食品工場などのように無菌を必要とする施設が多くなっている。これらの施設で無菌製作には種々の工夫がなされ種々の対策がとられている。これらの対策の一つとして建築資材としてのタイルに抗菌性をもたせ、これらのタイルを使用すれば無菌化に近い状態も比較的容易に可能と考えられる。しかしタイルの調製では高温を必要とするため、通常の有機化合物のような抗菌性物質を用いられず従来から抗菌性を有すると考えられる無機化合物を供試せざるを得ない。したがってこれらの事項も考慮し、タイルの代替品としての陶板を試作して抗菌性を有する陶板を検討した。
市販されている陶芸用の粘土を用いて素焼を調製した。粘土から充分脱気し、めん棒で厚さ約5mmの平板とし、これを直径約2.3cmの円板に切り抜き、数日間風乾させた。風乾した粘土円板を電気炉で700℃、1時間焼成し、その後一昼夜そのままにして冷却した素焼を供試した。
ゆう薬はゆう薬基剤として唐土60%、無鉛白土30%、日の岡硅石10%の割であらかじめ混合物を調製しておき、このものの1.8gに0.2gの無機塩(10%の場合)を混合し、これに0.5%CMC水溶液2mlを加え、これを4枚の調製した素焼にぬりつけた。そのまま数日間風乾してから700℃、1時間本焼きとした。再び一昼夜冷却後抗菌性を有する陶板かどうかの検討を行った。
Aspergillus niger、Bacillus subtilis、Escherichia coliを供試菌として各々PDA、PDA、BA培地を用い、抗菌性を検討した。その結果、阻止円の認められたゆう薬のものに抗菌性が認められるとした。
ゆう薬に加用する抗菌性を有する無機化合物はあらかじめ阻止円法で抗菌性を調査した。その結果供試した微生物に抗菌性の認められたのはAg、Cd、Co、Cuなどの金属であった。これらの金属を中心にゆう薬として検討を行った。
ゆう薬として10%で加用した陶板で抗菌性を示したのは以下のようであった。金属粉末はCd、Cu、SnでB.subtilisに抗菌性を示し、金属フェライトではB.subtilisに抗菌性を示したのはCd、Co、Cu、Pb、Znであり、E.coliに抗菌性を示したのはCdのみであった。硫化物でB.subtilisに抗菌性を示したものはCa、Cd、Cuであり、塩化物ではAl、Cd、Co、Cu(Cl)、Niで、CdのみがE.coliに抗菌性が認められた。その他のものではAgNO3はA.niger、B.subtilis、E.coliに抗菌性が認められたが、Ag2CO3はA.nigerには効果が明らかでなかった。B.subtilisには、CuBr2、CuSO4、Pb(Ac)2、PbOが抗菌性を示した。金属濃度を5、2.5、1.25%と下げて抗菌性を検討したところ、AgNO3、CdCl2の効果が高く、CuSO4、Pb(Ac)2は効果は弱いようであった。
しかし、陶板として利用する場合には色彩、均一性、溶出、環境汚染、毒性、薬害、経済性などの諸条件が要求されるため、更にくわしい検討が望まれる。」
(65頁参照)。
証拠方法2〜9: 内容の記載を省略。

V.判断
V-1.請求の理由(あ)について
1)本件発明Aについて:
1-1)証拠方法1に記載の発明:
証拠方法1は、本件出願前に国内で頒布された刊行物であり、当該刊行物には、前記IVの記載からみて、「唐土、無鉛白土および日の岡硅石の混合物からなる釉薬基剤に銀などの抗菌性が認めらる金属を含有する無機化合物を混合して釉薬を調整し、当該釉薬を、厚さ約5mm、直径約2.3cmの円板を700℃で1時間素焼きして製造した粘土円板に塗りつけ、700℃で1時間本焼きして抗菌性を有する陶板を製造する」という発明が記載されているところ、前記「釉薬を、素焼きした粘土円板に塗りつけ、700℃で1時間本焼きして陶板を製造する」は、釉薬層を陶板の基体である粘土円板の表面に形成するものであり、前記釉薬は「陶板の基体である粘土円板の表面に釉薬層を形成するための釉薬組成物」であることが明らかである。
したがって、証拠方法1には、唐土、無鉛白土および日の岡硅石の混合物からなる釉薬基剤と銀を含有する無機化合物とを含有し、陶板の基体である粘土円板の表面に釉薬層を形成し、抗菌性の陶板を形成するための釉薬組成物に係る発明(以下、引用発明1という。)が記載されている。
1-2)本件発明Aと引用発明1との比較:
引用発明1において、「唐土」は鉛を含む無機化合物として周知(必要ならば、檜山真平ほか著「陶器・磁器」日刊工業新聞社(昭38-7-30、3版)70頁「唐土2PbCO3Pb(OH)2」参照)であり、「銀を含有する無機化合物」は「銀含有物質」であり、「白土」と「硅石」の混合物はシリカおよびアルミナを含有するものであり、「陶板の基体である粘土円板の表面」は「タイルの基体表面」に相当するものである。
してみると、本件発明Aと引用発明1とは、「銀含有物質と、シリカ及びアルミナを含有する釉薬とを含有する、タイルの基体表面に釉薬層を形成するための釉薬組成物」に係る発明である点において共通し、以下の点で相違する。
(1)前記銀含有物質について、本件発明Aは、「金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、有機酸の銀塩、酸化銀、水酸化銀およびイオン交換反応により銀を担持しているイオン交換性化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種」であるとするのに対して、引用発明1は、「銀を含有する無機化合物」であるとするものの、炭酸銀や硝酸銀の例示があるのみで、「金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、酸化銀、水酸化銀およびイオン交換反応により銀を担持しているイオン交換性化合物」については、具体的な言及がない点、
(2)釉薬について、本件発明Aは、「鉛を含有しない釉薬」としているのに対して、引用発明1は、鉛を含有する釉薬で検討したとしているのみで、「鉛を含有しない釉薬」については言及がない点、
(3)釉薬組成物について、本件発明Aは、「基体表面に抗菌・防カビ性釉薬層を形成するための抗菌・防カビ性釉薬組成物」であるとしているのに対して、引用発明1は、「基体表面に釉薬層を形成し、抗菌性の陶板を形成するための抗菌性釉薬組成物」であるとし、防カビ性にについては言及がない点、
(4)釉薬組成物中における前記銀含有物質の配合量について、本件発明Aは、「金属銀換算で0.01〜1重量%」としているのに対して、引用発明1は、「金属濃度を5、2.5、1.25%と下げて抗菌性を検討した」としているのみで、0.01〜1重量%については具体的言及がない点。

1-3)前記相違点についての判断
相違点(1)について:
証拠方法1には、銀含有物質について、AgNO3とAg2CO3が示されているものの、それに限られるとの記載はなく、むしろ、次の(イ)〜(ハ)を考慮すると、引用発明1における銀含有物質として、ハロゲン化銀や酸化銀を用いること、すなわち、相違点(1)に係る本件発明Aの構成を採用することは当業者が容易に想到できることである。
(イ)「ゆう薬に加用する抗菌性を有する無機化合物は・・・法で抗菌性を調査した。その結果・・・抗菌性の認められたのはAg、・・・などの金属であった。これらの金属を中心にゆう薬として検討を行った。」との記載から、Agを含有する無機化合物が一般に抗菌性を有する旨が示されていること、
(ロ)「色彩、均一性、溶出、環境汚染、毒性、薬害、経済性などの諸条件が要求されるため、更にくわしい検討が望まれる。」と記載されていることから、タイルの基体表面に釉薬層を形成するための釉薬組成物としての利用においては、前記AgNO3とAg2CO3に係る記載にとらわれることなく、さらに検討することが望まれる旨が示されていること、
(ハ)ハロゲン化銀や酸化銀は、AgNO3やAg2CO3以外のAgを含有する無機化合物として周知であること。

相違点(2)について:
釉薬について、証拠方法1には、鉛を含有する釉薬につき検討したとされ、鉛を含有しない釉薬については具体的に言及されていない。
しかし、証拠方法1には、前記したように、タイルにおける利用においては、「色彩、均一性、溶出、環境汚染、毒性、薬害、経済性などの諸条件が要求されるため、更にくわしい検討が望まれる。」と記載されているうえに、鉛が人体に害を及ぼすものであること、および、釉薬として鉛を含有しないものが存在することは、ともに本件出願前に周知である。
してみると、タイルにおける利用を考慮して、証拠方法1に具体的に記載された釉薬にとらわれることなく、引用発明1の釉薬を「鉛を含有しない釉薬」とすること、すなわち、相違点(2)に係る本件発明Aの構成を採用することは当業者が容易に想到できることである。

相違点(3)について:
銀を含有する組成物が抗菌性および防カビ性を有することは本件出願前に周知である(必要ならば、特開平5-25012号、特開昭62-243665号、特開平4-308509号、特開平5-58691号公報参照)。
してみると、引用発明1における釉薬層が銀を含有する組成物に係るものであることに基づいて、引用発明1における「基体表面に釉薬層を形成し、抗菌性の陶板を形成する」が「基体表面に抗菌・防カビ性釉薬層を形成する」を示すと考えることは困難なことでなく、引用発明1における「基体表面に釉薬層を形成し、抗菌性の陶板を形成するための抗菌性釉薬組成物」から「基体表面に抗菌・防カビ性釉薬層を形成するための抗菌・防カビ性釉薬組成物」を想起することは、当業者に容易なことである。
したがって、相違点(3)に係る本件発明Aの構成の採用は当業者が容易に想到できることである。

相違点(4)について
証拠方法1には、AgNO3とAg2CO3の抗菌性について、金属濃度を1.25重量%とするまで検討したことが記載されているものの、当該Ag化合物以外については、具体的な記載がない。
しかし、証拠方法1には「色彩、均一性、溶出、環境汚染、毒性、薬害、経済性などの諸条件が要求されるため、更にくわしい検討が望まれる。」との記載があるから、Ag以外の化合物を採用するに際しては、その種類に応じて配合量を詳しく検討することが望まれる旨が示されているということができるうえに、Agは抗菌・防カビ性の付与の目的で使用するものであり、釉薬への配合に際しては、証拠方法1に記載された前記諸条件への影響を最小限にすべきであると想起されることを考慮すると、前記1.25重量%という金属濃度を参考にしつつも、当該濃度にとらわれることなく、抗菌・防カビの目的が達成できる範囲で、1.25重量%以下をも含めた、できるだけ少量を配合することに想起することは当業者にとって容易なことである。
したがって、引用発明1において、AgNO3とAg2CO3以外のAg含有物質を使用する場合に、0.01〜1重量%という金属濃度を採用すること、すなわち、相違点(4)に係る本件発明Aの構成を想起することは当業者にとって容易なことである。

1-4)効果
本件発明Aが前記した構成の採用したことにより奏したとされる、抗菌・防カビ性を有するという効果は、Agを含有させるという構成から予想されるものである。

1-5)本件発明Aについての結論
よって、本件発明Aは、本件出願前に頒布された刊行物である証拠方法1に記載された発明および出願時の技術水準に係る発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2)本件発明B1について:
2-1)証拠方法1に記載の発明:
証拠方法1には、前記したIV.の記載からみて、銀含有物質と釉薬とを含有する釉薬層を基体の表面に形成した抗菌性製品に係る発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

2-2)本件発明Aと引用発明2との比較:
本件発明B1と引用発明2とを比較すると、両発明は、「銀含有物質と釉薬とを含有する表面層が基体上に形成された製品」に係る発明である点において共通し、以下の点で相違する。
(1)前記銀含有物質について、本件発明B1は、「金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、有機酸の銀塩、酸化銀、水酸化銀およびイオン交換反応により銀を担持しているイオン交換性化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種」であるとするのに対して、引用発明2は、「銀を含有する無機化合物」であるとするものの、炭酸銀や硝酸銀の例示があるのみで、「金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、酸化銀、水酸化銀およびイオン交換反応により銀を担持しているイオン交換性化合物」については、具体的な言及がない点、
(2)前記表面層中における前記銀含有物質の配合量について、本件発明B1は「金属銀換算で0.01〜1重量%」としているのに対して、引用発明2は、「金属濃度を5、2.5、1.25%と下げて抗菌性を検討した」とするものの、0.01〜1重量%についての具体的言及がない点。
(3)表面層を形成された製品が、本発明B1は、「衛生用具」であるのに対して、引用発明2は、「抗菌性製品」である点。

2-3)前記相違点についての判断
相違点(1)、(2)について:
前記相違点(1)、(2)に係る本件発明B1の構成を採用することは、本件発明Aの相違点(1)、(4)について述べたと同様の理由により、当業者にとって容易に想到できることである。

相違点(3)について:
引用発明2における抗菌性製品は、本件発明Aの相違点(3)について述べたと同様の理由により、「抗菌・防カビ性製品」を想起させるものであるうえに、衛生用具は、抗菌・防カビ性が望まれる製品として、また、表面に釉薬層を有する製品として、本件出願前に周知である。
してみれば、引用発明2に係る抗菌性製品に基づいて、衛生用具を想起すること、すなわち、相違点(3)に係る本件発明B1の構成を想起することは当業者にとって容易なことである。

2-4)効果
本件発明B1が前記した構成の採用したことにより奏したとされる、抗菌・防カビ性を有するという効果は、Agを含有させるという構成から容易に予想されるものである。

2-5)本件発明B1についての結論
よって、本件発明B1は、証拠方法1に記載された発明および本件出願時の技術水準に基づいて、当業者が容易に発明できるものである。

3)本件発明B2について:
本件発明B2は、本件発明B1における銀含有物質を限定するものであるところ、当該限定は、銀含有物質の一部の選択肢に係るものであり、他の選択肢に係る銀含有物質を用いる場合については、本件発明B1と変わりがないから、本件発明B2は、本件発明B1について前記したと同様の理由により、証拠方法1に記載された発明および本件出願時の技術水準に基づいて、当業者が容易に発明できるものである。

4)本件発明B3について:
表面に釉薬層を有する製品をトイレット、洗面台、洗面器とすること、および、その際に、抗菌・防カビ性であることが望ましいことは、ともに本件出願前に周知である。
したがって、本件発明B3は、本件発明B1について記載したと同様の理由により、証拠方法1に記載された発明および本件出願時の技術水準に基づいて、当業者が容易に発明できるものである。

5)本件発明B4について:
引用発明2から想起される衛生用具は、本件発明B1について記載したと同様の理由により、抗菌・防カビ性を有するものであり、抗菌性および/または防カビ性を有するものである。
したがって、本件発明B4は、本件発明B1について記載したと同様の理由により、証拠方法1に記載された発明および本件出願時の技術水準に基づいて、当業者が容易に発明できるものである。

6)本件発明Cについて:
6-1)証拠方法1に記載の発明:
証拠方法1には、「ゆう薬はゆう薬基剤として唐土60%、無鉛白土30%、日の岡硅石10%の割であらかじめ混合物を調製しておき、このものの1.8gに0.2gの無機塩(10%の場合)を混合し、これに0.5%CMC水溶液2mlを加え、これを4枚の調製した素焼にぬりつけた。そのまま数日間風乾してから700℃、1時間本焼きとした。再び一昼夜冷却後抗菌性を有する陶板かどうかの検討を行った。」と記載され、前記無機塩に代えて、抗菌性を有することの明らかな銀含有物質を用いることが記載され、前記本焼きが釉薬層を形成するものであることは明らかであるから、甲第1号証には、素焼の表面上に、銀含有物質と釉薬とを含有する組成物を塗布し、焼成して、抗菌性釉薬層を形成する方法の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

6-2)本件発明Cと引用発明3との比較:
本件発明Cと引用発明3とを比較すると、両者は、「基体表面上に、銀含有物質と釉薬とを含有する組成物を塗布し、焼成して、抗菌性釉薬層を形成する方法の発明」に係る発明である点において共通し、以下の点で相違する。
(1)基体について、本件発明Cは「陶磁器製品又はホウロウ製品用基体」とするのに対し、引用発明3は陶板用基体である素焼とする点、
(2)前記銀含有物質について、本件発明Cは、「金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、有機酸の銀塩、酸化銀、水酸化銀およびイオン交換反応により銀を担持しているイオン交換性化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種」であるとするのに対して、引用発明3は、「銀を含有する無機化合物」であるとするものの、炭酸銀や硝酸銀の例示があるのみで、「金属銀、ハロゲン化銀、リン酸銀、酸化銀、水酸化銀およびイオン交換反応により銀を担持しているイオン交換性化合物」については、具体的な言及がない点、
(3)銀含有物質と釉薬とを含有する組成物について、本件発明Cは、「水性スラリー」とするのに対して、引用発明3は、具体例として「ゆう薬基剤1.8gに銀含有物質0.2gと0.5%CMC水溶液2mlを加えたもの」を示しているものの、「水性スラリー」という表現はない点、
(4)釉薬層中の前記銀含有物質の量について、本件発明Cは、「金属銀換算含有量が0.01〜1重量%」とするのに対して、引用発明3は、「金属濃度を5、2.5、1.25%と下げて抗菌性を検討した」とされるのみで、0.01〜1重量%については具体的言及がない点、
(5)釉薬層について、本件発明Cは、「抗菌・防カビ性釉薬層」とするのに対して、引用発明3は、「抗菌性釉薬層」としている点。

6-3)前記相違点についての判断
相違点(1)について:
陶板は陶磁器製品であるから、当該相違点は実質的な相違でない。

相違点(2)、(4)、(5)について:
相違点(2)、(4)、(5)に係る本件発明Cの構成は、本件発明Aの相違点(1)、(3)、(4)について言及したのと同様の理由により、当業者が容易に想到できるものである。

相違点(3)について:
釉薬を水性スラリーとして基体に塗布することは、本件出願前に周知であるうえに、証拠方法1には、具体例として「ゆう薬基剤1.8gに無機塩0.2gと0.5%CMC水溶液2mlを加えた」として、水性スラリーで塗布することが記載されている。
したがって、引用発明3における銀含有物質と釉薬とを含有する組成物を水性スラリーとすること、すなわち、相違点(3)に係る本件発明Cの構成を採用することは当業者に容易なことである。

6-4)本件発明Cについての結論
よって、本件発明Cは、本件発明Aについて記載したと同様の理由により、証拠方法1に記載された発明および本件出願時の技術水準に基づいて、当業者が容易に発明できるものである。

7)請求の理由(あ)についてのむすび
本件発明A、B1〜B4、Cは、本件出願前に頒布された刊行物である証拠方法1に記載された発明および出願時の技術水準に係る発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

V-2.請求の理由(い)〜(え)について
本件の各特許が、前記した(あ)の理由により無効とされるべきであることは前記したとおりである。
そして、請求の理由(い)〜(え)は、請求の理由(あ)と同様に、本件の各特許が、無効とされるべきであるとするものである。
したがって、請求の理由(い)〜(え)を検討したが、本件の各特許が、前記した(あ)の請求理由により、無効とされるべきであるという結論に変わりはない。

VI.むすび
以上のとおりであるから、本件発明A、B1〜B4、Cは、本件出願前に頒布された刊行物である証拠方法1に記載された発明および出願時の技術水準に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明A、B1〜B4、Cに係る特許第3267387号、特許第3447241号および特許第3447246号の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-04-21 
結審通知日 2004-04-22 
審決日 2004-05-10 
出願番号 特願平11-96820
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A01N)
P 1 112・ 534- Z (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 雨宮 弘治
特許庁審判官 後藤 圭次
佐藤 修
登録日 2003-07-04 
登録番号 特許第3447241号(P3447241)
発明の名称 衛生用具  
代理人 中村 敬  
代理人 伊藤 淳  

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