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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1099100
審判番号 不服2002-8051  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-06-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-08 
確定日 2004-06-23 
事件の表示 平成 8年特許願第321026号「半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月 2日出願公開、特開平10-150220〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成8年11月15日の出願であって、その請求項1〜3に係る発明は、平成13年9月7日付け及び平成14年6月6日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に各々記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりである。
「GaN系の化合物半導体で形成される発光素子であって、
導電性であり、かつ前記発光素子の発光する光を透過させるn型のGaN系化合物半導体で形成される基板と、
該基板の一の面の一部を被覆して取り付けられるn電極と、
前記基板の他の面の上に形成されるGaN系化合物半導体からなる発光素子構造であって、前記基板側からn型の第1の半導体層、発光層及びp型の第2の半導体層が順次積層され、
前記第2の半導体層のほぼ全面を被覆して前記第2の半導体層に取り付けられるp電極と、を備えてなり、
前記p電極を下側にしてリードフレームに固定される、ことを特徴とする半導体発光素子。」

2.引用例に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-32113号公報(以下、「引用例1」という)には、次のように記載されている。
「・・・・本発明のp型GaN系半導体の製造方法を、図1に示す一般的な発光ダイオードDを製造する場合を例としてさらに具体的に説明する。
【0012】(1)半導体層の形成
まず、基板1上に、バッファ層2を介してn型GaNクラッド層31、GaInN活性層32およびp型GaNクラッド層33をこの順に成膜して、図1に示すものと同様の多層部3を形成する。」(段落【0011】〜【0012】)
「【0024】(2)半導体層の冷却
ついで、上記のようにして成長させた多層部3を、成長時の高温(通常1050℃程度)から室温まで冷却する。」(段落【0024】)
「【0029】(3)電極形成およびチップ化
上記のようにして冷却した後、多層部3上面には上部電極4を、基板1下面には下部電極5を形成し、この後この積層体をダイシングしてチップ化し、発光ダイオードDを得る。
【0030】上記上部電極4は、直下層がp層の場合、AuBe、AuZn、Au等を、また直下層がn層の場合、AuGe、In等を多層部3上面に真空蒸着等により被着した後、パターニング、アニーリング等の処理により該面の適当な位置に任意の形状に成形することにより形成される。この上部電極4の形状は特に限定されないが、形成の容易なこと等からドット状電極とすることが好ましい。
【0031】また上記下部電極5は、直上層がp層の場合、AuBe、AuZn、Au等を、また直上層がn層の場合、AuGe、In、Al等を基板1下面に被着した後、アニーリング処理により基板1と合金化させることにより形成される。」(段落【0029】〜【0031】)
「【0034】実施例1
(半導体層の形成)厚さ300μmのn型GaN基板を反応容器内に設置し、容器内を真空排気した後、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)を25μmol/分、N源としてNH3 を5 リットル/分の割合で流入させてAlN層を成長させ、厚さ250Åのバッファ層を形成した。ついで、上記ガスに加えGa源としてトリメチルガリウム(TMG)を30μmol/分、Si源として10ppmのSiH4を4nmol/分の割合で流入させて、上記バッファ層上に、Siをドープした厚さ4μmのn型GaNクラッド層を成長させた。ついで、上記ガスに加えてIn源としてトリメチルインジウム(TMI)を25μmol/分、TMGを2μmol/分、SiH4 にかえてZn源としてジメチル亜鉛(DMZ)を3μmol/分の割合で流入させて、上記n型GaNクラッド層上に、Znをドープした厚さ200ÅのGaInN層を成長させた。ついで、上記ガスのうち、DMZにかえてMg源としてビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Cp2 Mg)を5μmol/分の割合で流入させて、TMIを止め、上記GaInN層上に、Mgをドープした厚さ0.8μmのGaN層を成長させた。
【0035】(半導体層の冷却)上記GaN層成長後、反応容器内を窒素置換し、PID制御の温度コントローラーにより温度を0.5°C/分の速度で降下させるようにして室温まで冷却し、電極の形成およびダイシングを行って、図1に示すものと同様のLEDチップを得た。」(段落【0034】〜【0035】)
「図面の簡単な説明】
【図1】
GaN系半導体を用いた一般的な発光ダイオード(LED)の一例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
1 基板 2 バッファ層 3 多層部 31 n型GaNクラッド層 32 GaInN活性層 33 p型GaNクラッド層 4 上部電極 5 下部電極 D 発光ダイオード(LED)」(図面の簡単な説明)
また、図1には、製造されたGaN系半導体を用いた発光ダイオードの構成断面図が示されており、この発光ダイオードは、n型GaN基板1上にバッファ層2を介してn型GaNクラッド層31、GaInN活性層32およびp型GaNクラッド層33からなる多層部3が形成され、多層部3上面の適当な位置に任意の形状の上部電極4が形成され、基板1の下面に下部電極5が形成されている。この図から、上部電極4は多層部3の上面の一部を被覆し、下部電極5は基板の下面のほぼ全面を被覆していることが見てとれる。
以上の記載からすれば、引用例には、「n型のGaN基板1と、基板1下面にそのほぼ全面を被覆するように形成された下部電極5と、基板1の上面にバッファ層を介して形成され基板側から順にn型GaNクラッド層31、GaInN活性層32及びp型GaNクラッド層33からなる多層部3が積層形成され、多層部3上面の一部を被覆するように上部電極4が形成された発光ダイオード」が記載されているものと認める。
同じく引用された特開平7-153992号公報(以下、「引用例2」という)には、次のように記載されている。
「【0029】図4は図1に示す発光ダイオード素子を備えた発光ダイオード装置の模式断面構造図である。尚、図1と同一部分には同一符号を付してその説明は割愛する。
【0030】(段落【0029】〜【0030】)
11は光反射部12と発光ダイオード素子10を載置する載置部13を有する導電性金属からなるステムである。素子10はp型オーミック電極7側でステム11の載置部13上に銀ペースト等の導電性接着材14を介して固着されている。そして、図示しない他の導電性金属からなるステムと前記n型側オーミック電極8とは金ワイヤ15でボンディング接合されている。この装置において、n型SiC単結晶基板1側から主に光が取り出される。」
「【符号の説明】
1 n型SiC単結晶基板
2 n型SiC単結晶層
3 p型SiC単結晶層
4 p型SiC単結晶層
5 p型SiC単結晶層
6 p型SiC単結晶層」(符号の説明)
また、拒絶査定において、周知の事項を示す例として引用された特開平5-63242号公報(以下、「引用例3」という)には、次のように記載されている。
「・・・・発光ダイオードチップ12の端面から出た光は、この凹部側面の傾斜面11cにより反射され、ランプ上部(図4における紙面手前方向、図5における上方向)に放出される。
【0005】
他方のリードフレーム11bは、発光ダイオードチップ12の上面の電極24に、ボンディングワイヤ13を通して電流を導入する端子となっている。14は発光ダイオードチップ12の周囲を覆うための丸型に固化されたエポキシ樹脂であり、リードフレーム11aの凹部底面11d上に装着される発光ダイオードチップ12がその中心に位置するようにモールドされている。」(段落【0004】〜【0005】)
「【0007】図6及び7には、発光ダイオードチップ12の構造が示されている。・・・・図6においては、基板21の下側に成長膜22および成長膜23が順次積層され、基板21の上面には電極24が接続され、基板21の上面には電極24が接続され、成長膜23の下面には電極25が接続されている。基板21、成長膜22、成長膜23の組合せとしては、n型基板、n型成長膜、p型成長膜という組合せ、あるいはp型基板、p型成長膜、n型成長膜という組合せが可能である。
【0009】
図7においては、基板26の上側に成長膜27および成長膜28が順次積層され、基板26の下面に電極25が接続され、成長膜28の上面には電極24が接続されている。この場合にも、基板26、成長膜27、成長膜28の組合せとしては、n型基板、n型成長膜、p型成長膜という組合せ、あるいはp型基板、p型成長膜、n型成長膜という組合せが可能である。」(段落【0007】〜【0009】)
「【0011】図6に示すものは、成長膜22、23のpn接合側を下向きにして、図4および図5のリードフレームの凹部底面11dに装着されるタイプであり、ジャンクションダウン型と呼ばれている。図7に示すものは、pn接合側を上向きにして装着されるタイプでジャンクションアップ型と呼ばれている。」(段落【0011】)

3.対比、判断
本願発明と引用例1に記載のものとを対比すると、引用例1に記載のものにおけるGaN及びGaInNはいずもGaN系の化合物半導体であることを考慮すれば、引用例1に記載のものにおける「n型GaNクラッド層31」、「GaInN活性層32」、「p型GaNクラッド層33」、「下部電極5」、「上部電極4」、「発光ダイオード」は、それぞれ本願発明における「n型の第1の半導体層」、「発光層」、「p型の第2の半導体層」、「n電極」、「p電極」、「発光素子」または「半導体発光素子」に相当する。また、引用例1に記載のものにおける「基板1」は本願発明の「基板1」と同じn型のGaNで形成されたものであって、導電性でありかつ発光素子の発光する光を透過させるものであるから、本願発明と引用例1に記載のものとは、「GaN系の化合物半導体で形成される発光素子であって、導電性であり、かつ前記発光素子の発光する光を透過させるn型のGaN系化合物半導体で形成される基板と、該基板の一の面に取り付けられるn電極と、前記基板の他の面の上に形成されるGaN系化合物半導体からなる発光素子構造であって、前記基板側からn型の第1の半導体層、発光層及びp型の第2の半導体層が順次積層され、前記第2の半導体層に取り付けられるp電極と、を備えてなる半導体発光素子」である点において一致するが、次の点において相違する。
a.本願発明において、n電極が基板の一の面の「一部を被覆して」取り付けられ、p電極が第2の半導体層の「ほぼ全面を被覆して」第2の半導体層に取り付けられているのに対して、引用例に記載のものにおいては、下部電極5が基板1下面に「そのほぼ全面を被覆するように」形成され、上部電極4が多層部3上面(すなわちp型GaNクラッド層33上面)の「一部を被覆するように」形成されている点。
b.本願発明の半導体発光素子はp電極を下側にしてリードフレームに固定されるものであるのに対して、引用例1においては、発光ダイオードがリードフレームに固定されることについて明記されていない点。
そこで、上記相違点について検討する。
相違点aについて:
n型の基板上に形成された半導体発光素子において、p電極がp型層上のほぼ全面を被覆し、n電極が基板下側面の一部を被覆するように形成することは引用例3に示されるように周知の事項であり、このように電極を形成するのは、半導体層の材料に依存することではないから、相違点aの事項とすることは、引用例1に記載されるGaN系化合物半導体を用いた半導体発光素子において上記周知の事項を適用することにより、容易になし得るところである。また、GaN系化合物半導体を用いた半導体発光素子においてこのように電極を形成したことによる作用効果についても予測可能なものである。
相違点bについて:
半導体発光素子を、p電極を下側にしてリードフレームに固定することは、引用例2及び引用例3に示されるように周知の事項であって、半導体発光素子の実装にあたってこのような形態をとることは適宜設計し得る事項である。
さらに、相違点a及びbを総合しても、何ら格別な技術的特徴は与えられない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-11 
結審通知日 2004-03-30 
審決日 2004-04-12 
出願番号 特願平8-321026
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金高 敏康  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 稲積 義登
町田 光信
発明の名称 半導体発光素子  
代理人 萩野 幹治  
代理人 小西 富雅  
代理人 中村 知公  

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