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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1099170
審判番号 不服2002-12445  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-07-04 
確定日 2004-06-24 
事件の表示 平成 7年特許願第104197号「家電機器及び加熱調理器」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月22日出願公開、特開平 8-305448〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成7年4月27日の出願であって、平成14年5月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月4日付けで審判請求がなされ、同年8月5日付けで審判請求の理由を補正する手続補正と同時に明細書の記載を補正する手続補正がなされ、前置審査に付された後、同年8月26日付けで前置報告書が提出されたものである。

【2】本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、上記平成14年8月5日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたものであるところ、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)と認められる。
【請求項1】 制御手段によって制御される家電機器において、
前記制御手段によって実行される制御プログラムが記憶される制御プログラム記憶手段と、
前記制御プログラムにおける処理中に作業用領域として使用される作業用記憶手段と、
変更用プログラムが記憶される不揮発性記憶手段と、
変更用操作手段と、
制御用のセンサとを備え、
前記不揮発性記憶手段は、前記センサの検出信号に基づく制御を補正する補正値を記憶するEEPROMによって構成され、
前記制御手段は、前記変更用操作手段が操作された場合は、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録すると共に前記不揮発性記憶手段に記憶された変更用プログラムを前記作業用記憶手段に転送し、前記制御プログラムの実行中にそのアドレスが変更用レジスタに登録された変更対象アドレスに一致した場合は、前記作業用記憶手段に転送された変更用プログラムを実行することを特徴とする家電機器。

【3】引用刊行物(引用例)
A.(引用発明1)
1.特開平7-49853号公報(公開日;平成7年2月21日)
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物1(原審の引用例2。当審決においては、以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
a.「【請求項1】 外部バスを介して外部メモリ及び外部装置と通信可能なシリアル通信インターフェース回路を備えた1チップマイクロコンピュータにおいて、
予め所定のアドレス値を記憶するラッチ手段と、
前記1チップマイクロコンピュータ内の主メモリに記憶された主プログラムを実行中に、前記ラッチ手段に記憶されるアドレス値と主プログラム実行中のプログラムカウンタ値とを比較することにより、任意のアドレスにおいて割り込みを発生させる割込み発生手段と、
前記割込みの発生により外部バスを介して外部メモリに記憶されている修正プログラムを逐時読み出しながら実行するプログラム修正手段と、を具備することを特徴とする修正プログラム実行可能なマイクロコンピュータ。」(【特許請求の範囲】)
b.「【従来の技術】従来、ROM等のメモリ装置を備えた1チップマイクロコンピュータにおいて、ROM内に設計時に作成されて記憶されるアドレスにおいて、一部の命令が、実際に使用する際には、不都合であることが製造中や製造後に判明した場合に、つまりプログラムを修正する必要が生じた場合には、再度製造し直し、新たなプログラムに書換えなければならなかった。・・(中略)・・そこで本発明は、修正箇所数に関わらず、1つの擬似ROM割込み処理回路で且つRAMの容量も増やさずに複数箇所のプログラム修正可能なマイクロコンピュータを提供することを目的とする。」(【0002】〜【0007】)
c.「【作用】以上のような構成のマイクロコンピュータは、各々のサブルーチンモジュールにコードNO.を割当て修正の必要なサブルーチンを記録しておき、修正の必要なサブルーチンが実行された際には、割込みの必要なアドレスあるいは、割込み発生時の修正プログラムを逐時、EEPROMから読み出し処理が行われ、マイクロコンピュータ内の他処理を行うためのRAMのメモリ容量を利用せずに、さらに、修正箇所の増減に伴うバイトの増減がEEPROMの容量の加減により調整される。」(【0009】)
d.「【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明による修正プログラム実行可能なマイクロコンピュータの構成の概念図を示す。本発明は、シリアルi/Oバス11を介して接続されるマイクロコンピュータ(1チップマイクロコンピュータ)1、EEPROM12、及び修正データ書込み装置13の各ブロックで構成され、各ブロックは、シリアルi/Oバス11にデータを載せることにより、双方向に通信することができる。
前記修正データ書込み装置13は、一般には製造時に書き込みを行うため、ユーザーに出荷する際には取り外してもよい。このマイクロコンピュータ1は、内部バス9を介してCPU2、RAM3、ROM4、擬似ROM処理回路5およびシリアルi/O部8により構成される。前記CPU2は、マイクロコンピュータ1の内部シーケンス制御および論理演算などをROM4に予めプログラムとして書き込まれている命令に従って、シーケンシャルに実行する。
前記RAM3は、前記プログラムの実行の際に、計算などの中間処理データの一時退避、あるいは、EEPROM12から転送される調整値(フラグも含む)などを記憶するワーキングエリアとして使用される。シリアルi/O部8は、前記シリアルi/Oバス11を介して行うデータ通信において、例えば、単位ワード当たり8ビット〜16ビット構成のシリアルデータの送受信をEEPROM12あるいは修正データ書込み装置13に対して行う。
この時の送受信データは、必要に応じてマイクロコンピュータ1の内部バス9を介してRAM3、および擬似ROM処理回路5内のPC値ラッチ部7にも格納する。この擬似ROM処理回路5内のPC比較レジスタ部6は、前記PCラッチ部7に保持されている値と内部バス9のアドレスバスのアドレス値(プログラムカウンタ値)を比較し、それぞれの値が一致すると、CPU2に対して割込み要求信号10を出力する。すなわち、割込み処理を行いたい任意のアドレス値をあらかじめ擬似ROM処理回路5内のPC値ラッチ部7に設定しておけば、プログラムカウンタの値が前記PC値ラッチ部7の値と等しくなった時に、CPU2に対して自動的に割込み処理を実行させることができる。言い換えれば、この擬似ROM処理回路5が1個備えられていれば、ROM4のプログラムを実行中にROM4以外のプログラムを実行させることができる。(【0010】〜【0013】)
e.「例えば、通常メインルーチン内には、複数個のサブルーチンモジュールが存在する。この中の幾つかのサブルーチンモジュールに対して、プログラム変更を行いたいときは、予め各々のサブルーチンモジュールを区別するための識別コードとしてモジュールコードNO.を割振っておけばよい。
次に図2(a)にサブルーチンモジュール識別コードの考え方、同図(b)には、そのフォーマットの一例を示す。前述したように、通常メインルーチン内には、大小さまざまなサブルーチンモジュールが存在する。従って、混同を避けるために、各サブルーチンモジュール毎にモジュールコードNO.を与える。」(【0014】〜【0015】)
f.「このように、モジュールコードNO.が与えられたサブルーチンモジュールは、前記割り込み処理実行時に必要な、修正実行アドレス値、修正実行割込みアドレス値および修正プログラムをEEPROM12に確保しておけば、図1に示すROM4の書き換え修正を行わなくても、後追い修正が可能となる。修正がない場合には、前記EEPROM12のメモリ領域を確保する必要はなく、EEPROM12のメモリ容量を無駄に使うことはない。
図3に、EEPROMに確保した(以降、擬似ROM修正データエリアと言う)前記割込み処理時のデータフォーマットの一例を示す。図3のデータフォーマットは、8ビット/アドレスのEEPROMを想定したものであるが、ビット長に制約はなく、16ビット/アドレスのEEPROMを用いても何ら不都合はない。
まず、擬似ROM修正データエリアの先頭アドレス@0××(H)には、前記修正箇所数およびモジュールコードNO.を格納する。次の1バイトは、このモジュールが修正に必要としたEEPROMの使用バイト総数を表わす。(先頭アドレス+2)以降のアドレスには、順次修正実行アドレス(使用バイト数、先頭アドレス)、修正実行割込みアドレス(上位アドレス、下位アドレス)、および修正プログラムが格納される。」(【0017】〜【0019】)
g.「次に図4には、前述した構成において、コードNO.mのサブルーチンモジュールを実行した時のフローチャートの一例を示す。まず、コードNO.mのサブルーチンモジュールが実行されると、予めEEPROM12からRAM3のフラグエリアに転送されている修正実行フラグの中からコードNO.mのフラグを検索する(ステップS1)。
これらのコードNO.のフラグは、図10に示すようにRAMのフラグエリア(図中ではアドレス100(H)からフラグエリアを割当てている)に各々1ビット割振られており、例えば該当コードNO.のビットが“1”のとき修正あり、“0”のとき修正なし(図中では、@1、@3、@14などが修正ありのコードNO.となる)と決めておく。
同様に、該当するコードNO.mのフラグの有無を判断し(ステップS2)、
フラグが無い場合は(NO)、修正なしと判断され、直ちに後述するステップS5に移行して、サブルーチンモジュールの主プログラム実行に移行し、サブルーチンモジュールの主プログラム実行が完了した後(ステップS7)、メインルーチンへリターンする。
しかしステップS2の判断で、フラグが有る場合は(YES)、EEPROMとの通信を開始し、コードNO.mの“修正箇所数、モジュールコードNO.参照エリア”を検索する。前述したように、擬似ROM修正データエリアの先頭アドレス@0××(H)が予め決まっていれば、次の1バイト(先頭アドレス+1)の使用バイト総数を参照することにより、次のモジュールコードNO.参照エリアのアドレスが判明する。すなわち、図9に示すように、若いアドレス順にモジュールコードNO.参照エリアを検索することもできるし、あるいは、その逆も可能である。」(【0021】〜【0024】)
h.「このようにして得たコードNO.mの修正箇所数S及びコードNO.mの疑似ROM修正データエリアのアドレスを記憶する(ステップS3)。同時に第n番目の修正実行割込みアドレスを図1におけるマイクロコンピュータ1の擬似ROM処理回路5内のPC値ラッチ部7に保持する(ステップS4)。その後、サブルーチンモジュールの主プログラムを実行しつつ(ステップS5)、前記第n番目の割込み要求発生待ちとなる(ステップS6)。
次に、第n番目の割込み要求が図1のマイクロコンピュータ1内のCPU2に対して発生すると(YES)、割込みベクターテーブルが指定するアドレスからプログラムの実行が開始する。このとき、第n番目の修正実行アドレスを使用バイト数をEEPROM12から読み出し、そのデータに基づいて第n番目の修正プログラムをRAMの修正実行エリア内に書き込み(ステップS8)、第n番目の修正箇所を実行する(ステップS9)。そして、前記修正箇所数Sの値を判断し(ステップS10)、S=0のときは(YES)、ステップS5に移行する。S≠0のときは(NO)、修正箇所数Sをデクリメントした後(ステップS11)、ステップS4に移行して前述した処理を再度実行する。」(【0025】〜【0026】)
i.「次に図6には、本発明による第1実施例としての修正プログラム実行可能なマイクロコンピュータを実際のカメラに搭載して制御する構成例を示し説明する。このカメラにおいて、カメラの全体のシーケンスおよび制御を行うマイクロコンピュータ(マイコン)25と、被写体までの距離を測定する測距部(AF)21と、被写体の明るさを測定する測光部(AE)22と、ストロボ充電や発光を行うストロボ23と、電気的に書換可能な不揮発性メモリで、カメラの調整値や本発明の特徴であるROM修正用データを記憶するEERPOM24と、カメラの調整機やROM修正用データを書き込む装置を接続するための外部通信用コネクタ30と、各部の動作を行うための複数のモータとフォトインタラプタからなる駆動部29と、前記駆動部29の各ブロックの所定動作を実行させるためのスイッチ群27,28等及び各モータを駆動させるためのモータドライバ26で構成される。
前記駆動部29は、シャッタを駆動するモータMS と、フィルムの巻き上げ巻き戻しを行うモータMW と、ズームレンズを駆動するモータMZ と、フォーカスレンズを駆動するモータML と、フォーカスレンズの初期位置を検出するスイッチSWL と、フォーカスレンズの単位駆動量(位置)を検出するフォトインタラプタPiL と、ズームレンズの位置を検出するフォトインタラプタPiZ と、フィルムのパーフォレーションを検出するフォトインタラプタPiW 、シャッタの初期位置を検出するスイッチSWS と、シャッタを閉じるためのマグネットMgとからなる。前記各ブロックは、スイッチ群27,28を操作することにより所定動作を実行する。」(【0028】〜【0029】)
j.「次に図7には、図6に示すように構成されたカメラの制御動作におけるメインフローチャートを示す。まず、電源(電池)が投入されるとパワーオンリセットが機能し、マイクロコンピュータ25内部のスタックポインタを設定した後(ステップS21)、入出ポートおよびレジスタなどが初期設定される(ステップS22)。
次にROM修正データ設定のサブルーチンの実行により、メインフローチャート内の主要サブルーチンモジュールの修正有無を表わす修正実行フラグをEEPROM24からマイクロコンピュータ25内のRAM(図示せず)のフラグエリアに転送設定する(ステップS23)。」(【0030】〜【0031】)
k.「以上のレリーズ処理において、各々のサブルーチンモジュールが実行されるとき、各サブルーチンモジュール毎にコードNO.(ここでは、@1〜@5に相当するコードNO.がサブルーチンモジュールのプログラムの先頭部分に設定されている)を読み出し、図10に示すようなRAMのフラグエリアを検索する。
例えば、図8の@1〜@5が図10の@1〜@5に相当するとすれば、@1、@3および@5のサブルーチンモジュール(測距、フォーカスレンズ駆動およびフィルム巻き上げ)において、各ビットが“1”にセットされているので、修正の割込み処理が発生することが判明する。従って、これらのサブルーチンモジュールを実行したとき、図4のフローチャートにおけるステップS3〜ステップS11の処理を行なわれる。
実際に、@3のサブルーチンモジュールのフォーカスレンズ駆動において、2箇所の修正を行う様子を図11,12に示す。図中、縦に引いた一点破線の右側は、@3のサブルーチンモジュールの主プログラム内容を表わすフローチャートであり、左側は、その主プログラムに対して、本発明の擬似ROM割込み処理により行われる修正プログラム部のフローチャートである。
まず、通常設定されたステップS51の修正実行フラグの状態検出からステップS57のフォーカスレンズの初期位置を検出するスイッチSWL の状態を判断する処理が行われる。ここでは特徴部分のみを説明する。
次に、フォーカスレンズ駆動開始後まもなくPiL パルス幅カウントが開始され(ステップS58)、パルス一周期分の時間を計時するために、PiL 立上り検出を行う(ステップS59)。そして、一周期毎のパルスの立上りが検出されるまでの間、エッヂ検出(ステップS60)、ダメージタイマの計時(ステップS69)およびダメージタイマの時間リミッタ(0.5s)検出(ステップS8)の一連のループを形成する。
第1番目の修正実行割込み発生は、前記ダメージタイマの時間リミッタ検出後に起きる。すなわち、主プログラム中のML モータOFF(ステップS71)の実行が不適切となったため、擬似ROM割込み処理により、S1のフローチャート(ステップS73〜S75)に示すような修正プログラムを実行した後、再び主プログラムのダメージモード(ステップS72)にリターンさせている。」(【0038】〜【0043】)
l.「【発明の効果】以上のことから、本発明の1チップマイクロコンピュータによれば、製造後であっても所望する修正用のプログラムを予め設けたEEPROMに書き加えることにより、書き換え不可能なROMのプログラムを実行する際に、修正(データ変更も含む)することができるため、修正必要なプログラムの不具合が生産直前あるいは生産途中において発覚しても、設計時のROMのマスク変更を必要とせずに、不具合および改良などの修正に容易に対応することができる。
以上詳述したように本発明によれば、修正箇所数に関わらず、1つの擬似ROM割込み処理回路で且つRAMの容量も増やさずに複数箇所のプログラム修正可能な(1チップ)マイクロコンピュータを提供することができる。」(【0046】〜【0047】)

(2)以上の記載において、以下のことが明らかである。
(ア)記載d、iから、引用例1のマイクロコンピュータ1は、少なくとも何らかの対象を制御する制御手段であるといえ、記載iから、引用例1の発明は、その制御手段を例えばカメラに搭載して(カメラを)制御する構成例を第1実施例としたものと認められる。
(イ)記載f及び図3から、EEPROM12には、モジュールコードNO.によって識別されるサブルーチンモジュールの修正プログラムが(修正実行アドレス値、修正実行割込みアドレス値と共に)記憶される。
(ウ)記載g及び図4、10から、各々のコードNO.(により識別されるサブルーチンモジュール)が“修正あり”か“修正なし”かは、RAMのフラグエリアに各々1ビット割振られた修正実行フラグの中から該当コードNO.のフラグを検索し、そのフラグの有無、即ち該当コードNO.のビットが“1”のとき修正あり、“0”のとき修正なし(図10では、@1、@3、@14などが修正ありのコードNO.となる)、と判断される。したがって、引用例1において、この修正実行フラグの有無によって各々のコードNO.(により識別されるサブルーチンモジュール)が修正ありか修正なしかを検索(判断)する手段を、適宜「修正用手段」と呼ぶことができる。
(エ)記載dから、そのEEPROM12は、少なくとも「調整値(フラグを含む)など」を記憶する。また、記載iから、制御される対象がカメラである第1実施例では、EEPROM24はカメラの調整値やROM修正用データを記憶するものである。(なお、記載iの「・・カメラの調整機やROM修正用データを書き込む装置を接続するための」における「カメラの調整機」は「カメラの調整値」の誤りであると認められる。)
(オ)記載a、g及び図4から、そのマイクロコンピュータ1は、例えばコードNo.mのサブルーチンモジュールを実行する場合、メインSW ON後EEPROMからRAMのフラグエリアに転送した修正実行フラグの中から修正コードNo.mのフラグの状態を検索し、その手段(修正用手段)により修正あり(フラグ有り)と判断された場合には、その修正有りと判断されたコードNO.(m)のサブルーチンモジュールの修正割り込みアドレスを疑似ROM処理回路内のPC値ラッチ部7に保持する。その後、サブルーチンモジュールの主プログラムを実行しつつ、第n番目の割り込み要求発生待ちの状態となり、この状態において、前記ラッチ部(ラッチ手段)に記憶されるアドレス値と主プログラム実行中のプログラムカウンタ値とを比較し、両者の値が一致した時点において、第n番目の割込み要求がマイクロコンピュータ1内のCPU2に対して発生し、前記の一致したアドレスからプログラムの実行が開始される、すなわち、この(割込み要求が発生した)とき、第n番目の修正実行アドレスを使用バイト数をEEPROM12から読み出し、そのデータに基づいて第n番目の修正プログラムをRAMの修正実行エリア内に書き込み、第n番目の修正箇所を実行するものと認められる。
そしてこの場合、マイクロコンピュータ1の擬似ROM処理回路5内のPC値ラッチ部7に保持(記憶)される第n番目の修正実行割込みアドレスは、上記記載a、d等から見ても、主プログラムの実行中に主プログラムのアドレス値をカウントするプログラムカウンタ値の値と一致することにより、割込み要求信号を発生してその修正プログラムを実行するものであるから、即ち、ROM4に記憶される主プログラムの修正割込みアドレスを意味することは明らかである。

(3)以上のことから、引用例1には、自明の事項も含め少なくとも次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「制御手段(マイクロコンピュータ1)において、
前記制御手段によって実行される主プログラムが記憶される主メモリ(ROM4)と、
前記主プログラムにおける処理中に作業領域(ワーキングエリア)として使用されるRAM3と、
修正プログラムが記憶される不揮発性記憶手段(EEPROM12)と、
修正用手段(修正実行フラグ及びその状態を検索する手段)とを備え、
前記不揮発性記憶手段は、調整値(フラグを含む)などを記憶するEEPROMによって構成され、
前記制御手段は、前記修正用手段が修正あり(フラグ有り)と判断した場合は、前記主プログラムの修正実行割込みアドレスを(疑似ROM処理回路5内の)PC値ラッチ部7に登録し(保持し)、前記主プログラムの実行中にそのプログラムカウンタ値(アドレス)が前記PC値ラッチ部7に保持された修正実行割込みアドレスに一致した場合は、前記不揮発性記憶手段に記憶された修正プログラムを前記RAMに転送し(書き込み)、前記RAMに転送された修正プログラムを実行することを特徴とする制御手段。」

B.(引用発明2)
2.特開平4-268120号公報(公開日;平成4年9月24日)
(1)同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物2(原審の引用例1。当審決においては、以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
a.「【実施例】以下、本発明の電子レンジを図示の実施例により詳細に説明する。図1は本発明の実施例の電子レンジが備えるワンチップマイコン10とEEPROM14の説明図である。上記ワンチップマイコン10は、複数のメニュー番号と上記複数のメニュー番号毎に対応した調理データとを記憶するマスク化されたプログラムROM13と、上記プログラムROM13内の調理データの一部が格納されるRAM12と、上記調理データに基づいて調理内容を制御するCPU11を備えている。また、上記EEPROM14は、上記プログラムROM13が記憶する調理データのうち、修正が必要な調理データに対応するメニュー番号と、上記修正が必要な調理データに修正を施した修正済の調理データを記憶している。修正が必要な調理データがない場合には、上記EEPROM14には上記メニュー番号として(0)を書き込んでおく。上記修正済の調理データの一例を図3に示す。また、上記EEPROM14のデータ配置図を図4に示す。図4に示すように、一般に市販されている安価なEEPROMである上記EEPROM14であっても、記憶容量は1024ビット有る。そして、重量センサー関連のデータと通電時間の積算値のデータは、上記EEPROM14の全記憶容量の16分の1程度を必要とするのみである。このため、上記EEPROM14は、図4に示すようにメニュー番号と上記メニュー番号に対応する調理データからなる1メニューのデータが10ワードのデータを必要とする場合には、12メニューの修正済の調理データを記憶できる。また、上記実施例の電子レンジの本体回路図は、図8に示す従来の電子レンジの本体回路図と同一であるので、説明を省略する。また、上記実施例は、図9に示す従来の電子レンジの操作パネルと同一の操作パネルを備えている。」(【0012】)
b.「・・このように、上記EEPROM14が上記選択したメニューキーに対応するメニュー番号を記憶している場合には、上記ワンチップマイコン10は、上記EEPROM14に記憶され、上記メニュー番号に対応する修正済の調理データを上記RAM12にロードするので、上記プログラムROM13が記憶する調理データに修正が必要な調理データがある場合に、この調理データに対応する自動調理メニューの不具合を補正するために部品の追加作業を行なうという手間のかかる作業を不必要にできる。ステップS106では、上記ワンチップマイコン10のCPU11は、上記選択したメニューキーに対応するメニュー番号に対応する調理データを上記プログラムROM13の中から捜し出し、上記調理データを上記RAM12にロードする。次に、ステップS107に進み、上記ワンチップマイコン10は、図8に示すリレーRY6,RY7,RY5をオンして、ターンテーブルモータTTMとオーブンランプOLとマグネトロン冷却モータMMを駆動する。この後の動作は、従来の電子レンジの調理動作を説明する図6および図7のフローチャートのステップS5〜ステップS17と同一であるので説明を省略する。」(【0013】)

(2)以上の記載から、引用例2には、自明の事項も含め少なくとも次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「制御手段によって制御される家電機器において、
前記制御手段によって実行される制御プログラムが記憶される制御プログラム記憶手段(プログラムROM13)と、
前記制御プログラムにおける処理中に作業用領域として使用される作業用記憶手段(RAM12)と、
修正が必要な調理データに対応するメニュー番号と上記修正が必要な調理データに修正を施した修正済みの調理データが記憶される不揮発性記憶手段と、
メニュー番号識別手段と、
制御用のセンサ(重量センサー、湿度センサー、オーブンサーミスタ)とを備え、
前記不揮発性記憶手段は、前記センサの検出信号に基づく制御を補正するデータ(重量センサーに関するデータ又は修正済みの調理データ)を記憶するEEPROMによって構成され、 前記制御手段は、前記メニュー番号識別手段が選択されるメニュー番号が上記不揮発性記憶手段に格納されているメニュー番号であると識別した場合は、前記不揮発性記憶手段に記憶された修正済みの調理データを前記作業用記憶手段に転送(格納)し、前記修正済みの調理データに基づく制御を実行することを特徴とする家電機器。」

【4】対比
(1)本願発明(前者)と引用発明1(後者)とを以下に対比する。
(ア)まず、前者の「制御手段によって制御される家電機器」も、後者の「制御手段」も、共に「少なくとも制御手段を含むもの」といえる。
(イ)前者の「制御プログラム」に関し、本願明細書中に当該制御プログラムを格別定義するところはなく、後者の「主プログラム」もそのマイクロコンピュータ1が対象を制御するためのプログラムであると解される以上、制御手段によって制御される対象が具体的に開示されず、その発明の第1実施例として前記の対象がカメラであるものが示されている(後者)か、その対象が家電機器である(前者)かの相違は別としても、少なくとも後者の「主プログラム」は前者の「制御プログラム」に相当するというべきである。
(ウ)後者の「主メモリ(ROM4)」、「RAM3」及び「修正プログラム」が、それぞれその順に、前者の「制御プログラム記憶手段」、「作業用記憶手段」及び「変更用プログラム」に相当することは明らかである。
(ウ)前者の「変更対象アドレス」及び「変更用レジスタ」に関し、本願明細書中に例えば「【0048】処理ステップR3においては、制御プログラム中の変更対象アドレス、即ち、ステップR2においてRAM3に転送した変更用プログラムの先頭アドレスとして例えば5000H(Hは16進数であることを示す)を、マイコン1内部のCORAD16にセットする。この変更対象アドレスは、制御プログラム中に予め組込まれているものである。次に、「変更用プログラムを実行許可する」の処理ステップR4に移行する。」、及び、「【0057】・・・この時、プログラムカウンタ20は、サブルーチンSUBの先頭アドレス5000Hに切替わる。【0058】すると、プログラムカウンタ20の値と、ステップR3でCORAD16にセットされた値とが一致することにより、コンパレータ19の出力端子はハイレベルとなる。また、CORCN17には、ステップR4において「1」がセットされているので、AND回路21の出力端子もハイレベルとなって、マイコン1の内部では分岐要求信号が発生し、分岐命令「BR 20000H」が発行される。尚、分岐要求信号が発生したときに発行される分岐命令「BR 20000H」は、マイコン1の制御部内のハードウエアで固定的に設定されているものである。【0059】そして、分岐命令「BR 20000H」が発行されると、マイコン1は、RAM3のアドレス20000Hに分岐して、そこに配置されている命令、即ち、「BR 10000H」を実行して、アドレス10000Hに分岐し、図9に示す変更用プログラムが実行される。」との記載がある。これらの記載によれば、「変更対象アドレス」とは、制御プログラム中の変更されるべきサブルーチンSUBの例えば先頭アドレス(5000H)を意味するものであり、また、「変更用レジスタ」とは、例えばマイコン1内部のコレクション・アドレス・レジスタ(CORAD)であって、そのレジスタに前記の変更対象アドレスを設定し、実行中の制御プログラムのアドレス値をカウントするプログラムカウンタ20の値と、前記「変更用レジスタ(CORAD16)」にセットされた値とが一致することにより、最終的に変更用プログラムが実行されるものと認められる。これに対し、後者の「修正実行割込みアドレス」も、基本的に主プログラム中の割込み処理を行いたい(即ち変更したい)サブルーチンモジュールのアドレス値を意味するものと解され、また、「(疑似ROM処理回路5内の)PC値ラッチ部7」も、そのラッチ部7に前記の修正実行割込みアドレスを設定し、実行中の主プログラムのアドレス値をカウントしてそのプログラムカウンタ値(アドレス)が前記ラッチ部7にセットされた値とが一致することにより修正プログラムが実行されるものであるから、後者の前記「修正実行割込みアドレス」及び「(疑似ROM処理回路5内の)PC値ラッチ部7」が、それぞれその順に、前者の前記「変更対象アドレス」及び「変更用レジスタ」に相当することは明らかである。
(エ)前者の「(制御用)センサの検出信号の基づく制御を補正する補正値」も、後者の「調整値」も、共に少なくともEEPROMに記憶される何らかの「設定値」であるといえる点で一致する
(オ)前者の「変更用操作手段」も、後者の「修正用手段」も、共に少なくとも制御(主)プログラムを変更するための「変更用手段」であるといえ、両者は、「前記変更用手段が変更を指示した場合は、前記制御(主)プログラムの変更対象アドレス(修正実行割込みアドレス)を変更用レジスタ(PC値ラッチ部)に登録(保持)する」といえる点で一致する。

(2)以上のことから、前者と後者は以下の一致点及び相違点を有することとなる。(用語は本願発明のものを用いる。)
(一致点)
「少なくとも制御手段を含むものにおいて、
前記制御手段によって実行される制御プログラムが記憶される制御プログラム記憶手段と、
前記制御プログラムにおける処理中に作業用領域として使用される作業用記憶手段と、
変更用プログラムが記憶される不揮発性記憶手段と、
変更用手段とを備え、
前記不揮発性記憶手段は、(何らかの)設定値を記憶するEEPROMによって構成され、
前記制御手段は、前記変更用手段により変更が指示された場合は、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録し、前記不揮発性記憶手段に記憶された変更用プログラムを前記作業用記憶手段に転送し、前記制御プログラムの実行中にそのアドレスが変更用レジスタに登録された変更対象アドレスに一致した場合は、前記作業用記憶手段に転送された変更用プログラムを実行することを特徴とするもの。」

(相違点1)
少なくとも制御手段を含むものに関し、本願発明では、それが制御手段によって制御される家電機器であるのに対し、引用発明1では、それが制御手段であって、その第1実施例として制御手段によってカメラを制御する構成例が示されている点。

(相違点2)
(制御プログラムの)変更用手段及びその作用に関し、本願発明では、その変更用手段は変更用操作手段であって、前記変更用操作手段が操作された場合は、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録するのに対し、引用発明1では、その変更用手段は(RAMのフラグエリアに転送された)修正実行フラグ及び前記フラグの状態を検索する修正用手段であって、前記修正用手段がフラグ有り(ビット“1”)と判断した場合は、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録する点。

(相違点3)
少なくとも制御手段を含むものが備える事項及びEEPROMが記憶する設定値に関し、本願発明では、前記のもの(家電機器)は制御用センサを備え、EEPROMは前記センサの検出信号に基づく制御を補正する補正値を記憶するのに対し、引用発明1では、前記のもの(制御手段)は制御用センサを備えず、EEPROMは調整値を記憶する点。

(相違点4)
前記変更用手段により変更が指示された場合及び前記制御プログラムの実行中にそのアドレスが変更用レジスタに登録された変更対象アドレスに一致した場合のそれぞれの場合を契機とする動作事項に関し、本願発明では、前記変更用手段により変更が指示された場合は、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録すると共に前記不揮発性記憶手段に記憶された変更用プログラムを前記作業用記憶手段に転送し、前記制御プログラムの実行中にそのアドレスが変更用レジスタに登録された変更対象アドレスに一致した場合は、前記作業用記憶手段に転送された変更用プログラムを実行するのに対し、引用発明1では、前記変更用手段により変更が指示された場合は、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録し、前記制御プログラムの実行中にそのアドレスが変更用レジスタに登録された変更対象アドレスに一致した場合は、前記不揮発性記憶手段に記憶された変更用プログラムを前記作業用記憶手段に転送すると共に前記作業用記憶手段に転送された変更用プログラムを実行する点。

【5】判断
上記各相違点につき、以下に検討する。
(相違点1について)
本願発明の従来技術及びその解決しようとする課題に関し、本願明細書中に「【従来の技術】この様なマイクロコンピュータ(以下、マイコンと称す)の制御プログラムが記憶されるマスクROM(以下、単にROMと称す)の作成には、高額の作成費を要し、また、通常発注から1〜2か月程度の期間を要する。従って、1度作成されたROMの内容を変更するために再度作成し直すことは、そのコストを考慮すると大幅な変更ではない限り殆ど行われることはない。しかし、加熱調理器特に調理品目の多い電子レンジにおいては、製品開発は、例えば、ROMの発注後から製品出荷までの期間においても、製品の完成度を高めるために継続して行われる。また、出荷後の製品においても、出荷前に予見できなかった不具合が発見されることがある。このため、既に発注のかかった若しくは完成したROMの制御プログラムの内容を一部変更したいという場合も生じてくる。」(【0002】〜【0003】)、「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この様な従来技術では、変更できるのはROMの作成前において予測できたもののみであり、後に、それ以外に変更の必要が生じても対処することができない。また、必ずしも必要とはされない変更用ルーチンをROMに余計に組込むため、ROMは、変更の可能性が多くなる程、その分の大きな容量が必要とされる。更に、変更箇所に対応する数だけ基板上に切替えスイッチを設けてマイコンの入力ポートに割当てる必要があり、その分の実装面積も余分に必要となるなどの問題があった。本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、制御プログラム記憶手段に余分な容量及び基板上に余分な実装面積を必要とすること無く、1度制御プログラム記憶手段を作成した後においても、制御プログラムの内容を容易に変更することができる家電機器及び加熱調理器を提供することにある。」(【0005】〜【0006】)との記載がある。これによれば、要するに本願発明は、制御プログラム記憶手段に余分な容量及び基板上に余分な実装面積を必要とすること無く、1度制御プログラム記憶手段を作成した後においても、制御プログラムの内容を容易に変更することができる家電機器を提供することを目的とするものと認められる。
一方、引用発明2も家電機器(電子レンジ)に係る発明である。この引用発明2は、前記【3】B.に示したとおり、EEPROM(不揮発性記憶手段)に記憶された修正済みの調理データをRAM(作業用記憶手段)に転送し、前記修正済みの調理データに基づく制御を実行するもので、ROMを作成した後もROMが記憶するプログラム内の調理データの内容を容易に変更できるようにすることをその課題(目的)とするものであるが、本願発明や引用発明2のような家電機器の制御に係わる当業者であれば、1度制御プログラム記憶手段を作成した後においても、その制御プログラム内の調理データのみならず、当該制御プログラム自体の内容をも容易に変更できる家電機器を提供するという課題自体は、容易に想起しうるところと認められる。
そうすると、上記引用発明1(引用例1)は、その記載lにあるように、従来、プログラムを修正する必要が生じた場合には、再度製造し直し、新たなプログラムに書換えなければならなかったという不都合があるので、製造後であっても所望する修正用のプログラムを予め設けたEEPROMに書き加えることにより、書き換え不可能なROMのプログラムを実行する際に、修正することができるため、修正必要なプログラムの不具合が生産直前あるいは生産途中において発覚しても、設計時のROMのマスク変更を必要とせずに、不具合および改良などの修正に容易に対応することができ、修正箇所数に関わらず、1つの擬似ROM割込み処理回路で且つRAMの容量も増やさずに複数箇所のプログラム修正可能な(1チップ)マイクロコンピュータを提供することができるものであるから、1度制御プログラム記憶手段を作成した後においても、当該制御プログラム自体の内容をも容易に変更できる家電機器を提供しようとする当業者であって前記引用発明1に接した者であれば、引用発明1の制御プログラムとして家電機器の制御プログラムを適用し、その制御手段(マイクロコンピュータ1)によって制御される対象として家電機器を想定すること、即ち、本願発明の前記相違点1に係る発明特定事項は、前記の適用・想定を阻害すべき特段の事情も見出せない以上、適宜容易に想到し得た事項というべきである。

(相違点2について)
本願発明の前記相違点2に係る「変更用操作手段」に関し、本願明細書中には、「更に、マイコン1の入力端子には、調理の対象たる各種食品を指定する・・(中略)・・加えて、マイコン1の入力端子には、ジャンパポスト若しくはディップスイッチからなる変更用スイッチ(変更用操作手段)10が接続されて、プログラム変更の有効若しくは無効に応じてハイ若しくはローレベルの信号が切替えられて与えられるようになっている。」(【0019】)、及び「次に、図3に示した制御プログラムの一部を変更する場合の処理について、図8を参照して述べる。図8は、電源投入時の初期処理の制御内容を示すものである。まず、電源が投入されてマイコン1のリセットが解除されると、「変更用スイッチ・オン?」の判断ステップR1において、マイコン1は、変更用スイッチ10が割当てられている入力ポートを読出して、変更用スイッチ10がオンであるか(操作されているか)否かが判断される。例えば、変更用スイッチ10がローレベルであってオンを示しており、判断ステップR1において「YES」と判断すると、「EEPROMの変更用プログラムをRAMに転送」の処理ステップR2に移行する。」(【0046】)との記載がある。これらによれば、本願発明の「変更用操作手段」とは、その実施例としてジャンパポスト若しくはディップスイッチからなる変更用スイッチが挙げられているものであって、何らかの操作を要する手段であり、それが操作されてローレベルのオンを示した場合に、それを契機として、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録すると共に前記不揮発性記憶手段に記憶された変更用プログラムを前記作業用記憶手段に転送するという、プログラムを変更するための動作を行うものと認められる。一方、引用発明1の前記修正用手段も、修正実行フラグがフラグ有り(ビット“1”)を示した場合に、それを契機として、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録するという、プログラムを変更するための動作を行うという点では本願発明の変更用操作手段と同一の作用効果を奏するものである。
そうすると、本願発明と引用発明1との上記相違点2は、プログラムの修正(変更)を実行する(即ち前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録するという動作を行う)契機となる信号(本願発明の実施例ではローレベルのオン信号、引用発明1ではビット“1”の信号)を、本願発明では変更用操作手段の操作を契機として発生する(与える)のに対し、引用発明1では予めRAMに書き込まれた修正実行フラグ(ビット“1”)の検索(判断)を契機として発生するという相違に帰着するものであって、引用発明1のように前記の信号を予め書き込まれた前記フラグの検索を契機として発生させることに換えて、本願発明のように変更用操作手段の操作を契機として発生させるようにすることは、引用発明1も修正データ書き込み装置13の操作によって、予め修正実行フラグの書き込みを行うとともに、また、適宜その修正、書き換えが可能であることも考慮すると、当業者の必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎず、それによる効果も当業者の予測を越えるものでなく、上記相違点2は格別なものとは認められない。
{引用例1(引用発明1)の「【0011】前記修正データ書込み装置13は、一般には製造時に書き込みを行うため、ユーザーに出荷する際には取り外してもよい。このマイクロコンピュータ1は・・(中略)・・シリアルi/O部8は、前記シリアルi/Oバス11を介して行うデータ通信において、例えば、単位ワード当たり8ビット〜16ビット構成のシリアルデータの送受信をEEPROM12あるいは修正データ書込み装置13に対して行う。」(記載d)、「【0028】次に図6には、本発明による第1実施例としての修正プログラム実行可能なマイクロコンピュータを実際のカメラに搭載して制御する構成例を示し説明する。このカメラにおいて、・・(中略)・・カメラの調整値や本発明の特徴であるROM修正用データを記憶するEERPOM24と、カメラの調整機やROM修正用データを書き込む装置を接続するための外部通信用コネクタ30と・・(中略)・・で構成される。」(記載i)との記載から見ても、引用発明1の修正用手段である修正実行フラグ(ビット)は、外部の修正データ書き込み装置13によって書き込みを行うものと認められ、また、適宜外部通信用コネクタ30に接続して修正(変更)が可能であり、この修正データ書き込み装置13は、人為的な操作によって例えば修正実行フラグの書き込み、書き換えが行われることも明らかである。}

(相違点3について)
本願発明の前記相違点3に係る、EEPROMに記憶される「前記(制御用の)センサの検出信号に基づく制御を補正する補正値」との事項に関し、本願明細書中に当該事項を定義するところは格別存在しない。そして、引用発明1(引用例1)は、前記【3】A.に示したとおり、その第1実施例としてカメラが制御される対象として示され、その場合に測距部(AF)21や測光部(AE)22等の制御用センサを備えることも引用例1に記載されている(記載i、図6参照。)から、引用発明1の制御される対象として前記相違点1に係る家電機器を想定した場合には、引用発明1に(重量センサやガスセンサ等の)制御用のセンサを備える構成とし、同じ引用発明1の調整値として、(家電機器の)制御用のセンサの検出信号に基づく制御を補正する補正値を採用することは、当業者が当然の設計的手段としてごく容易になし得る程度のことにすぎない。
また、引用発明2には、制御手段によって制御される家電機器(電子レンジ)において、少なくとも制御用のセンサ(重量センサー、湿度センサー、オーブンサーミスタ)を備えたものが開示されており、そのEEPROMに記憶される修正を必要とする調理データが、前記(制御用の)センサの検出信号に基づく制御を補正する補正値であるといえることは明白である。
したがって、本願発明の前記相違点3に係る発明特定事項は、引用例1の記載自体及び引用例2の記載に基づいて、当業者がごく容易に想到し得た事項である。

(相違点4について)
前記【4】(一致点)に示すとおり、本願発明と引用発明1とは、「前記制御手段は、前記変更用手段により変更が指示された場合は、前記制御プログラムの変更対象アドレスを変更用レジスタに登録し、かつ、前記制御プログラムの実行中にそのアドレスが変更用レジスタに登録された変更対象アドレスに一致した場合は、前記作業用記憶手段に転送された変更用プログラムを実行する」という点で一致するから、上記相違点4は、不揮発性記憶手段に記憶された変更用プログラムを作業用記憶手段に転送するという動作が、本願発明では、変更用(操作)手段により変更が示された(操作された)場合を契機として実行されるのに対し、引用発明1では、制御(主)プログラムの実行中にそのアドレス(プログラムカウンタ値)が変更用レジスタ(PC値ラッチ部7)に登録された変更対象アドレス(修正実行割込みアドレス)に一致した場合を契機として実行されるという相違に帰着する。
そして、かかる相違に格別の技術的意義及び作用効果上の差異を見出すことはできないから、上記相違点4は設計上の微差にすぎない程度のものというべきである。

そして、上記各相違点を総合して検討しても、本願発明が奏する効果は当業者が容易に予測しうる範囲のものであり、格別のものとはいえない。

【6】審判請求人の主張について
審判請求人は、本願発明と引用例との対比・判断に関し、平成14年8月5日付け提出の審判請求の理由を補正する手続補正書において、「また、本願発明の制御手段は、変更用操作手段が操作されたことを契機として変更用プログラムを実行する構成であるから、EEPROMに変更用プログラムを書き込んだとしても、それを実際に実行させるか否かは変更用操作手段の操作でユーザが選択的に決定することができる。」(前記手続補正書4頁13-16行)、「また、第2引用例が修正プログラムを実行する構成であっても、カメラの制御プログラムと家電機器の制御プログラムとの間には大きな相違がある。家電機器が取り扱う対象物は、例えばユーザがセットする食品や洗濯物などである。即ち、家電機器の場合は、外部より付与される制御条件の種類や量が極めて広範にわたるため、制御プログラムの開発段階では予想し得なかった事態が後ほど発生し、その事態に対応する必要をせまられることが多い。これに対して、第2引用例におけるカメラの制御動作においては、外部より付与される制御条件は被写体までの距離や被写体の明るさ程度であり、極めて限定的である。・・(中略)・・これに対して、第2引用例は、技術分野が相違することから、EEPROM12に記憶される修正プログラムはこれらと全く相違するものである。即ち、第2引用例に開示されている技術によっては、家電機器の開発段階では想定し得なかった事態に対応することは困難であり、本願発明が奏する優れた効果を得ることはできない。また、第2引用例も変更用操作手段に対応する構成は備えておらず、修正プログラムを実行させるためには、CPU2により擬似ROM処理回路5のPCラッチ部7にアドレス値をセットするというソフトウエア的な処理を行なう必要がある。従って、本願発明のように修正プログラムを実際に実行させるか否かをハードウエア的な操作でユーザが選択的に決定できない構成であることは、第1引用例と同様である。」(4頁28行-5頁23行)、及び「(c)本願発明と第1及び第2引用例を組み合わせた構成との比較 第1引用例は電子レンジの調理データを修正する構成であり、第2引用例は、本願発明とは技術分野が異なるオートフォーカスカメラの修正プログラムを実行する構成である。従って、第1引用例に第2引用例を組み合わせる技術的な動機は存在しない。そして、夫々の引用例は本願発明と構成が相違するものであるから、例えこれらの引用例を組み合わせたとしても、本願発明と同様の構成にはならない。更に言えば、第1引用例において、制御用のセンサの検出信号に基づく制御を補正する処理や、ガスセンサや温度センサを用いて行なう調理条件,調理温度や調理時間に関する制御を変更する処理を行うことが開示されていなければ、その構成に第2引用例を組み合わせて本願発明と同様の構成とすることを当業者が想到することは有り得ず、例え実際に組み合わせても同様の構成にならないことは自明であろう。」(5頁24行-6頁7行)などと主張している。
しかしながら、本願発明が特に「変更用操作手段」を採る点に格別の意義及び効果を見出すことはできないことは前記【5】(相違点2について)に示したとおりである。この点に関し、審判請求人は、上記のとおり「EEPROMに変更用プログラムを書き込んだとしても、それを実際に実行させるか否かは変更用操作手段の操作でユーザが選択的に決定することができる。」、及び「第2引用例も変更用操作手段に対応する構成は備えておらず、修正プログラムを実行させるためには、CPU2により擬似ROM処理回路5のPCラッチ部7にアドレス値をセットするというソフトウエア的な処理を行なう必要がある。従って、本願発明のように修正プログラムを実際に実行させるか否かをハードウエア的な操作でユーザが選択的に決定できない構成であることは、第1引用例と同様である。」と主張するが、本願発明が仮に請求人の主張するとおりハードウェア的な手段でユーザが(修正プログラムの実行を)選択的に決定することができるとしても、前記のとおり引用発明1(審判請求人のいう第2引用例)も、修正データ書込み装置13を例えば図6の外部通信用コネクタ30に接続してEEPROMに書き込まれた修正実行フラグ(のビット)を修正することにより、ユーザが修正プログラムの実行を選択的に決定することができるといえ、この点で本願発明が引用発明1に比べ格別の作用効果を奏するとはいえない。
また、制御プログラムの開発段階では予想し得なかった事態が後ほど発生し、その事態に対応する必要をせまられることは、引用例1(同第2引用例)の例えば「【従来の技術】従来、ROM等のメモリ装置を備えた1チップマイクロコンピュータにおいて、ROM内に設計時に作成されて記憶されるアドレスにおいて、一部の命令が、実際に使用する際には、不都合であることが製造中や製造後に判明した場合に、つまりプログラムを修正する必要が生じた場合には、再度製造し直し、新たなプログラムに書換えなければならなかった。・・(中略)・・そこで本発明は、修正箇所数に関わらず、1つの擬似ROM割込み処理回路で且つRAMの容量も増やさずに複数箇所のプログラム修正可能なマイクロコンピュータを提供することを目的とする。」(記載b)との記載により、十分に示唆されているといえる。即ち、引用例1(同第2引用例)に開示されている技術によって、家電機器の開発段階では想定し得なかった事態に対応することは、前記【5】(相違点1について)に示すように、当業者がごく容易になし得るところであり、その点でも本願発明が格別優れた効果を奏するものとはいえない。
審判請求人は、「第1引用例は電子レンジの調理データを修正する構成であり、第2引用例は、本願発明とは技術分野が異なるオートフォーカスカメラの修正プログラムを実行する構成である。従って、第1引用例に第2引用例を組み合わせる技術的な動機は存在しない。」と主張するが、前記【3】に示したとおり、引用発明1(同第2引用例)は制御手段に係るものであって、少なくとも前記制御手段によって実行される制御プログラム(主プログラム)が記憶される制御プログラム記憶手段(ROM4)と、前記制御プログラムにおける処理中に作業用領域として使用される作業用記憶手段(RAM3)とを備える点で引用発明2(同第1引用例)と共通するものである。
また、引用発明2において、その調理データがROMに記憶されるプログラム内に記憶されたものであることは明らかであり(引用例2の記載aにおける「上記ワンチップマイコン10は、複数のメニュー番号と上記複数のメニュー番号毎に対応した調理データとを記憶するマスク化されたプログラムROM13と、上記プログラムROM13内の調理データの一部が格納されるRAM12と、上記調理データに基づいて調理内容を制御するCPU11を備えている。」との記載、同記載bにおける「上記プログラムROM13が記憶する調理データに修正が必要な調理データがある場合に、この調理データに対応する自動調理メニューの不具合を補正するために部品の追加作業を行なうという手間のかかる作業を不必要にできる」との記載参照。)、この引用発明2は、ROMに記憶される制御プログラム内の修正が必要な調理データをEEPROMに書き込むものであり、製品製造後でも制御プログラム内の必要な部分を修正できるという点でも引用発明1と共通するものであるから、前記【5】(相違点1について)に示したように、家電機器(電子レンジ等)の制御に係わる当業者であれば、引用発明1(同第2引用例)に引用発明2(同第1引用例)を組み合わせる動機付けは十分に存在するというべきである。
なお、審判請求人は「更に言えば、第1引用例において、制御用のセンサの検出信号に基づく制御を補正する処理や、ガスセンサや温度センサを用いて行なう調理条件,調理温度や調理時間に関する制御を変更する処理を行うことが開示されていなければ、その構成に第2引用例を組み合わせて本願発明と同様の構成とすることを当業者が想到することは有り得ず、例え実際に組み合わせても同様の構成にならないことは自明であろう。」と主張するが、本願の請求項1(本願発明)には、「制御用のセンサの検出信号に基づく制御を補正する処理(を行う)」及び「ガスセンサや温度センサを用いて行なう調理条件,調理温度や調理時間に関する制御を変更する処理(を行う)」との発明特定事項は何ら記載されておらず、かかる主張は本願発明の構成に基づかないものであり、失当である。また、仮に本願発明が審判請求人の主張するとおりの前記発明特定事項を備えるものであるとしても、前記【3】B.に示すとおり、引用発明2(同第1引用例)が「制御用のセンサ(重量センサー、湿度センサー、オーブンサーミスタ)とを備え、前記不揮発性記憶手段は、前記センサの検出信号に基づく制御を補正するデータ(重量センサーに関するデータ又は修正済みの調理データ)を記憶するEEPROMによって構成され」との発明特定事項を備えるものである以上、引用発明2に制御用のセンサの検出信号に基づく制御を補正する処理や、ガスセンサや温度センサを用いて行なう調理条件,調理温度や調理時間に関する制御を変更する処理を行うことが開示されていることは明白である。
審判請求人の上記各主張はいづれもその根拠を欠くものであり、採用できない。

【7】むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、上記引用発明1と引用発明2とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-04-21 
結審通知日 2004-04-27 
審決日 2004-05-10 
出願番号 特願平7-104197
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森林 克郎  
特許庁審判長 大野 覚美
特許庁審判官 村上 哲
岩本 正義
発明の名称 家電機器及び加熱調理器  
代理人 佐藤 強  
代理人 佐藤 強  

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