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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1099609 |
異議申立番号 | 異議2002-71031 |
総通号数 | 56 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-06-16 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-04-17 |
確定日 | 2004-04-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3221338号「電子線照射方法および架橋または硬化方法、ならびに電子線照射物」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3221338号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 |
理由 |
[1]手続きの経緯 本件特許第3221338号に係る出願は、平成8年12月3日に特許出願され、平成13年8月17日に特許の登録がなされ、その後、吉成迪夫より特許異議の申立てがなされ、平成14年7月30日付の取消理由が通知され、その指定期間内である平成14年10月7日に特許異議意見書と共に訂正請求書が提出されたものである。 [2]訂正の可否 1.訂正事項 訂正事項a 【請求項1】及び【請求項2】中の「加速電圧」を、「100kV以下で加速電圧」と訂正する。 訂正事項b 【請求項3】及び【請求項4】を削除する。 訂正事項c 【請求項5】を【請求項3】と訂正すると共に、該請求項中の「請求項1ないし請求項4」を「請求項1または請求項2」と訂正する。 訂正事項d 【請求項6】を【請求項4】と訂正すると共に、該請求項中の「請求項1ないし請求項5」を「請求項1ないし請求項3」と訂正する。 訂正事項e 【請求項7】を【請求項5】と訂正すると共に、該請求項中の「加速電圧」を「100kV以下で加速電圧」と訂正する。 訂正事項f 【請求項8】を削除する。 訂正事項g 【請求項9】を【請求項6】と訂正すると共に、該請求項中の「加速電圧」を「100kV以下で加速電圧」と訂正する。 訂正事項h 【請求項10】を【請求項7】と訂正すると共に、該請求項中の「加速電圧」を「100kV以下で加速電圧」と訂正する。 訂正事項i 【請求項11】を削除する。 訂正事項j 【請求項12】を【請求項8】と訂正すると共に、該請求項中の「加速電圧」を「100kV以下で加速電圧」と訂正する。 訂正事項k 段落【0008】、段落【0009】、段落【0012】及び段落【0013】(3カ所)中の「加速電圧」を「100kV以下で加速電圧」と訂正する。 訂正事項l 段落【0010】の全文を削除する。 訂正事項m 段落【0011】中の「第5に」を「第3に」と、「第6に」を「第4に」と訂正する。 訂正事項n 段落【0012】中の「第7に」を、「第5に」と訂正する。 訂正事項o 段落【0013】中の「第9に」を「第6に」と、「第10に」を「第7に」と、「第12に」を「第8に」と訂正する。 訂正事項p 段落【0013】中の「第11に、上記電子線照射物において、表面部分のみが架橋、硬化または改質された電子線照射物を提供する。」を削除する。 2.訂正の可否 訂正事項aについて 訂正事項aは、登録時の請求項4に記載されていた加速電圧が100kV以下であることに基づき、加速電圧について、特許請求の範囲を減縮することを目的とする。 訂正事項bについて 請求項を削除するものであり、特許請求の範囲を減縮することを目的とする。 訂正事項c及びdについて 上記訂正事項bに伴い、請求項の番号を整理するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする。 訂正事項eについて 上記訂正事項bに伴い、請求項の番号を整理すると共に、上記訂正事項aと同様に、加速電圧について、特許請求の範囲を減縮することを目的とする。 訂正事項fについて 請求項を削除するものであり、特許請求の範囲を減縮することを目的とする。 訂正事項g及びhについて 上記訂正事項b及び訂正事項fに伴い、請求項の番号を整理すると共に、上記訂正事項aと同様に、加速電圧について、特許請求の範囲を減縮することを目的とする。 訂正事項iについて 請求項を削除するものであり、特許請求の範囲を減縮することを目的とする。 訂正事項jについて 上記訂正事項b、訂正事項f及び訂正事項iに伴い、請求項の番号を整理すると共に、上記訂正事項aと同様に、加速電圧について、特許請求の範囲を減縮することを目的とする。 訂正事項k〜pについて 上記訂正事項a〜jに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを一致・整理するための訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的とする。 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 [3]特許異議申立てについての判断 1.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人は、甲第1〜5号証を提出し、登録時の請求項1〜12に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであると主張した。 2.取消理由通知 平成14年7月30日付け取消理由通知は、以下のとおりである。(当審注:請求項の番号は、登録時のものである。) 本件請求項1〜12に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 記 刊行物 1.特開平6-298264号公報(甲第1号証) 2.特開昭60-157111号公報(甲第2号証) 3.特開平5-69484号公報(甲第3号証) 4.米国特許第5,414,267号明細書(甲第5号証) 上記刊行物1〜4には、特許異議申立人の主張のとおりのことが記載されている。 請求項1及び2に係る発明について 本件請求項1及び2に係る発明は、上記刊行物1或いは2に記載された発明とは、被照射物の厚さが、10〜300μmと限定する点でのみ相違するが、この相違点に格別の創意は認められない。 よって、刊行物1或いは2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項3に係る発明について 本件請求項3に係る発明は、請求項2を引用し、被照射物の表面部分のみを改質する旨限定することを特徴とするが、刊行物4には、特許異議申立人の主張のとおり、「低電圧ビームはゼロ近くの深さにおいて重要な貢献をしており、かつその貢献は、表面下のほとんど数μmにおいて急速に減少している。」と記載されている。 よって、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項4に係る発明について 本件請求項4に係る発明は、請求項1〜3を引用し、電子線の加速電圧を100kV以下と限定することを特徴とするが、刊行物4には、特許異議申立人の主張のとおり、15〜30kV、50kV、60kV、80kVなど100kV以下の加速電圧が記載されている。 よって、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項5に係る発明について 本件請求項5に係る発明は、請求項1〜4を引用し、電子線の照射は真空管型電子照射装置により行うことを特徴とするが、特許異議申立人の主張のとおり、真空管型電子照射装置は、刊行物4に記載されている。 よって、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項6に係る発明について 本件請求項6に係る発明は、請求項1〜5を引用し、被照射物が基体上に形成されていることを特徴とするが、刊行物4には、被照射物(substrate 101)が基体(table 103)上に装着することが記載され、或いは、「そのような照射は、ウェブに塗布される高温の溶融物からなるコーティングに向けられてもよい。高温の溶融物は電子ビームによる照射の直前に、図示されていない噴霧アプリケータによって塗布されてもよい。」(第7欄第32〜36行)と記載されている。 よって、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項7に係る発明について 本件請求項7に係る発明は、請求項1に係る発明とは電子線照射後、熱処理する点で相違するが、特許異議申立人の主張のとおり、刊行物3には、テープに電子線照射後、該テープを加熱することが記載されている。 よって、刊行物1、2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項8に係る発明について 本件請求項8に係る発明は、請求項7を引用し、被照射物の表面部分のみを架橋まは硬化した後熱処理することを限定することを特徴とするが、上記したとおり、被照射物の表面部分のみを改質することは刊行物4に記載され、また被照射物の照射処理後に該被照射物を加熱することが刊行物3に記載されている。 よって、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項9に係る発明について 本件請求項9に係る発明は、電子線が所定の到達深度になるように加速電圧を調整することを特徴とするが、上記したとおり、刊行物4には種々の加速電圧とすることが記載されている。 よって、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項10に係る発明について 本件請求項10に係る発明は、電子線照射物に係る発明であるが、実質的に請求項1に係る発明と同一である。 よって、刊行物1或いは2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項11に係る発明について 本件請求項11に係る発明は、電子線照射物に係る発明であるが、実質的に請求項3に係る発明と同一である。 よって、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項12に係る発明について 本件請求項12に係る発明は、電子線照射物に係る発明であるが、実質的に請求項7に係る発明と同一である。 よって、刊行物1、2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.本件発明 上記したとおり、訂正が認められるので、本件発明は、平成14年10月7日付け訂正請求書に添付した明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」という。順次、「本件発明2」〜「本件発明8」という。)。 『【請求項1】厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射することにより、被照射物の厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布を形成することを特徴とする電子線照射方法。 【請求項2】厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射することにより、被照射物の厚さ方向に対して部分的に架橋、硬度または改質することを特徴とする電子線照射方法。 【請求項3】前記電子線の照射は、真空管型電子線照射装置によってなされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線照射方法。 【請求項4】前記被照射物は基体の上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子線照射方法。 【請求項5】厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射して、被照射物の厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化させた後、熱処理することにより架橋密度または硬度の分布を形成することを特徴とする架橋または硬化方法。 【請求項6】10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように1〜100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布が形成された電子線照射物。 【請求項7】10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように1〜100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に対して部分的に架橋、硬化または改質された電子線照射物。 【請求項8】10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように1〜100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化され、その後の熱処理により架橋密度または硬度の分布が形成された電子線照射物。』 4.引用刊行物の記載事項 刊行物1には、次のことが記載されている。 (a)「電子線の被照射物に対する透過度を被照射物表面の相対線量を100%とした時、被照射物の厚み方向の中間において60ないし80%また裏面において40%以下となるように照射した、密度0.900ないし0.975g/cm3のポリエチレンと、エチレン-α-オレフィン共重合体からなる組成物を素材とするポリエチレン製改質容器。」(請求項1) (b)「電子線の被照射物に対する透過度は、電子線発生装置の加速電圧、もしくは照射窓と被照射物との距離によって適宜調整することができる。」(2欄31〜34行) (c)「〈実施例1〉・・・・・肉厚0.45mm(注:450μm)・・・・・のチューブ状成形体を得た。・・・・・このチューブ状円筒容器を250kVの加速電圧、窓下7.5cmで表面の吸収線量300kGyで照射した。その時の相対線量は、被照射物の表面、中間、裏面において、それぞれ100、70、3%であった。」(段落【0017】) 刊行物2には、次のことが記載されている。 (a)「導体上に被覆層を押出成形した後、加速荷電粒子の最大到達距離が被覆層の厚さより小さくなるような加速電圧で該被覆層を照射架橋せしめることを特徴とする自動車用電線の製造方法。」(特許請求の範囲) (b)「本発明において、加速荷電粒子としては、電子線が好ましく、加速電圧と加速荷電粒子の最大到達距離(密度1の物質の場合)の関係を第2図に示した。 」(1頁右下欄下から7〜4行及び3頁第2図) 刊行物3には、次のことが記載されている。 (a)「高分子材料を主体とするテープ状成型物のA面に、最大到達距離がテープの厚さより小さくなる加速電圧の電子線を照射して架橋せしめた後、当該テープを加熱延伸し、B面(A面の裏面)に最大到達距離がテープの厚さより小さくなる加速電圧の電子線を照射して架橋せしめることを特徴とする、熱回復性物品の製造方法。」(【請求項1】) 刊行物4(なお、これは、特許権者が熟知するものであり(本件明細書段落【0016】)、その記載内容は、本件出願前の平成8年11月12日に発行された特表平8-510864号公報に実質上掲載されている。)には、次のことが記載されている。 (a)「走査タイプのビーム管とは異なり、各ビーム管は比較的低いビーム電圧、即ち15〜30kVの低さのもので処理される材料の幅の一部にわたるストライブ状の電子ビームを発生する。」(1欄57〜60行) (b)「炭化物または窒化物のウィンドウなど、薄い低Zウィンドウでは、基板上の薄いコーティングを硬化させるのに用いられる入射パワーは50倍近く小さくなる。」(1欄67行〜2欄1行) (c)「初期テストは、本発明のビーム管により生成したより低い電子エネルギーでの重合に、より好ましい傾向を示している。」(2欄30〜32行) (d)「15-30kVの低さの電圧が非常に薄いウィンドウとともに用いられてもよい。望ましい電圧の上限は約120kVである。」(4欄7〜9行) (e)「上記ビーム管設計の従来装置に対する利点の一つは、比較的低いビーム電圧である。50kVビームは、ポリマーに対して少しの透過パワーしか有していない。ポリマー中でビームエネルギーの殆どは、ポリマーの架橋および硬化に使われる。80kV以下のビームエネルギーは、良好な硬化効率のために好ましい。」(4欄59〜65行) (f)「管のアレイは、複数のセクションに分割されてもよい。図5は、行81および82からなる第1セクションと、行83および84からなる第2のセクションに分割されたアレイを示す。行81および82におけるビーム形成電極には、たとえば30kVの第1の電圧がケーブル88を介して与えられる。第2のセクションには、ケーブル89によりたとえば60kVの第1のより高い負電圧が与えられる。ケーブル88および89は、高電圧電極だけでなくすべてのチュウブピンのための適切な電圧を伝えるものである。低い方の電圧である30kVの第1の高電圧は、主に処理される材料の表面に影響を与える。高い方の電圧である60kVの第2の高電圧は、やはり表面に影響を与えるが、透過する力の量がより多いので、材料のより深いところにも影響を与えるだろう。複数の透過する力を与えることにより、より著しい処理が表面に行なわれ、より少ない処理が表面より下に行なわれる、処理勾配が生じるかもしれない。高温で溶解する接着剤を硬化させるなどの応用においては、表面の上方のレベルに最も多くの処理が行なわれることが重要であると考えられる。」(6欄24〜43行) (g)「図5aを参照して、約30kVの低電圧ビームの透過を曲線80で示し、約60kVの高電圧ビームの透過を曲線82で示す。二つの曲線は、材料中でのトータルドーズを計算するために合計される。低電圧ビームは、ゼロ近くの深さにおいて重要な貢献をしており、かつその貢献は、表面下ほんの数μmにおいて急速に減少している。」(6欄51〜58行) (h)「ウェブが図示されていない巻き取りロールから供給ロールへ矢印129の方向へ進められるにつれ、プレート123の下を通過するウェブ全長が電子ビームにより照射される。適切な硬化には線形インチ当たり数ミリアンペアのビーム電流が必要である。そのような照射は、ウェブに塗布された高温溶解物コーティングに向けられる。高温溶解物は電子ビームによる照射の直前に、図示されていない噴霧アプリケータによって塗布される。」(7欄27〜36行) (i)「上の目的に用いられる管は、・・・・・真空管のエンベローブを有する。」(2欄33〜36行) 5対比・判断 刊行物4には、基板・ウェブに塗布されたコーティングに電子線を照射する発明が記載され(摘示事項b、h)、さらに、以下、イ、ロが記載されている。 イ.電子線の加速電圧として、15-30kV、望ましい電圧の上限は約120kV、80kV以下のビームエネルギーは良好な硬化効率のため好ましいこと(摘示事項a、d、e、f、g)。 ロ.電圧が高い方が透過力が強いこと。それ故、材料のより深いところにも影響を与えるであろうこと(摘示事項f)。 本件発明1と上記刊行物4に記載された発明(以下、「刊行物4の発明」という。)とを対比する。 被照射物について 本件発明1の被照射物は、刊行物4の発明のコーティングに該当する。 本件発明1では、厚さ10〜300μmと限定されているのに対し、刊行物4の発明では、その厚さが限定されていない点で相違する(相違点1)。 加速電圧について 本件発明1では、100kV以下としているのに対し、刊行物4の発明では、100kV以下の電圧を用いることが記載(上記イ)されており、実質的な相違点ではない。 所定の到達深度になるように調整したことについて 本件発明1では、『調整した』ことを構成要件としているのに対し、刊行物4には、調整したことが具体的に記載されていない点で一応相違する(相違点2)。 被照射物の厚さ方向に架橋密度、硬化または改質度合いの分布(以下、グラディエーション構造という。)について 本件発明1は、グラディエーション構造を有することを必須の構成要件とするものであるが(特許権者が、特許異議意見書で強調する点でもある。)、刊行物4には、「ポリマー中でビームエネルギーの殆どは、ポリマーの架橋および硬化に使われる。」(摘示事項e)、電圧が高いと透過する力が大きい旨記載され(摘示事項f)、「処理勾配が生じるかもしれない」(摘示事項f)或いは「表面下ほんの数μmにおいて急速に減少している」(摘示事項g)と記載されていることから、刊行物4の発明は、被照射物の表面付近において架橋・硬化し、その架橋・硬化構造がグラディエーション構造を有しているものと解することが相当である。 また、刊行物1或いは2には、電子線を照射したときには、被照射物の改質は、グラディエーション構造を有することが記載されているものと解することができ、本件出願時の当業者の技術的水準・知見であるものと認められる。 したがって、この点は実質的な相違点ではない。 よって、本発明1と刊行物4の発明とは、上記相違点1及び2で相違し、他の点で相違はない。 相違点1について検討する。 被照射物それ自体に、本件発明1と刊行物4の発明とは、相違点はない(本件明細書段落【0027】、摘示事項b、h)。 本件発明1では、厚さ10〜300μmと限定しているが、どの程度の厚みのものを対象にするかは、刊行物4に、「低電圧ビームは・・・表面下ほんの数μmにおいて急速に減少している」(摘示事項g)、「高電圧は・・・透過する力の量がより多い」(摘示事項f)と記載されていること、及び、「EB(電子線)硬化が、硬化厚み1μm〜300μm(高電圧で数mm程度の厚いものまで可能)である」(甲第4号証(日新電機技報、1995 VOL.40 NO.2 17頁右欄下から5〜1行、19頁表6)、取消理由通知では用いられていないが、送付済である。)ことが、本件出願時の技術水準とすることができ、当業者が適宜容易に決定できることである。 相違点2について検討する。 本件明細書において、「調整した」とは、具体的にどのような工夫をしたことかということについて記載されておらず、段落【0021】及び【0022】の記載から、発明を実施する際には、加速電圧の相違が、電子線の到達深度に影響することから、『所定の(目的とする)到達深度に合わせて、加速電圧を決定し、実施すること』と解する外ない。 刊行物4には、加速電圧が(電子線の)透過力に影響する旨記載されており(摘示事項e、f)、種々の電圧を用いる旨記載されていることであるので、本件発明1と刊行物4の発明とは、実質的に差異はないことになるし、また、刊行物1(摘示事項b)或いは刊行物2(摘示事項b)にも、加速電圧と(電子線)到達距離との関係が記載されていることから、刊行物4の発明において、目的とする電子線到達距離に合わせて、加速電圧を決定し、実施することは、当業者が容易にできることであるものと認められる。 したがって、本件発明1は、刊行物1、2及び4の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明2について 本件発明2は、「被照射物を厚さ方向に対して部分的に架橋、硬化、改質すること」を発明の構成要件としている。その具体的な手段としてどのような点を工夫したのか、発明の詳細な説明を検討しても明らかでないが、段落【0022】の記載「厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布が形成されるのである。見方を変えれば、被照射物を厚さ方向に対して部分的に架橋、硬化または改質するということもできる。」から、その実現手段は、電子線を照射すること自体であり、本件発明1と実質的に同一の発明に係るものと解する外ない。 よって、本件発明2は、本件発明1と同様の理由で、刊行物1、2及び4の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明3について 本件発明3は、電子線照射が真空管型電子装置により行うことを発明の構成要件としているが、刊行物4には、ビーム管が真空管型であることが記載されている(摘示事項i)。 よって、本件発明3は、本件発明1と同様の理由で、刊行物1、2及び4の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明4について 本件発明4は、「被照射物が基体の上に形成されていること」を発明の構成要件としているが、刊行物4には、コーティングが、基体・ウェブ上に塗布(形成)されていることが記載されている(摘示事項b、h)。 よって、本件発明4は、本件発明1と同様の理由で、刊行物1、2及び4の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明5について 本件発明5は、「厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射して、被照射物の厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化させた」(第1工程)後、「熱処理すること」(第2工程)により架橋密度または硬度の分布を形成することを特徴とする架橋または硬化方法であるが、上記第1工程は、本件発明2と同一の技術的事項であり、また、電子線を照射することは上記グラディエーション構造を成形することに外ならないと解される(本件請求項1、段落【0022】)のであるから、上記第1工程において、既に、「架橋密度または硬度の分布を形成」されているものと解されるが、さらに、熱処理を加えて「架橋密度または硬度の分布を確実に形成すること」(段落【0024】)を発明の構成要件としているのものと解される。 刊行物3には、「照射して架橋せしめた後、当該テープを加熱延伸し」(摘示事項a)と記載されており、刊行物4の発明において、さらに加熱工程を付加することは当業者が容易にできることであるものと認められる。 よって、本件発明5は、刊行物1〜4の発明に記載された発明に基づいて当業者が容易にできたものである。 本件発明6について 本件発明6は、製造物「電子線照射物」の形式で表したものであるが、実質的に本件発明1と同一の発明である。 よって、上記本件発明1と同一の理由で、刊行物1、2及び4の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明7について 本件発明7は、製造物「電子線照射物」の形式で表したものであるが、実質的に本件発明2と同一の発明である。 よって、上記本件発明2と同一の理由で、刊行物1、2及び4の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明8について 本件発明8は、製造物「電子線照射物」の形式で表したものであるが、実質的に本件発明5と同一の発明である。 よって、上記本件発明5と同一の理由で、刊行物1〜4の発明に記載された発明に基づいて当業者が容易にできたものである。 [4]むすび 以上のとおりであるから、本件発明1〜8は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件発明1〜8についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 電子線照射方法および架橋または硬化方法、ならびに電子線照射物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射することにより、被照射物の厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布を形成することを特徴とする電子線照射方法。 【請求項2】厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射することにより、被照射物を厚さ方向に対して部分的に架橋、硬化または改質することを特徴とする電子線照射方法。 【請求項3】前記電子線の照射は、真空管型電子線照射装置によってなされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線照射方法。 【請求項4】前記被照射物は基体の上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子線照射方法。 【請求項5】厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射して、被照射物の厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化させた後、熱処理することにより架橋密度または硬度の分布を形成することを特徴とする架橋または硬化方法。 【請求項6】10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布が形成された電子線照射物。 【請求項7】10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に対して部分的に架橋、硬化または改質された電子線照射物。 【請求項8】10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化され、その後の熱処理により架橋密度または硬度の分布が形成された電子線照射物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、真空中で電子を電圧にて加速し、この加速された電子を常圧雰囲気中に取り出し、被照射物に対して電子線(EB)を照射する方法および電子線を利用した架橋または硬化方法、ならびに電子線照射物に関する。 【0002】 【従来の技術】 基材に施された塗料、印刷インキ、接着剤、粘着剤等の被覆剤、およびその他の樹脂製品の架橋または硬化方法として電子線照射によるものが提案されており、これまでに多くの検討がなされている。この方法は、真空中で電子を電圧にて加速し、この加速された電子を空気中等の常圧雰囲気中に取り出し、物体に対して電子線(EB)を照射する方法である。 【0003】 電子線照射による硬化および架橋の利点としては、次のようなものが挙げられる。 (1)希釈剤として有機溶剤を含有させる必要がないので環境に優しい。 (2)硬化速度が速い(生産性大)。 (3)熱乾燥よりも硬化作業面積が少なくてすむ。 (4)基材に熱がかからない(熱に弱いものにも適用可能)。 (5)後加工がすぐできる(冷却、エージング等が不要である)。 (6)電気的作業条件を管理すればよいから、熱乾燥の際の温度管理よりも管理しやすい。 (7)開始剤、増感剤がなくてもよいので、不純物の少ないものができる(品質の向上)。 【0004】 しかし、従来の電子線硬化技術は、大エネルギーの電子線を照射して高速で被照射物全体を一様に架橋および硬化するものであり、電子線を照射することにより、架橋または硬化状態にバリエーションを持たせるといった発想はない。 【0005】 また、装置が大型で初期投資が高いという問題、酸素ラジカルの発生に起因する表面の反応阻害を解消するために、ランニングコストの高い窒素等の不活性ガスによるイナーティングが必要であるという問題、さらに2次電子線のシールディングが必要であるという問題等がある。 【0006】 したがって、電子線硬化技術は、上述したように省エネルギーかつ溶剤を放出しない環境に優しいプロセスとして注目を集めているものの、以上のような問題から実用化が十分になされているとは言い難い状態である。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、照射物全体を一様に架橋または硬化等するのではなく、架橋または硬化等の状態にバリエーションを持たせることができる電子線照射方法、およびそのような硬化または架橋方法、ならびに電子線照射物を提供することを目的とする。また、これに加えて装置上等の問題が生じることのない電子線照射方法、およびそのような硬化または架橋方法、ならびに電子線照射物を提供することを目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明は、上記課題を解決するために、第1に、厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射することにより、被照射物の厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布を形成することを特徴とする電子線照射方法を提供する。 【0009】 第2に、厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射することにより、被照射物を厚さ方向に対して部分的に架橋、硬化または改質することを特徴とする電子線照射方法を提供する。 【0010】 (削除) 【0011】 第3に、上記いずれかの方法において、前記電子線の照射は、真空管型電子線照射装置によってなされることを特徴とする電子線照射方法を提供する。 第4に、上記いずれかの方法において、前記被照射物は基体の上に形成されていることを特徴とする電子線照射方法を提供する。 【0012】 第5に、厚さ10〜300μmの被照射物に所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線を照射して、被照射物の厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化させた後、熱処理することにより架橋密度または硬度の分布を形成することを特徴とする架橋または硬化方法を提供する。 【0013】 第6に、10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布が形成された電子線照射物を提供する。 第7に、10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に対して部分的に架橋、硬化または改質された電子線照射物を提供する。 第8に、10〜300μmの厚さを有し、所定の到達深度になるように100kV以下で加速電圧を調整した電子線が照射されることによって、厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化され、その後の熱処理により架橋密度または硬度の分布が形成された電子線照射物を提供する。 【0014】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。 図1は本発明を実施するための電子線照射装置に用いられる、電子線発生部としての照射管を示す模式図である。この装置は、円筒状をなすガラスまたはセラミック製の真空容器1と、その容器1内に設けられ、陰極から放出された電子を電子線として取り出してこれを加速する電子線発生部2と、真空容器1の端部に設けられ、電子線を射出する電子線射出部3と、図示しない給電部より給電するためのピン部4とを有する。電子線射出部3には薄膜状の照射窓5が設けられている。電子線射出部3の照射窓5は、ガスは透過せずに電子線を透過する機能を有しており、図2に示すように、偏平状をなしている。そして、照射室内に配置された被照射物に照射窓5から射出された電子線が照射される。 【0015】 すなわち、この装置は真空管型の電子線照射装置であり、従来のドラム型の電子線照射装置とは根本的に異なっている。従来のドラム型電子線照射装置は、ドラム内を常に真空引きしながら電子線を照射するタイプのものである。 【0016】 このような構成の照射管を有する装置は、米国特許第5,414,267号に開示されており、American International Technologies(AIT)社によりMin-EB装置として検討されている。この装置においては、100kV以下という低加速電圧でも電子線の透過力の低下が小さく、有効に電子線を取り出すことができる。これによって、基材上の被覆材に対し低深度で電子線を作用させることが可能となり、基材への悪影響および2次電子線の発生量を低下させることができるようになり、大がかりなシールドは必ずしも必要としない。 【0017】 また、電子線のエネルギーが低いため、酸素ラジカルに起因する被覆剤表面での反応阻害を低減することができるようになり、イナーティングの必要性が小さくなる。 【0018】 このように、シールドの小型化およびイナーティングの低減化、また低加速電圧であるため電子線発生部分の小型化が可能となることから、電子線照射装置の飛躍的な小型化が可能となり、上記装置は種々の分野への応用が期待されている。 【0019】 また、上記装置は、低加速電圧であるため、電子線の到達深度が小さく、また加速電圧を容易に制御することができるため、電子線の到達深度を容易に制御することが可能である。 【0020】 このことを図3に示す。図3は上記装置を用いて電子線照射した際の各加速電圧における電子線到達深度と照射線量との関係を示すものである。この図から明らかなように、加速電圧が低ければ、電子線が低深度で有効に作用し、また加速電圧により到達深度を制御できることが理解される。 【0021】 本発明では、このように電子線照射の際の加速電圧により電子線の到達深度を制御できることに着目し、被照射物に電子線を照射することにより、照射物の厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布を形成する。 【0022】 すなわち、被照射物に対して厚さ方向途中の所定の深さまでの到達深度を有する加速電圧で電子線を照射することにより、その部分までは架橋、硬化または改質するが、それよりも深い位置では架橋密度、硬度または改質度合いがそれより上の部分よりも低くなるか、または架橋、硬化もしくは改質していない部分となる。したがって、厚さ方向に架橋密度、硬度または改質度合いの分布が形成されるのである。見方を変えれば、被照射物の厚さ方向に対して部分的に架橋、硬化または改質するということもできる。典型例としては、被照射物の表面部分のみを架橋、硬化または改質することが挙げられる。 【0023】 このように、架橋密度または硬度の分布を形成することにより、極めてバリエーションのある適用が可能となる。具体的には、表面のみ硬度が高く、内部が軟質の構造物、表面のみ硬度が低い構造物、架橋密度または硬度が段階的に変化するグラデーション構造または層構造を形成することが可能である。なお、本発明における架橋、硬化には、グラフト重合も含み、改質とは、架橋、重合以外の、化学結合の切断、配向等を意味する。 【0024】 グラデーション構造または層構造をより確実に形成するためには、被照射物の厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化させた後、熱処理して、未架橋または未硬化の部分をある程度架橋または硬化することにより、架橋密度または硬度の分布を形成するようにすることが好ましい。 【0025】 本発明の電子線照射方法を適用するための装置は特に限定されないが、前述したような真空管型のものが制御性の観点から好ましい。すなわち、Min-EBに代表される真空管型電子線照射装置は、上述したように、低加速電圧でも電子線を有効に取り出すことができるので、制御性良くしかも低深度で電子線を作用させることができ、到達深度の制御性も高い。 【0026】 このような到達深度の制御性の観点からは、電子線の加速電圧は150kV以下であることが好ましく、100kV以下が一層好ましい。さらには10〜70kVが好ましい。また、このような低加速電圧において本発明の電子線照射方法を実現するためには、被照射物の厚さは10〜300μmであり、好ましくは10〜100μm程度の範囲である。 【0027】 本発明が適用可能な被照射物としては、印刷インキ、塗料、接着剤、粘着剤等、基材上に比較的薄く形成されるものの他、湿布薬など有効成分を徐々に放出する徐放性の素材、ゴルフボールなどが挙げられる。 【0028】 これらのうち、基材上に形成される印刷インキおよび塗料は、表面部分のみをを架橋または硬化することにより、基材に接する部分の硬化収縮を抑えて、基材との接着性を高めるといった効果を得ることができる。また、接着剤や粘着剤の場合は、表面部分のみ架橋・硬化させ、内部を柔らかい、接着効果を保ったままの状態にしておくことにより、種々の用途への適用が可能となる。 【0029】 これらのうち、印刷インキとしては、凸版インキ、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ等の紫外線や電子線硬化型インキが挙げられる。 【0030】 また、塗料としては、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系等の樹脂、および各種光感応性モノマーを用いた紫外線または電子線硬化型塗料が挙げられる。 【0031】 さらに、接着剤や粘着剤としては、ビニル重合型(シアノアクリレート系、ジアクリレート系、不飽和ポリエステル樹脂系)、縮合型(フェノール樹脂系、ユリヤ樹脂系、メラミン樹脂系)、重付加型(エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系)などの反応硬化型(モノマー型、オリゴマー型)接着剤が挙げられる。接着剤の適用例としては、従来のものに加え、レンズの接着、ガラスシートの接着など、熱に弱い基材にも適応することができる。 【0032】 これらを塗布する基材としては、処理、未処理を問わずステンレス鋼(SUS)、アルミ等の金属およびポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチック等が挙げられる。 【0033】 上記のような印刷インキ、塗料、粘接着剤においては、従来から使用されている各種添加剤を使用することができる。各種添加剤の例としては、顔料、染料、安定剤、溶剤、防腐剤、潤滑剤、活性剤等が挙げられる。 【0034】 上記徐放性の材料としては、湿布薬の他、人工臓器などが挙げられる。このように徐放性の材料を得るために本発明を適用する場合には、被照射物に電子線を照射して表面部分のみを硬化させる。そうすると、表面部分の孔の割合が減少し、内部の成分が徐々に放出することになるのである。この場合の硬化させる厚さは20〜100μm程度が好ましい。 【0035】 ゴルフボールも、反発力の観点から表面部分が硬く、内部が柔らかい必要がある。したがって、やはり本発明を適用して、表面部分の架橋密度を高くして、内部を架橋密度が低い柔らかい状態に保っておくことにより、高性能のゴルフボールを得ることができる。 【0036】 【実施例】 以下、本発明の実施例について説明する。以下の説明において、「部」、「%」は、それぞれ「重量部」、「重量%」である。 【0037】 (実施例1) ここでは、硬化性被覆組成物として金属塗料を用いた例を示す。この塗料の作成は以下の処方で行った。 ポリウレタンアクリレート(東亜合成化学工業(株)社製 アロニックスM 6400) 35部 ビスフェノールA型エポキシアクリレート(ダイセル・ユーシービー社製 エベクリルEB600) 10部 イソボロニルアクリレート 25部 ヒドロキシエチルアクリレート 30部 ルチル型酸化チタン(石原産業(株)社製 タイペークCR-95) 100部 添加剤(BYK社製BYK-358) 0.5部 【0038】 これらを混合し、サンドミルで1時間分散して塗料を作成した。この塗料を、中塗りした金属板(あらかじめ、エポキシプライマー塗料を塗装した鋼板)に膜厚30μmに塗布し、電子線照射した。 照射装置としては、AIT社製Min-EB装置を使用した。また、照射条件は、加速電圧50kV、電流値500μA、コンベアスピード10m/minとした。 【0039】 評価については、塗膜硬度を鉛筆硬度にて、塗膜密着性を碁盤目試験で、また塗膜の傷つき性については、学振型染色物摩擦堅牢度試験器(大栄科学機器)を使用し、不織布を使用して荷重500gで500回振とう後の塗膜の傷つき状態を目しで評価した。評価基準は以下の通りとした。 傷つき性:(良好)5〜1(不良) 評価結果を表1に示す。 【0040】 (実施例2) 実施例1と同様の塗料を膜厚20μmに塗布し、加速電圧を40kVに変更した以外は実施例と同様の照射条件で電子線照射した。実施例1と同じ評価項目について同様の評価基準で評価した。得られた結果を表1に示す。 【0041】 (実施例3) ここでは粘着シートに関する例を示す。 アクリル酸n-ブチル 41部 アクリル酸2-エチルヘキシル 41部 酢酸ビニル 10部 アクリル酸 8部 をトルエン中で共重合させ、脱溶剤させてアクリル系重合体を得た。 得られた共重合体 100部 N-ブチルカルバモイルオキシエチルアクリレート 60部 ポリエチレングリコールジアクリレート 3部 を混合し、電子線硬化性粘着剤組成物を得た。 【0042】 得られた電子線硬化性粘着剤組成物を、セパレーター上に膜厚25μmで塗布し、実施例1と同様の条件で電子線照射し、その後上質紙を貼り合わせて粘着シートを得た。得られたシートの粘着力、タックおよび保持力を測定した。得られた結果を表2に示す。なお、粘着シートの粘着力、タック、再剥離性および未反応単体量の測定方法は以下の通りである。 【0043】 (1)接着力の測定 試験片の幅を25mmとし、ステンレス板に粘着30分後に、180度、引っ張り速度300mm/minで剥離し、接着力を測定した。測定結果は、g/25mmを単位として表示した。用途により異なるが、1000g/25mmを実用域とした。 【0044】 (2)タックの測定 試験片の幅を25mmとし、球転法にて測定し傾斜角30度で止まる最大の鋼球番号で表示した。用途により異なるが鋼球番号が7以上であれば実用域にあるものとした。 【0045】 (3)再剥離性試験 前述の試験片をステンレス板に貼着し、23□で7日間放置した後、再剥離性、剥離面の被着体(ステンレス板)糊残りを目視評価した。評価基準は以下の通りとした。 再剥離性…○:良好、△:一部剥離可、×:剥離不可 被着体糊残り…○:糊残りなし、△:一部糊残りなし、×:全面に糊残り有り 【0046】 (4)未反応単体量の測定 硬化後の粘着剤組成物を一定量、粘着シートから採取し、これを50mlのテトラヒドロフランに加え、24時間そのまま放置した。放置後濾過し、濾液をサンプルとしてグルパーミュレーションクロマトグラフィーにより測定し、硬化後の粘着剤組成物中の未反応の単量体N-ブチルカルバモイルオキシエチルアクリレートの重量(%)を決定した。硬化後の粘着剤組成物中の未反応単量体の量が1.0%未満であれば実用域にあるとした。 これらの評価結果を表2に示す。 【0047】 (実施例4) 実施例3と同様の条件で粘着剤組成物を作成し、加速電圧を60kVとした以外は実施例3と同様の条件で電子線照射し、実施例3と同様の方法で評価した。 【0048】 (比較例1) 実施例1に示す条件で塗装物を作成し、電子線照射装置として日新ハイボルテージ社製キュアトロンEBC 200 20 30を使用して加速電圧200kV、電流値5mA、コンベアスピード20m/minの条件で電子線照射した。得られた塗装物の塗膜硬度、塗膜密着性および塗膜傷つき性について実施例1と同様の基準で評価した。得られた結果を表1に示す。 【0049】 (比較例2) 実施例3と同様に電子線硬化性粘着剤組成物を塗布し、電子線照射装置として日新ハイボルテージ社製キュアトロンEBC-200-20-30を使用して加速電圧200kV、電流値6mA、コンベアスピード7.5m/minの条件で電子線照射した。得られた粘着シートの粘着力、タックおよび保持力を測定し、実施例3と同様の基準で評価した。得られた結果を表2に示す。 【0050】 (比較例3) 比較例2と同様に電子線硬化性粘着剤組成物を塗布し、同じ電子線照射装置を用い、加速電圧200kV、電流値6mA、コンベアスピード22.5m/minの条件で電子線照射した。この際、コンベアスピードを3倍にしたために、照射線量は約1/3に低下した。得られた粘着シートについて実施例3と同じ項目を同様の評価基準で評価した。得られた結果を表2に示す。 【0051】 【表1】 【0052】 【表2】 【0053】 表1から明らかなように、実施例1,2は、いずれも塗膜密着性が良好であるのに対し、比較例1は密着性が劣っていた。すなわち、実施例1,2では、厚さ方向に架橋密度分布を有しており、塗膜の金属板に接する部分が架橋密度が低下したために、その部分に硬化収縮が生じず、結果として塗膜密着性が良好になったのに対し、比較例1では塗膜の金属板側まで架橋しているため(厚さ方向全体に亘って架橋密度が高くなっているため。)金属板に接する部分に硬化収縮が生じ、結果として密着性が劣化した。 【0054】 また、表2から明らかなように、実施例3,4は、被着体であるステンレス板との接着力、鋼球によるタックおよび再剥離性がいずれも良好であり、未反応単量体量も少なかった。このことから、実施例3,4の粘着剤が架橋密度分布を有することが確認された。これに対して、比較例2は、被着体であるステンレス板との接着力および鋼球によるタッグが低くかった。このことから、比較例2の粘着剤が架橋密度分布を有しておらず、厚さ方向全体で架橋密度が高いことがわかる。また、比較例3ではコンベアスピードを3倍として照射線量を約1/3に低下させた結果、架橋密度が低下し、接着力およびタッグは向上した。しかし、未反応単量体が多いことからもわかるように、架橋密度が厚さ方向全体で低くなり、結果として再剥離性が不良となった。 【0055】 【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば、被照射物の全体を一様に架橋または硬化するのではなく、厚さ方向に架橋密度または硬度の分布を形成する、ないしは厚さ方向に対して部分的に架橋または硬化するので、架橋または硬化状態にバリエーションを持たせることができる。また、真空管型電子線照射装置を用いることにより、従来の装置上の問題を解決することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明を実施するための電子線照射装置を示す模式図。 【図2】 図1の装置の電子線射出部を示す図。 【図3】 真空管型電子線照射装置を用いて電子線照射した際の各加速電圧における電子線到達深度と照射線量との関係を示す図。 【符号の説明】 1……真空容器 2……電子線発生部 3……電子線射出部 4……ピン部 5……照射窓 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-03-01 |
出願番号 | 特願平8-336295 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZA
(C08J)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 森川 聡 |
特許庁審判長 |
柿崎 良男 |
特許庁審判官 |
石井 あき子 中島 次一 |
登録日 | 2001-08-17 |
登録番号 | 特許第3221338号(P3221338) |
権利者 | 東洋インキ製造株式会社 |
発明の名称 | 電子線照射方法および架橋または硬化方法、ならびに電子線照射物 |
代理人 | 高山 宏志 |
代理人 | 高山 宏志 |