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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
管理番号 1099722
異議申立番号 異議2002-71375  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-12-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-29 
確定日 2004-06-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第3236272号「水性塗料組成物」の請求項1ないし23に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3236272号の請求項1ないし23に係る特許を取り消す。 
理由 (I)手続きの経緯
本件特許第3236272号の請求項1〜23に係る発明は、平成2年4月18日付けの特許出願(以下、「もとの出願」という」)である特願平2-506262号の一部を新たな特許出願とするものであるとして平成11年5月17日に特許出願され、平成13年9月28日に特許権が設定登録されたところ、前記請求項1〜23に係る発明の特許について、山田 博(以下、申立人という。)から、特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内に特許異議意見書が提出されたものである。

(II)特許異議申立てについて
(II-1)当審が通知した取消理由:
当審が通知した取消理由は以下のとおりである。
『(あ)本件の請求項1〜23に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである[本件の請求項1〜23に係る発明のうち、請求項1に記載の(b)の成分を界面活性剤のみとし、またはポリオールを3重量%未満とする発明は、もとの特許出願の願書に添付した明細書に記載されていない発明であるから、本件出願はもとの特許出願の時にしたものとみなすことができない。そして、本件の請求項1〜23に係る発明は、刊行物1(特表平4-506530号、甲第1号証)に記載の、発行日が平成9年10月14日とされる、平成9年4月18日付けの、もとの特許出願に対する手続補正書に記載された発明に包含される発明である。]。
(い)本件の請求項1〜23に係る発明のうち、請求項1に記載の(b)の成分を界面活性剤のみとし、またはポリオールを3重量%未満とする発明は、明細書の発明の詳細な説明の欄に記載されていないものであり、本件出願は、明細書の記載が、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。』

(II-2)本件発明:
本件の請求項1〜23に係る発明(以下、「本件発明1〜23」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜23に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】(a)ハロゲン化ポリオレフィン樹脂物質、ハロゲン化ビニル樹脂、エピヒドリン樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、及びこれらの混合物から選ばれる樹脂であり、40,000以下の分子量、又は150〜350°F(65〜177℃)の軟化点を有する該樹脂、(b)0.05〜15重量%の量の界面活性剤、あるいは、塗布時に塗料組成物が融合するに十分な量である3重量%未満の量のポリオールと0.05〜15重量%の量の界面活性剤、(c)1〜3のアミン官能価を有する脂肪族アミン、並びに(d)30〜95重量%の量の水、を膜形成のための有効量含み、かつ、芳香族有機溶媒を実質的に含まない水性塗料組成物。
【請求項2】樹脂が塩素化ポリオレフィン物質である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】組成物は、62〜500の分子量を有するポリオールをポリオールとして含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】樹脂は、0.5〜40重量%の量で存在する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】カーボンブラックを更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】アミンが、ジエチルアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、及びこれらの混合物から成る群から選ばれる請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】樹脂が10,000〜30,000の分子量を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】樹脂は、2〜10重量%の量で存在する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】ポリオールがアルキレングリコールである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】界面活性剤がアルコキシ化非イオン性界面活性剤である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】増粘剤を更に含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】(a)基体及び(b)基体の少なくとも一部分の上に置かれた層であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の水性塗料組成物から調製された層、を含む、多層物品。
【請求項14】水性塗料組成物から調製された層の少なくとも一部分の上に置かれた第2の被膜層を有する、請求項13記載の多層物品。
【請求項15】第2被膜層がトップコート塗料組成物から調製されたものである、請求項14記載の多層物品。
【請求項16】基体が合成基体である、請求項13〜15のいずれか1項記載の多層物品。
【請求項17】基体がポリオレフィン物質である、請求項13〜16のいずれか1項に記載の多層物品。
【請求項18】(a)基体層を供給する工程、及び(b)前記基体層の少なくとも一部に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物を被覆する工程、を含む、多層物品の製法。
【請求項19】工程(b)で被覆される組成物から被膜層を形成する工程を更に含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】工程(b)の組成物、又は工程(b)の組成物から形成された被膜層の少なくとも一部分の上に第2の物質層を被覆する工程を更に含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】第2物質層がトップコート塗料組成物から調製されたものである、請求項20記載の方法。
【請求項22】基体が合成基体である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】基体がポリオレフィン物質である、請求項18〜22のいずれか1項に記載の方法。

(II-3)刊行物1の記載:
刊行物1(特表平4-506530号、甲第1号証)の記載は、平成4年11月12日に公表された、特願平2-506262号の出願の出願時の明細書(以下、「原明細書」という。)に係る記載(1〜12頁)と、平成9年10月14日に発行された、平成9年4月18日付けの手続補正書(以下、「手続補正書」という。)に係る記載(補1〜3頁)からなっている。そして、原明細書および手続補正書には、以下の記載がある。

原明細書:
「1.(a)少なくとも約62〜約500の分子量を有するポリオール、約3〜約40%;(b)ハロゲン化ポリオレフィン樹脂物質、ハロゲン化ビニル樹脂、エピヒドリン樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、およびこれらの混合物から選ばれれる樹脂であり、約10,000〜約30,000の分子量、または約150〜約350°Fの軟化点を有する該樹脂、約0.5〜約40%;(c)界面活性剤、約0.05〜約15%;(d)1〜3のアミン官能基を有する第一、第二および第三脂肪族アミンおよびこれらの混合物から選ばれるアミン;および(e)約30〜約95%の水から成る水性塗料組成物であり、該組成物中における全不揮発物含量が約5重量%未満であり、かつ、該組成物が芳香族有機溶剤を実質的に含まないことを特徴とする水性塗料組成物。
9.前記のポリオールが、約3〜約10%の量で存在する請求の範囲1に記載の水性塗料組成物。
23.(a)少なくとも約62〜約500の分子量を有するポリオール、約3〜約40%;(b)ハロゲン化ポリオレフィン樹脂物質、ハロゲン化ビニル樹脂、エピヒドリン樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、およびこれらの混合物から選ばれれる樹脂であり、約10,000〜約30,000の分子量または約150〜約350°Fの軟化点を有する該樹脂、約0.5〜約40%;(c)界面活性剤、約0.05〜約15%;(d)アミン官能基1〜3を有する第一、第二および第三脂肪族アミンおよびこれらの混合物から選ばれるアミン;および(e)水、約30〜約95%を含み、組成物中における全非揮発物含量が約5重量%未満であり、かつ、芳香族有機溶剤を実質的に含まない組成物を物品に接触させる工程から成ることを特徴とする水性塗料組成物で物品を被覆する方法。」(1頁および10頁参照)、
「この組成物は実質的な減少された量の揮発性有機溶剤または揮発性有機成分(VOC’S)を使用してポリオレフィン状基材を有効に被覆することができる。好ましい態様において、本発明の組成物および系は、特に、ベンゼン、キシレンまたは同様な物質または成分のような揮発性有機溶剤の非常に低い量を含有する。非常に好ましい態様において、本発明の組成物および系は、特に、ベンゼン、トルエン、キシレンなどのような芳香族有機溶剤である揮発性有機成分または物質を実質的に含まない。」(3頁右上欄15〜23行)、
「ポリオールは他の機能も同様に有することができるが(・・・)、本発明の組成物および方法において使用するポリオールは限定されることなく主として融合助剤として使用される。・・・好ましくは蒸留可能なポリオールである。」(3頁左下欄7〜12行)、
「本発明の最終塗料組成物または系及び方法では、最終組成物の重量の約3〜約40%の量の選択されたポリオールを使用する。さらに好ましい態様においては、ポリオールが約3〜20%、さらに好ましくは約3〜約10%を構成する。ある非常に好ましい態様においては、最終塗料組成物または系の全重量の約4.9%のポリオールを使用する。」(3頁右欄10〜16行)、
「次の例は本発明の説明のためのものである。例 110gの量のエチレングリコールを、・・・のような界面活性剤、17gと混合する。・・・塩素化ポリオレフィン樹脂、67.5gを添加し、・・・のようなアミン、2.1gを添加する。・・・20gの熱水を・・・添加する。・・・20gの熱水を・・・添加する。・・・1970gの熱水を混合物に添加する。ポリプロピレンパネル上に上記のエマルションを吹付け、被覆を・・・試験する。・・・。本開示による上記の変法によっても実質的に同様な結果を得ることができる。・・・。さらに各種成分の量も変更できる。例えば界面活性剤および(または)グリコールの量は50%減少することができる。本発明をある好ましい態様を特に参照して説明してきたが、次の請求の範囲に定義したような本発明の精神および範囲から逸脱することなく変更および改良態様が可能である。」(9頁左上欄4行〜同頁左下欄8行参照)。

手続補正書:
「1.(a)40,000以下の分子量または150〜350°F(65〜177℃)の軟化点を有するポリオレフィン樹脂、(b)40重量部以下のポリオール、15重量部以下の界面活性剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの成分、(c)1〜3のアミン官能価を有する脂肪族アミン、及び(d)95重量部以下の水、を含み、かつ、芳香族有機溶媒を実質的に含まない水溶性塗料組成物。
2.(a)ハロゲン化ポリオレフィン樹脂物質、ハロゲン化ビニル樹脂、エピヒドリン樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、およびこれらの混合物から選ばれる樹脂であり、40,000以下の分子量、または150〜350°F(65〜177℃)の軟化点を有する該樹脂、(b)40重量部以下のポリオール、15重量部以下の界面活性剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの成分、(c)1〜3のアミン官能価を有する脂肪族アミン、及び(d)95重量部以下の水、を含み、かつ、芳香族有機溶媒を実質的に含まない水溶性塗料組成物。
3.(a)無水マレイン酸を含む熱可塑性付加重合体樹脂、(b)40重量部以下のポリオール、15重量部以下の界面活性剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの成分、(c)1〜3のアミン官能価を有する脂肪族アミン、及び(d)95重量部以下の水、を含み、かつ、芳香族有機溶媒を実質的に含まない水溶性塗料組成物。
4.前記樹脂が塩素化ポリオレフィン樹脂物質である、請求の範囲1項〜3項のいずれか1項に記載の組成物。
5.前記ポリオールが、62〜500の分子量のポリオールを含む、請求の範囲1項〜4項のいずれか1項に記載の組成物。
6.0.5〜40重量部の前記樹脂を含む、請求の範囲1項〜5項のいずれか1項に記載の組成物。
7.0.05〜15重量部の前記界面活性剤を含む、請求の範囲1項〜6項のいずれか1項に記載の組成物。
8.カーボンブラックを更に含む、請求の範囲1項〜7項のいずれか1項に記載の組成物。
9.前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、請求の範囲1項〜8項のいずれか1項に記載の組成物。
10.前記アミンが、ジエチルアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール.トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、およびこれらの混合物から成る群から選ばれる請求の範囲1項〜9項のいずれか1項に記載の組成物。
11.前記樹脂が、10,000〜80,000の分子量を有する、請求の範囲1項〜10項のいずれか1項に記載の組成物。
12.30〜95重量部の水を含む、請求の範囲1項〜11項のいずれか1項に記載の組成物。
13.2〜10重量部の前記樹脂を含む、請求の範囲1項〜12項のいずれか1項に記載の組成物。
14.前記ポリオールがアルキレングリコールである、請求の範囲1項〜13項のいずれか1項に記載の組成物。
15.3〜10重量部の前記ポリオールを含む、請求の範囲1項〜14項のいずれか1項に記載の組成物。
16.前記界面活性剤が、アルコキシ化非イオン性界面活性剤である、請求の範囲1項〜15項のいずれか1項に記載の組成物。
17.増粘剤を更に含む、請求の範囲1項〜16項のいずれか1項に記載の組成物。
18.組成物の合計が100重量部である、請求の範囲1項〜17項のいずか1項に記載の組成物。
19.(a)基体及び
(b)基体の少なくとも一部分の上に処理された層であって、請求の範囲1項〜18項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物から調製された層、を含む、多層物品。
20.前記の層の少なくとも一部分の上に第2の被膜層を有する、請求の範囲19項に記載の多層物品。
21.前記第2の被膜層が、トップコート塗料組成物から調製される、請求の範囲20項に記載の多層物品。
22.前記基体が、合成基体である、請求の範囲19項〜21項のいずれか1項に記載の多層物品。
23.前記基体が、ポリオレフィン物質である、請求の範囲19項〜22項のいずれか1頃に記載の多層物品。
24.(a)基体層を供給する工程、及び
(b)基体層の少なくとも一部に、請求の範囲1項から18項のいずれか1項に記載の組成物を被覆する工程、を含む多層物品の製造方法。
25.前記(b)工程が、前記組成物から被膜層を形成する工程を含む、請求の範囲24項に記載の方法。
26.前記組成物または前記組成物から形成された前記被膜層の少なくとも一部分に第2の物質層を被覆する工程を更に含む、請求の範囲24項又は25項に記載の方法。
27.前記第2の物質層がトップコート塗料組成物から調製される、請求の範囲26項に記載の方法。
28.前記基体が、合成基体である、請求の範囲24項〜27項のいずれか1項に記載の方法。
29.前記基体が、ポリオレフィン物質てある、請求の範囲24項〜28項のいずれかに記載の方法。』(補1右下欄〜2頁右上欄参照)。

(II-4)検討:
(II-4-1)本件発明1〜23の出願日:
本件発明1がもとの出願の出願の時になされたと見なすことができるか否かを検討するに、本件発明1は、「(b)0.05〜15重量%の量の界面活性剤、あるいは、塗布時に塗料組成物が融合するに十分な量である3重量%未満の量のポリオールと0.05〜15重量%の量の界面活性剤」という構成を有し、したがって、ポリオールを全く含まない、またはポリオールを3重量%より著しく少ない量で含有するという構成(以下、「構成A」という。)を有するものである。
これに対して、もとの出願の出願時の明細書に係る前記原明細書には、ポリオールの使用量について、「本発明の最終塗料組成物または系及び方法では、最終組成物の重量の約3〜約40%の量の選択されたポリオールを使用する。」と明記され、その態様に関して、「好ましい態様においては、ポリオールが約3〜20%、さらに好ましくは約3〜約10%を構成する。ある非常に好ましい態様においては、最終塗料組成物または系の全重量の約4.9%のポリオールを使用する。」と記載されている。
そして、ポリオールの使用量の下限値としては「約3%」という値が統一して用いられていること、実施例の記載も当該下限値より大きい約4.9%(前記した実施例における使用量から算出)の場合のみであること、さらに、前記した「界面活性剤および(または)グリコールの量は50%減少することができる。」との記載も、グリコールの使用量を0重量%に近い量とすることや全く使用しないことを示しているとすることができないことを考慮すると、前記原明細書に、ポリオールの使用量を「約3%」より著しく少ない0重量%に近い量とすることや、全く使用しないこと、すなわち、本件発明1の前記構成Aが示されているとすることはできない。
また、前記手続補正書は、本件出願よりも前に補正の却下が確定しているから、当該補正書の内容が本件出願時の特願平2-506262号の一部であるとすることはできない。
してみると、本件発明1は、前記構成Aを有する点で、本件出願時の特願平2-506262号の一部であるとすることはできず、本件発明1を含む本件出願が特願平2-506262号の一部を新たな特許出願としてなされたものであるとすることはできない。
よって、本件発明1〜23の出願日は、特願平2-506262号の出願日とみなすことができず、その現実の出願日である平成11年5月17日である。

なお、原明細書には、ポリオールについて、前記したように、「主として融合助剤として使用される」と記載され、「主として」との記載から明らかなように、ポリオールが融合助剤としてのみ使用されるとされておらず、「蒸留可能な」なる記載も、ポリオールの種類を単に特定しているにすぎないと解されるから、これらの記載がポリオールを融合助剤としてのみ使用することやポリオールが少ない程良いことを示しているとし、前記構成Aが原明細書に記載されているとする特許権者の主張は採用できない。

(II-4-2)取消理由(あ)について:

(A)刊行物1の頒布について:
本件発明1〜23の出願日は、前記したとおり、平成11年5月17日であるから、刊行物1は、本件発明1〜23の出願前に国内において頒布されたものである。

(B)本件発明1について:
刊行物1の前記手続補正書の特許請求の範囲第2項には、前記した記載内容からみて、「(a)ハロゲン化ポリオレフィン樹脂物質、ハロゲン化ビニル樹脂、エピヒドリン樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、およびこれらの混合物から選ばれる樹脂であり、40,000以下の分子量、または150〜350°F(65〜177℃)の軟化点を有する該樹脂、(b)40重量部以下のポリオール、15重量部以下の界面活性剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの成分、(c)1〜3のアミン官能価を有する脂肪族アミン、及び(d)95重量部以下の水、を含み、かつ、芳香族有機溶媒を実質的に含まない水溶性塗料組成物」の発明(以下、「補正書発明」という。)が記載されている。
本件発明1と前記補正書発明とを比較すると、両者は、「(a)ハロゲン化ボリオレフィン樹脂物質、ハロゲン化ビニル樹脂、エピヒドリン樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、およびこれらの混合物から選ばれる樹脂であり、40,000以下の分子量、または150〜350°F(65〜177℃)の軟化点を有する該樹脂、(b)界面活性剤やポリオール、(c)1〜3のアミン官能価を有する脂肪族アミン、及び(d)水、を含み、かつ、芳香族有機溶媒を実質的に含まない水溶性塗料組成物」という構成において共通し、以下の点で、表現上、相違する。
(ア)前記(b)成分について、本件発明1は「界面活性剤、あるいは、ポリオールと界面活性剤」としているのに対し、補正書発明は「ポリオール、界面活性剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの成分」としている点、
(イ)使用量について、本件発明1は「重量%」とするのに対し、補正書発明は「重量部」としている点、
(ウ)ポリオールの使用量について、本件発明1は「界面活性剤、あるいは、塗布時に塗料組成物が融合するに十分な量である3重量%未満の量のポリオールと界面活性剤」とし、「ポリオールを全く含まない、またはポリオールを塗布時に塗料組成物が融合するに十分な量である3重量%未満の量」としているのに対し、補正書発明は「40重量部以下」としている点、
(エ)界面活性剤の使用量について、本件発明1は「0.05〜15重量%」としているのに対し、補正書発明は「15重量部以下」としている点、
(オ)水の使用量について、本件発明1は「30〜95重量%」としているのに対し、補正書発明は「95重量部以下」としている点、
(カ)前記(a)〜(d)成分の使用量について、本件発明1は「膜形成のための有効量含み」としているのに対し、補正書発明は特に規定していない点。
そこで、前記の(ア)〜(カ)の相違点について、検討する。
(ア)について:
前記補正書発明の「ポリオール、界面活性剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの成分」は、「界面活性剤、あるいは、ポリオールと界面活性剤」をも内容とするものである。したがって、(ア)は実質的な相違点でない。
(イ)について:
前記手続補正書における「重量部」なる表現は、その請求項18の記載、すなわち、「組成物の合計が100重量部である、請求の範囲1項〜17項のいずか1項に記載の組成物。」との記載からみて、「重量%」と同義のものである。したがって、(イ)の相違点は実質的な相違点でない。
(ウ)について:
前記補正書発明における「40重量部以下のポリオール」は、前記(イ)に記載した理由で、「40重量%以下のポリオール」を示すものであり、通常は、「3重量%未満のポリオール」をも含む(特許権利者も特許異議意見書の4頁において、米国およびカナダにおいても同様の解釈がなされている旨を記載している。)と解されるうえに、前記手続補正書と前記原明細書との対比からみて、前記補正書発明における「40重量部以下のポリオール」との記載は、前記原明細書における「ポリオール、約3〜約40%」との記載や「最終組成物の重量の約3〜約40%の量の選択されたポリオールを使用する。」との記載における、「約3%〜約40%」に係る下限値を改めて削除したものに相当する。
してみると、前記「40重量部以下のポリオール」なる表現は、「3重量%未満のポリオール」をも内容として含むものである。
また、本件発明1における「塗布時に塗料組成物が融合するに十分な量である」との限定は、「3重量%未満」という使用量が水性塗料組成物として有効に機能する量であることを説明したものに相当するところ、前記補正書発明も、水性塗料組成物に係るものであり、そのポリオールの使用量は当然に水性塗料組成物として有効に機能する量であることを示すと解されるから、両発明における前記限定の有無の相違は実質的な相違ではない。
したがって、(ウ)の相違点は、実質的な相違点であるとすることはできない。
(エ)及び(オ)について:
本件発明1は、前記補正書発明の「以下」なる表現を、上限を変えることなく、下限のみ限定したものであり、使用量として重複することは明らかである。したがって、(エ)及び(オ)の相違点は実質的な相違点でない。
(カ)について:
前記補正書発明は、水性塗料組成物に係るものであり、前記(a)〜(d)の使用量は当然に塗膜を形成できる量と解されるから、当該補正書発明に、その(a)〜(d)の使用量に関して、「膜形成のための有効量」である旨の明示がないとしても、その点で、本件発明1と補正書発明とが相違するとすることはできない。したがって、(カ)の相違点は実質的な相違点とすることができない。

よって、本件発明1は、本件出願前に国内で頒布された刊行物1に係る前記手続補正書に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(C)本件発明2〜23について:
本件発明2〜12は、いずれも本件発明1を引用するものであるところ、当該引用部分以外は、「重量%」が「重量部」とされていることを除き、前記手続補正書の特許請求の範囲第4、5、6、8、9、10、11、13、14、16および17項に記載された内容と同じであり、引用部分も、本件発明1が前記補正書発明と差がないことを考慮すると、前記手続補正書の特許請求の範囲第4、5、6、8、9、10、11、13、14、16および17項に記載された発明において同特許請求の範囲第2項に記載された発明を引用していることと差がない。
そして、「重量%」は、前記したように、「重量部」と同義である。
してみると、本件発明2〜12は、前記手続補正書の特許請求の範囲第4、5、6、8、9、10、11、13、14、16および17項に記載された発明である。

本件発明13は、前記手続補正書の特許請求の範囲第19項に記載された「(a)基体及び(b)基体の少なくとも一部分の上に処理された層であって、請求の範囲1項〜18項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物から調製された層、を含む、多層物品。」なる発明において、「基体の少なくとも一部分の上に処理された層」を「基体の少なくとも一部分の上に置かれた層」とし、「請求の範囲1項〜18項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物」を「請求項1〜12のいずれか1項に記載の水性塗料組成物」としたものに相当する。
しかし、「基体の少なくとも一部分の上に処理された層」との表現は、基体の上に置かれる層が何らかの処理により基体の上に形成されるものであることを示すものであるから、「基体の少なくとも一部分の上に置かれた層」との表現と同じであり、「請求の範囲1項〜18項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物」との表現は、前記したように、「請求の範囲1項〜18項」に記載の発明が本件発明1〜12をも示すことを考慮すると、本件の明細書における「請求項1〜12のいずれか1項に記載の水性塗料組成物」と重複する内容に係るものである。
したがって、本件発明13は、前記手続補正書の特許請求の範囲第19項に記載された発明である。

本件発明14は、前記手続補正書の特許請求の範囲第20項に記載された「前記の層の少なくとも一部分の上に第2の被膜層を有する、請求の範囲19項に記載の多層物品。」なる発明において、「前記の層の少なくとも一部分の上に第2の被膜層を有する」を「水性塗料組成物から調製された層の少なくとも一部分の上に置かれた第2の被膜層を有する」とし、「請求の範囲19項に記載の多層物品」を「請求項13記載の多層物品」としたものに相当する。
しかし、「前記の層の少なくとも一部分の上に第2の被膜層を有する」との表現は、前記手続補正書の特許請求の範囲第19項の記載からみて、「前記の層」が「水性塗料組成物から調製された層」であり、かつ、「一部分の上に第2の被膜層を有する」が「一部分の上に置かれた第2の被膜層を有する」と同義であるから、「水性塗料組成物から調製された層の少なくとも一部分の上に置かれた第2の被膜層を有する」と同義である。
また、「請求の範囲19項に記載の多層物品」との表現は、前記したように、手続補正書の請求項19に記載された発明が本件発明13と同一であり、かつ、本件発明13が「請求項13記載の多層物品」と同じであるから、本件の明細書における「請求項13記載の多層物品」と同義である。
したがって、本件発明14は、前記手続補正書の特許請求の範囲第20項に記載された発明である。

本件発明15〜17は、いずれも本件発明14を引用するものであるところ、当該引用部分以外は、前記手続補正書の特許請求の範囲第21〜23項に記載された内容と同じであり、引用部分も、前記したように、本件発明14が前記手続補正書の特許請求の範囲第20項に記載された発明であることを考慮すると、前記手続補正書の特許請求の範囲第21〜23項に記載の発明において同特許請求の範囲第20項に記載された発明を引用していることと差がない
したがって、本件発明15〜17は、前記手続補正書の特許請求の範囲第21〜23項に記載された発明である。

本件発明18は、本件発明1〜12を引用した多層物品の製法に係るものであるところ、当該引用部分以外は、前記手続補正書の特許請求の範囲第24項に記載された内容と同じであり、引用部分も、前記したように、本件発明1〜12が前記手続補正書の特許請求の範囲第1〜18項に記載された発明と差がないことを考慮すると、前記手続補正書の特許請求の範囲第24項に記載された発明において同特許請求の範囲第1〜18項に記載された発明を引用していることと差がない。
したがって、本件発明18は、前記手続補正書の特許請求の範囲第24項に記載された発明である。

本件発明19〜23は、いずれも本件発明18を引用するものであるところ、当該引用部分以外の内容は、前記手続補正書の特許請求の範囲第25〜29項の内容と差がなく、引用部分の内容も、本件発明18が前記手続補正書の特許請求の範囲第24項に記載された発明と差がないことを考慮すると、前記手続補正書の特許請求の範囲第25〜29項に記載された発明において、同特許請求の範囲第24項に記載された発明を引用していること差がない。
したがって、本件発明19〜23は、前記手続補正書の特許請求の範囲第25〜29項に記載された発明である。

よって、本件発明2〜23は、本件出願前に国内で頒布された刊行物1に記載の前記手続補正書に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(II-4-3)理由(い)について:
本件発明1は、前記構成Aを有するものである。
しかし、刊行物1に記載の前記原明細書の発明の詳細な説明の欄に相当する本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、(II-4-1)において示したと同様の理由により、前記構成Aについての記載があるとすることはできず、当該構成により如何なる効果が奏されるかについても記載がない。
してみると、本件明細書の発明の詳細な説明の欄に、本件発明1のうち前記構成Aを有する発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとすることも、その特許請求の範囲に、発明の詳細な説明の欄に記載した発明が記載されているとすることもできない。
よって、本件出願は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるとすることができない。

(II-4-4)むすび:
以上のとおりであるから、本件発明1〜23についての特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
したがって、本件発明1〜23についての特許は、特許法第113条第2号および第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-01-28 
出願番号 特願平11-135540
審決分類 P 1 651・ 537- Z (C09D)
P 1 651・ 536- Z (C09D)
P 1 651・ 113- Z (C09D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 松井 佳章近藤 政克  
特許庁審判長 雨宮 弘治
特許庁審判官 唐木 以知良
西川 和子
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3236272号(P3236272)
権利者 エイ - ライン プロダクツ コーポレイション
発明の名称 水性塗料組成物  
代理人 礒山 朝美  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 箕浦 清  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  
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