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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1099730
異議申立番号 異議2003-71870  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-02-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-22 
確定日 2004-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第3370519号「セラミックヒータ」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3370519号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3370519号の請求項1に係る発明は、平成8年7月31日に出願され、平成14年11月15日にその特許の設定登録がなされ、その後、平成15年7月22日に特許異議申立人日本特殊陶業株式会社により、請求項1に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】窒化珪素質焼結体からなる絶縁性母材中に発熱体を埋設してなるセラミックヒータにおいて、前記窒化珪素質焼結体が、窒化珪素主相と、希土類元素、酸素および珪素を含み、ダイシリケート相を主結晶とする粒界相により構成され、前記発熱体が、WC、TaN、Mo2 Cのうちのいずれかを主成分とし、添加物として窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素のうちの少なくとも1種を含み、且つ該発熱体の前記絶縁性母材との界面に前記発熱体主成分を構成する金属の珪化物相が前記発熱体の最小厚みの25%以下の厚みで存在することを特徴とするセラミックヒータ。

3.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人日本特殊陶業株式会社は、証拠として甲第1号証(特開平7-318055号公報)、及び資料(1)(1994年9月1日発行「新版 高融点化合物物性便覧」発行所 有限会社 日ソ通信社)、を提出し、本件発明1は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すべき旨主張している。

4.甲第1号証記載の発明
特許異議申立人日本特殊陶業株式会社が提出した甲第1号証には、
「【作用】本発明のセラミック発熱体によれば、窒化珪素質焼結体の粒界相がMo4.8 Si3 C0.6 とMoSi2 の結晶を共存することにより、埋設した発熱抵抗体が珪化されない状態で焼結が進み、それとともに窒化珪素質焼結体と発熱抵抗体との熱膨張差が小さくなる。」(段落【0013】)、
「図1及び図2において、1は窒化珪素質焼結体2中に、略平行な2層の無機導電材から成る略U字状を成す層状の発熱抵抗体3と、発熱抵抗体3の各端部に少なくとも一部を重ねて形成した層状の発熱抵抗体4を介して接続した高融点金属の線材から成るリード線5と、リード線5にそれぞれ接続した無機導電材から成る複数個に分割した電極取り出し層6を埋設し、電極取り出し層6の一部が窒化珪素質焼結体2の外周面に露出するとともに、その先端が略球面で、断面が円形を成したセラミック発熱体である。」(段落【0018】)、
「RE2O3・2SiO2で表されるダイシリケートは前記モノシリケートと共存していても良い。」(段落【0022】)、
「また、無機導電材から成る発熱抵抗体3、4あるいは電極取り出し層6の主成分は、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、レニウム(Re)等の高融点金属やその合金の他、例えばタングステンカーバイド(WC)、窒化チタン(TiN)や硼化ジルコニウム(ZrB2 )等の第4a族、第5a族、第6a族の炭化物または窒化物等があり、とりわけ高温まで無機導電材として窒化珪素質焼結体との熱膨張差が小さく、熱衝撃抵抗性に優れ、安定した特性を有するタングステンカーバイド(WC)が好ましい。」(段落【0029】)、
「次に、本発明のセラミック発熱体を評価するにあたり、先ず、比表面積が7〜15m2 /g、含有する不可避不純物としての酸素量が1.5重量%以下、金属不純物が0.05重量%以下の窒化珪素(Si3N4 )粉末に、焼結助剤として周期律表第3a族元素の酸化物とアルミナ(Al2 O3 )、珪化モリブデン(MoSi2 )を焼結体組成が表1及び表2となるように秤量したものを添加混合して調製し、得られた造粒体を使用し、プレス成形法等、周知の成形法により平板状の窒化珪素を主成分とするセラミック成形体を作製する。但し、表1及び表2に示す焼結体組成中の珪化モリブデン量はMo4.8 Si3 C0.6 とMoSi2 とMoSi2 の合計量である。
【0033】次に、タングステンカーバイド(WC)の微粉末80重量%と窒化珪素(Si3N4)の微粉末20重量%の混合粉末に溶媒を加えて調製したペーストを使用して、スクリーン印刷法等により略U字形状のパターンで、セラミック焼結体の先端より5mm以内に位置するようにそれぞれ別のセラミック成形体の表面に、厚さ約40μm の発熱抵抗体3を形成する。
【0034】次に、85重量%のタングステンカーバイド(WC)と15重量%の窒化珪素(Si3N4 )の各微粉末から成るペーストを使用して、前記発熱抵抗体3の端部に一部重なるようにして厚さ約40μm の発熱抵抗体4を形成する。」(段落【0032】〜【0034】)、
「該セラミック発熱体が1400℃の温度で飽和する10〜35Vの直流電圧を5分間通電した後、通電を停止して1分間圧搾空気を吹きつけ強制冷却する工程を1サイクルとする高負荷耐久試験を行い、20000サイクル実施し、両電極間の抵抗値を測定し、試験開始前の両電極間の抵抗値に対する変化率が10%以下のものを良、越えるものを不良として耐久性を評価する」(段落【0042】)、
「尚、前記セラミック発熱体の基体をなす窒化珪素質焼結体の粒界相の結晶相は、前記高負荷耐久試験に用いたものと同一仕様の熱履歴前のセラミック発熱体を用い、その外周を研磨除去した後、窒化珪素質焼結体を微粉砕してX線回折を行い、2θが41.8°のピークからMo4.8 Si3 C0.6 (表3及び表4中、〈1〉(本文では丸数字1)と記す)を、また2θが44.7°のピークからMoSi2 (表3及び表4中、〈2〉(本文では丸数字2)と記す)を同定した。
【0044】また、2θが34.8°のα-Si3N4 と、2θが33.6°のβ-Si3N4 のピーク高さの合計を基準とし、このピーク高さを100として2θが28.7°である(-121)面のモノシリケート(表3及び表4中、Mと記す)及び2θが28.0°である(201)面のダイシリケート(表3及び表4中、Dと記す)のピーク高さを求め、α-Si3N4 とβ-Si3N4 のピーク高さの合計に対する比率を算出して、窒化珪素質焼結体の粒界相のそれぞれの結晶相を同定した。また、本発明に係る窒化珪素質焼結体の代表的なX線回折記録図を図3〜図6に、本発明に係る窒化珪素質焼結体の代表的な結晶構造を表す組織写真を図7に示す。」(段落【0043】〜【0044】)、「また、図7と図9の組織写真から明らかなように、本発明外の図9では粒界相にMoSi2 9の結晶だけが存在するのに対して、本願発明の窒化珪素質焼結体の粒界相の結晶構造を示す図7では、MoSi2 8の結晶中にMo4.8 Si3 C0.6 7の結晶が共存していることが分かる。」(段落【0052】)ことが図面及び表とともに記載されている。
以上に摘示した事項からみて、甲第1号証には、「窒化珪素質焼結体からなる絶縁性基体中に発熱抵抗体を埋設してなるセラミックヒータにおいて、前記窒化珪素質焼結体が、窒化珪素主相と、周期律表第3a族元素、酸素および珪素を含み、ダイシリケート相を結晶として含む粒界相により構成され、前記発熱体が、WCを主成分とし、添加物として窒化珪素を含むセラミックヒータ。」という発明が記載されているものと認められる。

5.当審の判断
本件発明と特許異議申立人日本特殊陶業株式会社が提出した甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証に記載の「窒化珪素質焼結体」、「発熱抵抗体」、「周期律表第3a族元素」、「粒界相」、「ダイシリケート」は本件発明の「窒化珪素質焼結体」、「発熱体」、「希土類元素」、「粒界相」、「ダイシリケート」に相当し、両者は、「窒化珪素質焼結体からなる絶縁性母材中に発熱体を埋設してなるセラミックヒータにおいて、前記窒化珪素質焼結体が、窒化珪素主相と、希土類元素、酸素および珪素を含み、ダイシリケート相を結晶とする粒界相により構成され、前記発熱体が、WCを主成分とし、添加物として窒化珪素を含むセラミックヒータ。」
である点で一致し、次のイ、ロの点で相違する。
(相違点イ)本件発明は、ダイシリケート相を主結晶とする粒界相であるのに対し、甲第1号証には、粒界相がダイシリケート相を含有するもののそれが主結晶かどうかは明記されていない点。
(相違点ロ)本件発明では、発熱体の前記絶縁性母材との界面に前記発熱体主成分を構成する金属の珪化物相が前記発熱体の最小厚みの25%以下の厚みで存在するのに対し、甲第1号証には、この点は明記されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
相違点イについて
異議申立人は、「試料番号44,49,54,64を参照すると、粒界相にはダイシリケートを表す記号Dがモノシリケートを表すMよりも含有量が多いことが分かる。なお、【0052】段落に「また、図7と図9の組織写真から明らかなように、本発明外の図9では粒界相にMoSi29の結晶だけが存在するのに対して、本願発明の窒化珪素質焼結体の粒界相の結晶構造を示す図7では、MoSi28の結晶中にMo4.8 Si3 C0.6 7の結晶が共存していることが分かる。」と記載されている様に、粒界相はMoSi28の結晶中にMo4.8 Si3 C0.6 7の結晶が共存している。従って、粒界相はダイシリケート相が主結晶であるのか、MoSi28とMo4.8 Si3 C0.6 7との結晶が主結晶であるのかが明確ではない。このため、表4でD/(α+β)で示されるように、表2でwt%表示によって示されているMoSi2とα-Si3N4 とβ-Si3N4 との比を換算によって算出する。つまり、両組成のwt%含有量から体積比を算出する。この表2のみからはMoSi2の結晶中にどの程度Mo4.8 Si3 C0.6 が共存しているのか、また、α-Si3N4 とβ-Si3N4 との割合が不明である。従って、極端な場合の例として4通りを考える。なお、体積比算出のためには、各組成の密度が必要となるため、資料(1)「新版 高融点化合物物性便覧」に記載の密度ρrent(X線法)を用いた。…(中略)…上記換算結果から、いずれの場合もダイシリケートの比率と比較して小さい値となっている。従って、粒界相はダイシリケートが主結晶であることが分かる。」(異議申立書第6頁下から3行〜第9頁2行)と主張している。
そして、この主張はMoSi2とα-Si3N4 とβ-Si3N4 の両組成のwt%含有量から換算によって算出する体積比は、ダイシリケートのピーク高さのα-Si3N4 とβ-Si3N4 のピーク高さの合計の比率D/α+βと同様なものであることを前提としているものと認められる。
ところで、ダイシリケートではなくモノシリケートの場合であるが、図3に示される試料番号3、図4に示される試料番号6、図5に示される試料番号10について、異議申立人の指摘した試料番号44,49,54,64と同様にMoSi2とα-Si3N4 とβ-Si3N4 との体積比を極端な場合の例として4通りを算出すると、試料番号3は5.4%、4.1%、5.5%、4.2%、試料番号6は5.2%、4.0%、5.3%、4.1%、試料番号10は5.1%、3.9%、5.2%、3.9%となり、一方、表3によれば、モノシリケートのピーク高さのα-Si3N4 とβ-Si3N4 のピーク高さの合計の比率M/α+βは試料番号3、6、10では各々15%、19%、21%であるから、前記の前提によればMoSi2の体積比はモノシリケートの比率よりも小さいことからモノシリケートが主結晶ということになる。
しかし、図3、図4、図5の記載のいずれにも2θが44.7°のピークから同定されるMoSi2 の強度は、2θが28.7°である(-121)面のモノシリケートの強度よりもかなり大きいことが記載されていることからみて、モノシリケートが主結晶であるとは言い難く、むしろMoSi2 が主結晶というべきものであり、上記の体積比からの結果と整合していない。
このことは甲第1号証において、MoSi2とα-Si3N4 とβ-Si3N4 の両組成のwt%含有量から換算によって算出する体積比を、ダイシリケートやモノシリケートのピーク高さのα-Si3N4 とβ-Si3N4 のピーク高さの合計の比率D/α+βと同様なものとして比較し主結晶を判断することは必ずしもできることではないことを意味するものである。
したがって、甲第1号証において、MoSi2とα-Si3N4 とβ-Si3N4 の両組成のwt%含有量から換算によって算出する体積比と、ダイシリケートのピーク高さのα-Si3N4 とβ-Si3N4 のピーク高さの合計の比率D/α+βを比較することで、粒界相はダイシリケートが主結晶であることが記載されているとする異議申立人の主張は採用することができず、甲第1号証には、ダイシリケートが主結晶である粒界相は記載されているものとは認められない。
そして、本件発明は、相違点イの粒界相としてダイシリケート相を主結晶とすることで、絶縁性母材が発熱時に外気の酸素と接触した場合においても高い耐酸化性を有することとなり、母材の酸化による腐食を防止し母材の長期安定性を高めることができるという明細書記載(段落【0010】参照)の効果を奏するものである。

したがって、本件発明は、相違点ロを検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-06-15 
出願番号 特願平8-201565
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 長浜 義憲
櫻井 康平
登録日 2002-11-15 
登録番号 特許第3370519号(P3370519)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 セラミックヒータ  

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