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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1099731
異議申立番号 異議2003-73686  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2004-07-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第3436769号「酸素センサー加熱用セラミックヒータ」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3436769号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3436769号の請求項1ないし9に係る発明についての出願は、平成4年11月18日(優先権主張平成4年3月9日)であって、平成15年6月6日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 京セラ株式会社より特許異議の申立てがなされたものである。

II.特許異議申立てについて
1.本件発明
特許第3436769号の請求項1ないし9に係る発明(以下、各々の発明を「本件発明1」、「本件発明2」、……、「本件発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】 アルミナを主成分とするセラミック焼結体中に、高融点金属の発熱体パターンを埋設した酸素センサー加熱用セラミックヒータにおいて、上記セラミック焼結体はマグネシウム及び/又はカルシウムを含有し、上記発熱体パターンが10重量%以上のレニウム(Re)を含有するタングステン又はモリブデンからなるペーストを印刷することにより形成されたものであることを特徴とする酸素センサー加熱用セラミックヒータ。
【請求項2】 上記レニウム(Re)の含有量が25重量%以上である請求項1記載の酸素センサー加熱用セラミックヒータ。
【請求項3】 上記レニウム(Re)の含有量が32重量%以上である請求項1記載の酸素センサー加熱用セラミックヒータ。
【請求項4】 上記セラミック焼結体中のアルミナの相対密度が94%以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の酸素センサー加熱用セラミックヒータ。
【請求項5】 上記セラミック焼結体中のアルミナの平均結晶粒径が10μm以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の酸素センサー加熱用セラミックヒータ。
【請求項6】 上記発熱体パターンには酸化物が存在する請求項1乃至5のいずれかに記載の酸素センサー加熱用セラミックヒータ。
【請求項7】 上記発熱体パターンは厚膜印刷法により10〜30μmにスクリーン印刷して形成されているものである請求項1乃至6のいずれかに記載の酸素センサー用セラミックヒータ。
【請求項8】 上記基材の原料粉末として純度90%以上のアルミナ粉末を用いている請求項1乃至7のいずれかに記載の酸素センサー用セラミックヒータ。
【請求項9】 上記基材の原料粉末として粒径2μm以下のアルミナ粉末を用いている請求項1乃至8のいずれかに記載の酸素センサー用セラミックヒータ。」

2.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人 京セラ株式会社は、甲第1号証(特開昭61-179086号公報)、甲第2号証(特開平1-225087号公報)、甲第3号証(特公平1-55368号公報)と提出して、本件発明1ないし9は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、本件発明6に係る特許は、特許明細書に記載不備があり、特許法第36条の規定を満たしていないものであるあるから、本件発明1ないし9に係る特許を取り消すべき旨の主張をしている。

3.当審の判断
(1)特許法第29条第2項の規定の違反について
(1-1)甲号各証に記載された事項
甲第1号証(特開昭61-179086号公報)には、セラミックヒータに関して、図面とともに、
「市販のセラミックヒータには純タングステン、純モリブデン又はこれらに他の添加物(アルミニウム、シリコン等)を添加した発熱体が用いられている。発熱体はその発熱温度が上昇すると抵抗値も大きくなり、これをPTC特性(温度に対する抵抗変化率)と一般に称している。そのようなセラミックヒータに使用される発熱体はこのPTC特性が比較的小さいが未だ十分とはいえない。」(1頁下左欄8行〜同15行)こと、
「また、上記の発熱体ではセラミック基体表面の電極取出し部分から発熱体とセラミックとの界面に浸入する酸素の影響により酸化(WO3、MoO3)が発生し易く、これもまた酸化による耐久性が問題となるものと考えられる。」(2頁上右欄1行〜同5行)こと、
「本発明によればセラミック基体中に少なくともレニウム(Re)を0.5〜30重量%含有する発熱体を埋設したセラミックヒータが提供される。レニウム(Re)が0.5重量%以下ではPTC特性における温度に対する変化率が2.8以上(ヒータの焼上りとして)と高く添加の効果が十分でないため発熱体の供給熱量が十分に安定しない。また同時に窒化珪素等の珪化物を主体とするセラミック体中では発熱体とセラミック基体との界面に珪化物や酸化物を生じ易く高温-低温のくり返し使用時には抵抗値の変化、バラツキが生じ易いものと考えられる。またレニウム(Re)が30重量%を超えると、例えばタングステン(W)の熱膨張係数が4.4×10-4/℃であるのに対しレニウム(Re)含有率が30重量%のとき8×10-4/℃と高くなり過ぎこの発熱線の膨張のためにセラミック基体にクラックを生じさせる原因となる。」(2頁下右欄5行〜3頁上左欄2行)こと、
「タングステンカーバイト(WC)にレニウム(Re)を0、1.5、3、5、10、26及び35重量%含有させたものに溶剤を加え、混練したスラリーを第3図に示すごとく、アルミナを主体とするセラミック基板1上にスクリーン印刷して発熱体2を形成しその上面に同様に基板1を積層して……この場合1000℃におけるPTC特性は約0.75と低い比率を示しているが窒化珪素積層基体に発熱体の熱膨張とみられるクラックが発生していた。」(3頁上左欄4行〜同上右欄1行)こと、
「該グロープラグ3は先端に窒化珪素(Si3N4)を主体とするセラミック基体4内にレニウム(Re)を添加したタングステン(W)を主体とするコイル状発熱体5が埋設されている。」(3頁上右欄6行〜同10行)こと、
「1、4:窒化珪素セラミック基体」(4頁下右欄13行)
が記載されている。

甲第2号証(特開平1-225087号公報)には、酸素センサを加熱するためのセラミックヒータに関して、図面とともに、
「基材とグリーンシートとの間に発熱パターンを有する積層体を一体焼成してなるセラミックヒータにおいて、基材及びグリーンシートの少なくとも一方がAl2O3 90〜99.7wt%からなり、かつ焼結促進成分としてSiO2 0.04〜10wt%、MgO 0.1〜2wt%、CaO 0.1〜2.5wt%を含有するセラミックヒータ。」(特許請求の範囲(1))であること、
「アルミナヒータを構成するアルミナ基材は、主成分としてAl2O3と共に焼結促進成分として種々の金属酸化物が含有されて焼結され、焼結体においてはAl2O3粒界のガラス相としてこれらの金属酸化物が存在する。こうしたアルミナヒータを高温下にて直流通電させるとガラス相中に存在するマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)原子が陽イオンとなって陰極側に移動する一方、該成分の近傍に存在する酸素(O)原子が電気的中性を維持するためにケイ素(Si)との結合が切れて酸素イオンとなり、陽極側に移動する。……陽極側に移動した酸素イオンにより発熱体材料例えばタングステン(W)が酸化され、その部位の抵抗値を増大させる。…この酸化反応によって発熱体は体積膨張を起こし、発熱体に断線を生ずると共に、保護層の応力が加わり、クラックを生ずる。」(2頁下左欄9行〜同右欄10行)こと、
「主成分としてのAl2O3は平均結晶粒径10μm以下、相対理論密度94%以上であることが好ましい。」(4頁上左欄13行〜同15行)こと、
「平均粒径1.5μm、純度99.9%のAl2O3粉末、焼結促進剤として平均粒径2μm、純度98%のSiO2粉末、平均粒径2μm、純度90%のMgO粉末、平均粒径2μm、純度92%のCaO粉末……混合した後、脱水乾燥する。」(5頁上左欄17行〜同右欄6行)こと、
が記載されている。

甲第3号証(特公平1-55368号公報)には、グロープラグに関して、図面とともに、
「加熱電流の通電による急速昇温による熱衝撃時において、抵抗体の抵抗値を発熱線より速かに増大させて通電電流を減少させ、ヒーター部の過熱を防止するようにした自己制御型グロープラグとして、発熱線にWを用い抵抗体の線材にNi、W、Mo等を用いた従来例があるが、……充分な自己制御機能をもたせることが困難なものであった。」(3欄11行〜同40行)こと、
「タングステン(W)を主成分とし、これにレニウム(Re)、コバルト(Co)、トリウム(Th)、ジルコニウム(Zr)等の1種又は2種以上を添加したW合金が最適のものであることを見出した。第1図は、前記添加材料のうち最も効果的なReを添加したW合金につき、その添加量と温度-抵抗係数の関係をグラフ化したものであって、グラフで見られるようにReの添加量は2〜50重量%の範囲内で有効であり、2重量%未満では温度-抵抗係数を4以下とすることは難しく、添加量を多くするに従って加工性が悪くなり、50重量%を超えると細線の線引加工が殆ど不可能に近くなることも知り得た。」(3欄43行〜4欄12行)こと、
が記載されている。

(1-2)対比・判断
・本件発明1について
本件発明1と甲号各証に記載された発明とを対比して検討する。

甲第1号証に記載された発明は、上記摘示事項から、セラミックヒータ或いはグロープラグのPTC特性、即ち温度に対する抵抗変化率、を改善するためのものであって、セラミック基材中の発熱体として、レニウム(Re)を0.5〜30重量%含有させたものである。その 実施例1として記載された発熱体2は、アルミナを主体とするセラミック基板1上に、レニウム(Re)を含有させたタングステンカーバイト(WC)をスクリーン印刷して形成したものと示されているから、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)にレニウム(Re)を含有させたものではないし、また、セラミック基板1についても、アルミナを主体とするセラミック基板1とは記載されているものの、後段のPTC特性の約0.75の説明には、「窒化珪素積層基体に発熱体の熱膨張とみられるクラックが発生していた」とか、図面の簡単な説明には、「1、4:窒化珪素セラミック基体」とか記載されているように、アルミナを主成分とするセラミック焼結体であるということの確かな記載もない。さらに、その実施例2にいては、タングステン(W)にレニウム(Re)を添加した発熱体5が示されているものの、ここで用いられているセラミック基板4は、窒化珪素(Si3N4)を主体としたものであって、アルミナを主成分とするセラミック焼結体ではない。
そうすると、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とは、発熱体として、レニウム(Re)を添加し、その添加量において一部重複するところがあるだけであって、添加量の範囲が全く異なっており、これは、両発明の技術思想が全く異なっているから当然のことである。また、電極取出し部分から侵入する酸素の影響による記載はあるものの、これはセラミック基板1の外部から侵入する酸素によって、タングステン又はモリブデンの酸化がされ易いということであって、アルミナを主成分として、マグネシウム又はカルシウムを含有するセラミック焼結体における、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンの近傍の酸素イオンによって、ペースト印刷して形成された発熱体陽極側のタングステン又はモリブデンの酸化によって生ずる発熱体の抵抗値変化、断線に関しての記載や示唆したものとは認められない。したがって、甲第1号証には、本件発明1の動機付けとなるようなものは認められない。

甲第2号証に記載された発明は、上記摘示事項から、酸素センサを加熱するために用いられるセラミックヒータであって、Al2O3を主成分とし、焼結促進成分として種々の金属酸化物を含有させて焼結したセラミック基材の該金属酸化物成分中のマグネシウムイオン又はカルシウムイオンの近傍の酸素イオンによって、発熱体陽極側のタングステン又はモリブデンの酸化による発熱体の抵抗値変化、断線をを解決するものであるから、本件発明1の構成要件である
「アルミナを主成分とするセラミック焼結体中に、高融点金属の発熱体パターンを埋設した酸素センサー加熱用セラミックヒータにおいて、上記セラミック焼結体はマグネシウム及び/又はカルシウムを含有し、上記発熱体パターンがタングステン又はモリブデンを含むペーストを印刷することにより形成されたものである酸素センサー加熱用セラミックヒータ。」
である点においては、一致しているものと認められる。
しかし、発熱体の抵抗値変化、断線を解決する手段は、本件発明1の構成とは異なるものであって、タングステン又はモリブデンにレニウムを添加することによって、ペースト印刷された発熱体の抵抗値変化、断線を防止し得るというような構成の記載は認められないし、また、この構成が周知であるとも認められない。
そうすると、甲第2号証には、本件発明1の構成要件である
「発熱体パターンが10重量%以上のレニウム(Re)を含有するタングステン又はモリブデンからなるペーストを印刷することにより形成されたものであること」
が、記載されているものとはいえない。

甲第3号証に記載された発明は、上記摘示事項から、急速な昇温特性をもつグロープラグのヒータ部の過熱を防止するものであって、Si3N4、SiC等を主成分としたセラミック焼結体中に、レニウム(Re)を2〜50重量%添加したタングステン(W)合金線のコイル状発熱線を埋設したものであって、セラミック焼結体として、アルミナを主成分としたものでなく、また、発熱体として、ペースト印刷して形成したものではなく、さらに、タングステン(W)に添加したレニウム(Re)の添加量も、タングステンの酸化に基づいた発熱体の抵抗値変化、断線を防止するためのものではないから、本件発明1の動機付けとなるようなものは記載されていない。

そして、これらの甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明を総合的に検討しても、本件発明1が、これら甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。また、本件発明1の効果も明細書に記載された効果を奏するものと認められる。

・本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用したものであるから、本件発明1において検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

・本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用したものであるから、本件発明1において検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

・本件発明4について
本件発明4は、本件発明1ないし3を引用したものであるから、本件発明1において検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

・本件発明5について
本件発明5は、本件発明1ないし4を引用したものであるから、本件発明1において検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

・本件発明6について
本件発明6は、本件発明1ないし5を引用したものであるから、本件発明1において検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

・本件発明7について
本件発明7は、本件発明1ないし6を引用したものであるから、本件発明1において検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

・本件発明8について
本件発明8は、本件発明1ないし7を引用したものであるから、本件発明1において検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

・本件発明9について
本件発明9は、本件発明1ないし8を引用したものであるから、本件発明1において検討したように、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明6の特許法第36条の規定違反について
本件発明6は、本件発明1ないし5のいずれかに記載の酸素センサー加熱用セラミックヒータの発熱体パターンには「酸化物が存在する」ことを発明の構成要件としたものである。
この構成は、本件特許明細書の段落【0015】の「抵抗特性に悪影響を与えない限りにおいて若干酸化物等を存在させてもよい。」の記載に基づくものであって、発熱体の抵抗特性に悪影響を与えない限りにおいて、発熱体中に不純物として若干の酸化物等が存在していても発明の所期の目的が達成し得ることは、当業者が容易に理解し得る。
したがって、本件発明6が記載不備なものとはいうことができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他の本件発明1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-06-15 
出願番号 特願平4-333647
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 長浜 義憲
櫻井 康平
登録日 2003-06-06 
登録番号 特許第3436769号(P3436769)
権利者 日本特殊陶業株式会社
発明の名称 酸素センサー加熱用セラミックヒータ  
代理人 小島 清路  

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