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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) B44C
管理番号 1099774
判定請求番号 判定2004-60030  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1995-05-16 
種別 判定 
判定請求日 2004-04-13 
確定日 2004-07-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第3339028号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件及びその説明書に示す「スポンジペーパー」は、特許第3339028号「レリーフ形成方法、および、組織復元型レリーフ形成パネル」の請求項2に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号物件(検甲第1号証)及びその説明書(甲第1号証)に示す「スポンジペーパー」(以下「イ号物件」という。)が、特許第3339028号「レリーフ形成方法、および、組織復元型レリーフ形成パネル」の請求項2に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

2 本件特許発明
本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりのものであり、符号を付して構成要件に分説して記載すると、次のとおりである(以下「構成要件A」等という)。
「A 復元力を有するスポンジ状組織体を圧縮状態で固化してシート状に形成した圧縮形成層(11)の表面の限定された領域に対して、限定した割合の固化解除処理を施して、前記領域の隆起高さを調整する際に用いるパネルであって、
B セルロース系樹脂のスポンジ状組織体を加熱圧縮して組織の空隙を押潰し、脱水固化してシート状に形成した圧縮形成層(11)と、
C 前記圧縮形成層の裏面を支持して平面方向に拘束する基板層(12)と、
D を有することを特徴とする組織復元型レリーフ形成パネル。」
[目的及び効果]
そして、明細書の記載によれば、本件特許発明は「安価かつ手軽にレリーフ作品の製作を楽しめ、大量生産や流通に便利で、完成したレリーフ作品の形状安定性等にも優れるレリーフ形成方法、および、組織復元型レリーフ形成パネルを提供する」(明細書段落【0014】)ことを目的とし、「少なくとも吸水させて起伏を形成する以前の状態では、通常のシートや印刷物同様に、自由に積み重ねて効率的な保管や運搬を実行でき、自動化された一律の大量生産も容易である。製作コスト、流通コストが削減され、最終需要者に対する安価な提供が可能であるから、学習教材やおもちゃ等、使い捨て用途等にも気軽に利用できる」(明細書段落【0050】)という効果を奏するものである。

3 イ号物件
甲第1号証として提出されたイ号物件の説明書には、次のとおり記載されている。
ア 甲第1号証第1頁
「スポンジペーパー 水に浸すと6倍(約12mm)の厚さにふくらむビックリ造形紙! 通常は2mm厚のシート状のものが、水につけると約12mm程度まで、まるでスポンジのようにふくらみます。厚さは変化しても横幅はほとんど変化しないのも大きな特徴です。
表現がふくらむ、広がる。立体造形の素材として、いろいろな加工ができます。切る-はさみやカッターで簡単に切れる-、削る-サンドペーパーで成形できます-、ちぎる、はがす-スポンジのソフトな感触を生かして-、染める-絵の具を溶かした色水に浸せば芯まで染められます-、塗る-絵の具で着色できます-、貼合わせる-木工用セメダインで幾重にも貼合わせることができます-
立体工作やモビールの飾りに、レリーフ工作に〜ちぎったり、はがしたり、削ったりして凹凸をつけて〜、切り文字、展示POPなどの立体装飾に、パズルの工作に〜水でふくらませる前にカットしておくと、細かい形が楽に作れます〜
制作のしかた 形をカットする 水に浸す(ふくらむ・染める) 乾燥させる 成形する・着色する・接着する」
イ 甲第1号証第2頁
「スポンジペーパーシート スポンジペーパーキット
・・
How to make(つくり方)
立体文字を作る
1 デザインする
2 転写する カーボン紙で転写します。
3 カットする 複雑な形には、カッターを使います。
4 水に浸けてふくらます
5 完成
・・」

請求人の添付した甲第1号証(イ号物件の説明書)を精査し、検甲第1号証(イ号物件)を参照するも、イ号物件のスポンジペーパーが、セルロース系樹脂のスポンジ状組織体を加熱圧縮して組織の空隙を押潰し、脱水固化してシート状に形成したものと認めることはできないが、被請求人自ら前記事項を認めているので、上記イ号物件の説明書の記載ア-イ、請求人が提出した判定請求書中の「(4)イ号の説明」、及び被請求人が提出した判定事件答弁書の「(2)被請求人の主張 エ」の記載を参考にすると、イ号物件は次のとおりの構成を具備するものと認める(以下「構成a」等という)。
「a 復元力を有するスポンジ状組織体を圧縮状態で固化したスポンジペーパーに下絵を転写してはさみやカッターでカットし、カットしたものを一様に膨らませて貼合せたり接着して立体工作をするための造形紙であって、
b セルロース系樹脂のスポンジ状組織体を加熱圧縮して組織の空隙を押潰し、脱水固化してシート状に形成したスポンジペーパーのみからなる
d 造形紙。」

4 対比・検討
(1)イ号物件の各構成が本件特許発明の各構成要件を充足するか否かについて検討する。
先ず、本件特許発明の構成要件Cについて検討する。イ号物件は、その構成bで示す「スポンジペーパー」の裏面を支持して平面方向に拘束する、本件特許発明の構成要件Cで示す「基板層」に相当するものを具備していないから、本件特許発明の構成要件Cを充足していない。
ところで、請求人は、この点について、イ号物件の説明書において「参考1」として示されたものから、イ号物件が「基板層(台紙)」を具備していることは明白である旨主張している。
検討するに、本件特許発明においては、構成要件Aに規定されているように、圧縮形成層(11)の表面の限定された領域に対して、限定した割合の固化解除処理を施して、前記領域の隆起高さを調整するものであり、その際に、構成要件Cに規定する基板層(12)は、圧縮形成層の裏面を支持して平面方向に拘束するものであるから、基板層はレリーフを形成する以前から圧縮形成層を支持していることは明らかである。これに対して、上記「参考1」は、上述した甲第1号証第2頁の記載を参酌すると、イ号物件の「スポンジペーパー」を加工した後の物品を台紙に貼付したものであって、スポンジペーパーが膨らむ際には、その裏面を支持して平面方向に拘束するものを具備していないとするのが相当であり、したがって、上記請求人の主張は採用することができない。
そうすると、本件特許発明の残余の構成要件A、B及びDについて検討するまでもなく、イ号物件の構成は、本件特許発明の構成要件を充足していない。

(2)次に、構成要件Cに係る部分について、請求人は均等である旨主張しているので、以下検討する。
構成要件Cに係る部分について、請求人の主張は次のとおりである。
「・非本質的部分
本発明は、圧縮されたシート状のパネルに水をつけるにより吸収して隆起したスポンジ状の表面性を利用して手軽にリレーフ(当審注:「レリーフ」の誤記である。)を表現できる素材が特徴である。基板層(台紙)を有するかどうかは、相違部分が特許発明の本質的部分でない。
・ 同一目的・作用効果
被請求人[美術出版 スポンジペーパー]は、水にふくらむ造形紙として通信販売をしている。水に浸してから、造形表現を創作させる点で部分的なレリーフ表現を特徴としていないが、イ号作品例[参考1]は、部分的に隆起させレリーフ画として表現された立体絵画で、本件作品例[参考2][参考3]と酷似している。『表現がふくらむ、広がる。立体造形の素材としていろいろ加工ができます』というキャッチコピーは、作品例に載せているように、部分的なレリーフ表現の方法も安易に想像させる造形紙として明白である。よって、イ号は本件特許発明と同一目的・作用効果である。
・ 置換容易性
従って、当業者が置換する事は容易である。
・ イ号の容易推考性
本発明は、組織復元型レリーフ形成を特徴としている。本件特許発明出願前に、『組織復元型でレリーフ形成させる。』ことが記載されている文献などはない。よってイ号は、公知文献等(甲第2号証 本件特許発明の審査経緯参照)より容易に推考しえたものではない。」(判定請求書第3頁第27行-第4頁第7行)
ところで、最高裁平成6年(オ)第1083号(平成10年2月24日)判決は、均等の要件について、次のように述べている。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分でなく、(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」
そこで、イ号物件が上記各均等の要件のうち、先ず(1)の要件を満たすか否かについて検討する。
[均等の要件(1)(非本質的部分)について]
構成要件Cで示す「基板層12」の技術的意義について、本件の明細書段落【0028】に「基板層12は、吸水して柔軟さを回復した圧縮成形層11における自己形状保持のための強度不足を補う。また、吸水した圧縮成形層11の水平方向の膨張や収縮を拘束して、圧縮成形層11に波打ち変形を起こさせない。さらに、圧縮成形層11の膨張部分の裏面に圧力を発生して裏面側への盛り上がりを防止し、表面側への盛り上がりを際立たせる。」との記載があり、本件特許発明は、圧縮成形層11の裏面を支持する「基板層12」を具備することによって、上記明細書記載の作用効果を奏するものと認められる。
また、その裏面を支持して平面方向に拘束するものを具備していないイ号物件の「スポンジペーパー」が、上記と同一の作用効果を奏することができないことも明らかである。
してみると、構成要件Cは本件特許発明にとって本質的な部分であって、上記本質的な部分において本件特許発明と異なるイ号物件は、均等を判断するための他の要件を判断するまでもなく、本件特許発明と均等なものであるということはできない。

5 むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2004-06-30 
出願番号 特願平5-273554
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (B44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神崎 孝之  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 神崎 孝之
溝渕 良一
登録日 2002-08-16 
登録番号 特許第3339028号(P3339028)
発明の名称 レリーフ形成方法、および、組織復元型レリーフ形成パネル  
代理人 古澤 俊明  

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