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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) D04D |
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管理番号 | 1099775 |
判定請求番号 | 判定2004-60025 |
総通号数 | 56 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 1993-07-09 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2004-03-17 |
確定日 | 2004-07-28 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2694309号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明に示す「細切りにした毛皮による生地」は、特許第2694309号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号図面並びにその説明に示す細切りにした毛皮による生地(以下、「イ号物件」という。)は、特許第2694309号発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 2.本件特許発明 本件特許第2694309号発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)を構成要件に分説すると、次のとおりであり、 「A.重量の軽いしかも伸縮しにくい素材の経糸、緯糸よりなる網目状のネットベースの経糸または緯糸へ、 B.ネットベースの網目よりも小なる巾の細切り毛皮を経糸、緯糸の交差部に絡ませて、 C.毛の面がネットベースの表面に出るように螺旋状に巻き付けてなる D.細切りにした毛皮による生地。」 その請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明2」という。)を構成要件に分説すると、次のとおりである。 「A.重量の軽いしかも伸縮しにくい素材の経糸、緯糸よりなる網目状のネットベースの経糸または緯糸へ、 B.ネットベースの網目よりも小なる巾の細切り毛皮を経糸、緯糸の交差部に絡ませて、 E.毛の面がネットベースの表面に出るように螺旋状に、しかも相隣る毛皮の巻き方向が互いに逆になるように巻き付けてなる D.細切りにした毛皮による生地。」 3.イ号物件 イ号物件は、請求人が提出したイ号図面及びその説明の記載からみて、次のa〜dに分説したとおりの構成を具備するものである。 「a.綿糸のヤーンからなる経糸、緯糸よりなる網目状のネットベースの経糸または緯糸へ、 b.巾4mmの細切り毛皮を、網目の目の開きが一辺が3mmの略正方形状の上記ネットベースの、経糸、緯糸の交差部に絡ませて、 c.毛の面がネットベースの表面に出るように螺旋状に巻き付けてなる d.細切りにした毛皮による生地。」 4.対比・判断 (1)本件特許発明1について (1-1)争いのない点について イ号物件が本件特許発明1に係る前記分説した各構成要件A〜Dを充足するか否かについて両者を対比すると、表現上の差異はあるものの構成aの「綿糸のヤーンからなる経糸、緯糸よりなる網目状のネットベース」は、構成要件Aの「重量の軽いしかも伸縮しにくい素材の経糸、緯糸よりなる網目状のネットベース」に相当するから、イ号物件は、その構成a、c、dにおいて本件特許発明1の構成要件A、C、Dを充足するものと認められる。 この点について当事者間に争いはない。 (1-2)争点(構成要件Bの充足性)について しかしながら、イ号物件が本件特許発明1の構成要件Bを充足しているか否かについては、当事者間で争いがある。 すなわち、請求人は、構成要件Bの、細切り毛皮の巾についての「ネットベースの網目よりも小なる巾」とは、ネットベースの網目の巾よりも小なる巾、すなわち、ネットベースの略正方形状に形成された網目における一辺の長さよりも小なる巾と解釈されるとしており(判定請求書第4頁第3行〜第5頁第6行参照;上記において、下線は合議体による。以下も同じ。)、そして、上記網目における一辺の長さの3mmに対して細切り毛皮の巾が4mmと大きいので、構成要件Bを充足しない旨、主張している(判定請求書第7頁第18行〜第8頁第3行、第11頁第3行〜第25行参照。)。 これに対し、被請求人は、「ネットベースの網目よりも小なる巾の細切り毛皮」なる記載は、細切り毛皮の巾がネットベースの網目を通すことができるものであることを示したものであり、例えば細切り毛皮の巾が網目の対角線方向に位置されるように通される場合であっても不都合なく本件特許発明1の効果を奏し、細切り毛皮の巾がネットベースの網目の一辺の長さよりも小さくなければならない必然性はないと主張しており(判定請求答弁書第3頁第19行〜第4頁第19行参照。)、そして、イ号物件の細切り毛皮はネットベースの網目に通して絡めるものであるから、本件特許発明1におけるネットベースの網目よりも小なる巾の細切り毛皮に該当し、構成要件Bを充足する旨、主張している(判定請求答弁書第4頁第25行〜第5頁第8行参照。)。 そこで、この点を検討する。 まず、本件特許明細書(以下、「明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された「ネットベースの網目よりも小なる巾の細切り毛皮」を、特許請求の範囲の記載自体から解釈してみる。一般的に、例えば「ノートパソコンより高い性能のデスクトップパソコン」など、二つのものを比較するときに、先に挙げられるものの特性(この例ではノートパソコンについての「性能」)を省略した記載は慣用されているので、本件においても、上記記載は、ネットベースの網目についての「巾」を省略した記載であると解釈することができる。すなわち、上記「ネットベースの網目よりも小なる巾の細切り毛皮」は、「ネットベースの網目の巾よりも小なる巾の細切り毛皮」を意味しているものと解釈することができる。 次に、明細書に上記「網目」が定義されているかどうかをみると、「網目状のネットベースはポリエステル等の重量が軽く伸縮しにくい素材糸を8〜10mm程度の一定の間隔、すなわち網目をあけて構成したものとしてある。」(【0008】)と記載されていることから、明細書の記載からも、網目は一定の間隔、すなわち巾と解釈することができる。 ただし、上記巾が、網目の一辺の長さなのか、対角線方向の長さをも意味するか否かは、特許請求の範囲の記載からは一義的に明かでないので、さらに明細書の記載を参酌して検討すると、ネットベースの網目と細切り毛皮の幅の大小を対比できる寸法の数値が具体的に記載されている箇所は、図面とともに示された実施例のみであって、そこには、「網目状のネットベースはポリエステル等の重量が軽く伸縮しにくい素材糸を8〜10mm程度の一定の間隔、すなわち網目をあけて構成したものとしてある。」(【0008】)、「このネットベース……の一辺に約5mm巾の細切り毛皮1の各一端を取り付ける。そしてこの毛皮1の毛の生えている面が外面となるように経糸2と緯糸3の交差部を巻き込むように絡めながら経糸2へ螺旋状に巻き付けていく。」(【0009】)と記載されている。ここで、ネットベースの網目の寸法として示された「8〜10mm程度」は、ネットベースの素材糸の間隔であるから、ネットベースの網目の、目の開きすなわち一辺の長さであることが明らかである。そして、本件特許明細書には、ほかに、ネットベースの網目の寸法やその測り方を記載した箇所はなく、まして、細切り毛皮の巾が網目の対角線方向に位置されるように通される場合を想定した寸法を意味することは、記載も示唆もない。記載された細切り毛皮の巾の「約5mm」は、上記網目の「8〜10mm程度」と比べて十分に小さく、対角線方向に位置されるように通されることを想定したものとは認められない。 また、明細書には、従来の技術として、「衣料品用の毛皮製品には、従来次のような生地が使用されている。(a)毛皮自体を身頃用などのパーツ部分にカットした1枚物としたもの。……」(【0002】)、発明が解決しようとする課題として、「前記(a)の生地の衣料品は1枚物の毛皮でパーツを形成しているので、コストが非常に高くつく。また、防寒用として冬期用の衣料品にしか殆ど使用できず、しかも重量があって重いので、着心地、軽快さが必ずしも良好とはいえない。……」(【0003】)、発明の効果として、「本発明に係る生地は、細切りにした毛皮をネットベースに巻き付けてあって細切り毛皮どうしの間隔が開いているので、毛皮そのものあるいは細切りにした毛皮を織ったり編んだりしてなる従来の生地に比べて面積当たりの毛皮の使用量を格段に少なくすることができる。したがって、本発明の生地により製造される毛皮製品は非常に軽く、衣料品に使用した場合には、着心地や動き易さが向上する。」(【0014】)が記載されている。そして、細切り毛皮の巾を網目の一辺の長さより大きくすると、毛皮の使用量は上記(a)の1枚物より多くなるから、本件発明の課題、効果と整合しない。 以上から、本件特許発明1の構成要件Bにおいて規定された「ネットベースの網目よりも小なる巾の細切り毛皮」とは、「ネットベースの網目の目の開きよりも小なる巾の細切り毛皮」すなわち「ネットベースの網目の一辺の長さよりも小なる巾の細切り毛皮」とするのが相当である。 さらに、構成要件Bの、細切り毛皮についての「ネットベースの網目よりも小なる巾」の要件は、平成 9年 5月 2日付けの手続補正書により被請求人が自ら必須の構成要件として付加した経緯があり、上記本件発明の課題、効果とあわせ考えると、構成要件Bは、本件特許発明1の本質的部分であるから、この点からも、細切り毛皮の巾はネットベースの網目を通すことができるものであればよく細切り毛皮の巾がネットベースの網目の一辺の長さよりも小さくなければならない必然性はないとする被請求人の上記主張は、採用できない。 したがって、イ号物件は、本件特許発明1における構成要件Bを充足するものとは認められない。 なお、上記したように、構成要件Bは、本件特許発明1の本質的部分であるから、構成要件Bに対し構成bは均等である旨の主張は、採用することができない。 (2)本件特許発明2について 本件特許発明2は、上記1.に記載したように、構成要件A、B、E、Dを備えるものである。 そして、イ号物件は、上記4.(1)に記載したように、構成要件A、Dを充足するとしても、少なくとも構成要件Bを充足するものとは認められない。 5.むすび 以上のとおり、イ号物件は、少なくとも本件特許発明の前記分説した構成要件Bを充足するものではないから、本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
<イ号図面の説明> 図1〜図3に示すように、綿糸のヤーンからなる経糸、緯糸よりなる網目状のネットベースの経糸へ、細切り毛皮を経糸、緯糸の交差部に絡ませてなる毛皮生地である。図1はこの毛皮生地を用いた毛皮製品である。この毛皮生地は、図2に示すように、ネットベースの網目は一辺が3mmの正方形状に形成され、図3に示すように、巾4mmの毛皮テープをネットベースの経糸へ巻き付けていきその巻き付け箇所は経糸及び緯糸の交差部としている。なお、図3に示す細切り毛皮は、巾方向の長さを明確にするため毛の部分をカットしている。 |
判定日 | 2004-07-16 |
出願番号 | 特願平3-108806 |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(D04D)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 久保田 健 |
特許庁審判長 |
高梨 操 |
特許庁審判官 |
石井 淑久 中田 とし子 |
登録日 | 1997-09-12 |
登録番号 | 特許第2694309号(P2694309) |
発明の名称 | 細切りにした毛皮による生地 |
代理人 | 田村 榮一 |
代理人 | 藤井 稔也 |
代理人 | 野口 信博 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 小池 晃 |
代理人 | 前田 清美 |