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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16K
管理番号 1100324
審判番号 不服2002-19409  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-07-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-03 
確定日 2004-07-14 
事件の表示 平成5年特許願第344055号「耐熱耐久性の流体制御器」拒絶査定不服審判事件〔平成7年7月4日出願公開、特開平7-167314〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 本願は、平成5年12月16日の出願であって、本願の請求項1に係る発明は、平成14年4月15日付けと平成14年11月5日付けと平成16年4月22日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)と認める。
「流路を有する弁箱と流路を開閉するゴム製又は合成樹脂製のダイアフラムとこのダイアフラムの周縁部を挟持する挟持部とダイアフラムの背面側に設けられた操作機構とこの操作機構を上下動させるハンドル部とからなる流体制御器であって、操作機構は少なくとも上部に嵌合部を有するコンプレッサとこのコンプレッサの嵌合部に一端が嵌合され他端がハンドル部に取設されたステムとからなり、コンプレッサの全面に粗面化処理を施し、この粗面化処理を施されたコンプレッサ全面にフッ素系樹脂又はシリコン系樹脂(いずれもゴム状弾性物質を除く)からなる耐熱性樹脂をコーティングしてなることを特徴とする耐熱耐久性の流体制御器。」

2.引用刊行物およびその記載事項
これに対して、当審における平成16年2月25日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された特開平5-126266号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「流体制御器」に関して、図1,図3とともに次のような記載がある。
A)「【0010】・・・図1はこの発明に係る流体制御器の一実施例を示す断面説明図であり、図中(2)は弁本体であり、この弁本体(2)には流路(21)・(22)と、これら流路(21)・(22)の中間に位置するシール座(23)とを有している。(3)はコンプレッサーであり、(4)はステム、(5)は挟持部材、(6)はアクチュエーターキャップ、(7)はスプリング、(8)がダイアフラム、(9)は連結ボルトである。コンプレッサー(3)は軸方向に連結ボルト(9)と連結されており、この連結ボルト(9)先端部はダイアフラム(8)中央の埋設部(81)内に埋設されている。
【0011】このような構成からなるダイアフラムバルブ(1)において、流路(21)・(22)を閉鎖する場合は、ステム(4)の下に固定されているコンプレッサー(3)を下降させる。するとダイアフラム(8)がその埋設部(81)に埋設されている連結ボルト(9)を介して下降され、弁本体(2)のシール座(23)へ圧接されて流路(21)・(22)が閉鎖される。また、インレットポート(10)よりエアー通路(11)を介してエアーを導入し、ステム(4)の下に固定されているコンプレッサー(3)を上昇させるとダイアフラム(8)が連結ボルト(9)を介して上昇されて流路(21)・(22)が開放される。」
B)「【0013】図3はこの発明の第二実施例を示すダイアフラム(8)部分を示した拡大断面説明図である。第二実施例において、ダイアフラム(8)はゴム弾性体(801)とこのゴム弾性体(801)の両側に形成された耐腐食性の硬質樹脂層(802)とからなる積層体により形成されている。この発明において、耐腐食性の硬質樹脂層(802)に用いられる樹脂としては低磨耗性を有し、耐薬品性、表面円滑性に優れたフッ素樹脂が使用され、特にポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)が好適に使用される。このように、耐腐食性の硬質樹脂層(802)をダイアフラム(8)の流体と接する面のみならず、ダイアフラム(8)が押圧される面にも設けることにより、長期にわたり繰り返し使用されてもダイアフラム(8)に劣化や疲労が生じにくくなり、ダイアフラム(8)の耐久性が向上する。」

上記A)〜B)の記載と、併せて図1,図3を参照すれば、上記刊行物1の流体制御器は、流路(21)・(22)を有する弁本体(2)と、該流路(21)・(22)を開閉するダイアフラム(8)と、図1から明らかなように、ダイアフラム(8)の周縁部を挟持する挟持部材(5)と、ダイアフラム(8)の背面側に設けられた操作機構と、スプリング(7)の押圧力とインレットポート(10)からのエアー圧とによって操作機構を上下動させるアクチュエーターキャップ(6)内のアクチュエーター部と、からなるものと認められ、該操作機構は、少なくとも上部にステム(4)との固定部を有するコンプレッサー(3)とこのコンプレッサー(3)の固定部に一端が固定され他端がアクチュエーター部に取設されたステム(4)とから構成されるとともに、ダイアフラム(8)は、ゴム弾性体(801)と耐腐食性の硬質樹脂層(802)とから構成され、耐腐食性の硬質(即ちゴム状弾性物質でない)樹脂であるPTFE層が、ダイアフラム(8)の流体と接する面だけでなく、ダイアフラム(8)の前記コンプレッサー(3)に当接する部分の表面にも設けられることにより、ダイアフラム(8)が低磨耗性と表面円滑性に優れたPTFEを介してコンプレッサー(3)と接触することとなって、ダイアフラム(8)に劣化や疲労が生じにくくなり、ダイアフラム(8)の耐久性が向上するものと認められる(なお、金属部材とゴム状部材の間にPTFEを介在させることにより熱による両者の癒着が防止できること自体は、例えば実願昭58-199694号(実開昭60-110777号)のマイクロフィルム(特に第1頁12行〜第2頁1行を参照。)にみられるように当業者において周知である。)。また、PTFEが耐熱性樹脂であることは自明であるから、上記刊行物1の流体制御器は、耐熱性樹脂であるPTFE層を設けることにより耐熱性も向上しているものと認める。
したがって、上記刊行物1には、
「流路を有する弁箱と流路を開閉するゴム製のダイアフラムとこのダイアフラムの周縁部を挟持する挟持部とダイアフラムの背面側に設けられた操作機構とこの操作機構を上下動させるアクチュエーター部とからなる流体制御器であって、操作機構は少なくとも上部に固定部を有するコンプレッサとこのコンプレッサの固定部に一端が固定され他端がアクチュエーター部に取設されたステムとからなり、ダイアフラムの前記コンプレッサに当接する部分にフッ素系樹脂(ゴム状弾性物質を除く)からなる耐熱性樹脂層を設けてなる耐熱耐久性の流体制御器。」の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認める。

同じく、当審における前記拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された実公昭37-168号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「可撓性隔膜の押圧子」に関して、第1〜3図とともに次のような記載がある。
C)「本案は、ダイヤフラムバルブの隔膜を作動する押圧子に関するもので、隔膜6とその埋入栓隆起部8の上面に係合する金属製のごとき硬質押圧子3に、中央部に前記隆起部8を嵌入する孔2を有するゴムのごとき弾性物質より成るライニング4を施した構造に係るもので、隔膜6には、四弗化エチレン、三弗化塩化エチレンのごとき弗素系高分子化合物より成り、把手13の軸管部13′に螺合して昇降する弁杆14をピン15をもって押圧子3に軸結し、突鍔17を有しかつ押圧子3を貫通する芯管9の溝16にピン15を嵌合し、隆起部8に頭部7′を埋入せる押込栓7を芯管9に螺合し、押圧子3の下面1には焼付等により、ライニング4を被覆定着し、さらにそれを上面まで普通延長し、弁蓋12には押圧子3の突起3′を嵌入昇降する案内溝12′を設けると共に軸管13′を回転自在に嵌合し、弁筺5の堰10には・・・」(第1頁左欄5行〜右欄1行)
D)「在来のゴム被膜を弗素系樹脂被膜に裏打したものは、隔膜と被膜とが共に変形するため、作動に大きな力を要するばかりでなく、押圧子との接触面に摩擦による損傷を起すが、本案はゴムのごとき弾性材4を押圧子3に被覆定着したため、ライニング4が押圧子3と一緒に動きて隔膜6を押圧し、従って僅かな力で隔膜6を動かし得るばかりか、隔膜6が直接押圧子3に触れて摩擦損傷を起すことなく、押込栓7に無用な力を要せず、隆起部8に損傷を生ずることはない。」(第1頁右欄5〜14行)

上記C)、D)の記載と、併せて第1図〜第3図を参照すれば、上記刊行物2のダイヤフラムバルブは、堰10によって左右に分けられた流路を有する弁筺5(弁箱)と、該流路を開閉する隔膜6(ダイアフラム)と、この隔膜6の周縁部を挟持する挟持部と、隔膜6の背面側に設けられた操作機構と、この操作機構を上下動させる把手13(ハンドル部)とからなり、操作機構は、上部に軸結部を有する押圧子3(コンプレッサ)と、該軸結部に一端が軸結され他端が把手13の軸管部13′に螺合して取設される弁杆14(ステム)とからなる流体制御器(ダイヤフラムバルブは、流路を開閉して流体の流通を制御する流体制御器である。)であって、従来のものが被膜(ライニング4)を隔膜6に裏打ちしていたのに代えて、これを押圧子3の表面に被覆し、これにより隔膜6が直接押圧子3に触れて摩擦損傷を起こすことがないようにしたものと認められる。
したがって、上記刊行物2には、
「流路を有する弁箱と流路を開閉するダイアフラムとこのダイアフラムの周縁部を挟持する挟持部とダイアフラムの背面側に設けられた操作機構とこの操作機構を上下動させるハンドル部とからなり、操作機構は上部に軸結部を有するコンプレッサとこのコンプレッサの軸結部に一端が軸結され他端がハンドル部に取設されたステムとからなる流体制御器において、従来のダイヤフラムバルブが被膜を隔膜6に裏打ちしていたのに代えて、これをコンプレッサの表面に被覆するようにし、これによりダイアフラムが直接コンプレッサに触れて摩擦損傷を起すことがないようにしてなる流体制御器。」の発明(以下、「刊行物2の発明」という。)が記載されているものと認める。

3.本願発明と刊行物1記載の発明との対比
本願発明と上記刊行物1の発明とを対比すれば、上記刊行物1の発明の「アクチュエーター部」は、操作機構を上下動させる作動部分であるから本願発明の「ハンドル部」に対応する「作動部」であり、また、上記刊行物1の発明の「固定部」は、ステムの一端が「取付」される「取付部」である点において、本願発明の「嵌合部」と共通している。
したがって、本願発明と上記刊行物1の発明は、
「流路を有する弁箱と流路を開閉するゴム製のダイアフラムとこのダイアフラムの周縁部を挟持する挟持部とダイアフラムの背面側に設けられた操作機構とこの操作機構を上下動させる作動部とからなる流体制御器であって、操作機構は少なくとも上部に取付部を有するコンプレッサとこのコンプレッサの取付部に一端が取付され他端が作動部に取設されたステムとからなる耐熱耐久性の流体制御器。」
で一致し、以下の<相違点>で相違しているものと認める。
<相違点>
1)本願発明の操作機構はハンドル部によって上下動するのに対し、上記刊行物1の発明の操作機構はアクチュエーター部によって上下動するようになっている点。
2)本願発明のステムは一端がコンプレッサの嵌合部に嵌合されているのに対し、上記刊行物1の発明のステム(4)は一端がコンプレッサ(3)の固定部に固定されている点。
3)本願発明の流体制御器は、ダイアフラムとコンプレッサとが直接当接することによるダイアフラムの疲労を避けるため、コンプレッサ全面にゴム状弾性物質を除くフッ素系樹脂からなる耐熱性樹脂をコーティングしているのに対し、上記刊行物1の発明の流体制御器は、ゴム状弾性物質を除くフッ素系樹脂からなる耐熱性樹脂層を、コンプレッサ全面にコーティングする代わりにダイアフラムのコンプレッサに当接する部分に設けるようにしている点。
4)本願発明では、コンプレッサの全面に粗面化処理を施してから耐熱性樹脂をコーティングしているのに対し、上記刊行物1の発明では、耐熱性樹脂を設けるときにこのような粗面化処理を施していない点。

4.相違点の検討
(1)相違点1)に関して
コンプレッサ等の操作機構をハンドル部によって上下動させることは、上記刊行物2でも行われているように周知技術であるから、上記刊行物1の発明で、操作機構をハンドル部によって上下動させることは、上記刊行物1の発明に上記周知技術を付加することにより当業者が適宜行い得たものである。
(2)相違点2)に関して
2部材の結合を嵌合によって行うことは例を挙げるまでもなく慣用技術であるから、上記刊行物1の発明で、ステム(4)の一端をコンプレッサ(3)の嵌合部に嵌合してステム(4)をコンプレッサ(3)に結合することは、上記刊行物1の発明に上記慣用技術を付加することにより当業者が適宜行い得たものである。
(3)相違点3)に関して
上記刊行物2には、流路を有する弁箱と流路を開閉するダイアフラムとこのダイアフラムの周縁部を挟持する挟持部とダイアフラムの背面側に設けられた操作機構とこの操作機構を上下動させるハンドル部とからなり、操作機構は上部に軸結部を有するコンプレッサとこのコンプレッサの軸結部に一端が軸結され他端がハンドル部に取設されたステムとからなる流体制御器において、従来のダイヤフラムバルブが被膜を隔膜6に裏打ちしていたのに代えて、これをコンプレッサの表面に被覆するようにし、これによりダイアフラムが直接コンプレッサに触れて摩擦損傷を起すことがないようにする発明が記載されている。上記刊行物2の被覆はライニングによって形成された被覆であるが、保護被覆という点において刊行物1の耐腐食性の硬質樹脂層(802)と変わりがないから、この発明を刊行物1の発明に適用することには格別な困難性が認められない。
さらに、PTFE等の保護被覆をコーティングによって設けることは周知技術(例えば、特開平5-196155号公報、特開昭62-221537号公報を参照。)であり、コーティングによる保護被覆層を部分的に設けるか、被覆対象物の全面に亘って設けるかは当業者が適宜選択する単なる設計事項(例えば、上記特開平5-196155号公報の【0030】には「ローラー5、10の外周の少なくとも液路13当接部分にテフロン樹脂その他の摩擦係数の小さい性質を有する樹脂をコーティングする」と記載され、コーティングが液路13当接部分以外にも設け得ることが示唆されており、さらに、実願昭63-66600号(実開平1-169668号)のマイクロフィルムの第4頁19行〜第5頁7行や、特開平5-93320号公報の【0009】には、コーティング層を部分的に設けても、全体に設けてもよいことが記載されている。)である。
してみれば、上記刊行物1の発明で、ゴム状弾性物質を除くフッ素系樹脂からなる耐熱性樹脂を、ダイアフラムの前記コンプレッサに当接する部分に設ける代りに、コンプレッサの全面にコーティングし、これによりダイアフラムが直接コンプレッサに触れないようにしてダイアフラムの磨耗や損傷を少なくすることは、上記刊行物1の発明に上記刊行物2の発明と上記周知技術を適用することにより当業者が容易に行うことができたものである。
(4)相違点4)に関して
フッ素樹脂等の耐熱性樹脂を他の部材の表面にコーティングするとき、該他の部材の表面に粗面化処理を施してからコーティングを行うことは周知技術(例えば、特開昭54-126280号公報参照。)であるから、上記刊行物1の発明で、コンプレッサに耐熱性樹脂をコーティングするときに、コンプレッサの対象部分に粗面化処理を施してから耐熱性樹脂をコーティングすることは、上記刊行物1の発明に上記周知技術を付加することにより当業者が適宜行い得たものである。

そして、本願発明が奏する作用効果は、上記刊行物1、2に記載された発明と上記各周知技術、慣用技術に示唆された事項から予測される程度以上のものではない。

5.むすび
以上詳述したとおり、本願の請求項1に係る発明は、上記刊行物1の発明と上記刊行物2の発明、及び上記各周知技術、慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-05-19 
結審通知日 2004-05-19 
審決日 2004-06-01 
出願番号 特願平5-344055
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川本 真裕  
特許庁審判長 八日市谷 正朗
特許庁審判官 ぬで島 慎二
鈴木 久雄
発明の名称 耐熱耐久性の流体制御器  
代理人 清原 義博  

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