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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1100540
審判番号 不服2000-4346  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-03-29 
確定日 2004-07-23 
事件の表示 平成 4年特許願第504006号「光学的に活性な5H-ピロロ[3,4-b]ピラジン誘導体、それの製造およびそれを含有している薬学的組成物」拒絶査定に対する審判事件[平成 4年 8月 6日国際公開、WO92/12980、平成 6年 5月26日国内公表、特表平 6-504548]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年1月16日の出願(特願平4-504006:PCT/FR92/00031、優先権主張日1991年1月17日)であって、その発明の要旨は、平成12年3月29日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。

【請求項1】 6-(5-クロロ-2-ピリジル)-5-[(4-メチル-1-ピペラジニル)カルボニルオキシ]-7-オキソ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[3,4-b]ピラジンの右旋性異性体、またはそれの薬学的に許容可能な塩類を1種以上の薬学的に許容可能な希釈剤または佐薬と組み合わせて含有していることを特徴とする睡眠性質または時間を改善するための薬学的組成物。

2.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物(以下、それぞれ引用例1〜3という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

引用例1:The Merck Index(eleventh edition),1989,Monograph number:10095
「ゾピクロン.・・・・・;6-(5-クロロピリド-2-イル)-5-(4-メチルピペラジン-1-イル)カルボニルオキシ-7-オキソ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[3,4-b]ピラジン;・・・・・.ベンソジアゼピン結合のインビトロ及びインビボでの抑制:・・・・・.睡眠不調の臨床的研究:・・・・・.実験及び臨床薬理学、睡眠の実験レベル研究及び依存性誘起能調査を含む臨床試験:・・・・・不眠症における薬物動態力学、薬理学及び有効性についての一連の論文・・・・・.
化学構造式(省略)
・・・・・
治療カテゴリー:鎮静剤;催眠剤.」

引用例2:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典9」(昭62-2-15)、共立出版、第530頁「ラセミ分割」の項
「ラセミ体をその成分である光学的対掌体に分割する方法をいい、1848年L.Pasteurが3種の方法でDL-酒石酸から光学活性体を得たのが最初で、その後完全分割の多くの例は、これらの方法によったものが多い。・・・・・・・6)分割試薬とジアステレオマーを作る方法(パストゥールの第二法):この方法は最も広く用いられている。」

引用例3:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典8」(昭62-2-15)、共立出版、第167-168頁「分割試薬」の項
ラセミ分割の際ラセミ体と結合してジアステレオマーを形成する光学活性化合物をいう。・・・。分割試薬として特別な化合物があるわけではなく、入手しやすい光学的に安定な活性体が用いられ、通常・・・・・Ds-酒石酸及びそのO-アシル化物、・・・・など光学活性天然物およびその簡単な誘導体・・・などが用いられる。」

3.対比・判断
(1)本願発明と引用例1に記載された発明を対比すると、前者における6-(5-クロロ-2-ピリジル)-5-[(4-メチル-1-ピペラジニル)カルボニルオキシ]-7-オキソ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[3,4-b]ピラジンと後者における6-(5-クロロピリド-2-イル)-5-(4-メチルピペラジン-1-イル)カルボニルオキシ-7-オキソ-6,7-ジヒドロ-5H-ピロロ[3,4-b]ピラジンとは単に化合物の名称の表記方法が異なるだけの同一の化合物(以下、この化合物をその一般名であるゾピクロンという。)であり、前者における睡眠性質または時間を改善する薬学的組成物は、後者における睡眠不調、不眠症の治療剤又は催眠剤と同義の医薬であると認められ、前者においてゾピクロンを1種以上の薬学的に許容可能な希釈剤または佐薬と組み合わせて含有させる点は医薬製剤上の常法である。
引用例1にはゾピクロンの光学異性体に関する記載はないが、ゾピクロンには1個の光学活性中心となる炭素原子(不整炭素)が存在することは自明であるので、いずれか一方の光学異性体を特定していない引用例1に記載されたゾピクロンは、互いに光学的対掌体(エナンチオマー)の関係にある左旋性と右旋性の光学異性体の等モル混合物であるラセミ体であるとするのが相当である。
そうすると、両者は、いずれも「ゾピクロンを含有する睡眠性質または時間を改善するための医薬」である点で一致し、本願発明では、ゾピクロンが右旋性異性体であるのに対して、引用例1に記載された発明ではラセミ体である点で相違している。

この相違点について以下に検討する。

一般に、ある化合物のラセミ体が薬理作用を示す場合、それを構成する光学異性体間で薬理作用が異なること、更には薬理作用が主として光学異性体の一方に起因している場合があることは広く知られており、光学異性体の一方が有益な薬理活性を示し、他方が好ましくない作用を示す場合があることも、よく知られていることである。そうすると、ラセミ体であることが明らかな医薬有効成分について、一方の光学異性体が他方より薬理作用が強く、その結果、ラセミ体より強い薬理作用を示す医薬となることが期待される。そして、その様な場合に、より薬理作用の強い方の光学異性体を医薬として採用しようとすることは,本件優先権主張日当時,技術常識であったということができる。
このことは、本件出願の優先権主張日(1991年1月17日)以前の出願である、特願平2-301255(優先権主張日1989年11月9日)に関する、平成12年(行ケ)第295号判決(東京高裁 H14. 7.18)においても、既に以下の判示がされているとおりである。

「これらの記載によれば,鏡像をなす2つのエナンチオマー形(R体,S体)には医薬としての薬効に差のあることがうかがわれ,このことは,本件優先権主張日当時,技術常識であったものと認められる。そして,ある化合物を医薬とするに際して,それが持つべき,副作用が小さいなどの性質が考慮されるのはもちろんのことであるが,まずは薬効の大きいものを採用しようとすることは自明の理であるから,上記化合物にエナンチオマー形があり,これらが個別に入手できる場合には,より薬効の高い方のものを採用することも,本件優先権主張日当時,技術常識(以下,ここにおける技術常識を「本件技術常識」という。)にあったものと認められる。」

本件についてみると、ゾピクロンの右旋性異性体の入手については、本件明細書においても「ゾピクロンの右旋性異性体は適当な有機溶媒中で行われる光学的に活性な酸を用いるゾピクロンの分割により得られる。特に適している光学的に活性な酸としては、D(+)-O,O’-ジベンゾイル酒石酸が挙げられる。」とされ、引用例2及び3に記載されているような慣用のラセミ分割手段が採用されていることからみて、その入手に格別の困難性があるとは認められない。
そうすると、催眠剤として良く知られるラセミ体のゾピクロンについて、より薬理作用が強いいずれか一方の光学異性体を含有したものとすることは、当業者が容易に想到することに過ぎず、その結果、右旋性の光学異性体(D-ゾピクロン)がより薬理作用に優れたものであることを見出し、それを含有する医薬とすることは、上記技術常識を有する当業者にとって格別困難であるとは認められない。
審判請求人は、審判請求書において、「本願発明はD-ゾピクロンがそのラセミ体やL-ゾピクロンと比べて従来全く知られていなかった特異な性質が見出されたことに基づく優れた効果を有する」旨を主張するが、その見出された性質とは「D-ゾピクロンはラセミ体より低い毒性を有していながらラセミ体の約2倍程度活性であるのみならず、L-ゾピクロンはほとんど不活性であり且つラセミ体より毒性が大きいということ」であり、上記した光学異性体の薬理作用についての一般的な知識ないし技術常識を有する当業者にとって、予想できない程の顕著な効果であるとはいえない。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められる。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-09-11 
結審通知日 2002-09-17 
審決日 2002-09-30 
出願番号 特願平4-504006
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 種村 慈樹吉住 和之  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 大宅 郁治
守安 智
発明の名称 光学的に活性な5H-ピロロ[3,4-b]ピラジン誘導体、それの製造およびそれを含有している薬学的組成物  
代理人 小田島 平吉  

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