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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A42B
管理番号 1100556
審判番号 不服2000-19592  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-12-11 
確定日 2004-07-21 
事件の表示 平成 6年特許願第124995号「フリーサイズ帽子」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 6月 6日出願公開、特開平 7-145506]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年6月7日(パリ条約による優先権主張1993年8月14日、大韓民国)の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成10年12月3日付けの手続補正書、平成11年8月30日付けの手続補正書及び平成12年5月12日付けの手続補正書により補正された明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ひさし部より後側の帽子本体の部分が、弾性糸の緯糸と非弾性糸の経糸とからなる弾性織布にて形成され、前記帽子本体の下端内周面の全長にわたって、緯方向に伸縮性を有する弾性織布からなるスエットバンドが取付けられるとともに、ひさし部の両端部から後側部分のスエットバンドが、3箇所の等間隔の位置でマルチステッチラインにより帽子本体に縫着され、非着用時の帽子の基準サイズを60cm±6cmとする条件のもとに、前記弾性織布の帽子本体とスエットバンドとの緯方向の伸縮範囲が0cm〜6.35cmとなるようにしたことを特徴とするフリーサイズ帽子。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願のパリ条約による優先権主張における第1国の出願前の1987年(昭和62年)5月5日に頒布された刊行物である米国特許第4,662,007号明細書(以下、「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている(翻訳は当審による。)。
(1)「この発明は、概略、改良された帽子の構造に関するものであり、特に、典型的な野球帽子の形状を有し、一つのサイズで種々の大きさの頭の人々が着用できるマルチサイズ帽子に関する。この発明のマルチサイズ帽子の構造は、使用しない時に、帽子の冠部分の内側にかつ上方に折り曲げられるイヤーフラップを更に提供し、そして、帽子の着用の快適さを高めるとともに圧迫感のある着用を生じる構造を避けるために、軸方向に伸縮可能ないくつかのゴアを有する帽子を提供するものである。」(第1欄第3行〜第13行)
(2)「冠の後ろの部分を形成するゴアは、一軸方向に伸縮可能であり、通常は、織布が用いられる。このような織布は、典型的には布帛層を形成するスポンジ用合成樹脂からなる繊維(弾性合成繊維(a synthetic resin foam fiber))を有している。布帛層の織り方は、帽子の周方向において一軸方向に伸縮可能であるようにしている。換言すれば、一軸方向の伸縮は帽子のエッジバンドの方向に生じる。このような材料は、この発明のマルチサイズ帽子の特定のゴアのみに用いられ、それにより、帽子の前の部分と共同して、種々の大きさの頭の人々が着用できるようにする。」(第2欄第10行〜第21行、「leads」は「heads」の誤記と認める。)
(3)「単一サイズの帽子を全ての人々が利用できるようにするために、冠の後ろの部分を形成するゴアの材料は、一軸方向に沿って20%伸縮することが可能なものが選ばれる。これらの材料は、もちろん、市販品として入手できる。種々の大きさの頭の人々が着用するのに、二つ以上のサイズの帽子が用いられるときは、これらの材料にあっては、一軸方向の伸縮は約10パーセントで、通常、満足すべきものとなる。」(第2欄第30行〜第38行)
(4)「イヤーフラップ19を形成する細長いバンドは、シェル11の構成要素である側方及び後方のゴア14,15,16,17を周回する、シェルの基端部分に符号21で示すようにヒンジ結合される。符号21で示される縫線ヒンジは相互結合部材として作用する。」(第3欄第41行〜第45行、「as at 17」は「as at 21」の誤記と認める。)
(5)上記(4)の記載とFig.1の記載から、シェルの側方及び後方の下端内周面にイヤーフラップを縫着している帽子が記載されていると認められる。
(6)「冠部分を形成する多数のゴアからなるシェルと、シェルの前方の縁に取り付けられ、該前方の縁から外側に広がるひさし部分と、シェルの側方及び後方の基端部分にヒンジ結合され、内側で上方に折り曲げられる第一の形態と、下側で着用する人の耳の近辺に折り曲げられる耳を覆う形態、とになるイヤーフラップを形成する細長いバンドと、細長いバンドをその長さに沿って冠部分にヒンジ結合する手段と、を含む、種々の大きさの頭の人々が着用できるマルチサイズ帽子の構造において、
上記冠部分を形成する多数のゴアからなるシェルは、上記ひさし部分に確固に取り付けられた一対の前側のゴアと側方及び後方に位置する複数のゴアとを備え、これらゴアの各々はシェルの共通の頂点から広がっており、
上記前側のゴアは非伸縮性の材料で形成され、概ねそれ自身を支えられるように十分に剛性があり、
側方及び後方に位置する複数のゴアは一軸方向に伸縮性のある材料から形成され、帽子の周方向に沿って伸縮可能であり、
上記イヤーフラップは少なくとも一軸に沿って伸縮可能な布材料から形成され、この少なくとも伸縮可能な一軸はイヤーフラップが取り付けられている帽子の周方向にほぼ平行に延びている、
ことを改良点とするマルチサイズ帽子の構造」(クレーム1)

上記(1)-(6)の記載からすると、引用刊行物には、「冠部分を形成する多数のゴアからなるシェルと、シェルの前方の縁に取り付けられ、該前方の縁から外側に広がるひさし部分と、シェルの側方及び後方の下端内周面に縫着によりヒンジ結合され、内側で上方に折り曲げられる第一の形態と、下側に着用する人の耳の近辺で折り曲げらる耳を覆う形態、とになるイヤーフラップと、を含む、種々の大きさの頭の人々が着用できるマルチサイズ帽子において、
上記冠部分を形成する多数のゴアからなるシェルは、上記ひさし部分に確固に取り付けられた一対の前側のゴアと側方及び後方に位置する複数のゴアとを備え、これらゴアの各々はシェルの共通の頂点から広がっており、
上記前側のゴアは非伸縮性の材料で形成され、概ねそれ自身を支えられるように十分に剛性があり、
側方及び後方に位置する複数のゴアは一軸方向に伸縮性のある織布から形成され、帽子の周方向に沿って伸縮可能であり、
上記イヤーフラップは少なくとも一軸に沿って伸縮可能な布材料から形成され、この少なくとも伸縮可能な一軸はイヤーフラップが取り付けられている帽子の周方向にほぼ平行に延びている、マルチサイズ帽子。」の発明(以下、「引用刊行物記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比
本願発明と引用刊行物記載の発明とを対比すると、引用刊行物記載の発明の「側方及び後方に位置する複数のゴア」、「一軸方向に伸縮性のある織布」、「マルチサイズ帽子」はそれぞれ、本願発明の「ひさし部より後側の帽子本体の部分」、ひさし部より後側の帽子本体の部分を形成する「弾性織布」、「フリーサイズ帽子」に相当し、また、引用刊行物記載の発明の「冠部分」及び「シェル」が本願発明の「帽子本体」に相当するから、本願発明で用いられている語句を用いて表現すると、両者は、「ひさし部より後側の帽子本体の部分が、弾性織布にて形成されたフリーサイズ帽子」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1
本願発明は、弾性織布が弾性糸の緯糸と非弾性糸の経糸とからなるのに対し、引用刊行物記載の発明は、弾性織布が一軸方向に伸縮性のある点。
相違点2
本願発明は、帽子本体の下端内周面の全長にわたって、緯方向に伸縮性を有する弾性織布からなるスエットバンドが取付けられているのに対し、引用刊行物記載の発明は、帽子本体の側方及び後方の下端内周面に、少なくとも一軸に沿って伸縮可能な布材料からなるイヤーフラップが縫着されている点。
相違点3
本願発明は、ひさし部の両端部から後側部分のスエットバンドが、3箇所の等間隔の位置でマルチステッチラインにより帽子本体に縫着されているのに対し、引用刊行物記載の発明は、このような事項について記載がない点。
相違点4
本願発明は、非着用時の帽子の基準サイズを60cm±6cmとする条件のもとに、前記弾性織布の帽子本体とスエットバンドとの緯方向の伸縮範囲が0cm〜6.35cmとなるようにしているのに対し、引用刊行物記載の発明は、このような事項について記載がない点。

4.相違点の判断
(1)相違点1について
通常「ストレッチ織物」とは、経糸または緯糸の少なくとも一方にポリウレタン弾性糸等の伸縮糸を使用して織成した織布を意味する(例えば 繊維学会 編「繊維便覧-加工編-」(昭和44年5月30日) 丸善株式会社 P.485-486を参照)。
ところで、引用刊行物には「冠の後ろの部分を形成するゴアは、一軸方向に伸縮可能であり、通常は、織布が用いられる。このような織布は、典型的には布帛層を形成するスポンジ用合成樹脂からなる繊維(弾性合成繊維(a synthetic resin foam fiber))を有している」(上記2-(2)を参照)と記載されているが、一般にスポンジが、ポリウレタン樹脂で作られることは周知であるので、この記載は、一軸方向に伸縮可能な織布として、ポリウレタン弾性糸を使用したストレッチ織物を例示したものと解せられる。
そして、ポリウレタン弾性糸等の伸縮糸は、ストレッチ織物の伸縮方向に織り込まれるが、織物は経糸と緯糸とからなっているので、一軸方向の伸縮性を得るためには、伸縮糸は、経糸または緯糸の一方のみに織り込まれることとなる。
そうすると、一軸方向に伸縮可能なゴアを形成するにあたり、緯糸を伸縮糸としたストレッチ織物を選択し、相違点1に係る本願発明の構成のようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得た設計的事項にすぎない。
(2)相違点2について
帽子本体の下端内周面の全長にわたってスエットバンドを取付けている帽子は従来周知の技術(必要ならば、実願昭54-173230号(実開昭56-91327号)のマイクロフィルム、実願昭56-9748号(実開昭57-125729号)のマイクロフィルム、実願昭58-167685号(実開昭60-75428号)のマイクロフィルム、実願昭62-141001号(実開昭64-45722号)のマイクロフィルム参照。)である。
そして、引用刊行物記載の発明のマルチサイズ帽子に縫着されたイアーフラップは、寒い季節に両耳を覆って保温させるという、本来帽子が有する頭を覆うという機能以外の付属的な機能を有するものと言える。また、帽子本体の下端内周面に取り付けられるスエットバンドも、本来帽子が有する頭を覆うという機能以外の付属的な機能を有するものと言える。
してみると、引用刊行物記載のフリーサイズ帽子に関して、付属的な機能を有する手段として、帽子本体の側方及び後方の下端内周面に、少なくとも一軸に沿って伸縮可能な布材料からなるイヤーフラップを縫着するのに代えて、従来周知のスエットバンドを帽子本体の下端内周面の全長にわたって取り付けるようにすることに、格別な困難性が存するとは認められない。
また、引用刊行物記載の発明のイヤーフラップが、少なくとも一軸に沿って伸縮可能な布材料から形成され、この少なくとも伸縮可能な一軸はイヤーフラップが取り付けられている帽子の周方向にほぼ平行に延びているのは、帽子の冠部分を形成する側方及び後方に位置する複数のゴアの帽子の周方向に沿っての伸縮を阻害しないようにするためと解せるから、引用刊行物記載の発明のマルチサイズ帽子を従来周知のスエットバンドを備えるようなタイプのものにしようとする際に、スエットバンドが帽子の伸縮を阻害しないように、上記イヤーフラップと同様、伸縮可能な一軸が帽子の周方向にほぼ平行に延びることができるように、スエットバンドに従来周知の緯方向に伸縮性を有する弾性織布を用いるようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。
(3)相違点3について
スエットバンドの下端部及び上端部を縫着することは、従来周知の技術(必要ならば、実願昭58-167685号(実開昭60-75428号)のマイクロフィルム、実願昭63-113846号(実開平2-38424号)のマイクロフィルム、実願平2-112353号(実開平4-69417号)のマイクロフィルム)である。また、縫着を連続的に行うか、それとも離散的に所々に行うかは、縫着すべき物の固着強度等を勘案して適宜決め得る技術的事項である。そうすると、引用刊行物記載の発明のマルチサイズ帽子を従来周知のスエットバンドを備えるようなタイプのものにしようとする際に、ひさし部の両端部から後側部分のスエットバンドを、3箇所の等間隔の位置で、従来周知のマルチステッチライン(必要ならば、日本規格協会編「JIS用語辞典 繊維編」(1987年7月15日)財団法人日本規格協会 P.359、366(用語「二本針縫い」「二度縫い」を参照)を参照)により帽子本体に縫着することは、当業者であるならば、固着の強度等を勘案して必要に応じ適宜なし得た設計的事項である。また、その効果も格別なものではない。
(4)相違点4について
非着用時の帽子の基準サイズを60cm±6cmとする条件、すなわち、非着用時の帽子の基準サイズが、54cm,60cm,66cmの3種類とする条件は、帽子を販売すべき地域の人々の頭の寸法、髪型等を考慮し、また、一般に基準サイズを大、中、小(いわゆるS、M、L)とすることは従来周知であるから、当業者であるならば適宜決定し得たことである。
また、引用刊行物記載の発明は、「この発明のマルチサイズ帽子の構造は、・・・帽子の着用の快適さを高めるとともに圧迫感のある着用を生じる構造を避けるために、軸方向に伸縮可能ないくつかのゴアを有する帽子を提供するものである。」(上記2-(1)を参照)ことからして、着用する人々の頭の大きさを考慮して、大きい頭の人が帽子を着用しても、圧迫感を生じないような力で必要とする伸びを生じるような弾性織布を用いることを教示ないし示唆しているものといえる。
そうすると、帽子本体の伸縮範囲をどの程度にするかは、帽子の基準サイズ及び帽子を着用する人々の頭の大きさを勘案して、3種類の基準サイズとする場合は、そのサイズ間の寸法差及び着用する人々の最大の頭の寸法と最大の基準サイズとの差を満たすような伸縮範囲(多少余裕を有することが必要と認められる)にすることは、当業者であるならば当然なし得たことであり、伸縮範囲を0cm〜6.35cmにすることに格別な困難性は認められない。また、伸縮範囲を0cm〜6.35cmにしたことによる格別顕著な効果も認められない。
さらに、スエットバンドも同じ伸縮範囲とすることは、スエットバンドも帽子本体と同様に伸縮することが必要であるから、当然のことである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-02-17 
結審通知日 2004-02-24 
審決日 2004-03-08 
出願番号 特願平6-124995
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A42B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大河原 裕新海 岳千葉 成就  
特許庁審判長 鈴木 公子
特許庁審判官 山崎 豊
溝渕 良一
発明の名称 フリーサイズ帽子  
代理人 亀谷 美明  

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