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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1100602
審判番号 不服2003-1310  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-12-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-01-23 
確定日 2004-07-22 
事件の表示 平成11年特許願第148847号「ステンレス鋼製真空二重容器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月 5日出願公開、特開2000-333848〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年5月27日の出願であって、平成14年12月17日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年1月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月24日付で手続補正がなされたものである。

2.平成15年2月24日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年2月24日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 ステンレス鋼製の内容器と外容器のうち内容器をSUSXM7とし、外容器をSUS304として二重に組み合わせて、それら内外容器の間を真空空間とした二重容器を形成した後、電解研磨により、前記内容器の内容液を入れる表面を、表面粗さRzが1.5μm以下のなだらかな凹凸形状面となるよう表面処理することを特徴とするステンレス鋼製真空二重容器の製造方法。
【請求項2】 ステンレス鋼製の内容器と外容器のうち内容器をSUSXM7とし、外容器をSUS304として二重に組み合わせて、それら内外容器の間を真空空間とした二重容器を形成した後、二重容器の口部を下にし、肩部の上方近傍位置まで沈み込むように電解液に浸すと共に、電極を内容器内に挿入し、その先端から電解液を内容器の表面に向けて噴出させて電解研磨することにより、前記内容器の内容液を入れる表面を、表面粗さRzが1.5μm以下のなだらかな凹凸形状面となるよう表面処理することを特徴とするステンレス鋼製真空二重容器の製造方法。
【請求項3】 ステンレス鋼製の内容器と外容器とを間隙を設けて二重に組み合わせて、それら内外容器の間を真空空間とした二重容器を形成した後、電解研磨により、前記内容器の内容液を入れる表面を、表面粗さRzが0.6〜1.5μmのなだらかな凹凸形状面となるよう表面処理することを特徴とするステンレス鋼製真空二重容器の製造方法。
【請求項4】 前記内容器にSUSXM7のステンレス鋼を用いる請求頃3に記載のステンレス鋼製真空二重容器の製造方法。」
と補正された。
上記補正は、当初明細書の段落【0026】に、内容器1の材質を変え、SUSXM7(18Cr-13Ni-3.5Cu)を用いて容器1を形成し、外容器2をSUS304で構成してもよい旨の記載に基づき、原請求項1に記載した発明の構成要件である内容器及び外容器のステンレス鋼を、それぞれSUSXM7及びSUS304に限定して新請求項1とするものである。また、新請求項1の構成に、原請求項6の特定の構成を組合せて、新請求項2とするものである。また、原請求項1の構成において表面粗さRzが1.5μm以下であるところを、当初明細書の段落【0027】および段落【0029】の表1に記載のある0.6μmを実現している点から、0.6〜1.5μmに限定して新請求項3とするものである。また、新請求項3の構成において内容器にSUSXM7を用いる点を限定して新請求項4とするものである。
補正後の請求項1〜4に記載された発明は、いずれも原請求項1に記載した発明の構成要件を限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
本願の出願前国内において頒布された刊行物である、特開平10-328046号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

・発明の詳細な説明の段落【0002】に、
「【従来の技術】金属製真空断熱容器の材料としては、耐食性に優れたSUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼が広く用いられている。・・・・」

・発明の詳細な説明の段落【0007】、【0008】に、
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の金属製真空二重壁容器は、内容器と外容器を備え、該内容器と外容器との間に形成された密閉空間を真空断熱層とした金属製真空二重壁容器において、前記内容器と外容器の少なくとも一方が、銅を1.5〜5%を含むオーステナイト系ステンレス鋼から成形されたことを特徴としている。前記内容器が、銅を1.5〜5%を含むオーステナイト系ステンレス鋼から成形された構成としてもよい。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づき本発明を詳しく説明する。図1に示す容器は、本発明の容器の一実施例を示したもので、金属製の内容器1と外容器2とを空隙を隔てて口部1a、2aで接合一体化して二重壁構造とし、この空隙を真空断熱層3とした金属製真空二重壁容器である。上記内容器1および外容器2の少なくとも一方、好ましくは両方が、銅を1.5〜5%含むオーステナイト系ステンレス鋼(以下単に銅含有ステンレス鋼という)、好ましくは、1.5〜3%含む銅含有ステンレス鋼を用いて成形されている。」

・発明の詳細な説明の段落【0013】に、
「・・・・(実施例1)図1に示した構造の真空断熱魔法瓶を製造した。内容器と外容器の両方を、銅含有量が3〜4%である日新製鋼(株)製オーステナイト系ステンレス鋼SUSXM7(電気抵抗は、縦40mm×横10mm×厚み0.2mmの大きさで0.8オーム)を用いて絞り加工で成形した。外容器底部中央には真空排気のための排気孔を形成した。つぎに内容器と外容器の口元部を合わせて溶接して二重壁容器とした後、排気孔にろう材を配して真空加熱炉に入れて500℃で真空排気を行いつつ、内外容器間の空隙を真空排気し、ろう材よりなる封止材の溶融により真空封止し、真空断熱魔法瓶とした。・・・・」

上記記載および図面によれば、刊行物1には、実施例1として、
「ステンレス鋼製の内容器と外容器の両方をSUSXM7として、二重に組み合わせて 、それら内外容器の間を真空空間とした二重壁容器を形成するステンレス鋼製真空断熱魔法瓶の製造方法。」
が記載されている。

同じく、本願の出願前国内において頒布された刊行物である、実願昭63-6202号(実開平1-111543号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

・明細書第5頁8〜第6頁10行に、
「つぎに、この考案を、その1実施例を示した第1図とともに詳細に説明する。
同図において、従来と異なる点は、外筒(1)と,該外筒(1)に気密に内装され注ぎ口(3)が外筒(1)より外部に開口した内筒(2)とを、それぞれ、ステンレス鋼あるいは軽量化を目的とする場合にはアルミニウムにより構成するとともに、外筒(1)の内面および内筒(2)の内外面にそれぞれ、最大あらさ50nm以下の超鏡面加工を施した点である。
この結果、外筒(1)の内面および内筒(2)の内外面における熱線の反射率が90%以上に向上する。
したがって、内筒(2)内に高温の液(7)を収容した場合、液(7)からの熱線は内筒(2)の内面でそのほとんとが反射,すなわち遮断され、内筒(2)に伝わつた熱は真空断熱層(4)の断熱効果と外筒(1)の内面における熱線反射(遮断)効果とにより外筒(1)への放散が確実に防止され、内筒(2)内の液(7)が保温される。
また、内筒(2)内に低温の液(7)を収容した場合、外部より外筒(1)に伝えられる熱は、真空断熱層(4)の断熱効果と内筒(2)の外面における熱線反射(遮断)効果とにより内筒(2)への侵入が確実に防止され、内筒(2)内の液(7)が保冷される。」

上記記載によれば、刊行物2には、ステンレス鋼製真空二重容器の内容器の内容液を入れる表面を、最大あらさ50nm以下の超鏡面加工を施すこと、即ち、本願の表面粗さの範囲内であるRzで1.5μmより小さい凹凸面形状となるよう表面処理することが記載されている。

(3)対比・判断
本願補正発明と刊行物1に実施例1として記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載の「二重壁容器」及び「真空断熱魔法瓶」は、それぞれ本願補正発明の「二重容器」及び「真空二重容器」に相当するから、
両者は、
「ステンレス鋼製の内容器と外容器を二重に組み合わせて 、それら内外容器の間を真空空間とした二重容器を形成するステンレス鋼製真空二重容器の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]本願補正発明では、内容器をSUSXM7とし、外容器をSUS304としたのに対して、刊行物1に記載された発明では、内容器、外容器ともにSUSXM7とした点。

[相違点2]本願補正発明では、二重容器を形成した後、電解研磨により、前記内容器の内容液を入れる表面を、表面粗さRzが1.5μm以下のなだらかな凹凸形状面となるよう表面処理するのに対して、刊行物1には、二重容器を形成した後、内容器の内容液を入れる表面を、研磨により表面処理することについては何も記載されていない点。

上記相違点1について検討すると、刊行物1には、従来の技術の欄に、「金属製真空断熱容器の材料としては、耐食性に優れたSUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼が広く用いられている。」と記載され、さらに、課題を解決するための手段の欄に、「前記内容器と外容器の少なくとも一方が、銅を1.5〜5%を含むオーステナイト系ステンレス鋼から成形されたことを特徴としている。前記内容器が、銅を1.5〜5%を含むオーステナイト系ステンレス鋼から成形された構成としてもよい。」と記載されていることから、刊行物1に実施例1として記載された発明において、外容器のステンレス鋼をSUS304に変更して、上記相違点における本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、上記相違点2について検討すると、刊行物2に、ステンレス鋼製真空二重容器において、保温、保冷効果を向上させるべく、外容器内面及び内容器の内外面を、表面粗さRzが1.5μm以下の凹凸形状面となるよう表面処理することが記載されている。そして、保温、保冷硬効果を向上させることは、本願補正発明のような真空二重容器に当然要求される事項であるとともに、ステンレス鋼製真空二重容器の内容器内を表面処理するに際して、二重容器を形成した後に、内容器内を電解研磨により表面処理することは、本願明細書の従来の技術の欄にも記載されているように従来周知の技術手段にすぎないし(他に、例えば、特開平6-245868号公報、特開平11-47006号公報、特開平11-57904号公報をも参照)、電解研磨によれば、微視的な凹凸を平滑にして、なだらかな凹凸形状面となるよう表面処理されるものであるから〔「新版 表面処理ハンドブック」(産業図書株式会社、昭和49年8月10日 新版第3刷発行、p.375)には、「電解研磨は金属,合金を陽極として溶解し,その際微視的な凸部を優先的に溶出せしめるよう電解液、条件に配慮を加えて,光輝ある表面とする方法であるから,「研磨」といっても巨視的な凹凸を除去して平滑な面とすることは、資料の形状などにもよるが、概して期待できない。」と記載されている。〕、刊行物1の実施例1に記載された発明において、上記相違点2における本願補正発明の構成とすることは、刊行物2及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願補正発明が奏する作用効果は、刊行物1、2に記載された発明、及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって格別のものではない。
したがって、本願補正発明は、本願の出願前に国内において頒布された刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定により準用する特許法第126条第4項の規定に違反してなされたものであり、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成15年2月24日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成14年8月23日付の手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】 ステンレス鋼製の内容器と外容器とを間隙を設けて二重に組み合わせて、それら内外容器の間を真空空間とした二重容器を形成した後、電解研磨により、前記内容器の内容液を入れる表面を、表面粗さRzが1.5μm以下のなだらかな凹凸形状面となるよう表面処理することを特徴とするステンレス鋼製真空二重容器の製造方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、内容器をSUSXM7とし、外容器をSUS304とするとの限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-05-19 
結審通知日 2004-05-26 
審決日 2004-06-08 
出願番号 特願平11-148847
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A47J)
P 1 8・ 121- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 哲生  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 櫻井 康平
原 慧
発明の名称 ステンレス鋼製真空二重容器の製造方法  
代理人 石原 勝  

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