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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M |
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管理番号 | 1101005 |
審判番号 | 不服2001-18819 |
総通号数 | 57 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2001-06-12 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-10-19 |
確定日 | 2004-08-06 |
事件の表示 | 特願2000-329164「カテーテル・ガイドワイヤー」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月12日出願公開、特開2001-157714〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、昭和59年10月31日に出願した特願昭59-229280号の一部を平成5年6月29日に特願平5-159503号として新たな出願とし、該特願平5-159503号の一部を平成10年8月27日に特願平10-241282号としてさらに新たな出願とし、該特願平10-241282号の一部を平成12年10月27日にさらにまた新たな出願としたものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成13年11月15日付けの手続補正書及び平成15年1月22日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「0℃〜40℃において5%の伸びひずみに対して応力の除荷と同時にほぼ完全に元に復し、さらに30℃および40℃において引張りによる応力負荷を行うと、5%の伸びひずみに対して、応力-ひずみ曲線が応力の増加によって常にひずみが増加し、応力の除荷と同時に完全に元に戻るTiNi合金線からなる心線を有することを特徴とするカテーテル・ガイドワイヤー。」 2.引用刊行物 これに対して、原審における、平成13年5月22日付けの拒絶理由通知書で引用された引用例(特開昭59-67968号公報)には、以下の事項が記載されている。 (a)「(1)ガイドワイヤーの少なくとも先端部が、マルテンサイト逆変態開始温度が0℃ないし40℃である形状記憶合金からなり、該温度より所要高い温度においてJ形に成形されていることを特徴とするガイドワイヤー。 (2)マルテンサイト逆変態開始温度が26℃ないし36℃である形状記憶合金からなる特許請求の範囲第1項記載のガイドワイヤー。」(特許請求の範囲請求項1、2) (b)「形状記憶合金が、Ti-Ni合金…(中略)…のうちの1種である特許請求の範囲第1項ないし第6項のいずれかに記載のガイドワイヤー。」(特許請求の範囲請求項7) (c)「本発明は生体の脈管、特に血管内の目的部位までカテーテルを導入するためのガイドワイヤーに係り、」(公報第1頁右下欄第20行〜第2頁左上欄第2行) (d)「本発明のガイドワイヤーを第4図を参照して説明すると、このガイドワイヤーWは外面をプラスチックスで被覆された直径0.1mmφないし0.3mmφのステンレス線によりコイルスプリング状に捲かれ単体では軸線が直線でありきわめて湾曲し易い外管10と、ステンレス製であり断面円形で所要強さの腰を有し湾曲性のある大径部31の先端に該大径部31よりも断面が小さくきわめて容易に湾曲する、すなわち腰が弱い形状記憶合金製の先端部32をスポット溶接してなる芯体30の先端部32が高温にてJ型に成形され、該芯体30が前記外管10内に通され該芯体30の両端と前記外管10の両端とがスポット溶接されてなる。」(公報第3頁右下欄第10行〜第4頁左上欄第3行) (e)「特に形状記憶合金のマルテンサイト逆変態開始温度を0℃ないし40℃と限定している理由は以下のとおりである。先ず、マルテンサイト逆変態開始温度が0℃ないし25℃のときは、病院の手術室が25℃を基準に室温調整されている多少の温度変化もありそれ以上の温度となっている場合もあるので、ガイドワイヤーの先端部32が血管内に導入する前からJ型に復元してしまうことがある。しかしこの場合、ガイドワイヤーの先端部を氷水あるいは氷水で冷却されたアルコールに浸して冷却し先端部をまつすぐに矯正した後、セルディンガー針を通して体内に導入すればよい。ただ、通常0℃以下に冷却することは困難であるから、マルテンサイト逆変態開始温度が0℃より低い場合は、J型に復元した先端部をまつすぐに矯正することは困難である。次に、マルテンサイト逆変態開始温度が40℃以下としたのは、約42℃で血球成分及び組織細胞が破壊される可能性が高いので、血管内に導入するガイドワイヤーの先端部を高周波加熱により温める限界を42℃までとしなければならず、さらにガイドワイヤーの先端部がJ型に復帰するにはマルテンサイト逆変態開始温度よりも少なくとも2℃高く温める必要があるためである。すなわち、マルテンサイト逆変態開始温度が0℃ないし40℃である形状記憶合金にあつては、マルテンサイト逆変態開始温度よりも2℃高く加熱すると組織中のマルテンサイト相が消失してオーステナイト相が表れる率が数捨パーセントに達し、ほぼJ型の記憶形状に復元するので加熱可能な上限温度42℃よりも2℃低い40℃としたものである。」(公報第4頁右上欄第7行〜左下欄第20行) (f)「次に上記構成のガイドワイヤーによれば、外管10と芯体30からなり芯体30の先端部32のみが形状記憶合金より構成されているが、本発明は変形実施例として前記芯体30の全部を形状記憶合金より構成しても差し支えなく、」(公報第5頁右下欄第3行〜第7行) そして、上記(d)及び(f)の記載事項及び図面の第4図の図示内容から、芯体30が形状記憶合金線からなるものを含むことは明らかである。 また、上記(e)の記載から、該形状記憶合金におけるマルテンサイト逆変態完了温度は、マルテンサイト逆変態開始温度よりも少なくとも2℃高い温度といえ、同じく上記(e)の記載から、該形状記憶合金のマルテンサイト逆変態開始温度は0℃ないし40℃の温度域にあるから、該温度域より少なくとも2℃以上高い温度域、すなわち、該形状記憶合金線のマルテンサイト逆変態完了温度が2℃以上にあることが認められる。 したがって、上記引用例に記載の事項及び図面の図示内容を総合すると、上記引用例には、「マルテンサイト逆変態完了温度が2℃であるTi-Ni合金より構成される形状記憶合金線からなる芯体30を有するカテーテルを導入するためのガイドワイヤー。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 3.対比 本願発明と引用発明を対比すると、後者の「Ti-Ni合金」は前者の「TiNi合金」に、以下順に、「芯体30」は「心線」に、「カテーテルを導入するためのガイドワイヤー」は「カテーテル・ガイドワイヤー」に、その機能、構造からみて相当するから、両者は「TiNi合金線からなる心線を有するカテーテル・ガイドワイヤー。」である点で一致しており、下記の点で相違している。 [相違点] TiNi合金線について、本願発明においては、それが、0℃〜40℃において5%の伸びひずみに対して応力の除荷と同時にほぼ完全に元に復し、さらに30℃および40℃において引張りによる応力負荷を行うと、5%の伸びひずみに対して、応力-ひずみ曲線が応力の増加によって常にひずみが増加し、応力の除荷と同時に完全に元に戻る性質を有するものであるのに対し、引用発明においては、それがそのような性質を有するかどうか明らかでない点 4.当審の判断 上記の相違点について検討する。 本願発明は、主にTiNi合金のいわゆる超弾性特性と関連するものであるが、引用発明は、主にTiNi合金のいわゆる形状記憶特性に関連するものといえる。 そして、この超弾性特性と形状記憶特性は共に、TiNi合金が有している物理的特性であって、使用される状況に応じて、いずれかの特性を用いて表現されており、TiNi合金がAf点(マルテンサイト逆変態完了温度)以上の温度条件下で応力負荷を行うと、見掛上数%〜10数%の塑性変形を起すが、応力の除荷と同時に完全に元に戻る性質を発現させる、すなわち超弾性特性を示すことは、本願明細書の段落[0002]乃至[0003]にも示されているように当業者に明らかである。 (1)上記のことを踏まえ、先ず、上記相違点のうち、本願発明のTiNi合金線が有する、0℃〜40℃において5%の伸びひずみに対して応力の除荷と同時にほぼ完全に元に復し、との性質について検討する。 本願発明の「0℃〜40℃において5%の伸びひずみに対して応力の除荷と同時にほぼ完全に元に復し」とは、超弾性特性の観点からみると、0℃〜40℃の温度条件下で5%の伸びひずみに対して応力の除荷と同時にほぼ完全に元に復すような超弾性特性に近い性質を有するように合金のAf点を設定すること、すなわちAf点を0℃以下に設定することと解される。 ここで、この超弾性特性を応力の除荷を5%の伸びひずみに対して行うことについては、TiNi合金において超弾性特性において回復可能な弾性ひずみが、温度条件において差はあるものの、一般に10%程度まで及ぶことを考慮すると格別のものといえない。 また、一般に、超弾性特性を示す応力-ひずみ曲線の曲線形状は、温度条件によって若干変化するものではあるが、その変化が僅かであることは、技術常識といえるものであり、TiNi合金における超弾性特性を示す本件明細書の第2図をみても、このことは明らかである。さらに、該第2図をみても0℃の温度条件下の応力ーひずみ曲線と10℃の温度条件下のそれとは、基本的形状において格別の差異は認められない。 上記のことを考慮すると、Af点が2℃である引用発明の形状記憶合金線においては、2℃以上の温度において、5%の伸びひずみに対して、超弾性合金の特性である、応力の除荷と同時に完全に元に戻る性質を発現させる性質を具備しているものといえるし、さらに、引用発明の形状記憶合金は、上記2℃より僅かに低い0℃以上2℃未満の温度条件下においても、少なくとも上記超弾性特性に近い、5%の伸びひずみに対して応力の除荷と同時にほぼ完全に元に復すような性質を有しているものといえる。 (2)次に、上記相違点のうち、本願発明のTiNi合金線が、さらに有する、30℃および40℃において引張りによる応力負荷を行うと、5%の伸びひずみに対して、応力-ひずみ曲線が応力の増加によって常にひずみが増加し、応力の除荷と同時に完全に元に戻る、との性質について検討する。 上記(1)で検討したことから、Af点が2℃である引用発明の形状記憶合金線においては、30℃においても、40℃においても5%の伸びひずみに対して、超弾性合金の特性である、応力の除荷と同時に完全に元に戻る性質を発現させる性質を有しているものといえる。 また、通常の超弾性合金あるいは形状記憶合金とされるTiNi合金は、引張りによる応力負荷を行うと、応力-ひずみ曲線が応力の増加によって常にひずみが増加することは、技術常識といえるから、引用発明のTiNi合金より構成される形状記憶合金線においても、30℃および40℃において引張りによる応力負荷を行うと、5%の伸びひずみに対して、応力-ひずみ曲線が応力の増加によって常にひずみが増加し、応力の除荷と同時に完全に元に戻る性質を備えているものといえる。 そして、上記のように常にひずみが増加するように設定しても、何ら格別の作用効果を奏しないし、本願発明の効果とされる高いしなやかさと大きなトルク伝達性等が得られることも当業者が引用例から予測できる範囲のものであって格別なものとは認められない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、上記引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-06-04 |
結審通知日 | 2004-06-09 |
審決日 | 2004-06-22 |
出願番号 | 特願2000-329164(P2000-329164) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 阿部 寛 |
特許庁審判長 |
増山 剛 |
特許庁審判官 |
岡田 孝博 大元 修二 |
発明の名称 | カテーテル・ガイドワイヤー |
代理人 | 後藤 洋介 |
代理人 | 後藤 洋介 |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 池田 憲保 |