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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1101054
審判番号 不服2002-10784  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-08-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-06-13 
確定日 2004-08-05 
事件の表示 平成11年特許願第314226号「シリカ系被膜形成用溶液及びその製造方法、並びにシリカ系被膜及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月22日出願公開、特開2000-230149〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成11年11月04日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年06月13日に補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものである。
『非水系有機溶媒とモノクロロシリル基、ジクロロシリル基及びトリクロロシリル基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1つの脱塩酸反応する活性化基を有するシロキサンオリゴマーとを含むことを特徴とするシリカ系被膜形成用溶液。』

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-301984号公報(以下、「引用例」という。)には、次のとおりの記載がある。
(あ)「【請求項1】化学吸着膜が形成された親水性基材であって、親水性のポリシロキサン系超薄膜が、基材表面に基材と-Si-結合を含む共有結合によって形成されていることを特徴とする親水性基材。」(特許請求の範囲参照)
(い)「【請求項5】クロル基を複数個含むシラン系化学吸着物質を非水系の溶媒に溶解して化学吸着液を調整し、前記化学吸着液に、表面に親水性基を含む基材を浸漬して脱塩化水素反応を起こさせる工程と、前記化学吸着液中より基材を取り出し水分を実質的に含まないか、または水分が稀薄な雰囲気中で乾燥し、前記非水系溶媒を除去する工程と、空気中に取り出す工程とを含む親水性基材表面の製造方法。」(特許請求の範囲参照)
(う)「【請求項6】クロル基を複数個含むシラン系化学吸着物質が、SiCl4 、Cl3 SiOSiCl3 、HSiCl3 またはCl3 SiOSiCl2 OSiCl3 から選ばれる少なくとも一つの物質である請求項5に記載の親水性基材表面の製造方法。」(特許請求の範囲参照)
(え)「【0014】・・・、非水系の溶媒が、炭化水素系またはフッ化炭素系の溶媒であることが好ましい。」(3頁3欄21〜23行参照)
(お)「【0030】実施例2 ・・・シラン系化学吸着物質、例えば、Cl3 SiOSiCl3 (SiHCl3 、やCl3 SiOSiCl2 OSiCl3 でもよい)をフッ化炭素系溶媒(例えばノルマルヘキサン)に1wt%溶解した溶液に・・・」(4頁6欄33〜40行参照)
(か)「【0015】【作用】前記本発明によれば、・・・。すなわち、基材表面の水酸基、イミノ基及びカルボキシル基から選ばれる少なくとも一つの官能基と、クロル基を複数個含むシラン系化学吸着物質が、脱塩酸反応するので、基材表面と前記クロル基を複数個含むシラン系化学吸着物質は共有結合を形成する。そして共有結合に関与しない残余のクロロシリル基は、空気中に取り出すと空気中の水分(湿度)と反応してポリシランに変化するので、基材は親水性化される。なお、基材との反応は水分を実質的に含まないか、または水分が稀薄な雰囲気中で乾燥して行うので、形成される膜は、均一な厚さの超薄膜または単分子膜となる。」(3頁3欄24〜38行参照)。

3.比較・判断
引用例には、クロル基を複数個含むシラン系化学吸着物質を非水系の溶媒に溶解して化学吸着液を調整し、前記化学吸着液に、基材を浸漬して脱塩化水素反応を起こさせる工程と、前記非水系溶媒を除去する工程と、空気中に取り出す工程とを含む、化学吸着膜が形成された親水性基材表面の製造方法が記載されている[前記(あ)、(い)参照]から、非水系の溶媒とクロル基を複数個含むシラン系化学吸着物質とを含む溶液を親水性基材表面の膜形成用に使用する発明(以下、「引例発明」という。)が記載されている。
本願発明と引例発明とを比較すると、両者は、ともに、非水系溶媒とクロル基を含むシラン系物質とを含む被膜形成用溶液である点において同一であり、以下の点で形式的な相違を有する。
(1)本願発明は、非水系溶媒について、「有機溶媒」であると明示しているのに対し、引例発明は、そのような明示がない点、
(2)本願発明は、クロル基を含むシラン系物質について、「モノクロロシリル基、ジクロロシリル基及びトリクロロシリル基からなる群より選ばれる少なくとも何れか1つの脱塩酸反応する活性化基を有するシロキサンオリゴマー」としているのに対し、引例発明は、そのような明示がない点、
(3)本願発明は、被膜形成用溶液について、「シリカ系被膜形成用溶液」であるとしているのに対し、引例発明は、そのような明示がない点。

そこで、前記相違点について、検討する。
相違点(1)について:
引用例には、非水系の溶媒について、ノルマルヘキサンの例示とともに、炭化水素系またはフッ化炭素系の溶媒などが好ましいと記載されており[(え)、(お)参照]、他方、本願明細書には、以下(き)の記載により、引例発明において使用される溶媒は、本願発明におけると同様の有機溶媒を含むものである旨が示されている。
したがって、相違点(1)は、実質的な相違点でない。
(き)「有機溶媒としては、非水系有機溶媒を使用することができ、さらに非水系有機溶媒としては炭化水素系有機溶媒、フッ素系有機溶媒、塩素系有機溶媒より選択される有機溶媒のうち単独又は2種類以上を含むものが使用できる。上記炭化水素系有機溶媒としては特に限定されるものではなく、具体的には、例えばn-ヘキサンやトルエン、シクロヘキサン、イソオクタン、ジメチルシリコン等が挙げられる。又、上記フッ素系有機溶媒としては特に限定されるものではなく、パーフルオロオクタン等が挙げられる。更に、上記塩素系有機溶媒としては特に限定されるものではなく、クロロホルム等が挙げられる。」(本願の公開特許公報、特開2000-230149号の10頁18欄28〜39行参照)。

相違点(2)について:
引用例には、クロル基を含むシラン系物質について、Cl3 SiOSiCl3 やCl3 SiOSiCl2 OSiCl3 で例示されるシラン系化学吸着物質であるとされており[(う)、(お)参照]、脱塩酸反応する活性化基を有するものであるとも記載され[(か)参照]、他方、本願明細書には、以下(く)の記載があり、本願発明におけるシロキサンオリゴマーは、Cl3 SiOSiCl3 やCl3 SiOSiCl2 OSiCl3 を含むものであることが示されている。
してみると、引用例には、本願発明と同様のクロル基を含むシラン系物質を用いることが実質的に記載されている。
したがって、相違点(2)は実質的な相違点でない。
(く)「上記クロロシロキサンオリゴマーは、具体的には、例えば下記一般式(II)、・・・で表される化合物から選ばれる化合物群のうち単独又は2種類以上を含んでいてもよい。
・・・

(式中、nは1以上の整数である。)・・・尚、上記一般式(II)・・・で表されるクロロシロキサンオリゴマーの場合、nは1以上の整数としているが、nは2〜1000の範囲内となるオリゴマー程度の重合度であることが好ましく、さらにnは4〜100の範囲内であることがより好ましい」(本願の公開特許公報、特開2000-230149号の10頁17欄45行〜18欄27行参照)。

相違点(3)について:
本願発明における被膜形成用溶液による被膜の形成は、本願明細書の以下(け)の記載から、浸漬引き上げ法などにより塗布された被膜形成用溶液が、基材表面に存在する-OH基などの官能基と脱塩酸反応を起こして基材表面と共有結合(シロキサン結合)し、残存するクロロシリル基が水分と脱塩酸反応を起こしてシリカ系被膜となるものであると解される。
これに対して、引例発明における被膜形成用溶液による被膜の形成は、引用例の前記(か)の記載から、基材表面の水酸基などの官能基とクロル基を含むシラン系化学吸着物質が脱塩酸反応して共有結合を形成し、残余のクロロシリル基は空気中の水分(湿度)と反応してポリシランに変化して膜となるものである。
してみると、本願発明と引例発明の被膜形成機構は実質的に同じであり、前記相違点(1)、(2)が実質的に相違しないことを考慮すると、両発明で得られる被膜は、同じものであり、シリカ系被膜であると解される。
したがって、相違点(3)は実質的な相違点でない。
(け)「【0101】上記シリカ系被膜13は、上記基材11表面に上記シリカ系被膜形成用溶液を、乾燥雰囲気中で接触し、更に水と反応させることにより得られる。【0102】より詳しくは、予めよく洗浄することにより脱脂した基材11を用意し、乾燥雰囲気中で該基材11にシリカ系被膜形成用溶液を塗布して塗布膜を形成する(塗布工程)。これにより、シリカ系被膜形成用溶液中のクロロシロキサンオリゴマーに於けるクロロシリル基が、基材11表面に存在する-OH基や、>NH基等の活性水素を有する官能基と脱塩酸反応を起こして、基材11表面と共有結合(シロキサン結合)する。ここで、シリカ系被膜形成用溶液の塗布方法としては特に限定されるものではなく、従来公知の方法にて行うことができる。具体的には、例えばスピンナー法やロールコーター法、浸漬引き上げ法、スプレー法、スクリーン印刷法、刷毛塗り法等が挙げられる。・・・【0103】次に、塗布された基材11を室温にて放置することにより、上記塗布膜中の非水系有機溶媒を蒸発させる(乾燥工程)。これにより、図1に示すクロロシロキサンオリゴマー被膜12が形成される。尚、クロロシラン化合物はクロロシロキサンオリゴマーとして塗布膜中に存在しており、非水系有機溶媒と共に蒸発することはない。【0104】続いて、クロロシロキサンオリゴマー被膜12が形成された基材11を、水分を含む雰囲気中に取り出す(シリカ系被膜形成工程)。これにより、残存しているクロロシリル基が水分と即座に脱塩酸反応を起こす。この結果、膜中に於いては架橋構造となり、膜表面に於いてはヒドロキシル基が導入され、本発明に係るシリカ系被膜13が形成される(図2参照)。」(本願の公開特許公報、特開2000-230149号の12頁48行〜22欄30行参照)。

よって、本願発明は、引例発明と実質的な相違点を有さないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-05-25 
結審通知日 2004-06-01 
審決日 2004-06-30 
出願番号 特願平11-314226
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 雨宮 弘治
特許庁審判官 井上 彌一
唐木 以知良
発明の名称 シリカ系被膜形成用溶液及びその製造方法、並びにシリカ系被膜及びその製造方法  
代理人 大前 要  

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