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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1101066
異議申立番号 異議2003-70564  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-07-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-28 
確定日 2004-04-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3321059号「ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3321059号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3321059号は、平成9年12月18日に出願された特願平9-349491号に係り、平成14年6月21日に設定登録がなされた後、近藤武から特許異議の申立てがあり、平成15年7月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年9月24日付けで特許権者より特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

[2]本件訂正請求
本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項a
請求項1における「(B):不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂」を、「成分(B):酸変性率0.8〜3重量%で、平均分子量が90,000以上である、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂」と訂正する。
(2)訂正事項b
請求項1における「成分(C):ガラス繊維10〜40重量%」を、「成分(C):ガラス繊維 10 〜30重量%」と訂正する。
(3)訂正事項c
請求項2及び3を削除する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0004】中の「(B):不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂」を、「成分(B):酸変性率0.8〜3重量%で、平均分子量が90,000以上である、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書の段落【0004】中の「成分(C):ガラス繊維 10〜40重量%」を、「成分(C):ガラス繊維 10〜30重量%」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書の段落【0026】中の表1の「プロピレン・エチレン共重合体部分」を、「プロピレン・エチレン共重合部分」と訂正する
(7)訂正事項g
明細書の段落【0031】中の「実施例1〜10」を、「実施例1〜6、参考例1〜4」と訂正し、段落【0033】中の表4の「実施例5」を「参考例1」と訂正し、段落【0034】中の表5の「実施例6」,「実施例7」,「実施例8」を、それぞれ「参考例2」,「参考例3」,「参考例4」と訂正し、同じく「実施例9」,「実施例10」を、それぞれ「実施例5」,「実施例6」と訂正する。

[3]訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
訂正事項aは、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂に、酸変性率0.8〜3重量%で、平均分子量が90,000以上である、という限定を付すものであるが、これは、訂正前の特許請求の範囲の請求項2に記載されているので、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内であり、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。
(2)訂正事項b
訂正事項bは、ガラス繊維の配合割合に関して、10〜40重量%を10〜30重量%とする訂正であるが、訂正前の明細書の段落【0021】には、「成分(C)のガラス繊維は10〜40重量%、好ましくは15〜35重量%、特に好ましくは20〜30重量%の割合で配合される。」と記載されているので、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内であり、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。
(3)訂正事項c
訂正事項cは、請求項の削除であるから、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内であり、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(4)訂正事項d
訂正事項dは、上記訂正事項aにおける特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
(5)訂正事項e
訂正事項eは、上記訂正事項bにおける特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
(6)訂正事項f
訂正事項fは、誤記の訂正を目的とすることは明らかであり、また、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
(7)訂正事項g
訂正事項gは、上記訂正事項a及びbにおける特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
(8)そして、訂正事項a〜gは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(9)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同上第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

[4]特許異議申立の概要
特許異議申立人 近藤武は、
甲第1号証(特開平9-188798号公報)、
甲第2号証(特開平8-157661号公報)、
甲第3号証(高木謙行 他1名編著、「プラスチック材料講座[7]ポリプロピレン樹脂」日刊工業新聞社、昭和49年7月30日発行、46〜49、56〜59頁)及び
甲第4号証(Paolo Parrini 他2名著、「Intrinsic Viscosity and Molecular Weight of Isotactic Polypropylene」MacromolChem, No.38, 1960年発行, p27〜38)
を提出して、訂正前の本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、訂正前の本件請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものであるものであり、更に、訂正前の明細書には不備があるから、訂正前の本件請求項1〜3に係る特許は明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満足していない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであると主張する。

[5]本件発明
本件特許第3321059号の訂正後の請求項1に係る発明(以下、「訂正後の本件発明1」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「下記の成分(A)〜(C)からなることを特徴とする、ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
成分(A):プロピレン単独重合体部分の密度が0.906g/cm3以上、かつ平均分子量が140,000未満であり、エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量が450,000以上であり、ブロック共重合体中に占める共重合部分の割合が12重量%未満であるプロピレン・エチレンブロック共重合体 89.9〜57重量%
成分(B):酸変性率0.8〜3重量%で、平均分子量が90,000以上である、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂 0.1〜3重量%
成分(C):ガラス繊維 10〜30重量%」

[6]当審が通知した取消理由の概要
本件請求項1及び3に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、本件請求項1及び3に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるか、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるか、又は、本件明細書の記載は、下記の点で不備であるから、本件請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものである、というものである。

刊行物1:特開平9-188798号公報
刊行物2:特開平8-157661号公報
刊行物3:高木謙行、他1名編著「プラスチック材料講座[7]ポリプロピレン樹脂」日刊工業新聞社、昭和49年7月30日発行、46〜49頁、56〜59頁
刊行物4:Paolo Parrini 他2名著、Intrinsic Viscosity and MolecularWeight of Isotactic Polypropylene、Makromol. Chem. 38, p27〜38、(1960年)

[7]刊行物の記載事項
(1)刊行物1には、
「【請求項1】下記(A)〜(C)の各成分からなることを特徴とするコンクリート型枠支持材用プロピレン系樹脂組成物。
(A)次のa重合部80〜95重量%及びb重合部5〜20重量%を有し、メルトフローレート(MFR)が1〜50g/10分であるエチレン-プロピレンブロック共重合体 100重量部 a重合部:MFR5〜100g/10分かつ密度0.9070g/cm3以上である結晶性プロピレン単独重合部 b重合部:エチレン含量30〜70重量%かつMFR0.001〜1g/10分であるエチレン-プロピレンランダム共重合部(B)繊維状フィラー 50〜130重量部(C)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性したプロピレン系重合体 0.1〜10重量部
【請求項3】繊維状フィラーが、アミノシラン、エポキシシラン又はビニルシランで表面処理されたガラス繊維である、請求項1記載の樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1及び請求項3)、
「本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良して、軽く、建設現場での取扱作業や加工作業が容易で、コンクリート剥離性に優れ、かつ耐候性や耐触性に優れ、その上、リサイクルが可能であると言った高品質のコンクリート型枠支持材を安価かつ大量に供給することにある。」(段落【0004】)、
「このa重合部及びb重合部の含有割合の測定は、プロピレン・エチレンブロック共重合体を常温キシレンの不溶分(a重合部)と可溶分(b重合部)に分離して各重量を計測することによって行われる。また、MFRの測定はJIS-K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠して為されるが、a重合部及びb重合部のMFRの値は、常温キシレン不溶分(a重合部)のMFRを測定し、次式によりb重合部のMFRを計算する方法によって求められる。
(b重合部の割合)×log(b重合部のMFR)=log(プロピレン・エチレンブロック共重合体のMFR)-(a重合部の割合)×log(a重合部のMFR)ここで、常温キシレン可溶分及び不溶分の分離は、2gの試料を沸騰キシレン300mlに20分間浸漬して溶解させた後、常温まで冷却し、G4型ガラスフィルターで濾過して分離する方法で行い、該可溶分の重量は、その濾液を蒸発乾固させた残分から求める方法に依る。また、密度の測定はJIS-K7112に準拠して為され、b重合部のエチレン含量の測定は、該常温キシレン可溶分をNMRにかけて測定される。」(段落【0008】)、
「上記a重合部の含有割合が少な過ぎる(即ち、b重合部の含有割合が多過ぎる)と剛性が低下し、逆に、多過ぎる(即ち、b重合部の含有割合が少な過ぎる)と耐衝撃性が低下する。また、a重合部のMFRが低過ぎると成形性が低下し、逆に、高過ぎる耐衝撃性、剛性が低下するばかりでなく製造時の水素濃度を高くしなければならず触媒活性が低下するので不経済となる。a重合部の密度が低過ぎると剛性が低下する。また、b重合部のエチレン含量が低過ぎても高過ぎても耐衝撃性が低下する。b重合部のMFRが低過ぎるとこの重合部の分散が悪化し成形性、外観が悪くなり、逆に、高過ぎる耐衝撃性、剛性が低下する。さらに、プロピレン・エチレンブロック共重合体全体のMFRが低過ぎると成形性が低下し、逆に、高過ぎる耐衝撃性、剛性が低下するので好ましくない。」(段落【0009】)、
「……2段階以上の重合工程で上記(A)成分のプロピレン・エチレンブロック共重合体を製造するが、通常は次の2段階で製造するのが好ましい。即ち、第1段階の重合工程で上記a重合部の結晶性プロピレン単独重合部を重合する。……また、第2段階の重合工程で上記b重合部のエチレン-プロピレンランダム共重合部を重合する。」(段落【0012】)及び
「(C)変性プロピレン系重合体
本発明で使用する上記(C)成分の変性プロピレン系重合体は、プロピレン系重合体及び不飽和カルボン酸又はその誘導体をグラフト反応条件に付して得られる変性重合体である。不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、これら酸の無水物、同エステル、同アミド、同イミド、同金属塩等を挙げることができる。なかでも特に好ましい変性プロピレン系重合体は、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体である。この変性プロピレン系重合体中の不飽和カルボン酸又はその誘導体の含量は0.1〜12(特に0.1〜10)重量%が好ましい。この様な変性プロピレン系重合体の市販品として、例えば、三洋化成(株)製のユーメックス(商品名)を挙げることができる。」(段落【0015】)と記載されている。
(2)刊行物2には、
「(a) ASTM D-1238に従って測定したメルトフローレート(MFR)が0.01〜150g/10分の範囲であり、13C-NMRで求められたメソ平均連鎖長(Nm)とMFRが、Nm≧97+29.5logMFRなる関係式を満たすプロピレン重合体20〜96.5重量%と、(b) 平均繊維径が11μm以下であるガラス繊維0.3〜42重量%と、(c) 重量平均粒子径が20μm以下であるタルク0.9〜54重量%と、(d) 変性ポリオレフィン0.5〜20重量%とからなる無機フィラー強化樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「本発明の目的は、自動車の内外装部品、家電製品用部品、農業機器用部品、理化学機器用部品等に使用するのに好適な機械強度、耐熱性、剛性、耐衝撃性、成形加工性及び表面性に優れた無機フィラー強化樹脂組成物を提供することである。」(段落【0005】)、
「[1] 無機フィラー強化樹脂組成物の各成分
(a)プロピレン重合体
(1) 物性本発明で用いるプロピレン重合体は、高結晶性ポリプロピレンであり、ホモポリマー又はブロック共重合体のいずれでもよい。……さらにプロピレン-エチレンブロック共重合体としては、ランダム部分は全ポリマー全体の3〜30重量%が好ましく、ランダム部分のエチレン含有量は25〜75重量%が好ましく、……」(段落【0007】)、
「(d) 変性ポリオレフィン
高結晶性ポリプロピレンは、その構造上塗装性等の化学的性質が劣っているが、変性ポリオレフィンを添加することにより改善することができる。変性ポリオレフィンは、マレイン酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物、アクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステル……等を変性用モノマーとして、ポリオレフィンにグラフト重合することにより得られることが知られている」(段落【0054】)、
「変性用モノマーをグラフト重合するポリオレフィンは、プロピレンのホモポリマー、プロピレンのランダムまたはブロック共重合体……等であり、特に限定されないが、機械的物性及び生産性を考慮するとプロピレンのホモポリマー……が好適である。変性用モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、2,3-ジカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸……が好ましい。」(段落【0055】)及び
「変性ポリオレフィンのメルトフローレート(MFR、230℃、荷重2.16kgで測定) は、1〜500g/10分、特に10〜200g/10分であるのが好ましく、酸グラフト率は0.01〜10重量%、特に0.1〜6.0重量%であるのが好ましい。」(段落【0057】)と記載されている。
(3)刊行物3には、
「一般には分子量の測定は、テトラリンあるいはデカリンの希薄溶液の極限粘度[η](intrinsic viscosity)の値を測定し、浸透圧あるいは光散乱による測定値との比較からすでにもとめられている粘度式にしたがって計算してもとめることが多い。粘度式は[η]=kMαの形で示され、……Parriniの式がよく用いられる。……
Parrini [η]=0.80×10-4M0.80 135℃テトラリン (3・8)」(47頁23行〜48頁5行)及び
「通常溶融時の流動性を示すためにメルトフローインデックス(MFI)が使用され、これによって加工法に適した樹脂がえらばれる。ポリプロピレンのMFIは温度230℃、荷重2.16kgで径0.095mm、長さ8mmのノズルからポリマーを流出させたときの10分間の流出量をグラム単位でもって表わす。……
MFIの場合も、したがって分子量依存性が大きくlog(MFI)と極限粘度[η]の間には図3・26のような直線関係がえられる。」(57頁8行〜58頁5行)と記載され、57頁には、0.2〜10の範囲のMFI(230℃、2.16kg)と、1.5〜3.0の範囲の〔η〕(135℃ テトラリン)との関係が示されている。
(4)刊行物4は、アイソタクチックポリプロピレンの極限粘度と分子量と題され、34頁の下から7〜4行には、135℃ テトラリンにおける極限粘度と重量平均分子量とは、[η]=0.80×10-4M0.80の関係を有する旨が記載されている。

[8]特許法第29条第2項についての判断
当審が通知した取消理由のうち、特許法第29条第2項違反について以下に検討する。
刊行物2には、(a)プロピレン重合体20〜96.5重量%、(b)ガラス繊維0.3〜42重量%、(c)重量平均分子量が20μm以下であるタルク0.9〜54重量%及び(d)変性ポリオレフィン0.5〜20重量%からなる無機フィラー強化組成物の発明が記載され、プロピレン重合体として、プロピレン-エチレンブロック共重合体が記載されている。
そこで、訂正後の本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると、両者は、プロピレン-エチレンブロック共重合体(以下、「成分(A)」という。)、変性ポリオレフィン樹脂(以下、「成分(B)」という。)及びガラス繊維からなり、その配合割合も重複する強化樹脂組成物である点で一致するが、以下の点において両者は相違する。
(1)成分(A)について、訂正後の本件発明1が、「プロピレン単独重合体部分の密度が0.906g/cm3 以上、平均分子量が140,000未満、エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量が450,000以上、ブロック共重合体中に占める共重合部分の割合が12重量%未満」と規定しているのに対し、刊行物2に記載された発明では、そのような規定がなされていない点。
(2)成分(B)について
訂正後の本件発明1が、
(2-A)不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂としているのに対し、刊行物2に記載された発明では、このようなことが明記されていない点、
(2-B)酸変性率0.8〜3重量%としているのに対し、刊行物2に記載された発明では、このようなことが明記されていない点、
(2-C)平均分子量が90,000以上であるとしているのに対し、刊行物2に記載された発明では、このようなことが明記されていない点。
(3)刊行物2に記載された発明では、更に重量平均粒子径が20μm以下であるタルクを0.9〜54重量%配合している点。
(4)刊行物2に記載された発明では、無機フィラー強化樹脂組成物としているが、訂正後の本件発明1は、ガラス繊維強化樹脂組成物としている点。
次に、これらの相違点について検討する。

相違点(1)について
刊行物1には、エチレン-プロピレンブロック共重合体100重量部、(B)ガラス繊維 50〜130重量部及び(C)不飽和カルボン酸で変性したプロピレン系重合体 0.1〜10重量部からなる組成物の発明が記載されており、エチレン-プロピレンブロック共重合体は、次の(1-A)で示すとおり、訂正後の本件発明1のプロピレン・エチレンブロック共重合体と重複するものである。
そして、刊行物1に記載された発明は、コンクリート型枠支持材用であるから、当然、相当な曲げ弾性率、衝撃強度等の機械的強度が達成できるものが示されているといえ、また、刊行物2に記載された発明も同様に機械的強度の向上が望まれる発明であり、エチレン-プロピレンブロック共重合体を主体とし、ガラス繊維及び不飽和カルボン酸で変性したプロピレン系重合体を含む樹脂組成物の発明であるから、更なる機械的強度を必要とする場合には、刊行物2に記載された発明において、刊行物1に記載されたエチレン-プロピレンブロック共重合体を用いることは当業者が容易に想到しうるものであるといえる。

(1-A)刊行物1に記載されたエチレン-プロピレンブロック共重合体と訂正後の本件発明1のエチレン-プロピレンブロック共重合体との同一性について
刊行物1には、エチレン-プロピレンブロック共重合体について、その結晶性プロピレン単独重合部は、MFR(230℃、2.16kg荷重)は5〜100g/10分で、密度は0.9070g/cm3 以上と記載され、エチレン-プロピレンランダム共重合部のMFRは0.001〜1g/10分で、エチレン-プロピレンランダム共重合部が5〜20重量%であると記載されているが、訂正後の本件発明1のように、プロピレン単独重合体部分の平均分子量が140,000未満、また、エチレン-プロピレン共重合部分の平均分子量が450,000以上と直接記載されていない。なお、訂正後の本件発明1の「平均分子量」とは、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】をみると、「重量平均分子量」を意味するものといえる。
そこで、刊行物1に記載されたエチレン-プロピレンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部分及びエチレン-プロピレン共重合部分の平均分子量について検討すると、ポリプロピレンのMFRの値から重量平均分子量の値が導き出せることが刊行物3及び4に記載されており、具体的には、刊行物3の57頁に記載された図3・26のグラフを用いてMFI(230℃、2.16kg)の値から極限粘度〔η〕(135℃ テトラリン)を求め、次に、刊行物3及び刊行物4に記載された、極限粘度〔η〕(135℃ テトラリン)と重量平均分子量との関係式(以下、「関係式」という。)に、先ほど求められた極限粘度〔η〕の値を代入することで、重量平均分子量を算出することができる。なお、刊行物3に記載されたMFIは、刊行物1に記載されたMFRと、その測定温度、荷重が同じであるから、同じ値を示すものといえる。
上述の関係を利用して、先ず、刊行物1に記載されたエチレン-プロピレンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部分のMFRの値から重量平均分子量の値を検討すると、刊行物1には、このMFR(230℃、2.16kg荷重)は5〜100g/10分と記載されていることから、MFR=50の場合についてみるために、刊行物3の図3・26のグラフを外挿すると、極限粘度〔η〕は0.94である値が導き出せるから、この値を基に刊行物3及び4に記載された関係式を用いて重量平均分子量を算出すると、その値は約12.5万となり、MFRが50より大きい値の場合は、極限粘度の値がより小さくなり、重量平均分子量の値も小さくなることは、刊行物3及び4の記載から明らかである。
そして、刊行物1には、プロピレン単独重合体部分のMFRの値が5〜100g/10分と記載されており、MFRの値が50より大きい場合には、重量平均分子量は、12.5万よりも小さいものが記載されているといえるから、刊行物1には、プロピレン単独重合体部分の重量平均分子量が140,000未満である訂正後の本件発明1の重量平均分子量も含んだものが記載されているといえる。
次に、刊行物1に記載されたエチレン-プロピレンブロック共重合体のエチレン-プロピレンランダム共重合部のMFRの値から重量平均分子量の値を検討するが、訂正後の本件発明1のエチレン・プロピレン共重合部分は、エチレンの共重合量の規定がなされていないので、プロピレン由来の構造を極めて高い割合で含むプロピレン単独重合体の場合もあるといえ、その場合は、訂正後の本件発明1のエチレン・プロピレン共重合部分は、プロピレン単独重合体と極めて化学構造が類似しているといえる。化学構造が極めて類似していれば、その物理的性質であるMFRの値、MFRと極限粘度の関係、極限粘度と分子量との関係についても、ほぼ同様の結果が導けるといえ、格段に異なる結果になるということもない。したがって、エチレン-プロピレンランダム共重合部のMFRから重量平均分子量の値を算出する場合は、プロピレン単独重合体部分で算出した方法と同様の方法で行うことができる。
そこで、刊行物1に記載されたエチレン-プロピレンブロック共重合体のエチレン-プロピレンランダム共重合部のMFR(230℃、2.16kg荷重)をみると、0.001〜1g/10分と記載されていることから、MFR=0.2の場合についてみると、刊行物3の図3・26のグラフから、極限粘度〔η〕の値は3.07である値が導き出され、この値を基に重量平均分子量を算出すると、その値は約54万となり、MFRが0.2より小さい値の場合は、極限粘度の値がより大きくなり、重量平均分子量の値も大きくなることは、刊行物3及び4の記載から明らかである。
そして、刊行物1には、エチレン-プロピレン共重合部分のMFRの値が0.001〜1g/10分と記載されており、MFRの値が0.2より小さい場合には、重量平均分子量は、54万よりも大きいものが記載されているといえるから、刊行物1には、エチレン-プロピレン共重合部分の重量平均分子量が450,000以上である訂正後の本件発明1の重量平均分子量も含んだものが記載されているといえる。
以上のとおり、刊行物1のエチレン-プロピレンブロック共重合体は、訂正後の本件発明1のプロピレン・エチレンブロック共重合体である、プロピレン単独重合体部分の密度が0.906g/cm3以上、かつ平均分子量が140,000未満であり、エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量が450,000以上であり、ブロック共重合体中に占める共重合部分の割合が12重量%未満であるプロピレン・エチレンブロック共重合体と重複するものを含んだものである。

相違点(2-A)について
刊行物2には、変性する前のポリオレフィンとして、ポリプロピレンが記載され、変性用モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、2,3-ジカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸が記載されているから、刊行物2には、変性ポリオレフィンとして、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂が記載されているといえ、この点において両者に差異があるとはいえない。

相違点(2-B)について
刊行物2には、変性ポリオレフィンの酸グラフト率は0.01〜10重量%と記載されており、この酸グラフト率は、酸変性率と同じ技術内容を示すものであるといえるから、刊行物2には、酸変性率が訂正後の本件発明1と同じ範囲が記載されており、この点において両者に差異はない。

相違点(2-C)について
刊行物2には、成分(B)のMFRの値が記載されているので、このMFRの値から重量平均分子量の値を検討するが、刊行物2に記載されている成分(B)の酸グラフト率は、0.01〜10重量%と記載され、この割合が小さい時には、ポリプロピレンと極めて化学構造が類似しているといえる。化学構造が極めて類似していれば、その物理的性質であるMFRの値、MFRと極限粘度の関係、極限粘度と分子量との関係についても、ほぼ同様の結果が導けるといえ、格段に異なる結果になるということもない。したがって、成分(B)のMFRから重量平均分子量の値を算出する場合は、プロピレン単独重合体部分で算出した方法と同様の方法で行うことができる。
刊行物2には、変性ポリオレフィンのメルトフローレート(MFR、230℃、荷重2.16kgで測定) は、1〜500g/10分と記載されていることから、MFR=50の場合についてみるために、刊行物3に記載された図3・26のグラフを外挿すると、極限粘度〔η〕は0.94である値が導き出され、この値を基に、重量平均分子量の値を算出すると、その値は約12.5万となり、MFRが50より小さい値の場合は、極限粘度の値がより大きくなり、重量平均分子量の値も大きくなることは、刊行物3及び4の記載から明らかである。
そして、刊行物2には、成分(B)のMFRの値が1〜500g/10分と記載されており、MFRの値が50より小さい場合には、重量平均分子量は、12.5万よりも大きいものが記載されているといえるから、刊行物2には、成分(B)の重量平均分子量が90,000以上である訂正後の本件発明1の重量平均分子量も含んだものが記載されているといえる。
よって、この点において両者に差異はない。

相違点(3)について
本件訂正明細書の発明の詳細な説明中、段落【0020】には、
「本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物において用いられる改質材としては、……フィラー等の汎用されている改質材の微粒子や液状物が挙げられる。」と記載されており、改質剤として用いられるフィラーには、タルクが含まれることは、当該技術分野では周知技術であるといえるから、この点において、訂正後の本件発明1と刊行物2に記載された発明との間に差異はない。

相違点(4)について
樹脂組成物に配合されるガラス繊維は、機械的強度等のために使用されることは当該技術分野において周知技術であるから、刊行物2に記載された発明の樹脂組成物において、ガラス繊維が機械的強度の向上のために使用されていることは明らかである。そうすると、刊行物2に記載された発明において、無機フィラー強化樹脂組成物をガラス繊維強化樹脂組成物とすることは当業者にとり格別のこととはいえない。
また、効果の点を検討するに、刊行物1には、a重合部のMFRが低すぎると成形性が低下し、密度が低過ぎると剛性が低下し、b重合部のMFRが高すぎると耐衝撃性、剛性が低下する旨の記載がなされており、これは、プロピレン単独重合体部分の平均分子量が大きすぎると成形性が低下し、密度が低過ぎると剛性が低下し、エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量が小さすぎると耐衝撃性、剛性が低下することを示しているといえ、訂正後の本件発明1の効果を示唆しているといえるので、訂正後の本件発明1の効果を格別顕著な効果を奏するということはできない。
よって、訂正後の本件発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるといえる。

[9]むすび
以上のとおりであるから、訂正後の本件発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正後の本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、訂正後の本件発明1についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】下記の成分(A)〜(C)からなることを特徴とする、ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
成分(A):プロピレン単独重合体部分の密度が0.906g/cm3以上、かつ平均分子量が140,000未満であり、エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量が450,000以上であり、ブロック共重合体中に占める共重合部分の割合が12重量%未満であるプロピレン・エチレンブロック共重合体 89.9〜57重量%
成分(B):酸変性率0.8〜3重量%で、平均分子量が90,000以上である、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂 0.1〜3重量%
成分(C):ガラス繊維 10〜30重量%
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、射出成形性に優れ、引張強度と低温面衝撃強度が共に高いガラス繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリプロピレン系樹脂は機械的性質と電気及び化学的安定性に優れており、又、成形加工が容易なことから、工業部品用途に広く使用されている。更に機械的強度と耐熱性を高めるために、ガラス繊維を配合した組成物としても使用されている。しかし、ガラス繊維を配合した場合、機械的強度、剛性及び耐熱性が高くなる一方で、耐衝撃性が低下し、かつ成形加工性が低下する問題が発生する。従って、この問題の解決のためにアミノシラン等のカップリング剤で表面処理したガラス繊維を用いたり、不飽和カルボン酸等により変性したポリプロピレン系樹脂を添加する(特公昭51-40896号公報参照)等してポリプロピレン系樹脂とガラス繊維の接着性を高めようしているが、衝撃強度(特に面衝撃強度)を改良するまでに至っていない。更に、接着性を高めたため、溶融時の流動性が低下し、成形性が悪化する問題があり、未だ解決されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は成形性に優れ、引張強度等の機械的強度及び衝撃強度(特に低温面衝撃強度)が共に高いガラス繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の性状の樹脂を組み合わせた樹脂組成物にガラス繊維を配合することにより、成形性に優れ、引張強度と低温面衝撃強度が共に高いガラス繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物が得られるとの知見に基づき本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、下記の成分(A)〜(C)からなることを特徴とするものである。
成分(A):プロピレン単独重合体部分の密度が0.906g/cm3以上、かつ平均分子量が140,000未満であり、エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量が450,000以上であり、ブロック共重合体中に占める共重合部分の割合が12重量%未満であるプロピレン・エチレンブロック共重合体 89.9〜57重量%
成分(B):酸変性率0.8〜3重量%で、平均分子量が90,000以上である、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂 0.1〜3重量%
成分(C):ガラス繊維 10〜30重量%
【0005】
【発朗の実施の形態】
[I]ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物(1)構成成分本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、下記の成分(A)〜(C)から主として構成されている。
(A)プロピレン・エチレンブロック共重合体[成分(A)]
成分(A)のプロピレン・エチレンブロック共重合体としては、下記物性を備えていることが重要である。
【0006】
(a)密度
プロピレン単独重合体部分の密度が0.906g/cm3以上、好ましくは0.9065g/cm3以上、特に好ましくは0.907〜0.908g/cm3のものが使用される。プロピレン単独重合体部分の密度が上記範囲未満であると、強度、剛性が低くなり、共重合部分に伴う強度、剛性及び耐熱性の低下を補うことができない。上記プロピレン単独重合体部分の密度は、キシレン溶媒分別後のプロピレン単独重合体部分をプレス成形し、JIS-K7112に準拠して測定した。
【0007】
(b)分子量
プロピレン単独重合体部分の平均分子量(重量平均分子量)が140,000未満、好ましくは135,000未満、特に好ましくは110,000〜130,000のものが使用される。プロピレン単独重合体部分の平均分子量が上記範囲以上であると、流動性が低く、成形性が悪化する。上記プロピレン単独重合体部分の平均分子量(重量平均分子量)は、キシレン溶媒分別後のプロピレン単独重合体部分の130℃オルトジクロロベンゼン溶媒でのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。また、エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量が450,000以上、好ましくは460,000以上、特に好ましくは460,000〜900,000のものが使用される。エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量が上記範囲未満であると、衝撃特性の改良効果が乏しくなる。上記エチレン・プロピレン共重合部分の平均分子量(重量平均分子量)は、キシレン溶媒分別後のエチレン・プロピレン共重合部分の130℃オルトジクロロベンゼン溶媒でのゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。
【0008】
(c)構成割合
ブロック共重合体中に占めるエチレン・プロピレン共重合部分の割合が12重量%未満、好ましくは10重量%未満、特に好ましくは6〜9重量%のものが使用される。ブロック共重合体中に占めるエチレン・プロピレン共重合部分の割合が上記範囲以上であると、強度、剛性及び耐熱性の低下が著しい。上記ブロック共重合体中に占めるエチレン・プロピレン共重合部分の割合は、ブロック共重合を130℃のキシレンに溶解し、0℃に冷却後、キシレンに溶解している分率によって測定した。
【0009】
(B)不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂[成分(B)]
成分(B)の不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂を不飽和カルボン酸により変性したものである。上記変性は、通常、ポリプロピレン系樹脂と不飽和カルボン酸を有機過酸化物を用いて押出機中で混練することにより、ポリプロピレン系樹脂に不飽和カルボン酸をグラフト共重合することによって行われ、酸変性率が0.8〜3重量%、好ましくは1.0〜2.5重量%のものである。該不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂は、平均分子量が90,000以上、好ましくは100,000〜200,000のものが使用される。上記酸変性率が上記範囲未満であると、ガラス繊維とプロピレン・エチレンブロック共重合体との接着性を高めるために不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂を多量に添加する必要があり、機械的強度の低下を招くので好ましくない。一方、上記範囲を超過すると不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂の分子量が低くなり、衝撃強度が低下するので好ましくない。また、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂の分子量が上記範囲未満であると得られるガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の衝撃強度の低下が生じるので好ましくない。
【0010】
ポリプロピレン系樹脂
上記不飽和カルボン酸の変性に用いられるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン、ブテン等の炭素数が20以下のα-オレフィンとの共重合体であり、具体的には、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体等を挙げることができる。これらの中でもプロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体を使用することが好ましく、特にエチレン含量が0〜6重量%のプロピレン重合体を使用することが好ましい。
【0011】
不飽和カルボン酸
上記不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等を挙げることができ、更に、これらの酸無水物も使用することができる。これらの中でも無水マレイン酸を用いることが好ましい。
【0012】
有機過酸化物
上記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、α,α′-ビス(t-ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド等を挙げることができる。
【0013】
(C)ガラス繊維[成分(C)]
本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物において用いられるガラス繊維としては、ガラスチョップドストランドを用いるのが一般的であり、これらチョップドストランドの長さは、通常3〜50mm、繊維の径は3〜25μm程度、好ましくは8〜14μmのものである。このガラスチョップドストランドはシラン系化合物による表面改質及びポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、エポキ樹脂若しくはオレフィン系成分等の集束剤等による表面処理を施したものを用いることが好ましい。
【0014】
シラン系化合物(表面改質剤)
シラン系化合物としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、Y-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(2,4-エポキシシクロヘキシル)エトキシメトキシシラン、Y-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、Y-アミノプロピルトリエトキシシラン、Y-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-Y-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0015】
オレフィン系成分(集束剤)
オレフィン系成分としては、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン、又はポリオレフィン低分子量物等が挙げられる。不飽和カルボン酸は上述のものを挙げることができ、ポリオレフィン低分子量物としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、プロピレン・エチレンブロック共重合体、エチレン・ブチレン共重合体、エチレン・ペンテン共重合体の等低分子量物を挙げることができる。
【0016】
(D)その他の配合剤(任意成分)
上記必須成分の他に、任意成分として酸化防止剤、光安定剤、着色剤を含有させることが好ましい。
酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2′-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、6-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシアニリノ)-2,4-ビス-オクチルチオ-1,3,5-トリアジン等のフェノール系酸化防止剤;ジ-ラウリル-チオ-ジ-プロピオネート、ジ-トリデシル-チオ-ジ-プロピオネート、ジ-ステアリル-チオ-ジ-プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス-(β-ラウリル-チオプロピオネート)等の硫黄系酸化防止剤;トリス(イソデシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、フェニル-ジ-イソオクチルホスファイト、フェニル-ジ-トリデシルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニル-ビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト等の燐系酸化防止剤を挙げることができる。
【0017】
光安定剤
光安定剤としては、例えば、フェニル-4-ピペリジルカルボネート、ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレートとβ,β,β′,β′-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレートとの混合物等のヒンダードアミン系化合物を挙げることができる。
【0018】
着色剤
着色剤としては、グンジョウ、カドミウムイエロー、ベンガラ、クロムイエロー、鉛白、チタン白、カーボンブラック、アンバー等の無機顔料や、アゾ系、トリフェニルメタン系、キノリン系、アントラキノン系、フタロシアニン系、その他の有機顔料等のプラスチック材料の着色に汎用されている顔料の微粒子や液体中に分散させた分散液等が挙げられる。これらの中でも、チタン白、ベンガラ、フタロシアニン系顔料を用いることが好ましい。これらの顔料を熱可塑性樹脂中に高濃度で含ませた微粒子状マスターバッチとして用いることもできる。
【0019】
(E)その他の添加剤及び改質材(任意成分)
上記配合剤の他に、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、任意成分として、下記の添加剤及び改質材を配合することができる。
添加剤
本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物において用いられる添加剤としては、滑剤、中和剤、加工安定剤、紫外線吸収剤、耐熱性改良剤、耐候性改良剤、帯電防止剤、金属不活性剤、難燃剤、界面活性剤、防黴剤等の汎用されている添加剤の微粒子や液状物が挙げられる。これらの添加剤を熱可塑性樹脂中に高濃度で含ませた微粒子状マスターバッチとして用いることもできる。
【0020】
改質材
本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物において用いられる改質材としては、流動性改良剤、耐衝撃性改良材、ポリマーと強化繊維界面との改質剤、発泡剤、架橋剤、フィラー等の汎用されている改質材の微粒子や液状物が挙げられる。これらの添加剤を熱可塑性樹脂中に高濃度で含ませた微粒子状マスターバッチとして用いることもできる。
【0021】
(2)配合量比成分
(A)のプロピレン・エチレンブロック共重合体は89.9〜57重量%、好ましくは84.5〜62.5重量%、特に好ましくは79〜68重量%であり、成分(B)の不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂は0.1〜3重量%、好ましくは0.5〜2.5重量%、特に好ましくは1〜2重量%であり、成分(C)のガラス繊維は10〜40重量%、好ましくは15〜35重量%、特に好ましくは20〜30重量%の割合で配合される。成分(B)の不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂の配合割合が上記範囲未満であると分散性が悪いため、プロピレン・エチレンブロック共重合体とガラス繊維の接著性が低く、機械的強度が不十分となる。また、上記範囲を超過しても機械的性能はそれ以前に飽和に達しており、逆に強度の低下が発生するし、経済性に不利である。また、ガラス繊維が上記範囲未満であるとガラス繊維の補強効果が乏しく、十分な機械的強度が得られない。また、上記範囲を超過してもガラス繊維補強効果が飽和に達し、経済性に欠ける。また、上記任意成分として配合される酸化防止剤、耐光安定剤、着色剤の添加物の配合量は、一般に成分(A)〜(C)からなるガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の合計量100重最部に対して、一般にそれぞれ0.02〜0.3重量部程度であることが好ましい。
【0022】
[II]ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造
本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、上記成分(A)〜(C)を混合する公知の種々の方法により製造することができるが、通常、上記成分(A)〜(C)を二軸押出機等の混練機により溶融・混練する方法や、プロピレン・エチレンブロック共重合体の粉粒体及び不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂の粉粒体と、一定長さ(3〜50mm程度)のガラス繊維を攪拌して、乾式分散法や湿式分散法(湿式抄造法)等により均一に混合・分散させて不織布状のウェブを形成する方法等がある。これらの中でも二軸押出機等の混練機を用いて溶融・混練して製造する方法が好ましい。具体的には、ホッパーより計量混合したプロピレン・エチレンブロック共重合体と不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂及び必要により添加剤を投入し、溶融混合分散が進んだ下流側にてガラス繊維をサイドフィーダーにより強制投入して、更に、均一に混練した後、ストランド状に押し出し、冷却後、ペレットにカットすることにより得られる。
【0023】
[III]ガラス繊維強化複合材料
このようにして得られたガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、ガラス繊維強化複合材料として用いて射出成形等の常用の成形法によってガラス繊維強化複合成形品が得られる。
【0024】
【実施例】
以下に示す実験例によって、本発明を更に具体的に説明する。
[I]評価方法評価は、JIS1号引張試験片と120×120×2mmの平板に射出成形したものを用いた。
(1)密度:JIS-K7112に準拠した。
(2)引張強度:JIS-K7113に準拠した。
(3)低温面衝撃強度:120×120×2mmの平板を穴径40mmψのサポート上に置き、直径20mmψの圧力センサーを取り付けた重さ4kgの錘を高さ2mから自然落下させ、その時の歪み-外力曲線から、衝突から破壊開始までのエネルギー吸収量を算出し、これを面衝撃強度の値とした。測定温度は-30℃であった。
(4)MFR:JIS K-7210(温度230℃、荷重2.16kg)に準拠した。
(5)成形性:120mm×120mm×2mmの平板を射出成形する際の成形性を下記の基準により判定した。
AA:流動性が高く、通常のポリプロピレン樹脂成形条件で成形することができる。また、外観品質も優れている。
A:流動性が高く、通常のポリプロピレン樹脂成形条件で成形することができる。
B:流動性は若干低いが、高温下でのポリプロピレン樹脂成形条件で成形することができる。
C:流動性が低く、高温高圧下でないと成形することができない。
【0025】
[II]実施例及び比較例(1)
原材料成分(A):プロピレン・エチレンブロック共重合体BPP-1〜BPP-7:プロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂HPP-1:プロピレン単独重合体樹脂
【0026】
【表1】

【0027】
成分(B):不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂
変性PP-1〜変性PP-3:不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂
【0028】
【表2】

【0029】
成分(C):ガラス繊維
GF-1〜GF-3:ガラス繊維
【0030】
【表3】

【0031】
実施例1〜6、参考例1〜4及び比較例1〜8
(1)ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の製造表1及び表2に示す性状のプロピレン・エチレンブロック共重合体、及び、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂を表4及び表5に示す割合で計量し、更に酸化防止剤としてチバガイギー社製IRGANOX1010 0.15重量部、チバガイギー社製IRGAFOS168 0.05重量部を秤量し、ヘンシェルミキサーを用いて予備混合した。これを重量フィーダーにて流量制御し、ホッパー口から二軸押出機へ投入した。溶融渡合・分散が進んだ下流部に表3に示すガラス繊維を重量フィーダーで流量制御し、サイドフィーダーを用いて強制的に投入して、更に、均一に混練した後、ストランド状に押し出し、冷却後、ペレットにカットすることによりガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を製造した。
【0032】
(2)評価
このガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形機で120mm×120mm×2mmの平板を成形し、得られたガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物の評価を行った。その測定した結果を表4及び表5に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
【発明の効果】
本発明のガラス繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物は、射出成形性に優れ、引張強度と低温面衝撃強度が共に高いガラス繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物である。従って、薄肉、大型の射出成形品を成形でき、機械的強度と衝撃強度を兼ね備えた、自動車部品、家電部品、OA機器部品、住宅建材部品等の工業部品材料として好適に使用することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-02 
出願番号 特願平9-349491
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 谷口 浩行
特許庁審判官 中島 次一
佐藤 健史
登録日 2002-06-21 
登録番号 特許第3321059号(P3321059)
権利者 日本ポリケム株式会社
発明の名称 ガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物  
代理人 小島 隆  
代理人 小島 隆  

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