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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C09J 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C09J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J |
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管理番号 | 1101090 |
異議申立番号 | 異議2001-73395 |
総通号数 | 57 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-06-04 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-12-18 |
確定日 | 2004-05-31 |
異議申立件数 | 4 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3178279号「接着剤付きポリイミドフィルムおよび積層体」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3178279号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3178279号は、平成6年11月18日に出願され、平成13年4月13日にその特許権の設定登録がなされ、その後、東レ株式会社、東レ・デュポン株式会社、小林壮次、及び鐘淵化学工業株式会社より特許異議の申立てがあり、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年6月3日付けで訂正請求がなされ、さらに取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年3月19日付けで新たな訂正請求がなされるとともに先の訂正請求が取り下げられたものである。 II.訂正の適否 1.訂正事項 本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。 〔訂正事項a〕 発明の名称の、 「【発明の名称】接着剤付きポリイミドフィルムおよび積層体」との記載を、 「【発明の名称】接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法および積層体の製造方法」と訂正する。 〔訂正事項b〕 特許請求の範囲の請求項1の、 「【請求項1】ポリマーが芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり弾性率が400kg/mm2以上であって厚み5〜125μmのポリイミドフィルム及び、その片面に設けた厚み4〜60μmの接着剤について、各々接触式測定法によって測定した厚みと各々の弾性率とを下記の式によって関係付けた、Xが0.7以上であるとの条件を満足させることを特徴とする接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2)]」との記載を、 「【請求項1】ポリマーが芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり弾性率が400kg/mm2以上であって厚み10〜125μmのポリイミドフィルム及び、その片面に設けた厚み4〜60μmの耐熱性の熱硬化性接着剤について、1)接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた、硬化後の接着剤の弾性率が80〜220kg/mm2であり、2)各々接触式測定法によって測定した厚みと各々の弾性率とを下記の式によって関係付けた、Xが0.7以上4.1以下であるとの条件を満足させることを特徴とする接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2)]」と訂正する。 〔訂正事項c〕 特許請求の範囲請求項4を削除し、請求項5を新たな請求項4として項番号を繰り上げる。 〔訂正事項d〕 明細書段落【0006】の、 「【0006】すなわち、この発明は、ポリマーが芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり弾性率が400kg/mm2以上であって厚み5〜125μmのポリイミドフィルム及び、その片面に設けた厚み4〜60μmの接着剤について、各々接触式測定法によって測定した厚みと各々の弾性率とを下記の式によって関係付けた、Xが0.7以上であるとの条件を満足させることを特徴とする接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2)] 前記において、ポリイミドフィルムおよび接着剤の厚みは接触式測定法により測定した値である。」との記載を、 「【0006】【課題を解決するための手段】すなわち、この発明は、ポリマーが芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり弾性率が400kg/mm2以上であって厚み10〜125μmのポリイミドフィルム及び、その片面に設けた厚み4〜60μmの耐熱性の熱硬化性接着剤について、1)接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた、硬化後の接着剤の弾性率が80〜220kg/mm2であり、2)各々接触式測定法によって測定した厚みと各々の弾性率とを下記の式によって関係付けた、Xが0.7以上4.1以下であるとの条件を満足させることを特徴とする接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2)] 前記において、ポリイミドフィルムおよび接着剤の厚みは接触式測定法により測定した値である。」と訂正する。 〔訂正事項e〕 明細書段落【0023】の、 「この発明の接着剤付きポリイミドフィルムは、前記の弾性率が400kg/mm2以上である厚み5〜125μmのポリイミドフィルムと、その片面に設けた厚み4〜60μmの接着剤とからなり、下記式によって規定されるXが0.7以上、好ましくは0.7以上4.1以下である接着剤付きポリイミドフィルムである。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2)] 前記の式で規定されるXが0.7より小さいと、接着剤付きポリイミドフィルムの反りが大きくなるので望ましくない。」との記載を、 「この発明の接着剤付きポリイミドフィルムは、前記の弾性率が400kg/mm2以上である厚み10〜125μmのポリイミドフィルムと、その片面に設けた厚み4〜60μmの耐熱性の熱硬化性接着剤とからなり、接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた、硬化後の接着剤の弾性率が80〜220kg/mm2であり、下記式によって規定されるXが0.7以上4.1以下である接着剤付きポリイミドフィルムである。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2)] 前記の式で規定されるXが0.7より小さいと、接着剤付きポリイミドフィルムの反りが大きくなるので望ましくない。」と訂正する。 〔訂正事項f〕 明細書段落【0036】、【0037】、【0038】、【0040】、【0042】、【0044】、【0047】、及び【0048】の、 「引張弾性率」との記載を、それぞれ「弾性率」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正事項bは、訂正前の特許請求の範囲請求項1において、ポリイミドフィルムの厚みの下限値を「5」から「10」に訂正し、「接着剤」が「耐熱性の熱硬化性接着剤」であることを特定するとともに「接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた、硬化後の接着剤の弾性率が80〜220kg/mm2であ」ることを特定し、さらに「X」の上限値を「4.1以下」と特定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。またこの訂正は、訂正前の明細書段落【0018】、【0023】、及び実施例1及び比較例3(【表1】参照)の記載により支持されており、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 訂正事項cは特許請求の範囲請求項4を削除し、請求項5を新たな請求項4とするものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであり、またこの訂正は、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 訂正事項aは、特許請求の範囲の記載と発明の名称を整合させるものであり、また訂正事項d及びeは、特許請求の範囲の訂正によって生じた明細書の記載中の不整合部分を訂正後の特許請求の範囲の記載に合わせて訂正するものであり、さらに訂正事項fは、実施例における「引張弾性率」との記載を【表1】の記載に合わせて「弾性率」と訂正するものであるから、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そしてこれらの訂正は、いずれも新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 なお、訂正事項b、d、eにおいて記号T1、T2、E1、E2がそれぞれT1、T2、E1、E2に変更されているが、これは単なる表記上の変更と認められるので、訂正事項には含まれないものとする。 3.訂正の適否の結論 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.特許異議の申立てについて 1.本件発明 上記のとおり訂正が認められるので、本件請求項1ないし4(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」という)に係る発明は、訂正後の明細書の特許請求の範囲請求項1ないし4に記載された以下のとおりである。 「【請求項1】ポリマーが芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり弾性率が400kg/mm2以上であって厚み10〜125μmのポリイミドフィルム及び、その片面に設けた厚み4〜60μmの耐熱性の熱硬化性接着剤について、1)接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた、硬化後の接着剤の弾性率が80〜220kg/mm2であり、2)各々接触式測定法によって測定した厚みと各々の弾性率とを下記の式によって関係付けた、Xが0.7以上4.1以下であるとの条件を満足させることを特徴とする接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2) 【請求項2】接着剤の厚みが4〜20μmである請求項1記載の接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法。 【請求項3】ポリマーが芳香族ジアミン成分としてp-フェニレンジアミン50モル%以上および4,4-ジアミノジフェニルエーテル50モル%以下からなるものである請求項1記載の接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法。 【請求項4】請求項1に記載の製造方法による接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤に、さらに金属箔を積層することを特徴とする積層体の製造方法。」 2.申立ての理由の概要 (1)特許異議申立人東レ株式会社は、証拠として下記の甲第1号証及び甲第2号証並びに参考資料1ないし3を提出し、訂正前の本件請求項1ないし5に係る発明は、甲第2号証及び参考資料1ないし3を勘案すれば、本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号あるいは第2項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、したがって訂正前の本件請求項1ないし5に係る発明の特許は、特許法第113号第2号の規定により取り消すべきものであると主張している。 記 甲第1号証:特開平5-148458号公報(以下、「刊行物1」という) 甲第2号証:東レ株式会社 電子材料技術部部長 木梨隆夫による平成13 年10月31日付け実験報告書(以下、「報告書1」という) 参考資料1:ASTM D882(以下、「参考資料1」という) 参考資料2:油化シェルエポキシ株式会社カタログ「エポキシ樹脂 エピコ ート」、1988年9月(以下、「参考資料2」という) 参考資料3:エレクトロニクス実装学会誌Vol.4 No.6(2001 )「熱硬化性樹脂の基礎」、第540頁及び図8(以下、「参 考資料3」という) (2)特許異議申立人東レ・デュポン株式会社は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、訂正前の本件請求項1、2、4、5に係る発明は、甲第2号証ないし甲第4号証を勘案すれば、本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1号証に実質的に記載された発明であるか、甲第1号証ないし甲第4号証に記載から当業者が容易に想到できるものであるから、特許法第29条第1項第3号あるいは第2項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、したがって訂正前の本件請求項1、2、4、5に係る発明の特許は、特許法第113号第2号の規定により取り消すべきものであると主張している。 記 甲第1号証:特開平6-302652号公報(以下、「刊行物2」という) 甲第2号証:宇部興産株式会社カタログ「ユーピレックス-S」(以下、 「参考資料4」という) 甲第3号証:平成6年特許願第285597号審判請求書(平成12年6月 27日受付)(以下、「参考資料5」という) 甲第4号証:特開平5-263049号公報(以下、「刊行物3」という) (3)特許異議申立人小林壮次は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、訂正前の本件請求項1ないし5に係る発明は、甲第2号証ないし甲第4号証を勘案すれば、本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、したがって訂正前の本件請求項1ないし5に係る発明の特許は、特許法第113号第2号の規定により取り消すべきものであると主張している。 記 甲第1号証:特開平6-181240号公報(以下、「刊行物4」という) 甲第2号証:畑田賢造著「TAB技術入門」、1990年1月25日、株式 会社工業調査会発行、第60頁(以下、「刊行物5」という) 甲第3号証:宇部興産株式会社カタログ「ユーピレックス-S」(上記「参 考資料4」と同じ) 甲第4号証:(株)三井化学分析センター 横山昭による2001年12月 4日付け結果報告書(以下、「報告書2」という) (4)特許異議申立人鐘淵化学工業株式会社は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第7号証並びに参考資料1を提出し、訂正前の本件請求項1ないし5に係る発明は、甲第5号証ないし甲第7号証及び参考資料1を勘案すれば、本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載された発明であるか、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号あるいは第2項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、したがって訂正前の本件請求項1ないし5に係る発明の特許は、特許法第113号第2号の規定により取り消すべきものであると主張している。 記 甲第1号証:特開平5-148458号公報(上記「刊行物1」と同じ) 甲第2号証:特開平6-181240号公報(上記「刊行物4」と同じ) 甲第3号証:特開平6-73349号公報(以下、「刊行物6」という) 甲第4号証:特開平6-73348号公報(以下、「刊行物7」という) 甲第5号証:宇部興産株式会社カタログ「ユーピレックス-S」(上記「参 考資料4」と同じ) 甲第6号証:松下電器産業(株)編「TAB技術のすべて」、1994年5 月18日、株式会社産業科学システムズ発行、第26頁表3. 4、第32頁(以下、「参考資料6」という) 甲第7号証:沼倉研史著「フレキシブル基板の機能設計」、昭和62年1月 1日、株式会社情報調査会発行、第54頁(以下、「刊行物8 」という) 参考資料1:鐘淵化学工業株式会社 金城永泰による平成13年12月8日 付け実験成績証明書(以下、「報告書3」という) (5)当審において通知した第1回目の取消しの理由の趣旨は、訂正前の本件請求項1ない請求項5に係る発明は、上記刊行物1、2、4、6、7にそれぞれ記載された発明であるか、あるいは、上記刊行物1ないし4、6、7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明は特許法第29条第1項あるいは第2項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、よってこれらの発明の特許は取り消すべきものである、というものであって、上記異議申立人の(1)ないし(4)の主張と概略同じである。 また、当審において通知した第2回目の取消しの理由の趣旨は、本件出願は明細書の記載に不備が記載あるため、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない、というものである。 3.刊行物等の記載 刊行物1には、「3,3′,4,4′ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物15〜40mol%、ピロメリット酸二無水物及びその誘導体から選択される少なくとも1種10〜35mol%、直線性ジアミン10〜45mol%、屈曲性ジアミン5〜40mol%を全酸無水物化合物と全ジアミン化合物のモル量が概ね等しくなるように反応させて得られたポリアミック酸共重合体を脱水閉環して得られるポリイミドフィルム上に、接着剤層及び保護層を設けてなるTAB用テープ。」が記載されており(特許請求の範囲請求項1)、実施例1には、ポリイミドフィルム(厚さ約75ミクロン、弾性率710kg/mm2)上にビスフェノールA型エポキシ樹脂(E1001/油化シェルエポキシ社製)50部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(180H65/油化シェルエポキシ社製)10部、ポリアミド樹脂(M1276/日本リルサン社製)40部、ジアミノジフェニルスルフォン7部、ジシアンジアミド2部、トルエン35部、イソプロピルアルコール15部からなる接着剤(乾燥後の厚さ約20μm)を設けたTABテープが記載され(明細書段落【0022】【0023】【表1】参照)、実施例2には、ポリイミドフィルム(厚さ約25μm、弾性率670kg/mm2)上に実施例1と同じ接着剤を設けたTABテープが記載されている(明細書段落【0024】【0025】【表1】参照)。 刊行物2には、耐熱性フィルム、ポリイミド系接着剤および銅箔をこの順に積層してなるTAB用銅貼りテープの製造方法が記載されており(特許請求の範囲参照)、実施例1にはPI系接着剤を耐熱性フィルム“ユーピレックス”75μm(宇部興産(株))上に塗布し、乾燥後の膜厚が12μmであったことが記載されている(明細書段落【0027】参照)。 刊行物3には、特定のポリイミドフィルム上に接着剤層及び保護層を設けてなるTAB用テープが記載されており(特許請求の範囲請求項1参照)、ポリイミドフィルムの厚みが25〜180μm程度、好ましくは50〜125μmであること(明細書段落【0026】参照)、接着剤の最終膜厚が10〜40μm、好ましくは15〜30μmであること(明細書段落【0029】参照)が記載されている。また実施例1において用いられているポリイミドフィルムが厚さ約75μm、弾性率710kg/mm2であることが記載されている(明細書段落【0032】【表1】参照)。 刊行物4には、有機絶縁フィルムと特定成分の接着剤を積層してなるTAB用接着剤付きテープが記載されており(特許請求の範囲請求項1参照)、実施例1には、厚さ75μmのポリイミドフィルム(宇部興産製“ユーピレックス”75S)に、ポリアミド樹脂(Unichema社製ナイロン6・36“PRIADIT”2053、ダイマー酸とヘキサメチレンジアミンが主成分、重量平均分子量10万、175℃でのMI値10gr/分)100重量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(油化シェル社製Ep604)60重量部、熱硬化型アルキルフェノール樹脂(群栄化学社製PS2780)40重量部、4,4′-ジアミノジフェニルメタン5重量部からなる組成物を固形分濃度20重量%となるようにメタノール/モノクロルベンゼン混合液に溶解した後、得られた接着剤溶液を乾燥膜厚が18μmとなるように塗布し、エヤオーブンを使用し100℃で1分、150℃で2分乾燥して接着剤付きポリイミドフィルムを得、これに厚さ35μmの電解銅箔をロールラミネート法によって張り合わせ、エヤオーブン中で、80℃×3時間、100℃×5時間、150℃×5時間の条件で加熱処理し接着剤を硬化させたことが記載されている(明細書段落【0035】【0036】参照)。 刊行物5には樹脂テープに係る記述があり、ユーピレックスがビフェニールテトラカルボン二無水物(BPDA)とジアミンを原料とし、溶液重合で形成させるものであることが記載されている(第59頁下から8行〜下から7行、第60頁図4.12参照)。 刊行物6には、有機絶縁フィルムと特定成分の接着剤を積層してなるTAB用接着剤付きテープが記載されており(特許請求の範囲請求項1参照)、実施例1には、厚さ75μmのポリイミドフィルム(宇部興産製“ユーピレックス”75S)に、ポリアミド樹脂(Unichema社製ナイロン6・36“PRIADIT”2053、ダイマー酸とヘキサメチレンジアミン主要成分としてなるポリアミド、重量平均分子量10万、175℃でのMI値10gr/分)100重量部、エポキシ樹脂(油化シェル社製“エピコート”152、ノボラックタイプ、エポキシ当量175)80重量部、ルイス酸系エポキシ用硬化剤(橋本化成製三フッ化ホウ素モノエチルアミン)2.0重量部からなる組成物をモノクロルベンゼンとメタノール混合溶剤に固形分濃度20重量%で溶解した接着剤溶液を乾燥膜厚が18μmとなるように塗布し、エヤオーブンを使用し100℃で1分、150℃で2分乾燥して接着剤付きポリイミドフィルムを得、これに厚さ35μmの電解銅箔をロールラミネート法によって張り合わせ、エヤオーブン中で、80℃×3時間、100℃×5時間、150℃×5時間の条件で加熱処理し接着剤を硬化させたことが記載されている(明細書段落【0037】〜【0039】参照)。 刊行物7には、有機絶縁フィルムと特定成分の接着剤を積層してなるTAB用接着剤付きテープが記載されており(特許請求の範囲請求項1参照)、実施例1には、厚さ75μmのポリイミドフィルム(宇部興産製“ユーピレックス”75S)に、ポリアミド樹脂(Unichema社製ナイロン6・36“PRIADIT”2053、ダイマー酸とヘキサメチレンジアミン主要成分としてなるポリアミド、重量平均分子量10万、175℃でのMI値10gr/分)100重量部、エポキシ樹脂(油化シェル社製“エピコート”152、ノボラックタイプ、エポキシ当量175)80重量部、脂肪族スルホニウム塩系エポキシ用硬化剤(旭電化工業製エポキシ用硬化剤“アデカオプトン”CP-66)2.0重量部からなる組成物をモノクロルベンゼンとメタノール混合溶剤に固形分濃度20重量%で溶解した接着剤溶液を乾燥膜厚が18μmとなるように塗布し、エヤオーブンを使用し100℃で1分、150℃で2分乾燥して接着剤付きポリイミドフィルムを得、これに厚さ35μmの電解銅箔をロールラミネート法によって張り合わせ、エヤオーブン中で、80℃×3時間、100℃×5時間、150℃×5時間の条件で加熱処理し接着剤を硬化させたことが記載されている(明細書段落【0037】〜【0039】参照)。 刊行物8には、フレキシブル基板の製造プロセスに係る記述があり、「FPCを加工する上で最も大きな問題となるものの1つは,寸法の変化である.材料メーカーによって差はあるが,FPC用のCCLには,一般に銅箔をベースフィルムにラミネートする時の歪みが内在している.その銅箔をエッチングすれば歪みが解放されるわけであるが,回路パターンによって部分ごとに解放される歪みの程度が異なる.」と記載されている(第54頁5行〜9行参照)。 参考資料1には、薄いプラスチックシートの引張特性に係る記述があり、試験機における引張速度が1.3〜500mm/minであることが記載されている(第473頁左欄2行〜3行参照)。 参考資料2には、「エピコート180S65」がエポキシ当量205〜220でオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂であること、「エピコート180H65」がエポキシ当量195〜210で高純度オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂であることが記載されている(エピコート-多官能タイプの表参照)。 参考資料3には、熱硬化性樹脂の硬化物特性に係る記述があり、「硬化物の機械的性質(強度,弾性率)は,室温下では硬化物がガラス状態にあるので架橋密度の大きさにはほとんど依存しない。」と記載されている(第540頁左欄下から17行〜下から15行参照)。 参考資料4には、「ユーピレックス-75S(75μm)の引張弾性率が710kg/mm2であることが記載されている(「1.機械的性質」の項、表1参照)。 参考資料5には、「一般的な熱圧着性を有する熱可塑性ポリイミドの弾性率:約250kg/mm2」との記載がある(第4頁4行〜5行参照)。 参考資料6には、TAB用材料に係る記述があり、「フィルムキャリアの材料構成ならびに製造方法とも、基本的にはフレキシブルプリント回路(FPC)と同じと見ることができる。」との記載がある(第32頁下から4行〜下から3行参照)。 報告書1には、刊行物1の実施例1あるいは2に記載された接着剤を作製し、その硬化後の弾性率について測定した結果、並びに、接着剤の厚さと弾性率及びポリイミドフィルムの厚さと弾性率から求めた「X」の値が示されている。 報告書2には、刊行物4の実施例1に記載された接着剤を作製し、その硬化後の弾性率について測定した結果が示されている。 報告書3には、刊行物1の実施例1、刊行物4の実施例1、刊行物6の実施例1、及び刊行物7の実施例1に記載された接着剤をそれぞれ作製し、それらの硬化後の弾性率について測定した結果、並びに、接着剤の厚さと弾性率及びポリイミドフィルムの厚さと弾性率から求めたそれぞれの「X」の値が示されている。 4.対比・判断 (1)特許法第29条第1項について (本件発明1について) a)刊行物1との対比 上記刊行物1の実施例1あるいは2には、熱硬化性の接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法が記載されており、ポリイミドフィルムの厚さと弾性率が実施例1では約75μm、710kg/mm2、実施例2では約25μm、670kg/mm2、乾燥後の接着剤厚みがいずれも約20μmであることから(明細書段落【0022】〜【0025】参照)、これらの接着剤付きポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの厚さと弾性率、及び熱硬化性接着剤の厚さについては本件発明1の接着剤付きポリイミドフィルムと共通するものである。しかし、硬化後の接着剤の弾性率については何も記載されておらず、また、ポリイミドフィルムの厚さとその弾性率及び硬化後の接着剤の厚さとその弾性率との関係についても何も記載されていない。 一方、上記報告書1及び3には、熱硬化性の接着剤付きポリイミドフィルムを刊行物1の実施例1あるいは実施例2に記載された方法に従って作製するに際し、別に調製した硬化後の熱硬化性接着剤膜について膜厚及び弾性率を測定した実験結果がそれぞれ示されており、参考資料1ないし3を参酌すれば、これらの実験は刊行物1の実施例1あるいは2記載の接着剤について、本件発明1の接着剤と同様の方法で硬化後の膜厚及び弾性率を測定したものであると認められる。 そこで検討するに、上記報告書1によれば、刊行物1の実施例1あるいは2に記載された熱硬化性接着剤の硬化後の弾性率は11.10〜14.40kg/mm2であり、本件発明1において特定されている硬化後の接着剤の弾性率80〜220kg/mm2の範囲には含まれない。また上記報告書3によれば、刊行物1の実施例1に記載された熱硬化性接着剤の硬化後の弾性率は180kg/mm2であり、本件発明1において特定されている硬化後の接着剤の弾性率80〜220kg/mm2の範囲に含まれるが、ポリイミドフィルムと硬化後の接着剤についてそれぞれ測定された厚みと弾性率の値(上記報告書3の第3頁「4.結果」の項における「接着剤の弾性率」の表中の値)を用いて、本件発明1において特定される式によってXを求めると、実施例1が0.55、実施例2が0.05となり、本件発明1において特定されているXの値0.7以上4.1以下の範囲には含まれない。 したがって、本件発明1は、硬化後の接着剤の弾性率あるいはX値において上記刊行物1の実施例1あるいは2に記載された発明とは異なるものであるから、上記刊行物1に記載された発明ではない。 なお、報告書1と報告書3では、刊行物1の実施例1について同様に追試しているにもかかわらず熱硬化性接着剤の硬化後の弾性率の値が大きく異なっており、なぜこのような差が出るのかその理由は不明であるが、硬化条件の差などが影響していること原因として考えられる。 b)刊行物2との対比 上記刊行物2には、耐熱性フィルム、ポリイミド系接着剤および銅箔をこの順に積層してなるTAB用銅貼りテープの製造方法が記載されており(特許請求の範囲参照)、実施例1には、PI系接着剤を耐熱性フィルム“ユーピレックス”75μm(宇部興産(株))上に乾燥後の膜厚が12μmとなるように塗工することが記載されている(明細書段落【0027】参照)。そして、参考資料4によれば、耐熱性フィルム“ユーピレックス”75μm(宇部興産(株))の厚さと弾性率はそれぞれ75μm、710kg/mm2であることから、この接着剤付きポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの厚さと弾性率、及び熱硬化性接着剤の厚さについては本件発明1の接着剤付きポリイミドフィルムと共通するものである。しかし、硬化後の接着剤の弾性率については、刊行物2には何も記載されておらず、また、ポリイミドフィルムの厚さとその弾性率及び硬化後の接着剤の厚さとその弾性率との関係についても何も記載されていない。 この点について、参考資料5には、「一般的な熱圧着性を有する熱可塑性ポリイミドの弾性率:約250kg/mm2」という記載があるが、これは本件特許権者の審判請求書における記載であって、全てのポリイミド系接着剤の弾性率が約250kg/mm2であるということを示すものではなく、また仮にそうであったとしても、本件発明1において特定されている硬化後の接着剤の弾性率80〜220kg/mm2の範囲には含まれない。そして、刊行物2の実施例1に記載されたPI系接着剤の硬化後の弾性率が必ず約250kg/mm2となるというわけでもないから、この値を用いてX値を導いても無意味である。 したがって、本件発明1は、硬化後の接着剤の弾性率及びX値において上記刊行物2の実施例1に記載された発明とは異なるものであるから、上記刊行物2に記載された発明ではない。 c)刊行物4との対比 上記刊行物4の実施例1には、熱硬化型の接着剤組成物を厚さ75μmのポリイミドフィルム(宇部興産製“ユーピレックス”75S)上に乾燥後の膜厚が18μmとなるように塗布し乾燥することが記載されている(明細書段落【0035】【0036】参照)。そして、刊行物5、参考資料4によれば、ポリイミドフィルム“ユーピレックス”75S(宇部興産(株))の厚さと弾性率はそれぞれ75μm、710kg/mm2であることから、この接着剤付きポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの厚さと弾性率、及び熱硬化性接着剤の厚さについては本件発明1の接着剤付きポリイミドフィルムと共通するものである。しかし、硬化後の接着剤の弾性率については、刊行物4には何も記載されておらず、また、ポリイミドフィルムの厚さとその弾性率及び硬化後の接着剤の厚さとその弾性率との関係についても何も記載されていない。 一方、上記報告書2及び3には、熱硬化性の接着剤付きポリイミドフィルムを刊行物4の実施例1に記載された方法に従って作製するに際し、別に調製した硬化後の熱硬化性接着剤膜について膜厚及び弾性率を測定した実験結果がそれぞれ示されており、これらの実験は刊行物4の実施例1記載の接着剤について、本件発明1の接着剤と同様の方法で硬化後の膜厚及び弾性率を測定したものであると認められる。 そこで検討するに、刊行物4の実施例1に記載された熱硬化性接着剤の硬化後の弾性率は、上記報告書2によれば、53.3kg/mm2、上記報告書3によれば、48kg/mm2あるいは50kg/mm2であり、いずれも本件発明1において特定されている硬化後の接着剤の弾性率80〜220kg/mm2の範囲には含まれない。 したがって、本件発明1は、硬化後の接着剤の弾性率において上記刊行物4の実施例1に記載された発明とは異なるものであるから、上記刊行物4に記載された発明ではない。 d)刊行物6との対比 上記刊行物6の実施例1には、厚さ75μmのポリイミドフィルム(宇部興産製“ユーピレックス”75S)に、熱硬化型の接着剤組成物を乾燥膜厚が18μmとなるように塗布し、加熱処理して接着剤を硬化させたことが記載されている(明細書段落【0037】〜【0039】参照)。そして、参考資料4によれば、宇部興産製“ユーピレックス”75Sの弾性率は710kg/mm2であることから、この接着剤付きポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの厚さと弾性率、及び熱硬化性接着剤の厚さについては本件発明1の接着剤付きポリイミドフィルムと共通するものである。しかし、硬化後の接着剤の弾性率については、刊行物6には何も記載されておらず、また、ポリイミドフィルムの厚さとその弾性率及び硬化後の接着剤の厚さとその弾性率との関係についても何も記載されていない。 一方、上記報告書3には、熱硬化性の接着剤付きポリイミドフィルムを刊行物6の実施例1に記載された方法に従って作製するに際し、別に調製した硬化後の熱硬化性接着剤膜について膜厚及び弾性率を測定した実験結果が示されており、この実験は刊行物6の実施例1記載の接着剤について、本件発明1の接着剤と同様の方法で硬化後の膜厚及び弾性率を測定したものであると認められる。 そこで検討するに、刊行物6の実施例1に記載された熱硬化性接着剤の硬化後の弾性率は、上記報告書3によれば、20kg/mm2であり、本件発明1において特定されている硬化後の接着剤の弾性率80〜220kg/mm2の範囲には含まれない。 したがって、本件発明1は、硬化後の接着剤の弾性率において上記刊行物6の実施例1に記載された発明とは異なるものであるから、上記刊行物6に記載された発明ではない。 e)刊行物7との対比 上記刊行物7の実施例1には、厚さ75μmのポリイミドフィルム(宇部興産製“ユーピレックス”75S)に、熱硬化型の接着剤組成物を乾燥膜厚が18μmとなるように塗布し、加熱処理して接着剤を硬化させたことが記載されている(明細書段落【0037】〜【0039】参照)。そして、参考資料4によれば、宇部興産製“ユーピレックス”75Sの弾性率は710kg/mm2であることから、この接着剤付きポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの厚さと弾性率、及び熱硬化性接着剤の厚さについては本件発明1の接着剤付きポリイミドフィルムと共通するものである。しかし、硬化後の接着剤の弾性率については、刊行物7には何も記載されておらず、また、ポリイミドフィルムの厚さとその弾性率及び硬化後の接着剤の厚さとその弾性率との関係についても何も記載されていない。 一方、上記報告書3には、熱硬化性の接着剤付きポリイミドフィルムを刊行物7の実施例1に記載された方法に従って作製するに際し、別に調製した硬化後の熱硬化性接着剤膜について膜厚及び弾性率を測定した実験結果が示されており、この実験は刊行物7の実施例1記載の接着剤について、本件発明1の接着剤と同様の方法で硬化後の膜厚及び弾性率を測定したものであると認められる。 そこで検討するに、刊行物7の実施例1に記載された熱硬化性接着剤の硬化後の弾性率は、上記報告書3によれば、21kg/mm2であり、本件発明1において特定されている硬化後の接着剤の弾性率80〜220kg/mm2の範囲には含まれない。 したがって、本件発明1は、硬化後の接着剤の弾性率において上記刊行物7の実施例1に記載された発明とは異なるものであるから、上記刊行物7に記載された発明ではない。 (本件発明2ないし4について) 本件発明2ないし4は、いずれも本件発明1の構成をその主たる構成として含むものである。そして上述したように本件発明1は上記刊行物1、2、4、6、7にそれぞれ記載された発明とは認められず、したがって同様の理由により、本件発明2ないし4も、上記刊行物1、2、4、6、7にそれぞれ記載された発明とは認められない。 (2)特許法第29条第2項について (本件発明1について) 本件発明1と上記刊行物1、2、4、6、7にそれぞれ記載された発明とを比較すると、上述したとおり、これらはポリイミドフィルムの厚さと弾性率、及び熱硬化性接着剤の厚さについては本件発明1と共通するものである。しかし、硬化後の接着剤の弾性率については、いずれの刊行物にも記載されておらず、また、その他の刊行物、参考資料及び報告書に記載された事項を参酌しても、硬化後の接着剤の弾性率が実質的に記載されているに等しいとすることはできず、接着剤付きポリイミドフィルムの弾性率の好ましい範囲を導き出すことはできない。加えて、ポリイミドフィルムの厚さと弾性率、及び硬化後の接着剤の厚さと弾性率を関係付けることは、刊行物1ないし8には全く記載がなく、これを示唆する記載もないことから、ポリイミドフィルムの厚さと弾性率及び硬化後の接着剤の厚さと弾性率によって関係付けられるXの値を導き、これを特定の範囲に限定することは、参考資料1〜5を参酌し刊行物1〜8の記載を如何に組合せたとしても、これを容易に想到できるものではない。 そして、本件発明1の接着剤付きポリイミドフィルムは、硬化後の熱硬化性接着剤の弾性率を特定の範囲に限定し、かつポリイミドフィルムの厚さと弾性率及び硬化後の接着剤の厚さと弾性率によって関係付けられるXの値を限定することにより、製造工程での寸法精度が高く、接着剤の硬化後の反りが小さく、加工性が良好で他部品を実装する際の位置合わせが良好であるという明細書記載の効果(本件公報段落【0052】参照)を奏するものであると認められる。 したがって、本件発明1は上記刊行物1ないし8に記載された発明あるいは技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (本件発明2ないし4について) 本件発明2ないし4は、いずれも本件発明1の構成をその主たる構成として含むものである。そして上述したように本件発明1は上記刊行物1ないし8に記載された発明あるいは技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、したがって同様の理由により、本件発明2ないし4も、上記刊行物1ないし8に記載された発明あるいは技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (3)特許法第36条について 上記訂正事項fにより、実施例中の「引張弾性率」が「弾性率」に訂正されたため、明細書中の記載不備は解消した。 IV.むすび 以上のとおりであるから特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、本件発明1ないし4についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法および積層体の製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】ポリマ-が芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり弾性率が400kg/mm2以上であって厚み10〜125μmのポリイミドフィルム及び、その片面に設けた厚み4〜60μmの耐熱性の熱硬化性接着剤について、1)接着剤の両面の銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた、硬化後の接着剤の弾性率が80〜220kg/mm2であり、2)各々接触式測定法によって測定した厚みと各々の弾性率とを下記の式によって関係付けた、Xが0.7以上4.1以下であるとの条件を満足させることを特徴とする接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2)] 【請求項2】接着剤の厚みが4〜20μmである請求項1記載の接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法。 【請求項3】ポリマ-が芳香族ジアミン成分としてp-フェニレンジアミン50モル%以上および4,4-ジアミノジフェニルエ-テル50モル%以下からなるものである請求項1記載の接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法。 【請求項4】請求項1に記載の製造方法による接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤に、さらに金属箔を積層することを特徴とする積層体の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 この発明は、接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法の改良に関するものである。更に詳しくは、他の導体と張り合わせることができ、接着剤の硬化-エッチング後でも反りが小さく、種々の製造工程での寸法精度も高く、他部品を実装する際の位置合わせが良好な接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法、及びさらに金属箔を積層する積層体の製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなる芳香族ポリイミドフィルムの片面にエポキシ樹脂系、ポリアミド系、アクリル樹脂系系等の接着剤を設けた接着性ポリイミドフィルムは、優れた電気絶縁性、機械的強度、耐熱性、寸法安定性などを有しており、フレキシブルプリント配線銅張板やTAB用などの製造に使用されている。 【0003】 しかし、電子産業分野における高品質・高精度の要望は近年ますます強くなってきており、接着剤付きポリイミドフィルムについても製造工程での寸法精度、他部品を実装する際の位置合わせの改善が必要になっている。このため、特公平4-6213号公報に記載されているように寸法安定なポリイミドフィルムが提案されている。 【0004】 しかし、このポリイミドフィルムに接着剤を設けた接着剤付きポリイミドフィルムを使用して金属箔と張り合わせた後、金属箔をエッチィンで除くと接着剤を内側にして反りが生じる場合があり、依然として接着剤付きポリイミドフィルムにおける前記問題点は完全には解決されていなかったのである。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 この発明の目的は、製造工程での寸法精度も高く、接着剤の硬化後も反りが小さいので加工性が良好で他部品を実装する際の位置合わせが良好な接着剤付きポリイミドフィルム、およびその積層体を提供することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 すなわち、この発明は、ポリマ-が芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり弾性率が400kg/mm2以上であって厚み10〜125μmのポリイミドフィルム及び、その片面に設けた厚み4〜60μmの耐熱性の熱硬化性接着剤について、1)接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた、硬化後の接着剤の弾性率が80〜220kg/mm2であり、2)各々接触式測定法によって測定した厚みと各々の弾性率とを下記の式によって関係付けた、Xが0.7以上4.1以下であるとの条件を満足させることを特徴とする接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2) 前記において、ポリイミドフィルムおよび接着剤の厚みは接触式測定法により測定した値である。 【0007】 また、この発明は、前記に記載の製造方法による接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤に、さらに金属箔を積層することを特徴とする積層体の製造方法に関するものである。 【0008】 なお、上記のポリイミドフィルムおよび硬化後の接着剤の弾性率(MD)は、ASTM-D-882に従って求めたものであり、硬化後の接着剤の弾性率とは積層体とは別に、測定用に接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた弾性率をいう。 【0009】 この発明において用いられるポリイミドフィルムは、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり弾性率が400kg/mm2以上、好ましくは410kg/mm2以上、特に好ましくは420kg/mm2以上であって、好ましくは耐薬品性が優れているものである。弾性率が400kg/mm2より小さいと、寸法変化率が小さく(従って寸法精度が高くて)かつ反りの小さいというこの発明の効果を奏する積層体を得ることが困難になる。 【0010】 このようなポリイミドフィルムは、例えば、以下の方法によって好適に製造することができる。すなわち、5〜125μmの厚みのポリイミドフィルムを製造する場合には、有機極性溶媒中芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とから得られる芳香族ポリアミック酸の溶液組成物を濾過および脱泡し、ホッパ-、Tダイより金属ドラム、金属ベルトなどの基体上に均一の厚さに流延し、熱風、赤外線等で60〜160℃に加熱し溶剤を徐々に除去し自己支持性になるまで前乾燥を行い、次に金属ドラムまたは金属ベルトより自己支持性フィルムを剥離し、ついでイミド化するとともに溶媒等の揮発成分を蒸発・除去してポリイミドフィルムを製造することができる。 【0011】 前記の芳香族テトラカルボン酸類は、好適には、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸またはその酸二無水物、あるいはその酸の炭素数1〜5の低級アルコ-ルエステル化物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸またはその酸二無水物、あるいはその酸の炭素数1〜5の低級アルコ-ルエステル化物などのビフェニルテトラカルボン酸類を、好ましくは全テトラカルボン酸成分に対して、50モル%以上、特に60モル%以上含有する芳香族テトラカルボン酸を好適に挙げることができる。特に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸またはその酸二無水物を50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上含有する芳香族テトラカルボンを用いると、最終的に得られるポリイミドフィルムの弾性率、耐薬品性などの点において優れているので好適である。 【0012】 また、前記の芳香族テトラカルボン酸成分として、ビフェニルテトラカルボン酸類の他にピロメリット酸またはその酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸またはその酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタンまたはその酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパンまたはその酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホンまたはそれらのの酸二無水物など、あるいはそれらの炭素数1〜5の低級アルコ-ルエステルを使用することができる。 【0013】 前記の芳香族ジアミン成分は、例えば、p-またはm-フェニレンジアミン、3,5-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエンなどフェニレンジアミン類を、好ましくは全芳香族ジアミン成分に対して、50モル%以上、特に60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上含有する芳香族ジアミン成分を好適に挙げることができる。特に、p-フェニレンジアミンを60モル%以上、特に70モル%以上の含有率で含有する芳香族ジアミン成分を好適に挙げることができる。p-フェニレンジアミンを50モル%以上含有する芳香族ジアミンを用いると、最終的に得られるポリイミドフィルムの耐熱性、弾性率などの点において優れているので好適である。 【0014】 また、前記芳香族ジアミン成分として、フェニレンジアミン類の他に4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、3,3’-ジアミノジフェニルエ-テルなどのジアミノジフェニルエ-テル類、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィドなどを使用することができる。 【0015】 前記の芳香族ポリアミック酸は、前述のように芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とから10〜90℃程度の低温での重合で得られたポリイミド前駆体であると共に、下記の式で算出される対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶液、溶媒:N-メチル-2-ピロリドン)が0.1〜7、特に0.2〜5程度であり、有機極性溶媒に約2〜50重量%、特に5〜40重量%の濃度で均一に溶解しているポリマ-であることが好ましい。 対数粘度=自然対数(溶液粘度/溶媒粘度)/溶液の濃度 【0016】 前記の有機極性溶媒は、前記の芳香族ポリアミック酸を均一に溶解することができるものであればよく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミドなどのN,N-ジ低級アルキルカルボキシルアミド類、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ヘキサメチルスルホルアミドなどを挙げることができる。 【0017】 この発明に用いられるポリイミドフィルムは、例えば、前述の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分との略等モルを、有機極性溶媒中、約100℃以下の低い温度で重合して得られた高分子量の芳香族ポリアミック酸が、有機極性溶媒に約2〜50重量%の濃度で均一に溶解している芳香族ポリアミック酸溶液を、製膜用ド-プ液として使用し約160℃以下の流延温度で支持体面上に液状の薄膜を形成し、その薄膜を支持体上で約150℃以下の乾燥温度で約0.1〜1時間乾燥する溶液流延法などの製膜法で形成される好ましくは厚み9〜200μmの自己支持性の固化フィルムを、加熱してイミド化・溶媒除去して得られる。 【0018】 また、この発明に用いられるポリイミドフィルムは、前述の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分との略等モルを、前記溶媒中、約100℃以下の低い温度で重合して得られた高分子量の芳香族ポリアミック酸溶液に、ピリジン、β-ピコリンなどの第3級アミン化合物や無水酢酸のような化学変換剤などを加えて均一に混合して得られた組成物を、製膜用ド-プ液として使用して約150℃以下の流延温度で、支持体面上にキャストして液状の薄膜を形成する製膜法によって得られる好ましくは厚み9〜200μmの自己支持性の固化フィルムを、加熱処理して得られる。ポリイミドフィルムは厚み10〜125μmのものが好適に使用される。得られたポリイミドフィルムは必要であればさらにプラズマ処理、コロナ処理によって処理してもよい。 【0019】 この発明において使用されるポリイミドフィルムを製造するための前記の製膜用ド-プ液は、リン含有化合物および微細の無機充填剤を配合したものが好ましい。リン化合物としては特に制限はないが、例えば、モノステアリルリン酸エステル、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル等のリン酸エステルやこれらリン酸エステルのアミン塩が好ましく、無機充填剤としては、コロイダルシリカが好ましい。これらの配合量は、芳香族ポリアミック酸重合体100重量部に対してリン化合物が0.01〜1重量部、微細の無機充填剤が0.02〜6重量であることが好ましい。 【0020】 この発明において使用される前記のポリイミドフィルムは、自己支持性の固化フィルムを好適には100〜400℃の温度で約0.2〜5時間加熱処理して、該フィルムを形成しているポリアミック酸を実質的にアミド-酸結合の存在しないように、イミド化するとともに該フィルムから前記溶媒などの揮発成分を蒸発し除去することによって製造することが好ましい。 【0021】 前記の加熱処理は約100〜170℃の比較的低い温度で約1〜30分間第一次加熱処理し、次いで170〜220℃の温度で約1〜30分間第二次加熱処理して、そして220〜400℃の高温で約1〜30分間第三次加熱処理するように段階的に行うことが好ましい。必要であれば400〜600℃の高い温度で第四次高温加熱処理してもよい。また、250℃以上の連続加熱処理においては、ピンテンタ-、クリップ、枠などで行うことが好ましい。この高温加熱処理によって揮発性成分の含有率を、フィルムの厚みが100μm以下の場合は0.4%(重量%)以下、特に0.3%以下に、フィルムの厚みが100μmより大きい場合でも1.1%以下、特に0.9%以下にすることが好ましく、こうすることにより積層体にした場合の接着強度にバラツキがなく寸法精度・加工性の信頼性が高くなる。 【0022】 ポリイミドフィルム中の揮発性成分の含有率は、次の計算式によって算出される。 揮発性成分(重量%)=〔(W0-W)/W0〕×100 W0:空気中150℃×10分乾燥後の重量(試料:100×100mm2) W:空気中450℃×20分乾燥後の重量(試料:100×100mm2) 【0023】 この発明の接着剤付きポリイミドフィルムは、前記の弾性率が400kg/mm2以上である厚み10〜125μmのポリイミドフィルムと、その片面に設けた厚み4〜60μmの耐熱性の熱硬化性接着剤とからなり、接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いたものについて求めた硬化後の接着剤の弾性率が80〜220kg/mm2であり、下記式によって規定されるXが0.7以上4.1以下である接着剤付きポリイミドフィルムである。 X=(T12×E1)/(T22×E2×102) [但し、T1:ポリイミドフィルムの厚み(μm)、E1:ポリイミドフィルムの弾性率(kg/mm2)、T2:硬化後の接着剤の厚み(μm)、E2:硬化後の接着剤の弾性率(kg/mm2)] 前記の式で規定されるXが0.7より小さいと、接着剤付きポリイミドフィルムの反りが大きくなるので望ましくない。 【0024】 この発明の接着剤付きポリイミドフィルムは、例えば前記ポリイミドフィルムに液状の接着剤を塗布した後乾燥して、あるいは前記ポリイミドフィルムに接着剤シ-トを積層して得られる。一般的にはこの接着剤層を設けたポリイミドフィルムは、前記の接着剤の塗布乾燥後あるいはポリイミドフィルムと接着剤シ-トとの積層と同時に金属箔を接着剤面と張り合わせ、接着剤を硬化して積層体を形成する。 【0025】 この発明の接着剤付きポリイミドフィルムは前記の式で規定されるXを0.7以上とすることによって、硬化後の接着性ポリイミドフィルム、一般的には金属箔を全面エッチングで除去しポリイミドフィルムと接着剤(硬化)だけにしたフィルムの局率半径によって評価される反りを小さくすることができるのである。すなわち、この発明の接着剤付きポリイミドフィルムは硬化後の平坦度を示す局率半径が好ましくは100mm以上、特に好ましくは110mm以上であって平坦性が高い、すなわち反りが小さい。 【0026】 前記の局率半径はJIS規格C5012に示された方法により、以下の計算式で算出された値である。 局率半径=L2/8h〔L:試料の長さ(mm)、h:反りの高さ(mm)〕 【0027】 この発明において使用される接着剤としては、エポキシ樹脂系、ポリアミド系、アクリル樹脂系、ポリイミド系等の耐熱性の熱硬化性接着剤が挙げられる。接着剤は溶液タイプであってもよく、あるいはシ-トタイプでもよい。接着剤は固化後の厚みが4〜60μmであることが好ましい。 【0028】 この発明の接着剤付きポリイミドフィルムはポリイミドフィルム本来の耐熱性、機械的物性を保持したままで接着性を有しており、硬化後の反りが少なく、金属箔との積層体(通常は回路)は反りが従来の積層体に比較して大幅に改善される。 【0029】 この発明の積層体は、接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤面に金属を積層することによって得ることができる。前記金属箔としては、電解銅箔、圧延銅箔、42アロイなどの金属箔があげられる。 【0030】 この発明の積層体は反りが小さく、寸法精度が高く、高温の作業環境にさらされる用途に好適に使用される。この発明の積層体は、例えば、FPC、TAB等に好適に使用することができる。 【0031】 【実施例】 以下にこの発明の実施例を示す。以下の記載において部は重量部を示す。以下の各例において硬化接着剤の厚みは、別に接着剤の両面に銅箔を重ね合わせて硬化後銅箔をエッチングして除いた試料の厚みを、厚み測定器〔小野測器製作所株式会社製、デジタルダイヤルゲ-ジDG-751〕を用いて測定した。 【0032】 参考例1 N,N-ジメチルアセトアミド2470部中に3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物294.33部とp-フェニレンジアミン108.14部を加え約10時間反応させてポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸の対数粘度は2.66であり、溶液の30℃での粘度は3100ポイズであった。 【0033】 参考例2 N-メチル-2-ピロリドン1980部中に3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物147.2部、ピロメリット酸二無水100.1部、p-フェニレンジアミン75.7部、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル60.6部を加え約6時間反応してポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸の対数粘度は2.51であり、溶液の30℃での粘度は2900ポイズであった。 【0034】 参考例3 N,N-ジメチルアセトアミド3037部中に3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物294.22部と4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル200.24部を加え室温で約10時間反応させてポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸の対数粘度は2.71であり、溶液の30℃での粘度は2600ポイズであった。 【0035】 参考例4 N,N-ジメチルアセトアミド2570部中に4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル200.24部を添加後、ピロメリット酸二無水物218.12部を加え約6時間反応させてポリアミック酸溶液を得た。このポリアミック酸の対数粘度は1.60であり、溶液の30℃での粘度は300ポイズであった。 【0036】 実施例1 参考例1で調製したポリアミック酸重合体100部に対して、モノステアリルリン酸エステルトリエタノ-ルアミン塩0.1部およびコロイダルシリカ(シリカの平均粒子径75nm)0.5部(固形分換算)を加え、室温(25℃)で6時間撹拌してポリアミック酸組成物を得た。この組成物をステンレスベルト上に流延塗布し、120℃で10分間乾燥したのち、ステンレスベルト面より剥がし自己支持性フィルムを得た。得られた自己支持性フィルムをピンテンタ-で把持して150℃で5分間加熱し、次いで200℃に昇温してその温度で7分間加熱し、その温度で7分間熱処理し、さらに250℃に昇温し、その温度で9分間加熱し、最後に450℃にまで昇温し、その温度で7分間熱処理して、ポリマ-のイミド化およびフィルムの乾燥を行って、厚み125μmのポリイミドフィルムを製造した。このポリイミドフィルムの弾性率は780kg/mm2で、揮発性成分の含有率(重量%)は0.7%であった。 【0037】 このポリイミドフィルム(ベルト面)と電解銅箔(35μm)との間に、シ-ト状のポリイミド系接着剤(硬化後の厚み20μm、ポリイミドシロキサン、フェノ-ルノボラック樹脂およびエポキシ樹脂の重量比5:2:3からなる組成、硬化後の接着剤の弾性率220kg/mm2)を挟み、130℃でラミネ-ト(ロ-ル使用)して3層体とした。この3層体を100℃で2時間、120℃で1時間、180℃で6時間加熱して接着剤を硬化して積層体を作製した。この積層体の接着強度(180度剥離強度、ASTM-D-903による。)を表1に示す。また、この積層体の銅を塩化第2鉄水溶液(濃度30重量%)で全面エッチングして、ポリイミドフィルムに接着剤が接着したものを得た。この局率半径を測定した。 【0038】 また、前記のポリイミドフィルムをスリットし、35mm幅のテ-プとし、その上に26mm幅のテ-プ状のポリイミド系接着剤(厚み20μm、ポリイミドシロキサン、フェノ-ルノボラック樹脂およびエポキシ樹脂の重量比5:2:3からなる組成、硬化後の接着剤の弾性率220kg/mm2)をポリイミドテ-プ(ベルト面)の中央に120℃でラミネ-し、接着剤付きポリイミドテ-プを作製した。この接着剤付きポリイミドテ-プにスプロケット穴やデバイスホ-ルをパンチングで開け、銅箔(35μm)を130℃で張り合わせ、接着剤を100℃で2時間、120℃で1時間、180℃で6時間加熱して接着剤を硬化させた。続いて、この銅張板のポリイミドテ-プの上にA、Bの2点を刻印し、この間隔A、Bの長さを測定した。さらに、常法に従いこの銅張板にパタ-ニングを行い、次にエッチング、水洗・乾燥工程を経た後、IL(インナ-リ-ド)やOL(オウタ-リ-ド)等の回路を形成しTAB用キャリアテ-プを作製した(工程中での最高操作温度:90℃)。このTAB用キャリアテ-プにおいて上記のA、B間の距離を測定した。 【0039】 以下の式を用いて寸法変化率を求めた。この値が小さいほど寸法の変化が小さく寸法精度が良い。 寸法変化率=〔(L0-L)/L0〕×100(%) L0:エッチング前のA、B間の長さ L :エッチング後のA、B間の長さ 結果をまとめて表1および表2に示す。 【0040】 実施例2 接着剤としてシ-ト状のポリイミド系接着剤(硬化後の厚み20μm、ポリイミドシロキサン、フェノ-ルノボラック樹脂およびエポキシ樹脂の組成、硬化後の接着剤の弾性率160kg/mm2)を用いた他は実施例1と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0041】 実施例3 ポリイミドフィルムとして、ポリアミック酸組成物の流延塗布量を少なくして自己支持性の固化フィルムの厚みを変えて得た弾性率810kg/mm2、揮発性成分含有率0.2%、厚み75μmのポリイミドフィルムを用い、接着剤として厚みを10μmに変えた接着剤を用いた他は実施例1と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0042】 実施例4 接着剤としてシ-ト状のポリイミド系接着剤(硬化後の厚み20μm、ポリイミドシロキサン、フェノ-ルノボラック樹脂およびエポキシ樹脂の組成、硬化後の接着剤の弾性率160kg/mm2)を用いた他は実施例3と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0043】 実施例5 ポリイミドフィルムとして、参考例2で調製したポリアミック酸溶液を用いた他は実施例1に記載の方法と同様にして得た弾性率580kg/mm2、揮発性成分含有率0.9%、厚み125μmのポリイミドフィルムを用い、接着剤として厚みを10μmに変えた接着剤を用いた他は実施例1と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0044】 実施例6 接着剤としてシ-ト状のポリイミド系接着剤(硬化後の厚み20μm、ポリイミドシロキサン、フェノ-ルノボラック樹脂およびエポキシ樹脂の組成、硬化後の接着剤の弾性率160kg/mm2)を用いた他は実施例5と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0045】 実施例7 ポリイミドフィルムとして、ポリアミック酸組成物の流延塗布量を少なくして自己支持性の固化フィルムの厚みを変えて得た弾性率580kg/mm2、揮発性成分含有率0.3%、厚み75μmのポリイミドフィルムを用い、接着剤として厚みを10μmに変えた接着剤を用いた他は実施例6と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0046】 比較例1 ポリイミドフィルムとして弾性率810kg/mm2、揮発性成分含有率0.2%、厚み75μmのポリイミドフィルムを用いた他は実施例1と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0047】 比較例2 ポリイミドフィルムとして、参考例3で調製したポリアミック酸溶液を用い、ポリアミック酸組成物の流延塗布量を少なくして自己支持性の固化フィルムの厚みを変えて得た弾性率380kg/mm2、揮発性成分含有率0.5%、厚み75μmのポリイミドフィルムを用い、接着剤としてシ-ト状のポリイミド系接着剤(固化後の厚み10μm、ポリイミドシロキサン、フェノ-ルノボラック樹脂およびエポキシ樹脂の組成、硬化後の接着剤の弾性率160kg/mm2)を用いた他は実施例1と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0048】 比較例3 ポリイミドフィルムとして、参考例4で調製したポリアミック酸溶液を用い、ポリアミック酸組成物の流延塗布量を少なくして自己支持性の固化フィルムの厚みを変えて得た弾性率310kg/mm2、揮発性成分含有率1.2%、厚み75μmのポリイミドフィルムを用い、接着剤としてシ-ト状のポリイミド系接着剤(硬化後の厚み20μm、ポリイミドシロキサン、フェノ-ルノボラック樹脂およびエポキシ樹脂の組成、硬化後の接着剤の弾性率80kg/mm2)を用いた他は実施例1と同様に実施した。結果をまとめて表1および表2に示す。 【0049】 【表1】 【0050】 【表2】 【0051】 【発明の効果】 この発明は以上説明したように構成されているので、以下に記載のような効果を奏する。 【0052】 この発明の接着剤付きポリイミドフィルムは製造工程での寸法精度が高く、接着剤の硬化後の反りが小さい。このため、加工性が良好で他部品を実装する際の位置合わせが良好である。 【0053】 この接着剤付きポリイミドフィルムを用いた金属箔との積層体は、接着強度が実用的な範囲で大きく、種々の製造工程を経て他部品を実装する際の位置合わせが良好である。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-05-11 |
出願番号 | 特願平6-285597 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C09J)
P 1 651・ 534- YA (C09J) P 1 651・ 531- YA (C09J) P 1 651・ 121- YA (C09J) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
鐘尾 みや子 |
特許庁審判官 |
佐藤 修 後藤 圭次 |
登録日 | 2001-04-13 |
登録番号 | 特許第3178279号(P3178279) |
権利者 | 宇部興産株式会社 |
発明の名称 | 接着剤付きポリイミドフィルムの製造方法および積層体の製造方法 |
代理人 | 萩野 平 |
代理人 | 栗宇 百合子 |
代理人 | 添田 全一 |
代理人 | 岩見 知典 |