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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41F
管理番号 1101121
異議申立番号 異議2003-71687  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-01-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-03 
確定日 2004-05-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3364725号「柱状基材への絵柄の転写方法」の請求項1乃至3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3364725号の請求項1乃至3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3364725号の請求項1乃至3に係る発明の出願は、平成5年6月30日に特許出願され、平成14年11月1日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人凸版印刷株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年2月16日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容(下線は訂正箇所を示す)
1)訂正事項a
特許請求の範囲を次のとおり訂正する。
「【請求項1】外表面に凹凸ないし曲面を有する柱状基材をその長軸方向へ搬送しつつ、転写シートを該柱状基材の搬送方向に柱状基材と同期する速度で搬送する工程で、該転写シートの転写層面、又は該柱状基材の外表面に硬化型樹脂接着剤を層状に塗工して接着剤層を形成し、該接着剤層が完全に硬化しない間に、転写シートをその転写層側を該柱状基材の外表面側として該柱状基材の外表面の表面に合致する形状を持つ複数のロールを用いて段階的に貼着し、次いで、該接着剤の接着力が、該転写層と剥離性基材シート間の接着力より該接着剤層と柱状基材間及び転写層間において大きくなった時点以降に、剥離性基材シートを剥離する柱状基材への絵柄の転写方法において、前記転写シートが剥離性基材シート、2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層、絵柄層からなり、架橋性樹脂層の上に絵柄層を形成後、養生し、その後、この転写シートを前記柱状基材に貼着することを特徴とした柱状基材への絵柄の転写方法。
【請求項2】転写シートの剥離性基材シートと架橋性樹脂層間に剥離層を有する、請求項1記載の柱状基材への絵柄の転写方法。
【請求項3】転写シートの架橋性樹脂層がシランカップリング剤を硬化剤とした2液硬化型樹脂からなる、請求項1又は2記載の柱状基材への絵柄の転写方法。」
2)訂正事項b
明細書段落【0007】を次のとおり訂正する。
「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の柱状基材への絵柄の転写方法は、外表面に凹凸ないし曲面を有する柱状基材をその長軸方向へ搬送しつつ、転写シートを該柱状基材の搬送方向に柱状基材と同期する速度で搬送する工程で、該転写シートの転写層面、又は該柱状基材の外表面に硬化型樹脂接着剤を層状に塗工して接着剤層を形成し、該接着剤層が完全に硬化しない間に、転写シートをその転写層側を該柱状基材の外表面側として該柱状基材の外表面の表面に合致する形状を持つ複数のロールを用いて段階的に貼着し、次いで、該接着剤の接着力が、該転写層と剥離性基材シート間の接着力より該接着剤層と柱状基材間及び転写層間において大きくなった時点以降に、剥離性基材シートを剥離する柱状基材への絵柄の転写方法において、前記転写シートが剥離性基材シート、2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層、絵柄層(絵柄印刷層)からなり、架橋性樹脂層の上に絵柄層を形成後、養生し、その後、この転写シートを前記柱状基材に貼着することを特徴とする。また、架橋性樹脂層には、好ましくはシランカップリング剤を硬化剤とする2液硬化型樹脂を用いる。」

(2)訂正の目的、新規事項の有無、拡張変更の存否の各要件についての判断
1)訂正事項aについて
本訂正は、請求項1について、架橋性樹脂層の上に絵柄層を形成後、養生し、その後、この転写シートを柱状基材に貼着することを、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項(特に明細書段落【0017】参照)の範囲内で限定するものである。
したがって、本訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
2)訂正事項bについて
本訂正は、訂正事項aにより訂正された特許請求の範囲に発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.異議申立てについての判断
(1)本件発明
本件請求項1乃至3に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載されたとおりのものである(上記訂正事項a参照、以下「本件発明1乃至3」という)。

(2)引用刊行物とその記載事項
取消理由に引用された刊行物とその記載事項は次のとおりである(記載中「・・・」は中略を示す)。
1)刊行物1:特開昭58-122875号公報
1-a.「外表面に凹凸乃至曲面を有する基体を一方向へ送る一方、柔軟性のある帯状のシートの片面に所望される意匠に応じて印刷用インキを付着して、該シートのインキ付着面を前記基体の外表面にその凹凸乃至曲面に応じて順次圧接すると共に、シートを基体と同方向同速度で送り、基体にインキを写した後に、シートを基体より剥離することを特徴とする凹凸乃至曲面を有する基体の印刷方法。」(特許請求の範囲)
1-b.「この発明による方法を・・・説明すると、第1図に示す如く、コンベア(1)上に基体(2)を載置して一方へ順次送る。・・・ロール巻きされたシート(8)を・・・基体(2)の送り方向と同方向に送り出す・・・シート(8)の片面に版ロール(5)に応じた所望する模様に従ってインキが付着される。尚、シート(8)は塩化ビニールかポリエチレン等の如く柔軟性があり、・・・次いで、インキが付着したシート(8)のインキ付着面を基体(2)の外表面に圧接して、基体(2)にインキを付着した後、シート(8)を基体(2)より剥離して巻取りロール(9)に巻き込むものである。・・・基体(2)が第2図図示の如くL型のように段付きのものである場合、シート(8)を種々の方向から押える案内ロール群によって、シート(8)を基体(2)の外表面の形状に応じて屈折して密接するもので、・・・第3図に順次示す如く、まず、基体(2)の最上面(a)に案内ロール群の第1ロール(10)で圧接し、第2、第3ロール(11)、(12)で基体(2)の最上面(a)の両角部(b)(c)を圧接してシート(8)を折り曲げ、第4ロール(13)で基体(2)の左側面(d)に、第5ロール(14)で右側の落ち込み面(e)にシート(8)を圧接し、次に第6ロール(15)で段部の内角(f)を押圧してから第7ロール(16)で段部の水平面(g)に圧接し、更に第8ロール(17)で右側の角部(h)を押えてから第9ロール(18)により右側の側面(i)にシート(8)を圧接する。以上の案内ロール群より基体(2)の進行方向に向つて後方部にシート(8)を剥離する位置までシート(8)を基体(2)の外表面に圧接する保持ロール群を設けておく。保持ロール群は、基体(2)の前記各面(a)(d)(e)(g)(i)に圧接する第10〜第14ロール(19)(20)(21)(22)(23)より成り、この保持ロール群を過ぎてからシート(8)が剥離され・・・前記案内ロール群から保持ロール群の間で模様が転写されるものである。」(2頁左上欄下4行〜右下欄10行)
1-c.図面第2図の記載から、基体2が外面に凹凸を有する柱状であり、その長軸方向へ搬送されることが看取できる。
2)刊行物2:特開昭64-8084号公報
2-a.「表面の光沢をマットにしたフィルムのマット面に2液硬化型の透明樹脂層を3〜50μの厚さにコートした後,硬化が十分進まないうちに,透明タイプのインキで木目柄を印刷して,転写シートを作成した柄インキ面を接着材を介して木質基材表面に接着し,接着剤が硬化した後で、マットフィルムのみを剥すことにより,表面がマットに仕上るようにした,プレコートタイプ転写化粧板の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
2-b.「本発明に用いる転写シート(1)は第1図に示すようにマット表面(2)を有する基体シート(3)とトップコート樹脂(4)と柄インキ(5)とからなり,基体シート(3)は・・・ポリプロピレン,ポリエチレン・・・等の合成樹脂フィルム等が使用できる。トップコート樹脂(4)としては,二液硬化型のウレタン系樹脂,セルロースアセテートブチレート樹脂等にイソシアネートを添加した樹脂が使用できる。木目柄を構成する柄インキ(5)としては,トップコート樹脂が未硬化の状態で接着するような樹脂をバインダーとするインキ・・・が使用できる。トップコート樹脂(4)は柄インキ(5)の印刷の後,80°Cで24〜48時間エージングして完全硬化させる。」(2頁左上欄6行〜右上欄3行)
2-c.「又、木目柄によっては,トップコート樹脂層(3)がそのまま接着材(7)と接するような場合も考えられるので,顔料を含まない上記インキバインダー樹脂を接着ニス(6)としてコートしておくと接着不良の心配がなくなる。」(2頁右上欄4〜8行)
2-d.「以上のような構成の転写シート(1)を第2図に示すように接着剤(7)を介して基板(8)にその柄インキ層面を向けて積層し,接着剤(7)が硬化した後,基体シート(3)を剥離して化粧板を得る。接着剤(7)はポリウレタン樹脂,エポキシ樹脂・・・が使用できる。尚,トップコート樹脂(4)中に剥離強度調整剤として・・・シリコン,ケトン樹脂等を添加する」(2頁右上欄9〜下3行)
2-e.「次に厚さ4mmの合板の表面にウレタン樹脂変性ビニル系樹脂よりなる接着剤を90g/m2(ウェット)塗布し,多少流動性が残る状態まで乾燥させた後に転写シートの印刷面が接着するように合板に重ね,加圧して積層し,接着剤が硬化した後基体シートを剥してプレコートタイプ転写化粧板を得た。」(2頁右下欄3〜9行)
2-f.図面第1図の記載から、転写シート1が基体シート3とトップコート樹脂4とインキ5と接着ニス6の各層をこの順で形成したものであることが看取でき、また、同第2図の記載から、転写シート1が基板(合板)8に接着剤7で貼着されることが看取できる。
3)刊行物3:特開昭58-65691号公報
3-a.「適当な離型薄葉体の一面に所要の美術印刷をなし、この印刷図柄上に合成樹脂のコーテイングを施し、そのコーテイング面が乾燥して合成樹脂被膜が形成されてから、更にその上に適当な接着剤を塗布して他物体に接着せしめ、離型薄葉体を剥離せしめることを特徴とする美術印刷を他物体に転写する方法」(特許請求の範囲)
3-b.「接着剤としては・・・フエノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂・・・等適宜のものを被貼着物体の性質に合わせて適宜選択して塗布し、塗布後すみやかに転写他物体(5)に接着する。」(2頁左上欄3〜10行)
4)刊行物4:特開昭60-101099号公報
4-a.「(1)離型性を有する基体シートと転写層とから成る転写シートを、接着剤を介して被転写体表面に重ねて加圧し、しかる後に基体シートを取り除くことを特徴とする転写方法。(2)接着剤として、10°C以下の低温で固化又は硬化する接着剤を用いることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の転写方法。」(特許請求に範囲)
4-b.「接着剤は転写の直前に転写シートの転写層表面に、あるいは被転写体表面に塗布されるものであり、・・・エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等のような、固化又は硬化時に体積の変化がほとんどなく、かつ10°C以下の低温で固化又は硬化するもの」(2頁右上欄2〜7行)
4-c.「ポリエステルフィルムの片面に・・・離型層を形成し、その上に・・・表面保護層を形成し・・・木目柄を印刷して転写シートを得た。次に、該転写シートの印刷面にポリウレタン系の接着剤を・・・塗布し、・・・木製の棒状の被転写体の表面に巻き付けて加圧し、接着剤が十分に固化した時点でポリエステルフィルムを除去したところ、転写シート上の表面保護層と・・・木目柄とが被転写体の表面に完全に転写し、棒状の装飾材が得られた。」(2頁左下欄7行〜右下欄5行)
5)刊行物5:特開平1-204782号公報
5-a.「(1)離型性基体シートの離型性面に、転写層として官能基を有する変成アクリル系樹脂が前記変成アクリル系樹脂の官能基と反応し得る官能基を有するシラン系化合物で架橋した架橋樹脂からなる耐熱性層と金属薄膜層とがこの順に積層されていることを特徴とする金属薄膜層転写シート。(2)金属薄膜層が模様状であることを特徴とする請求項1の金属薄膜層転写シート。(3)転写層の離型性基体シートに接する側に剥離兼保護層が積層されたものであることを特徴とする請求項1または2の金属薄膜層転写シート。」(特許請求の範囲)
5-b.「耐熱性層6は基本的には、官能基を有する変成アクリル系樹脂が前記変成アクリル系樹脂の官能基と反応し得る官能基を有するシラン系化合物で架橋した架橋樹脂からなる。」(4頁左下欄下4行〜右下欄1行)
5-c.「前記変成アクリル系樹脂の官能基と反応し得る官能基を有するシラン系化合物としては、アルコキシシシラン、アミノシラン、メルカプトシラン、エポキシシラン、もしくはビニルシランなどのシラン系カップリング剤、又は、アセトキシシラン、アルコキシシラン、ケトキシムシラン、アミノシラン、アミノキシシラン、シラザン、もしくはアミドシランなどのシラン化合物がある。」(5頁左上欄2〜10行)
5-d.「耐熱性層形成用インキ アミノ変成アクリル樹脂・・・60重量部 ブチル化セルロース・・・40重量部 アルコキシシランカップリング剤・・・40重量部 メチルエチルケトン・・・30重量部 トルエン・・・30重量部」(6頁右下欄9〜15行)
5-e.図面第1図の記載から、離型性基体シート3が支持体シート1と離型層2とからなり、これに剥離層4、絵柄層5、耐熱層6、金属薄膜層7、接着剤層8が順に積層されていることが看取できる。

(3)刊行物1に記載された発明の認定
刊行物1の例えば特許請求の範囲には基体の印刷方法という表現がなされているが、記載事項1-b等によればその印刷は基体2へ模様を転写することであるから、基体2への模様の転写方法に係る発明を把握することができ、シート8の片面に基体2へ転写される模様を形成するインキを版ロール5により付着したシートを以下「転写模様付シート」ということにすると、刊行物1には、上記記載事項1-a〜1-cを含む明細書及び図面の全記載によれば、次の発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されているものと認められる。
「外表面に凹凸ないし曲面を有する柱状の基体2をその長軸方向へ搬送しつつ、転写模様付シートを該柱状の基体2の搬送方向に柱状の基体2と同速度で搬送する工程で、転写模様付シートをその転写模様側を該柱状の基体2の外表面側として該柱状の基体2の外表面の形状に応じることのできる案内ロール群のロール10〜18を用いて順次密接し、次いで、シート8を剥離する柱状の基体2への模様の転写方法において、前記転写模様付シートがシート8と転写される模様部分からなることを特徴とした柱状の基体2への模様の転写方法。」

(4)対比・判断
1)本件発明1について
本件発明1(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比するに、後者の「柱状の基体2」、「外表面の形状に応じることのできる案内ロール群のロール10〜18」、「順次」、及び「模様」は、それぞれ、前者の「柱状基材」、「外表面の表面に合致する形状を持つ複数のロール」、「段階的に」、及び「絵柄」に対応する。
後者の「転写模様付シート」は、シート上に形成された模様を転写するという機能において「転写シート」ということができる。
後者の「同速度」は、転写模様付シートと基体2とが搬送方向に位置合わせされつつ移動するように制御される速度であるから、「同期する速度」といえることは明らかである。
後者の「転写模様側」は、シート8に転写される模様を形成するために版ロール5により付着されたインキが層状となることは明らかであるから、「転写層側」ということができる。
後者の「密接」は、「重合」といえる点で、前者の「貼着」と共通する。
後者の「シート8」は、転写される模様が形成される基材であり、基体2に密接した後に剥離されるものであって、その材料もポリエチレン等である点において前者の剥離性基材シートと共通するから、「剥離性基材シート」といえる。
したがって、両者は、「外表面に凹凸ないし曲面を有する柱状基材をその長軸方向へ搬送しつつ、転写シートを該柱状基材の搬送方向に柱状基材と同期する速度で搬送する工程で、転写シートをその転写層側を該柱状基材の外表面側として該柱状基材の外表面の表面に合致する形状を持つ複数のロールを用いて段階的に重合し、次いで、剥離性基材シートを剥離する柱状基材への絵柄の転写方法。」において一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
転写シートについて、前者が、剥離性基材シート、2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層、絵柄層からなり、架橋性樹脂層の上に絵柄層を形成後、養生させたものであるのに対して、後者は、その「転写される模様部分」が版ロール5によりインキが層状に付着されて形成されるため「絵柄層」ということができるとしても、剥離性基材シートと絵柄層のみからなり、絵柄層を形成後に養生させるものでもない点。
<相違点2>
転写時について、前者が、転写シートの転写層面、又は柱状基材の外表面に硬化型樹脂接着剤を層状に塗工して接着剤層を形成し、接着剤層が完全に硬化しない間に貼着し、次いで、接着剤の接着力が、転写層と剥離性基材シート間の接着力より接着剤層と柱状基材間及び転写層間において大きくなった時点以降に剥離性基材シートを剥離するのに対して、後者はそもそも接着剤層を形成していない点。

以下、相違点1及び2について検討する。
転写対象に重ね合わせた後に基材シートを剥離することで絵柄等を転写対象に転写するための転写シートについて、刊行物2に、基体シート3とトップコート樹脂4とインキ5と接着ニス6の各層をこの順で形成した転写シート1が記載されている(記載事項2-f等)。
刊行物2記載の上記基体シート3はポリエチレン等が使用されていて(記載事項2-b)最終的には剥離される(2-a,d)ものであるから本件発明1でいう「剥離性基材シート」ということができ、トップコート樹脂4の層は二液硬化型のウレタン系樹脂,セルロースアセテートブチレート樹脂等にイソシアネートを添加した樹脂等が使用される(記載事項2-b)ものであるから本件発明1でいう「2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層」ということができ、インキ5の層は木目柄であるから本件発明1でいう「絵柄層」ということができ、上記接着ニス6の層は記載事項2-cからみて必ずしも設ける必要がないものであり、かつ、トップコート樹脂4はインキ5の印刷後においてエージング即ち「養生」されるものである。
すなわち、刊行物2には相違点1に係る本件発明1の構成が記載されている。
また、刊行物2記載の転写シートは、転写時において、転写層面に硬化型樹脂からなる接着剤7を層状に塗布して接着剤層を形成し、接着剤層が流動性を残している状態即ち完全に硬化しない間に基板8に貼着し、次いで、接着剤7が硬化した後に基体シート3を剥離するものである(記載事項2-a,d,e)。
刊行物2には、基体シート3を剥離する時点を、接着剤7の接着力が、トップコート樹脂4とインキ5からなる層即ち転写層と基体シート3間の接着力より接着剤7の層と基板8間及び転写層間において大きくなった時点以降とすることについて特には記載がないが、基体シート3を剥離したときに転写層を基板8側に残さなければならないのであるから、剥離時の接着力関係をこのようにすることは当然のことである。
すなわち、刊行物2には相違点2に係る本件発明1の構成も実質的に記載されている。
そして、刊行物2に記載されたこれらの技術的事項を刊行物1発明に適用することに阻害要因はないから、相違点1及び2は当業者であれば容易になし得た設計の変更である。
しかも、本件発明1は、相違点1及び2に係る構成を備えることで格別の作用効果を奏するものでもないから、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1について転写シートの剥離性基材シートと架橋性樹脂層間に剥離層を有することを限定したものであり、刊行物1発明との相違点は上記相違点1及び2に加え次の点である。
<相違点3>
本件発明2が転写シートの剥離性基材シートと架橋性樹脂層間に剥離層を有するのに対して、刊行物1発明は架橋性樹脂層も剥離層も備えていない点。
検討するに、相違点1及び2についての判断は上記「1)本件発明1について」で述べたとおりである。
相違点3について検討するに、本件特許明細書段落【0016】等によれば、剥離層は剥離性基材シートの剥離をさらに容易ならしめるためのものであるが、もともと剥離されるものの剥離をさらに容易にするために剥離層を設ける程度のことは当業者であれば容易に想起できることであるから、上述のように刊行物1発明に刊行物2記載の技術的事項を適用したものにおいて、その剥離性基材シートと架橋性樹脂層間に剥離層を有せしめることは必要に応じて適宜なし得ることである。
上記段落【0016】には剥離層は剥離性基材シートを剥離したときに被転写体側に残るものである旨の記載もあるが(本件発明2ではそのような限定はなされていない)、剥離層を被転写体側に残るようにすることは刊行物5に記載されている(記載事項5-a,e(剥離層4))ことでもある。
したがって、相違点1及び2に加え相違点3も当業者であれば容易になし得た設計の変更であり、しかも、本件発明2は、相違点1乃至3に係る構成を備えることで格別の作用効果を奏するものでもないから、少なくとも刊行物1、刊行物2及び刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2について架橋性樹脂層がシランカップリング剤を硬化剤とした2液硬化型樹脂からなることを限定したものであり、刊行物1発明との相違点は上記相違点1及び2(本件発明2を限定したものついては更に上記相違点3)に加え次の点である。
<相違点4>
本件発明3が2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層の2液硬化型樹脂についてシランカップリング剤を硬化剤としたのに対して、刊行物1発明はそもそも2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層を備えていない点。
検討するに、相違点1乃至3についての判断は上記「1)本件発明1について」及び「2)本件発明2について」で述べたとおりである。
相違点4について検討するに、2液硬化型樹脂による架橋性樹脂としてシランカップリング剤を硬化剤としたものは周知であり、転写シートの分野においても既に採用されているものでもある(刊行物5(記載事項5-a〜e))。
そして、上述のように刊行物1発明に刊行物2記載の技術的事項を適用したものにおいて、その2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層の2液硬化型樹脂として周知のシランカップリング剤を硬化剤とするものを適用することに阻害要因があるとはいえず、また、本件特許明細書段落【0017】等に記載された耐溶剤性向上の効果も予測できる程度のことにすぎない。
したがって、相違点1及び2(本件発明2を限定したものついては更に上記相違点3)に加え相違点4も当業者であれば容易になし得た設計の変更であり、しかも、本件発明3は、相違点1,2(本件発明2を限定したものついては更に上記相違点3)及び4に係る構成を備えることで格別の作用効果を奏するものでもないから、刊行物1、刊行物2に記載された発明及び周知の事項に基づいて、あるいは、少なくとも、これらに刊行物5に記載された発明を加えたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1乃至3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1乃至3に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
柱状基材への絵柄の転写方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 外表面に凹凸ないし曲面を有する柱状基材をその長軸方向へ搬送しつつ、転写シートを該柱状基材の搬送方向に柱状基材と同期する速度で搬送する工程で、該転写シートの転写層面、又は該柱状基材の外表面に硬化型樹脂接着剤を層状に塗工して接着剤層を形成し、該接着剤層が完全に硬化しない間に、転写シートをその転写層側を該柱状基材の外表面側として該柱状基材の外表面の表面に合致する形状を持つ複数のロールを用いて段階的に貼着し、次いで、該接着剤の接着力が、該転写層と剥離性基材シート間の接着力より該接着剤層と柱状基材間及び転写層間において大きくなった時点以降に、剥離性基材シートを剥離する柱状基材への絵柄の転写方法において、前記転写シートが剥離性基材シート、2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層、絵柄層からなり、架橋性樹脂層の上に絵柄層を形成後、養生し、その後、この転写シートを前記柱状基材に貼着することを特徴とした柱状基材への絵柄の転写方法。
【請求項2】 転写シートの剥離性基材シートと架橋性樹脂層間に剥離層を有する、請求項1記載の柱状基材への絵柄の転写方法。
【請求項3】 転写シートの架橋性樹脂層がシランカップリング剤を硬化剤とした2液硬化型樹脂からなる、請求項1又は2記載の柱状基材への絵柄の転写方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は柱状基材への絵柄の転写方法に関し、特に、窓枠や敷居のような建材として用いられる外表面が凹凸ないし曲面形状である柱状基材、さらには導管溝を表面に有する天然木材等の外表面に耐溶剤性に優れた絵柄を転写するのに特に適した改良された方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、アルミ、鉄等の金属系基材あるいは自然木、合板等の木質系基材からなる表面形状が凹凸ないし曲面形状である長尺物の外表面に適宜の絵柄を施したものが、窓枠、敷居、手摺等の建築材として、あるいは家具等の構成部材として広く用いられている。それらの柱状基材に対して絵柄を施す手段として、柱状基材を固定して配置しておき、熱転写シートをその転写層側を被転写基材である柱状基材側に向くようにして柱状基材上に重ね、加熱ロールにより転写シート上を加熱した後、剥離性基材シートのみを剥離し、転写層を基材上に転写するいわゆる熱転写ラミネート法、あるいは、ラッピング貼合せ機を用いる絵付け法であって、柱状基材をその長手方向に走行させる一方、柔軟性のある帯状のシートの片側に所望される意匠に応じて印刷用インキを付着して、該インキを未乾燥の状態で該シートのインキ付着面を該基材の外表面に圧接すると共に、シートを該基材と同方向に同速度で送り、その粘着力を利用して柱状基材の外表面にインキを転写したのちにシートを基材より剥離するいわゆるインライン転写法(特公平3-2666号公報等参照)等が知られている。
【0003】
従来の方法において、柱状基材を固定して配置しておき、その上に熱転写シートを重ね絵柄を転写していく熱転写ラミネート法は、一般に接着剤としてホットメルト系のものを用いるために転写シートの構成が複雑となり、また接着剤溶融のために高い熱量を必要とすることから電力消費量も大きくコスト的に高価なものとなっていた。さらに、平板状の平坦な基材に対しては良好な転写による絵付けが可能であるが、複雑な凹凸あるいは曲面を持つ基材に対して絵付けを行うことは困難であった。
【0004】
ラッピング貼合せ機を用いる絵付け法では、インラインで作業を行うことができ、また複雑な表面形状を持つ柱状基材に対しても転写シートを基材に押圧あるいは案内する押圧ロールの形状や装着位置を適宜選択する事により良好な絵付けを行うことが出来ることから有効な方法であるが、幾つかの不都合を有している。例えば、この方法は、基本的には印刷インキが未硬化ないしは溶剤未乾燥の間にその粘着力を利用して絵柄転写を行うものであり、剥離用シートに絵柄を印刷後短時間の間に転写を行うことが必要となる。そのため絵柄の品質の検査や不良絵柄が発生したときにその除去が困難となり不良絵柄を転写した柱状基材が製造されることになり、不良廃品となることから柱状基材として用いられる天然木材等の資源の損失と共にコストの向上になる。また転写時に印刷インキあるいは溶剤が未硬化であることから、転写時の加圧により絵柄が流動し、絵柄の変形あるいは滲み等による不良品が発生しやすい
【0005】
そこで本発明者等は、以上の如き欠点を解消する柱状基材への絵柄の転写方法として、特願平4-210483号を出願した。かかる方法により、前述した種々の欠点は解決されたが、新たな問題として、柱状基材面の転写による絵柄層は、表面に耐溶剤性皮膜が無いために、有機溶剤で拭くと簡単に絵柄層が溶け落ちてしまうという問題が確認された、そのために、転写シートを用いて絵柄転写を行った後、別途ウレタン系塗料等の後塗装によって耐溶剤性皮膜を施していた。そのために塗装工程という作業が別途必要となり、製造コストが大幅にアップするという問題が生じた。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、通常用いられているラッピング貼合せ機(曲面ラミネータ)を用いて柱状基材にたいして効率的に絵柄の転写を行うことができ、しかも木質基材の表面に転写による絵付けのみで耐溶剤性に優れた絵柄付柱状基材を得ることのできる、改良された柱状基材への絵柄の転写方法を提供する事にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の柱状基材への絵柄の転写方法は、外表面に凹凸ないし曲面を有する柱状基材をその長軸方向へ搬送しつつ、転写シートを該柱状基材の搬送方向に柱状基材と同期する速度で搬送する工程で、該転写シートの転写層面、又は該柱状基材の外表面に硬化型樹脂接着剤を層状に塗工して接着剤層を形成し、該接着剤層が完全に硬化しない間に、転写シートをその転写層側を該柱状基材の外表面側として該柱状基材の外表面の表面に合致する形状を持つ複数のロールを用いて段階的に貼着し、次いで、該接着剤の接着力が、該転写層と剥離性基材シート間の接着力より該接着剤層と柱状基材間及び転写層間において大きくなった時点以降に、剥離性基材シートを剥離する柱状基材への絵柄の転写方法において、前記転写シートが剥離性基材シート、2液硬化型樹脂による架橋性樹脂層、絵柄層(絵柄印刷層)からなり、架橋性樹脂層の上に絵柄層を形成後、養生し、その後、この転写シートを前記柱状基材に貼着することを特徴とする。また、架橋性樹脂層には、好ましくはシランカップリング剤を硬化剤とする2液硬化型樹脂を用いる。
【0008】
【作用】
上述の本発明の方法は、予め別工程として、既に印刷、乾燥、硬化させた絵柄層と架橋性樹脂層を少なくとも有する転写層を剥離性基材シート面に有する帯状の転写シートを用いて、硬化型樹脂接着剤を介して、接着転写を行うことにあり、構成として、剥離層と絵柄印刷層との間に架橋性樹脂層を有することとなり、溶剤による柄落ちを押さえる役目を果たす。
【0009】
【実施例】
以下、図面を引用して本発明を説明する。
図1は本発明の柱状基材への絵柄の転写方法により得られた絵柄付柱状基材の積層構成を示す断面図、図2は本発明の実施に用いられるラッピング貼合せの一例を示す斜視図、図3は本発明の剥離性基材シートを剥離する状態を説明する斜視図である。
【0010】
本発明の絵柄付柱状基材1の構成は図1に示すように、柱状基材2の表面に硬化性接着剤層3を介して絵柄印刷層4、架橋性樹脂層5、剥離層6が積層された構成であり、前記架橋性樹脂層5が絵柄印刷層4の全面を覆って設けられている。
【0011】
また、この絵柄付柱状基材1を製造する方法としては、図2に示すような装置により行う。この装置は公知のラッピング貼合せ機と同様のものである。すなわち、図2はそのような公知のラッピング貼合せ機の一例を示す斜視図であり、適宜の駆動手段により駆動されるベルトコンベア10上に順次柱状基材2が載置され、図において左方から右方に移送される。
【0012】
一方、上方から転写シート8が該柱状基材2の移送速度と同期した速度で引き出され、複数の押圧ロールR1〜Rnにより柱状基材2の外表面に順応して密接される。即ち、図2に示すように、まず、押圧ロールR1により転写シート8の柱状基材2の幅方向中央部分に位置する箇所が柱状基材2に密着され、次いで、押圧ロールR2により転写シート8のより側方部分が柱状基材2の外表面形状に沿って折曲された後、押圧ロールR4、R5により順次、柱状基材の幅方向の側方に向けて転写シート8は密着される。このように、中央部分から幅方向の側方部分に向けて順次密着させていくことにより、柱状基材2と転写シート8との密着面に間隙や気泡が生じるのを防止することができる。柱状基材2の全長にわたり転写シート8が密着された状態で柱状基材2は次のベルトコンベア10aに移送される。
【0013】
剥離性基材シート7の剥離は任意の手段で行うことができるが、図3に示すように柱状基材2の外表面の形状に対応した複数の押圧ロールr1〜rnを図2に示す貼着の場合とは逆の順に配置し、柱状基材2の側方部から順次剥離していくことにより、シートの破れもなく絵柄の乱れもない状態で綺麗に剥離することが出来る。剥離性基材シート7を剥離後の柱状基材は表面に絵柄印刷層4、架橋性樹脂層5等の転写層が転写された絵柄付柱状基材1として、コンベア10aから取り出される。
【0014】
本発明による絵柄の転写方法により転写される柱状基材の断面形状には特に制限はなく、従来知られたラッピング貼合せ機(曲面ラミネート機)によりその外表面上に転写シートを貼着しうる断面形状であればよい。また、その材質も任意であり、鉄、アルミニウム等の金属材、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、等の合成樹脂材、檜、杉、ラワン等の天然木材、あるいは合板、パーチクルボード、等の木質系基材、陶磁器等の窯業製品基材等、目的とする最終製品に合わせて任意の材料を選択できる。
【0015】
本発明で使用する転写シート8に用いる剥離性基材シート7としては、転写層と剥離性のよい25〜150μmのフイルム体が用いられ、材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニル系フイルム等の合成樹脂フイルム又はシートの単層体又は複数の積層体、更には上質紙、薄葉紙等の紙質体と合成樹脂フイルムとの複合シートで合ってもよい。木質系基材の表面の導管溝を忠実に再現しようとする場合には、ある程度幅方向に伸びることが可能なポリプロピレン等のような熱可塑性フイルムを用いることが特に好ましい。
【0016】
剥離層6は剥離性基材シート7を剥離した際に被転写体側に残存するもので、両者の剥離を容易成らしめる効果を有するものである。このような剥離層6の材質としては種々のものが使用でき、例えば、剥離性基材シート7がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン系の場合アクリル系、ブチラール系の樹脂が望ましく、ポリ塩化ビニル系の場合はセルロース系の樹脂が望ましい。又、転写フィニッシュとなり剥離層6が絵付け柱状基材1の最表面に来るため、若干のワックス成分を含有する事が望ましい。
【0017】
架橋性樹脂層5は、剥離層6と絵柄印刷層4の間に設けられて構成されて成るものである。このような架橋性樹脂層5は一層に限らず二層以上積層することも可能であり、このような層を設けることにより転写された転写体の耐溶剤性を向上することが可能となる。架橋性樹脂層5の材質としてはシランカップリング剤を硬化剤とした2液硬化型の樹脂が好ましく、又、架橋性樹脂層5の厚みによってもその耐溶剤性効果が左右されるために、4μm以上設けることが望ましい。更にその耐溶剤性を効果有るものとするために、養生として室温/1週間、もしくは40℃/3日間置くことによって完全な効果を発揮する。
【0018】
絵柄印刷層4は全面に設けてもよく部分的に模様状に設けてもよいが、天然木には特有のテリ感や深みがあり、木肌感もあるから、天然木に近い化粧板を得るためには、このテリ感、深み、木肌感を再現しなければならない。そのため前記絵柄印刷層を全面に設けるのでなく、下地を隠蔽しない程度の「ぬけ柄」として印刷し、この抜け部分からラワン合板等の天然木基材を透視することが出来るようにする。
【0019】
本発明においては、剥離性基材シート表面に印刷、塗工等した後、硬化、乾燥し、被粘着かつ被流動性の固体皮膜となった転写シートを、予め別工程として用意しておく。用意された転写シートを天然木基材に貼着する工程の直前に、該転写シートの絵柄層面にあるいは木質基材の表面に別途塗工する。転写シート側に塗工するには、ロールコート、グラビアコート、リバースロールコート、コンマコート、ナイフコート等の手段が有効に用いることが出来、又、木質基材側に塗工するには、吹付塗工、ハケ塗り、静電塗装等が木質基材の外表面の凹凸形状に合わせて適宜選択して用いうる。
【0020】
硬化性接着剤層3は、転写層を被転写体に転写、接着させるための層で、硬化型樹脂接着剤としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアクリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは、分子中に重合性不飽和結合又は、エポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマー、及び/又は単量体を適宜混合した組成物である電離放射線硬化性樹脂が好適に用いられる。
【0021】
接着剤の組成の一部として希釈溶剤を用いた場合には、転写シートを木質基材に貼合せる前に、温風、赤外線等で該溶剤を予め乾燥させることが好ましい。それにより、貼合せ後に気化した溶剤により転写シートが浮き上がること、あるいは溶剤による木質基材あるいは転写層の変質、劣化を防止することができる。
【0022】
実施例1
マットOPPフイルム(東洋紡製、P-4166、25μm)を剥離性基材シートとし、この上にアクリル樹脂(昭和インク製、ハクリ467)を塗布して剥離層を形成し、更にこの上にシランカップリング剤を硬化剤とした2液硬化型樹脂(昭和インク製、タイソルアンカー)を乾燥時の塗布量が2g/m2となるように塗布して架橋性樹脂層を形成した。次に架橋性樹脂層の上に絵柄印刷層(昭和インク製、化X)を形成して転写シートを予め用意した。上記転写シートを40℃で3日間養生した後、希望する所定の幅にスリットする。
次いで、通常用いられる曲面ラミネーター(丸仲商事製、PC-300E)の転写シート移送経路の途中にナイフコータ手段を位置させ、転写シートの転写層面に接着剤(カネボウNSC製、RL-910)を塗布(塗布量:100g/m2)した。接着剤を塗布した転写シートを希望する形状に加工した天然木基材(ラワン材)に曲面ラミネートした。その時の速度は15m/minとした。
ラミネートと同時に乾燥と加熱を行い、接着剤を硬化させた。乾燥温度は60〜70℃、ラッピング温度は20〜40℃とした。接着剤硬化後(1昼夜〜3日以上)放置したあと、剥離性基材シートのみを剥離することにより絵付けを施した天然木化粧板が得られた。
【0023】
比較例1
架橋性樹脂層を設けずに剥離層の上に直接絵柄層を形成した以外は実施例1と同様にして転写シートを得た。得られた転写シートを用いて同様の転写を行って化粧板を得た。
【0024】
そして、以上の実施例および比較例で得られた化粧板の塗膜について、溶剤性に対する評価を以下の試験方法で行った。
(1)JAS特殊合板耐シンナー試験
ラッカーシンナーを滴下し、時計皿で覆い室温に6時間放置、その後時計皿を除き室温に24時間放置し柄が落ちないこと。
(2)DNP建材耐シンナー試験
ラッカーシンナーを染み込ませたガーゼで、1500g荷重にて50回往復ラビングを行い柄が落ちないこと。
【0025】
【表1】

【0026】
その結果、表1に示すように、比較例1においては、JAS試験には合格であるが、ラッカーシンナーを浸したDNP試験では不合格であった。
【0027】
これに対し、本発明による実施例1では、ラッカーシンナーを浸したDNP試験にも合格し、十分な耐溶剤性に優れた天然木化粧板を得ることができた。
【0028】
【発明の効果】
以上説明した如く、本発明による方法によれば、剥離性基材シートと密着する側に剥離層を設け、この剥離層を介して耐溶剤性を有する架橋性樹脂層を絵柄印刷層との間に設けた転写シートを用いて、木質基材の表面に接着剤を介して転写積層された構成のために、後塗装をせずとも耐溶剤性に優れた天然木調の柱状基材を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の柱状基材への絵柄の転写方法により得られた絵柄付柱状基材の積層構成を示す断面図である。
【図2】
本発明の実施に用いられるラッピング貼合せの一例を示す斜視図である。
【図3】
本発明の剥離性基材シートを剥離する状態を説明する斜視図である。
【符号の説明】
1 絵柄付柱状基材
2 柱状基材
3 硬化性接着剤層
4 絵柄印刷層
5 架橋性樹脂層
6 剥離層
7 剥離性基材シート
8 転写シート
10ベルトコンベア
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-25 
出願番号 特願平5-183284
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B41F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 藤井 靖子
番場 得造
登録日 2002-11-01 
登録番号 特許第3364725号(P3364725)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 柱状基材への絵柄の転写方法  
代理人 金山 聡  
代理人 金山 聡  

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