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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D06M |
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管理番号 | 1101133 |
異議申立番号 | 異議2002-70340 |
総通号数 | 57 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-06-19 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-02-12 |
確定日 | 2004-06-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3198101号「セルロース系繊維の形態安定加工方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3198101号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3198101号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成11年12月8日に出願され、平成13年6月8日にその設定登録がなされ、その後、その請求項1〜3に係る発明の特許について、異議申立人日清紡績株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年8月7日に特許異議意見書と訂正請求書(後日取り下げ)が提出され、その後、訂正拒絶理由の通知を兼ねた再度の取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年4月27日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 特許権者が求める訂正の具体的内容は、以下のとおりのものである。 訂正事項1: 特許請求の範囲の請求項1の 「液体アンモニア処理を施したセルロース系繊維を、予め繊維に対して20重量%以上の水分を付与した状態で高温高圧水蒸気処理を行うセルロース繊維の形態安定加工方法。」を 「液体アンモニア処理を施したセルロース系繊維を、予め繊維に対して20〜50重量%の水分を付与した状態で4〜10kg/cm2(絶対圧)の処理圧力で高温高圧水蒸気処理を行うセルロース繊維の形態安定加工方法。」と訂正する。 訂正事項2: 特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を削除する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項1は、特許明細書の段落【0007】における、「セルロース系繊維を・・・予め繊維に対して・・・好ましくは20〜50重量%の水分を繊維に含ませておく」という記載、及び、段落【0009】における、「含水セルロースの高温高圧水蒸気処理は、セルロース系繊維を・・・好ましくは4〜10kg/cm2の高温高圧水蒸気中で行う」という記載に基づき、予め繊維に対して付与される水分を「20〜50重量%」と限定し、水蒸気処理の圧力を「4〜10kg/cm2(絶対圧)」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 上記訂正事項2は、請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 そして、上記訂正事項1〜2の訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立てについての判断 (1)特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人日清紡績株式会社は、甲第1号証(特開平11-124768号公報)、甲第2号証(特開平11-217768号公報)、甲第3号証(特開平4-352867号公報)、甲第4号証(特開平9-31830号公報)及び甲第5号証(特開平5-33259号公報)を提出し、 訂正前の本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。 (2)本件請求項に係る発明 上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】液体アンモニア処理を施したセルロース系繊維を、予め繊維に対して20〜50重量%の水分を付与した状態で4〜10kg/cm2(絶対圧)の処理圧力で高温高圧水蒸気処理を行うセルロース繊維の形態安定加工方法。」 (3)甲各号証に記載の事項 甲第1号証 ア.「【請求項1】 セルロース系繊維構造物を液体アンモニア処理した後、しわ付け又はプリーツ加工を行い、その後スチーム処理することを特徴とするセルロース系繊維構造物の耐久性しわ付け又はプリーツ加工方法。 【請求項2】スチーム処理の温度が98〜150℃である請求項1記載の方法。」(請求項1、2) イ.「【0010】液体アンモニア処理は、例えば、セルロース系繊維構造物を常圧で-33℃以下の温度に保持された液体アンモニアに含浸することによって行うことができる。・・・セルロース系繊維構造物のしわ付け又はプリーツ加工は、しわ付け加工機又はプリーツ加工機を用いる・・・スチーム処理は、セルロース系繊維構造物を通常98〜150℃、好ましくは98〜130℃の範囲の温度のスチームと接触させることにより行う。・・・スチーム処理の時間は、・・・通常5分から4時間、好ましくは15分から2時間である。」(段落【0010】〜【0014】) ウ.「 〔実施例1〕綿100%50番平織物・・・を常法で漂白し、・・・液体アンモニア含浸処理し、・・・ 続いて・・・織物全体に存在する程度にしわ付けし、その後高圧高温スチーマー中で温度130℃×1時間高圧スチーム処理し、脱水、乾燥し、テンターで仕上げた。」(段落【0018】〜【0019】) 甲第2号証 エ.「【請求項1】 セルロース系繊維含有構造物を液体アンモニア処理した後、スチーム処理することを特徴とするセルロース系繊維含有構造物の防縮加工方法。 【請求項2】スチームの温度が98〜150℃である請求項1記載の方法。」(請求項1、2) オ.「【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、セルロース系繊維含有構造物を液体アンモニア処理することによって得られるセルロースIII結晶構造を有するセルロース系繊維含有構造物を更にスチーム処理することにより、耐久性のある優れた防縮性を有するセルロース系繊維含有構造物が得られることを知見した。」(段落【0011】) カ.「【0026】なお、本発明の防縮加工方法によると、生地強力低下が少なくかつ防縮性が高くなる理由の詳細は必ずしも明らかでないが、以下のような理由によるものと思われる。 【0027】・・・これら複数の結晶構造からなるセルロース系繊維含有構造物を液体アンモニア処理すると、・・・結晶領域にも液体アンモニアが浸透し、水素結合が破壊され全体が膨潤する。・・・即ち、結晶領域ではセルロースIII結晶構造が生じ、膨潤状態の形で結晶が固定されることになる。 【0028】次いで、スチーム処理を行うとセルロース系繊維含有構造物中のセルロースIII結晶構造はより安定な状態の結晶構造であるセルロースI又はセルロースII結晶構造に戻るが、・・・その結果、その後の洗濯の際の水による膨潤の影響は生じないこととなり、生地強力低下が少ない上に、耐久性のある優れた防縮性を付与し得るものと考えられる。」(段落【0026】〜段落【0028】) 甲第3号証 キ.「【請求項1】 樹脂加工剤が付与されていないセルロース系繊維を水蒸気雰囲気中で湿熱処理することを特徴とするセルロース系繊維の改質加工方法。」(請求項1) ク.「【0010】本発明において、特別な前処理や後処理は不要であるが、水蒸気処理の前に80%owfから10%owfの水分を付与させると水蒸気処理効果が促進されより好ましい。」(段落【0010】) ケ.「【実施例1、2 比較例1〜6】 糊抜き、精錬、染色後のキュプラアンモニウムレーヨン・・・を用意し、湿熱処理器中を真空とした後、処理器中の温度が100℃、130℃になるように160℃の過熱水蒸気を入れ15分間湿熱処理した。」(段落【0013】) コ.「【0022】 【発明の効果】本発明の水蒸気雰囲気中での湿熱処理による改質加工方法によれば、・・・洗濯時には大幅な収縮を生じることがなく実用上充分な防縮性を付与しうるものである。又、樹脂加工剤などを全く使用しないため、・・・遊離ホルムアルデヒドによる皮膚障害の心配もないという顕著な効果を奏する。」(段落【0022】) 甲第4号証 サ.「【請求項1】 セルローズ系繊維・・・を主体とする繊維製品に対して形態安定化処理を行う方法であって、上記繊維製品に対し水分を付与する工程と、水分が付与された上記繊維製品を・・・減圧する工程と、減圧された上記密閉容器内に、過熱蒸気を供給する工程と、上記密閉容器内に供給された過熱蒸気によって繊維製品を所定温度で所定時間熱セットする工程からなることを特徴とする繊維製品の形態安定化処理方法。」(請求項1) シ.「【0003】上記形態安定化処理としては、ホルマリン系樹脂やアンモニア等の薬品を繊維に付与し、繊維の分子配列に架橋を形成して繊維の形状を保持する方法がよく知られている。」(段落【0003】) ス.「【0012】なお、本発明では、上記繊維製品を密閉容器内に装填するに先立ち、繊維製品に対し、水分付与を行う必要がある。これは、・・・繊維内を形態安定化に最適な条件に導いて、水分の過不足がない状態で均一に処理を行うようにしたものである。 【0013】上記繊維製品に対する水分の付与率は適宜に設定されるが、通常10〜20重量%に設定することが好適である。・・・水分が上記範囲よりも多いと、処理後の工程において脱液,乾燥工程が必要となり、手間がかかるからである。」(段落【0012】〜【0013】) セ.「【0021】つぎに、・・・密閉容器1内に過熱蒸気を供給する。このとき、上記過熱蒸気は、通常、温度120〜200℃、圧力2.0〜16.0kg/cm2に設定することが好適である。」(段落【0021】) 甲第5号証 ソ.「【請求項1】 セルロ―スからなる繊維を高圧水蒸気で処理することを特徴とするセルロ―ス繊維の処理方法。」(請求項1) タ.「上記のごときセルロ―ス繊維の欠点を改良すべく、・・・近年になっては、セルロ―ス繊維を液体アンモニアに浸漬処理する方法・・・があり、・・・ しかしながら、カセイソ―ダ水溶液や液体アンモニアの処理では、処理中にフィラメント間で溶着現象を生じて風合が硬くなり、切断伸度や屈曲摩耗強度が低下する等の欠点があった。」(段落【0002】) チ.「本発明の高圧水蒸気処理において、高圧とは、絶対圧力で3kg/cm↑2から40kg/cm↑2の範囲、好ましくは4kg/cm↑2から15kg/cm↑2の範囲であり、さらに好ましくは5kg/cm↑2から8kg/cm↑2の範囲である。」(段落【0005】) (4)対比・判断 本件発明と甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明とを対比する。 甲第1号証には、上記ア〜ウより、「液体アンモニア処理を施したセルロース系繊維を、高温高圧水蒸気処理を行うセルロース繊維の形態安定加工方法。」の発明が記載されていると認められ、また、甲第2号証には、上記エ〜カより、「液体アンモニア処理を施したセルロース系繊維を、高温高圧水蒸気処理を行うセルロース繊維の形態安定加工方法。」の発明が記載されていると認められ、本件発明と甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明とは「液体アンモニア処理を施したセルロース系繊維を、高温高圧水蒸気処理を行うセルロース繊維の形態安定加工方法。」の点で一致するが、次の点で相違するものと認められる。 (相違点1)本件発明においては、高温高圧水蒸気処理を予め繊維に対して20〜50重量%の水分を付与した状態で行うのに対して、甲第1号証及び甲第2号証にはこの水分を付与することについて記載されてない点。 (相違点2)本件発明においては、高温高圧水蒸気処理の処理圧力が4〜10kg/cm2(絶対圧)であるのに対して、甲第1号証及び甲第2号証にはこの処理圧力について記載されてない点。 そこで、これら相違点について検討する。 甲第3号証には、上記キ〜コより、セルロース系繊維を改質のため過熱水蒸気により湿熱処理すること、この水蒸気処理の前に80%owfから10%owfの水分を付与させることが記載されているが、セルロース系繊維が液体アンモニア処理を施したものではなく、水分付与率も本件発明の20〜50重量%と大きく異なり、また、過熱水蒸気処理圧力についても具体的な数値は示唆されていない。 一方、甲第4号証には、上記サ〜セより、セルローズ系繊維製品に通常10〜20重量%の水分を付与し、この水分が付与された繊維製品を圧力2.0〜16.0kg/cm2過熱蒸気によって熱セットする繊維製品の形態安定化処理方法が記載されていると認められ、水分付与率において、20重量%で相違点1と重複するもの、また、過熱蒸気圧力においても、2.0〜16.0kg/cm2と相違点2と重複するものが記載されているが、セルロース系繊維製品が液体アンモニア処理を施したものではない。 すなわち、甲第4号証における繊維製品の形態安定化処理方法は、単にアンモニア処理方法の欠点を改良したもの(上記シ)、所謂アンモニア処理方法の代わりに上記形態安定化処理方法を開発したものと認められ、甲第4号証の形態安定化処理方法をアンモニア処理方法に組み合わせる技術的思想は、甲第4号証には認識されておらず、示唆されていない。 してみると、甲第4号証の技術事項を甲第1号証又は甲第2号証に記載のものに組み合わせる根拠はない。 また、甲第5号証のものも、液体アンモニア処理の代替技術にすぎないものであり(上記タ)、上記相違点1に係る繊維に対して20〜50重量%の水分を付与することについても、何ら記載も示唆もなく、また、甲第1号証又は甲第2号証に記載のものに組み合わせる根拠もない。 そして、本件発明は、この点により本件特許明細書に記載するような作用効果を生じるものである。 したがって、本件発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得た発明であるとは認められない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申し立ての理由及び証拠によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セルロース系繊維の形態安定加工方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 液体アンモニア処理を施したセルロース系繊維を、予め繊維に対して20〜50重量%の水分を付与した状態で4〜10kg/cm2(絶対圧)の処理圧力で高温高圧水蒸気処理を行うセルロース繊維の形態安定加工方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、セルロース系繊維の形態安定加工方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 セルロース系繊維は地球上に豊かに存在する繊維であり、古くから衣料用原料として好んで使用されてきた。セルロース繊維系は再生産性に優れていると同時に自然分解性の物質であり、環境面でもその利点が見なおされている。 またセルロース系繊維は良好な吸湿性、吸水性および風合いを有し、且つ加工のしやすさ等優れた性能を持っている。しかし一方で洗濯による縮み、洗濯繰り返しに伴う風合いの硬化等の欠点を有する。またセルロース系繊維を用いた生地にしわ付けやプリーツ加工を施したものは、洗濯を繰り返すうちにしわやプリーツが次第に失われていくと言う欠点がある。 【0003】 これらの欠点を取り除き、形態安定性(防縮性、耐久しわ付け加工、プリーツ保持性等)をセルロースに付与するために従来から種々の改良研究が行われてきた。従来からの改良方法には樹脂加工方法、ホルマリン等の薬剤を使用する薬剤法、高温熱処理方法、蒸気処理方法等がある。しかし、これら従来の方法はいくつかの問題があったり、あるいは効果が不十分であった。例えば樹脂加工を行った生地は強度が低下したり、風合いが硬くなるという問題を残している。薬剤処理では生地にホルマリンが残留するという問題がある。 【0004】 樹脂や有害薬品を使用しない形態安定加工方法もいくつか提案されている。特開平10-1864号公報、特開平10-18138号公報、特開平10-37062号公報、特開平10-37067号公報にはセルロース系繊維構造物を液体アンモニア処理したのち熱水処理する方法、特開平11-131368号公報には液体アンモニア処理したのち温水処理する方法が記載されており、特開平11-124768号公報および特開平11-217768号公報には液体アンモニア処理したセルロース系繊維構造物をそれぞれしわまたはプリーツを付けた状態でまたは無緊張状態で98〜150℃のスチームで処理する方法が開示されている。しかしいずれの方法も十分には満足できる効果をあげるに至ってない。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、樹脂や有害な薬剤を使用することなく、セルロース系繊維またはセルロース系繊維を含む生地を変色させることなく、優れた形態安定性を付与することを意図したものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明は、液体アンモニア処理を施したセルロース系繊維を、予め繊維に対して20重量%以上の水分を付与した状態で高温高圧水蒸気処理を行うセルロース繊維の形態安定加工方法に関する。 【0007】 【発明の実施の形態】 本発明の加工方法の特徴は、セルロース系繊維を液体アンモニア処理を行った後高温高圧水蒸気処理を行うに当たって、予め繊維に対して20重量%以上、好ましくは20〜50重量%の水分を繊維に含ませておくところにある。これによって従来得られなかった優れた形態安定効果が得られることが明らかになった。 液体アンモニア処理は、例えばセルロース系繊維を常圧下で-33℃以下の温度に保持された液体アンモニアに含浸することによって行なうことができる。含浸方法としては、液体アンモニア浴中に浸漬する方法、液体アンモニアをスプレーする方法またはコーティングする方法等が使用できる。一般には、液体アンモニア含浸時間は5〜40秒が適当である。液体アンモニア処理後セルロース系繊維に付着したアンモニアは加熱して除去する。本発明において、液体アンモニア処理に使用する薬剤としては、液体アンモニアのほか、場合によってはメチルアミン、エチルアミンを使用することもできる。 【0008】 液体アンモニア処理を実施したセルロース系繊維には、続く蒸気処理に先だって、繊維に対して20重量%以上、好ましくは20〜50重量%の水分を含ませる。この量の水分を付与するには、繊維を水中に浸漬したのち取り出して、所定の水分量となるまでマングル等で絞ってもよいし、計量した水をスプレーで繊維に吹き付けてもよい。 水蒸気処理に当たって、繊維に上記範囲の水分を含ませておくことにより、そうでない場合に較べて著しく優れた形態安定性が得られる。更に予め所定量の水分を付与することにより水蒸気処理で生じる黄変を防止することができる。水分含有量が20重量%より少ないと黄変が生じるため好ましくない。 【0009】 含水セルロースの高温高圧水蒸気処理は、セルロース系繊維を4kg/cm2以上、好ましくは4〜10kg/cm2の高温高圧水蒸気中で行う。高温高圧水蒸気による処理時間は水蒸気の圧力に依存するため一概に言えないが、通常1〜60分、好ましくは5〜30分である。水蒸気圧が4kg/cm2未満では形態安定性が不十分であり実用的ではない。 高温高圧水蒸気処理を行うに当たっては、被処理繊維に防縮性を付与するか、しわまたはプリーツを所望の状態に保持することができ、且つ高温高圧水蒸気処理を行なうことができる装置を使用することが好ましいが特に限定されるものではない。このような装置としては、例えば高圧チーズ染色機、高圧ビーム染色機、高圧液流染色機等の高圧容器を利用することができる。 水蒸気処理後のセルロース繊維の乾燥は、特に制限されず、通常の乾燥工程で行われる。 【0010】 セルロース系繊維のしわ付けまたはプリーツ加工は、しわ付け加工機またはプリーツ加工機を用いて行なうことができるが、その他、手揉みによる方法、袋や箱、管状体等にセルロース系繊維を押し込む方法、糸を用いて繊維製品や生地を結束し絞りを施す方法、いわゆる絞り染めの方法等によって行なうことができる。 【0011】 防縮性は、通常繊維製品について問題となるものであり、セルロース繊維製品の場合防縮加工が十分になされていないと洗濯-乾燥の繰り返しによって製品が縮み、形態変化を生じる。製品の織りまたは編み組織、織物や編物の糸密度、製品の形状等の条件によって異なるが、セルロース繊維製品の場合、一般に10回洗濯後の洗濯収縮率は3〜10%に達するが、本発明の方法によれば、樹脂加工を施すことなく、0.5〜2%程度に抑えることができる。 【0012】 本発明では、繊維へのしわ付けまたはプリーツ加工は、液体アンモニア処理後に行い、次いでしわまたはプリーツを付与したのち、あるいはしわ付けまたはプリーツ付与を行いながら高温高圧水蒸気処理を行うことが好ましく、これによってしわまたはプリーツに優れた洗濯耐久性を付与することができる。 【0013】 本発明でセルロース系繊維とは、綿、麻等の天然セルロース繊維、ビスコース法レーヨン、銅アンモニア法レーヨン、ポリノジック、高強度再生セルロース繊維(例えば「テンセル」)等の再生セルロース繊維を含む。またこれら天然または再生セルロース繊維にポリエステル、ポリアミド等の合成繊維等を混用した混紡・混撚、交織・交編繊維(以下、これらを複合繊維とも言う)、セルロース系繊維同志の複合繊維も含むことができる。繊維の形態としては、糸、織物、編物、不織布、繊維製品等が含まれる。 【0014】 【実施例】 以下、実施例によって本発明をより具体的且つ詳細に説明する。 実施例1 木綿繊維を用いて20番手単糸経糸密度117本/インチ、10番手単糸緯糸密度52本/インチの平織物を織り上げた。これを常法で精錬漂白し、-34℃で10秒間液体アンモニア中に含浸して処理した。液体アンモニア処理した布地を使ってパンツ(縫製品)を作り、プレス機でプリーツ付与を行った。このパンツの重量に対して20%の水分をスプレーで付与し、高温高圧処理装置に入れ圧力6kg/cm2で10分間高温高圧蒸気処理した。処理を施したパンツを洗濯-乾燥のサイクルにかけ、洗濯サイクル回数とプリーツの残留状態との関係を評価した。なお、洗濯はJIS L0217に記載の取り扱い絵表示における番号103の家庭洗濯に準じて行い、乾燥はタンブルを用いて行った。 またプリーツの代わりにしわ付与を行ったものについても同様に洗濯サイクル回数としわ残留状態との関係を評価した。しわ付与は、液体アンモニア処理した上記布地を管状体に詰め込んで行った。 また、防縮性を評価するために、無緊張状態で上記生地をセットして、同様に高温高圧処理を行い、洗濯10回後の寸法変化率を測定した。 プリーツまたはしわの残留評価は目視にて行った。結果を表1に示した。 【0015】 実施例2〜4 高温高圧水蒸気処理に付す時の布地への付与水分率、水蒸気処理の蒸気圧力および時間を表1に示すように設定した以外は、実施例1と同様にして処理および評価を行った。評価結果は表1に示した。 【0016】 比較例1 実施例1において、液体アンモニア処理のみを行い、高温高圧水蒸気処理は行わなかった。 【0017】 比較例2〜3 高温高圧水蒸気処理に付す時の布地への付与水分率、水蒸気処理の蒸気圧力および時間を表1に示すように設定した以外は、実施例1と同様にして処理および評価を行った。評価結果は表1に示した。 【0018】 比較例4〜7 液体アンモニア処理を施す代わりに、6重量%濃度苛性ソーダ水溶液によりシルケット加工を施した。高温高圧水蒸気処理に付す時の布地への付与水分率、水蒸気処理の蒸気圧力および時間を表1に示すように設定した。 評価結果は表1に示した。 【0019】 【表1】 【0020】 なお表1における各評価項目の評価基準は次の通りである: 〔プリーツ保持性〕 ○:シャープなプリーツが残っている △:弱いプリーツが残っている ×:かすかにプリーツが残っているかプリーツが全くない。 〔しわ耐久性〕 ○:シャープなしわが残っている △:弱いしわが残っている ×:かすかにしわが残っているかしわが全くない。 〔加工後の黄変〕 ○:黄変なし〜わずか △:黄変中程度 ×:黄変著しい。 【0021】 実施例5〜8 木綿繊維を用いて50番手単糸経糸密度114本/インチ、50番手単糸緯糸密度78本/インチの平織物を織り上げ、縫製品が薄地シャツである以外は、それぞれ実施例1〜4と同じ処理を行って、プリーツおよびしわの評価を行い、寸法変化率を測定した。処理条件および結果を表2に示した。 【0022】 比較例8〜14 実施例5と同じ縫製品を用いた以外は、それぞれ比較例1〜7と同じ処理を行って、プリーツおよびしわの評価を行った。 た。処理条件および結果を表2に示した。 【0023】 【表2】 【0024】 【発明の効果】 セルロース繊維に本発明の加工方法を施すことにより、加工による変色がなく、付与したプリーツやしわ等の形態の洗濯耐久性および防縮性を顕著に向上することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-05-27 |
出願番号 | 特願平11-348614 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(D06M)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
鈴木 由紀夫 |
特許庁審判官 |
野村 康秀 鴨野 研一 |
登録日 | 2001-06-08 |
登録番号 | 特許第3198101号(P3198101) |
権利者 | 棚橋 光彦 倉敷紡績株式会社 |
発明の名称 | セルロース系繊維の形態安定加工方法 |
代理人 | 西川 裕子 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 皆崎 英士 |
代理人 | 皆崎 英士 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 皆崎 英士 |