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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F23Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F23Q
管理番号 1102304
審判番号 不服2001-10339  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-06-19 
確定日 2004-08-04 
事件の表示 平成 8年特許願第512655号「セラミック点火器に使用される焼結セラミック」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月18日国際公開、WO96/11361、平成10年 1月20日国内公表、特表平10-500766〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1995年10月5日(優先権主張外国庁受理1994年10月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成13年3月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月18日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成13年7月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成13年7月18日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 (a)50〜80体積%の窒化アルミニウム、
(b)10〜45体積%の炭化ケイ素、
(c)5〜25体積%の二ケイ化モリブデン、及び
(d)2.0〜20体積%の酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、又はこれらの混合物、
を含んでなる焼結セラミック。
【請求項2】 120〜230Vの印加電圧で加熱される点火器の発熱部分に使用される請求項1に記載のセラミック。
【請求項3】 (a)50〜80体積%の窒化アルミニウム、
(b)10〜45体積%の炭化ケイ素、
(c)5〜25体積%の二ケイ化モリブデン、及び
(d)2.0〜20体積%の酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、又はこれらの混合物、
を含んでなる、緻密化させてセラミック焼結体を得るための素地。
【請求項4】 (a)50〜80体積%の窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物、
(b)10〜45体積%の炭化ケイ素、
(c)5〜25体積%の二ケイ化モリブデン、及び
(d)2.0〜20体積%の酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、又はこれらの混合物、
を含んでなり、2〜10μmの平均粒径を有する焼結セラミック。
【請求項5】 120〜230Vの印加電圧で加熱される点火器の発熱部分に使用される請求項4に記載のセラミック。
【請求項6】 (a)50〜80体積%の窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物、
(b)10〜45体積%の炭化ケイ素、
(c)5〜25体積%の二ケイ化モリブデン、及び
(d)2.0〜20体積%の酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、又はこれらの混合物、
を含んでなり、2〜10μmの平均粒径を有する、緻密化させてセラミック焼結体を得るための素地。」と補正された。
上記補正は、本件補正後の請求項1ないし3については、本件補正前の請求項1ないし3に記載された発明における「窒化アルミニウム、窒化ケイ素又はこれらの混合物」を「窒化アルミニウム」のみとし、本件補正後の請求項4ないし6については、本件補正前の請求項1ないし3に記載された発明における「焼結セラミック」について「2〜10μmの平均粒径を有する」ことを限定するものであり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項4に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特公平4-61832号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、
「窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化硼素及びそれらの混合物から成る群から選択された窒化物30〜70体積%、炭化珪素10〜45体積%及び二珪化モリブデン5〜50体積%から全体として構成され、且つ、密度が理論密度の少なくとも85%であつて、組成を異にする発熱帯域と非発熱端部とを有する電気抵抗器。」(特許請求の範囲請求項1)、
「当該抵抗器が点火器である特許請求の範囲第1項記載の電気抵抗器。」(特許請求の範囲請求項8)、
「10 前記窒化物が窒化珪素であり、焼結の際に酸化マグネシウムを生じる焼結助剤が焼結時に使用されている特許請求の範囲第1項記載の電気抵抗器。
11 平均粒径3μmの窒化珪素粉末40〜70体積%、平均粒径約3μmの炭化珪素10〜40体積%、粒径約3μmの二珪化モリブデン5〜30体積%から本質的になり、且つ焼結の際に酸化マグネシウムを生じる焼結助剤が0.5〜3.0体積%使用され、且つ少くとも2.62mg/m3の密度を有する特許請求の範囲第10項記載の電気抵抗器。
12 前記窒化物が窒化アルミニウムである特許請求の範囲第1項記載の電気抵抗器。
1 当該抵抗器が平均粒径約3μmの窒化アルミニウム粉末40〜65体積%、平均粒径約3μmの炭化珪素10〜40体積%及び粒径約3μmの二珪化モリブデン5〜50体積%から成り、且つ少くとも2.80mg/m3の密度を有する特許請求の範囲第12項記載の電気抵抗器。」(特許請求の範囲請求項10〜13)、
「カナダ国特許第1058673号は、複雑に成形された点火器要素を開示しており、そこでは発熱帯域は本質的に再結晶化炭化珪素から成り、またその発熱帯域には連続的な溝(グルーブ)が含まれる。その炭化珪素は、酸化アルミニウム、二珪化モリブデン、弗化マグネシウム、塩化マグネシウム若しくはチタン酸マグネシウム、又はこれらの化合物を組合せたもののような抵抗率調整剤を含んでいる。その特許によれば、その炭化珪素中には25%ほどのアルミナが含まれてはいるが、抵抗率調整剤の添加量は約10重量%である。窒化珪素もまたその部材の抵抗を変化させ、またその点火器に望ましい物理的性質を与えるのに有用なもう一つの抵抗率調整剤であると述べられている。」(3頁6欄36行〜4頁7欄6行)
「強くて剛い構造は、Si3N4、AlN若しくはBNのような窒化物又はそれを組合せたものにより作ることができる。Si3N4の場合には高密度を得るために焼結助剤が必要であるが、AlNに関しては焼結助剤は不要である。」(4頁8欄21〜25行)
「電気伝導性構造はMoSi2とSiCとの変化する比率をもつことができ、導電率の大きさと性質との両方を変化させる。例えば、MoSi2の比率が高ければ抵抗率は小さくなり、またMoSi2の比率が低くなると抵抗率は大きくなる。60体積%のAlNを含む組成物中のMoSi2のSiCに対する比率が0.65より大きくなると、高温における抵抗率は室温における抵抗率よりも大きくなる。温度に対する抵抗率曲線の傾きは、金属の伝導におけるそれと同様に正である。60体積%のAlNを含む組成物中の前記比率が0.65より小さくなると、抵抗率曲線の傾きはSiCのような半導体のそれと同様に負となる。前記比率が0.65に等しい場合には、抵抗率曲線の傾きはゼロとなり、高温における固有抵抗は低温における抵抗率に等しい。第1表は、AlN、MoSi2及びSiCの様々な混合物から作られた電気点火器に関するデータをまとめたものである。
第1表 …(中略)…
第4図は、抵抗率曲線の傾きとMoSi2のSiCに対する比率の関係を、第1表に示される式により片対数グラフに表わしたものである。AlNの組成が60体積%の代りに50体積%である組成物にあつては、傾きがゼロのときMoSi2のSiCに対する比率は0.33である。
この発明の態様である電気抵抗器の主な特徴は、これら三つの成分を用いて二つの構造を変化させることにより、抵抗率の大きさと抵抗率曲線の傾きとの両方を調節することができることである。窒化物の構造が増加すると、抵抗率の値は大きくなる。逆もまた同様である。伝導性の構造中のMoSi2とSiCとの比率が大きくなると、低温における抵抗率の高温における抵抗率に対する比は小さくなる。この比が小さくなると、点火器の応答時間が減少することになる。
第5図は、低温における抵抗率の高温における抵抗率に対する比と、MoSi2とSiCに対する比率との関係を示している。60体積%のAlNから成る組成物の場合、抵抗率の比が5以下となるのはMoSi2:SiCの比率が0.33以上においてである。同様に50体積%のAlNからなる組成物の場合に、抵抗率の比が5以下となるのはMoSi2:SiCの比率が0.18以上においてである。」(4頁8欄31行〜5頁10欄28行)、
「窒化物としては窒化アルミニウムが好ましい。最適な密度と電気的特性とを得るために、炭化珪素、二珪化モリブデン及び焼結助剤を含むその粉末の粒径、機械加工をして発熱部材又は点火器を作るビレツト又は抵抗器自体を理論密度近くまでプレスするのに十分なだけ細かくなければならないことを除いて、重大なものではない。含有される物質についての適当な粒径は、全ての物質に関して平均で3μm及びこれより細かいものである。」(6頁12欄13〜21行)
「抵抗率はその大きさが数桁に及んで変化するので、その形状は材料の電気的な特性よりはむしろ応用するものに適応させて設計され、これは炭化珪素製点火器においてしばしば見られる。例えば、高圧、低電力型の装置が、細くて非常に長い棒状物又はコイル状に巻かれた針金に代つて、合理的な、機械加工に適した寸法を使つて設計される。220Vで操作する50Wの点火器は、脚の幅が0.16cm、厚さが0.06cmでそれぞれの脚の長さが2.1cmの発熱帯域をもつU字形にできる。この点火器は2.2Ω・cmの抵抗率を必要とし、これは50体積%のAlN、7.8体積%のMoSi2及び42.2体積%のSiCから成る混合物によつて達成される。同様に、低圧、低電力型の点火器は、発熱帯域の脚の長さ1.0cm、脚の幅が0.15cmで厚さ0.063cmのU字形として設計される。この点火器は24V及び24Wで操作する。0.09Ω・cmの抵抗率が60体積%のAlN、15.4体積%のMoSi2及び24.6体積%のSiCにより達成される。」(6頁12欄40行〜7頁13欄14行)、
「本発明の抵抗器は燃料点火器として使用するのに理想的である。点火器の非常に重要な特性は、特に燃料ガスの場合、昇温時間すなわち点火器の発熱帯域が室温からガスの発火温度まで上がる時間である。これは主として室温における抵抗率の1200℃における抵抗率に対する比によつて調節され、その比が大きければ昇温時間は長くなる。米国特許第4120827号はその比が12より小さく、好ましくは9より小さいものを与えており、そして前記の比が5.5のように小さい例を含んでいる。本発明の点火器に関するその比は、5より小さくそして0.2のように小さく容易に設計でき、従つて非常に速い応答時間すなわち昇温時間が得られる。」(7頁13欄28〜41行)、と記載されている。

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭58-150716号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、
「エンジン本体に取付ける取付部と、該取付部に保持されて混合気を着火せしめる発熱部とよりなり、上記発熱部を電気絶縁性セラミツクの中心部材と、該中心部材の外面に接合した発熱体とにより構成して発熱体を通電手段に接続せしめ、上記発熱体として珪化モリブデンに窒化珪素、炭化珪素およびアルミナの少なくとも一種を添加した混合体とを用いたグロープラグ。」(特許請求の範囲、請求項2)、
「グロープラグ用発熱体としては、抵抗温度係数が大きい方が望ましい。抵抗温度係数が大きい場合、通電初期に大電流が流れ、発熱体の温度上昇とともに抵抗が上昇して電流値が制限され、過熱が防止される。第1図は抵抗温度係数が異なる発熱体の温度と通電時間の関係を示すもので、抵抗温度係数が大きいもの(線a)は小さいもの(線b)に比べ、初期に大電流を流すことができ急速加熱が可能である。」(2頁左下欄12〜20行)、
「珪化モリブデンに窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al2O3)の少くとも一種を加えた混合体は、珪化モリブデン単体よりも高温強度にすぐれ、かつ発熱体としての抵抗調整が容易である等の特性を有する」(2頁左上欄13〜18行)、
「サンプルはすべて、MoSi270重量%と他の混合物(Si3N4、SiC、Al2O3)30重量%で調整した。混合体はいずれも耐酸化性が良好で、高温強度はMoSi2単体よりも大きい。常温比抵抗は上昇し、熱膨脹係数はSi3N4、SiCとの混合体の場合は減少する。」(3頁左上欄14〜19行)、
「添加物の種類および量により発熱体の抵抗調整が可能である。」(4頁右上欄14〜15行)、と記載されている。

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特公昭57-41796号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、
「1.10〜60重量%の炭化ケイ素と、40〜90重量%の窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ窒化アルミニウムケイ素およびこれらの混合物からなる群から選ばれる材料との焼結混合物からなり、論理密度の少なくとも90%の密度と0.1〜107Ωcmの抵抗率とを有するセラミツク発熱体
2.発熱層とこの発熱層に接触した電気絶縁層とからなり、前記発熱層は10〜60重量%の炭化ケイ素と、40〜90重量%の窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ窒化アルミニウムケイ素またはこれらの混合物との焼結混合物であり、前記焼結混合物の論理密度の少なくとも90%の密度と0.1〜107Ωcmの抵抗率とを有し、前記炭化ケイ素は10ミクロンまたはそれ以下の平均粒子径を、また前記窒化物は10ミクロンまたはそれ以下の平均粒子径を有し、…(中略)…であるセラミツク発熱体」(特許請求の範囲請求項1、2)、と記載されている。

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-215077号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに、
「1.窒化アルミニウム製取りつけ基板および該基板の上に塗られた加熱導体を備えた高温加熱素子において、該加熱素子が二珪化モリブデン製の加熱導体を有し、該加熱導体に必要に応じて電気抵抗調整のためのおよび/または熱膨張係数の改良に係る適合化のための物質が少量混合することができることを特徴とする高温加熱素子。
2.高温加熱素子が厚膜技術で取りつけ基板の上に塗られた二珪化モリブデン製加熱導体を有し、該加熱要素に必要に応じて電気抵抗調整のためのおよび/または熱膨張係数の改良に係る適合化のための1種以上の物質がプリントに用いられるペーストに対して40重量パーセントまでの量で混合することができる請求項1記載の高温加熱素子
3.高温加熱素子が二珪化モリブデンおよび酸化アルミニウムおよび/または窒化アルミニウムから成る混合物で作られた加熱導体を有している請求項1および2のいずれか1項記載の高温加熱素子。
4.請求項1から3…(中略)…焼結し…(中略)…高温加熱体の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1ないし4)、
「電気的抵抗調整のためのおよび/または熱膨張係数の改良に係る適合化のために、二珪化モリブデンに添加することのできる典型的な物質としては、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムがあげられる。」(3頁右下欄下から2行〜4頁左上欄3行)、と記載されている。

(3)対比
本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明における「窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化硼素及びそれらの混合物から成る群から選択された窒化物」、「炭化珪素」、「二珪化モリブデン」、「焼結」、「平均粒径」は、本願補正発明における「窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物」、「炭化ケイ素」、「二ケイ化モリブデン」、「焼結」、「平均粒径」にそれぞれ相当する。また引用例1記載の発明における「電気抵抗器」は、焼結により作成されるものであるから、本願補正発明における「焼結セラミック」に相当する。
したがって、両者は、
「(a)50〜70体積%の窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物、
(b)10〜45体積%の炭化ケイ素、
(c)5〜25体積%の二ケイ化モリブデン、
を含んでなり、3μmの平均粒径を有する焼結セラミック。」の点で一致し、下記の点で相違している。
[相違点1]
窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物が、本願補正発明では、「50〜80体積%」であるのに対し、引用例1記載の発明では、「30〜70体積%」である点。
[相違点2]
二ケイ化モリブデンが、本願補正発明では、「5〜25体積%」であるのに対し、引用例1記載の発明では「5〜50体積%」である点。
[相違点3]
本願補正発明は、「2.0〜20体積%の酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、又はこれらの混合物、を含んでなる」のに対し、引用例1には「酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、又はこれらの混合物」は明記されていない点。
[相違点4]
平均粒径が、本願補正発明では、「2〜10μm」であるのに対し、引用例1記載の発明では「3μm及びこれより細かいもの」である点。

(4)当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
[相違点1]、[相違点2]について、
本願補正発明は引用例1記載の発明よりも、電気絶縁性成分である、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物の体積%の範囲を多めの範囲とし、導電性成分である二ケイ化モリブデンの体積%の範囲を少なめの範囲としたものであるが、引用例1に「この発明の態様である電気抵抗器の主な特徴は、これら三つの成分を用いて二つの構造を変化させることにより、抵抗率の大きさと抵抗率曲線の傾きとの両方を調節することができることである。窒化物の構造が増加すると、抵抗率の値は大きくなる。逆もまた同様である。」(5頁9欄31〜36行)と記載されていることからも明らかなように、該各体積%は、焼結セラミックにおいて抵抗率の大きさと抵抗率曲線の傾きとしてどの範囲を要求されるか等に応じて、当業者がその範囲を適宜選択すべき設計的事項である。そして、引用例1には、本願補正発明の実施例と同じ点火器において抵抗率を220Vで2.2Ω・cm、24Vで0.09Ω・cmというように、使用電圧を高くしたとき抵抗率を高くすることが記載されている(7頁13欄3〜14行)ことを考え合わせれば、引用例1記載の発明において、抵抗率を高くするために、電気絶縁成分の窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物をより多めの範囲とし、及び導電性成分である二ケイ化モリブデンをより少なめの範囲となるように各体積%を本願補正発明のような範囲とすることは当業者が容易になし得たことである。

[相違点3]について、
引用例2には、上記2(2)で摘示した事項からみて、二珪化モリブデン(MoSi2)に窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al2O3)の少くとも一種を加えた混合体、すなわち、本願補正発明と同一成分である、二珪化モリブデン(MoSi2)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al2O3)からなる混合体が示唆されている。そして、引用例2には、アルミナを添加することで常温比抵抗は上昇し、発熱体の抵抗調整が可能であることが記載されている。
引用例4には、上記2(2)で摘示した事項からみて、電気的抵抗調整のために、二珪化モリブデンに添加することのできる典型的な物質としては、酸化アルミニウムであることが記載されている。
また、引用例1にも「カナダ国特許第1058673号は、…(中略)…その炭化珪素は、酸化アルミニウム、二珪化モリブデン、弗化マグネシウム、塩化マグネシウム若しくはチタン酸マグネシウム、又はこれらの化合物を組合せたもののような抵抗率調整剤を含んでいる。その特許によれば、その炭化珪素中には25%ほどのアルミナが含まれてはいるが、抵抗率調整剤の添加量は約10重量%である。窒化珪素もまたその部材の抵抗を変化させ、またその点火器に望ましい物理的性質を与えるのに有用なもう一つの抵抗率調整剤であると述べられている。」(3頁6欄36行〜4頁7欄6行)と、アルミナが抵抗率調整剤であることが記載されている。
このようにアルミナが抵抗率調整剤として焼結セラミックに用いることが引用例1、2、4に記載されている。また、酸化アルミニウムは電気絶縁材であることからもこれを添加すれば抵抗率が高まることは当業者が容易に予想することができる効果である。

さらに、引用例1には「前記窒化物が窒化珪素であり、焼結の際に酸化マグネシウムを生じる焼結助剤が焼結時に使用されている特許請求の範囲第1項記載の電気抵抗器。」(特許請求の範囲の請求項10)、「Si3N4の場合には高密度を得るために焼結助剤が必要である 」(4頁8欄23〜24行)、「窒化物としては窒化アルミニウムが好ましい。最適な密度と電気的特性とを得るために、炭化珪素、二珪化モリブデン及び焼結助剤を含む」(6頁12欄13〜15行)等において、焼結助剤を添加することが記載されている。しかも、窒化ケイ素等の焼結セラミックを製造するに際し、焼結助剤を添加することは慣用手段であり、焼結助剤として酸化アルミニウムを添加することはこの出願前周知の事項〔特開昭48-79216号公報、特開平2-233557号公報(2頁左上欄2〜5行)、特開平2-221160号公報(2頁右上欄8〜12行)参照〕である。

これらを考え合わせれば、焼結セラミックである引用例1に記載された発明において、抵抗率調整剤であり、焼結助剤でもある酸化アルミニウムを添加することは当業者が容易になし得たことである。

そして、酸化アルミニウムを2.0〜20体積%とした点は、焼結セラミックを製造するに際し、焼結助剤として適切な量、かつ、抵抗率の大きさとしてどの範囲を要求されるか等に応じて、当業者がその範囲を適宜選択すべき設計的事項であり、引用例1記載の発明において、本願補正発明のように、酸化アルミニウムを2.0〜20体積%の範囲とすることは当業者が容易になし得たことである。

[相違点4]について、
平均粒径として、引用例1には3μm及びこれより細かいもの、すなわち本願補正発明の「2〜10μm」の範囲の一部「2〜3μm」が記載されており、10μm程度までは焼結セラミックの平均粒径として通常の大きさであり(引用例4参照)、しかも、本願補正発明において、焼結セラミックの平均粒径として「3を越えて10μm以下」とすることに格別な臨界的効果はないので、平均粒径を「2〜10μm」とすることは当業者が容易になし得たことである。

以上のように相違点1ないし4は格別なものではない。

なお、請求人は審判請求書において、引用例1と比較して本願補正発明の正特性の効果を主張している。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】に「本発明の点火器の重要な特長は、従来の小型点火器よりも高い抵抗率と適切な負の抵抗率温度係数を有することである。これらの点火器の適度な負の抵抗率温度係数によって得られる適度な昇温性向は、輻射放熱による降温性向によって適切にバランスされ、それによって自己制御性、温度安定性、高電圧の点火器が得られるものと考えられる。 120Vの態様において、プロセスの変動に極めて非感受性であることが見出されており、即ち、丈夫である。高温ゾーンの抵抗は約 100〜 300Ωであるように設計可能である。本発明の 120V点火器のもう1つの特性は、通常の24V点火器のそれと匹敵する。例えば、本発明の点火器は、約25〜35W/cm2 の単位放射面あたりの電力負荷(power load) 、約65〜85Wの電力消費、約 400〜500MPaの室温曲げ強度、及び少なくとも 0.2Ω・cmの抵抗率を有する。 230Vの印加において、程度の低い負の抵抗率温度係数は、高い電圧下でより安定に動作し、通常の点火器の性能要件を依然として発揮することを可能にする。 120Vと23Vの態様のいずれも上記の性能基準を満たす。」の記載からみて、本願補正発明は適切な負の抵抗率温度係数を有するものを含むものであって必ずしも正特性であるものではないから前記主張は認められない。

そして、本願補正発明が奏する作用、効果は、引用例1ないし4記載の発明、並びに上記周知の事項から容易に予測をすることができたものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1ないし4記載の発明、並びに上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成13年7月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成11年11月11日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「(a)50〜80体積%の窒化アルミニウム、窒化ケイ素、又はこれらの混合物、
(b)10〜45体積%の炭化ケイ素、
(c)5〜25体積%の二ケイ化モリブデン、及び
(d)2.0〜20体積%の酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、又はこれらの混合物、を含んでなる焼結セラミック。」
(なお、上記請求項1に係る発明を、以下「本願発明」という。)

(2)刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比、判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「焼結セラミック」の限定事項である「2〜10μmの平均粒径を有する」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1ないし4記載の発明、並びに周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1ないし4記載の発明、並びに周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1ないし4記載の発明、並びに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-02 
結審通知日 2004-03-09 
審決日 2004-03-22 
出願番号 特願平8-512655
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F23Q)
P 1 8・ 575- Z (F23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 勝之  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 櫻井 康平
長浜 義憲
発明の名称 セラミック点火器に使用される焼結セラミック  
代理人 西山 雅也  
代理人 樋口 外治  
代理人 福本 積  
代理人 石田 敬  
代理人 鶴田 準一  

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