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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1102432
審判番号 不服2002-18174  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-19 
確定日 2004-09-02 
事件の表示 平成 7年特許願第317937号「雑音除去装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月20日出願公開,特開平 9-160594〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 理 由
1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成7年12月6日の出願であって,その発明は明細書及び図面からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたものと認められるところ,その請求項5に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりである。

【請求項5】 雑音であると判定された雑音区間に基づいて作成された雑音のパタンを,音声として判定された音声区間のパタンから減じることにより雑音を除去する雑音除去装置において,上記雑音区間における各周波数帯域毎の雑音成分の値に基づいて,各周波数帯域毎に上記雑音パタンを減じる割り合いである雑音除去係数α(f)を求め,かかる雑音除去係数α(f)を上記雑音のパタンに乗じたものを,音声として判定された音声区間のパタンから減じることを特徴とする雑音除去装置。

2 引用例及び対比
(1)引用例
これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された,「音声認識装置」と題する特開平2-272499号公報(以下「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。

ア 「従来,バンドパスフィルタバンクを用いた音声認識装置などにおける雑音除去方式として,スペクトラルサブトラクション法がある。この方法は,予め定められた期間,又は,音声が検出されていない期間のスペクトルパターンを雑音のスペクトルパターンとして保持し,音声が検出された期間のスペクトルパターンからこの雑音のスペクトルパターンを減じる事により,入力信号に含まれる雑音成分を除去するものである。」(公報2頁左上欄11〜19行)

イ 「AGCを使った音声認識装置でこのスペクトルサブトラクション法を用いると,雑音のスペクトルを求めた時,即ち,音声区間以外の時,音声区間のゲインが異なるために雑音を含んだ音声のスペクトルから雑音のスペクトルを単純に減じても正しい音声のスペクトルが出て来ないという問題点があった。」(公報2頁右上欄6〜12行)

ウ 「音声情号のスペクトルを求めるための複数個の帯域から成るバンドパスフィルタバンクと,音声区間を検出する音声区間検出部と,該音声区間検出部で音声が検出されていない時に,上記バンドパスフイルタバンクの出力スペクトルから雑音スペクトルを推定し,該雑音スペクトル推定値を保持する雑音推定部と,該雑音推定部が保持している雑音スペクトル推定値を推定した時の上記AGCのゲインと,上記音声区間検出部で音声が検出されている時の上記AGCのゲインとの比を求めるゲイン比算出部と,上記音声区間検出部で音声が検出されている時に,上記バンドパスフイルタバンクの出力スペクトルの値から,上記雑音推定部で推定された雑音スぺクトル推定値に上記ゲイン比算出部で求められたゲイン比を乗じた値を減じるスペクトル減算部と,上記音声区間検出部で音声が検出されている時の上記スペクトル減算部の出力から入力された音声のパターンを生成する入力パターン生成部と,予め登録された音声の標準パターンを記憶する標準音声パターンメモリと,上記入力パターンと上記標準パターンとで認識処理を行う認識部とを具備して成る音声認識装置を特徴とするものであり,」(公報2頁左下欄7行〜右下欄9行)

エ 「更には,上記音声認識装置において,上記ゲイン比算出部が,上記音声区間検出部で音声が検出されている時に,上記バンドパスフィルタバンクの出力スペクトルと上記雑音推定部で保持された雑音スペクトル推定値の各帯域毎の比のうちで最も小さい値をゲイン比とする事を特徴とするものである。」(公報2頁右下欄10行〜右下欄16行)

オ 「雑音推定部6は,音声区間検出部5で音声が検出されていない時(非音声区間)に,20フレーム程度のA/D変換器の出力のスペクトルの平均を雑音スペクトルとし,この雑音スペクトル推定値を再度この値が更新されるまで保持する。」(公報3頁右上欄6行〜10行)

カ 「スペクトル演算部8は,音声区間で,A/D変換器の出力のスぺクトルの値から,雑音スペクトル推定値にゲイン比算出部で求められたゲイン比を乗じた値を減じて,雑音を除去した音声のスペクトルとする。」(公報3頁左下欄3行〜7行)

(2)対比
雑音除去方式として,スペクトラルサブトラクション法,すなわち,雑音であると判定された雑音区間に基づいて作成された雑音のパターン(以下,本願発明における「パタン」も引用例の「パターン」と同じ意味を表しているから「パターン」と統一して表記する。)を,音声として判定された音声区間のパターンから減じることにより雑音を除去する雑音除去方法は,前掲ア及び本願発明の従来技術としても示されており当業者に周知な技術である。
そして,雑音を含んだ音声のスペクトルから雑音のスペクトルを単純に減じても正しい音声スペクトルが得られないことは,前掲イ及び本願発明の段落0029にも従来技術として示されており,当業者に広く認識されている課題であることが認められる。
引用例では,入力する音声信号を複数個の帯域に分けて音声区間でない時のAGCのゲインと,音声区間のAGCのゲインとでゲイン比を求め,雑音推定部で推定された雑音スペクトル推定値にゲイン比を乗じた値を出力スペクトルから減じることにより,音声認識の精度を向上させている。
そうすると,本願発明の各周波数帯域ごとに雑音パターンを減じる割合である雑音除去計数α(f)は,音声区間の信号を利用するか否かは別として,引用例のゲイン比に相当することが理解できる。
以上を踏まえ,本願発明と引用例とを対比すると,雑音除去装置としての技術分野が一致することは明らかであることから,一致点,相違点は次のとおりである。

【一致点】雑音であると判定された雑音区間に基づいて作成された雑音のパターンを,音声として判定された音声区間のパターンから減じることにより雑音を除去する雑音除去装置において,上記雑音区間における各周波数帯域毎の雑音成分の値に基づいて,各周波数帯域毎に上記雑音パターンを減じる割り合いである係数を求め,かかる係数を上記雑音のパターンに乗じたものを,音声として判定された音声区間のパターンから減じることを特徴とする雑音除去装置。

【相違点】
本件では,雑音除去係数の求め方が,雑音成分の値に基づいて定めているのに対し,引用例では,雑音区間の信号と音声区間の信号とから求めている点。

3 当審の判断
雑音除去係数の求め方として,引用例では雑音区間の信号に基づいて,音声区間の信号を利用して雑音を除去する係数を得ており,本願発明の「各周波数帯域毎の雑音成分の値に基づいて,…・雑音除去係数α(f)を求め,」との記載は,音声区間の信号を利用する場合と,利用しない場合を含む表現であり,少なくとも雑音区間の信号を利用していれば,「雑音区間の信号に基づいて」と表現することが可能で,他の表現との齟齬もないことから,音声区間の信号を利用しない場合に限定されていない本願発明の雑音除去係数の求め方は,引用例の雑音を除去するための係数の求め方を含むものであり,当該相違点を格別なものとすることはできない。
また,本願の請求項5に記載された構成は,引用例の従来技術及び本件明細書において従来技術として開示された技術と対比すると,雑音区間の雑音に乗じる,雑音パターンを減じる割合である係数を,周波数帯域ごとに求めたものであり,引用例には本願発明と同様,複数の帯域に分けた周波数ごとに係数を求めることが示されていることから,係数の求め方として雑音区間の信号を基本として,その後の処理をどのようにするかは当業者が適宜実施しうる事項であり,本願発明の構成から判断する限り,本願発明に当業者が格別推考力を要した点は認められない。
なお,審判請求人は,審判請求の理由として,「雑音区間のスペクトルからのみ雑音除去係数を求めて」いる点で進歩性を主張しているが,前記したように,この点は,特許請求の範囲の請求項5には明記されておらず,単に「各周波数帯域毎の雑音成分の値に基づいて,… 雑音除去係数α(f)を求め,」と記載されているのみであり,具体的な雑音除去係数の求め方を特許請求するものでもないから,かかる請求人の主張は採用できない。
そして,本願発明の効果についても,格別評価すべき事項は認められない。

4 むすび
したがって,本願発明は,前記引用例記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-05 
結審通知日 2004-07-06 
審決日 2004-07-21 
出願番号 特願平7-317937
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 聡  
特許庁審判長 杉山 務
特許庁審判官 原 光明
橋本恵一
発明の名称 雑音除去装置  
代理人 芝野 正雅  

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