ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 H03H |
---|---|
管理番号 | 1102744 |
異議申立番号 | 異議2002-72273 |
総通号数 | 58 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-08-06 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-09-17 |
確定日 | 2004-06-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3266846号「反射反転型弾性表面波変換器及びフィルタ」の請求項4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3266846号の請求項4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.訂正の適否について (1)訂正事項 平成16年2月3日付けの訂正請求で特許権者が求めている訂正の内容は、次のとおりである。 特許請求の範囲の請求項4の「圧電基板上に配置したIDT電極の単位区間において、該区間内の各電極指端面からの反射ベクトルの合成により決まる反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差と、同じ圧電基板に正規型IDT電極を配置した場合の反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差とがπ(180度)異なることを特徴とする反射反転型弾性表面波変換器。」を「縦結合多重モードフィルタに利用される反射反転型弾性表面波変換器であって、圧電基板上に配置したIDT電極の単位区間において、電極指を3本配置し、かつ一方の共通電極から延びる2本のくし形電極指と他方の共通電極から延びる1本のくし形電極の電極指の幅員を異ならしめ、該区間内の各電極指端面からの反射ベクトルの合成により決まる反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差と、同じ圧電基板に正規型IDT電極を配置した場合の反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差とがπ(180度)異なることを特徴とする反射反転型弾性表面波変換器。」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項のうち、「圧電基板上に配置した」の前に「縦結合多重モードフィルタに利用される反射反転型弾性表面波変換器であって、」という事項を挿入する訂正については、本件特許明細書段落【0017】、段落【0018】、図1、図4等の記載に基づくものであり、本件発明に係る反射反転型弾性表面波変換器が縦結合多重モードフィルタに利用されるものであると限定するものである。また、上記訂正事項のうち、「IDT電極の単位区間において、」の後に「電極指を3本配置し、かつ一方の共通電極から延びる2本のくし形電極指と他方の共通電極から延びる1本のくし形電極の電極指の幅員を異ならしめ、」という事項を挿入する訂正については、本件特許明細書段落【0012】、段落【0013】の記載に基づくものであり、本件発明に係るIDT電極の単位区間における構造を具体的に限定するものである。 したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮に相当し、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 2.特許異議の申立てについて (1)申し立ての概要 異議申立人は、甲第1号証として、日本学術振興会 弾性波素子技術大150委員会第42回研究会資料p39〜44を提出し、本件特許の請求項4に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明と同一であり、本件特許の請求項4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項4に係る発明の特許は取り消されるべき旨主張している。 (2)本件発明 上記2.に記載したように、上記訂正が認められるので本件特許の請求項4に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項4に記載された次のとおりのものである。 「縦結合多重モードフィルタに利用される反射反転型弾性表面波変換器であって、圧電基板上に配置したIDT電極の単位区間において、電極指を3本配置し、かつ一方の共通電極から延びる2本のくし形電極指と他方の共通電極から延びる1本のくし形電極の電極指の幅員を異ならしめ、該区間内の各電極指端面からの反射ベクトルの合成により決まる反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差と、同じ圧電基板に正規型IDT電極を配置した場合の反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差とがπ(180度)異なることを特徴とする反射反転型弾性表面波変換器。」(以下、「本件発明」という。) (3)甲第1号証記載の発明 異議申立人の提出した甲第1号証には、NSPUDT基板の方向性反転電極構成法についての発明が記載されており、同号証の“2.方向性反転電極の動作原理”の項には、両方向性基板上で反射の中心が励振中心からλ/4シフトしているような電極構造を採用した際の動作原理について記載され、また、“3.具体的構成例”の項には、その実現方法として、電極の膜厚差を用いる構成法、電極幅の差を用いる構成法、浮き電極による励振中心のシフトを用いる構成法が、図3〜図6と共に記載されている。 (4)対比・判断 本件発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、同号証記載の発明は、本件発明を特定する事項である、「圧電基板上に配置したIDT電極の単位区間において、電極指を3本配置し、かつ一方の共通電極から延びる2本のくし形電極指と他方の共通電極から延びる1本のくし形電極の電極指の幅員を異ならしめ、該区間内の各電極指端面からの反射ベクトルの合成により決まる反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差と、同じ圧電基板に正規型IDT電極を配置した場合の反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差とがπ(180度)異なること」に相当する事項を備えておらず、本件発明と同一ではない。 したがって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。 3.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 反射反転型弾性表面波変換器及びフィルタ (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 圧電基板上に配置した幅員W1の第1の電極指と、その隣に間隙g1をおいて配置した幅員W2の第2の電極指と、さらにその隣に間隙g2をおいて配置した幅員W3の第3の電極指と、第1の電極指と第3の電極指の隣にそれぞれ配置した(g3)/2のスペースとから成る単位区間を複数区間繰り返して構成する表面波変換器であって、前記第1と第3の電極指を同相とし第2の電極指を逆相とすると共に第1の電極指の幅員W1と第3の電極指の幅員W3とをW1=W3とし、間隙g1と間隙g2とをg1=g2としたことを特徴とする反射反転型弾性表面波変換器。 【請求項2】 請求項1記載の表面波変換器を表面波の伝搬方向に沿って複数個近接して配置し、その両側に反射器を配設して構成したことを特徴とする縦結合多重モードSAWフィルタ。 【請求項3】 請求項1記載の表面波変換器を表面波の伝搬方向に沿って複数個近接して配置し、その両側に反射器を配設して構成する縦結合多重モードSAWフィルタであって、反射器のピッチに対するIDTのピッチの比を1より大きくしたことを特徴とする縦結合多重モードSAWフィルタ。 【請求項4】 縦結合多重モードフィルタに利用される反射反転型弾性表面波変換器であって、圧電基板上に配置したIDT電極の単位区間において、電極指を3本配置し、かつ一方の共通電極から延びる2本のくし形電極の電極指と他方の共通電極から延びる1本のくし形電極の電極指の幅員を異ならしめ、該区間内の各電極指端面からの反射ベクトルの合成により決まる反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差と、同じ圧電基板に正規型IDT電極を配置した場合の反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差とがπ(180度)異なることを特徴とする反射反転型弾性表面波変換器。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は弾性表面波変換器(以下、IDT電極と称す)およびこれを用いて構成した弾性表面波デバイスに関し、特に励起した弾性表面波の1波長中に3本の電極指を配置して、通過域近傍の高域側に生ずる減衰量の落ち込み及びその領域のスプリアスを改善した反射反転型弾性表面波変換器に関する。 【0002】 【従来の技術】 近年、弾性表面波デバイス(以下、SAWデバイスと称す)は多くの通信分野に用いられ、高周波、小型及び量産性等に優れていることから特に携帯電話等の小型化の一翼を担っている。図5(a)は従来の1次-3次縦結合二重モードSAWフィルタ(以下、二重モードSAWフィルタと称す)の電極パターンの一例を示す平面図であって、圧電基板11の主面上に表面波の伝搬方向に沿って3つの正規型IDT12、IDT13及びIDT14を近接配置し、これらIDTの両側に反射器15a、15bを配設したものである。IDT12、13、14はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対のくし形電極により構成され、IDT12の一方のくし形電極は入力端子に接続し、他方のくし形電極は接地する。そして、IDT13とIDT14の一方のくし形電極は互いに連結して出力端子に接続し、IDT13とIDT14の他方のくし形電極は互いに接続して接地する。 【0003】 図5(a)に示す二重モードSAWフィルタの動作は、周知のように、IDT12、13、14によって励起される複数の表面波が反射器15a、15bの間に閉じ込められ、前記IDT12、13、14の間で音響結合を生ずる結果、1次と3次の2の縦共振モードが強勢に励振され、これらの2つのモードを利用した二重モードSAWフィルタとして動作する。なお、該二重モードSAWフィルタの通過帯域は1次共振モードと3次共振モードとの周波数差に比例することは周知のことである。また、前記二重モードSAWフィルタを圧電基板上に複数個併置し、それらを縦続接続してフィルタの減衰傾度及び保証減衰量を改善することは周知の手段である。 図5(a)に示すIDT電極パターンを用いた一例として、圧電基板に36°YカットX伝搬のLiTaO3を用い、IDT12を18対、IDT13、14を各18対、反射器を各500本、反射器のピッチに対するIDTのピッチの比Lt/LRを0.990とし、中心周波数1.5GHz、必要帯域幅24MHzの二重モードSAWフィルタをシミュレーションした場合の周波数特性例を図5(b)に示す。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、従来の正規型IDT電極パターンを用いて広帯域の二重モードSAWフィルタを実現しようとすると、図5(b)に示したフィルタ特性からも明らかなように、通過域近傍の高域側の減衰傾度が、低域側の減衰傾度のように一様に増加せず、減衰量が13dB程度で一度劣化してから増加する特性、即ちダレ特性を呈する。(図5(b)に示す通過域近傍の小さなリップルは、反射器15a、15bに起因するもので、実際の製品ではバルク波に変換されて小さくなり、実用上さしつかえない。)上記問題を解決するため、同様の特性を持つ複数の二重モードSAWフィルタを縦続接続することにより特性改善を図っているが、前記のダレ特性そのものを無くすことはできず、周知のように従属接続することにより挿入損失が2倍、あるいは3倍になるという問題があった。 【0005】 また、最近では、周波数有効利用の必要性からチャネル間隔の挟帯域化の要請があり、使用するフィルタに対しても低損失、高減衰量が要求され、従来の通過帯域近傍の高域側に生ずる所謂ダレ特性のある二重モードSAWフィルタでは、その要求に応えることができないという問題があった。これを解決するためにラダー型SAWフィルタが提案されているものの中心周波数から離れた周波数では十分な減衰量が得られないため用途が限定されるという問題がある。本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、通過域近傍の高域側の減衰量及び該領域のスプリアスを改善したIDT電極の構造及びそれを用いたSAWデバイスを提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために本発明に係る反射反転型弾性表面波変換器の請求項1記載の発明は、圧電基板上に配置した幅員W1の第1の電極指と、その隣に間隙g1をおいて配置した幅員W2の第2の電極指と、さらにその隣に間隙g2をおいて配置した幅員W3の第3の電極指と、第1の電極指と第3の電極指の隣にそれぞれ配置した(g3)/2のスペースとから成る単位区間を複数区間繰り返して構成する表面波変換器であって、前記第1と第3の電極指を同相とし第2の電極指を逆相とすると共に第1の電極指の幅員W1と第3の電極指の幅員W3とをW1=W3とし、間隙g1と間隙g2とをg1=g2としたことを特徴とする反射反転型弾性表面波変換器である。 請求項2記載の発明は、請求項1記載の表面波変換器を表面波の伝搬方向に沿って複数個近接して配置し、その両側に反射器を配設して構成したことを特徴とする縦結合多重モードSAWフィルタである。 請求項3記載の発明は、請求項1記載の表面波変換器を表面波の伝搬方向に沿って複数個近接して配置し、その両側に反射器を配設して構成する縦結合多重モードSAWフィルタであって、反射器のピッチに対するIDTのピッチの比を1より大きくしたことを特徴とする縦結合多重モードSAWフィルタである。 請求項4記載の発明は、縦結合多重モードフィルタに利用される反射反転型弾性表面波変換器であって、圧電基板上に配置したIDT電極の単位区間において、電極指を3本配置し、かつ一方の共通電極から延びる2本のくし形電極の電極指と他方の共通電極から延びる1本のくし形電極の電極指の幅員を異ならしめ、該区間内の各電極指端面からの反射ベクトルの合成により決まる反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差と、同じ圧電基板に正規型IDT電極を配置した場合の反射中心と表面電位分布により決まる励振中心との位相差とがπ(180度)異なることを特徴とする反射反転型弾性表面波変換器である。 【0007】 【発明の実施の形態】 以下本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。本発明の理解を得るために、通常の正規型IDT電極の動作原理について、簡単に説明する。図6(a)は圧電基板上に弾性表面波の伝搬方向に沿って配置された通常の正規型IDT電極の一構成例を示したものであり、それぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対のくし形電極により構成されている。ここで記号λは前記IDT電極によって励起される表面波の波長であり、該波長λは前記IDT電極の連続する任意の電極指16の中央から電極指18の中央までに相当する。図6(b)は同図(a)のB-B部分の断面図であり、くし形電極間に高周波電圧を印加して、IDT電極を駆動した場合のある瞬間の表面電位を破線にて示したものである。正規型IDT電極は幅の等しい電極指がλ/2周期で並んでおり、任意のIDT電極指中央を基準とした1対(1基本単位で電極指2本で構成)あたりの反射係数Γ2(反射ベクトル)を図7(a)、(b)を用いて説明する。 【0008】 図7(a)に示すように任意のIDT電極の1波長λ分の反射を考えるに当たって、各電極指の圧電基板に垂直なエッジ面をR1〜R4とする(ここで記号R1〜R4はそれぞれエッジ面を表すと共にそのエッジ面からの反射ベクトルも表すものとする)。この4つのエッジ面R1〜R4からの反射ベクトルは、図7(b)に示すように、エッジ面R1、R3からの反射ベクトルR1、R3はそれぞれ等しく、即ち大きさと位相角が同じとなり、エッジ面R2、R4からの反射ベクトルR2、R4はそれぞれ等しくなる。従って、図7(b)に示すように4つの反射ベクトルR1〜R4を合成した反射ベクトルが1基本単位(1対)当たりの反射ベクトルΓ2となり、電極指の中央を基準としたとき-π/2の位相となっている。 【0009】 即ち、所謂反射中心は反射係数の位相が-π/2となる位置と定義されているから、各電極指の中央に位置することになる。このような正規型IDT電極指を多数ならべた周期構造(SAW共振子、SAW共振型フィルタ等)では、その周期的な反射のためにストップバンドが形成されることはよく知られている。その意味するところは、前記ストップバンド内の周波数を有する表面波は伝搬することができず、定在波が形成されることであり、この共振状態を利用してSAW共振子やSAWフィルタを構成する。 【0010】 「モード結合理論を用いたIDTの特性解析法」(第21回EMシンポジウム、p.87-94、1992)に示されているように、正規型IDT電極によって形成されるストップバンドの下端(下限)及び上端(上限)の周波数において、それぞれの定在波の腹(又は節)の位置がπ/2ずれている。図8は正規型IDT電極のストップバンドの両端(下端および上端)におけるそれぞれの定在波の分布を示す図である。実線で示すストップバンドの下端における定在波は電極指中央位置即ち、反射中心位置で腹となり、一点鎖線で示すストップバンド上端における定在波は反射中心位置において節となる。なお、一点鎖線で示したストップバンド上端の定在波は無限周期構造では励振されないが、実際のIDT構造のように有限構造となるとストップバンド下端における定在波よりも弱いものの励振されることになる。一方、表面波(波長λ)を励起する駆動力(くし形電極に印加した電圧により機械的な変位を起こす力)は、周知のように図6(b)に示した表面電位分布をフーリエ級数展開したときの最低次成分となる。計算して求めた駆動力は周期λの正弦波となり、図8中に破線で示す。このように破線で示された正弦波の極値の位置が励振中心である。図8中に示した□印は反射中心を示し、○印は励振中心を示している。 【0011】 図8に示すように、励振中心(○印)と反射中心(□印)が重なると、実線で示したストップバンド下端の定在波は破線で示した駆動力分布と同相となり、強勢に励振されることになる。このように、正規型IDTを用いた従来の縦結合多重モードSAWフィルタでは、強勢に励振されるストップバンド下端の最低次の共振周波数(f1)と、その縦の高次モードの共振周波数(fn)とを用いてフィルタを構成している。これら縦の高次モードは、その最低次がストップバンド下端に近く、高次モードになるほど低い周波数において励起されることが既に実験的にもシミュレーションでも確認されている通りである。図9(a)、(b)は共振周波数f1、f3を用いた二重モードSAWフィルタの濾波特性と、IDT及び反射器Refの反射係数Γとの周波数関係を模式的に図示したものである。反射器のピッチはIDTのそれより大きく設定するため、反射器の反射係数の中心周波数はIDTのそれより低くなっている。 【0012】 図1(a)は本発明に係るIDT電極構成の一例を示す平面図であって、幅員W1の第1の電極指1と、図中右方に間隙g1をおいて幅員W2の第2の電極指2と、図中右方に間隙g2をおいて幅員W3の第3の電極指3と、電極指1と3の両側の(g3)/2のスペースから成る単位区間、即ち一波長λ当たり3本の電極指で構成される単位区間を圧電基板上に繰り返し配列したものである。さらに、第1の電極指1の幅員W1と第3の電極指3の幅員W3とをW1=W3とし、第1の電極指1と第2の電極指2との間隙g1と、第2の電極指2と第3の電極指3との間隙g2とをg1=g2とする。そして、電極指1と3とを電極指2と逆相にて駆動するものとする。 【0013】 図1(b)は同図(a)のA-Aにおける断面図であり、くし形電極に高周波電圧を印加してIDT電極を駆動した場合のある瞬間の表面電位を示したものである。このように一波長λ当たり電極指を3本としたIDT電極の単位区間当たりの反射係数Γ1(反射ベクトル)を求める。図2(a)に示すようにIDT電極の任意の1区間、即ち、電極指1〜3の各両端の6つのエッジ面E1〜E6からの反射ベクトルE1〜E6(Eiはエッジ面を示すと同時にそのエッジからの反射ベクトルも示すものとする)を求めてみると、図2(b)に示すように6つの反射ベクトルE1〜E6が求まる。この場合、図7と比較するために第2の電極指2の中央を反射の基準としている。この反射ベクトルE1〜E6の合成ベクトルは、図2(b)に示すように反射ベクトルΓ1となる。 【0014】 反射ベクトルΓ1は、図7(b)に示した正規型IDT電極の反射ベクトルΓ2とは異なり、電極指2中央においてπ/2の位相を示している。従って、両者の位相はπだけ異なることなる。この位相差による反射中心の空間的位置は、表面波の位相回転は往復が寄与するため、電極指2の中央から空間的にλ/4だけ離れた位置になる。即ち、本発明に係るIDT電極では、ストップバンドの上端及び下端の周波数におけるそれぞれの定在波分布は図3に示すようになる。図3において、実線はストップバンド下端の周波数における定在波を示し、一点鎖線はストップバンドの上端の周波数における定在波を示している。即ち、図8と比べて明らかなように、反射中心が励振中心に対してλ/4だけずれたのに伴い各定在波分布もそれぞれλ/4だけずれ、結果として駆動分布に対する定在波のそれぞれの腹と節の位置関係が図8のそれとは入れ替わっている。一方、図1(b)に示す表面電位分布をフーリエ級数展開したときの最低次成分が駆動力となることは前述した通りであり、これを計算した駆動力分布は図3中に破線で示した正弦波の曲線になる。図3からも明らかなように、励振中心(○印)は第2の電極指2の中心に位置し、反射中心(□印)は第2の電極指2の中央からλ/4離れた位置になる。 【0015】 従って、一点鎖線で示すストップバンド上端の周波数における定在波の腹が、励振中心と一致するため、ストップバンド上端の周波数が強勢に励振される。一方、実線で示すストップバンド下端の周波数における定在波の節が励振中心と一致し、無限周期構造では励振されないことを示している。 【0016】 しかし、実際の有限周期構造では、実線で示すストップバンド下端の定在波は、一点鎖線で示すトップバンド上端の定在波に比べて弱いものの励振される。本発明に係るIDT電極構成を用いるとストップバンド上端の定在波は強く励振されることになる。このストップバンド上端の周波数の縦の高次モードは、シミュレーションの結果によると次数が高いほど高い周波数に現れ、最低次モードと高次モードを複数個用いて縦結合多重モードSAWフィルタを構成することが出来る。図4に示すフィルタ特性は、本発明になるIDT電極3個を圧電基板上に表面波の伝搬方向に近接して配設し、その両側に反射器を配して構成した縦結合二重モードSAWフィルタの周波数特性である。 【0017】 図4に示したフィルタの諸パラメータについて述べると、図5(b)に示した正規型フィルタでは正負電極指で1対であるが、本発明のIDT電極においては3つの電極指(1波長λ当たり)で正規型フィルタの1対に相当する。また反射器のピッチのピッチLRは、図5(b)に示したフィルタあるいは図4に示したフィルタにおいても一定とし、反射器のピッチに対するIDTのピッチの比Lt/LRを図4のフィルタでは1.015とした。それ以外のパラメータは、図5(b)に示したパラメータと同じである。ただ、本実施例では、第2の電極指の幅員W2を第1及び第3の電極指の幅員W1、W3(W1=W3)より幅狭に形成、即ち、W1=W3>W2とした。本発明になるIDT電極が形成するストップバンドの高い側にある複数の共振モードを利用して通過域を形成しているため、図5(b)に示す従来のフィルタ特性とは異なり、通過域近傍の高域側の減衰傾度が大幅に改善されている。また、通過域近傍の低域側では、従来の多重モードSAWフィルタが示す減衰傾度のダレが現れることになる。 【0018】 以上説明したように、励振中心はそのままで反射中心の位置をπ/2ずらす(反射合成ベクトルの位相をπ変える)ことにより、正規型IDT電極が示すストップバンド上端と下端の役割と、本発明に係るIDT電極が示すストップバンド上端と下端の役割とが丁度反対となる。即ち、正規型IDT電極のストップバンドの上下端周波数が示す特性を入れ替えたような周波数特性を有するフィルタ(または共振子)が実現できることになる。本発明のIDT電極を縦結合多重モードSAWフィルタに適用することにより、これまで通過域近傍の高域側に生じていた減衰量のダレを解消したフィルタが実現できることになる。 【0019】 従って、通過域近傍の高域側において高減衰量を必要とするフィルタの要求がある場合、従来のように縦続接続構成することなく、本発明のIDT電極を用いれば、容易に要求特性を実現できることが可能となった。また、本発明のIDT電極を用いて縦結合多重モードSAWフィルタを制作することにより、従来のように従属接続による高挿入損失を解消することができる。また、本発明のIDT電極を用いた多重モードSAWフィルタと、従来の正規型電極を用いた多重モードSAWフィルタとを縦続接続することにより、通過帯域の両近傍の減衰傾度を急峻なカットオフ特性としたフィルタを実現できる。このように構成された複合モードフィルタはラダー型フィルタとは異なり、中心周波数から離れた周波数においても十分な減衰量を保証する。 【0020】 上述したストップバンド上下端の定在波の正弦波曲線および周波数特性に関する説明は、正規型IDT電極において電極指中央が反射中心(電極指中央において反射係数の位相が-π/2となる)となるような圧電基板と電極材料の組み合わせに関するものである。しかし、例えばAl電極と128°Y-XLiNbO3の組み合わせでは、電極膜厚が約3.5%λ以上においては、正規型IDT電極であっても反射中心は電極指中央からλ/4離れた位置(スペース中央)になる。このような場合には、正規型IDT電極と新たに提案した反射反転電極のストップバンドの上端と下端の作用が入れ替わるのみで、両者の相補的な関係および利用価値は変わらない。 【0021】 【発明の効果】 本発明は、以上説明したように構成したので、本発明のIDT電極を用いて構成した縦結合多重モードSAWフィルタは通過帯域近傍の高域側において良好な減衰傾度をしめす。また、正規型IDTを用いて構成する縦結合多重モードSAWフィルタと本発明のIDT電極を用いて構成するので、縦結合多重モードSAWフィルタとの従属接続により、通過帯域近傍の減衰傾度を大幅に改善したフィルタを形成することが可能となり、SAWフィルタを製作する上で著しい効果を発揮する。 【図面の簡単な説明】 【図1】 (a)本発明の電極構造の一部を示す平面図で、(b)はその電極上の表面電位をしめした断面図である。 【図2】 (a)は本発明に係るIDT電極1波長に配列した3つのIDT電極指の6個のエッジ面を、(b)は前記6個のエッジ面における反射ベクトルE1〜E6とその合成ベクトルΓ1を示す。 【図3】 本発明になるIDT電極が形成するストップバンドの下端の周波数(実線)、上端の周波数(一点鎖線)、駆動力分布曲線(破線)、励振中心(○印)及び反射中心(□印)を示す図である。 【図4】 本発明に係るIDT電極を用いて構成した縦結合二重モードSAWフィルタの周波数特性を示す図である。 【図5】 (a)は従来の1次-3次縦結合二重モードSAWフィルタの構成を示す一平面図、(b)はその周波数特性である。 【図6】 (a)は連続周期構造の正規型IDT電極の一部を示す平面図、(b)はその電極上の表面電位を示した断面図である。 【図7】 (a)は正規型IDT電極の1波長における4つの反射面R1〜R4を示す図、(b)は4つの反射面の反射ベクトルR1〜R4とその合成ベクトルΓ2を示す図である。 【図8】 正規型IDT電極が形成するストップバンドの下端における定在波(実線)、上端における定在波(一点鎖線)、駆動力分布(破線)、励振中心(○印)及び反射中心(□印)を示す図である。 【図9】 (a)は1次-3次縦結合二重モードSAWフィルタの濾波特性、(b)はIDT電極による反射係数及び反射器による反射係数と1次、3次モードの共振周波数f1、f3の関係を示した図である。 【符号の説明】 1・・第1の電極指 2・・第2の電極指 3・・第3の電極指 W1、W2、W3・・それぞれ第1、第2、第3の電極指の幅員 g1、g2、g3・・夫々第1と第2の電極指間の間隙、第2と第3の電極指間の間隙、第3の電極指と次の周期の電極指との間隙 λ・・励起される表面波の波長 E1、E2、E3、E4、E5、E6・・第1第2、第3の電極指の両エッジ面、およびそれらの面からの反射ベクトル Γ1・・反射ベクトルE1〜E6の合成ベクトル A-A・・断面図を示す分割線 C・・第2電極指の中央を示す ○・・励振中心 □・・反射中心 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-06-11 |
出願番号 | 特願平10-23918 |
審決分類 |
P
1
652・
113-
YA
(H03H)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 清水 稔 |
特許庁審判長 |
下野 和行 |
特許庁審判官 |
矢島 伸一 治田 義孝 |
登録日 | 2002-01-11 |
登録番号 | 特許第3266846号(P3266846) |
権利者 | 東洋通信機株式会社 |
発明の名称 | 反射反転型弾性表面波変換器及びフィルタ |
代理人 | 鈴木 均 |
代理人 | 鈴木 均 |