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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 異議  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1102783
異議申立番号 異議2003-73180  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2004-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-22 
確定日 2004-07-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3422775号「高分子医薬品含有粉末状経粘膜投与製剤」の請求項1〜10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3422775号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第3422775号は、平成11年7月1日に国際出願され(優先日1998年7月8日)、平成15年4月25日に特許権の設定登録がされた後、その請求項1〜10に係る特許について石井宏司により特許異議の申立てがされ、当審による取消理由通知の指定期間内である平成16年6月7日に明細書の訂正請求がされたものである。

2 訂正請求について
(1) 訂正事項
(訂正事項1)請求項1〜8及び10の「粉末状経粘膜投与製剤」という記載を、「粉末状経鼻粘膜投与製剤」と訂正する。
(訂正事項2)特許請求の範囲の請求項9を削除し、「請求項10」を「請求項9」と請求項番号を変更する。
(訂正事項3)明細書第4頁第8欄第22〜27行の「粘膜の具体例としては、鼻粘膜の他に眼粘膜、口腔粘膜、肺粘膜、膣粘膜、また、胃粘膜、小腸粘膜、大腸粘膜、直腸粘膜などの消化管粘膜を挙げることができる。」とあるのを、「粘膜の具体例としては、鼻粘膜を挙げることができる。」と訂正する。

(2) 訂正の適否について
訂正事項1及び2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項3は特許請求の範囲の訂正に伴って、明細書の記載を整合させるものであるので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、いずれの訂正も特許明細書に記載された事項の範囲内での訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項並びに同条第3項で準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1) 申立ての理由の概要
申立人石井宏司は、本件特許は次の理由により取り消すべきものであると主張している。
(理由1)請求項1〜10に係る発明は、甲第1号証(特開平3-74396号公報)に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(理由2)請求項1〜10に係る発明は、明細書に記載された発明ではなく、また、請求項の記載が不明確であるので、本件明細書の記載は第6項に規定する要件を満たしていない。
(理由3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1〜10に係る発明について当業者が容易にその実施をすることができるように記載されていないから、第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(2)本件発明
上記のとおり訂正が認められるから、本件請求項に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1〜9に係る発明を、それぞれ「本件第1発明〜本件第9発明」という。)
「【請求項1】生理活性を有するペプチドもしくはタンパク質、抗体、ワクチン、並びに抗原からなる群より選択される高分子医薬品および、アミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含有してなる粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項2】アミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが0.1〜90W/W%含まれる、請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項3】アミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが1〜50W/W%含まれる、請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項4】粘膜からの高分子医薬品の吸収を促進する効果を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項5】さらに増粘性ポリマーを含有してなる請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項6】増粘性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項5に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項7】高分子医薬品が、カルシトニン、インシュリン、プロインシュリン、バソプレッシン、デスモプレシン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、ソマトスタチン、プロラクチン、グルカゴン、ガストリン、セクレチン、カリクレイン、ウロキナーゼ、ニューロテンシン、エンケファリン、キョートルフィン、エンドルフィン、エンドセリン、アンギオテンシン、トランスフェリン、心房性ナトリウム利尿べプチド、上皮細胞増殖因子、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子、白血病細胞阻止因子、血液幹細胞増殖因子、エリスロポエチン、顕粒球コロニー刺激因子、顕粒球マクロファージ刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン、スーパーオキサイドディスムターゼ、ティシュープラスミノーゲクチベーター、アンチトロンビン、血液凝固因子、抗IgE抗体、抗IgA抗体、腫瘍抗体、腫瘍壊死因子抗体、抗インターロイキン抗体、HIV中和抗体、抗血小板抗体、抗肝炎ウイルス抗体、肝炎ワクチン、インフルエンザワクチン、百日咳ワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチンからなる群より選択される、請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項8】抗原が、抗原として作用しうるべプチドもしくはタンパク質、それらのハプテン結合物、またはそれらとアジュバントとの混合物である、請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項9】アミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートがアミノアルキルメタクリレートコポリマーである請求項1から8のいずれか1項に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。」

(3)当審の判断
(3-1)(理由1)について
1)特開平3-74396号公報(甲第1号証)に記載された事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の記載がある。
a.4”-O-(パラメトキシフェニルアセチル)タイロシンを、アクリル系高分子共重合体及びセルロース系高分子誘導体からなる群から選ばれる物質中に実質的に非結晶状態で分散させた分散体を含む抗菌性組成物。(特許請求の範囲)
b.「本発明は、該抗生物質を有効成分として含有し、水溶性及び経口吸収性が改善された安定な抗菌性組成物を提供することにある。」(第3頁左上欄第2〜5行)
c.甲第1号証に記載の発明におけるアクリル系高分子共重合体としては、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(メタアクリル酸メチル/メタアクリル酸プチル/メタアクリル酸ジメチルアミノエチルエステル共重合体)が好ましく、具体的には、ロームファルマ社から入手できる共重合体オイドラギットE100が使用可能なものとして記載され(第3頁右上欄第12行〜同頁左下欄第7行)、実施例1にはこれを用いて粉末状の製剤としたことが具体的に記載されている。
d.「本発明の抗菌性組成物は、経口投与の他、直腸投与にも適する。」(第4頁左下欄最下行〜右下欄第1行)

2)対比・判断
甲第1号証に記載の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)における、「4’-O-(パラメトキシフェニルアセチル)タイロシンは、分子量が1000を超えるものであり、経口投与と直腸投与は広義の経粘膜投与に相当するから、本件第1発明と甲第1号証発明とは、「高分子量医薬品および、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーを含有してなる粉末状経粘膜投与製剤」である点において一致し、次の点において相違する。

(相違点)本件第1発明においては、生理活性を有するペプチドもしくはタンパク質、抗体、ワクチン、並びに抗原からなる群より選択される高分子量医薬品を経鼻粘膜投与するのに対し、甲第1号証発明においては、4”-O-(パラメトキシフェニルアセチル)タイロシンを経口投与又は直腸投与する点。

そこで、上記相違点につき、検討する。
甲第1号証発明はマクロライド骨格を有する医薬品について、水に対する溶解度が低いために吸収性が十分でなかった医薬品の吸収性を高めるためにアミノアルキルメタクリレートコポリマーを製剤に含有させるものである。、本件第1発明における高分子量医薬品は、マクロライド骨格を有する化合物とは構造が全く異なるものであって水に対する溶解性に問題がなく、しかも経鼻粘膜投与するものであるから、高分子量の医薬品である点で共通するからといって、アミノアルキルメタクリレートコポリマーを配合する方法が甲第1号証発明の医薬品とは構造・性質も投与方法も異なる本件第1発明の高分子量医薬品に適用できるとは到底いえない。
したがって、本件第1発明は、甲第1号証発明に基づき、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。また、本件第2〜第9発明は、いずれも、本件第1発明の発明特定事項を限定的に特定したものであるから、本件第1発明について検討したのと同様に、甲第1号証発明に基づき、当業者が容易に想到し得たものといえないことは明らかである。

(3-2)(理由2)および(理由3)について
異議申立人は、本件明細書に記載の実施例において、糖類が配合されていない製剤は、実施例7の1例のみであり、しかも、当該製剤は糖類が配合された比較例3に比べて著しく効果の劣るものであることを指摘し、また、本件の製剤の効果は、配合される糖類の種類や量により大きく変動するから、本件発明の製剤においては糖類の配合、及び使用する糖類の種類の特定、並びにその配合量の特定が必須であるにもかかわらず、本件の特許請求の範囲においてはこれらの事項が何等特定して記載されていないから、このような明細書の記載は、特許法第36条第6項および第4項に規定する要件を満たしていない主張している。
しかし、明細書の記載からみて、本件発明における糖類が任意成分であることは明らかであって、その配合量等は当業者が適宜に設定できるものであり、また、異議申立人が糖類を含有しない製剤が所期の効果を達しないと主張する実施例7においても、表4のAUCwの値により、実施例4〜6と同等に吸収向上効果があることが示されているから、請求項に記載された発明は明細書に当業者が容易に実施できるように記載されており、異議申立人の主張は採用できない。

また、異議申立人は、請求項4の「粘膜からの高分子医薬品の吸収を促進する効果を有する」という記載は不明確であり、請求項の記載は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない旨主張しているが、この記載が請求項4で引用している請求項1〜3に記載の発明の効果を確認的に記載したものであって、この記載があることによって、発明が不明確になるものではないので、異議申立人のこの点の主張も採用できない。

異議申立人は、さらに、本件発明における「経粘膜投与製剤」について、経口投与と区別し得ず、また、本件明細書において具体的に、その投与形態が開示されているのは、経鼻投与製剤のみであり、他の粘膜からの吸収については全く具体的な記載はなされておらず、胃粘膜、小腸粘膜、大腸粘膜などの消化管粘膜への非経口的な投与手段について記載がされていないから、本件明細書の記載は特許法第36条第6項および第4項に規定する要件を満たしていない旨主張しているが、上記訂正により、本件発明は経鼻粘膜投与製剤に限定されているから、本件明細書に異議申立人のいう記載不備が存在しないことは明らかである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件第1〜第9発明の特許はいずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、また、特許法第36条第6項および第4項の規定に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものでもない。

4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高分子医薬品含有粉末状経粘膜投与製剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 生理活性を有するペプチドもしくはタンパク質、抗体、ワクチン、並びに抗原からなる群より選択される高分子医薬品および、アミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含有してなる粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項2】 アミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが0.1〜90W/W%含まれる、請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項3】 アミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが1〜50W/W%含まれる、請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項4】 粘膜からの高分子医薬品の吸収を促進する効果を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項5】 さらに増粘性ポリマーを含有してなる請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項6】 増粘性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項5に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項7】 高分子医薬品が、カルシトニン、インシュリン、プロインシュリン、バソプレッシン、デスモプレシン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、ソマトスタチン、プロラクチン、グルカゴン、ガストリン、セクレチン、カリクレイン、ウロキナーゼ、ニューロテンシン、エンケファリン、キョートルフィン、エンドルフィン、エンドセリン、アンギオテンシン、トランスフェリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、上皮細胞増殖因子、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子、白血病細胞阻止因子、血液幹細胞増殖因子、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージ刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン、スーパーオキサイドディスムターゼ、ティシュープラスミノーゲンアクチベーター、アンチトロンビン、血液凝固因子、抗IgE抗体、抗IgA抗体、抗腫瘍抗体、腫瘍壊死因子抗体、抗インターロイキン抗体、HIV中和抗体、抗血小板抗体、抗肝炎ウイルス抗体、肝炎ワクチン、インフルエンザワクチン、百日咳ワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチンからなる群より選択される、請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項8】 抗原が、抗原として作用しうるペプチドもしくはタンパク質、それらのハプテン結合物、またはそれらとアジュバントとの混合物である、請求項1に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【請求項9】 アミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートがアミノアルキルメタクリレートコポリマーである請求項1から8のいずれか1項に記載の粉末状経鼻粘膜投与製剤。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、高分子医薬品を有効成分として含有する経粘膜投与製剤に関し、より詳細には、高分子医薬品およびカチオン性ポリマーを含有してなる粉末状経粘膜投与製剤に関する。本発明は、特に、粉末状経鼻粘膜投与製剤に関する。
背景技術
現在、高分子医薬品は治療に際し、静脈内あるいは皮下に対して注射による投与が行われている。しかし、注射による高分子医薬品の投与は患者自身が行うことが困難な上に苦痛を伴うことから、注射以外のより簡便な投与方法として経粘膜投与が望まれている。経粘膜投与の具体例としては、鼻粘膜、眼粘膜、口腔粘膜、肺粘膜、膣粘膜、また胃粘膜、小腸粘膜、大腸粘膜、直腸粘膜などの消化管粘膜からの投与を挙げることができる。中でも、鼻粘膜投与が速やかな薬物吸収と確実な効果がもたらされる比較的簡便な投与方法として注目されている。しかしながら、その吸収性は分子量に依存し、分子量が1,000以下のものは比較的効果的に吸収されるが、それ以上になると何らかの工夫無しに効果的に吸収させることは困難である(C.McMartin等:J.Pharm.Sci.,76(7):535-540(1987))。したがって高分子医薬品を鼻粘膜を通して投与することによって治療効果を得ることは難しかった。
高分子医薬品の難吸収性を改善する手段として、界面活性剤や胆汁酸塩を吸収促進剤として併用する方法(S.Hirai等:Int.J.Pharm.,9:173-184(1981)、Y.Maitani等:DrugDesignandDelivery,1:65-70(1986))、シクロデキストリンを吸収促進剤として併用する方法(N.G.M.Schippet等:J.ControlRelease,21(1):173-185(1992)、T.Irie等:J.Inter.Pharm.,84:129-139(1992))があるが、これらの吸収促進剤は鼻粘膜への障害性が懸念されることが問題となっている。一方、アルブミン、デキストラン、ヒアルロン酸ナトリウムなどの高分子類を吸収促進剤として併用する方法(T.Igawa等:Chem.Pharm.Bull.36(8):3055-3059(1988)、特開平6-65090号、特開平8-198772号)があるが、吸収促進効果がいまだ充分でないことや工業的な製造が困難なことなどにより実用化にいたっていない。
また、特開平10-95738号には、難吸収性のモデル薬物(物質)として、フルオロセインイソチオシアネートデキストラン(以下、「FITC-dextran」と記す、分子量;4,400)を用い、これをアルギニン、そのポリ体またはそのポリ体の塩を溶解させた生理食塩水に加えた製剤を調製し、この製剤をウイスターラットの鼻腔粘膜内に投与したところ、FITC-dextranのより高い血中濃度が持続したことが記載されている。
特表平4-503508号には、インシュリン溶液にDEAE-デキストランまたはキトサンを添加した製剤をラットの鼻孔に投与したことが記載されている。
以上のような種々の方法が開発されているが、今なお、高分子医薬品の難吸収性を改善する手段として、より効果的および実用的な方法が求められている。
従って、本発明は、高分子医薬品を粘膜より安全に効率よく吸収させることのできる経粘膜投与製剤、特に経鼻投与製剤を提供することを目的とする。また、本発明は、高分子医薬品を安全に効率よく生体に吸収させることのできる粉末状医薬組成物を提供することも目的とする。
発明の開示
本発明者等は高分子医薬品を安全に効率よく粘膜から吸収させる製剤の開発を目的に検討した結果、カチオン性ポリマーが粘膜組織のタイトジャンクションを拡張させることにより高分子医薬品の粘膜からの吸収を促進させること、さらには増粘性ポリマーをカチオン性ポリマーと併用させると増粘性ポリマーの働きにより粘膜内での滞留性が向上しさらなる吸収の増大が得られることを見いだし、本発明を完成させた。また、本発明者らは、カチオン性ポリマーの中でも特に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、または、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが、同じくカチオン性ポリマーであるポリ-L-アルギニンと比較してその吸収促進効果が優れていることを見出している。
すなわち、本発明は、高分子医薬品およびカチオン性ポリマーを含有してなる粉末状経粘膜投与製剤、特に経鼻投与製剤を提供する。本発明の粉末状経粘膜投与製剤は、さらに増粘性ポリマーを含有するとよい。カチオン性ポリマーとしては、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリ-L-アルギニンなどが挙げられるが、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが好ましい。増粘性ポリマーとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。高分子医薬品は、生理活性を有するペプチドおよびタンパク質、抗体、ワクチン、ならびに抗原からなる群より選択することができるが、本発明の粉末状経粘膜投与製剤は、特に、顆粒球コロニー刺激因子、インシュリン、エリスロポエチン、成長ホルモンまたはインフルエンザ抗原の経粘膜投与、特に経鼻投与に効果的である。
また、本発明は、高分子医薬品およびカチオン性ポリマーを含有してなる粉末状医薬組成物を提供する。本発明の粉末状医薬組成物において、高分子医薬品は、生理活性を有するペプチドおよびタンパク質、抗体、ワクチン、ならびに抗原からなる群より選択することができるが、本発明の粉末状医薬組成物は、特に、顆粒球コロニー刺激因子、インシュリン、エリスロポエチン、成長ホルモンまたはインフルエンザ抗原の投与に効果的である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の一態様において、本発明の粉末状経粘膜投与製剤は、高分子医薬品に賦形剤(例えば、糖類)およびカチオン性ポリマー、あるいはさらに増粘性ポリマーを、さらに必要に応じて適当な添加剤を加え、凍結乾燥(フリ-ズドライ)あるいは噴霧乾燥(スプレードライ)することにより得られる。
本発明において用いられる高分子医薬品とは生理活性を有するペプチドおよびタンパク質、抗体、ワクチン、抗原などをさし、具体的には次のようなものが挙げられるが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。カルシトニン、インシュリン、プロインシュリン、バソプレッシン、デスモプレシン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、ソマトスタチン、プロラクチン、グルカゴン、ガストリン、セクレチン、カリクレイン、ウロキナーゼ、ニューロテンシン、エンケファリン、キョートルフィン、エンドルフィン、エンドセリン、アンギオテンシン、トランスフェリン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、上皮細胞増殖因子、成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、腫瘍壊死因子、白血病細胞阻止因子、血液幹細胞増殖因子、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージ刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン、スーパーオキサイドディスムターゼ、ティシュープラスミノーゲンアクチベーター、アンチトロンビン、血液凝固因子、抗IgE抗体、抗IgA抗体、抗腫瘍抗体、腫瘍壊死因子抗体、抗インターロイキン抗体、HIV中和抗体、抗血小板抗体、抗肝炎ウイルス抗体、肝炎ワクチン、インフルエンザワクチン(インフルエンザ抗原)、百日咳ワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、杉花粉あるいはぶたくさ花粉などの、抗原として作用しうるペプチドあるいはタンパク質およびそれらのハプテン結合物、さらにはそれらとアジュバントとの混合物など。また、これらに挙げた高分子医薬品よりも分子量の小さな医薬品に対しても、本発明はその粘膜、特に鼻粘膜からの吸収性をより増大させることが容易に推測され、本発明の適用が有用と考えられる。
本発明に用いることができる高分子医薬品の一つであるG-CSFの例としては、配列番号1〜3のアミノ酸配列で表されるヒトG-CSF活性を有するポリペプチド、又はこれに糖鎖が付された糖タンパク質を挙げることができる。更に同配列のアミノ酸配列の一部が改変(置換、欠失、挿入、および/または付加)されたG-CSF活性を有するG-CSF誘導体も本発明におけるG-CSFに含まれる。
これらのG-CSFは、天然物から抽出・分離・精製するか、或いは遺伝子組換えによって形質転換して得た形質転換体をして生産せしめ、単離精製したものを使用することができる。宿主細胞としては大腸菌、哺乳動物細胞(C127、CHO細胞など)を挙げることができる。これらの詳細な製造方法については、例えば、特表昭63-500636号や特開昭62-236497号、特開昭62-236488号、および特開昭63-267292号明細書に開示されている。
本発明の粉末状経粘膜投与製剤における高分子医薬品の含有率は、通常0.01〜90W/W%、好ましくは0.1〜50W/W%である。
本発明において用いられるカチオン性ポリマーとは、反復構造をなす基本単位の中にカチオンチャージを有する、あるいは溶解するとカチオンチャージを有するようになる構造を持つものをいう。本発明において用いられるカチオン性ポリマーは、粘膜からの高分子医薬品の吸収を促進する効果を持つものであればよい。具体的には、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリ-L-アルギニンなどを用いることができる。アミノアルキルメタアクリレートコポリマーは、例えば、Rohm Pharmaから商品名オイドラギットEおよびオイドラギッドRSとして入手することができる。オイドラギッドEは、メタアクリル酸メチルとメタアクリル酸ブチルおよびメタアクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体であり、平均分子量は150,000である。ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートは、例えば、三共(株式会社)から商品名AEAとして入手することができるが、これは、ポリビニルアルコールとアセトアルデヒドを脱水して得たアセタールおよび水酸基の一部にジエチルアミノ酢酸をエステル結合させて得られる平均分子量65,000の重合体である。ポリ-L-アルギニンは、L-アルギニンの重合体であり、平均分子量としては1000〜1,000,000のものが挙げられるが、好ましくは12,100〜92,000であるとよく、より好ましくは92,000である。ポリ-L-アルギニンは、シグマから入手することができる。本発明の粉末状経粘膜投与製剤におけるカチオン性ポリマーの含有率は、通常0.1〜90W/W%、好ましくは1〜50W/W%である。
本発明において用いられる増粘性ポリマーとは、溶解時あるいは膨潤時に粘性をもつポリマーをさす。本発明において用いられる増粘性ポリマーは、カチオン性ポリマーと併用された時に、カチオン性ポリマーが単独で用いられた時よりも、高分子医薬品の吸収が増大するものであればよい。具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、カンテン末、アラビアゴム末などを用いることができる。本発明の粉末状経粘膜投与製剤における増粘性ポリマーの含有率は、通常0.1〜90W/W%、好ましくは1〜50W/W%である。
本発明において用いられる賦形剤は糖類に代表されるが、このような糖類としては、キシリトール、フルクトース、ソルビトール、ラクトース、イノシトール、シュクロース、マンニトール等などがあげられる。その他にも、賦形剤としては、デンプン類、無機質類、有機酸類、アミノ酸類などが挙げられる。デンプン類としては、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、バレイショデンプンなどが含まれる。無機質類としては、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウムなどが含まれる。有機酸類としては、コハク酸、酒石酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、グルコン酸、グルクロン酸およびその塩などが含まれる。アミノ酸類としては、L-アルギニン、D,L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-グルタミン酸などが含まれる。本発明の粉末状経粘膜投与製剤における賦形剤の含有率は、通常1〜90W/W%、好ましくは5〜80W/W%である。
本発明では必要に応じて滑沢剤などの添加剤を用いる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルクなどが含まれる。本発明の粉末状経粘膜投与製剤における添加剤の含有率は、通常0.01〜90W/W%、好ましくは0.05〜50W/W%である。
以下に、本発明の粉末状経粘膜投与製剤の製造方法の一例を簡単に説明する。
G-CSFの緩衝溶液とあらかじめカチオン性ポリマー、およびシュクロース、マンニトール等の賦形剤あるいはまた増粘性ポリマーを溶解させておいた緩衝溶液を混合する。これを噴霧乾燥し、粉末を得る。
得られた粉末を必要量秤量し、カプセルに充填して粉末状経粘膜投与製剤を得る。
上記のようにして製造された経粘膜投与製剤の粉末は、通常0.1〜500μmの粒径(直径)を有し、好ましくは、5〜100μmの粒径を有する。
経粘膜投与製剤の粉末はカプセル化されていると取扱が容易になる。カプセル基剤の材料としては、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、デンプンなどを挙げることができ、これらの材料にグリセリン、ソルビトール、カラギーナン、ポリエチレングリコール、アラビアゴムなどを添加して、塑性を増加させてもよい。
その他にも、塩化カリウム、シュクロース、着色剤、酸化チタンを添加してもよい。
本発明の粉末状経粘膜投与製剤は、必要時にあるいは適当な投与頻度で、患者の粘膜に投与することができる。粘膜の具体例としては、鼻粘膜を挙げることができる。例えば、本発明の製剤を経鼻投与する場合には、粉末状製剤を内包するカプセルを小型噴霧器(パブライザー)にセットし、カプセルに穴をあけた後、ノズルを鼻孔に挿入し、鼻で息を吸いながら、ゴム球を押さえることにより、鼻腔内に粉末状製剤を噴霧すればよい。顆粒球コロニー刺激因子を有効成分として含有する製剤は、一日1〜4回、有効成分の量にして1〜500μg/kg/日、好ましくは5〜100μg/kg/日の量で、患者に投与すればよい。インシュリンを有効成分として含有する製剤は、一日1〜4回、有効成分の量にして0.1〜100U/kg/日、好ましくは0.5〜20U/kg/日の量で、患者に投与すればよい。エリスロポエチンを有効成分として含有する製剤は、一日1〜4回、有効成分の量にして50〜50,000IU/kg/日、好ましくは200〜8,000IU/kg/日の量で、患者に投与すればよい。成長ホルモンを有効成分として含有する製剤は、一日1〜4回、有効成分の量にして0.1〜50IU/kg/日、好ましくは0.4〜15IU/kg/日の量で、患者に投与すればよい。インフルエンザ抗原を有効成分として含有する製剤は、一日1〜4回、2週〜6週の間隔をあけて、有効成分の量にして0.5〜200CCA/kg/日、好ましくは2〜40CCA/kg/日の量で、対象者に投与すればよい。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願特願平10-192722号および特願平11-81549号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されることはない。
以下の実施例および比較例において使用したカチオン性ポリマー、シュクロース、D-マンニトール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウム、それらの緩衝溶液の成分(緩衝成分)は以下のとおりである。
カチオン性ポリマー
ポリ-L-アルギニン(シグマ社)
アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(Rohm Pharma社、商品名:オイドラギット(Eudragit)E100)
ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(三共社、商品名:AEA)
ジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストラン(Fluka社)
キトサン(キトサン8B、製造元:カトキチ社、販売元:フナコシ社)
シュクロース(小堺製薬、日本薬局方 白糖)
D-マンニトール(花王 ニッキョク マンニトール カオー)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学、商品名:メトローズ60SH4000)
ヒアルロン酸ナトリウム(東京化成工業)
緩衝成分
クエン酸(東洋製薬化成)、リン酸(国産化学)
以下の実施例で用いた高分子医薬品は以下のとおりである。
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、遺伝子組換え大腸菌により産生された、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドである(特表昭63-500636参照)。また、こうして得られたG-CSFを濃縮、緩衝液置換をしてG-CSF緩衝液を得た。
インシュリンは市販のもの(べーリンガーマンハイム社 ヒト組替え体 Mw=約5700)である。
エリスロポエチンは市販のもの(キリンビール社 ヒト組替え体 Mw=約30,000)である。
成長ホルモンは市販のもの(Chemicon社 ヒト組替え体 Mw=約22,000)である。
インフルエンザA抗原は市販のもの(Chemicon社)である。
<実施例1>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびポリ-L-アルギニンの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
ポリ-L-アルギニン 20W/W%
シュクロース 26W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例2>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
AEA 20W/W%
シュクロース 26W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例3>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
オイドラギット E100 20W/W%
シュクロース 26W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例4>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
オイドラギット E100 10W/W%
シュクロース 63W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例5>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
オイドラギット E100 20W/W%
シュクロース 53W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例6>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
オイドラギット E100 30W/W%
シュクロース 43W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例7>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
オイドラギット E100 57W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例8>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
オイドラギット E100 20W/W%
シュクロース 47W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例9>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
オイドラギット E100 20W/W%
HPMC 10W/W%
シュクロース 37W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例10>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
オイドラギット E100 20W/W%
HPMC 20W/W%
シュクロース 27W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<比較例1>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
シュクロース 46W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<比較例2>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にシュクロースおよびヒアルロン酸ナトリウムの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻製剤を得た。
G-CSF 20W/W%
ヒアルロン酸ナトリウム 20W/W%
シュクロース 26W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実験例1>
雄性ビーグル犬を用い、実施例1および比較例1で調製した製剤をG-CSFとして100μg/kgとなるように、ゼラチンカプセルに充填した。先端に約2.5cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。血中G-CSF濃度はELISA法(T.Ichikawa等:Experimental Hematology23:192-195(1955))を用いて測定した。表1に血中G-CSF濃度-時間曲線下面積(AUCG)の値を示した。この結果、高分子類を含有しない比較例1に比べカチオン性ポリマーとしてポリ-L-アルギニンを含有する実施例1はAUCGで高い値を示し、ポリ-L-アルギニンの添加でG-CSFの鼻粘膜からの吸収が促進されることがわかった。

<実験例2>
雄性ビーグル犬を用い、比較例1および比較例2で調製した製剤をG-CSFとして100μg/kgとなるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約2.5cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。血中G-CSF濃度はELISA法を用いて測定した。表2に血中G-CSF濃度-時間曲線下面積(AUCG)の値を示した。この結果、高分子類を含有しない比較例1に比べてカチオン性ポリマーではないポリマーであるヒアルロン酸ナトリウムを含有する比較例2はAUCGでほぼ同じ値を示し、ほとんど吸収促進効果を示さなかった。

<実験例3>
雄性ビーグル犬を用い、実施例1、2および3で調製した製剤をG-CSFとして100μg/kgとなるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。採血した血液中の白血球数はマイクロセルカウンターを用いてカウントした。血中G-CSF濃度はELISA法を用いて測定した。表3に増加白血球数-時間曲線下面積(AUCW)および血中G-CSF濃度-時間曲線下面積(AUCG)の値を示した。この結果、AEAやオイドラギット E100にはポリ-L-アルギニンより優れた吸収促進効果があることが判明した。

<実験例4>
雄性ビーグル犬を用い、実施例4、5、6および7で調製した製剤をG-CSFとして100μg/kgとなるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。採血した血液中の白血球数はマイクロセルカウンターを用いてカウントした。血中G-CSF濃度はELISA法を用いて測定した。表4に増加白血球数-時間曲線下面積(AUCW)および血中G-CSF濃度-時間曲線下面積(AUCG)の値を示した。この結果、オイドラギット E100の含有量を様々に変化させてもその効果は保持された。

<実験例5>
雄性ビーグル犬を用い、実施例8、9および10で調製した製剤をG-CSFとして100μg/kgとなるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。採血した血液中の白血球数はマイクロセルカウンターを用いてカウントした。血中G-CSF濃度はELISA法を用いて測定した。表5に増加白血球数-時間曲線下面積(AUCW)および血中G-CSF濃度-時間曲線下面積(AUCG)の値を示した。この結果、オイドラギット E100とともにHPMCを添加すると、オイドラギット単独よりも効果が増強されることが明らかとなった。

<実施例11>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にD-マンニトールおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
G-CSF 10.0W/W%
オイドラギッドE100 7.5W/W%
D-マンニトール 75.0W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<比較例3>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にD-マンニトールの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
G-CSF 10.0W/W%
D-マンニトール 81.8W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実験例6>
雄性ビーグル犬を用い実施例11および比較例3で調製した製剤をG-CSFとして50μg/kg投与されるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。血中G-CSF濃度はELISA法を用いて測定した。表6に血中G-CSF濃度-時間曲線下面積(AUCG)の値を示した。その結果、オイドラギットE100はG-CSFの経鼻吸収を顕著に促進することが判明した。

<実施例12>
インシュリンの緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギット E100)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
インシュリン 18W/W%
オイドラギットE100 27W/W%
HPMC 9W/W%
シュクロース 32W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例13>
インシュリンの緩衝溶液にシュクロースおよびポリ-L-アルギニンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
インシュリン 18W/W%
ポリ-L-アルギニン 27W/W%
HPMC 9W/W%
シュクロース 32W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例14>
インシュリンの緩衝溶液にシュクロースおよびジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストランおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
インシュリン 18W/W%
DEAE-デキストラン 27W/W%
HPMC 9W/W%
シュクロース 32W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例15>
インシュリンの緩衝溶液にシュクロースおよびキトサンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
インシュリン 18W/W%
キトサン 27W/W%
HPMC 9W/W%
シュクロース 32W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<比較例4>
インシュリンの緩衝溶液にシュクロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
インシュリン 18W/W%
HPMC 9W/W%
シュクロース 60W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<比較例5>
インシュリンを緩衝溶液に溶解させ以下の濃度の皮下投与液を調製した。
インシュリン 1.0mg/ml
<実験例7>
雄性ビーグル犬を用い実施例12、13、14、15および比較例4で調製した製剤を経鼻投与、比較例5で調製した製剤を皮下投与した。経鼻投与群については、インシュリンとして70μg/kg投与されるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。皮下投与群では、比較例5の製剤をインシュリンとして25μg/kgビーグル犬の背部に皮下投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。血中インシュリン濃度はELISA法を用いて測定した。表7に血中インシュリン濃度-時間曲線下面積(AUC)の値を示した。その結果、オイドラギットE100はインシュリンの経鼻吸収を顕著に促進することが判明した。更に、その吸収促進効果は、ポリ-L-アルギニン、DEAE-デキストラン、キトサンよりも優れていた。また、皮下投与に対する実施例12の製剤の生物学的利用率は27%であった。

<実施例16>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にD-マンニトールおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギットE100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
G-CSF 10.0W/W%
オイドラギットE100 7.5W/W%
D-マンニトール 75.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実施例17>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にD-マンニトールおよびポリ-L-アルギニンの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
G-CSF 10.0W/W%
ポリ-L-アルギニン 7.5W/W%
D-マンニトール 75.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実施例18>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にD-マンニトールおよびジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストランの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
G-CSF 10.0W/W%
DEAE-デキストラン 7.5W/W%
D-マンニトール 75.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実施例19>
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の緩衝溶液にD-マンニトールおよびキトサンの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
G-CSF 10.0W/W%
キトサン 7.5W/W%
D-マンニトール 75.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実験例8>
雄性ビーグル犬を用い実施例16、17、18、および19で調製した製剤をG-CSFとして50μg/kg投与されるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。血中G-CSF濃度はELISA法を用いて測定した。表8に血中G-CSF濃度-時間曲線下面積(AUCG)の値を示した。その結果、オイドラギットE100を含有する粉末の血中G-SCF濃度-時間曲線下面積(AUCG)が最も高いことが判明した。以上より、オイドラギットE100の吸収促進作用は他のポリカチオンであるポリ-L-アルギニン、DEAE-デキストラン、キトサンよりも優れていることが明らかとなった。

<実施例20>
エリスロポエチンの緩衝溶液にシュクロースおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギットE100)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
エリスロポエチン 30W/W%
オイドラギットE100 30W/W%
HPMC 10W/W%
シュクロース 15W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<比較例6>
エリスロポエチンの緩衝溶液にシュクロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
エリスロポエチン 30W/W%
HPMC 10W/W%
シュクロース 45W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例21>
エリスロポエチンの緩衝溶液にシュクロースおよびポリ-L-アルギニンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
エリスロポエチン 30W/W%
ポリ-L-アルギニン 30W/W%
HPMC 10W/W%
シュクロース 15W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例22>
エリスロポエチンの緩衝溶液にシュクロースおよびジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストランおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
エリスロポエチン 30W/W%
DEAE-デキストラン 30W/W%
HPMC 10W/W%
シュクロース 15W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<実施例23>
エリスロポエチンの緩衝溶液にシュクロースおよびキトサンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
エリスロポエチン 30W/W%
キトサン 30W/W%
HPMC 10W/W%
シュクロース 15W/W%
緩衝成分 適量
全量 100W/W%
<比較例7>
エリスロポエチンを緩衝溶液に溶解させ以下の濃度の皮下投与液を調製した。
エリスロポエチン 250μg/ml
<実験例9>
雄性ビーグル犬を用い実施例20、21、22、23および比較例6で調製した製剤を経鼻投与、比較例7で調製した製剤を皮下投与した。経鼻投与群については、エリスロポエチンとして120μg/kg投与されるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチュープを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。皮下投与群では、比較例7の製剤をエリスロポエチンとして5μg/kgビーグル犬の背部に皮下投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。血中エリスロポエチン濃度はELISA法を用いて測定した。表9に血中エリスロポエチン濃度-時間曲線下面積(AUC)の値を示した。その結果、オイドラギットE100はエリスロポエチンの経鼻吸収を顕著に促進することが判明した。更に、その吸収促進効果は、ポリ-L-アルギニン、DEAE-デキストラン、キトサンよりも優れていた。また、皮下投与に対する実施例20の生物学的利用率は15%であった。

<実施例24>
成長ホルモンの緩衝溶液にD-マンニトールおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギットE100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
成長ホルモン 10.0W/W%
オイドラギットE100 7.5W/W%
D-マンニトール 75.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<比較例8>
成長ホルモンの緩衝溶液にD-マンニトールの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。
成長ホルモン 10.0W/W%
D-マンニトール 82.7W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実験例10>
雄性ビーグル犬を用い実施例24および比較例8で調製した製剤を成長ホルモンとして50μg/kg投与されるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチューブを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。投与後、一定時間毎に前腕静脈より採血した。血中成長ホルモン濃度はELISA法を用いて測定した。表10に血中成長ホルモン濃度-時間曲線下面積(AUC)の値を示した。その結果、オイドラギットE100は成長ホルモンの経鼻吸収を顕著に促進することが判明し、その吸収率は未添加の場合の10倍という非常に高い値であった。

<実施例25>
インフルエンザA抗原の緩衝溶液にD-マンニトールおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギットE100)の緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。但し、下表のインフルエンザA抗原の重量%は、試薬中の緩衝成分も含めた値である。
インフルエンザA抗原 4.0W/W%
オイドラギットE100 7.5W/W%
D-マンニトール 81.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<比較例9>
インフルエンザA抗原の緩衝溶液にD-マンニトールの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。但し、下表のインフルエンザA抗原の重量%は、試薬中の緩衝成分も含めた値である。
インフルエンザA抗原 4.0W/W%
D-マンニトール 88.7W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実施例26>
インフルエンザA抗原の緩衝溶液にD-マンニトールおよびポリ-L-アルギニンの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。但し、下表のインフルエンザA抗原の重量%は、試薬中の緩衝成分も含めた値である。
インフルエンザA抗原 4.0W/W%
ポリ-L-アルギニン 7.5W/W%
D-マンニトール 81.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実施例27>
インフルエンザA抗原の緩衝溶液にD-マンニトールおよびジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストランの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。但し、下表のインフルエンザA抗原の重量%は、試薬中の緩衝成分も含めた値である。
インフルエンザA抗原 4.0W/W%
DEAE-デキストラン 7.5W/W%
D-マンニトール 81.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実施例28>
インフルエンザA抗原の緩衝溶液にD-マンニトールおよびキトサンの緩衝溶液を加え、噴霧乾燥し、以下の処方の粉末状経鼻投与製剤を得た。但し、下表のインフルエンザA抗原の重量%は、試薬中の緩衝成分も含めた値である。
インフルエンザA抗原 4.0W/W%
キトサン 7.5W/W%
D-マンニトール 81.2W/W%
緩衝成分 適量
全量 100.0W/W%
<実験例11>
<<実験1日目(投与1回目)>>
実験に用いる雄性ビーグル犬の前腕静脈より採血を実施した。実施例25、26、27、28、および比較例9で調製した製剤をインフルエンザA抗原24μl相当量が投与されるようにゼラチンカプセルに充填した。先端に約5.0cmの長さのシリコンチューブを接着したパブライザー(R)(石川製作所製)にゼラチンカプセルを装着し投与の準備を行なった。外鼻孔よりパブライザーのシリコンチューブ部を鼻腔内に挿入し、ゴム球部分を押して投与した。
<<実験15日目(投与2回目)>>
実施例25、26、27、28、および比較例9で調製した製剤を経鼻投与した。この際の群分け、投与量及び、投与方法は、実験1日目と同様である。
<<実験29日目>>
インフルエンザA抗原を投与した雄性ビーグル犬の前腕静脈より採血を実施した。
<<抗体量の測定>>
1、29日目に採血した血清中の抗インフルエンザA抗原量をELISA法により測定した。測定した抗体の種類はIgG1およびIgG2の2種類とし、1日目に対する抗インフルエンザA抗体量の変化を比較した。尚、抗インフルエンザA抗体量は、抗原を固相化したウェルと固相化してないウェルの吸光度差として比較を実施した。実験29日目における抗インフルエンザA抗体の誘導された個体の割合を表11、表12に示した(各群4匹)。その結果、オイドラギットE100添加群において、抗インフルエンザA-IgG1、IgG2双方が最も高頻度で誘導されることが判明した。以上より、オイドラギットE100は経鼻ワクチンアジュバントとして有用であり、その作用は他のポリカチオンであるポリ-L-アルギニン、DEAE-デキストラン、キトサンより優れていることが明らかになった。

産業上の利用可能性
高分子医薬品にカチオン性ポリマー(特にアミノアルキルメタアクリレートコポリマーまたはポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート)を添加して、あるいはさらに増粘性ポリマーを添加して、粉末状製剤とすることにより、効果的に粘膜から高分子医薬品を吸収させることができた。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。




 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-06-16 
出願番号 特願2000-558833(P2000-558833)
審決分類 P 1 651・ 537- YA (A61K)
P 1 651・ 092- YA (A61K)
P 1 651・ 531- YA (A61K)
P 1 651・ 121- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田村 聖子岩下 直人  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 横尾 俊一
齋藤 恵
登録日 2003-04-25 
登録番号 特許第3422775号(P3422775)
権利者 キリン-アムジエン・インコーポレーテツド
発明の名称 高分子医薬品含有粉末状経粘膜投与製剤  
代理人 平木 祐輔  
代理人 石井 貞次  
代理人 石井 貞次  
代理人 間山 世津子  
代理人 平木 祐輔  
代理人 間山 世津子  

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