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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1102806
異議申立番号 異議2002-72307  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-25 
確定日 2004-07-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3267935号「有機性廃水の処理方法及びその処理装置」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3267935号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3267935号の請求項1ないし14に係る発明についての出願は、平成10年8月21日(優先権主張、平成9年12月19日、日本)に特許出願され、平成14年1月11日にその発明について特許権の設定登録がなされ(公報発行平成14年3月25日)、その後、平成14年9月25日に徳重憲一及び新田愛子より、それぞれ特許異議の申立てがなされ、平成15年3月7日(発送日)に取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年5月6日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項a:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項1】有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送し、好気性好熱菌の生育に適した栄養条件を得るために残りの汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共に好気性好熱菌から分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。」を「【請求項1】有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送し、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために残りの汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。」と訂正する。
訂正事項b:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項2】可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項1記載の有機性廃水の処理方法。」を「【請求項2】好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1[FERM P-15395]を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項1記載の有機性廃水の処理方法。」と訂正する。
訂正事項c:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項3】有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、生物処理装置に返送される微生物量を多くし且つ好気性好熱菌の生育に適した栄養条件を得るために固液分離装置で分離された汚泥を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後、汚泥の一部を生物処理装置に返送し、残りの汚泥の少なくとも一部を通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共に、好気性好熱菌から分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。」を「【請求項3】有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、生物処理装置に返送される微生物量を多くし且つ好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために固液分離装置で分離された汚泥を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後、汚泥の一部を生物処理装置に返送し、残りの汚泥の少なくとも一部を通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。」と訂正する。
訂正事項d:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項4】可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項3記載の有機性廃水の処理方法。」を「【請求項4】好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1[FERM P-15395]を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項3記載の有機性廃水の処理方法。」と訂正する。
訂正事項e:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項5】有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を、膜分離装置が槽内に配設された生物処理装置にて生物処理を行うと共に好気性好熱菌の生育に適した栄養条件を得るために生物処理装置内の汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共に好気性好熱菌から分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。」を「【請求項5】有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を、膜分離装置が槽内に配設された生物処理装置にて生物処理を行うと共に好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために生物処理装置内の汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。」と訂正する。
訂正事項f:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項6】可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項5記載の有機性廃水の処理方法。」を「【請求項6】好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1[FERM P-15395]を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項5記載の有機性廃水の処理方法。」と訂正する。
訂正事項g:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項7】可溶化処理時間が、可溶化処理装置での被処理水の水力学的滞留時間に基づいて決定されることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の有機性廃水の処理方法。」を「【請求項7】可溶化処理時間が、可溶化処理装置での被処理水の水力学的滞留時間に基づいて3〜24時間に設定されることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の有機性廃水の処理方法。」と訂正する。
訂正事項h:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項8】水力学的滞留時間が3〜24時間であることを特徴とする請求項7記載の有機性廃水の処理方法。」を「【請求項8】水力学的滞留時間が15〜20時間であることを特徴とする請求項7記載の有機性廃水の処理方法。」と訂正する。
訂正事項i:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項9】有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、有機性廃水の生物処理をするための生物処理装置と、この生物処理装置で処理された処理液を処理水と汚泥に固液分離するための固液分離装置と、この固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送するための経路と、好気性好熱菌の生育に適した栄養条件を得るために残りの汚泥の少なくとも一部を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、この濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥を、熱による可溶化と好気性好熱菌から分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。」を「【請求項9】有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、有機性廃水の生物処理をするための生物処理装置と、この生物処理装置で処理された処理液を処理水と汚泥に固液分離するための固液分離装置と、この固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送するための経路と、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために残りの汚泥の少なくとも一部を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、この濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。」と訂正する。
訂正事項j:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求10】可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項9記載の有機性廃水の処理装置。」を「【請求項10】好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1[FERM P-15395]を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項9記載の有機性廃水の処理装置。」と訂正する。
訂正事項k:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項11】有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、有機性廃水の生物処理をするための生物処理装置と、この生物処理装置で処理された処理液を処理水と汚泥に固液分離するための固液分離装置と、この固液分離装置で分離された汚泥を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、生物処理装置に返送される微生物量を多くし且つ好気性好熱菌の生育に適した栄養条件を得るためにこの濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥の一部を生物処理装置に返送するための経路と、残りの汚泥の少なくとも一部を、熱による可溶化と好気性好熱菌から分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。」を「【請求11】有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、有機性廃水の生物処理をするための生物処理装置と、この生物処理装置で処理された処理液を処理水と汚泥に固液分離するための固液分離装置と、この固液分離装置で分離された汚泥を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、生物処理装置に返送される微生物量を多くし且つ好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るためにこの濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥の一部を生物処理装置に返送するための経路と、残りの汚泥の少なくとも一部を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。」と訂正する。
訂正事項l:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求12】可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項11記載の有機性廃水の処理装置。」を「【請求項12】好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1[FERM P-15395]を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項11記載の有機性廃水の処理装置。」と訂正する。
訂正事項m:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求13】有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、膜分離装置が槽内に配設された生物処理装置と、好気性好熱菌の生育に適した栄養条件を得るためにこの生物処理装置で分離された汚泥の少なくとも一部を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、この濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥を、熱による可溶化と好気性好熱菌から分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。」を「【請求13】有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、膜分離装置が槽内に配設された生物処理装置と、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るためにこの生物処理装置で分離された汚泥の少なくとも一部を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、この濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。」と訂正する。
訂正事項n:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求14】可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項13記載の有機性廃水の処理装置。」を「【請求項14】好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1[FERM P-15395]を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項13記載の有機性廃水の処理装置。」と訂正する。
訂正事項o:本件特許明細書の段落【0010】及び【0013】中、「好気性好熱菌の生育に適した」(2箇所)を「好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した」と訂正し、「好気性好熱菌から分泌される」を「バチルス・ステアロサーモフィラスから分泌され」と訂正する。
訂正事項p:本件特許明細書の段落【0019】中、「好気性好熱菌の生育にさらに好適な」を「好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育にさらに好適な」と訂正する。
訂正事項q:本件特許明細書の段落【0015】、【0017】、【0022】、【0024】、【0026】及び【0052】中、「好気性好熱菌の生育に適した」を「好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した」と訂正し、「好気性好熱菌から分泌される」を「バチルス・ステアロサーモフィラスから分泌され」と訂正する。
訂正事項r:本件特許明細書の段落【0014】、【0016】、【0018】、【0023】、【0025】及び【0027】中、「可溶化槽で可溶化された処理液」を「好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1[FERM P-15395]を用い、可溶化槽で可溶化された処理液」と訂正する。
訂正事項s:本件特許明細書の段落【0020】中、「HRTに基づいて決定される」を「HRTに基づいて3〜24時間と設定される」と訂正する。
訂正事項t:本件特許明細書の段落【0021】中、「HRTを3〜24時間とすることにより」を「HRTを15〜20時間とすることにより」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ア.訂正事項a,c,e,i,k,mは、段落【0010】の記載に基づき「好気性好熱菌」を「バチルス・ステアロサーモフィラス」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
イ.訂正事項b,d,f,j,l,nは、段落【0014】の記載に基づき「好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラス」を「バチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1[FERM P-15395]」に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
ロ.訂正事項g,hは、段落【0034】【0048】の記載に基づき被処理水の水力学的滞留時間を「3〜24時間」、「15〜20時間」にそれぞれに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
ハ.訂正事項oないしtは、訂正事項aないしnにより生じる特許請求の範囲と発明の詳細な説明における記載の不整合を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
そして、上記訂正事項aないしtは、いずれも実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし14に係る発明(以下、「本件発訂正明1」ないし「本件訂正発明14」という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3-2.引用刊行物に記載された発明
当審が平成15年3月7日(発送日)に通知した引用文献1:特開平9-10791号公報(申立人新田愛子が提出した甲第3号証)には、本件明細書の【図3】に記載される従来例が記載されている。

3-3.本件訂正発明との対比・判断
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1と、 上記引用文献1に記載される発明とを対比すると、両者は「有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送し、残りの汚泥の少なくとも一部を通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件訂正発明1では、可溶化槽で可溶化する汚泥を、好気性好熱菌の生育に適した栄養条件を得るために濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮しているのに対し、引用文献1にはそのような構成が記載されていない点
相違点2:本件訂正発明1では、汚泥の可溶化を、好気性好熱菌から分泌される汚泥可溶化酵素によっても行っているのに対し、引用文献1にはそのような構成が記載されていない点
相違点3:好気性好熱菌として、本件訂正発明1ではバチルス・ステアロサーモフィラスを用いているのに対し、引用文献1には具体的な記載はない点
以下、相違点1に付き検討する。
当審で通知した引用文献2:「第34回下水道研究発表会講演集」平成9年度、日本下水道協会、p.839-841(申立人徳重憲一が提出した甲第1号証)には、第839頁の図-1に示される高温可溶化槽に間歇注入する汚泥として、「(1)連続実験による汚泥の可溶化・・・汚泥はT処理場から採取した余剰汚泥を用い、約2%のVSSに調整して使用した。」(第839頁10〜17行)と記載され、同じく当審で通知した引用文献3:特開平9-234495号公報(申立人徳重憲一が提出した甲第2号証)には、「(実施例)でんぷん工場廃液を処理対象の有機性固形物含有廃液として用い、沈殿層にて30分間沈殿分離(沈殿率SV30=10%)して、沈殿固形物含有液(固形物濃度SS=1.3%、揮発性有機物質含有割合VSS/SS=98%)を3,000rpm(1,300×g)にて5分間遠心分離することにより得られた有機性固形物質濃縮液を水道水で希釈して有機性固形物濃度を1%に調整した液体を可溶化処理の材料とした。」(第5頁右欄段落【0041】)と記載され、当審で通知した引用文献4:米国特許第4915840号明細書(申立人新田愛子が提出した甲第1号証)には、「予め選択された3〜10重量%の懸濁固形分量の活性汚泥が、ライン28を通して容器26から排出される。・・・加水分解された汚泥の一部は、ライン32を通して排出され、ライン28からの濃縮された汚泥と合わせられて、ライン33を通して自己発熱好気性消化領域(ATAD)34に送られる。」(第5欄46〜54行)、と記載されており、これら引用文献の記載によれば、好気性好熱菌により汚泥を可溶化するのに、汚泥濃度を1〜2%、すなわち含水率を99%以下にすることは本件特許出願前に知られていたことと云える。
しかしながら、上記引用文献2に記載されるものは、汚泥の可溶化実験であって、処理場から採取した汚泥を希釈して用いるものであり、引用文献3に記載されるものは、汚泥を含む有機性固形物の可溶化処理に関するものであるが、実施例で固形物濃度を1%としているのは汚泥ではなく、しかも水道水で希釈しており、引用文献4に記載されるものは、清澄槽12からの汚泥に、一次清澄槽3からの高濃度汚泥を混合して汚泥濃度を調整しており、しかも汚泥の一部は加水分解され、自己発熱好気性消化領域34で消化されているのであるから、上記引用文献2ないし4は、本件訂正発明1のように濃縮して含水率を99%以下にして、好気性高熱菌による汚泥の可溶化処理を示唆するものではない。
また、当審で通知した引用文献6:「下水道講座 維持管理と水質管理」、鹿島出版会、昭52年11月30日発行、第394〜399頁(申立人新田愛子が提出した甲第4号証)には、「処理水質を向上させるには、他の条件が許せばなるべく高いMLSSにしたほうがよい。」(第396頁8〜9行)との記載があるが、該事項は一般的な活性汚泥法についての記述であって、本件訂正発明1における好気性高熱菌による汚泥の可溶化処理についても当てはまるものとは云えない。
さらに、当審で通知した引用文献5:Jour.of biotech.38(1995)173-182(申立人新田愛子が提出した甲第2号証)には、「下水汚泥の好気性好熱処理プロセス」についての報文であり、「これまでの好気性高熱プロセスにおける微生物活性に関する研究により、細胞外での分解活性の大部分が蛋白質分解(プロテオシス)であることが示された。この活性は酵素供給速度の増加に相関する」(第174頁右欄24〜27行)こと、「好気高熱条件での汚泥中における活性好熱生物相は極めて均一であり、高温好中球のBacillus族がほとんど唯一の菌である。これらの95%以上がバチルス・ステアロサーモフィラス族(Bacillus stearothermophilus)に分類される」(第175頁左欄22〜27行)が、同じく引用文献7:特開平7-75782号公報(申立人徳重憲一が提出した甲第4号証)には、微生物処理槽内に膜分離装置を設置し、膜分離装置により固液分離し、膜透過液を槽外へ取り出す廃水の処理方法(段落【0002】【0003】)が記載されているのみである。
本件訂正発明1は、上記相違点1の構成により「好気性好熱菌の育成に適した栄養条件を得る」ことができ、可溶槽で処理すべき汚泥量を減少させることができるという本件特許明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件訂正発明1は、他の相違点に付き検討するまでもなく、引用文献1ないし4記載の発明と認められないばかりか、引用文献1ないし7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは云えない。
(2)本件訂正発明3,5について
本件訂正発明3,5は、上記相違点1で指摘した引用文献1に記載のない構成「好気性好熱菌の生育に適した栄養条件を得るために生物処理装置内の汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮」を有する発明であるから、本件訂正発明1と同様な理由で、引用文献1ないし4記載の発明と認められないばかりか、引用文献1ないし7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは云えない。
(3)本件訂正発明2,4,6〜8について
本件訂正発明2,4,6〜8は、直接ないし間接的に本件訂正発明1,3,5を引用する発明であるから、本件訂正発明1,3,5が、引用文献1ないし4記載の発明と認められないばかりか、引用文献1ないし7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは云えない以上、本件発明2,4,6〜8も、引用文献1ないし4記載の発明と認められないばかりか、引用文献1ないし7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは云えない。
(4)本件訂正発明9ないし14は、本件訂正発明1ないし6の「方法発明」を「装置発明」にカテゴリーを変更したものであり、その相違点もカテゴリーの変更に伴う表現上の差にすぎないから、本件発明1ないし6と同様な理由により、引用文献1ないし4記載の発明と認められないばかりか、引用文献1ないし7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは云えない。

また、その他の異議申立理由及び証拠は、本件訂正発明1ないし14の特許を取り消すべき理由として採用することができない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件訂正発明1ないし14についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1ないし14についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
有機性廃水の処理方法及びその処理装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送し、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために残りの汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。
【請求項2】 好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項1記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項3】 有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、生物処理装置に返送される微生物量を多くし且つ好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために固液分離装置で分離された汚泥を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後、汚泥の一部を生物処理装置に返送し、残りの汚泥の少なくとも一部を通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。
【請求項4】 好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項3記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項5】 有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を、膜分離装置が槽内に配設された生物処理装置にて生物処理を行うと共に好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために生物処理装置内の汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法。
【請求項6】 好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することを特徴とする請求項5記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項7】 可溶化処理時間が、可溶化処理装置での被処理水の水力学的滞留時間に基づいて3〜24時間に設定されることを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項8】 水力学的滞留時間が15〜20時間である請求項7記載の有機性廃水の処理方法。
【請求項9】 有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、有機性廃水の生物処理をするための生物処理装置と、この生物処理装置で処理された処理液を処理水と汚泥に固液分離するための固液分離装置と、この固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送するための経路と、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために残りの汚泥の少なくとも一部を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、この濃縮装置で99%以下まで濃縮された汚泥を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。
【請求項10】 好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送するための経路を有することを特徴とする請求項9記載の有機性廃水の処理装置。
【請求項11】 有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、有機性廃水の生物処理をするための生物処理装置と、この生物処理装置で処理された処理液を処理水と汚泥に固液分離するための固液分離装置と、この固液分離装置で分離された汚泥を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、生物処理装置に返送される微生物量を多くし且つ好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るためにこの濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥の一部を生物処理装置に返送するための経路と、残りの汚泥の少なくとも一部を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。
【請求項12】 好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送するための経路を有することを特徴とする請求項11記載の有機性廃水の処理装置。
【請求項13】 有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、膜分離装置が槽内に配設された生物処理装置と、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るためにこの生物処理装置で分離された汚泥の少なくとも一部を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、この濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置。
【請求項14】 好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送するための経路を有することを特徴とする請求項13記載の有機性廃水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機性汚泥を排出する装置、例えば、下水処理場、屎尿処理場などの下水処理プロセス、食品工場、化学工場などの製造プロセスから排出される有機性汚泥を含有する有機性廃水を生物消化により処理する方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来より、かかる有機性廃水を処理する方法としては、活性汚泥法と呼ばれる好気性生物処理法が、最も一般的に実施されている。この方法は、図8に示すように、有機性廃水貯留槽1から生物処理槽3に導入された下水などの有機性廃水が、生物処理槽3において好気性条件にて、微生物による酸化分解反応である生物酸化によって、二酸化炭素もしくは水などの無機物に分解される方法である。そして、生物処理槽3にて処理された廃水は、沈殿槽5にて処理水Cと汚泥Dに固液分離され、汚泥Dの一部は微生物源として生物処理槽3に返送されるとともに、残りの汚泥は余剰汚泥Eとして処理されているのが一般的である。
【0003】
ところが、この場合、沈殿槽5で固液分離した有機性固形物を含む沈殿固形物濃縮液(汚泥)は、濃縮、消化、脱水、コンポスト化、焼却といった工程を経て処理されるため、このような処理に手間と費用がかかり好ましくなかった。
【0004】
このため、できるだけ汚泥のでない処理方法として、汚泥の滞留時間を長くする長時間曝気法、または汚泥を接触材表面に付着させることにより、汚泥を反応槽内に大量に保持する接触酸化法などが提案され実用化されている。((社)日本下水道協会発行、建設省都市局下水道部監修、「下水道施設計画・設計指針と解説」後編、1994年版)。しかしながら、これらの方法では、滞留時間を長くとるために広大な設置面積を必要とし、また、長時間曝気法は、負荷の低下時に汚泥の分散が生じ、固液分離に支障をきたすこととなる。また、接触酸化法では、負荷の上昇時に汚泥の目詰まりが発生する等の点から好ましくなかった。さらに、これらの問題を解決するために、余剰汚泥を一時貯留しておいて、嫌気消化法によって汚泥を減容化して汚泥量を減少し、廃棄処理の負荷を少なくする方法も提案されているが、この方法では、処理時間が20〜30日と長く、有機性汚泥の減容率も30〜50%程度と十分であるとは言い難いものである。
【0005】
また、特開平6-206088号公報では、有機性廃液を好気性生物処理をした後に、固液分離した汚泥をオゾン酸化塔で酸化処理することによって余剰汚泥を低減する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、オゾン酸化塔の取り扱いが熟練を要する上、残存オゾンの処理問題がある他、オゾン酸化塔での余剰汚泥の分解率も未だ満足できる値ではない。
【0006】
そこで、有機性汚泥を処理する活性汚泥処理方法において、発生する余剰汚泥の量を極めて低減できる活性汚泥処理方法として、特開平9-10791号公報には、「有機廃水を曝気処理装置にて好気性生物処理をした後、曝気処理装置にて処理された処理液を沈殿装置にて処理水と汚泥に固液分離し、沈殿装置で分離された汚泥の一部を環流経路を介して曝気処理装置に返送し、沈殿装置で分離された汚泥のうち余剰汚泥を可溶化処理装置にて高温で可溶化し、可溶化処理装置で可溶化された処理液を返送経路を介して曝気処理装置に返送することを特徴とする活性汚泥処理方法」が開示されている。しかし、この公報に記載された方法では、可溶化処理設備へ流入する余剰汚泥の最大処理液量に見合うだけ可溶化処理装置を大きくする必要がある。また、この可溶化処理装置で可溶化された大量の処理液が曝気処理装置に返送されるため、曝気処理装置での実質の滞留時間が短くなるので、処理水質が悪化することがある。
【0007】
また、特開平9-276887号公報には、図9に示すように、活性汚泥処理槽21と、活性汚泥処理後の汚泥を固液分離するための固液分離装置22と、分離汚泥の一部を活性汚泥処理槽21に返送するための汚泥返送手段23と、残りの汚泥を濃縮するための汚泥濃縮装置24と、濃縮汚泥を40〜100℃に加温するための加温装置25と、加温した汚泥を活性汚泥処理槽21に返送するための汚泥返送手段26とを有する有機性汚水の処理装置が開示されている。この処理装置によれば、固液分離装置22で分離した汚泥のうち余剰汚泥は汚泥濃縮装置24で濃縮した後に加温装置25に送られるので、加温装置25に送られる汚泥量を減少することができるという利点がある。ところが、この処理装置では汚泥の可溶化が加温処理のみで行われるため、汚泥の可溶化率が20〜25%程度と低く、大量の汚泥を可溶化するには、大容量の可溶化槽を用いて長時間かけて行わなければならず、設備規模が拡大し、それに起因して加熱や洗浄などにかかるランニングコストおよび維持費等が増加するという不利益が生じる。
【0008】
さらに、設備コストの低減を図るためには、必要設備数を減少し、設備占有スペースを小さくすることが好ましい。
【0009】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなれたものであって、その目的は、処理すべき汚泥量を低減することによってコンパクトな設備の実現が可能な有機性廃水の処理方法及びその処理装置を提供することにある。また本発明の目的は、処理水質を改善することが可能な有機性廃水の処理方法及びその処理装置を提供することにある。さらに、本発明の目的は、効率的且つ低コストの有機性廃水の処理方法及びその処理装置を提供することにある。そして、本発明の目的は、可溶化反応の処理時間を特定することによりその短縮を可能とし、効率的に十分な可溶化を成し遂げることが可能な有機性廃水の処理方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために固液分離装置で分離された汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽に送る方法を採用することにより、可溶化槽に送られる処理汚泥量を減少することができるので、可溶化槽を小型化することが可能である。特に、濃縮汚泥を通気手段を備えた可溶化槽に送ることにより、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件が得られるので、通気手段を備えた可溶化槽にて熱による汚泥の可溶化を行うと共に、バチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことにより高い可溶化率が得られる。
【0011】
また、固液分離された汚泥を含水率99%以下まで濃縮した後に生物処理装置に返送することにより、生物処理装置に返送される微生物量が多くなるので、生物処理装置における微生物量を高濃度に維持することが可能で、微生物による汚泥の酸化分解反応が十分に行われ、結果的に汚泥負荷が少なくなるため、処理水質が改善される。
【0012】
さらに、汚泥の可溶化処理時間を、可溶化処理装置での被処理液の水力学的滞留時間(以下「HRT」という)に基づいて決定することにより、冗長な可溶化反応を回避することが可能となるため、可溶化槽を縮小し、良好に可溶化処理を行うことができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
すなわち、本願は、第一の発明として、有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送し、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために残りの汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法を提供するものである。この方法により、固液分離装置で分離された汚泥の少なくとも一部は濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽に送られるので、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件が得られ、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことにより、高い可溶化率が得られる。また、汚泥の少なくとも一部は含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽に送られるので、可溶化槽に送られる汚泥処理量は少なくなり、可溶化槽を小型化することが可能である。
【0014】
また、第二の発明として、第一の発明において好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することにより、汚泥の減容化と同時に可溶化された処理液の生物学的消化が生物処理装置により行われる。
【0015】
また、第三の発明として、有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を生物処理装置にて生物処理をした後、生物処理装置にて処理された処理液を固液分離装置にて処理水と汚泥に固液分離し、生物処理装置に返送される微生物量を多くし且つ好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために固液分離装置で分離された汚泥を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後、汚泥の一部を生物処理装置に返送し、残りの汚泥の少なくとも一部を通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共に、バチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法を提供するものである。この方法により、固液分離装置で分離された汚泥はすべて含水率99%以下まで濃縮され、濃縮後の汚泥の一部が通気手段を備えた可溶化槽に送られるので、第一の発明と同様に、高い可溶化率の確保と可溶化槽の小型化が可能であるという効果に加えて、固液分離装置で分離された汚泥の一部は濃縮後に生物処理装置に送られるので、第一の発明に比べて生物処理装置中の微生物量が多くなり、生物処理装置における微生物量を高濃度に維持することが可能で、微生物による有機物の分解反応が十分に行われるので、結果的に汚泥負荷が小さくなるため、処理水質が改善されるという利点がある。
【0016】
また、第四の発明として、第三の発明において好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することにより、同上効果が達成される。
【0017】
また、第五の発明として、有機性廃水を生物学的に処理する方法であって、有機性廃水を、膜分離装置が槽内に配設された生物処理装置にて生物処理を行うと共に好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために生物処理装置内の汚泥の少なくとも一部を濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽にて、熱による汚泥の可溶化を行うと共にバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素によって汚泥の可溶化を行うことを特徴とする有機性廃水の処理方法を提供するものである。この方法により、有機性廃水の消化分解と膜分離による固液分離が並行して行われるので、廃水の処理が効率的である。また、生物処理装置内の汚泥の少なくとも一部は、濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮した後に通気手段を備えた可溶化槽に送られるので、第一の発明や第三の発明と同様に、高い可溶化率の確保と可溶化槽の小型化が可能であるという効果に加えて、重力沈殿槽で認められる汚泥の沈降性悪化に起因する固液分離障害がないので、生物処理装置内の生物保持量を容易に高濃度にすることができ、処理水質を向上できる。
【0018】
また、第六の発明として、第五の発明において好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送することにより、同上効果が達成される。
【0019】
以上のように、濃縮装置で含水率99%以下(汚泥濃度1%以上)まで濃縮することにより、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育にさらに好適な栄養条件が得られるので、可溶化処理がより効率的に行われ、可溶化槽の一層の小型化が可能となる。なお、含水率90%以下まで濃縮しても、上記した利点はそれほど享受できず、逆に、流動性が悪化し、可溶化槽を好気あるいは微好気で運転する場合には、曝気による発泡現象が生じるという不利な点があるので、濃縮装置における汚泥の濃縮は、含水率90〜99%の範囲にするのが好ましい。
【0020】
また、第七の発明として、第一、第二、第三、第四、第五または第六の発明において、可溶化処理時間が、可溶化処理装置での被処理水のHRTに基づいて3〜24時間と設定されることにより、冗長な可溶化反応を回避することが可能となるため可溶化槽を縮小し、且つ良好に可溶化処理を行うことができる。
【0021】
また、第八の発明として、第七の発明において、HRTを15〜20時間とすることにより、効率的に汚泥の可溶化ができる。
【0022】
また、第九の発明として、有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、有機性廃水の生物処理をするための生物処理装置と、この生物処理装置で処理された処理液を処理水と汚泥に固液分離するための固液分離装置と、この固液分離装置で分離された汚泥の一部を生物処理装置に返送するための経路と、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るために残りの汚泥の少なくとも一部を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、この濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置を提供するものである。この第九の発明の装置によれば、高い可溶化率を確保し、可溶化槽の小型化が可能である第一の発明に係る処理方法を実施することができる。
【0023】
また、第十の発明として、第九の発明において、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送するための経路を有することにより、汚泥の減容化が可能である第二の発明に係る処理方法を実施することができる。
【0024】
また、第十一の発明として、有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、有機性廃水の生物処理をするための生物処理装置と、この生物処理装置で処理された処理液を処理水と汚泥に固液分離するための固液分離装置と、この固液分離装置で分離された汚泥を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、生物処理装置に返送される微生物量を多くし且つ好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るためにこの濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥の一部を生物処理装置に返送するための経路と、残りの汚泥の少なくとも一部を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置を提供するものである。この第十一の発明の装置によれば、処理水質を改善し、高い可溶化率を確保し、可溶化槽の小型化が可能である第三の発明に係る処理方法を実施することができる。
【0025】
また、第十二の発明として、第十一の発明において、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送するための経路を有することにより、汚泥の減容化が可能である第四の発明に係る処理方法を実施することができる。
【0026】
さらに、第十三の発明として、有機性廃水を生物学的に処理する装置であって、膜分離装置が槽内に配設された生物処理装置と、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスの生育に適した栄養条件を得るためにこの生物処理装置で分離された汚泥の少なくとも一部を含水率99%以下まで濃縮するための濃縮装置と、この濃縮装置で含水率99%以下まで濃縮された汚泥を、熱による可溶化とバチルス・ステアロサーモフィラスから分泌される汚泥可溶化酵素による可溶化を行うための通気手段を備えた可溶化槽とを有することを特徴とする有機性廃水の処理装置を提供するものである。この第十三の発明の装置によれば、比較的簡単な構成の装置で処理水質が向上し、効率的且つ低コストである第五の発明に係る処理方法を実施することができる。
【0027】
そして、第十四の発明として、第十三の発明において、好気性好熱菌であるバチルス・ステアロサーモフィラスとしてバチルス・ステアロサーモフィラスSPT2-1〔FERM P-15395〕を用い、可溶化槽で可溶化された処理液の少なくとも一部を生物処理装置に返送するための経路を有することにより、汚泥の減容化が可能である第六の発明に係る処理方法を実施することができる。
【0028】
本発明において、固液分離装置とは、例えば、沈殿装置、膜分離装置のごときものを示し、また、濃縮装置とは、遠心濃縮、浮上濃縮、蒸発濃縮及び膜濃縮などの濃縮装置を示す。また、遊動リング積層方式の濃縮機も適用できる。
【0029】
本発明の装置で使用される生物処理装置は、好気性生物処理あるいは嫌気性生物処理のいずれにも適用できる。好気性生物処理に用いられる曝気槽は、曝気手段を具備するものであればよい。曝気処理は、好気性消化分解が許容されるよう、好ましくは、0.1〜0.5vvmの通気量で室温下にて実施されるが、負荷によっては、これを上回る通気量で、より高温にて処理してもよい。被処理液は、好ましくは、5.0〜8.0のpHに調整されるとよい。また、曝気槽には、好気的消化分解を促進するために、酵母等の微生物や、フロック形成を促進するための硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄などの凝集剤を添加してもよい。好気性生物処理は、曝気槽以外の好気的処理の可能な装置であってもよい。また、嫌気性生物処理に用いられる装置としては、槽内の液を循環することにより攪拌する方法、生成ガスを循環曝気することにより攪拌する方法、攪拌翼などの攪拌機を設置する方法、活性微生物固定手段を有する方法など、活性微生物と処理対象廃水とを効率的に接触させる手段を具備したものであれば使用可能である。
【0030】
曝気槽に配設する膜分離装置には、例えば、孔径0.1〜2.5μm、好ましくは0.3〜0.5μmを有する膜を使用するのが好ましく、そして、1以上の膜モジュール構造から形成されているのが好適である。好ましい膜分離装置としては、(株)ユアサコーポレーション社製のT型フィルターエレメントを具備した浸漬型膜分離装置が挙げられる。上記膜分離装置には、好ましくは、水圧、空気圧等による加圧や、擦掃、振動あるいは薬品注入等による洗浄手段が内蔵または併設され、膜を通過しない物質が膜表面へ接着することをできる限り回避する構造とするのが好ましい。
【0031】
可溶化工程では、好熱菌(例えば、バチルス・ステアロサーモフィラス等の菌体を添加してもよい)によって汚泥の分解が行われるが、オゾン分解、電気分解、熱アルカリ分解、酸素分解(例えば、プロテアーゼ、リパーゼ、グリコシダーゼなどを単独または組み合わせて添加)など、従来より知られた種々の方法と組み合わせて実施してもよい。
【0032】
また、本発明において、「熱による可溶化が行われると共に、微生物から汚泥可溶化酵素が生成及び分泌され且つ該酵素によって可溶化が促進される条件」とは、具体的には下記のごとくである。
▲1▼ 温度:50〜80℃、好ましくは60〜70℃
▲2▼ 汚泥濃度:1000mg/リットル以上、好ましくは5000mg/リットル以上、さらに好ましくは、10000mg/リットル以上(=含水率99%以下)
▲3▼ pH:7〜9好ましくは7.5〜8.5
▲4▼ 環境:好気または微好気条件
▲5▼ 時間:処理対象汚泥の可溶化槽内でのHRTに基づいて決定されるもの
連続式で汚泥の可溶化を行う場合、流入液量と反応槽の有効容量に基づいてHRTが求められる。すなわち、HRT(水力学的滞留時間)=V/Q(V:反応槽容量、Q:流入液量)の式に基づいて、HRTを算出することができる。
【0033】
可溶化が所望の程度達成される限りにおいて、HRTが短縮されるほど反応槽の容積を縮小することが可能となることは言うまでもない。従って、本発明の目的である設備の縮小に鑑み、HRTに基づいて可溶化時間を決定することで、冗長な可溶化処理が回避される。
【0034】
HRTは、汚泥可溶化酵素の生成および分泌量をモニターし、該生成および分泌量が最大となるHRTに基づいて選択することが好ましい。このようにHRTを設定すれば、生成及び分泌された汚泥可溶化酵素による反応を効率的に利用できる。通常、HRTは3〜24時間に設定するのが好ましい。
【0035】
【実施例】
以下に本発明の実施例を説明する。
1.汚泥の濃縮効果
(1)実施例1 図1は、本発明の有機性廃水の処理方法を実施するに好適である有機性廃水の処理装置の一実施例の概略構成図である。
【0036】
図1に示すように、有機性廃水貯留槽1に貯留された原廃水Aが経路2を経て生物処理槽3に導入され、生物処理槽3にて有機性廃水である原廃水が好気性生物処理される。なお、好気性生物処理とは、生物酸化によって有機物が二酸化炭素もしくは水などの無機物に分解されることをいい、用いられる好気性微生物としては、下水浄化のための活性汚泥法において用いられるグラム陰性またはグラム陽性桿菌、例えばシュードモナス属及びバチルス属であり、これらの接種菌体は、通常の下水浄化処理プラントから得られるものである。この場合、生物処理槽3の温度は、10〜50℃、通常は、20〜30℃の温度範囲となるように操作するが、より効率よく処理するには、高温の方が好ましく、例えば、下水余剰汚泥から分離した中温菌を用いる場合には、35〜45℃の範囲で操作するようにする。いずれにしても、微生物による酸化分解反応が効率よく十分に生じうるように、上記温度範囲の中から最適な温度条件を選択して操作するようにする。なお、この場合、生物処理槽としては、バッチ式または連続式のいずれでも使用可能である。
【0037】
次いで、このように生物処理槽3で処理された処理水Bは、経路4を経て固液分離装置としての沈殿槽5に導入されて固液分離され、固液分離された上澄液Cは放流先の排出基準に従い、必要であれば、硝化脱窒もしくはオゾン処理などの三次処理を施し、河川放流または修景用水等として利用されるようになっている。
【0038】
一方、沈殿槽5で分解された汚泥Dの一部は、経路6を経て経路2に合流して原廃水Aとともに生物処理槽3に導入されるようになっている。なお、経路6を経て送られる汚泥量は生物処理槽3での微生物の保持量により決定される。
【0039】
さらに、沈殿槽5で分離された残りの汚泥Eは、経路7を経て濃縮槽8に導入される。場合によっては、沈殿槽5で分離された残りの汚泥Eの一部を系外に引き抜くことも可能である。濃縮槽8では重力沈降により汚泥は濃縮される。濃縮法としては、浮上濃縮、蒸発濃縮、膜濃縮、凝集剤添加または遠心力を利用した濃縮法を採用することもできる。汚泥の濃縮率としては、上記したように、含水率99%以下(汚泥濃度1%以上)まで濃縮するのが好ましい。濃縮後の液は経路9を経て可溶化槽10に導入される。可溶化槽10では、高温条件で嫌気的もしくは好気的に有機性汚泥の可溶化が行われる。この場合、高温条件において用いられる嫌気性もしくは好気性微生物の接種菌体(好熱菌)は、例えば、従来の嫌気性もしくは好気性消化槽から微生物を培養することによって得られるものである。また、可溶化槽10の最適温度は、好ましくは、50〜90℃の温度範囲となるような条件で操作するが、その高温処理対象である汚泥Eに含まれる有機性固形物を分解する好熱菌の種類によって異なるものであり、例えば下水余剰汚泥から分離した好熱菌の場合には、微生物(好熱菌)による可溶化反応と熱による物理化学的な熱分解の両作用が同時に効率よく十分に生じうるように、高温条件における温度を55〜75℃の範囲、好ましくは約65℃で操作するようにする。いずれにしても、微生物(好熱菌)による可溶化反応と熱による物理化学的な熱分解の両作用が同時に効率よく十分に生じうるように、微生物の種類に応じて、50〜90℃の温度範囲になるように設定すればよい。
【0040】
また、可溶化槽10で好気的に微生物分解をするたの装置として、従来の散気管を具備してなるもの、嫌気性で微生物分解をするための装置としては、槽内の液を循環することにより攪拌する方法、生成ガスを循環曝気することにより攪拌する方法、攪拌翼などの攪拌機を設置する方法、活性微生物固定手段を有する方法など、活性微生物と処理対象汚泥とを効率的に接触させる手段を具備したものであれば使用可能である。なお、この場合、可溶化槽としては、バッチ式または連続式のいずれでも使用可能である。
【0041】
このように可溶化槽10で可溶化した処理液Fは、経路11を経て経路2に合流して原廃水Aとともに生物処理槽3に導入されて好気性生物処理が行われる。以降、上記した処理サイクルが繰り返される。
(2)実施例2 図2は、本発明の有機性廃水の処理方法を実施するに好適である有機性廃水の処理装置の別の実施例の概略構成図である。図1の装置と相違するところは、経路6がなく、沈殿槽5で分離された汚泥はすべて濃縮槽8に導入され、濃縮槽8で含水率99%以下(汚泥濃度1%以上)まで濃縮された汚泥の一部は経路12を経て経路2に合流し、残りの汚泥は可溶化槽10に導入されて好熱菌により可溶化され、可溶化された処理液は経路11を経て経路2に合流し、これらの汚泥や処理液は原廃水Aとともに生物処理槽3に導入されて好気性生物処理が行われる。以降、上記した処理サイクルが繰り返される。なお、濃縮槽8で濃縮された汚泥の一部を系外に引き抜くことも可能である。
【0042】
次に、本発明の効果を確認するために、生物処理槽としては断面積800cm2で高さ60cmの有効容積40リットルの透明塩化ビニル樹脂製の角槽を使用し、この生物処理槽に0.3vvm通気し、沈殿槽としては断面積400cm2で高さ40cmの有効容積10リットルの透明塩化ビニル樹脂製の下部円錐型円筒槽を使用し、濃縮槽としては内径10cmで高さ40cmの有効容積2リットルの透明塩化ビニル樹脂製の下部円錐型円筒槽を使用し、可溶化槽としては内径13cmで高さ25cmの有効容積2リットルのガラス円筒を使用し、この可溶化槽に0.5vvm通気し、有機性廃水(原廃水)の性状としては、ペプトン:グルコース:イーストエキス=4:4:1のものを用い、0.4kgBOD/m3/日の負荷で、図1に示す装置については、生物処理槽3の汚泥濃度が約3000mg/リットルになるように、経路6に通入する汚泥量を調整して運転を行った。また、図2に示す装置については、経路12に通入する汚泥量を図1の経路6に通入する汚泥量と同じになるように汚泥量を調整して運転を行った。なお、1vvmとは、「1リットル空気量/1リットル反応槽容積/min.」の意である。また、上記実施例において、固液分離のために沈殿槽を用いたが、例えば、膜分離装置等の通常固液分離に用いられる装置を使用できることは言うまでもない。
(3)比較例 また、比較のために、図3に示すように、図1に示すものから濃縮槽8を取り除いた有機性廃水処理装置について、同上有機性廃水を用いて同上通気量および同上BOD負荷で、生物処理槽3の汚泥濃度が約3000mg/リットルになるように経路6に通入する汚泥量を調整して運転を行った。
【0043】
その結果、次の表1に示すような結果が得られた。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より以下の結果が明らかである。
▲1▼ 実施例1によれば、濃縮槽で濃縮された汚泥が可溶化槽に導入されるので、可溶化槽で処理すべき汚泥量を比較例に比して減少することができる。そこで、可溶化槽の小型化が可能となる。
▲2▼ 実施例2によれば、沈殿槽で分離された汚泥はすべて濃縮槽に導入されるので、実施例1と同様に、可溶化槽の小型化が可能であるという効果に加えて、生物処理槽の汚泥濃度が上昇するので、すなわち、生物処理槽内の微生物量が増加するので、処理水質を改善することができる。
▲3▼ 一方、比較例によれば、可溶化槽で処理すべき汚泥量は多く、しかも、処理水質は最も悪い。
2.可溶化反応の処理時間の特定
(4)実施例3 滞留時間に応じた、微生物による酵素生成の推移
ガラス製の反応槽に、イースト-ペプトン培地(DIFCO社製の(イーストエキス4g、ペプトン8g及び水1リットル、pH6.8に調整)を入れ、前培養しておいた、下水処理場余剰汚泥由来のバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)SPT2-1〔FERM P-15395〕を植菌して、65℃にて振とう培養した。HRTは、培養液を連続的に供給しつつ、先ず36時間に設定し、さらに、投入する有機物量を一定に維持しながら所定の時間にまでHRTを短縮するために、希釈水を適宜追加して培養を行った。各滞留時間において上澄液をサンプリングし、各々のプロテアーゼ活性を以下のとおり測定した。すなわち、非特異的なプロテアーゼアッセイ用の基質であるアゾコール(商品名、Sigma社製)をpH7.0のリン酸緩衝液に懸濁した液(5mg/ミリリットル)0.7ミリリットルに等量の試料を加え、70℃にて30分間インキュベートした。反応終了後、520nmにおける吸光度を測定した。この測定法でトリプシン(約400BAEE U/mg、和光純薬(株)製)のリン酸緩衝液(pH7.0)の溶液30μg/ミリリットルを試料として同様に測定すると、520nmにおける吸光度は、1.0であった。
【0046】
得られた結果を図4に示す。HRT12時間において、酵素活性がピークとなり、その後20時間までに低レベルに減少することが分かり、従って、前記菌株による酵素生成のために好適なHRTは、およそ12時間であることが明らかになった。
(5)実施例4
滞留時間に応じた、余剰汚泥による酵素生成の推移
有機性固形物(vss)濃度3重量%の下水処理場由来の余剰汚泥を、前培養しておいた下水処理場余剰汚泥由来のバチルス・ステアロサーモフィラスSPT-2-1〔FERM P-15395〕を植菌した後、有効容積5リットルのガラス製ジャーファメンターに投入し、65℃にて通気量0.3vvm、攪拌速度300rpmにて処理した。実施例3と同様に、先ずHRTは36時間に設定して、さらに所定のHRTにするために適宜希釈水を注入し、そして各HRTにおけるプロテアーゼ活性を測定した。なお、下水処理場余剰汚泥とは、最終沈殿槽にて沈殿分離した汚泥をさらに浮上濃縮したものをいう。
【0047】
得られた結果を図5に示す。HRT15〜20時間において、酵素活性がピークとなり、その後25時間までには低レベルに減少することがわかり、従って、酵素生成のために好適なHRTは、およそ20時間であることが明らかになった。
(6)実施例5
滞留時間に応じた、余剰汚泥による可溶化率の推移
実施例4と同様に余剰汚泥を処理し、各HRTにおいて可溶化試料を採取してその有機性固形物(vss)含量を測定し、処理前のvss含量に基づいて各時間における可溶化率(%)を測定した。vssの測定は、JISK0102に従って行った。
【0048】
その結果を図6に示す。この図から、およそ15〜20時間のHRTにおいて可溶化率は最大となることが示され、また3〜9時間のHRTにておそらくは、加熱によると思われる可溶化率の上昇が認められる。
【0049】
従って、実施例4および5の結果から、酵素生成に適した条件下にて下水処理場由来の3重量%の余剰汚泥の可溶化を行う場合、プロテアーゼ活性をモニターし、これがピークとなるHRT時間に基づき、HRTを選択することが好ましいことが示唆された。また、この場合、熱及び酵素の作用がピークとなるので、HRT3〜24時間で効率的に可溶化することが可能であることも明らかとなった。
3.膜分離装置の配設された生物処理槽による廃水処理
(7)実施例6
図1からは経路6を取り除き、図1における濃縮槽8と可溶化槽10と同じものを用い、生物処理槽3と沈殿槽5に代えて浸透型膜分離装置((株)ユアサコーポレーション製、T型フィルターエレメント)13を配設した生物処理槽3を使用したのを実施例6とする。すなわち、実施例6に係る有機性廃水の処理装置の概略構成は、図7に示すとおりである。そして、同上有機性廃水を用いて同上通気量および同上BOD負荷で、生物処理槽3の汚泥濃度が約12000mg/リットルになるように経路7への汚泥量を調整して運転を行った。
(8)比較例
また、比較のために,図3に示す有機性廃水の処理装置について、同上有機性廃水を用いて同上通気量および同上BOD負荷で、生物処理槽3の汚泥濃度が約3000mg/リットルになるように経路6に通入する汚泥量を調整して運転を行った。その結果、次の表2に示すような結果が得られた。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-06-11 
出願番号 特願平10-235238
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C02F)
P 1 651・ 121- YA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 敬子  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 西村 和美
金 公彦
登録日 2002-01-11 
登録番号 特許第3267935号(P3267935)
権利者 株式会社神鋼環境ソリューション
発明の名称 有機性廃水の処理方法及びその処理装置  
代理人 岡 憲吾  
代理人 藤本 昇  
代理人 藤本 昇  
代理人 古川 安航  
代理人 岡 憲吾  
代理人 古川 安航  
代理人 角田 嘉宏  
代理人 角田 嘉宏  

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