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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C02F |
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管理番号 | 1102807 |
異議申立番号 | 異議2002-71996 |
総通号数 | 58 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-01-13 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-08-12 |
確定日 | 2004-07-07 |
異議申立件数 | 3 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3265456号「メタン発酵処理液の処理方法及び処理設備」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3265456号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3265456号の請求項1ないし6に係る発明についての出願は、平成8年6月26日に特許出願され、平成14年1月11日にその発明について特許権の設定登録がなされ(公報発行平成14年3月11日)、その後、平成14年8月12日に林隆義より、平成14年8月26日に栗田工業株式会社より、平成14年9月3日に吉田春男より、それぞれ特許異議の申立てがなされ、平成15年2月21日(発送日)に取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年4月22日に訂正請求がなされ、その後平成16年2月6日に再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月8日に、先の訂正請求が取り下げられるとともに、新たな訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 ア.訂正事項a:本件特許明細書の発明の名称「メタン発酵処理液の処理方法及び処理設備」を「メタン発酵処理液の処理方法」と訂正する。 イ.訂正事項b:本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項1】メタン発酵法による処理液を活性汚泥法で浄化処理する方法において、アンモニアストリッピング法で処理したのち、活性汚泥処理することを特徴とする排水処理方法。」を 「【請求項1】メタン発酵処理して得られる発酵液を活性汚泥法で浄化処理する方法において、メタン発酵処理により25℃以上になっている発酵液を加温することなくストリッピング槽へ送給し、ストリッピング槽において発酵液にアルカリ剤を投入してpHを8〜10の範囲に調製すると共に、空気を噴出させるアンモニアストリッピング処理を行ったのち、そのまま発酵液を曝気槽へ移送して活性汚泥処理し、この活性汚泥処理により得られた処理水の固液分離を濾過膜を用いて行うことを特徴とするメタン発酵処理液の処理方法。」と訂正する。 ウ.訂正事項c:本件特許明細書の特許請求の範囲の【請求項2】【請求項3】を「【請求項2】 請求項1の方法において、活性汚泥処理を行う曝気槽内に、濾過膜を用いる固液分離器を設置して処理水の固液分離を行うメタン発酵処理液の処理方法。【請求項3】 請求項1又は2の方法において、活性汚泥処理を行う曝気槽の浮遊物濃度を5000〜20000mg/lに設定するメタン発酵処理液の処理方法。」と訂正する。 エ.適性事項d:本件特許明細書の特許請求の範囲の【請求項4】【請求項5】を削除する。 オ.訂正事項e:本件特許明細書段落【0017】の「・・・メタン発酵法による処理液を活性汚泥法を用いて浄化処理する方法において、アンモニアストリッピング法で処理したのち、活性汚泥処理することである。」(特許公報第3頁5欄21〜24行)を「・・・メタン発酵処理して得られる発酵液を活性汚泥法を用いて浄化処理する方法において、メタン発酵処理により25℃以上になっている発酵液を加温することなくストリッピング槽へ送給し、ストリッピング槽において発酵液にアルカリ剤を投入してpHを8〜10の範囲に調製すると共に、空気を噴出させるアンモニアストリッピング処理を行ったのち、そのまま発酵液を曝気槽へ移送して活性汚泥処理することである。」と訂正する。 カ.訂正事項f:本件特許明細書段落【0018】の「なお、活性汚泥処理により得られる処理水の固液分離は、濾過膜を用いて行うことができる。」(特許公報第3頁5欄25〜26行)を「そして、活性汚泥処理により得られる処理水の固液分離は、濾過膜を用いて行うものとする。」と訂正する。 キ.訂正事項g:本件特許明細書段落【0043】の「あるいは従来と同様に、曝気槽に続けて沈殿槽を設け、この沈殿槽で汚泥処理後の処理水の固液分離を行ったのち、放流することも決して妨げない。」(特許公報第4頁8欄47〜末行)を削除する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 ア.訂正事項aは、訂正事項dにより「メタン発酵液の処理設備」に関する発明が削除されたことにより、発明の名称と発明の内容に生じた不整合を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 イ.訂正事項bは、 訂正事項b-1:「メタン発酵法による処理液」を「メタン発酵処理して得られる発酵液」とする訂正 訂正事項b-2:「アンモニアストリッピング法で処理したのち」を「メタン発酵処理により25℃以上になっている発酵液を加温することなくストリッピング槽へ送給し、ストリッピング槽において発酵液にアルカリ剤を投入してpHを8〜10の範囲に調製すると共に、空気を噴出させるアンモニアストリッピング処理を行ったのち」とする訂正 訂正事項b-3:「活性汚泥処理する」を「そのまま発酵液を曝気槽へ移送して活性汚泥処理し」とする訂正 訂正事項b-4:「この活性汚泥処理により得られた処理水の固液分離を濾過膜を用いて行う」という構成を付け加える訂正 に細分することができる。 ここで、上記訂正事項b-1は、「処理液」が、メタン発酵処理して得られる発酵液であることを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 また、上記訂正事項b-2は、「アンモニアストリッピング法」の内容を、本件明細書の段落【0031】,【0032】及び【0034】の記載に基づいて限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 さらに、上記訂正事項b-3は、「活性汚泥処理」の内容を、本件明細書の段落【0036】の記載に基づいて限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 さらに、上記訂正事項b-4は、実質的に訂正前の請求項2の構成を請求項1に付け加えるものであり、本件明細書の段落【0038】に基づくものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 よって、訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 ウ.訂正事項cは、訂正事項bにより訂正前の【請求項2】が請求項1に組み込まれたため、実質的に訂正前の【請求項3】及び【請求項4】の項番を1つ繰り上げ、引用する請求項を整合させたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 エ.訂正事項dは、請求項の削除であるから特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 オ.訂正事項eないしgは、訂正事項bないしdにより生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との不整合を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 そして、上記訂正事項aないしgは、いずれも実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)むすび したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 3-1.本件発明 上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発訂正明1」ないし「本件訂正発明3」という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。 3-2.引用刊行物に記載された発明 当審が平成15年2月21日(発送日)に通知した引用文献1:特公昭54-26106号公報(異議申立人吉田春男が提出した参考資料1)には、以下の事項が記載されている。 「し尿の嫌気性消化脱離液を水蒸気蒸留プロセスに通しアンモニアを回収し、同時に蛋白質汚濁物を一部凝固せしめ、然る後に、活性汚泥法による生物処理プロセスに通すことを特徴とするし尿処理法。」(特許請求の範囲) 「消化脱離液は希釈液により希釈された後曝気槽6に入れられ、さらに沈殿池7に導かれ、活性汚泥処理を受けた後処理水として系外に放出される。」(第1頁2欄26〜28行) 「アンモニアを90%以上除去することができ、そのほとんどが回収可能」(第2頁3欄32〜33行) 第2頁の「第2表」によれば、脱離液のPH値は「8.2」となっている。 上記の記載事項を総合すると、引用文献1には、「し尿の嫌気性消化処理して得られる処理液を活性汚泥法で浄化処理する方法において、嫌気性消化処理液を水蒸気蒸留プロセスへ送給し、pH8.2の処理液からアンモニアをストリッピングし、処理液を希釈した後、曝気槽へ移送して活性汚泥処理し、この活性汚泥処理により得られた処理水の固液分離を行うし尿の嫌気性消化処理液の処理方法。」が記載されている。 3-3.対比・判断 (1)本件訂正発明1について ここで、し尿の嫌気性消化処理は、本件訂正発明1におけるメタン発酵処理に他ならないから、引用文献記載の発明を本件訂正発明1に沿って整理すると「メタン発酵処理して得られる発酵液を活性汚泥法で浄化処理する方法において、メタン発酵処理液をストリッピング槽へ送給し、ストリッピング槽においてpH8.2の発酵液に、アンモニアストリッピング処理を行ったのち、発酵液を曝気槽へ移送して活性汚泥処理し、この活性汚泥処理により得られた処理水の固液分離を行うことを特徴とするメタン発酵処理液の処理方法。」となる。 本件訂正発明1と引用文献1記載の発明とを対比すると、両者は上記の構成で一致し、以下の点で相違する。 相違点a:アンモニアのストリッピングを、本件訂正発明1は空気で行っているのに対し、引用文献1記載の発明では水蒸気で行っている点 相違点b:本件訂正発明1では、アンモニアストリッピング処理後の発酵液を、そのまま曝気槽へ移送しているのに対し、引用文献1記載の発明では希釈している点 相違点c:活性汚泥処理液の固液分離を、本件訂正発明1では濾過膜を用いて行っているのに対し、引用文献1記載の発明では沈殿法で行っている点 相違点d:本件訂正発明1では、メタン発酵処理により25℃以上になっている発酵液を加温することなくストリッピング槽へ送給しいるのに対し、引用文献1記載の発明ではストリッピング槽へ送給される液の温度について明示がない点 以下、相違点に付き検討する。 同じく当審が通知した引用文献2:特開平6-343994号公報(異議申立人林隆義が提出した甲第1号証異議申立人吉田春男が提出した参考資料2)には、消化槽から排出される消化汚泥に高分子凝集剤を注入して脱水した後、pH調整してリンを沈殿分離し、該沈殿槽の上澄液をアンモニアストリッピング槽で、今日アルカリ条件下で空気をバブリングすることにより、脱水濾液中のアンモニアを除する方法(【請求項1】)が記載され、該処理液を活性汚泥処理法で処理すること(【請求項5】)も記載されているが、活性汚泥処理法の処理液を、濾過膜を用いて固液分離することは記載がなく、第6頁の【図1】によれば、アンモニアストリッピング後の処理液はそのまま活性汚泥処理に送給されていない。 同じく当審がに通知した引用文献3:特公昭55-35188号公報(異議申立人栗田工業株式会社が提出した甲第1号証)には、し尿消化脱離液をアンモニアストリッピング塔(放散塔)においてガス気流と向流に接触させ脱離液中のアンモニアをガス気流中に移行させ、アンモニアを回収する方法(特許請求の範囲)が記載され、放散塔からの処理液は中和槽を経て活性汚泥処理装置に供給される(第2頁3欄38〜40行)ことが記載されているが、活性汚泥処理法の処理液を、濾過膜を用いて固液分離することは記載がなく、放散塔からの処理液は中和槽を経ており、そのまま活性汚泥処理に送給されていない。 同じく当審が通知した引用文献4:特開平5-104090号公報(異議申立人林隆義が提出した甲第8号証)には、嫌気槽を好気槽の後段に設けると共に好気槽及び嫌気槽内に分離膜を設け、汚泥と水とを分離する方法(【請求項1】)が記載され、汚泥の分離に分離膜を用いることにより嫌気槽、好気槽のMLSS濃度を10,000〜20,000mg/Lまで高めることができるので、装置を小型化できること(第3頁右欄23〜26行)との記載もあり、同じく当審がに通知した引用文献5:特開平6-277688号公報(異議申立人吉田春男が提出した甲第2号証)には、曝気槽において活性汚泥により生物学的に処理するとともに、曝気槽内に浸漬した膜分離装置により活性汚泥と膜透過水とに分離する汚水の処理方法(【請求項1】)が記載され、同じく当審がに通知した引用文献6:特開平8-52488号公報(異議申立人吉田春男が提出した甲第3号証)には、活性汚泥曝気槽と膜分離装置からなる排水の後期的生物処理方法において、曝気槽のMLSSを5,000mg/l以上に保持すること(【請求項1】)が記載されているが、これら引用文献4ないし引用文献6には、汚泥の膜分離装置を、メタン発酵処理して得られる発酵液の空気を噴出させるアンモニアストリッピング処理と組み合わせることは記載も示唆もされていない。 本件訂正発明1は、メタン発酵処理して得られる発酵液の空気を噴出させるアンモニアストリッピング処理と、活性汚泥処理液から汚泥を分離する膜分離装置を組み合わせることにより、高濃度の窒素を含む排水を、アンモニアストリップのために水蒸気を用いたり、後処理のための排水処理を施すことなく、BOD・残存窒素量の少ない処理水が得られ、維持管理が容易で安定性に優れた排水処理を実行できるという作用効果を奏するものである。 したがって、本件訂正発明1は、上記引用文献1ないし3に記載された発明と云えないばかりか、上記引用文献1ないし6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 (2)本件訂正発明2ないし3について 本件訂正発明2ないし3は、本件訂正発明1を直接ないし間接的に引用する発明であるから、本件訂正発明1が、上記引用文献1ないし3に記載された発明と云えないばかりか、上記引用文献1ないし6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない以上、本件訂正発明2ないし3も、上記引用文献1ないし3に記載された発明と云えないばかりか、上記引用文献1ないし6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 また、その他の異議申立理由及び証拠は、本件訂正発明1ないし3の特許を取り消すべき理由として採用することができない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件訂正発明1ないし3についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1ないし3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 メタン発酵処理液の処理方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 メタン発酵処理して得られる発酵液を活性汚泥法で浄化処理する方法において、メタン発酵処理により25°C以上になっている発酵液を加温することなくストリッピング槽へ送給し、ストリッピング槽において発酵液にアルカリ剤を投入してpHを8〜10の範囲に調整すると共に、空気を噴出させるアンモニアストリッピング処理を行ったのち、そのまま発酵液を曝気槽へ移送して活性汚泥処理し、この活性汚泥処理により得られた処理水の固液分離を濾過膜を用いて行うことを特徴とするメタン発酵処理液の処理方法。 【請求項2】 請求項1の方法において、活性汚泥処理を行う曝気槽内に、濾過膜を用いる固液分離器を設置して処理水の固液分離を行うメタン発酵処理液の処理方法。 【請求項3】 請求項1又は2の方法において、活性汚泥処理を行う曝気槽の浮遊物濃度を5000〜20000mg/lに設定するメタン発酵処理液の処理方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、畜産排水等の高濃度で窒素量の多い排水を処理するための方法に関し、詳しくは、メタン発酵処理して得られる発酵液を活性汚泥法を用いて処理する方法において、メタン発酵処理液中の窒素量、とりわけアンモニア態窒素の濃度を低減させることにより、後続の活性汚泥法による処理効率を向上させることを目的とする。 【0002】 また本発明のもう一つの目的は、活性汚泥の性質変化にかかわりなく、処理水の固液分離を確実にして、放流水の性状を安定化させることである。 【0003】 本発明のさらにもう一つの目的は、活性汚泥処理を行う曝気槽の活性汚泥濃度を高めて、処理能力を向上させることである。 【0004】 【従来の技術】 豚舎や牛舎等の畜舎から排出される畜産排水は、一般家庭から排出される生活排水と比べると、固形物量が多く生物化学的酸素要求量(BOD)が高いという特殊性を持つ。そこで、高負荷の排水処理に適したメタン発酵法と浄化能力に優れる活性汚泥法とを組み合わせた処理システムを、畜産排水の処理に利用することが提案されている。 【0005】 活性汚泥法は、好気性微生物のフロックである活性汚泥と排水とを曝気しつつ接触させることにより、排水中の有機物を炭酸ガスと水とに分解するものであって、BOD値が低く清澄度の高い処理水が得られるという利点を備えている。しかしながら活性汚泥法は高負荷の処理には適しておらず、高濃度の畜産排水をそのまま処理すると、活性汚泥の活性を低減させたり微生物を死滅させたりするおそれがある。そこで前段処理として、高負荷の排水処理に適したメタン発酵法により、あらかじめ畜産排水の消化・分解をある程度まで進行させておけば、活性汚泥法の優れた浄化能力を活用した排水処理が実現可能となる。 【0006】 メタン発酵法は、嫌気性微生物の作用によって有機物を主としてメタンガスと炭酸ガスとに分解する処理方法であり、分解生成物であるメタンガスを回収し、これを熱エネルギー源として活用できる、という利点を有している。 【0007】 図2は、メタン発酵法による処理液を、活性汚泥法を利用して浄化処理する従来の畜産排水処理設備の概要を示すものである。同処理設備は、豚舎や牛舎等の畜舎から排出される畜産排水をメタン発酵処理したのち脱水機で脱水することにより得られる発酵液の貯留槽、発酵液に対し曝気しながら活性汚泥による浄化処理を施す曝気槽、処理後の排水から活性汚泥等の固形物を分離除去する沈殿槽とから成っている。発酵液貯留槽には発酵液を移送するためのポンプP4が設置され、発酵液貯留槽と曝気槽との間には固形物除去用のスクリーンが配設される。曝気槽の底部には、ブロワーから供給される空気を噴出させる散気管が設けられる。沈殿槽には、沈降分離した活性汚泥を取り出すためのポンプP5及び配管が設けられ、該配管は、曝気槽及び外部に連絡している。 【0008】 なお図示は省略したが、沈殿槽に続けて、放流水の消毒を行う消毒槽が設けられることも多い。 【0009】 前記処理設備による畜産排水の処理工程の概略は、次のとおりである。畜舎から排出される畜産排水は、メタン発酵槽で排水中の有機性固形物がある程度まで消化され、脱水機で発酵液の抽出後、一旦、発酵液貯留槽に貯留されたのち、ポンプP4で曝気槽へ移送される。発酵液中に残存する固形物は、途中のスクリーンで捕捉され除去される。 【0010】 曝気槽では、ブロワー及び散気管によって発酵液へ連続的又は間欠的に空気を供給すると共に活性汚泥と接触させることにより、発酵液の分解・消化をさらに進行させる。なお活性汚泥処理の方式には、活性汚泥を槽内で自由に流動させる浮遊曝気式、活性汚泥を槽内に固定した濾材に付着させる接触曝気式、活性汚泥を付着させた濾材を槽内で回転させる回転濾床式などがあるが、いずれを採用するかは実施状況に応じて適宜選択すればよい。 【0011】 曝気槽で活性汚泥による浄化処理を受けた排水は沈殿槽へ導かれ、混在している活性汚泥等の固形物を沈降分離させたのち、上澄み液だけを放流する。沈殿槽で分離された活性汚泥はポンプP5により取り出して、一部は曝気槽へ返送し、残余は余剰汚泥として搬出する。 【0012】 【発明が解決しようとする課題】 前記従来の処理設備における排水処理方法は、以下に掲げる▲1▼乃至▲5▼の如き欠点を有している。 ▲1▼メタン発酵処理で得られる発酵液中のアンモニア濃度がきわめて高いため、曝気槽内の活性汚泥の活性に悪影響を及ぼすおそれがある。一般に、タンパク質を嫌気的処理すると分解生成物としてアンモニアが生成するので、メタン発酵処理後のアンモニア態窒素は原水よりも増加する。畜産排水は、全窒素量が1500〜5000mg/lと高濃度であるうえに、元来、し尿に由来するアンモニア態窒素の全窒素に占める比率が高い。このため、メタン発酵液のアンモニア態窒素濃度はきわめて高いものとなり、その結果、曝気槽の活性汚泥にアンモニア阻害を及ぼして処理不良を招き、処理水の浮遊物質濃度(SS)やBODを充分に低下させることができなくなる。 【0013】 ▲2▼メタン発酵液は全窒素量が多く、且つBODに対する比率も高い。このため、曝気槽での空気供給量が過多になると、活性汚泥中の微生物によるアンモニアから硝酸・亜硝酸を生成する硝化作用が、硝酸・亜硝酸を窒素ガスに変換する脱窒作用を上回って、硝酸・亜硝酸が蓄積される場合がある。その結果、曝気槽内のpHが活性汚泥の活性に好適な範囲よりも低下して、排水の処理不良を生ずるおそれがある。 【0014】 ▲3▼曝気槽における排水の処理能力は活性汚泥量に従う。しかるに従来は、曝気槽から流出する処理水の固液分離を沈殿槽における沈降分離法で行っているため、上澄み液の性状を悪化させないよう、曝気槽における浮遊物濃度(MLSS)をあまり高くすることができない。従来、曝気槽のMLSSは2000〜5000mg/l程度に設定されており、この値を高くすれば、活性汚泥量が増大するから処理能力を向上させることができるものの、放流する上澄み液の性状に悪影響を及ぼす可能性がある。それ故、従来の処理設備では、浄化処理能力を増大させようとするならば、曝気槽の容量を大きくしなくてはならない。 【0015】 ▲4▼曝気槽の処理能力をあまり大きくできないため、発酵液のBODが非常に大きく高濃度である場合には、曝気槽において又は曝気槽へ導入する前に発酵液を希釈する必要が生ずる。 【0016】 ▲5▼沈殿槽において沈降分離法により固液分離をして得た上澄み液は、その性状が沈殿槽の流入水量や活性汚泥の性質からの影響を受けやすい。すなわち、沈殿槽流入水量が変動したり、活性汚泥の性質変化が生じた場合に、放流水のSSが上昇する等の処理不良をきたすおそれがある。 【0017】 【課題を解決するための手段】 本発明は、畜産排水等の高濃度で窒素量の多い排水を効率よく処理することのできる方法及び設備を提供するものである。本発明に係る処理方法の特徴とするところは、メタン発酵処理して得られる発酵液を活性汚泥法を用いて浄化処理する方法において、メタン発酵処理により25°C以上になっている発酵液を加温することなくストリッピング槽へ送給し、ストリッピング槽において発酵液にアルカリ剤を投入してpHを8〜10の範囲に調整すると共に、空気を噴出させるアンモニアストリッピング処理を行ったのち、そのまま発酵液を曝気槽へ移送して活性汚泥処理することである。 【0018】 そして、活性汚泥処理により得られる処理水の固液分離は、濾過膜を用いて行うものとする。 【0019】 この場合において、活性汚泥処理を行う曝気槽内に濾過膜を配置して処理水の固液分離を行うことが考えられる。 【0020】 さらに、固液分離を濾過膜で行う本発明方法においては、活性汚泥処理を行う曝気槽の浮遊物濃度(MLSS)を5000〜20000mg/lに設定することができる。 【0021】 一方、本発明に係る処理設備の特徴とするところは、ストリッピング槽と曝気槽とから構成した点にある。 【0022】 かかる処理設備において、前記曝気槽内に、濾過膜を用いる固液分離器を設置することが望ましい。 【0023】 【発明の実施の形態】 本発明に係る処理方法は、畜産排水等をメタン発酵処理したのち脱水機で脱水して得られる高濃度で窒素量の多い発酵液を、活性汚泥処理を行う曝気槽へ移送するに先立ち、アンモニアストリッピング処理を施して、発酵液中のアンモニア態窒素濃度をあらかじめ低減させることを最大の特色としている。 【0024】 メタン発酵処理して得られる発酵液を活性汚泥処理するに先立ち、発酵液中のアンモニア態窒素を除去する理由は、以下の如くである。畜産排水は、BOD及び全窒素量が非常に高いだけでなく、元来、全窒素のうちアンモニア態窒素の占める割合が大きいという特質を有している。しかもメタン発酵処理を施すと、タンパク質の分解に伴うアンモニア生成により、発酵液のアンモニア濃度は一般に原水よりも上昇する。このため、畜産排水をメタン発酵処理して得られる発酵液は、アンモニア濃度がきわめて高いものとなる。 【0025】 しかるに、活性汚泥中の好気性微生物は、アンモニア濃度が高いと活性が阻害される。またBODに対する窒素量の比率が高い環境は、良好な処理水を得るうえで好適ではない。曝気槽における好適な全窒素/BODの値は、普通1/5〜1/10程度とされ、窒素比が高くなると硝酸・亜硝酸の生成量が増大して槽内が酸性化し、活性汚泥の活性を低下させる。従って、全窒素量が多く且つアンモニア濃度が高い発酵液をそのまま曝気槽へ導入すると、活性汚泥の排水処理能力が低下し、場合によっては好気性微生物の死滅を招くこともある。それ故、あらかじめ発酵液からアンモニア態窒素を可能な限り除去しておくことが、良好な排水処理を実施するうえで必要なのである。 【0026】 図1に本発明方法を実施するための処理設備の一例を示す。当該処理設備は、メタン発酵槽から送られてくる発酵液の貯留槽・ストリッピング槽・曝気槽から構成されており、発酵液貯留槽とストリッピング槽との間に、固形物を除去するためのスクリーンが介設されている。また、ストリッピング槽及び曝気槽には、ブロワーから供給される空気を各槽中で噴出させるための散気管がそれぞれ設けられている。なお、メタン発酵槽と発酵液貯留槽との間には、発酵液を抽出するための脱水機が設けられる。 【0027】 ストリッピング槽には、アルカリ剤供給装置と、アンモニアガスを収集する吸収塔とが付設されている。 【0028】 曝気槽には、限外濾過(粒径=0.001〜0.01μmが対象)あるいは精密濾過(粒径=0.01〜10μmが対象)を行うための多孔性高分子材料等からなる濾過膜を用いた固液分離器が設置されると共に、固液分離器から処理水をポンプP2で取り出すための配管、及び、余剰汚泥をポンプP3で引き抜くための配管が接続される。なお濾過膜の孔径は、0.1〜0.4μm程度であればよいと考えられるが、この範囲は決して限定的なものではない。また膜モジュールの形式についても、平膜状・管型状・スパイラル状・中空糸膜状などより適宜選択されるが、浮遊固形物が多くても閉塞の生じにくい平膜状又は管型状が実用的と思われる。 【0029】 次に、本発明方法の実施形態を、図1を参照して説明する。豚舎,牛舎その他の畜舎から排出される畜産排水はメタン発酵処理を受け、有機物は、微生物の作用によりメタンガスと炭酸ガスとに分解され、あるいは後続の活性汚泥処理を受けやすい形態に変換される。 【0030】 メタン発酵処理により消化されて得られる発酵液は、脱水機で抽出後、発酵液貯留槽へ移送したのち、ポンプP1で汲み上げ、途中のスクリーンを通過させて残留固形物を除去してから、ストリッピング槽へ送給する。 【0031】 ストリッピング槽において発酵液にアルカリ剤を投入し、pHを8〜10の範囲(好ましくは9.5以上)に調整すると共に、ブロワーに接続した散気管から空気を噴出させて3〜20時間(好ましくは5〜8時間以上)曝気する。なおアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム等の強アルカリ化合物が用いられる。 【0032】 かかるアンモニアストリッピング処理により発酵液中からアンモニア態窒素が除去されるが、その機構はおおよそ次のとおりと考えられる。アンモニアNH3は、溶液中でイオンの状態では殆ど存在せずに水和状態で溶存しており、アルカリ環境下で溶解度が減少するという性質を持つ。また一般に、気体の溶解度は、水温が高くなるほど減少するという性質がある。従って、メタン発酵処理により25°C以上になっている発酵液をアルカリ性に調整して曝気することにより、溶存しているアンモニアが気相へ放散し、その結果、発酵液のアンモニア濃度が低減する。実験によると、pH=9.5・曝気時間5時間で発酵液中に溶存しているアンモニア態窒素の約60%、pH=10.5・曝気時間20時間で約80%を除去することが可能である。 【0033】 排水中のアンモニアを除去する手段としては、ストリッピング法以外に、微生物の代謝作用を利用する生物的脱窒法・次亜塩素酸を加えて化学的に窒素を除去する処理方法・イオン交換樹脂を用いるイオン交換法などが挙げられるが、いずれもストリッピング法と比べると、次のような欠点を持っている。生物的脱窒法は、好気性微生物である硝酸菌・亜硝酸菌及び脱窒素細菌の協同作用によってアンモニアを窒素ガスにまで分解するというものであり、メタン発酵液のように高濃度で窒素量の多い排水処理には一般に適していない。次亜塩素酸HClOを用いる化学的処理方法は、処理水中に塩素が残留するので、これの後処理が必要となる。イオン交換法は、イオン交換樹脂が高価格であるため、処理コストが非常に嵩む。 【0034】 これらに対しストリッピング法は、高濃度排水のアンモニア除去に適していること、メタン発酵液はアンモニアストリッピング処理には有利な25°C以上の比較的暖かい水温に維持されていること、設備コスト・ランニングコストが安価なこと、処理水の後処理が不要であること等の点で、前掲のいずれの処理方法よりも優位であると言える。 【0035】 アンモニアストリッピング処理により発生したアンモニアガスは、吸収塔で回収し、そのまま大気中へ放出するか、または、しかるべき処理を施したのち廃棄する。 【0036】 一方、アンモニア濃度を低減させた発酵液は、曝気槽へ移送して、活性汚泥による浄化処理を施す。曝気処理は曝気と停止の交替間隔を0.5〜2時間とする間欠曝気とし、且つ、曝気槽のMLSSを5000〜20000mg/lに設定する。 【0037】 曝気槽において、活性汚泥中に存在する好気性微生物が、発酵液中の有機物を代謝して炭酸ガスと水とに分解し、BODを著しく減少させる。また残存する窒素は、硝酸菌・亜硝酸菌の硝化作用と脱窒素細菌の脱窒作用との協同作用によって窒素ガスに変換され、系外へ除去される。 【0038】 所要の浄化処理を終えた処理水は、固液分離器に配管接続したポンプP2により吸引し、濾過膜を通過させて活性汚泥等の固形分を分離除去したのち、外部へ放流する。孔径の小さい濾過膜を用いる固液分離法は、曝気槽内のMLSSをかなり高く設定しても、SSが少なく清澄度の高い放流水を得ることができ、膜孔径によっては細菌類も除去することが可能である。しかも、活性汚泥を沈降させる必要がないので、バルキング等が生じて汚泥性状が変化しても、固液分離性能がほとんど影響を受けないという利点を有している。 【0039】 濾過膜の材質・膜モジュールの形式・膜孔径・膜透過流量や曝気槽のMLSS・曝気量等の諸条件は、処理対象とする発酵液の性状や放流環境等に応じ、膜閉塞を起こさずに安定した固液分離ができる範囲で適宜設定すればよい。参考までに、ポリオレフィン系重合体で製作した膜孔径0.4μmの平膜状濾過膜を用いて安定した固液分離状態を得るには、膜透過流量を250ml/分という条件のもとで、MLSS=10000mg/lのときには曝気量=0.6m3/時間、MLSS=14000mg/lのときには曝気量=1.2m3/時間に設定すればよい。 【0040】 曝気槽における活性汚泥の量は、浄化処理に伴う微生物の増殖により次第に増加する。そこで、曝気槽内のMlSSの値を所定範囲内に維持すべく、活性汚泥増量分は配管を通じ引き抜いて排除する。 【0041】 本発明の実施形態は、前述以外に適宜応用することができる。例えば、本発明は畜産排水の処理に好適であるが、農業排水や一般の生活排水の処理に適用することを妨げるものではない。 【0042】 また、本発明に係る処理設備は、図示するものに加えて、曝気槽の後段に放流水の消毒槽を設けることもできる。 【0043】 さらに、図示は省略したが、曝気槽中に固液分離器を設置するのに代え、処理水の貯留槽を曝気槽に接続し、この貯留槽中に固液分離器を設置して固液分離を行うことも考えられる。 【0044】 なおアンモニアストリッピング処理の条件や活性汚泥処理の条件については、処理対象となる排水の性質や処理設備の規模等に応じて適宜設定してもよい。 【0045】 その他、本発明の実施形態は、状況に応じ適宜変更可能である。 【0046】 【発明の効果】 本発明によれば、畜産排水等をメタン発酵処理して得られた発酵液にアンモニアストリッピング処理を施して、あらかじめアンモニア態窒素を除去すると同時に全窒素量を低減させてから活性汚泥処理を行うから、活性汚泥の活性を阻害して排水処理能力の低下を招く、というおそれがない。依って、畜産排水等の高負荷の排水に対し、活性汚泥法の優れた浄化能力を活用した排水処理を実行することができるので、BOD・残存窒素量の少ない処理水が得られる。 【0047】 発酵液のアンモニア除去手段としてアンモニアストリップ法を採用したので、高濃度の発酵液に対しても、効率良くアンモニア除去処理を施すことが可能である。それ故、維持管理が容易で且つ安定性に優れた排水処理を実行できる。 【0048】 曝気槽における活性汚泥処理で得られる処理水の固液分離を濾過膜を用いて行うことにより、沈殿槽を省略することができて、しかも活性汚泥の性質変化にかかわりなく、確実にSS値が小さく清澄度が高い放流水が得られる。また膜孔径によっては細菌も除去できる。従って、放流水の後処理を不要としたり、再利用を図ったりすることが可能となる。 【0049】 処理水の固液分離を濾過膜で行うことにより、放流水の清澄度を損なうことなく、曝気槽内のMLSSの値を高めることが可能となる。従来、曝気槽内のMLSSの値は2000〜5000mg/l程度であり、それ以上に設定すると、放流水のSS等の性状に悪影響が出る。これに対し本発明ではMLSSを5000〜20000mg/lの範囲に設定できるので、同容積の曝気槽に対し、活性汚泥量を従来の2〜10倍に高めることができ、それだけ排水処理能力を増大させることができる。 【0050】 あるいは前記と同様の理由により、本発明は、従来よりも小型の曝気槽で、従来と同等か又はそれ以上の浄化能力を発揮させることができる。沈殿槽が不要になることと相俟って、本発明に係る処理設備の所要設置スペースは、従来のおよそ半分となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明に係る処理設備の一例を示す概略図である。 【図2】 従来の処理設備を示す概略図である。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-06-14 |
出願番号 | 特願平8-202724 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C02F)
P 1 651・ 121- YA (C02F) P 1 651・ 537- YA (C02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 谷口 博 |
特許庁審判長 |
石井 良夫 |
特許庁審判官 |
西村 和美 米田 健志 |
登録日 | 2002-01-11 |
登録番号 | 特許第3265456号(P3265456) |
権利者 | 畜産環境保全技術研究組合 |
発明の名称 | メタン発酵処理液の処理方法 |
代理人 | 内田 敏彦 |
代理人 | 柳原 成 |
代理人 | 内田 敏彦 |