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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F04C
管理番号 1102814
異議申立番号 異議2002-71953  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-07 
確定日 2004-06-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3255504号「スクロール圧縮機」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3255504号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3255504号の請求項1に係る発明は、平成5年9月3日に特許出願されたものであって、平成13年11月30日にその特許権の設定登録がなされ、平成14年8月7日に、三菱電機株式会社から、その請求項1、2に係る発明の特許に対し特許異議の申立てがなされ、平成15年4月17日付けで取消しの理由が通知され、その後平成16年1月19日付けで再度取消しの理由が通知され(同年1月30日発送)、その指定期間内である平成16年3月30日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1中の、「前記固定スクロールと旋回スクロールで形成する圧縮室の吸い込み側に冷媒及び冷凍機油の逆流を防止するために逆止弁を設けたスクロール圧縮機において、該逆止弁が空孔を持つ材質で構成され、該逆止弁に空孔を埋めるための処理または異種材を付着させたことを特徴とする」を、「前記固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に、圧縮機の停止時に高圧側から低圧側への冷媒及び冷凍機油の逆流を防止するために逆止弁とシールカラーで構成する逆止弁構造を設けたスクロール圧縮機において、該逆止弁が空孔を持つ焼結材で構成され、該逆止弁はシール面の空孔を埋めるためのスチーム処理が施されて酸化皮膜が表面に付着され、該逆止弁の漏れ不良が低減されてなることを特徴とする」に訂正する。
訂正事項b
請求項2および請求項3を、それぞれ削除する。
訂正事項c
発明の詳細な説明の段落番号【0006】において、「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明のスクロール圧縮機に係る構成は、密閉容器内に、電動機と該電動機に連結された圧縮機構部とを収納するものであって、それぞれの台板上に直立する渦巻状のラップを有し、それぞれのラップを互いに噛み合わせて圧縮室を形成する固定スクロール及び旋回スクロールと、該旋回スクロールに回転力を伝達するクランク軸と、このクランク軸を回転させる軸受を具備するフレームと、このフレームと前記旋回スクロールとの角度関係位置を保つ自転防止機構とを備えているスクロール圧縮機において、前記固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に圧縮機の停止時に高圧側から低圧側への逆流を防止するための焼結成形した逆止弁とシールカラーで構成する逆止弁構造を持たせ、この焼結成形した逆止弁に存在する空孔を埋めたものである。(第1の手段)また、上記目的を達成するための特許請求第2項の手段の構成は、前記第1の手段の前提と同一の前提において、この焼結成形した逆止弁にスチーム処理を施し酸化皮膜を表面に付着させることで逆止弁シール面の空孔を埋めたものである。(第2の手段)さらに、上記目的を達成するための特許請求第3項の手段の構成は、前記第1の手段の前提と同一の前提において、前記同様固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に圧縮機の停止時に高圧側から低圧側への逆流を防止するため逆止弁とシールカラーで構成する逆止弁構造を持たせ、この逆止弁の材質にアルミ材や樹脂材等の軽比重材を用いたものである。(第3の手段)」を、
「【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために、本発明のスクロール圧縮機に係る構成は、密閉容器内に、電動機と該電動機に連結された圧縮機構部とを収納するものであって、それぞれの台板上に直立する渦巻状のラップを有し、それぞれのラップを互いに噛み合わせて圧縮室を形成する固定スクロール及び旋回スクロールと、該旋回スクロールに回転力を伝達するクランク軸と、このクランク軸を回転させる軸受を具備するフレームと、このフレームと前記旋回スクロールとの角度関係位置を保つ自転防止機構とを備えているスクロール圧縮機において、前記固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に圧縮機の停止時に高圧側から低圧側への逆流を防止するための逆止弁とシールカラーで構成する逆止弁構造を持たせ、この逆止弁が空孔を持つ焼結材で構成され、この逆止弁にシール面の空孔を埋めるためのスチーム処理を施して酸化皮膜を付着させて、逆止弁の漏れ不良を低減したものである。」に訂正する。
訂正事項d
発明の詳細な説明の段落番号【0008】において、「第1の手段、第2の手段及び第3の手段による逆止弁構造の働きは従来と同様である。まず、第1の手段、第2の手段による作用は固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に設けた逆止弁構造において、スチーム処理を施すことにより逆止弁とシールカラーとのシール性が向上し、大幅に洩れ不良を削減することができる。このため、このスクロール圧縮機を搭載した空調機及び冷蔵庫は、圧縮機の停止時に高圧側から低圧側へのガスの流れによる逆転現象を少なくすることができ、異常音を発生や逆起電力が発生することで本体や電気品に悪影響を抑えることができる。特に、一般家庭用のルームエアコンや冷蔵庫においては、騒音に関して敏感であり異常音を少なくすることができ快適性の面で非常に効果がある。さらに、シール面の洩れを少なくできることで、圧縮機内の冷凍機油が外部に持ち出される心配が無く、軸受等への給油が十分行え高信頼性なスクロール圧縮機を提供することができる。」を、
「上記手段による逆止弁構造の働きは従来と同様である。まず、作用は固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に設けた逆止弁構造において、スチーム処理を施すことにより逆止弁とシールカラーとのシール性が向上し、大幅に洩れ不良を削減することができる。このため、このスクロール圧縮機を搭載した空調機及び冷蔵庫は、圧縮機の停止時に高圧側から低圧側へのガスの流れによる逆転現象を少なくすることができ、異常音の発生や逆起電力が発生することで本体や電気品に悪影響を抑えることができる。特に、一般家庭用のルームエアコンや冷蔵庫においては、騒音に関して敏感であり異常音を少なくすることができ快適性の面で非常に効果がある。さらに、シール面の洩れを少なくできることで、圧縮機内の冷凍機油が外部に持ち出される心配が無く、軸受等への給油が十分行え高信頼性なスクロール圧縮機を提供することができる。」に訂正する。
訂正事項e
発明の詳細な説明の段落番号【0009】を削除する。
訂正事項f
発明の詳細な説明の段落番号【0024】の「また、その他の異種材として、デフリックコート処理を施し、二硫化モリブデンを付着させる。」を削除する。
訂正事項g
発明の詳細な説明の段落番号【0025】および【0027】を削除する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、「逆止弁」を「逆止弁とシールカラーで構成する逆止弁構造」と限定しており、また、逆止弁の材質を「空孔を持つ材質」から「空孔を持つ焼結材」に限定しており、さらに、空孔を埋めるために「逆止弁に空孔を埋めるための処理または異種材を付着させた」を「逆止弁はシール面の空孔を埋めるためのスチーム処理が施されて酸化皮膜が表面に付着され、該逆止弁の漏れ不良が低減されてなる」に限定している。したがって、上記訂正事項aは特許請求の範囲の減縮に該当する。そして、上記の訂正事項については、願書に添付された明細書の段落【0005】、段落【0006】、段落【0023】、段落【0024】に示されているから、新規事項の追加に該当しない。
上記訂正事項bは、請求項2、3の削除であるから、特許請求の範囲の減縮に相当するとともに新規事項の追加に該当しない。
上記訂正事項c、d、e、f、gは、上記訂正事項a、bに伴って、発明の詳細な説明の欄の対応箇所を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当するものであるとともに、新規事項の追加に該当しない。
また、上記訂正事項a〜gは、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1〜3号証、及び参考資料に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、訂正前の請求項1、2に係る発明の特許は取り消すべきであると主張している。

(2)本件の請求項に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】 密閉容器内に、電動機と該電動機に連結された圧縮機構部とを収納するものであって、圧縮機構部に、2つの台板上にそれぞれ直立する渦巻状のラップを有し、それぞれのラップを互いに噛み合わせて圧縮室を形成する固定スクロール及び旋回スクロールと、該旋回スクロールに回転力を伝達するクランク軸と、このクランク軸の回転を受ける軸受を具備するフレームと、このフレームと前記旋回スクロールとの角度位置関係を保つ自転防止機構とを備え、前記固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に、圧縮機の停止時に高圧側から低圧側への冷媒及び冷凍機油の逆流を防止するために逆止弁とシールカラーで構成する逆止弁構造を設けたスクロール圧縮機において、該逆止弁が空孔を持つ焼結材で構成され、該逆止弁はシール面の空孔を埋めるためのスチーム処理が施されて酸化皮膜が表面に付着され、該逆止弁の漏れ不良が低減されてなることを特徴とするスクロール圧縮機。」

(3)引用刊行物に記載された発明
当審で通知した取消しの理由で引用した刊行物である、引用例1〜3、及び参考資料には、それぞれ以下のような事項が記載されているものと認められる。

ア.引用例1:特開昭59ー110884号公報(甲第1号証)
a.「従来のスクロール圧縮機を第1図により説明する。旋回スクロール1と固定スクロール2を対向して組合せ、固定スクロール2とフレーム3で旋回スクロール1をはさんで保持する。吸入冷媒は吸入管4より吸入され固定スクロール2、旋回スクロール1の外周より圧縮機に流入する。旋回スクロール1はオルダムキー5、オルダムリング6によって自転を防止し、偏心したクランク軸7により旋回軸受け8を介してさい差運動し密閉空間9を順次中心方向へ移送圧縮して、冷媒ガスを吐出口10よりリード弁11を介して吐出口12へ吐出する。クランク軸7はフレーム3により上主軸受13と下主軸受14で支持されモータ15、16の駆動力により回転する。」(第1頁右下欄第4〜18行)
b.「円筒部29内にはバネ31とピストン32が設けられている。吸入状態においては圧力差によってピストン32は下方に押し下げられる。また停止時においてはバネ31によってピストン32は上方に押し上げられ、吸入管23の端面がシート面となってガスの逆流を防ぐ構造となっている。このようにして、油の逆流及び停止時の逆転を防げる。」(第2頁左下欄第16頁〜同頁右下欄4行)
上記記載a、bを第1、2図の記載を参酌して看ると、引用例1には、「密閉容器内に、電動機と該電動機に連結された圧縮機構部とを収納するものであって、圧縮機構部に、2つの台板上にそれぞれ直立する渦巻状のラップを有し、それぞれのラップを互いに噛み合わせて圧縮室を形成する固定スクロール2及び旋回スクロール1と、該旋回スクロール1に回転力を伝達するクランク軸7と、このクランク軸7の回転を受ける軸受13、14を具備するフレーム3と、このフレーム3と前記旋回スクロール1との角度位置関係を保つオルダムキー5、オルダムリング6(自転防止機構)とを備え、前記固定スクロール2と旋回スクロール1で形成される圧縮室の吸込み側に、圧縮機の停止時に高圧側から低圧側への冷媒及び冷凍機油の逆流を防止するために逆止弁構造を設けたスクロール圧縮機。」
の発明が記載されているものと認められる。

イ.引用例2:特開平3ー130588号公報(甲第2号証)
e.「停止時においては、スプリング27によって、ピストン28は上方に押し上げられ、吸入管20の端面30がシート面となりガスの逆流を防ぐ。この状態からスクロールラップ内の圧力は、ピストン側面31と円筒部26とのギャップから、ピストン上面に設けた細溝29を経て吸入管20側へ徐々にバイパスされていく。(もちろん、吸入管の端面30に細溝を設けても同様である。)このため、再起動時、スクロールラップ内圧力と吸入管20の圧力はバランスされると共に、ラップ内圧力も減圧されるため、起動時負荷が低減できる。又、他の実施例を第4図に示すが、ピストン28と多孔質材料、または多孔質金属材料で製作しても同様の動作となる。」(第3頁右上欄第12行〜同頁左下欄第7行)
上記記載eによれば、引用例2には、「ピストン28(本件発明における逆止弁に相当する)を多孔質材料、または多孔質金属材料で製作」する技術が記載されているものと認められる。

ウ.引用例3:特公昭58ー14483号公報(甲第3号証)
h.「冷凍圧縮機用弁座板を鉄系焼結金属で製造することは公知であり、これは通常の粉末冶金法によって鉄系金属製冷凍圧縮機用弁座板(以下単に弁座板という)の素材を形成し、ついでサイジングおよび矯正のためのプレス処理を行った前記弁座板素材に、気密性を付与するために、銅溶侵法、水ガラスまたは樹脂溶侵法、またはスチーム処理法などを適用することによって製造されるものである。」(第1頁右欄第1〜9行)
i.「スチーム処理を施すと気密性が確保される」(第3頁左欄第2〜3行)
上記記載h、iによれば、引用例3には、「圧縮機用弁座板を鉄系焼結金属で製造し、気密性を付与するためにスチーム処理を施す」技術が記載されているものと認められる。

エ.参考資料:日本粉末冶金工業会編著「焼結機械部品 その設計と製造」
第68〜71頁、第114頁、第257頁によれば、参考資料には、「水蒸気処理は、鉄系焼結材料に対して四三酸化鉄の皮膜をつくる処理であり、気孔を通して部品内部まで皮膜が生成し封孔効果が出る。また、気密性が要求されるコンプレッサ部品に、水蒸気処理はよく使われる」という技術事項が記載されているものと認められる。

(4)対比・判断
本件発明と上記引用例1記載の発明、引用例2、3記載の技術、及び参考資料に記載のものとを対比すると、上記引用例1〜3、及び参考資料に記載のものは、いずれも「逆止弁が空孔を持つ焼結材で構成され、該逆止弁はシール面の空孔を埋めるためのスチーム処理が施されて酸化皮膜が表面に付着され、該逆止弁の漏れ不良が低減されてなる」の構成を備えていない。
すなわち、引用例1に記載された発明においては、「逆止弁構造」を構成する「ピストン32」の材質について、何ら記載されていない。
引用例2には、前述のとおり,たしかに、「また、他の実施例を第4図に示すが、・・・多孔質金属材料・・・」と記載されているが、「この状態から・・・ピストン側面31と円筒部20ギャップから・・・バイパスされていく。」(第3頁右上欄第16〜19行)の記載によれば、引用例2に記載された技術の技術的課題は、多孔質金属材料により形成されたシール面の空孔により、漏れを発生させるものと解するのが相当である。
さらに、引用例3に記載された技術、及び上記参考資料に記載された技術事項は、いずれも、鉄系燒結金属で製造した圧縮機用弁座板やコンプレッサ等の粉末冶金部品のガス漏れを完全に防止することをその技術的課題としていると解するのが相当である。
してみれば、引用例1〜3に記載された技術、上記参考資料に記載された技術事項は、いずれも、上記した本件発明の構成を備えておらず、本件発明は、当該構成により、「スチーム処理を施すことにより逆止弁とシールカラーとのシール性が向上し、大幅に洩れ不良を削減することができる。」という作用・効果を奏するものである。
また、上記した引用例2に記載された発明の技術的課題からみて、引用例2に記載された発明における多孔質金属材料に、引用例3に記載された発明や参考資料に記載された技術的事項を適用してスチーム処理を行い、多孔質金属材料の漏れ不良を削減することには、阻害要因があるものというべきである。
さらに、平成16年3月30日付けの意見書第7頁第14〜17行に記載される「シール面に空孔に応じた凹凸が残ることを許容し、そのシール面の凹凸からの漏れによって、刊行物2に記載のとおり、スクロールラップ圧力と吸気管圧力をバランスさせ、圧縮機起動時の負荷トルクを軽減させるとともに、逆止弁からの漏れ不良を低減」する効果について検討する。引用例2に記載されているような多孔質金属材料製の逆止弁は、通気性を有する程度に空孔が存在することからして、表面にも凹凸が存在し、スチーム処理によって皮膜を付着させても、その皮膜の表面に凹凸が残って該表面と弁座との間の隙間から漏れが生ずることは当然あり得ることであるから、前記意見書記載の効果は、出願当初の明細書の記載から当業者が推論できるものである。なお、本願明細書の段落【0004】の「従来の技術では・・・シール面の洩れが多いと・・・悪影響を与える問題があった。」、段落【0026】の「洩れを低減でき」、「シール面の洩れを少なくできる」の記載も、シール面の洩れが所定量あることを排除するものではない。
また、他に上記発明の構成を、当業者にとって容易に想到することができたものとする根拠も見当たらない。
以上総合すると、本件発明は、引用例1〜3、及び参考資料に記載のものに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことことができない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スクロール圧縮機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、電動機と該電動機に連結された圧縮機構部とを収納するものであって、圧縮機構部に、2つの台板上にそれぞれ直立する渦巻状のラップを有し、それぞれのラップを互いに噛み合わせて圧縮室を形成する固定スクロール及び旋回スクロールと、該旋回スクロールに回転力を伝達するクランク軸と、このクランク軸の回転を受ける軸受を具備するフレームと、このフレームと前記旋回スクロールとの角度位置関係を保つ自転防止機構とを備え、前記固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に、圧縮機の停止時に高圧側から低圧側への冷媒及び冷凍機油の逆流を防止するために逆止弁とシールカラーで構成する逆止弁構造を設けたスクロール圧縮機において、該逆止弁が空孔を持つ焼結材で構成され、該逆止弁はシール面の空孔を埋めるためのスチーム処理が施されて酸化皮膜が表面に付着され、該逆止弁の漏れ不良が低減されてなることを特徴とするスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、スクロール圧縮機に係り、特に空気調和機、冷蔵庫等の冷凍機に用い、簡便な構造で高品質、高信頼性のスクロール圧縮機を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、圧縮機の低振動化、低騒音化を図るためにスクロール圧縮機が採用されてきている。このスクロール圧縮機において、運転停止時の冷媒及び冷凍機油の逆流を防止するための逆止弁は不可欠なものである。この逆止弁を吸込み側に設けた構造として特開昭-34312がある。
【0003】
この逆止弁の働きを図2、図3を用いて説明する。図2、図3は、スクロール圧縮機の吸込み室及び吸込み通路を示す部分拡大図である。圧縮機運転中は吸込みガス圧により逆止弁23は図3のように下方の位置にあり吸込みガスはその上部を通過し圧縮室に吸入される。運転が停止されると、高圧側から低圧側へのガスの流れにより逆止弁23は、図2の位置に持ち上げられシールカラー21の端面と逆止弁23の平面で吸込み側との通路を閉鎖し冷媒及び冷凍機油の逆流を防止するものである。
【0004】
従来の技術では、この逆止弁は成形性の良さ、安価に製作でき且つ必要機能を満足できる加工手段として焼結成形が一般的であった。このため、シール面に空孔が多く洩れ不良が非常に多い問題があった。このシール面の洩れが多いとガスの逆流により圧縮機が逆転する現象が生じ、異常音を発生する問題及び逆起電力が発生することで本体や電気品に悪影響を与える問題があった。特に、一般家庭用のルームエアコンや冷蔵庫においては、騒音に関しては敏感であるため非常に問題であった。さらに、シール面の洩れが多いと、逆流する際圧縮機内の冷凍機油が外部に持ち出され、軸受等への給油が不足し圧縮機の信頼性を低下させる問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の技術の問題を解決するためのもので、逆止弁とシールカラーとのシール部の洩れ不良を低減すると同時に、空調機及び冷蔵庫として快適で信頼性の高いスクロール圧縮機を提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のスクロール圧縮機に係る構成は、密閉容器内に、電動機と該電動機に連結された圧縮機構部とを収納するものであって、それぞれの台板上に直立する渦巻状のラップを有し、それぞれのラップを互いに噛み合わせて圧縮室を形成する固定スクロール及び旋回スクロールと、該旋回スクロールに回転力を伝達するクランク軸と、このクランク軸を回転させる軸受を具備するフレームと、このフレームと前記旋回スクロールとの角度関係位置を保つ自転防止機構とを備えているスクロール圧縮機において、前記固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に圧縮機の停止時に高圧側から低圧側への逆流を防止するための逆止弁とシールカラーで構成する逆止弁構造を持たせ、この逆止弁が空孔を持つ焼結材で構成され、この逆止弁にシール面の空孔を埋めるためのスチーム処理を施して酸化皮膜を付着させたものである。
【0007】
【作用】
上記手段による働きは次の通りである。
【0008】
上記手段による逆止弁構造の働きは従来と同様である。まず、作用は固定スクロールと旋回スクロールで形成される圧縮室の吸込み側に設けた逆止弁構造において、スチーム処理を施すことにより逆止弁とシールカラーとのシール性が向上し、大幅に洩れ不良を削減することができる。このため、このスクロール圧縮機を搭載した空調機及び冷蔵庫は、圧縮機の停止時に高圧側から低圧側へのガスの流れによる逆転現象を少なくすることができ、異常音の発生や逆起電力が発生することで本体や電気品に悪影響を抑えることができる。特に、一般家庭用のルームエアコンや冷蔵庫においては、騒音に関して敏感であり異常音を少なくすることができ快適性の面で非常に効果がある。さらに、シール面の洩れを少なくできることで、圧縮機内の冷凍機油が外部に持ち出される心配が無く、軸受等への給油が十分行え高信頼性なスクロール圧縮機を提供することができる。
【0009】
削除
【0010】
【実施例】
以下本発明の実施例を図1より図2を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例に係るスクロール圧縮機の縦断面図、図2、図3は、逆止弁構造を示す縦断面図、まず、全体構成を説明する。
【0011】
図1に示すスクロール圧縮機は、密閉容器1内の上部にポンプ部(圧縮機構部)、下部に電動機部が収納されている。ポンプ部は固定スクロール2、旋回スクロール3、フレーム4、オルダムリング11を主要構成要素としている。固定スクロール2の吸込口7には、外部サイクルに接続する吸込パイプ22が圧入されている。
【0012】
固定スクロール2と旋回スクロール3とは、それぞれの台板面に直立する渦巻き状のそれぞれのラップ部を互いに内側に向けて噛み合わせて圧縮室6を形成している。
【0013】
旋回スクロールのボス部には、クランク軸5の偏心部5aが回転自在に嵌入され、台板部の溝及び、フレーム4の溝(図示せず)には、オルダムリング11が摺動自在に配設されている。
【0014】
フレーム4には、旋回スクロール3の台板を支持するための座面、オルダムリング11が摺動する面、及びクランク軸5を支えるスラスト面及び主軸受が設けられる。更に、フレーム外周部は固定スクロール2とボルト13により締結され、外周側面は、スポット溶接により密閉容器1に固定されている。
【0015】
クランク軸5には、電動機を構成するロータ10が圧入などにより嵌着されており電動機を構成するステータ9は密閉容器1内に焼嵌めなどにより固定されている。
【0016】
16は、クランク軸5の下部を支持する軸受けである。
【0017】
次にスクロール圧縮機の作用及び給油機構を説明する。
【0018】
ロータ10は、ステータ9より回転力を受け、クランク軸5が回転し、旋回スクロール3は、オルダムリング11の作用により自転することなく、偏心回動(公転)する。旋回スクロール3の偏心回動により吸込パイプ22を通して吸込まれた冷媒ガスは、固定スクロール2の吸込口7から圧縮室6で徐々に圧縮され、吐出口8から密閉容器1の中に放出される。放出された冷媒ガスは、電動機部を冷却し吐出パイプ14から外部サイクルへ供給される。
【0019】
供給機構は差圧給油方式を採用し、中間圧室12の圧力と吐出圧力との差圧により圧縮機下部にある冷凍機油15を主軸受け旋回スクロール軸受け、その他摺動部へ給油する。中間圧室12は、旋回スクロール3の台板に圧縮室6と通じる2つの中間圧孔(図示せず)により、吸込圧力と吐出圧力の中間の圧力の部屋を形成する。冷凍給油15は、上記圧力差により、クランク軸の内部の貫通穴5aを通り旋回スクロール軸受け、主軸受けに給油される。
【0020】
さらに、中間圧室12に入り込んで冷凍給油は、旋回スクロール3の中間圧孔や台板外周部より、圧縮室6に給油され吐出口8から冷媒ガスとともに密閉容器1の中に放出される。
【0021】
本発明の実施例を図2から図3を参照して説明する。
【0022】
まず、逆止弁の構造について説明する。圧縮機が運転されると冷媒ガスは吸込み通路7を通り、この吸込みガス圧により逆止弁23は図3のように下方の位置に押し下げられ、その上方に圧縮室6に連通する空間が形成される。これにより、吸込みガスはその空間を通過し圧縮室6に吸入される。更に、圧縮された冷媒ガスは吐出口8より密閉容器1内へ吐出される。吐出口8から吐出された高圧ガスは密閉容器1の上部空間から圧縮機構部を形成するポンプ部の外周部に設けられた切欠きまたは連通孔を通り電動機等を収納する下部空間に供給される。この時、ガスの流れにより電動機を形成するステータ9を冷却し、更に、この高圧ガスが電動機等の空間を通過することで吐出口8から冷媒ガスとともに霧状になって吐き出される潤滑用の冷凍機油が分離され、高圧の冷媒ガスが吐出パイプ14から外部サイクルへ戻される。運転状態から運転が停止されると、圧縮室6、密閉容器1及び吐出パイプから外部サイクルへ戻る途中にある高圧の冷媒ガスが、吸入口7より前方の低圧側へ逆流しようとする力と逆止弁23の下側に設けられたスプリング26とにより、逆止弁23は、図2の位置に押し戻されシールカラー21の端面と逆止弁23の平面で吸込み側との通路を閉鎖し冷媒の逆流を防止するとともに圧縮機下部の冷凍機油15が摺動部への給油経路であるクランク軸5の貫通孔5b、旋回スクロール軸受、フレーム軸受、中間圧室12、中間圧孔、圧縮室6等を通って圧縮機の外部へ持ち出されるのを防ぐものである。
【0023】
このとき、吸入口7と圧縮室6との間をシールカラー21の端面と逆止弁23の平面とでシールするが、逆止弁23が焼結材のように空孔を持つ材料の場合、この逆止弁23の平面部に凹部となる空孔が点在しその大きさもまちまちであるため、この凹部の大きいところから冷媒が逆流するとともに冷凍機油が吸込口に流入して洩れ不良となることが多かった。このシール面の洩れが多いとガスの逆流により圧縮機が逆転する現象を生じ異常音を発生したり、逆起電力が発生することで本体や電気品に悪影響を与えることもあった。これは、実験的に逆止弁が無い状態で、実際に起り得る条件として、圧力差25Kg/cm2で停止させたところ、約9000回転で逆転し、逆起電力として200V近い電圧が発生している。また、シール面の洩れが多いと、逆流する際、圧縮機下部の冷凍油15が摺動部への給油経路であるクランク軸5の貫通穴5b、旋回スクロール軸受、フレーム軸受、中間圧縮室12、中間圧孔、圧縮室6等を通って圧縮機の外部に持ち出され、油量が低下することにより軸受等への給油が不足し、圧縮機の信頼性を低下させる問題があった。
【0024】
このため、本実施例ではこの洩れ不良の原因となる空孔を埋める手段として、焼結成形した逆止弁23にスチーム処理を施し酸化皮膜を表面に付着させたものである。これにより、前記問題を解決することができ快適で信頼性の高いスクロール圧縮機を提供することができる。
【0025】
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【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、圧縮室の吸込み側に設けられた逆止弁構造において、圧縮機停止時に高圧側から低圧側への逆流の洩れを低減でき、逆転現象による異常音の発生や逆起電力が発生することによる本体や電気品への悪影響を抑えることができる。さらに、シール面の洩れを少なくできることで、圧縮機内の冷凍機油が外部に持ち出される心配が無く、軸受等への給油が十分行え高信頼性なスクロール圧縮機を提供することができる。
【0027】
削除
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係るスクロール圧縮機の縦断面図
【図2】
逆止弁構造の拡大図(圧縮機停止時)
【図3】
逆止弁構造の拡大図(圧縮機運転時)
【符号の説明】
1…密閉容器、2…固定スクロール、3…旋回スクロール、4…フレーム、5…クランク軸、6…圧縮室、7…吸込口、8…吐出口、9…ステータ、10…ロータ、11,…オルダムリング、12…中間圧室、13…ボルト、14…吐出パイプ、15…冷凍機油、16…下軸受、21…シールカラー、22…吸込みパイプ、23…逆止弁、26…スプリング、
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-06-03 
出願番号 特願平5-219884
審決分類 P 1 652・ 121- YA (F04C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 尾崎 和寛  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 飯塚 直樹
亀井 孝志
登録日 2001-11-30 
登録番号 特許第3255504号(P3255504)
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 スクロール圧縮機  
代理人 高瀬 彌平  
代理人 吉岡 宏嗣  
代理人 吉岡 宏嗣  
代理人 宮田 金雄  

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