• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63F
管理番号 1102843
異議申立番号 異議2003-70885  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-01 
確定日 2004-08-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第3335577号「パチンコ機」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3335577号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3335577号についての特許出願は、特許法第42条の2に基づく優先権主張を伴う平成2年10月15日(優先日:平成1年12月29日、出願番号:特願平1-344060号)の特許出願(特願平2-277196号)の一部を、平成10年5月8日に新たな特許出願(特願平10-142210)とし、更にその一部を、平成10年6月5日に新たな特許出願としたものであり、平成14年8月2日にその発明について特許の設定登録がされたものであって、その後、榊原吉保より特許異議の申立てがなされ、平成15年12月11日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年2月20日付けで意見書とともに訂正請求書が提出され、平成16年3月5日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成16年5月17日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の請求について
2-1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の、
「遊技球の貸出に関する情報が記録されたカードをカード読取り装置に挿入することによって遊技球が貸し出し可能なパチンコ機において、
該パチンコ機の前面には、別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球とを受け入れ且つ受け入れたパチンコ球を発射位置へ一個ずつ導くための上面が開口して前方に突出している打球供給皿と、該打球供給皿から溢れた余剰景品球を貯留する下部球受皿と、を設けると共に、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチや前記カード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチや投入された前記カードに記録された金額を表示する表示器を前記カード読取り装置から分離した位置であって手前側上方から見たときに視認され易い前記打球供給皿に設けたことを特徴とするパチンコ機。」を、
「遊技球の貸出に関する情報が記録されたカードをカード読取り装置に挿入することによって遊技球が貸し出し可能なパチンコ機において、
該パチンコ機の前面には、パチンコ機背面に装着される機構板の上部に設けられる景品球タンクから導かれる球を貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球とを受け入れ且つ受け入れたパチンコ球を発射位置へ一個ずつ導くための上面が開口して前方に突出している打球供給皿と、該打球供給皿から溢れた余剰景品球を貯留する下部球受皿と、を設けると共に、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチや前記カード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチや投入された前記カードに記録された金額を表示する表示器を前記カード読取り装置から分離した位置であって手前側上方から見たときに視認され易い前記打球供給皿に設けたことを特徴とするパチンコ機。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書の段落【0001】を、
「【発明の属する技術分野】
本発明は、遊技球の貸出に関する情報が記録されたカードをカード読取り装置に挿入することによって遊技球が貸し出し可能なパチンコ機に関するものである。」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書の段落【0004】を、
「【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明においては、
遊技球の貸出に関する情報が記録されたカードをカード読取り装置に挿入することによって遊技球が貸し出し可能なパチンコ機において、
該パチンコ機の前面には、パチンコ機背面に装着される機構板の上部に設けられる景品球タンクから導かれる球を貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球とを受け入れ且つ受け入れたパチンコ球を発射位置へ一個ずつ導くための上面が開口して前方に突出している打球供給皿と、該打球供給皿から溢れた余剰景品球を貯留する下部球受皿と、を設けると共に、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチや前記カード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチや投入された前記カードに記録された金額を表示する表示器を前記カード読取り装置から分離した位置であって手前側上方から見たときに視認され易い前記打球供給皿に設けたことを特徴とするものである。」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の段落【0005】を、
「上記のように構成することにより、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチやカード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチや投入されたカードに記録された金額を表示する表示器をカード読取り装置から分離した位置であって手前側上方から見たときに視認され易い打球供給皿に設けたので、操作スイッチや表示器の操作性及び視認性が良い。また、貸出遊技球と景品球とがパチンコ機背面に装着される機構板の上部に設けられる景品球タンクから導かれる球を貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって別々の排出口から打球供給皿に排出されるので、貸出遊技球が排出されたのか景品球が排出されたのかが遊技者にとって容易に見て理解することができる。」と訂正する。
(5)訂正事項e
特許明細書の段落【0029】を、
「【発明の効果】
以上、説明したところから明らかなように、本発明に係るパチンコ機は、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチやカード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチや投入されたカードに記録された金額を表示する表示器をカード読取り装置から分離した位置であって手前側上方から見たときに視認され易い打球供給皿に設けたので、操作スイッチや表示器の操作性及び視認性が良いという優れた効果を奏するものである。また、貸出遊技球と景品球とがパチンコ機背面に装着される機構板の上部に設けられる景品球タンクから導かれる球を貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって別々の排出口から打球供給皿に排出されるので、貸出遊技球が排出されたのか景品球が排出されたのかが遊技者にとって容易に見て理解することができる。」と訂正する。

2-2.訂正の適否
(1)訂正事項aについて
訂正明細書の「景品球タンクから導かれる球を貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球」は、特許明細書(段落【0010】)中の「球貸装置24の上部には、補給パイプ25が接続され、下部には、供給パイプ26が接続されている。また、供給パイプ26の下端は、前記景品球排出樋22に連通されている。なお、前記打球供給皿11の上流端に2つの排出口を設け、球貸装置24から排出される遊技球と景品球排出装置20から排出される景品球とが前記打球供給皿11に排出される際に遊技者に視認できるように別々の排出口から排出されるようにしてもよい。」(第1の実施例)、及び、「また、球貸装置24を特別に設けずに、カードの貸球情報に基づいて景品球排出装置20を駆動して遊技球を貸し出すようにしてもよい。この場合、景品球排出装置20の構造として、図示のように遊技球の貸出数と景品球の排出数とに対応する球収納ケースを有するように構成されていてもよい…」(第2の実施例)の記載を根拠とするものと認められる。
これらの記載からすると、第1の実施例のものは、球貸装置24によって排出される貸出遊技球は補給パイプ25から導かれ、景品球タンクから導かれないから、第1の実施例として特許明細書には、「景品球タンクから導かれる球を貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球」が記載されているとはいえず、また、第2の実施例のものは、貸出遊技球と景品球とは景品球タンクから導かれるが、景品球排出装置20によって貸出遊技球と景品球が排出されるものであり、球貸装置24を設けないものであるから、第2の実施例として特許明細書には、「貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球」が記載されているとはいえない。
これに対して特許権者は意見書において、球貸装置24を球収納ケースに換えても、貸出遊技球と景品球とが別々の排出口から排出することを遊技者に視認できるようにするためには、景品球排出樋22の内部を景品球と貸球遊技球用の通路に区切って形成されれば、別々の排出口から排出されるということが容易に理解することができるものであり、当業者から見れば、球貸装置24を球収納ケースに置換しても別々の排出口から排出させる技術が特許明細書の記載から自明な程度に記載されている旨主張している。
しかしながら、第1の実施例のものは、球貸装置24から貸出遊技球が排出され、景品球排出装置20から景品球が排出されているから、打球供給皿11の上流端に2つの排出口を設けて貸出遊技球と景品球とが別々の排出口から排出することを遊技者に視認できるように構成できるのである。これに対し、第2の実施例のものは、球貸装置24を設けず、遊技球の貸出数と景品球の排出数とに対応する球収納ケースを有する景品球排出装置20の1箇所から貸出遊技球と景品球とを排出するものであるから、貸出遊技球と景品球とが排出されることを遊技者が視認可能なように打球供給皿11の上流端に2つの排出口を設けるためには、特許権者が主張するように、「景品球排出樋22の内部を景品球と貸出遊技球用の通路に区切って形成」し、景品球排出装置20から排出される貸出遊技球と景品球とを、景品球用の通路と貸出遊技球用の通路からそれぞれ排出するように構成しなければならず、そのように構成することは特許明細書又は図面に記載されておらず、同記載から当業者が容易に想到し得るものであるとしても自明のことではない。
したがって、訂正明細書の「パチンコ機背面に装着される機構板の上部に設けられる景品球タンクから導かれる球を貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球」は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内において訂正するものではない。
(2)訂正事項bについて
上記訂正事項bは、明りょうな記載の釈明を目的とするものと認められる。
(3)訂正事項c-eについて
上記訂正事項c-eは、上記訂正事項aを前提にして関連する箇所を訂正しようとするものであるから、いずれも特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内において訂正するものではない。

2-3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3.特許異議申立てについての判断
3-1.申立ての理由の概要
異議申立人榊原吉保は、下記の甲第1乃至7号証を提出し、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消すべきものである旨、主張する。
甲第1号証:特開昭64-34390号公報
甲第2号証:実願昭62-3090号(実開昭63-111184号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平2-209175号公報
甲第4号証:実願昭62-35392号(実開昭63-143389号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭60-83728号(実開昭61-200092号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実願昭60-165708号(実開昭62-74863号)のマイクロフィルム
甲第7号証:特開平1-293893号公報

3-2.本件発明
上記2.のように、本件訂正は認められないから、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本件特許の設定登録時における以下のとおりのものである。
「遊技球の貸出に関する情報が記録されたカードをカード読取り装置に挿入することによって遊技球が貸し出し可能なパチンコ機において、
該パチンコ機の前面には、別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球とを受け入れ且つ受け入れたパチンコ球を発射位置へ一個ずつ導くための上面が開口して前方に突出している打球供給皿と、該打球供給皿から溢れた余剰景品球を貯留する下部球受皿と、を設けると共に、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチや前記カード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチや投入された前記カードに記録された金額を表示する表示器を前記カード読取り装置から分離した位置であって手前側上方から見たときに視認され易い前記打球供給皿に設けたことを特徴とするパチンコ機」(以下、「本件発明」という。)

3-3.平成15年12月11日付けの取消しの理由について
当審は、平成15年12月11日付けの取消しの理由として、本件発明の特許は、下記の引用例1乃至4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨通知した。

引用例1: 特開昭64-34390号公報(甲第1号証)
引用例2: 実願昭62-3090号(実開昭63-111184号)のマイクロフィルム(甲第2号証)
引用例3: 特開平2-209175号公報(甲第3号証)
引用例4: 特開平1-293893号公報(甲第7号証)
引用例5: 実願昭62-35392号(実開昭63-143389号)のマイクロフィルム(甲第4号証)
引用例6: 実願昭60-83728号(実開昭61-200092号)のマイクロフィルム(甲第5号証)
引用例7: 実願昭60一165708号(美開昭62 -74863号)のマイクロフィルム(甲第6号証)

(1)引用例に記載された発明
i.引用例1
引用例1(特開昭64-34390号公報)には、遊技機に関し、以下のような事項が記載されている。
「遊技用媒体を払出す遊技用媒体払出手段を備えた遊技機であって、該遊技機は、所定の遊技用カードが挿入可能なカード挿入口と、前記カード挿入口から挿入されたカードが遊技用媒体の貸出し可能なカードか否かを判別するカード判別手段と、前記カード判別手段が貸出し可能なカードを判別した出力に応答して、所定数量の遊技用媒体を前記遊技用媒体払出手段から払出し、遊技機の賞態様に応じて所定数量の遊技用媒体を前記遊技用媒体払出手段から払出すことを特徴とする、遊技機。」(第1頁左欄5-18行)
「パチンコ遊技機300の前面枠302には、遊技盤304が形成されており、その遊技盤304により遊技領域305が形成されている。前面板330には、打球供給皿324が設けられており、景品玉出口323から払出された遊技用媒体の一例であるパチンコ玉を一時貯留するとともに、パチンコ玉を1つずつ打球発射装置372(第9図参照)に送り込み、遊技者による操作ハンドル336の操作により、パチンコ玉を1つずつ前記遊技領域305に打込み得るように構成されている。また、パチンコ遊技機300の下方部分には、余剰玉受皿332が設けられており、前記打球供給皿324に貯留されているパチンコ玉が満杯になった場合に、その一部を余剰玉出口334から放出し余剰玉受皿332により貯留できるように構成されている。」(第6頁右上欄1-16行)
「またその下方には、カード挿入口340が設けられており、パチンコカードを垂直方向に挿入し得るように構成されている。さらにその下方には、金額表示器342および貸玉信号指令ボタン344が設けられている。金額表示器342は、パチンコカードに記憶された貸玉可能な金額を表示するためものである。貸玉信号指令ボタン344は、「1,000円」「500円」「300円」「200円」「100円」の5つのボタンを含み、いずれかのボタンが押されることにより、表示金額に応じた金額分のパチンコ玉の貸出表示をするものである。そして、パチンコカードを挿入し貸玉信号指令ボタン344を操作することにより、パチンコ玉が景品玉出口323から貸出されるように構成されている。なお、貸玉信号指令ボタンは、上記実施例に限らず、単一の金額ボタン(100円,200円など)を設け、金額ボタンの押圧毎に対応した貸玉を払出すようにしてもよい。」(第6頁右下欄20行-第7頁左上欄18行)
「図中、340はカード挿入口であり、346はカード制御ボックス、348は選択制御ボックスであり、貸玉信号指令ボタン344(第8図参照)に対応しているものである。このカード挿入口340からカードを挿入し、貸玉信号指令ボタン344(第8図参照)を操作することにより、後述するように、景品玉払出装置352が駆動制御され、所定量のパチンコ玉が貸出されるように構成されている。」(第7頁左下欄18行-右下欄6行)
「前記カード制御ボックス346は、第10図に示すように、カード挿入口340から挿入されたカードを検出するカード挿入検出スイッチ380と、その挿入されたカードを所定の場所に搬送するカード搬送機構382と、カードに記録されているデータを読取りまた新たなデータを書込むためのカードデータ読取書込装置384とから構成されている。」(第7頁右下欄15行-第8頁左上欄2行)
「したがって、景品玉払出開始信号に基づいて駆動モータ568の回転を開始し、この景品玉検出器574によって払出される景品玉数を計数しながら所定数になったときに駆動モータ568を停止するようにすれば、任意の数の景品玉を払出すことが可能である。なお、貸玉指令によっても、上記景品玉払出装置を駆動させて対応した貸玉を払出すようにしている。」(第10頁右上欄5-13行)
また、第8図、第10図の記載からみて、貸玉信号指令ボタン344及び金額表示器342が、カードデータ読取書込装置384を収納するカード制御ボックス346から分離して配置されている。
これらの記載事項によれば、引用例1には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。
「貸玉可能な金額が記憶されたパチンコカードをカード制御ボックス346のカード挿入口340に挿入することによってパチンコ玉が貸し出されるパチンコ遊技機において、
該パチンコ遊技機の前面には、景品球出口323から払出された貸玉あるいは景品玉であるパチンコ玉を1つずつ打球発射装置372に送り込む打球供給皿324と、打球供給皿324に貯留されているパチンコ玉が満杯になった場合に、その一部を貯留できる余剰玉受皿332と、を設けると共に、パチンコ玉を貸し出す単一の貸玉信号指令ボタン344や挿入された前記パチンコカードに記録された金額を表示する金額表示器342を前記カード制御ボックス346から分離した位置であってパチンコ遊技機の前面枠に設けたパチンコ遊技機」(以下、「引用発明」という。)
ii.引用例2
引用例2(実願昭62-3090号(実開昭63-111184号)のマイクロフィルム)には、その明細書及び第1図の記載からみて、「景品球の排出口を有するパチンコ玉保持台3にパチンコ貸出玉を直接に供給するために、景品玉の前記排出口とは別の排出口を有する玉供給連結管2がパチンコ玉貸し機1から、延設され、該玉供給連結管2の排出口をパチンコ玉保持台3の内部に直接開口しているパチンコ遊技機」が記載されている。
iii.引用例3
引用例3(特開平2-209175号公報)には、パチンコ機に関し、以下のような事項が記載されている。
「操作ダイヤル104の上方には、前記カードを使用した遊技開始の手続きを可能にするための金額表示器111、玉数表示器112、購入スイッチ113、中断スイッチ114、終了スイッチ115、遊技状態表示器116等を備えた操作パネル110が設けられている。……購入スイッチ113は、制御ユニット160に内蔵されたカードリーダ800へのカードの挿入を前提としてカードの有する金額の範囲内で、200円等の単位でこれを遊技球に変換するための指示スイッチで、変換された遊技球が持玉数となる。」(第4頁右上欄4-16行)
「終了スイッチ115は遊技者が遊技を終了させたくなったとき(遊技台を変更したい場合を含む)にいつでもこれをオンさせることで、使用中のカードを制御ユニット160より排出させることができる。」(第4頁左下欄2-6行)
「操作パネル110は第4図に示すように、パチンコ機100の下部の開閉可能な前面パネル105に装着され、かつ断面三角形の中空状をなし、上面が前方に向かって下り傾斜されることにより表示が読取り易いようになっている、」(第4頁右下欄1-5行)
iv.引用例4
引用例4(特開平1-293893号公報)には、遊技機に関し、以下の事項が記載されている。
「遊技者がパチンコ遊技を行なって精算ボタン28(第1図参照)を押圧操作することにより、…カード挿入・排出口26からカード102が遊技者側に排出される。」(第8頁右上欄18行-左下欄8行)
v.引用例5
引用例5(実願昭62-35392号(実開昭63-143389号)のマイクロフィルム)には、弾球遊技機に関し、以下のような事項が記載されている。
「図において、スイッチング手段としてのタッチスイッチ36aが打球供給皿26の下流側よりのほぼ中央であって、上に向う面に取付けられている。」(第12頁3-6行)
vi.引用例6
引用例6(実願昭60-83728号(実開昭61-200092号)のマイクロフィルム)には、パチンコ機に関し、以下のような事項が記載されている。
「時計13が…時計挿入孔12に挿入されると、時計13の文字盤は斜め上方に向き、遊技者が見易いようになる。」(第5頁4-8行)
「時計13は上玉受皿6の前面で遊技者の見易い位置に取り付けられているので、遊技者は遊技部5から目の位置を僅かに移動するだけで、時刻を知ることができる。」(第5頁16-19行)
vii.引用例7
引用例7(実願昭60一165708号(実開昭62 -74863号)のマイクロフィルム)には、パチンコ機用供給皿に関し、以下のような事項が記載されている。
「供給皿本体12の外側面を覆う補強枠材56と、この補強枠材56の前面開口56'を塞ぐと共に、発光表示器57を備えた装飾部材58と、…補強部材56は、…前方に向って湾曲して膨らみ、供給皿本体12の前面からその両端に大きく回り込んだ形状を成し」(第10頁第2-9行)
「装飾部材58には、一対の表示窓64,64を左右に並べて開設し、両表示窓64に異なる色、例えば赤色透明板65aと黄色透明板65bとを夫々止着する」(第11頁第8-11行)

(2)本件発明と引用発明との対比
本件発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「貸玉可能な金額が記憶されたパチンコカード」「カード制御ボックス346」「パチンコ遊技機」「打球供給皿324に貯留されているパチンコ玉が満杯になった場合に、その一部を貯留できる余剰玉受皿332」が、それぞれ本件発明の「遊技球の貸出に関する情報が記録されたカード」「カード読取り装置」「パチンコ機」「打球供給皿から溢れた余剰景品球を貯留する下部球受皿」に相当する。
また、引用発明の「景品球出口323から払出された貸玉あるいは景品玉であるパチンコ玉を1つずつ打球発射装置372に送り込む打球供給皿324」と、本件発明の「別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球とを受け入れ且つ受け入れたパチンコ球を発射位置へ一個ずつ導くための上面が開口して前方に突出している打球供給皿」とは、「排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球とを受け入れ且つ受け入れたパチンコ球を発射位置へ一個ずつ導くための上面が開口して前方に突出している打球供給皿」で共通する。
また、引用発明の「パチンコ玉を貸し出す単一の貸玉信号指令ボタン344や挿入されたパチンコカードに記録された金額を表示する金額表示器342をカード制御ボックス346から分離した位置であってパチンコ遊技機の前面枠に設けた」ことと、本件発明の「遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチやカード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチや投入されたカードに記録された金額を表示する表示器をカード読取り装置から分離した位置であって手前側上方から見たときに視認され易い前記打球供給皿に設けた」こととは、「遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチや投入されたカードに記録された金額を表示する表示器をカード読取り装置から分離した位置に設けた」ことで共通する。
そうすると、本件発明と引用発明とは「遊技球の貸出に関する情報が記録されたカードをカード読取り装置に挿入することによって遊技球が貸し出し可能なパチンコ機において、該パチンコ機の前面には、排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球とを受け入れ且つ受け入れたパチンコ球を発射位置へ一個ずつ導くための上面が開口して前方に突出している打球供給皿と、該打球供給皿から溢れた余剰景品球を貯留する下部球受皿と、を設けると共に、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチや投入された前記カードに記録された金額を表示する表示器を前記カード読取り装置から分離した位置に設けたパチンコ機」である点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点1
本件発明は、別々の排出口を介して貸出遊技球と景品球とが排出されるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。
・相違点2
本件発明は、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチやカード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチや投入されたカードに記録された金額を表示する表示器を手前側上方から見たときに視認され易い打球供給皿に設けているのに対し、引用発明は、カードを返却するための操作スイッチを備えているかどうか不明であり、また、遊技球を貸し出すための単一の操作スイッチや投入されたカードに記録された金額を表示する表示器をパチンコ遊技機の前面枠に設けている点。

(3)当審の判断
上記相違点について検討する。
i. 相違点1について
引用例2には、別々の排出口を介して排出される貸出遊技球と景品球とを受け入れ且つ受け入れたパチンコ球を発射位置へ一個ずつ導くための上面が開口して前方に突出している打球供給皿の構成が記載されていると認められ、引用発明に、引用例2に記載の当該構成を適用して本件発明の構成とすることは、引用発明と引用例2に記載の発明とが、パチンコ遊技機の打球供給皿に貸出遊技球と景品球とを排出する技術分野で共通する以上、当業者が格別困難無く想起し得た事項である。
ii. 相違点2について
引用例3に記載のものは、遊技球を貸し出すための単一の購入スイッチ113(本件発明の「操作スイッチ」に相当)や制御ユニット160(本件発明の「カード読取り装置」に相当)に挿入したカードを返却するための終了スイッチ115(本件発明の「操作スイッチ」に相当)や投入された前記カードに記録された金額を表示する金額表示器111を備える操作パネルは、パチンコ機において手前側上方から見たときに視認され易い位置に設けられており(この位置は通常のパチンコ機では打球供給皿が設けられている位置である)、本件発明の効果である「操作スイッチや表示器の操作性及び視認性が良い」と同等の効果を奏するものである。
また、視認性を向上するために、打球供給皿に操作スイッチや表示器を設けることが引用例5〜7等に記載されているように周知技術である。
してみると、引用発明の打球供給皿に、操作スイッチや表示器を設けて、本件発明の構成とすることは、当業者が格別困難なく想起し得た事項である。
さらに、引用発明では不明な構成である、本件発明の「カード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチ」についても、引用例3には「終了スイッチ115」として記載され、引用例4には「精算ボタン28」としてそれぞれ記載されているので、引用例3,4に記載された「カード読取り装置に挿入したカードを返却するための操作スイッチ」を打球供給皿に設けることは、当業者にとって格別困難なことではない。

そして、本件発明が奏する効果は、引用例1乃至4に記載された発明及び周知技術から予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものではない。

なお、上記2.で訂正は認められないとしたが、仮に、当該訂正が認められたとしても、訂正明細書の請求項1に記載の「パチンコ機背面に装着される機構板の上部に設けられる景品球タンクから導かれる球を貸出用の排出装置と景品用の排出装置とによって」打球供給皿へ排出するという構成は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である実願昭50-66649号(実開昭51-145281号)のマイクロフィルムに記載されており、引用例1乃至7の記載事項及び上記(2)(3)での検討事項を併せて考慮すると、訂正明細書に記載の請求項1に係る発明は、当業者が容易になし得たものと認められる。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める法令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-06-18 
出願番号 特願平10-174007
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (A63F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 土屋 保光澤田 真治  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 鉄 豊郎
白樫 泰子
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3335577号(P3335577)
権利者 株式会社三洋物産
発明の名称 パチンコ機  
代理人 今崎 一司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ