• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1102861
異議申立番号 異議2001-73562  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-27 
確定日 2004-08-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第3188335号「触媒系の製造法及びオレフィンを三量体化、オリゴマー化及び/又は重合する方法」の請求項1、2、5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3188335号の請求項1、2、5に係る特許を取り消す。 
理由
【1】手続の経緯

本件特許第3188335号は、出願日が、平成5年2月5日であって、平成13年5月11日に特許権の設定登録がなされ、三菱化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由を通知したところ、その指定期間内に訂正請求がなされるとともに特許異議意見書が提出され、次いで、訂正拒絶理由を通知したところ、意見書が提出され、特許異議申立人に対して審尋を行ったところ回答書が提出されたものである。

【2】訂正の適否についての判断

本件訂正請求における訂正事項は、特許請求の範囲の請求項1の「得られた反応生成物を不飽和脂肪族炭化水素と反応させる工程」なる記載を、「得られた反応生成物を1種又は2種以上のルイス酸及び/又は金属アルキル並びに不飽和脂肪族炭化水素と反応させる工程」と訂正するものである。
そして、訂正拒絶理由で述べたとおり、本件訂正前の請求項1においては、「(a)、(b)及び(c)の混合物を反応させ得られた反応生成物」に反応させる物質(以下「反応物」という)は「不飽和脂肪族炭化水素」であったが、訂正後の請求項1では、「1種又は2種以上のルイス酸及び/又は金属アルキル」並びに「不飽和脂肪族炭化水素」であるから、本件訂正は、「反応物」を訂正前のものとは異なるものとしており、この点で、実質上特許請求の範囲を変更するものであり、しかも、願書に添付した明細書(以下「特許明細書」という)を検討しても、「反応物」を訂正後のものとすることについての記載はないから、本件訂正は、特許明細書に記載した事項の範囲内のものとも認められない。
特許権者は、訂正の根拠は明細書の段落【0018】及び段落【0023】にあると主張しているが、段落【0018】にはクロムピロリドに関する記載が、段落【0023】には、固体クロムピロリド化合物に関する記載があるだけであり、(a)、(b)及び(c)の混合物を反応させ得られた反応生成物全体に対する「反応物」についての記載はこれらの段落には存在しない。特許明細書の他の記載を併せて検討しても、「反応物」を訂正後のものとすることが特許明細書に記載されているとは認められない。
また、特許権者は、本件訂正は取消理由通知書のh.を肯定してなされたものであり、h.は、活性化用化合物についての構成を本件特許請求の範囲に加入すれば、取消理由が解消するとの外観を作出したから、訂正を認めないことは信義則に反し、したがって、訂正は認められるべきである旨の主張をしている。
しかし、h.は取消理由を通知したものであって、訂正が認められる事項を通知したものではないし、hにおいて、上記訂正事項が、特許明細書に記載されていることを認めた訳でもない。また、取消理由を解消する為の訂正であっても、訂正の要件を満足しなければ、訂正が認められないのは当然のことである。
したがって、上記特許権者の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び同条第2項の規定に適合しないので、本件訂正は認められない。

【3】本件の請求項1、2、5の記載

本件の請求項1、2、5の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】 次の、
(a)金属塩(該金属は、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、モリブデン及び銅からなる群より選択される);
(b)金属アミド;及び
(c)電子対供与体溶剤
の混合物を反応させ、そして得られた反応生成物を不飽和脂肪族炭化水素と反応させる工程を含んで成る、オレフィンを三量体化、オリゴマー化又は重合するための触媒系の製造法。
【請求項2】 不飽和脂肪族炭化水素がエチレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 請求項1に記載の方法によって調製された、オレフィンを三量体化、オリゴマー化又は重合するための触媒系。」

【4】取消理由の内容

当審が通知した取消理由のうち、理由3の概要は、本件の請求項1、2、及び5に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。(なお、取消理由では、本件の請求項1、2、及び5に係る発明を、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明5」と称し、請求項1、2、及び5を、「全請求項」と称した。以下の記載においても、そのように称する。また、請求項1、2、5に係る発明を総称して「本件発明」という。)

【5】判断

当審は、取消理由の理由3において、以下に示すa〜fを不備な点としてして指摘してあるので、それらについて判断する。
(1)aについて
取消理由におけるaは以下のとおりである。
「a.請求項1には、「(a)・・・(b)・・・(c)の混合物を反応させ、そして得られた反応生成物を」と記載されているが、反応する成分が、(a)(b)(c)のすべてなのか、(a)(b)のみが反応し、(c)は単なる溶剤であって反応に関与しないのか不明瞭である。その結果、上記反応生成物も不明瞭である。なお、段落【0012】には、「反応混合物中のエーテルはクロム塩と金属アミドとの反応を遂行する1種又は2種以上のエーテル化合物であることができる。理論で縛られることは望まないが、エーテルは反応溶剤で有り得るし、また可能な反応体であることもできる。」と記載され、この記載からみても、(c)(エーテルはその例示と認められる)が反応するのか否か不明瞭である。したがって、全請求項は意味が不明瞭であり、同様に、発明の詳細な説明の記載も不明瞭である。」
これに対し、特許権者は、(a)〜(c)から所定の反応生成物を調整する方法は本件特許出願前に誰でも知っていたことであり、また、本件発明の実施例である実験7010では、(a)〜(c)の反応生成物を[Na(DME)2][CrCl(Py)3DME]と記載しており、「DME」は、該化合物を調製するために用いた電子対供与体溶剤であるジメトキシエタンの略記号であるから、(c)が単なる溶剤にとどまらず、反応に関与して触媒系の一部に取り込まれていることは明らかであり、それゆえ、請求項の意味は明確であり、発明の詳細な説明の記載は明瞭である旨の主張をしている。
しかし、問題は本件特許出願前何が知られていたかではなく、(c)が反応するのか否かが本件明細書に明確に記載されているかである。また、後述の「(6)fについて」で示すとおり、実験7010は本件発明の実施例と判断することができない。仮に、実験7010が本件発明の実施例であり、実験7010において(c)が単なる溶剤にとどまらず、反応に関与して触媒系の一部に取り込まれていることが明らかであるとしても、それは、(c)が反応成分である場合が、本件発明に含まれることが明らかになったに止まり、(a)(b)のみが反応し、(c)が単なる溶剤であって反応に関与しない場合が、本件発明に含まれるか否かについては、本件明細書の記載から明瞭であるとは言えない。
したがって、特許権者の主張は採用できす、本件はaの点で不備と認める。
(2)bについて
取消理由におけるbは以下のとおりである。
「b.請求項1には、「・・・そして得られた反応生成物を不飽和脂肪族炭化水素と反応させる工程を含んで成る、・・・」と記載されている。「含んで成る」とは、「(a)、(b)、(c)の混合物を反応させ、そして得られた反応生成物を不飽和脂肪族炭化水素と反応させる工程以外の工程」(以下、「他の工程」という)があってもよいこと意味すると解せられるが、「他の工程」が特定されておらず、その結果、触媒そのものも特定できない。したがって、全請求項は意味が不明瞭であり、同様に、発明の詳細な説明の記載も不明瞭である。」
これに対して、特許権者は、「「含んで成る」という語を用いていても、請求項の意味は明確であり、発明の詳細な説明の記載は明瞭である。」と主張しているだけで、主張の根拠は示していない。
したがって、特許権者の主張は採用できず、本件明細書の記載はbの点で不備と認める。
(3)cについて
取消理由におけるcは以下のとおりである。
「c.請求項1には、「オレフィンを三量体化、オリゴマー化又は重合するための触媒系の製造法。」と記載され、請求項5には、「オレフィンを三量体化、オリゴマー化又は重合するための触媒系」と記載されている。しかし、「三量体化」、「オリゴマー化」、「重合」が、それぞれ重合度の点で異なるとすれば、それらは、それぞれ異なる反応である。そして、「三量体化」に使用される触媒であれば、「オリゴマー化」や「重合」には使用できないはずであり、「オリゴマー化」に使用される触媒や「重合」に使用される触媒においても同様に、他の2者には使用できないはずである。そうすると、全請求項は、触媒系が何の為の触媒系かを特定して記載していない点で不明瞭であり、同様に、発明の詳細な説明の記載も不明瞭である。」
これに対して、特許権者は、「「三量体化」に使用される触媒であれば、「オリゴマー化」や「重合」には使用できないはずであり、「オリゴマー化」に使用される触媒や「重合」に使用される触媒においても同様に、他の2者には使用できないはずである」というのは誤解であり、請求項1に記載の触媒系は、触媒調製条件、触媒担体の有無、重合条件など種々の要因により、三量体化、オリゴマー化及び重合に対して有用となるのであり、また、触媒系が同時に三量体、オリゴマー及び重合体を生成することがあることも当業者の常識である(実験1010の結果を参照されたい)との主張をしている。
しかし、特許権者のいう三量体化、オリゴマー化及び重合に対して有用となり得る触媒調製条件、触媒担体の有無、重合条件など種々の要因は、請求項1に記載されていない。また、発明の詳細な説明にも、触媒調製条件、触媒担体の有無、重合条件などをどのようにすれば三量体化、オリゴマー化及び重合のそれぞれが可能になるのか記載されていない。本件発明の触媒系が同時に三量体、オリゴマー及び重合体を生成するという根拠も本件明細書中に認めることができない。
したがって、本件明細書の記載はcの点で不備と認める。
(4)dについて
取消理由におけるdは以下のとおりである。
「d.三量体とは、一般に、単一の化合物を3つ重合させて得られる化合物を意味している。したがって、例えば、エチレンとプロピレンとブチレンの3者を、各1分子ずつ、合計3分子反応させて得られた化合物を通常三量体とは言わない。まして、異なるオレフィン4者を反応させた化合物を三量体ということはない。そして、一般に、三量体化とは、三量体を製造することを意味する。これに対して、段落【0060】には、「本明細書の開示において用いられている三量体化とは、任意の2種、3種又は4種以上のオレフィンの結合と定義される」と記載され、この定義は、通常の定義と全く異なっている(この定義では、オレフィンが1種類の場合は三量体化に含まれず、重合度も3に限らない)。このような、通常の定義と全く異なる定義付けが発明の詳細な説明に存在することは、三量体化の意味を不明瞭にする。したがって、全請求項は意味が不明瞭であり、同様に、発明の詳細な説明の記載も不明瞭である。」
これに対して、特許権者は、「三量体化の定義に不自然な点があるとしても当業者が自らの常識で判断して(例えば、「その場合オレフィン結合、即ち二重結合の数は2個減じられる」という記載を参照して)訂正して読めば足り、そのことによって本件特許発明が理解不可能となるとは考えられない。」と主張しているが、「その場合オレフィン結合、即ち二重結合の数は2個減じられる」という記載を参照しても、三量体化の意味が明瞭になるとは認められないし、この主張は、結局、請求項の記載は不明瞭であってもよいというものであるから、到底採用できない。。
dの点をさらに詳細に説明すると以下のとおりである。
すなわち、段落【0060】では、「本明細書の開示において用いられている三量体化とは、任意の2種、3種又は4種以上のオレフィンの結合と定義される」と通常とは異なる三量体化の定義付けをしている。このような、通常の意味とはかけ離れた意味で用語を使用することは、それ自体が、発明の構成を不明瞭にするものである。しかも、段落【0060】には、「例えば、エチレンの自己反応はヘキセン1種を与えることができ、」と記載しているが、このエチレンからヘキセンを得る例は、エチレンという1種のみのオレフィンの三量体化であるから、通常の意味での三量体化の定義に合致し、上記本件の三量体化の定義には合致しない。そうすると、「例えば、エチレンの自己反応はヘキセン1種を与えることができ、」との記載は、段落【0060】の上記定義と相まって、三量体化の意味をさらに不明瞭にするものである。
したがって、本件明細書の記載はdの点で不備と認める。
(5)eについて
取消理由におけるeは以下のとおりである。
「e.「三量体化」、「オリゴマー化」、「重合」の各区別が不明瞭であり、したがって、全請求項の記載は不明瞭であり、同様に、発明の詳細な説明の記載も不明瞭である。特に、「三量体化」の意味が、段落【0060】の上記のとおりとすると、「三量体化」と、「オリゴマー化」や「重合」は、殊に区別できない。」
これに対して、特許権者は、「三量体化、オリゴマー化及び重合は重合度の点で相違するものの重複する範囲があり、しかも触媒系は、触媒調製条件、触媒担体の有無、重合条件など種々の要因により、三量体化、オリゴマー化及び重合に対して有用となり得るのであるから、これら3種を厳密に区別することにはあまり意味がないと思われる。」と主張している。
しかし、請求項では、「三量体化」、「オリゴマー化」、「重合」を並べて使用しているから、これらは互に異なる意味を有すると認められる。そして、上記「(4)dについて」で述べたように、本件明細書において、「三量体化」は、任意の2種、3種又は4種以上のオレフィンの結合と定義され、その重合度は特定されていないから、「三量体化」と「オリゴマー化」や「重合」を区別することができない。
特許権者は、これら3種を厳密に区別することにはあまり意味がないと主張しているが、用語の区別が明らかでないことは、用語の意味が明らかでないことであり、それは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を不明瞭とする。
したがって、本件明細書の記載はeの点で不備と認める。
(6)fについて
取消理由におけるfは以下のとおりである。
「f.本件発明1では、(a)(b)(c)の混合物を反応させる工程(以下、「第1工程」という)に次いで、得られた反応生成物(以下、「第1生成物」という)を不飽和脂肪族炭化水素と反応させる工程(以下、「第2工程」という)を採用し、「触媒系」を製造している。しかし、(1)「第1工程」が具体的にどのような反応条件下で行われ、(2)「第1生成物」の生成をどのようにして確認し、また、(3)「第2工程」が具体的にどのような反応条件下で行われ、また、(4)「触媒系」の生成をどのようにして確認するのかが、発明の詳細な説明に明瞭に記載されていない。また、本件発明1の触媒系の製造方法の実施例も存在しない。さらに、発明の詳細な説明には、本件発明1で得られた「触媒系」が、オレフィンを三量体化するための触媒系であることを確認することができる記載もない。オリゴマー化のための触媒系であることや、重合の為の触媒系であることを確認することができる記載もない。してみれば、発明の詳細な説明は、本件発明1を容易に実施できるように記載したものとは認められない。同様の理由により、発明の詳細な説明は、本件発明2、5を容易に実施できるように記載したものとは認められない。この点については、特許異議申立書第11〜12頁の(イ)、(ロ)も参照されたい。」
これに対して、特許権者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の触媒系の調製の実施例として、実施例Iの実験1008及び1010、並びに実施例VIIの実験7010が記載されており、これらには、エチレンを三量体化したことが記載されている旨の主張している。
そこで検討するに、実験1008については、以下のとおりの記載がある。
「【0080】実験1008
クロム(III)ピロリド(CrPy3)、[Cr(C4H4N)3ClNa(C4H10O2)3]0.10g(0.17ミリモル)をCrEH3の代わりに用い、そしてPyH0.04mL(0.52ミリモル)及びTEAのヘプタン類中1.1M溶液3.5mL(3.85ミリモル)を用いて溶液を調製したことを除き、実験1002に記載の手順を行った。最終溶液の容量は約5mLであった。このCrPy3/PyH/TEAの既知少量、1.0mLを用いた。結果を後記の表1にまとめて示す。」
そして、実験1008で引用された実験1002については、以下のとおりの記載がある。
「【0074】実験1002
TEAのヘプタン中1.1M溶液8mL(8.8ミリモル)をCrEH3/PyH溶液に直接加えて溶液(全容量10mL)を形成し、反応器には加えなかったことを除き、実験1001に記載の手順を行った。そのCrEH3/PyH/TEA溶液の既知少量、0.7mLをオートクレーブ反応器に加えた。反応器には追加のTEAは導入しなかった。」
実験1002で引用された実験1001については以下のとおりの記載がある。
「【0072】実施例I
実験1001
2-エチルヘキサン酸クロム(III)(CrEH3)、[Cr(C8H15O2)3]0.14g(0.29ミリモル)を25mL(ミリリットル)の圧力管に秤取した。圧力管を自己封止性の王冠で蓋をした。ピロール(PyH)[C4NH5]0.062g(0.89ミリモル)及び希釈剤として使用されるシクロヘキサンをシリンジで添加して溶液を形成した。その総容量は約8mLであった。
【0073】トリエチルアルミニウム(TEA)、[Al(C2H5)3]のヘプタン中1.1M溶液0.9mL(0.99ミリモル)及びCrEH3 /PyH溶液の既知少量、即ち0.9mLをエチレン(CP級)の向流下でシクロヘキサン300mLが入っている1リットルのオートクレーブ反応器に加えて触媒を形成した。反応器を封止し、そしてエチレンの添加を反応器の温度が80℃の反応温度に達するまで止めた。エチレンの圧力を550psigの全反応器圧力まで増加させた。次いで、エチレンを要求に従って30分の実験時間にわたり供給した。実験の終点で、液体反応生成物の混合物の試料を採取し、毛細管ガスクロマトグラフィーで分析した。残りの反応生成物の混合物を蒸発させ、固体生成物の量を測定した。」
以上の記載からみて、特許権者も認めるように、実験1008では、[Cr(C4H4N)3ClNa(C4H10O2)3]を出発物質として使用しており、「第1工程」については記載されていない。[Cr(C4H4N)3ClNa(C4H10O2)3]が「第1生成物」であるという説明もなされていない。したがって、実験1008を本件発明の実施例と認めることはできない。
特許権者は、本件明細書の段落【0004】で言及した特開平3-128904号公報の例III(以下「例III」という)を根拠とし、[Cr(C4H4N)3ClNa(C4H10O2)3]が「第1工程」によって得られた「第1生成物」であることは誰でも知っていたことであると主張している。しかし、本件明細書中で例IIIを引用していない以上、例IIIを参照することはできないし、誰でも知っていたとの特許権者の主張は根拠を欠き採用できない。しかも、例IIIには、緑色固体のクロムピロリド錯体を得たことが記載されているだけで、それが[Cr(C4H4N)3ClNa(C4H10O2)3]の構造を有することは記載されていない。
実験1010については、以下の記載がある。
「【0082】実験1010
CrPy3/TEA溶液の調製中に純PyHを加えなかったことを除き、実験1008に記載の手順を行った。そのCrPy3/TEAのシクロヘキサン中溶液の既知少量、1.4mLを用いた。結果を後記の表1にまとめて示す。」
この記載からみて、実験1010では、実験1008と同様に、[Cr(C4H4N)3ClNa(C4H10O2)3]を出発化合物としており、実験1008に関して述べた理由と同様の理由により、実験1010を本件発明の実施例と認めることができない。
実験7010については、以下の記載がある。
「【0174】実験7010
[Na(DME)2][CrCl(Py)3DME]0.21gを1-ヘキセン約15mLと混合した。純(93%)TEA0.75mLをゆっくり加えると、褐色の溶液と粘着性に見える沈澱が形成された。これを30分間撹拌した。過剰の溶剤を真空で除去した。その残分をシクロヘキサン約15mLに抽出し、濾過し、濾液をシクロヘキサンで25mLまで希釈した。その8.0mL(0.067g)を反応器に仕込んだ。生成物はCrを1.67mg/mL含有していた。」
この記載からみて、実験7010では、出発物質として[Na(DME)2][CrCl(Py)3DME]を使用しており、「第1工程」については記載されていないし、また、[Na(DME)2][CrCl(Py)3DME]が「第1生成物」であるという説明もなされていない。したがって、実験7010を本件発明の実施例と認めることはできない。
特許権者は、[Na(DME)2][CrCl(Py)3DME]に関して、前記した、特開平3-128904号公報の例IIIを引用しているが、本件明細書中で例IIIを引用していない以上、例IIIを参照することはできない。しかも、例IIIには[Na(DME)2][CrCl(Py)3DME]の製造方法は記載されていない。
以上のとおり実験1008、1010、7010は、本件発明の実施例とは認められない。
しかも、実験1008、1010、7010における「触媒系」には、トリエチルアルミニウム(TEA)が存在しているが、本件発明は、トリエチルアルミニウムを構成要件としていない。実験1008、1010、7010の反応結果をみても、エチレンの通常の意味での三量体である1-ヘキセンが多量に生成していることが確認できるだけであって、本件明細書の段落【0060】で定義された意味での三量体化や、オリゴマー化(通常の意味での三量体化を除く)、重合(オリゴマー化よりも重合度の高い重合反応)は確認できない。
以上のとおりであるから、本件明細書の記載はfの点で不備と認める。

【6】むすび

以上のとおりであるから、本件の請求項1、2、及び5に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-03-31 
出願番号 特願平5-18972
審決分類 P 1 652・ 534- ZB (C08F)
P 1 652・ 531- ZB (C08F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山本 昌広小出 直也  
特許庁審判長 柿崎 良男
特許庁審判官 石井 あき子
船岡 嘉彦
登録日 2001-05-11 
登録番号 特許第3188335号(P3188335)
権利者 フイリツプス ピトローリアム カンパニー
発明の名称 触媒系の製造法及びオレフィンを三量体化、オリゴマー化及び/又は重合する方法  
代理人 浅村 肇  
代理人 重野 剛  
代理人 浅村 皓  
代理人 歌門 章二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ