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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1102885
異議申立番号 異議2003-73759  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2004-09-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3448927号「ラクトン系共重合体の製造方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3448927号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3448927号の発明は、平成5年11月26日に特許出願され、平成15年7月11日にその特許権の設定登録がなされ、その後、東洋紡績株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

「【請求項1】ラクトン(A)と、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分の繰り返し単位、および脂肪族ジカルボン酸成分とジオール成分の繰り返し単位を必須の構成成分として有する重量平均分子量が2万〜40万であるポリエステル(B)とを、開環重合触媒(C)の存在下に反応させることを特徴とするラクトン系共重合体の製造方法。
【請求項2】ラクトン(A)とポリエステル(B)の合計100重量部に対して、ラクトン(A)の重量比が、70〜99重量部である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】ポリエステル(B)が、芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸であり、かつ脂肪族ジカルボン酸が炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボンから成る重量平均分子量が2万〜40万であるポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】ポリエステル(B)が、芳香族ジカルボン酸がテレフタル酸および/またはイソフタル酸であり、かつ脂肪族ジカルボン酸が炭素原子数4〜20の脂肪族ジカルボンから成る重量平均分子量が2万〜40万であるポリエステルであることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項5】ポリエステル(B)が、融点もしくは軟化点が180℃以下であるポリエステルであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】ラクトン(A)と重量平均分子量が2万〜40万であるポリエステル(B)とを、スタティック・ミキサーを備えた連続反応装置内で反応をさせることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の製造方法。」

3.特許異議の申立についての判断
3-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1号証及び甲第2号証を提出して、概略、次の理由により本件の請求項1〜6に係る特許は取り消されるべきである旨、主張している。
(1)請求項1、3及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。

3-2.甲各号証及びその記載事項
甲第1号証 特開平4-353514号公報
甲第2号証 青山 知裕 作成の平成15年12月16日付け実験成績証明書

<甲第1号証の記載事項>
(1-1)「(A)二塩基酸成分の40モル%以上が芳香族ジカルボン酸である一種類以上の低比重非晶性ポリエステル樹脂、(B)二塩基酸成分の80モル%以上が芳香族ジカルボン酸である一種類以上の高比重非晶性ポリエステル樹脂および、(C)ポリイソシアネート化合物、エポキシ基含有化合物および酸無水物から選ばれる一種類以上の硬化剤からなる組成物において、(A)と(B)の分子量の差が10000以上でどちらか一方の分子量が5000以上、かつ(A)と(B)の30℃での比重の差が0.06〜0.15の範囲にあり、(A)と(B)を重量比で90:10〜30:70の範囲で含有することを特徴とする制振材料用粘弾性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
(1-2)「さらにポリエステルの成分として、p-オキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸、あるいはε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン等の環状エステル化合物を用いてもよい。」(段落【0009】)
(1-3)「【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中、単に部とあるのは重量部を示す。実施例および比較例で用いたポリエステル樹脂の組成と特性を表1に示す。各ポリエステル樹脂はテトラブチルチタネートを触媒として、エステル化反応と260℃、0.1mmHgの真空下での重縮合反応による常法により得た。なお、ポリエステル樹脂2,3,4,7は重縮合反応後、窒素ガスにより常圧にもどした後210℃でε-カプロラクトンを更に付加させて得た。・・・」(段落【0016】)
(1-4)

(第5頁表1の抜粋)
(1-5)「表1中原料の略号は以下の通り。
T;テレフタル酸 I;イソフタル酸 AZ;アゼライン酸 AA;アジピン酸 TMA;トリメリット酸 CL;ε-カプロラクトン EG;エチレングリコール NPG;ネオペンチルグリコール・・・」

<甲第2号証の記載事項>
甲第2号証には、「特許第3448927号における請求項1、5に係る発明は特開平4-353514号の実施例に記載されていること、特にポリエステル樹脂2におけるラクトン付加前の樹脂が、請求項1における「重量平均分子量が2万〜40万である」及び請求項5における「融点もしくは軟化点が180℃以下である」との要件を満たすことを証明する」との目的で行われた実験の内容及び測定結果が記載されている。
「実験の内容」について、
「撹拌機、温度計、留出用冷却器を装備した反応缶内にテレフタル酸ジメチル83質量部、エチレングリコール79.4質量部、ネオペンチルグリコール74.9質量部、テトラブチルチタネート0.068質量部を加え、180〜210℃で3時間エステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、150℃まで冷却し、次いでアジピン酸70.8質量部、無水トリメリット酸2.88質量部を添加して180〜220℃まで昇温しながら2時間エステル化反応を行った。続いて常圧から20分かけて5mmHgまで20分かけて徐々に減圧しながら、260℃まで昇温した。その後0.1mmHg以下260℃で30分間重縮合することによりポリエステル(α)を得た。重合終了後反応系を窒素で常圧に戻し、このポリエステル(α)を極少量サンプリングを行なった。さらに210℃まで窒素雰囲気下攪拌しながら冷却し、次いで210℃でε-カプロラクトン160質量部を添加して開環付加反応させてポリエステル樹脂(β)を得た。ポリエステル(β)は分子量27000、比重1.160、酸価31eq/106g、DSC分析でガラス転移温度が-33℃であり明確な融点を示さず、NMR分析によりその組成がテレフタル酸/アジピン酸/トリメリット酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール・・カプロラクトン=50/48.5/1.5//50/50・・140(モル比)であり、甲第1号証のポリエステル樹脂2と同様のポリエステル樹脂が再現出来ていることを確認した。」
と記載され、
「測定結果」として、
ポリエステル樹脂(α)について、「軟化点:27〜48℃、重量平均分子量:122,800」との測定結果を得たことが記載されている。

3-3.対比、判断
(1)本件発明1
甲第1号証には、その特許請求の範囲に、「(A)二塩基酸成分の40モル%以上が芳香族ジカルボン酸である一種類以上の低比重非晶性ポリエステル樹脂、(B)二塩基酸成分の80モル%以上が芳香族ジカルボン酸である一種類以上の高比重非晶性ポリエステル樹脂および、(C)ポリイソシアネート化合物、エポキシ基含有化合物および酸無水物から選ばれる一種類以上の硬化剤からなる・・・制振材料用粘弾性樹脂組成物」(摘示記載(1-1))が記載されており、ポリエステルの成分として、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン等の環状エステル化合物を用いてもよいこと(摘示記載(1-2))も記載されている。また実施例には、当該組成物を構成するポリエステルの製法について「各ポリエステル樹脂はテトラブチルチタネートを触媒として、エステル化反応と260℃、0.1mmHgの真空下での重縮合反応による常法により得た。なお、ポリエステル樹脂2,3,4,7は重縮合反応後、窒素ガスにより常圧にもどした後210℃でε-カプロラクトンを更に付加させて得た」(摘示記載(1-3))と記載されており、「ポリエステル樹脂2」が、「テレフタル酸/アジピン酸/トリメリット酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール・・カプロラクトン=50/48.5/1.5//50/50・・140(モル比)」の組成を有すること(摘示記載(1-4)、(1-5))が記載されている。
この実施例のポリエステル樹脂2は、テレフタル酸、アジピン酸及びトリメリット酸よりなる酸成分とエチレングリコール及びネオペンチルグリコールよりなるジオール成分を重縮合反応した後、ε-カプロラクトンを更に付加させて得られたものと解され、テレフタル酸は芳香族ジカルボン酸 、アジピン酸は脂肪族ジカルボン酸にほかならず、環状エステルであるε-カプロラクトンをポリエステルに付加させる反応を開環重合触媒の存在下で行うことは通常の技術手段にすぎない。
そうすると、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とは、ともに
「ラクトン(A)と、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分の繰り返し単位、および脂肪族ジカルボン酸成分とジオール成分の繰り返し単位を必須の構成成分として有するポリエステル(B)とを、開環重合触媒(C)の存在下に反応させることを特徴とするラクトン系共重合体の製造方法」
である点で一致するが、本件発明1における以下の点について甲第1号証には記載されていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)「(ポリエステル(B)の)重量平均分子量が2万〜40万である」点

この点について特許異議申立人は、甲第1号証の実施例を追試したものとする甲第2号証実験成績証明書を提示して、甲第1号証のポリエステル2におけるε-カプロラクトン付加前の重量平均分子量は、請求項1に規定された「2万〜40万」の範囲内である「122,800」であるとの実験結果が得られた旨主張している。
そこで、甲第2号証実験成績証明書についてみると、同証明書の「実験の内容」の項には、以下のような反応操作を行ったことが記載されている。
(イ)撹拌機、温度計、留出用冷却器を装備した反応缶内にテレフタル酸ジメチル83質量部、エチレングリコール79.4質量部、ネオペンチルグリコール74.9質量部、テトラブチルチタネート0.068質量部を加え、180〜210℃で3時間エステル交換反応を行い、
(ロ)エステル交換反応終了後、150℃まで冷却し、
(ハ)次いで、アジピン酸70.8質量部、無水トリメリット酸2.88質量部を添加して180〜220℃まで昇温しながら2時間エステル化反応を行い、
(ニ)続いて常圧から20分かけて5mmHgまで徐々に減圧しながら、260℃まで昇温し、
(ホ)その後0.1mmHg以下260℃で30分間重縮合することによりポリエステル(α)を得た
(ヘ)重合終了後反応系を窒素で常圧に戻し、ポリエステル(α)を極少量サンプリングを行なった
(ト)さらに210℃まで窒素雰囲気下攪拌しながら冷却し、
(チ)次いで210℃でε-カプロラクトン160質量部を添加して開環付加反応させてポリエステル樹脂(β)を得た

しかしながら、甲第1号証にはこれらの工程について、わずかに
「各ポリエステル樹脂はテトラブチルチタネートを触媒として、エステル化反応と260℃、0.1mmHgの真空下での重縮合反応による常法により得た。なお、ポリエステル樹脂2,3,4,7は重縮合反応後、窒素ガスにより常圧にもどした後210℃でε-カプロラクトンを更に付加させて得た」(摘示記載(1-3))と記載されているにすぎず、ポリエステル樹脂の出発原料としてどのような化合物を用いたのか、エステル化反応をどのような温度,時間で、何段階で行ったのか、エステル化反応の各段階でどのような化合物を反応させたのか、重縮合反応への移行にあたりどのように圧力を変化させたのか、重縮合反応をどのような時間で行ったのか、等の反応条件について、甲第1号証には何ら示されていない。また、甲第2号証実験成績証明書の実験におけるこれらの原料及び反応条件が、当業者が甲第1号証の実施例を追試するにあたって必然的に採用されるものであると認めるべき根拠は見出せない。
そして、これらの条件の如何によってはε-カプロラクトン付加前のポリエステルの分子量及び物性に大きな変化が生じ得ることは容易に予測し得るところというべきであり、甲第1号証に開示された範囲内であって、かつ、甲第2号証実験成績証明書で採用されたもの以外の原料及び反応条件によっても、ε-カプロラクトン付加前の甲第1号証のポリエステル2が常に本件発明1に規定された数値範囲内の重量平均分子量を示すか否かは明らかでないというべきである。
そうすると、ε-カプロラクトン付加前の甲第1号証のポリエステル2が本件発明1における(あ)のような重量平均分子量を有するものということはできない。
また、甲第1号証にはε-カプロラクトンと反応させるポリエステルを特定の分子量範囲とすべきことを教示する記載はないから、本件発明1における上記(あ)の点を当業者が容易になし得たものとすることもできない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとも、同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。

(2)本件発明2〜6
本件発明2〜6は、本件発明1を直接あるいは間接に引用して更に技術的限定を付したものであり、上記のように本件発明1が甲第1号証に記載された発明ではなく、同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2〜6も同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとも、同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-08-18 
出願番号 特願平5-296608
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08G)
P 1 651・ 113- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 佐野 整博
船岡 嘉彦
登録日 2003-07-11 
登録番号 特許第3448927号(P3448927)
権利者 大日本インキ化学工業株式会社
発明の名称 ラクトン系共重合体の製造方法  
代理人 高橋 勝利  

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