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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
管理番号 1102914
異議申立番号 異議2003-73521  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2004-08-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第3450934号「エンジン油組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3450934号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3450934号の請求項1、2に係る発明は、平成7年4月18日に特許出願され、平成15年7月11日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人押谷泰紀より特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件の請求項1、2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】鉱油系潤滑油もしくは合成系潤滑油あるいは両者の混合物からなる基油に、(A)塩基価が150mgKOH/g以上のカルシウムフェネートを10〜30重量%、及び(B)塩基価が200mgKOH/g以上のカルシウムサリシレートを2〜15重量%の割合で含有していることを特徴とするエンジン油組成物。
【請求項2】さらに、アルケニルこはく酸イミド又はその誘導体を0.5〜10重量%の割合で含有している請求項1記載のエンジン油組成物。」(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)

3.申立ての理由の概要
特許異議申立人押谷泰紀は、下記甲第1号証〜甲第3号証を提出し、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、本件発明2は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1、2に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消されるべき旨主張している。

甲第1号証:特開平2-34690号公報
甲第2号証:特開平6-184578号公報
甲第3号証:特開平5-239485号公報

4.甲号各証に記載された事項
甲第1号証について
甲第1号証は、潤滑油添加濃縮物の製造方法について記載されるものであって、その特許請求の範囲(1)には
「(1)300を越えるTBN(総塩基数)を有する潤滑油添加濃縮物の製造方法において、・・・
成分(A)、これはA(i)、A(ii)、A(iii)及びA(iv)の少なくとも2つから成り、A(i)は硫化又は非硫化のヒドロカルビル置換フェノール又はそのカルシウム塩から成り、A(ii)は硫化又は非硫化ヒドロカルビル置換サルチル酸又はそのカルシウム塩から成り、A(iii)は硫化又は非硫化ヒドロカルビル置換ナフテン又はそのカルシウム塩から成り、及びA(iv)はヒドロカルビル置換スルホン酸又はそのカルシウム塩から成り、
成分(B)、これは・・・アルカリ土類金属塩基、
成分(C)、これは(i)水、(ii)2〜4個の炭素原子を有する多価アルコール、(iii)ジ-・・・グリコール、(iv)トリ-・・・グリコール、(v)・・・モノ-又はポリ-アルキレングリコールアルキルエーテル、(vi)・・・一価アルコール、(vii)・・・ケトン、(viii)・・・カルボン酸エステル、又は(ix)・・・エーテル、である少なくとも一つの化合物、
成分(D)、これは潤滑油、
成分(E)、これは・・・二酸化炭素、
成分(F)、これはカルボン酸又は酸無水物、酸塩化物又はこれらのエステル・・・、及び
成分(G)、これは(i)無機ハロゲン化物、又は(ii)アンモニウムアルカノエイト又は・・・アルキルアンモニウムホーメイト又はアルカノエイト、・・・を・・・
反応することを特徴とする方法」と記載され、
また、(発明が解決しようとする課題)の項に、成分(A)として少なくとも二種の反応原料を使用し、また、成分(F)を使用することに関して「フェノール塩、スルホン酸塩、ナフテン酸塩、及びサリチル酸塩の混合物・・・を含む潤滑油添加濃縮物のTBNは、許容出来る粘度を保持しながら増加出来ることを突き止め、・・・一定のカルボン酸・・・の存在・・・により、油に不溶化するのを防止できることを突き止めるに至った。」と記載され(3頁左上欄末1行〜右上欄13行)、
さらに、実施例1及び実施例5に、成分(A)としてフェノール塩とサルチル酸塩を使用した例が記載されている(7頁左下欄6行〜8頁左上欄2行、及び、9頁右上欄末6行〜右下欄末3行)。

甲第2号証について
甲第2号証は、エンジン油組成物について記載されるものであって、その特許請求の範囲【請求項1】には、
「基油に、金属系清浄剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ホウ素含有無灰性分散剤、及び下記(1)もしくは(2)の化合物の一方もしくは双方が溶解もしくは分散されてなるエンジン油組成物。 (1)脂肪族アミド化合物 (2)ジチオカーバメート化合物」が記載され、
また、【発明が解決しようとする課題】の項に、「本発明の目的は、リン濃度の使用量を低減しながらも、従来レベルのジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いたエンジン油と同等もしくはより優れた耐摩耗性を示す自動車用のエンジン油(自動車用潤滑油組成物)を提供することにある。また本発明の目的は、低粘度であっても高い耐摩耗性を示す自動車用のエンジン油を提供することにある。」(段落【0007】〜【0008】)と記載され、
そして、エンジン油組成物を構成する各成分についてのより詳細な記載があり(段落【0011】〜【0022】)、その中に、金属系清浄剤について「金属系清浄剤としては、一般には金属のフェネートあるいはスルホネートが用いられる。・・・これらフェネートあるいはスルホネートはそれぞれ単独でも、あるい各種組合せても使用することができる。また、アルカリ土類金属のサリシレート、ホスホネート、ナフテネートなどの金属系清浄剤を単独に、あるいは上記のフェネートあるいスルホネートと組み合わせて用いることもできる。なお、これらの金属系清浄剤は中性型でも、あるいは塩基価が150〜300、もしくはそれ以上の過塩基性型でもよい。金属系清浄剤は、通常は、エンジン油中の濃度が0.5〜20重量%となるように配合される。」と記載されている(段落【0012】)。

甲第3号証について
甲第3号証は、陸上ディーゼルエンジン油組成物について記載されるものであって、その特許請求の範囲【請求項1】には
「・・・基油に、塩基価400mgKOH/g以下の金属型清浄剤・・・および・・・非イオン系界面活性剤・・・を含有させてなる・・・陸上ディーゼルエンジン油組成物」と記載され、
【発明が解決しようとする課題】の項には、「最近の陸上ディーゼルエンジンでは、・・・燃焼生成物である硫黄酸化合物(SOx)が増加している。・・・この多量に排出されるSOxに対して優れた腐食摩耗防止性を示すエンジン油組成物を提供する」(段落【0004】〜【0005】)と記載され、
金属型清浄剤に関して「アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属スルフォネート、過塩基性硫化カルシウムフェネート等が挙げられる」(段落【0009】)あるいは「金属型清浄剤は、中性型、あるいは・・・過塩基性であってもよい」(段落【0013】)と記載され、
本発明の潤滑油組成物に添加できるその他の添加物として、「分散剤として、アルケニルコハク酸イミド・・・等を添加することもできる」(段落【0034】)と記載されている。

5.対比・判断
(1)本件発明1について
甲第1〜2号証のいずれにも、本件発明1の構成要件である、基油に特定の塩基価を有するカルシウムフェネートと、特定の塩基価を有するカルシウムサリシレートを配合する点については、記載も示唆もされていない。
即ち、甲第1号証には、成分(A)のうち、A(i)としてカルシウムフェネートが、A(ii)としてカルシウムサリシレートが開示されているが、これらは他の成分(B)〜(F)と反応させて潤滑油添加濃縮物とするものであって、カルシウムフェネートとカルシウムサリシレートとの両者が併用され基油に配合されているのではなく、かつ、これらを併用して基油に配合することを示唆するものでもない。
また、甲第2号証には、金属系清浄剤として、フェネート、スルホネートが単独でも、組み合わせても用いられる旨記載され、また、サリシレート、ホスホネート、ナフテネートも単独であるいはフェネート、スルホネートと組み合わせて用いることもできる旨記載されているが、ここで、カルシウムフェネートとカルシウムサリシレートとを積極的に併用すると解し得る記載はなく、また、ここで開示されるフェネート、サリシレートは、中性型から過塩基性型までの広汎な塩基価のものであって特定の塩基価のものではないのであるから、甲第2号証には、特定の塩基価を有するフェネートと特定の塩基価を有するサリシレートを組み合わせることは記載も示唆もされていない。さらに、特定の清浄剤を選択して組み合わせることで、低温での流動性が向上する旨の記載もない。
かつ、甲第1号証、及び、甲第2号証の記載を組み合わせてもこの点は導き出せない。
なお、甲第3号証の記載を組み合わせてもこの点は導き出せない。
そして、本件発明1は、この点により、向上した流動性と、高い清浄性と、耐摩耗性とを有するという明細書の【発明の効果】に記載の優れた効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用して記載されており、本件発明1のエンジン油組成物に、アルケニルこはく酸イミド又はその誘導体がさらに添加されているものであるところ、甲第1〜3号証の記載を考慮しても、本件発明1及び2の構成要件にある、基油に特定の塩基価のカルシウムフェネートと特定の塩基価のカルシウムサリシレートを配合する点が導き出せないことは「(1)本件発明1について」の項で判断したとおりである。
したがって、本件発明2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許異議申立人の主張について
異議申立人は、甲第1号証の請求項1の「成分(A)」にA(i)とA(ii)も選択肢の一つとして記載され、両者が併用された例である実施例1、5が記載され、さらに、成分(D)の具体的な材料名(5頁左下欄3行〜末5行)、あるいは、反応後に濾過処理するに当たって濾過を容易にするために潤滑油で希釈すること(7頁左上欄8行〜11行)、船舶潤滑油あるいは自動車エンジン潤滑油として使用する際のTBN(総塩基数)(7頁左上欄末6行〜右上欄6行)に関する記載もあることを摘示して、本件発明1は、甲第1号証の、潤滑油基油に添加剤としてA(i)とA(ii)とを選択して、実施例1、5に記載される程度の配合量で添加したエンジンオイル油組成物の、その低温流動性を確認したに過ぎないものである旨主張している。
しかしながら、甲第1号証に記載される生成物は、本件発明1で基油に配合する(A)成分とも、(B)成分とも異なる物質で、また、二種の物質の混合物でもないから、この主張は妥当なものではない。
また、異議申立人は、本件発明1は、エンジンオイル油組成物に係る甲第2号証の発明において、その段落【0012】の記載中のカルシウムフェネートとカルシウムサリシレートの塩基価及び濃度を適宜調整し、低温流動性が良好であるという効果を確認したに過ぎないものである旨の主張もしているが、該主張が当を得ていないことは先に判断したとおりである。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、2についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1、2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1、2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-08-03 
出願番号 特願平7-115316
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
佐藤 修
登録日 2003-07-11 
登録番号 特許第3450934号(P3450934)
権利者 株式会社コスモ総合研究所 コスモ石油株式会社
発明の名称 エンジン油組成物  

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