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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B01D
管理番号 1102927
判定請求番号 判定2003-60094  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1995-04-13 
種別 判定 
判定請求日 2003-11-20 
確定日 2004-09-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3040478号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「スラリー処理用プラントの操作方法」は、特許第3040478号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件請求は、平成16年8月9日付け回答書に添付された本件方法説明書及び本件方法説明図に示されるスラリー処理用プラントの操作方法(以下、「イ号方法」という)が、特許第3040478号の請求項1乃至請求項8に係る特許の技術的範囲に属しないとの判定を求めるものである。

2.本件特許発明
本件特許発明は、特許第3040478号の特許明細書(以下、「本件特許明細書」という)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至請求項8に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明を、構成毎に符号を付して分説すると、次のとおりのものである。
(A)スラリーを濾過するためのフィルタプレス(1)と、前記フィルタプレス(1)に設けられたフィルタプレート(3)と、スラリーを供給するための供給ライン(7)と、濾過液を排出するための濾過液ライン(15)を備えたスラリー処理用プラントの操作方法であって、
(B)フィルタケークを製造及び乾燥するために、懸濁液をフィルタプレス(1)に供給して濾過し、
(C)上限圧力200ミリバール以下に減圧したフィルタプレス(1)内の圧力によってフィルタケークを乾燥し、フィルタプレート(3)の温度を少なくとも下限温度40℃以上に保ち、
(D)圧力と温度を制御することにより、フィルタケークの熱可塑相を回避する
(E)ことを特徴とする、スラリー処理用プラントの操作方法。

3.イ号方法
これに対して、イ号方法は、本件方法説明書及び本件方法説明図の記載に基いてイ号方法の構成を本件発明の分説に対応するように分説すると、次のとおりである。
(a)上水汚泥のスラリーを濾過するためのフィルタプレスと、前記フィルタプレスに設けられたフィルタプレートと、前記スラリーを供給するための供給ラインと、濾過液を排出するための濾過液ラインを備えたスラリー処理用プラントを使用する方法である
(b)フィルタケークを製造及び乾燥するために、前記スラリーを前記フィルタプレスに供給して濾過する
(c)(b)のろ過工程後において、圧力20〜200ミリバールの範囲内の一定の圧力に減圧したフィルタプレス(フィルタプレート)内の減圧圧力に保ち、フィルタプレートの温度を60〜90℃の範囲内の一定の加熱温度に保つことにより、フィルタケークを乾燥し
(d)(c)の乾燥操作の開始から終了まで、予め設定した一定の減圧圧力及び一定の加熱温度に維持する
(e)上記のスラリー処理用プラントの操作方法である。

4.対比・判断
4-1.構成(A)、(B)、(E)について
イ号方法において用いるスラリー処理用プラントの構成からみて、イ号方法の構成(a)に記載された「フィルタプレス」、「フィルタプレート」、「供給ライン」及び「濾過液ライン」は、本件特許発明の構成(A)に記載された「フィルタプレス(1)」、「フィルタプレート(3)」、「供給ライン(7)」及び「濾過液ライン(15)」に、それぞれ相当し、イ号方法における「上水汚泥のスラリー」は「スラリー」の一種であり、本件特許発明の構成(B)における「懸濁液」が、フィルタプレスで濾過される「スラリー」であることは明らかであるから、イ号方法は、構成(a)、(b)及び(e)から明らかなように、本件特許発明の構成(A)、(B)及び(E)を充足する。
4-2.構成(C)について
イ号方法における構成(c)は、(b)のろ過工程後において、圧力20〜200ミリバールの範囲内の一定の圧力に減圧したフィルタプレス(フィルタプレート)内の減圧圧力に保ち、フィルタプレートの温度を60〜90℃の範囲内の一定の加熱温度に保つことにより、フィルタケークを乾燥するものであるが、圧力20〜200ミリバールの範囲内の一定の圧力に減圧したフィルタプレス(フィルタプレート)内の減圧圧力に保つ工程は、本件特許発明の構成(C)の、フィルタプレス内を「上限圧力200ミリバール以下に減圧」する工程を充足するものであり、フィルタプレートの温度を60〜90℃の範囲内の一定の加熱温度に保つ工程は、本件特許発明の構成(C)の、「フィルタプレートの温度を少なくとも下限温度40℃以上に保つ」工程を充足するものであり、かつ、イ号方法も、上記フィルタプレス内の圧力及びフィルタプレートの温度によりフィルタケークを乾燥するものであるから、イ号方法は、本件特許発明の構成(C)を充足する。
4-3.構成(D)について
本件特許明細書の「本発明は請求の範囲第1項前文に記載のスラリー処理用プラントの操作方法に関し、いわゆる熱可塑相の形成を回避することを目的としたスラリー処理用プラントの操作方法に関する。」(特許第3040478号公報(請求人が提出した甲第2号証)第2頁第3欄第21行〜第24行)、「多くの場合、フィルタプレス内に形成されるスラリー中の浮遊物からなるフィルタケーク(濾滓)は、さらに次の処理、特に乾燥処理を受ける。…(中略)…特に、フィルタプレスからのフィルタケークの除去は、しばしば深刻な問題をもたらす。すなわち、フィルタケーク内で、乾燥工程中に、いわゆる熱可塑相の形成が生じることがある。このケークは、ビスコースのような様相を有し、きわめて粘着性の高い物質であり、フィルタが使えるようにその布から引き剥がすのに困難を伴うものである。」(特許第3040478号公報第2頁第3欄第38行〜第4欄第2行)、「さもないとフィルタケーク50は熱可塑性相または膠相に入り、のり状の軟度を呈して塊状になってフィルタプレート3に粘着するようになるからである。」(特許第3040478号公報第4頁第8欄第32行〜第35行)という記載からみて、本件特許発明の構成(D)は、フィルタプレスにおける乾燥工程中の「フィルタケークの熱可塑相」の形成を回避することを目的として、圧力と温度を制御することを意味すると解される。
なお、「フィルタケークの熱可塑相」とは、上記本件特許明細書の記載からみて、フィルタプレスの乾燥工程中に、フィルタケーク内に形成される、きわめて粘着性の高い物質であり、フィルタが使えるようにその布から引き剥がすのに困難を伴うものであって、のり状の軟度を呈して塊状になってフィルタプレートに粘着するようなものである。
一方、イ号方法は、「上水汚泥のスラリー」をフィルタプレスで濾過し、フィルタケークを乾燥するため、「乾燥操作の開始から終了まで、予め設定した一定の減圧圧力及び一定の加熱温度に維持する」ものである。
ここで、「予め設定した一定の減圧圧力及び一定の加熱温度に維持する」ことは、フィルタプレス内の圧力及びフィルタプレートの温度を制御することに他ならず、かつ、イ号方法において、「フィルタケークの熱可塑相」が生じていることを証する証拠は見あたらない。
したがって、イ号方法は、本件特許発明の構成(D)のうち「圧力と温度を制御する」点を充足し、「フィルタケークの熱可塑相を回避する」点も充足している。
ところが、上記のとおり、本件特許発明の構成(D)は、フィルタプレスにおける乾燥工程中の「フィルタケークの熱可塑相」の形成を回避することを目的として、圧力と温度を制御することを意味すると解されるから、以下、イ号方法において「圧力と温度を制御する」ことが、「フィルタケークの熱可塑相」を回避することを目的としているか否かについて検討する。
イ号方法は、フィルタープレスで濾過する「スラリー」を「上水汚泥のスラリー」に限定するものであり、当該「上水汚泥のスラリー」についてみると、一般に、「上水汚泥」とは、請求人が提出した甲第4号証の「汚でい処理の問題は、下水、し尿等では、その性質上昔から十分考慮され、その処置がなされてきた。したがってその方法も、かなり進歩してきている。一方、上水道、工業用水道において、沈でん池にたい積する汚でいは、その成分のほとんどが無機質であり、またその量が少なかったため、そのまま河川に放流されるか、せいぜい天日乾燥されているにすぎなかった。しかるに今日、取水河川の水質汚濁が著しく、かつ水需要が増加するにしたがって発生する汚でい量も増大し、これを天日乾燥で処理しようとすると、膨大な敷地を必要とするため、現状のような立地条件では困難である。」という記載(第17頁左欄第2行〜第12行)からみて、上水道、工業用水道において、沈でん池にたい積する汚泥のことであり、その成分のほとんどが無機質のものと解される。
そして、イ号方法における構成(a)の「上水汚泥のスラリー」は、そのような「上水汚泥」のスラリーと解することができるが、当該「上水汚泥のスラリー」について、被請求人は、乙第1号証乃至乙第6号証を提出し、今日において「上水汚泥のスラリー」には多くの有機物が含まれており、かかる「上水汚泥のスラリー」を処理すれば、熱可塑相が形成されることがある旨主張している。
そこで、上記乙第1号証乃至乙第6号証の記載内容を順次みてゆくと、乙第1号証乃至乙第6号証には、以下の事項が記載されている。
(1)乙第1号証の記載事項
(1-1)「第3章 下水と下水汚泥による水系と土壌への影響
3.1 下水流入による水系への影響
下水処理には、浄化能力によって人の生活圏から公共用水域へ排出される汚濁負荷を消滅または軽減させる役目がある。したがって、下水処理法の効率を正しく評価するには、公共用水域がどの汚濁物質によって、どのように負荷を受けているかを評価しなければならない。」(第18頁第1行〜第7行)
(1-2)「都市下水中には沈降性物質が平均250mg/l含まれているが、この沈降性物質は湖沼の底に沈み、汚泥層の中で好気的または嫌気的に分解される。このため、深水層の酸素バランスが負荷となり、バルキング汚泥で汚泥分離などによって沈降性汚泥の除去が不十分であると、下水放流箇所(特に湖沼)で大きな負荷をかけることになる。」(第20頁第4行〜第8行)
(1-3)「人間は、昔から放流水域の近くに住居地区、家内工業地区、工業地区を設けてきた。これは、河川が飲料水や使用水の運び手であり、物資運搬の利便性や廃棄物の処分に利用できるからである。ところが居住地区の拡大に伴い、下水中の酸素消費物質(BOD5)が多くなり、水域での酸素消費量が自然の攪拌速度では補給できなくなった。つまり、酸素が最高限度まで使われた結果、水域は嫌気性に変わり、このため魚類の死による腐敗プロセスが進行し、全ての好気的動植物の死という結果になるのである。」(第24頁第6行〜第12行)
(2)乙第2号証の記載事項
(2-1)「本書は公害防止管理者のうち、最大の部門となっている水質部門の国家試験を受験される方々のための参考書として編纂したものです。当試験の概要は以下の通りです。」(第iii頁第16行〜第18行)
(2-2)「問題12
湖沼の栄養負荷に関する正しい記述の組合せはどれか。
(ア)窒素は硝化と脱窒の作用でその一部が大気中に放散されるが、燐は湖沼中に蓄積されやすい。
(イ)水温が上昇する夏期には、湖沼中に溶存している窒素や燐は急速に増加する。
(ウ)藻類が異常に発生した湖沼の水は、浄水処理過程で沈降不能やろ過障害を起こすことがある。
(エ)植物プランクトン量の指標には、溶解性鉄が用いられる。
(1)(ア、イ) (2)(ア、ウ) (3)(ア、エ) (4)(イ、ウ) (5)(ウ、エ) (1,3種)
解説
(ア)窒素化合物の一部は硝化と脱膣で窒素ガスとなって空中に放散する。りんはそのようなことがなく蓄積する。正しい。(イ)夏期には窒素、りんとも植物プランクトンの増殖に多く摂取されて減少する。誤り。(ウ)富栄養湖でよくみられる現象。正しい。(エ)植物プランクトン量の指標には緑色植物が共通して持つ色素のクロロフィルa(葉緑素)を用いる。誤り。したがって、正しい組合せは(2)。 答(2)」(第9頁)
(3)乙第3号証の記載事項
霞ヶ浦を水源とする浄水場の原水及び脱水ケーキの試験結果が記載されている。
(4)乙第4号証の記載事項
フィルタプレスにて有機分を含む懸濁液を脱水、乾燥した過程で生じた「熱可塑相」の写真が開示されている。
(5)乙第5号証の記載事項
(5-1)「図5・12には、高分子濃厚溶液の分子間相互作用を示した。せん断応力Sは(a)→(b)→(c)と少しずつ増大してゆくが、この程度の変化では(a)、(b)、(c)三者間には、A、B分子間の相互作用の変化はほとんど見られない。この場合には、たとえ高分子濃厚溶液でも、SとDとの関係は直線的に変化し、ニュートン流動を示すのである。ところが(c)→(d)→(e)と変化してゆくと、つまり、せん断応力Sがさらに増大してゆくと、A、B分子間の高分子鎖のからみ合い形態に次第に変化が生じ、A、B間の相互作用は次第に弱まって変化してゆく。」(第69頁第1行〜第15行)
(5-2)「同様なことが図5・11(a)のコロイド溶液、サスペンジョン溶液の場合にもいえる。つまり、これらのS-D関係は、図5・7の直線とは異なり、図5・13(a)の実線のような、上に凹の二次曲線となる。したがって(b)に示した実線のように、Sの増加に伴って粘度ηは漸減してゆく。これは図5・12で明らかなように、液体の構造中に著しい変化が起こったからであり、このような粘性は構造粘性と呼ばれ、このような挙動をチキソトロピーという。」(第69頁第16行〜第70頁第7行)
(6)乙第6号証の記載事項
(6-1)「「構造粘性について」
濃厚な懸濁液は、粒子間に何らかの相互作用が働く場合、ある種の構造を形成し大きな粘性を示すとともに、剪断とともにその構造が変化するため複雑な流動特性を示すことが多い。これを構造粘性という。特に、高分子状物質(セルロース、タンパク質などの天然有機分やポリエチレンなど人工高分子化合物)が含まれていると、これを架橋として粒子同士が結びついた構造を形成して強い非ニュートン性を示すようになり、非常に粘着性が高い状態になることがある。また、固体粒子濃度が高くなると、さらに粘度は大きくなる。
本特許(特許第3040478号)のページ(2)左側の下から5行目「特に、フィルタプレスからのケークの除去は、しばしば深刻な問題をもたらす。すなわち、フィルタケーク内で乾燥工程中に、いわゆる熱可塑相の形成が生じることがある。このケークはビスコースのような様相を有し、きわめて粘着性の高い物質であり、フィルタが使えるようにその布から引き剥がすのに困難を伴うものである。」とある。これは上記の構造粘性を示しているものと考えられる。」(第1行〜第14行)

ところが、たとえば乙第1号証乃至乙第3号証には、「上水汚泥のスラリー」が、多少の有機物質を含むことは記載されているものの、上記乙第1号証乃至乙第6号証には、当該「上水汚泥のスラリー」が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成することは記載も示唆もされていない。
すなわち、乙第1号証には、(1-1)乃至(1-3)の記載からみて、下水と下水汚泥による湖沼や河川への影響について、乙第2号証には、(2-1)及び(2-2)の記載からみて、湖沼の栄養負荷について、それぞれ記載されており、これらの記載からみて、乙第1号証及び乙第2号証には、湖沼や河川の水が、有機物質を含む種々の物質により汚染され得ることが開示されていると云える。
また、そのような湖沼や河川の水が上水道や工業用水道に用いられることも明らかであるから、上記湖沼や河川の水は「上水汚泥のスラリー」と云い得るものであるが、上記乙第1号証及び乙第2号証には、当該湖沼や河川の水が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成することは記載されていないから、仮に、湖沼や河川の水が「上水汚泥のスラリー」と云え、かつ有機物質を含むものであるとしても、上記乙第1号証及び乙第2号証の記載から、直ちに、「上水汚泥のスラリー」が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成すると云うことはできない。
乙第3号証には、霞ヶ浦を水源とする浄水場の原水及び脱水ケーキの試験結果が記載されており、浄水場の原水は、上水道や工業用水道に用いられるものであるから、「上水汚泥のスラリー」と云い得るものである。
ところが、当該試験は、上記原水及び脱水ケーキのVTS等を測定しているに過ぎず、そのような測定値は、当該原水及び脱水ケーキが有機物質を含むことを示唆するものではあるが、上記原水及び脱水ケーキがフィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成することを直接的に示すものではない。
故に、仮に、上記浄水場の原水が「上水汚泥のスラリー」と云え、また、脱水ケーキが「上水汚泥のスラリー」の脱水ケーキと云え、かつ、これらが有機物質を含むものであるとしても、上記試験結果から、直ちに、「上水汚泥のスラリー」が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成すると云うことはできない。
乙第4号証には、有機分を含む懸濁液を脱水、乾燥した過程で生じた「熱可塑相」の写真が記載されているが、上記乙第4号証には、上記有機分を含む懸濁液が「上水汚泥のスラリー」であることは記載されていない。
乙第5号証及び乙第6号証には、(5-1)、(5-2)の記載及び(6-1)の記載からみて、高分子濃厚溶液及び濃厚な懸濁液の粘性挙動、すなわち構造粘性に関して記載されており、特に乙第6号証には、本件特許明細書の「特に、フィルタプレスからのフィルタケークの除去は、しばしば深刻な問題をもたらす。…このケークは、ビスコースのような様相を有し、きわめて粘着性の高い物質であり、フィルタが使えるようにその布から引き剥がすのに困難を伴うものである。」(特許第3040478号公報第2頁第3欄第46行〜第4欄第2行)という記載は、上記の構造粘性を示しているものと考えられることが記載されているが、上記乙第5号証及び乙第6号証には、「上水汚泥のスラリー」が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成することは記載されておらず、かつ、「上水汚泥のスラリー」が、それら高分子濃厚溶液及び濃厚な懸濁液に相当するものであることも記載されていない。
そうすると、上記乙第5号証及び乙第6号証の記載から、直ちに、「上水汚泥のスラリー」が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成すると云うことはできない。
また、乙第1号証乃至乙第3号証に記載された湖沼や河川の水及び霞ヶ浦を水源とする浄水場の原水が、「上水汚泥のスラリー」と云えるものであるとしても、これらが乙第5号証及び乙第6号証に記載された高分子濃厚溶液及び濃厚な懸濁液に相当するものであることを示す証拠もないから、乙第1号証乃至乙第6号証の記載を俯瞰してみても、「上水汚泥のスラリー」が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成することが明らかであると云うことはできない。
そして、このことに照らして、イ号方法において「圧力と温度を制御する」ことが、「フィルタケークの熱可塑相」の形成を回避することを目的としているか否かについて検討すると、「上水汚泥のスラリー」が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成すると云えないのであれば、たとえイ号方法が「フィルタケークの熱可塑相」の形成を回避するものであったとしても、そのような「フィルタケークの熱可塑相」の回避を、フィルタプレス内の圧力とフィルタプレートの温度を制御することによって達成しているのか、濾過するスラリーをもともと有機物質の含有量が少ない「上水汚泥のスラリー」に限定することにより達成しているのかは不明という他ない。
そうすると、イ号方法が、フィルタプレスにおける乾燥工程中の「フィルタケークの熱可塑相」の形成を回避することを目的として圧力と温度を制御するものであると、必ずしも云うことはできないから、イ号方法が本件特許発明の構成(D)を充足すると云うこともできない。
要するに、イ号方法が通常濾過対象とする「上水汚泥のスラリー」が、フィルタプレスにおける乾燥工程中に「フィルタケークの熱可塑相」を形成することを証する証拠が存在しない以上、イ号方法は、本件特許発明の構成(D)を充足するとは云えないのである。
更に、本件請求項2乃至請求項8に係る発明は、請求項1を直接乃至間接的に引用する発明であるから、イ号方法が請求項1に係る発明の特許の技術的範囲に属すると云えない以上、請求項2乃至請求項8に係る発明の特許の技術的範囲にも属すると云えない。

5.むすび
以上のとおり、イ号方法は本件特許発明の構成要件を備えるものではないから、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。

 
判定日 2004-09-01 
出願番号 特願平6-511482
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大黒 浩之  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 野田 直人
金 公彦
登録日 2000-03-03 
登録番号 特許第3040478号(P3040478)
発明の名称 スラリー処理用プラントの操作方法  
代理人 亀谷 美明  
代理人 永井 義久  

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