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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1104090
審判番号 不服2001-10327  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-10-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-06-19 
確定日 2004-10-01 
事件の表示 平成 7年特許願第529302号「共振センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年11月23日国際公開、WO95/31693、平成10年10月13日国内公表、特表平10-510620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年9月29日[パリ条約による優先権主張(外国庁受理)1994年5月17日、ドイツ国]を国際出願日とする出願であって、平成13年3月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成13年6月19日に審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成13年6月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成13年6月19日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の発明
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、そのうち請求項1を
「1.検査対象の対象物の表面の少なくとも2つの物理的な値を決定するための振動体(10)を有する共振センサにして、前記振動体(10)は、少なくとも第1の部分構成体及び第2の部分構成体(1、2)を含み、第1の部分構造体(1)はその一端が固定的に取付けられた片持ち梁構造であって、第2の部分構造体はその他端が第1の部分構造体の他端に固定的に取付けられた片持ち梁構造であって第2の部分構造体の一端側にはセンサが取付けられた構造をなし、前記振動体を励起させ、前記振動体の基本共振振動数において、第1の部分構造体の前記一端を固定端として前記振動体振動させて、前記センサにより第1の物理的な値を測定し、第2の部分構成体(2)を前記振動体の励起と独立に励起させ、前記第2の部分構成体の基本共振振動数において、第2の部分構成体の前記一端を固定端として第2の部分構成体を振動させて、前記センサにより第2の物理的な値を測定し、前記センサによる第1及び第2の物理的な値の測定はそれぞれ、第1及び第2の部分構成体の個々の共振周波数により振動させて測定させているため、高い感度で行われることを特徴とする共振センサ。」
と補正しようとするものである。
前記補正において、「共振センサ」と「センサ」と「前記センサ」という表現があって、紛らわしいが、「共振センサ」は「振動体(10)を有する共振センサ」のことであり、「センサ」は「第2の部分構造体の一端側にはセンサが取り付けられ」という記載で配置位置が特定されるセンサであって、具体的には「センシング・プローブとしての鋭い先端部21」のことであり、「前記センサ」はいずれも「センサ」すなわち「センシング・プローブとしての鋭い先端部21」のことであると認める。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平6-26855号公報(以下、「引用例」という)には次のことが記載されている。
引用例
「【0015】【課題を解決するための手段】試料上で原子間力と表面電位の両方の測定を行なう原子間力顕微鏡は、ある第一の機械的共振周波数を示す第一部分と、異なった第二の機械的共振周波数を示す第二部分との2つの部分から成る導電性プローブ・ビームを備えている。……」、
「【0016】【実施例】図1において、AFMプローブ・ビーム12は、機械的共振周波数f1を示す第一部分14を有している。より小さな断面および小さな質量を有する第二部分16は、より高い共振周波数f2 を示し、プローブ・チップ18を持つ。プローブ・ビーム12は、導電性であり、PZT(チタンジルコン酸鉛)アクチュエータ20により駆動されるように取り付けられている。……」、
「【0017】
PZTアクチュエータ20は、好適には、発振器30から周波数f1の信号が供給されるバイモル・アクチュエータである。PZTアクチュエータ20は、このように第一部分14の共振周波数f1 で、矢印32で示される垂直方向にビーム12を往復運動させる。往復運動は、第一部分14と第二部分16に周波数f1で共振を引き起こす。発振器34は、周波数f2の信号をプローブ・ビーム12に直接与える。さらに、可変DC源36は、DC電圧をプローブ・ビーム12に供給する。」、
「【0019】図1に示されるプローブ・ビーム装置の利点は、プローブ・ビーム12の2つの振動周波数が分離され、別々に制御できることである。周波数f1でのプローブ・ビーム12の振動は、PTZアクチュエータ20に与えられる信号により直接制御される。第二部分16は周波数f1で振動するが、プローブ・チップ18と表面26との間に電位差が存在する限り周波数f2でも振動する。電位差が零のとき、第二部分16の運動は厳密にはPZT20の動作の関数となる。このように、第二部分16の運動を適切に監視することにより、2つの共振周波数f1とf2を検出し分離して、AFMにおいて独立の現象検出機能を実行できる。」、
「【0020】図2は、図1の装置のAFM制御機構を備えた装置のブロック図を示す。レーザ干渉計40は、第二部分16上に光ビーム42をフォーカスし、反射光ビーム44の位相変化によりその振動を検出する。レーザ干渉計40において、反射光ビーム44が検出され、第二部分16の振動を示す電気信号が得られる。上述したように、それらの信号は、DC電位差が第二部分16と試料28の表面26との間に存在する場合に、両方の周波数f1 とf2 を持っている。」、
「【0021】レーザ干渉計40は、RF電子モジュール46にその出力を与える。……。RF電子モジュール46からの出力は、周波数f1 とf2 の両方の成分を持った信号波形である。その出力は、1対のロックイン増幅器48と50に供給される。また周波数f1の発振器52と周波数f2の発振器54からの信号は、入力としてそれぞれロックイン増幅器48と50に与えられる。ロックイン増幅器は、既知のようにして、振幅が周波数f1の振動振幅に依存する正または負のDC電圧を生成する。その結果、もしロックイン増幅器への帰還f1信号成分の振幅が変化するならば、その出力の振幅に比例して変化する。」、
「【0022】積分器/インバータ56は、ロックイン増幅器の出力を滑らかにし、反転し、加算器60に1つの入力として供給する。発振器52からのf1信号も、加算器60に供給される。その結果、PZTアクチュエータ20への帰還信号の値は、ロックイン増幅器48への2つの入力信号間の振幅変化を修正し、既知のようにしてプローブ・ビーム12の安定化を達成をするように変化する。積分器/インバータ56からの出力信号は、試料28のトポグラフィの表示としてライン62を経て得られる。」、
「【0023】ロックイン増幅器50と積分器/インバータ58は、発振器54から出力されるf2信号エネルギーに対する以外は、上述したと同様に動作する。積分器58は、ロックイン増幅器50の出力を滑らかにし、反転する。その結果、ライン64の電位は、RF電気モジュール46の出力中のf2 信号成分の振幅変化に比例する反転DC電位になる。このDC電位は、発振器54からのf2 信号とともに、加算器66に与えられる。これらの信号は、加算器66で加算され、帰還信号としてプローブ・ビーム12に与えられ、f2 振動を制御する。」、
「【0024】もしプローブ・ビーム12のDC電位が試料28の表面電位より大きいならば、第二部分16の振動は発振器54から与えられたf2 信号の位相を進ませ、反対に小さければ遅らせる。このように帰還装置は、積分器/インバータ58からの帰還DC電位をゆっくりと変化するように調整して、プローブ・ビーム12上のDC電位が、試料28上の表面電位に等しくなるように連続的に調整する。」、
「【0025】……帰還DC電位(ライン70に与えられる)は、試料28上の表面電位に直接関係する。」、
が記載され、図1をみると、AFMプローブビームは片持ち梁であって、図1で左側端部付近で固定的に取り付けられるものであり、プローブ・チップ18が設けられている位置が第二部分16の一端であることも明かである。

(3)対比
本願補正発明と引用例に記載の発明とを比較すると、引用例発明における「プローブ・ビーム12」「第一部分14」、「第二部分16」、「プローブ・チップ18」がそれぞれ、本願補正発明における「振動体(10)」、「第1の部分構成体(1)」、「第2の部分構成体(2)」、「第2部分構成体の一端側に取り付けられたセンサ」に相当し、引用例明細書の「【0019】図1に示されるプローブ・ビーム装置の利点は、プローブ・ビーム12の2つの振動周波数が分離され、別々に制御できることである。周波数f1でのプローブ・ビーム12の振動は、PTZアクチュエータ20に与えられる信号により直接制御される。……」の記載は、振動周波数f1と振動周波数f2をそれぞれ独立に制御できることを意味しているから、引用例発明で「共振周波数f1」、「共振周波数f2」、「PZTアクチュエータ20で、第一部分14の一端を固定端として、共振周波数f1で往復運動させて、プローブビーム12に周波数f1で共振を引き起こさせる」、「発振器34で、周波数f2の信号をプローブ・ビーム12に直接与え、プローブ・チップ18と表面26との間に電位の差があるときに、共振周波数f2で第二部分16に振動が生じるようにさせる」がそれぞれ、本願補正発明の「振動体の基本共振振動数」、「第2の部分構成体の基本共振振動数」、「振動体の基本共振振動数において、第1の部分構造体の前記一端を固定端として振動体10を振動させる」、「第2の部分構成体(2)を前記振動体の励起と独立に励起させ、前記第2の部分構成体の基本共振振動数において、第2の部分構成体の前記一端を固定端として第2の部分構成体を振動させる」ことに相当し、引用例発明は、プローブ・ビーム12にPZTアクチュエータ20で共振周波数f1を与えるとともに、発振器34で、周波数f2の信号をプローブ・ビーム12に直接与えることで、プローブビームの振動から2つの共振周波数f1、f2の両方の成分を持った信号波形を得て、それを分離した際、周波数f1に係る成分のものからトポグラフィカルな測定を行い、周波数f2に係る成分のものから試料の表面電位の測定を行っており、それら測定はプローブ・チップ18によっているものであることも明らかであり、引用例発明の「トポグラフィカルな測定で得る物理的な値」、「試料表面電位の測定で得る物理的な値」がそれぞれ、本件補正発明の「第1の物理的な値」、「第2の物理的な値」に相当するから、両者は、
「検査対象の対象物の表面の少なくとも2つの物理的な値を決定するための振動体(10)を有する共振センサにして、前記振動体(10)は、少なくとも第1の部分構成体及び第2の部分構成体(1、2)を含み、第1の部分構造体(1)はその一端が固定的に取付けられた片持ち梁構造であって、第2の部分構造体はその他端が第1の部分構造体の他端に固定的に取付けられた片持ち梁構造であって第2の部分構造体の一端側にはセンサが取付けられた構造をなし、前記振動体を励起させ、前記振動体の基本共振振動数において、第1の部分構造体の前記一端を固定端として前記振動体振動させ、第2の部分構成体(2)を前記振動体の励起と独立に励起させて、前記センサにより第1の物理的な値および第2の物理的な値を測定することを特徴とする共振センサ。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点
本願補正発明は、振動体の基本共振振動数において、振動体を振動させて、第1の物理的な値を測定し、第2の部分構成体(2)を励起させ、前記第2の部分構成体の基本共振振動数において、第2の部分構成体を振動させて、第2の物理的な値を測定し、第1及び第2の物理的な値の測定はそれぞれ、第1及び第2の部分構成体の個々の共振周波数により振動させて測定させているため、高い感度で行われるものであるのに対し、引用例発明は、その実施例に、振動体(引用例では「プローブ・ビーム12」)を基本共振振動数f1で振動させるとともに、第2の部分構成体(2)(引用例では「第二部分16」)を励起させ、前記第2の部分構成体の基本共振振動数f2において、第2の部分構成体(2)を振動させて、これにより周波数f1とf2の両方の成分を持った信号波形を得てこれらを分離してから、第1及び第2の物理的な値を得ることが記載されているものである点。

(4)判断
前記相違点について検討すると、
引用例発明は、振動数f1での振動制御と、振動数f2での振動制御をそれぞれ独立して行うことができるものであるから、その2つの振動制御を分けて行うことが可能な共振センサ装置であって、プローブ・ビーム12をアクチュエータで振動数f1で振動制御して、第1の物理的な値を得、次いで、このアクチュエータを停止してから、第二部分16を励起させ、振動数f2において、第2の部分構成体を振動させて、第2の物理的な値を得るようにすることは、当業者が容易になしうることである。そうすることで高い感度で測定が行われるという出願人主張の効果は、予想範囲内のものに過ぎない。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成13年6月19日付けの手続補正は上記のように却下された。したがって、本願の平成12年3月29日付けの手続補正書により特定される本願の請求項1の記載は以下の
「1.少なくとも2つの物理的な値を決定するための振動体(10)を有する共振センサにして、前記振動体(10)は少なくとも第1及び第2の部分構造体(1,2)を含み前記振動体を励起させ、全体の前記振動体の基本共振振動数において振動させて第1の物理的な値を測定し、第1の部分構成体を前記励起と独立に励起させ、前記第1の部分構成体の基本共振振動数において振動させて第2の物理的な値を測定するように配置されていることを特徴とする共振センサ」
であるが、この記載で「第1の部分構成体を前記励起と独立に励起させ、前記第1の部分構成体の基本共振振動数において振動させて第2の物理的な値を測定する」は、明細書および図面の記載からみて、「第2の部分構成体を前記励起と独立に励起させ、前記第2の部分構成体の基本共振振動数において振動させて第2の物理的な値を測定する」の誤記であることが明かであるので、誤記を正しく読み替えたものが本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)と認める。

(1)引用例
本願発明について原査定の拒絶の理由に前記引用例が引用されており、引用例の記載事項は前記「2.(2)」に記載したとおりのものである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、物理的な値を決定する対象が、「対象物の表面」であるという限定、第1の部分構造体(1)が「その一端が固定的に取付けられた少なくとも片持ち梁構造である」という限定、第2の部分構造体が「その他端が第1の部分構造体の他端に固定的に取付けられた片持ち梁構造であって、第2の部分構造体の一端側にはセンサが取付けられた構造である」という限定、振動体を基本振動数において振動させるのに「第1の部分構造体の前記一端を固定端として振動させる」という限定、第1及び第2の測定が、「高い感度で行われる」という限定、に係る構成をすべて省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに上記限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、上記限定を欠く本願発明は、当然に、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 上記のとおり、本願発明が特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-04-27 
結審通知日 2004-05-11 
審決日 2004-05-25 
出願番号 特願平7-529302
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
P 1 8・ 575- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本郷 徹郡山 順▲高▼見 重雄山口 剛  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 菊井 広行
長井 真一
発明の名称 共振センサ  
代理人 市位 嘉宏  
代理人 坂口 博  
代理人 渡部 弘道  

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