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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1104100
審判番号 不服2001-7372  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-09-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-05-07 
確定日 2004-09-30 
事件の表示 平成 6年特許願第 37004号「記録システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 9月19日出願公開、特開平 7-242050〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年3月8日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成12年4月17日付け手続補正書及び平成16年3月8日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「インクジェット記録装置とそれに使用される記録紙とを含む記録システムであって、インクとしてイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色のインクを使用し、記録紙として、化学パルプ、サイズ剤、填料を主体として抄紙された原紙上に塗工液を塗工して調整した記録紙であって、パルプ繊維及び填料を主体とし、表面にパルプ繊維が露出している部分とパルプ繊維が粒子で覆われている部分が共存してなり、異なる色のインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔と同じ長さの接触時間のブリストウ試験で測定されるブラックインクのインク転移量が、前記記録システムの単位面積あたりの最大インク打ち込み量以上であるものを使用し、かつ前記ブラックインクの表面張力が他の色のインクのそれよりも大きいことを特徴とする記録システム。」

2.刊行物等の記載事項
当審における拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された特開平2-16078号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
a.「(1)記録液の小滴を被記録材に付着させて記録を行うインクジェット記録方法に於いて、最大記録密度が、被記録材の初期転移量以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
(2)前記被記録材が、基紙に顔料を含むインク受容層を設けたものである請求項第1項のインクジェット記録方法。
(3)前記被記録材が、顔料と基紙の繊維状物質が混在してい成る表層を有する請求項第2項のインクジェット記録方法。」(請求項1〜3)
b.「本発明者らは基紙吸収タイプのコート紙を用いた、高密度で高速記録を行うインクジェット記録方法に於いて、特にブリーデイングの問題について検討した結果、該記録方法の有する最大記録密度に対して、特定の物性値(ブリストウ法による接触時間10ミリ秒での液体転移量、以下、初期転移量という)を有する被記録材を用いた場合に、ブリーデイングの問題が著しく改善されることを知見した。」(3頁左上欄19行〜右上欄7行)、
c.「本発明では、試験液としてジエチレングリコール30重量%を含む蒸留水を用いて測定を行った。
これは、紙に対する液体の転移量が
V=Kr+Ka[γcosθ(t-tw)/η]1/2・・・・(1)
V :液体転移量 Kr:粗さ指数
Ka:吸収係数 γ :液体の表面張力
θ :接触角 t :吸収時間
tw:ぬれ時間 η :液体の粘度
の一般式で表され、従来のような蒸留水を用いた試験方法では正確な値が得られないこと、更に現在使用されているインクジェット用インクが・・・5〜50重量%の多価アルコールを含む水系インクであることによる。」(3頁左下欄8行〜右下欄2行)、
d.「本発明で言う記録方法の最大記録密度とは、その記録装置、システムに於いて達成可能な最大インク付与量(ml/m2)により定義される。たとえば、ノズルピッチd(mm)、ノズル平均吐出液滴体積v(nl)のインクジェットヘッドをイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の4色分有する記録装置に於いて、最大記録密度p(ml/m2)は、 p=nv/d2・・・で表される。ここで言うノズルの平均吐出液滴体積は、・・・液滴1滴あたりの体積の平均値を求め、ノズルごとの平均値を更に平均したものである。上式のnは最大重ね印字数であり・・・いわゆるビジネスカラー印字では、n=2であり、さらに多くの色調の再現を目的としたピクトリアル・カラー印字では、通常2<n<3である。もちろん最大重ね印字数(n)は、記録装置だけでなく、画像処理も含めたシステム全体の値として決定されるものである。」(4頁左上欄8行〜右上欄9行)、
e.「被記録材の支持体としての基紙は、従来公知のLBKP、NBKP等に代表される木材パルプを主体として形成されるが、必要により合成繊維やガラス繊維を混合してもよい。・・・
本発明方法の被記録材の基紙に用いる填料としては、具体的にはクレータルク、カオリナイト・・・等があげられ、これらの填料を・・・灰分の換算で2〜15%・・・の範囲で含有することが好適である。・・・
基紙は上記の材料のほかに、従来公知の抄紙助剤、サイズ剤、分留り向上剤、紙力増強剤等を必要に応じて使用して抄造される」(4頁右上欄14〜左下欄13行)、
f.「本発明方法に於いて、被記録材の10ミリ秒に於ける液体転移量を大きく調整するためには、以上のようにして調整される基紙のステキヒト・サイズ度を0〜15秒・・とすることが望ましい。」(4頁右下欄1〜5行)、
g「インク受容層は、顔料とバインダーを主として形成される。」(5頁右上欄14〜15行)、
h.「本発明方法に用いる被記録材の第2の特徴は前記の基紙の繊維状物質が記録面の近傍に存在して成る構成となることであり、更に好ましくは記録面に基紙の繊維状物質と、前記の顔料が混在して成ることである。このため、インク受容層の好ましい乾燥塗工量は、大略0.1〜1.0g/m2・・・である。」(5頁右下欄11〜17行)、
i.「本発明方法において上記の如き特定の被記録材にインクジェット記録方法で付与するインクそれ自体は公知のものでよい。」(6頁左下欄6〜8行)、
j.「本発明方法において、前記の特定の被記録材に上記のインクを付与して記録を行うためのインクジェット記録方法は、インクをノズルより効果的離脱させて、射程体である被記録材にインクを付与し得る方式であれば、いかなる方式でもよく、・・・この中でも、更に特開昭54-59936号公報に記載されている方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるバブルジェット記録方法が、高密度なマルチノズルの形成に優れている。」(6頁右下欄9行〜7頁左上欄11行)、
k.「(実施例) 基紙として、下記に示すものを用いた。
基紙A:定性3紙No.131 東洋濾紙(株)製;ベック平滑度 0秒
B:定量3紙5A 東洋濾紙(株)製;ベック平滑度 2秒
C:硬質3紙4A 東洋濾紙(株)製;ベック平滑度18秒
(当審注:上記の「3紙」は「ろ紙」の誤記と認められる。)・・・・・・
上記の基紙上に、下記の組成の塗工液を、乾燥塗工量が3g/m2となるように・・・塗工し、・・・乾燥して本発明方法および比較用の被記録材を得た。
(塗工液1組成)
微粉シリカ 12部
(ミズカシルP-78D 水沢化学製 平均粒径8μm)
ポリビニルアルコール 6部
(PVA-117/PVA-105 クラレ製)
水 82部」(7頁右上欄16行〜左下欄14行)、
l.「記録方法(3)…1mmに15.7本のノズル間隔のインクジェット記録ヘッドを有するバブルジェット方式の記録装置を用いて記録を行なった。このノズルの平均吐出液滴体積は、0.026nlであり、最大重ね印字数3であるフルカラー印字を行なった。この記録方法の最大記録密度は、19.2ml/m2である。
上記記録方法には、下記に示すインクを用いた。
ジエチレングリコール 5部
グリセリン 10部
染料 2部
水 83部
上記、インクに使用する染料としては、下記に示すものを用いた。
Y, C.Iダイレクト・イエロー86
M, C.Iアシッド・レッド35
C, C.Iダイレクト・ブルー86
Bk,C.Iフード・ブラック2」(8頁左下欄1〜18行)、
m.「それぞれの記録方法に対する印字適性評価は、下記のように行なった。
(1)被記録材の初期転移量は、前述の試験液を用いて・・・測定した。
(2)ブリーデイングは、前述の被記録材を、それぞれの記録方法の最大印字密度で印字して評価した。その最大記録密度に於いて、・・・パターンを印字した際に0.5mmの印字部が、・・・0.5〜1.0mmの範囲内のものを○とした。」(8頁右下欄1〜16行)、
n.9頁の第2表には、基紙A、B、Cに塗工液1組成を塗工した記録シート1、2、3の初期転移量(ml/m2)は、それぞれ44、33、26であったこと、記録方法(3)によるブリーデイング評価はいずれも○であったことが記載されている。
これらの記載によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認める。
「インクジェット記録装置とそれに使用される被記録材とを含む記録方法であって、インクとしてイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色のインクを使用し、被記録材として、抄紙された基紙上に塗工液を塗工して調整した記録紙であって、パルプ繊維及び填料を主体とし、顔料と基紙の繊維状物質が混在している表層を有し、接触時間10秒でおけるブリストウ試験で測定される試験液のインク転移量である初期転移量が、前記記録装置の単位面積あたりの最大記録密度以上であるものを使用する記録方法。」

当審における拒絶理由において周知例として引用した、特開平3-41171号公報には、イエロー、マゼンタ、シアンの表面張力を30〜50ダインの範囲とし、ブラックインクの表面張力を45〜73ダインの範囲とすることが記載され(3頁右上欄)、実施例1には、イエロー、マゼンタ、シアンの表面張力を37ダイン、ブラックインクの表面張力を60ダインとすることが、実施例2には、イエロー、マゼンタ、シアンの表面張力を34ダイン、ブラックインクの表面張力を52ダインとすることが記載されている。
同じく、特開平6-1936号公報には、実施例1ないし5に、イエロー、マゼンタ、シアンの表面張力を26〜27mN/mの範囲、ブラックインクの表面張力を49〜53mN/mの範囲とすることが記載されている(表1参照)。
同じく、特開平6-24006号公報には、イエロー、マゼンタ、シアンの表面張力を40dyn/cm未満、ブラックインクの表面張力を40dyn/cm以上とすることが記載され(【請求項1】)、実施例にはインク1としてイエロー、マゼンタ、シアンの表面張力を29.7〜31.2dyn/cm、ブラックインクの表面張力を57.3dyn/cmとしたもの、インク2として、イエロー、マゼンタ、シアンの表面張力を35.9〜37.8dyn/cm、ブラックインクの表面張力を45.6ダインdyn/cmとしたものが記載されている。

2.対比・判断
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
(1)刊行物1に記載された発明の「被記録材」、「記録方法」、「基紙」は、本願発明の「記録紙」、「記録システム」、「原紙」に相当する。
(2)刊行物1に記載された発明の原紙に使用される「LBKP、NBKP等に代表される木材パルプ」は「化学パルプ」に相当し、原紙は、サイズ剤、填料を含有し、ステキヒト・サイズ度を調整したものであるから、原紙は、化学パルプ、サイズ剤、填料を主体として抄紙されたものと認められる。
(3)刊行物1記載の発明の記録紙の表層は、顔料と基紙の繊維状物質が混在しているものであり、「顔料」、「繊維状物質」は、本願発明の「粒子」、「パルプ繊維」に相当するから、刊行物1記載の発明の記録紙は、表面にパルプ繊維が露出している部分とパルプ繊維が粒子で覆われている部分が共存してなるものと認められる。
したがって、両者は、
「インクジェット記録装置とそれに使用される記録紙とを含む記録システムであって、インクとしてイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色のインクを使用し、記録紙として、化学パルプ、サイズ剤、填料を主体として抄紙された原紙上に塗工液を塗工して調整した記録紙であって、パルプ繊維及び填料を主体とし、表面にパルプ繊維が露出している部分とパルプ繊維が粒子で覆われている部分が共存してなるものを使用する記録システム。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:記録紙として、本願発明1では、「異なる色のインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔と同じ長さの接触時間のブリストウ試験で測定されるブラックインクのインク転移量が、前記記録システムの単位面積あたりの最大インク打ち込み量以上であるもの」を使用するのに対し、刊行物1に記載された発明では、「接触時間10秒でおけるブリストウ試験で測定される試験液のインク転移量が、前記記録装置の単位面積あたりの最大記録密度以上であるもの」を使用する点。
相違点2:本願発明1のインクにおいては、ブラックインクの表面張力が他の色のインクのそれよりも大きいのに対し、刊行物1記載の発明は、インクの表面張力が示されておらず、しかも染料以外は同じ成分である4色のインクを使用しているものである点。

以下、上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
刊行物1には、被記録材のインク吸収容量が付着インク量に満たない場合にブリーディングの問題が発生すること(b参照)、紙に対する液体の転移量は、時間の1/2乗に比例して増加すること、(c参照)が記載され、被記録材のインク転移量を、記録装置の単位面積当たりインク付与量を示す「最大記録密度」より大きくすることにより、ブリーディングを防止しようとする、本願発明と同様の課題が示されている。
そして、刊行物1においては「最大記録密度」は、「その記録装置、システムに於いて達成可能な最大インク付与量(ml/m2)により定義される。」と記載され、「たとえば、・・・ノズル平均吐出液滴体積v(nl)のインクジェットヘッドを・・・4色分有する記録装置に於いて、最大記録密度p(ml/m2)は、p=nv/d2で表される。・・・ノズルの平均吐出液滴体積は、・・・液滴1滴あたりの体積の平均値を求め、ノズルごとの平均値をさらに平均したものである」と記載され(d参照)、実施例においてもノズルの平均吐出液滴体積から、最大記録密度を算定している。
一方、本願発明における「記録システムの単位面積あたりの最大インク打ち込み量」については、「最大インク打ち込み量とは、単位面積当たりの最大インク打ち込み量をさす。例えば、1画素のインク打ち込み量の最大値がMピコリットル(pl)で、解像度がNdpiの場合、最大インク打ち込み量はM×N2pl/inch2である。インクの色によってインク打ち込み量が異なる場合は、最大量のインク打ち込み量を最大インク打ち込み量とする。」(段落【0015】)と定義されている(実際には、最大量のインク打ち込み量は、ml/m2に換算されている。)。
そうすると、刊行物1に記載された発明の「最大記録密度」と本願発明における「記録システムの単位面積あたりの最大インク打ち込み量」とは、記録システムにおける単位面積あたりの最大のインク付与量である点で共通するものであり、ただし、刊行物1に記載された発明ではノズル平均吐出液滴体積から、インク打ち込み量を算定しているのに対し、本願発明では、ノズル最大吐出液滴体積から算定していることから、刊行物1に記載された発明の「最大記録密度」は、本願発明の「最大インク打ち込み量」より若干少ない値である場合があると考えられる。
一方、被記録材のインク転移量を算定するにあたって、刊行物1記載の発明では試験液としてジエチレングリコール30重量%を含む蒸留水を用いるものであって、使用するインクではなく、インク転移量は、刊行物1記載の液体の転移量を表す式(c参照)に示されるように、液体の表面張力や接触角、粘度等により異なるものであるから、刊行物1に記載された特定の試験液を用いる被記録材のインク転移量は、記録システムで実際に使用するインク転移量を表すものではない。
この点について検討すると、刊行物1には、試験液を採用したことについて、蒸留水を用いた試験方法では正確な値が得られないこと、現在使用されているインクジェット用インクは5〜50重量%の多価アルコールを含む水系インクであることを理由に挙げており(c参照)、実際に使用されるインクに近い特性(表面張力、粘度、接触角等)を有するものとして該試験液を採用したものと認められる。
カラー印字を行うインクジェット記録装置には、異なる色のインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔が存在するが、該時間間隔は通常10ミリ秒以上である(本願明細書には、18秒、30秒のものが記載されている。)ところ、刊行物1の実施例において、記録シート1、2、3の接触時間10ミリ秒での試験液のインク転移量は、記録装置(3)の最大記録密度(19.6ml/m2)よりはるかに大きい値とすることが示され、しかも、液体の転移量は、刊行物1記載の液体の転移量を表す式(c参照)に示すように時間の増加に従って増加するから、記録シート1、2、3の異なる色のインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔と同じ接触時間における試験液の転移量は、接触時間10ミリ秒での試験液の転移量よりもはるかに多いことは明らかである。
そして、刊行物1に記載された実施例における記録装置(3)と記録シート1、2、3を使用する記録システムでは、インクとして水83重量%含有するものを用いていることから水70重量%の試験液よりも表面張力は大きいことが考えられるが、最大記録密度で印字した際にブリーデイングの評価が○であったことを勘案すると、刊行物1には、実際に使用されるインクに近い特性試験液を用い、異なる色のインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔よりも短い、接触時間10ミリ秒における初期転移量が、記録装置の最大インク打ち込み量より十分大きい記録材を記録装置と組み合わせることにより、通常用いられる多価アルコールを含む水系インクを使用する記録システムにおいて、使用されるインクの最大インク打ち込み量の印字においてもブリーデイングを生じないこと、すなわち使用したインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔と同じ接触時間におけるインク転移量が、使用されるインクの最大インク打ち込み量以上となるようにしたことが実質的に示されている。
そうすると、特定の試験液を用いる被記録材のインク転移量と、実際に使用するインク転移量とに差があるとしても、刊行物1に記載された記録システムは、実質的に、記録システムにおける異なる色のインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔と同じ接触時間における、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックインクの転移量が、インクの単位面積あたりの最大インク打ち込み量以上であるものを含んでいるといえる。

(2)相違点2について検討すると、インクとしてイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色のインクを使用する記録システムにおいて、ブラックインクの表面張力を他の色のインクのそれよりも大きくすることは、上記周知例に示すように本願出願前周知であり、ブラックインクの表面張力を他の色のインクのそれよりも大きいものとしたカラーインクのセットを使用することは、周知技術に基づいて当業者が容易になしうることにすぎない。そして、上記周知例の実施例に示すように、ブラックインクの表面張力は、通常40〜60dyn/cm程度であるところ、刊行物1記載の試験液であるジエチレングリコール30重量%を含む蒸留水の表面張力は約58dyn/cm程度であって、ブラックインクの表面張力の上限に近いものであるから、刊行物1記載の記録システムにブラックインクの表面張力を他の色のインクのそれよりも大きいものとした周知のカラーインクのセットを用いた場合にも、ブリーデイングが防止できる効果が得られることは、容易に予測することができる。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.請求人の主張に対して
(1)請求人は、平成16年3月8日付け意見書において、「記録紙1,2、3はインク吸収性を向上させるために、原紙として濾紙を用いており、記録濃度が小さいものです。本発明ではインク吸収性は必要であるものの普通紙の風合いを有する記録紙を提供すること目的としています。」と主張する。
濾紙は、無機の填料やサイズ剤を含まないものであるから、濾紙に塗工層を形成した実施例の記録紙1、2、3そのものは、本願発明の記録紙には相当しない。しかし、刊行物1には、記録紙の原紙として、化学パルプに填料、サイズ剤を添加して抄造すること、液体転移量を調整するために基紙のステキヒト・サイズ度を調整することが記載されており(e、f参照)、「化学パルプ、サイズ剤、填料を主体として抄紙された原紙上に塗工液を塗工して調整した記録紙」であるものが記載され、紙に含有されるサイズ剤や填料により、インクの浸透状態を調整し記録濃度を高いものとすることは普通に知られていることであるから、刊行物1には、「化学パルプ、サイズ剤、填料を主体として抄紙された原紙上に塗工液を塗工して調整した記録紙」において、初期転移量を記録紙1、2、3と同程度とすれば、記録装置の単位面積あたりの最大記録密度以上となり、記録紙1、2、3と同様の効果を奏することが実質的に開示されているといえる。

(2)また、請求人は、「刊行物1には、そもそも、表面張力の異なるインクを用いる記録方法の記載はありませんし、使用するインクより表面張力の高いインクでインク転移量を測定することの記載もありません。」と主張する。
しかし、本願は使用するインクの中で表面張力の高いインクのインク転移量を測定するものであって、使用するインクより表面張力の高いインクでインク転移量を測定するものではない。
また、刊行物1には、「試験液としてジエチレングリコール30重量%を含む蒸留水を用いて測定を行った。これは、・・・従来のような蒸留水を用いた試験方法では正確な値が得られないこと、更に現在使用されているインクジェット用インクが・・・5〜50重量%の多価アルコールを含む水系インクであることによる。」と記載され、試験液は、現在使用されているインクジェット用インクに近い成分としたことが示されている。蒸留水の表面張力は73dyn/cm2と非常に高い値であるのに対し、通常使用されている多価アルコールを含む水系インクの表面張力は20〜60dyn/cm2程度である。すなわち、刊行物1において、試験液としてジエチレングリコール30重量%を含む蒸留水を用いたこと自体が、通常使用されるインクの中で、比較的高い表面張力のインクに近い特性の液体を用いてインク転移量を測定したことを示している。

(3)さらに、請求人は「刊行物1では接触時間10ミリ秒における転移量を初期転移量として測定しているので、本発明の図3,4に照らし合わせてみると接触時間の短い時間での転移量を測定しています。従って、刊行物1の条件を満たす記録紙のインク吸収量は本発明より多くする必要があります。」と主張している。
しかし、本願発明は、「異なる色のインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔と同じ長さの接触時間のブリストウ試験で測定されるブラックインクのインク転移量が、前記記録システムの単位面積あたりの最大インク打ち込み量以上であるものを使用」と規定されているだけであって、記録紙のインク転移量の上限は示されていない。そして、上記3の(1)で判断したように、刊行物1の条件を満たすインク吸収量の十分多い記録紙を、記録システムに採用したものは、実質的に「異なる色のインク滴の最小隣接ドット打ち込み時間間隔と同じ長さの接触時間のブリストウ試験で測定されるインクのインク転移量が、前記記録システムの単位面積あたりの最大インク打ち込み量以上である」ものとなり、本願発明と区別することが出来ない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-29 
結審通知日 2004-08-03 
審決日 2004-08-17 
出願番号 特願平6-37004
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿久津 弘  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伏見 隆夫
秋月 美紀子
発明の名称 記録システム  
代理人 内尾 裕一  
代理人 西山 恵三  

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