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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1104226
審判番号 不服2000-4734  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-04-05 
確定日 2004-10-08 
事件の表示 平成10年特許願第237239号「ポリカーボネート系樹脂組成物及びそれを用いた摺動部材」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月29日出願公開、特開2000- 63654〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成10年8月24日の出願であって、その請求項1〜4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものと認める(以下、それぞれ「本願発明1〜4」という)。
【請求項1】(A)ポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の混合物60〜95重量%、(B)オレフィン系重合体(ゴム状弾性体を除く)をニトリル基、フェニル基またはカルボニル基を有するビニル系単量体でグラフト変性してなる変性オレフィン樹脂1〜20重量%、(C)ハロゲン化フェノキシ樹脂0.5〜15重量%、及び(D)アンチモン系難燃助剤0.1〜5重量%を含有するポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】(A)ポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の混合物60〜95重量%、(B)オレフィン系重合体(ゴム状弾性体を除く)をニトリル基、フェニル基またはカルボニル基を有するビニル系単量体でグラフト変性してなる変性オレフィン樹脂1〜20重量%、(C)ハロゲン化フェノキシ樹脂0.5〜15重量%、及び(D)アンチモン系難燃助剤0.1〜5重量%を含有するポリカーボネート系樹脂組成物100重量部に対し、(E)補強繊維1〜100重量部を含有させたポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】補強繊維(E)が6-チタン酸カリウム及び/またはポリアルコキシシロキサンで表面処理されたワラストナイトである請求項2に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物を成形してなる摺動部材。
2.引用刊行物の記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開平4-211447号公報(以下、「引用例1」という)には、以下のことが記載されている。
(引用例1:特開平4-211447号公報)
「【請求項1】 下記の(1)、(2)を含む熱可塑性樹脂組成物。
(1)ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリアリレート樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種以上からなる熱可塑性樹脂100重量部、
(2)非極性α-オレフィン(共)重合体5〜95重量%と、少なくとも1種のビニル単量体からなるビニル系(共)重合体95〜5重量%とからなり、分散樹脂の粒子径が0.001〜10μmである多相構造熱可塑性樹脂1〜100重量部」(特許請求の範囲)
上記組成物がポリカーボネート樹脂等のすぐれた物理的特性、機械的性質を維持し、特に摺動特性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、電気及び電子機械部品、精密機械部品、自動車部品などの広い分野で使用され得ることは、段落【0001】に記載されている。
また、(2)の「多相構造熱可塑性樹脂」の構成成分である「非極性α-オレフィン(共)重合体」として、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレンを使用し、他の構成成分である「ビニル系(共)重合体」には、スチレン単量体、アクリロニトリル単量体、メタクリル酸メチル単量体を使用することが12頁の表1に記載され、該多相構造熱可塑性樹脂が非極性α-オレフィン(共)重合体に「ビニル系(共)重合体」がグラフト化した構造のものであることは、段落【0044】〜【0047】に記載されている。
更に、上記組成物に対して、ハロゲン系、リン系等の有機難燃剤、チタン酸カリウムウィスカー等の単結晶繊維状充填剤を添加できることも段落【0059】に記載されている。
以上の記載から、引用例1には「(A)ポリカーボネート樹脂、(B)低密度ポリエチレン等の非極性α-オレフィン(共)重合体にスチレン単量体、アクリロニトリル単量体、メタクリル酸メチル単量体等のビニル系単量体からなる(共)重合体がグラフト化した多相構造熱可塑性樹脂、(C)ハロゲン系、リン系等の有機難燃剤(E)チタン酸カリウムウィスカー等の単結晶繊維状充填剤を含有する物理的特性、機械的性質を維持し、特に摺動特性に優れた熱可塑性樹脂組成物。」が記載されている。
3.対比・判断
(本願発明1について)
本願発明1と上記引用例1に記載された発明とを比較すると、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)オレフィン系重合体(ゴム状弾性体を除く)をニトリル基、フェニル基またはカルボニル基を有するビニル系単量体でグラフト変性してなる変性オレフィン樹脂及び(C)有機難燃剤を含むポリカーボネート系樹脂組成物である点で両者は一致するが、本願発明1では有機難燃剤に相当する成分が(C)ハロゲン化フェノキシ樹脂及び(D)アンチモン系難燃助剤に特定されている点(相違点1)及び(A)〜(D)成分のそれぞれの重量%が特定されている点(相違点2)で引用例1と相違する。
次に、上記の相違点1,2について検討する。
(相違点1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開平4-363358号公報(以下、「引用例2」という)には、ポリカーボネート系樹脂組成物において、難燃剤としてハロゲン化フェノキシ樹脂を使用すること(段落【0039】〜【0042】)、アンチモン化合物も配合してもよく、アンチモン化合物は難燃助剤として用いられる成分であり、難燃剤であるハロゲン化フェノキシ樹脂と併用することにより相乗的に難燃性を向上させることが可能である旨のこと(段落【0048】)が記載されている。
したがって、引用例1に記載されたポリカーボネート系樹脂組成物の発明において、難燃性を付与する成分として、引用例2に記載されたハロゲン化フェノキシ樹脂とアンチモン化合物の併用系を採用することは、引用例1と引用例2が同じポリカーボネート系樹脂組成物であること、前記併用系が相乗的な優れた難燃性効果を有することを考慮すれば、当業者が容易に想到し得る程度のことと認められる。
(相違点2)
また、各成分の配合割合については、引用例1における(1)ポリカーボネート樹脂と本願発明1の(B)成分に該当する(2)多相構造熱可塑性樹脂の配合割合は前者が100重量部に対して後者が1〜100重量部であるから、両配合成分の配合割合は本願発明1と引用例1とで重複している。
難燃剤成分と難燃助剤成分の配合割合については、引用例2の実施例番号1の配合割合をみると、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、難燃剤であるハロゲン化フェノキシ樹脂が4重量部、難燃助剤である三酸化アンチモンが1重量部配合されており、いずれも本願発明1で規定されている両成分の配合割合の範囲内である。
したがって、各成分の配合割合を本願発明1の範囲に定めることは、引用例1及び引用例2における配合割合に基づき、当業者が容易に定め得る程度のことである。
(本願発明1の効果について)
出願人は、本願発明1は、グラフト変性オレフィン樹脂(B)と、ハロゲン化フェノキシ樹脂(C)との組合せに特有の効果が認められる旨のことを実施例1と比較例1、比較例3及び比較例4の組合せ、実施例7と比較例2の組合せ、実施例9と比較例5の組合せに基づき主張しているので、以下その点につき検討する。
(C)成分の比較で、実施例1が比較例3、比較例4に比べ難燃性効果が優れているとしても、引用例2でも本願発明1の(C)成分が優れた難燃性を付与することが記載されているのであるから、そのことは引用例2から予想される効果を確認したにとどまり、予期し得ない効果を奏するものとはいえない。
また、摺動特性自体は引用例1の組成物が有する特性であり、仮に比摩耗量、金型付着性において、実施例1が比較例3、比較例4に比べて効果を奏するとしても、その効果は難燃性の観点から(C)成分のハロゲン化フェノキシ樹脂を選択すれば、当然それに付随するものであり、比摩耗量、金型付着性の効果が(C)成分の選択容易性の判断に影響を及ぼすものでもない。
したがって、出願人の本願発明1についての効果の主張は、採用することができない。
なお、引用例1の配合成分は本願発明1の(A)成分と(B)成分を含むものであるから、配合成分(B)を含まない比較例1、比較例2、比較例5は、引用例1と引用例2の組合せの容易性を効果面から検討する場合の比較の対象として不適切であり、比較の根拠とすることはできない。
(本願発明2〜4について)
本願発明2は、本願発明1に対して(E)補強繊維1〜100重量部を含有する旨の事項を付加するものであり、本願発明3は該補強繊維成分(E)を特定のものに限定する事項を付加するものである。
しかし、繊維状の充填剤を添加することは、前記引用例1の段落【0059】に記載されており、その具体例は実施例番号107〜112にポリカーボネート樹脂100重量部及び多層構造熱可塑性樹脂10重量部に対してガラス繊維50重量部が配合されており、本願発明2の(A)〜(D)成分全体に対する配合割合も、上記樹脂成分に対する配合割合の記載に基づき当業者が容易に定め得る程度のものと認める。
本願発明3の補強繊維(E)が6-チタン酸カリウムである場合については、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開平8-27369号公報(以下、「引用例3」という)にポリカーボネート樹脂系組成物に配合する繊維状無機充填剤の例として記載されており(段落【0014】〜【0015】)、引用例1に記載された繊維状の充填剤として6-チタン酸カリウムを選択することは、引用例3の記載に基づき当業者が容易に想到し得る程度のことである。
本願発明4は、摺動部材に関する発明であるが、上記引用例1の組成物がポリカーボネート樹脂等のすぐれた物理的特性、機械的性質を維持し、特に摺動特性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、電気及び電子機械部品、精密機械部品、自動車部品などの広い分野で使用され得ることは、その段落【0001】に記載されているとおりであるから、引用例1〜3から導かれる組成物を成形して摺動部材として用いることは、当業者が容易に想到し得る程度のことである。
4.むすび
したがって、本願発明1〜4は、引用刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-23 
結審通知日 2004-08-03 
審決日 2004-08-19 
出願番号 特願平10-237239
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一色 由美子小野寺 務木村 順子  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 船岡 嘉彦
石井 あき子
発明の名称 ポリカーボネート系樹脂組成物及びそれを用いた摺動部材  
代理人 目次 誠  
代理人 宮▼崎▲ 主税  

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