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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47G
管理番号 1104257
審判番号 不服2000-18157  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-04-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-10-12 
確定日 2004-10-06 
事件の表示 平成3年特許願第280301号「プラスチックミラ-」拒絶査定不服審判事件〔平成5年4月16日出願公開、特開平5-91937号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成3年10月2日に出願されたものであり、平成12年8月31日付けで拒絶査定がなされたところ、これに対し、平成12年10月12日に拒絶査定に対する審判の請求がなされたものであって、その後、当審により平成15年6月17日に拒絶の理由が通知されたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成12年7月26日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
(本願発明)
「下記に示す構成成分(I)がポリマー全体の40〜75モル%、
構成成分(II)がポリマー全体の60〜25モル%であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1×103以上5×106以下である合成樹脂板の片面に真空蒸着反射膜を形成したことを特徴とするプラスチックミラー。
【化1】

(ここで、R1は炭素数1〜18のアルキル基または炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す)
【化2】


(ここで、R2は水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3およびR4は炭素数1〜8のアルキル基を示す)。」

なお、以下、上記化学構造式の(I)または(II)で示されるものを、「構成成分(I)」または「構成成分(II)」という。

2.引用文献
(1)これに対して、当審の拒絶の理由に引用された特開昭64-62601号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面の第1図とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審により付記)。
(イ)記載事項1(発明の詳細な説明の[産業上の利用分野]の項)
「本発明は、合成樹脂製ミラーに関し、より詳しくは低吸湿性で耐熱性及び形状安定性に優れた合成樹脂製ミラーに関する。」(公報第1頁左下欄第20行〜右下欄第2行参照)
(ロ)記載事項2(発明の詳細な説明の[従来の技術]の項)
「従来、メタクリル樹脂にアルミニウム等真空蒸着膜を形成させた合成樹脂製ミラーは、軽量であること、破損しにくいこと、加工が簡単なこと等から広く利用されている。」(公報第1頁右下欄第4〜7行参照)
(ハ)記載事項3(発明の詳細な説明の[発明が解決しようとする問題点]の項)
「ところが、この種のミラーはメタクリル樹脂板を用いているために、使用中に空気中の水分を吸収してソリが発生して形状安定性が十分でないという欠点があった。また、耐熱性が高々100℃であり使用範囲が限定されていた。」(公報第1頁右下欄第9〜13行参照)
(ニ)記載事項4(発明の詳細な説明の[問題点を解決するための手段]の項)
「本発明者らは、上述した如き従来技術を克服して、耐吸湿性でソリが少なく、耐熱性と形状安定性に優れた合成樹脂製ミラーを提供することを目的とし鋭意検討した結果、本発明を完成した。
本発明に係わる合成樹脂製ミラーは、メチルメタクリレート20〜80重量%、一般式…(中略)…で表わされ、単独重合体のピカート軟化温度が70℃以上である(メタ)アクリル酸エステル15〜65重量%、N-置換マレイミド5〜35重量%から成る単量体混合物を重合して得られる合成樹脂板の片面に真空蒸着反射膜を形成したことを特徴とする。」(公報第1頁左下欄第20行〜右下欄第2行参照)
(ホ)記載事項5(発明の詳細な説明の[問題点を解決するための手段]の項)
「本発明で用いられるN-置換マレイミドとしてはN-t-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドや…(中略)…で表されるものが挙げられ、特に好ましくはN-t-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド…(中略)…から成る群から選ばれた少なくとも1種が用いられる。」(公報第2頁右下欄第16行〜第3頁左上欄第20行参照)
上記記載事項1〜5を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「従来発明」という。)が、記載されているといえる。
(従来発明)
「メチルメタクリレート20〜80重量%、(メタ)アクリル酸エステル15〜65重量%、N-置換マレイミド5〜35重量%から成る単量体混合物を重合して得られる合成樹脂板の片面に真空蒸着反射膜を形成した合成樹脂製ミラー。」

(2)また、同じく引用された特開昭62-257913号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付記)。
(イ)記載事項1(発明の詳細な説明の[産業上の利用分野]の項)
「本発明はα-オレフィン、無水マレイン酸およびマレイン酸イミドまたはN-置換誘導体の線状共重合体およびその製造方法に関する。」(公報第1頁右下欄第16〜18行参照)
(ロ)記載事項2(発明の詳細な説明の[従来の技術]の項)
「従来より、α-オレフィン、無水マレイン酸の共重合体は、塩基性物質を作用させて水溶液にし、接着剤、バインダー、コーティング剤、紙用添加剤、顔料の分散剤、冷却水のスケール防止剤、エマルジョンまたはラテックスの保護コロイド、界面活性剤、インキまたは顔料のビヒクル等に用いられている。」(公報第2頁左上欄第5〜11行参照)
(ハ)記載事項3(発明の詳細な説明の[発明が解決しようとする問題点]の項)
「本発明の第1の目的は、塩基性物質の存在する水溶液に容易に均一溶解し濁りがなく、また増粘することがなく、しかも耐水性のすぐれたα-オレフィン、無水マレイン酸およびマレイン酸イミドまたはそのN-置換誘導体の線状共重合体を提供することにある。」(公報第2頁右下欄第11〜16行参照)
(ニ)記載事項4(発明の詳細な説明の[問題点を解決するための手段]の項)
「本発明によれば、上記の第1の目的は、α-オレフィンに基づく単位(A)、無水マレイン酸に基づく単位(B)およびマレイン酸イミドまたはそのN-置換誘導体の線状共重合体に基づく単位(C)からなり、A,BおよびCの各成分はA/(B+C)およびB/Cが各々1/1〜3/1(モル比)および2/8〜9/1(モル比)を満足し、分子末端の少なくとも一方に一般式-C2H4C6H5で示される基を有し、かつ重量平均分子量が1,000〜200,000である線状重合体によって達成される。」(公報第3頁左上欄第3〜12行参照)
(ホ)記載事項5(発明の詳細な説明の[問題点を解決するための手段]の項)
「本発明において、α-オレフィンに基づく単位とは一般式-CH2CR1R2-(式中、R1およびR2は同じであっても互いに異なっていてもよく、水素、炭素数1〜10のアルキル基またはアルケニル基を表わす)で示されるものを意味し、ここで使用するα-オレフィンとはα位に炭素-炭素不飽和二重結合を有する直鎖状または分岐状のオレフィンである。特に炭素数2〜12とりわけ2〜8のオレフィンが好ましい。使用し得る代表的な例としては、エチレン、…(中略)…、2-メチル-1-ブテン、…(中略)…、2-メチル-1ペンテン、…(中略)…等が挙げられる。」(公報第3頁左上欄第17行〜右上欄第14行参照)
(ヘ)記載事項6(発明の詳細な説明の[問題点を解決するための手段]の項)
「本発明において、無水マレイン酸に基づく単位(B)は一般式…(中略)…で示されるものであり、ここで使用する無水マレイン酸にはその一部がマレイン酸、…(中略)…等の無水マレイン酸誘導体…(中略)…または他のα、β-ジカルボン酸で置換、含有されていてもよい。」(公報第3頁左上欄第3〜12行参照)
(ト)記載事項7(発明の詳細な説明の[問題点を解決するための手段]の項)
「本発明において、マレイン酸イミドまたはそのN-置換誘導体に基づく単位、すなわちマレイン酸イミド類に基づく単位とは、一般式

(式中、R3は水素、アルキル基、…(中略)…を表わす。)で示されるものであり、ここで使用するマレイン酸イミドとしては、マレイン酸イミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、…(中略)…N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換アルキルマレイミド、…(中略)…が好ましく挙げられる。」(公報第3頁左上欄第3〜12行参照)
上記記載事項1〜7を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されているといえる。
(引用発明)
「α-オレフィンに基づく単位(A)、無水マレイン酸に基づく単位(B)およびマレイン酸イミドまたはそのN-置換誘導体の線状共重合体に基づく単位(C)からなり、A,BおよびCの各成分はA/(B+C)およびB/Cが各々1/1〜3/1(モル比)および2/8〜9/1(モル比)を満足し、分子末端の少なくとも一方に一般式-C2H4C6H5で示される基を有し、かつ重量平均分子量が1,000〜200,000である線状重合体。」

3.対比・判断
そこで、本願発明と従来発明とを対比すると、従来発明における「合成樹脂製ミラー」が本願発明の「プラスチックミラー」に相当することが明らかであり、また、両者の具体的構成成分を参酌すると、従来発明における「N-置換マレイミド」は、本願発明における「構成成分(I)」に相当するといえるから、
両者は、「N-置換マレイミドをその構成成分として含む合成樹脂板の片面に真空蒸着反射膜を形成したことを特徴とするプラスチックミラー。」である点で一致しており、以下の点で相違があるものといえる。
[相違点]本願発明は、「構成成分(I)がポリマー全体の40〜75モル%、構成成分(II)がポリマー全体の60〜25モル%であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1×103以上5×106以下である」態様の合成樹脂を用いているのに対して、従来発明は、そのような態様の合成樹脂を用いていない点。

[相違点]について
そこで、上記の相違点について検討する。
ところで、引用発明により、「α-オレフィンに基づく単位(A)、無水マレイン酸に基づく単位(B)およびマレイン酸イミドまたはそのN-置換誘導体の線状共重合体に基づく単位(C)からなり、A,BおよびCの各成分はA/(B+C)およびB/Cが各々1/1〜3/1(モル比)および2/8〜9/1(モル比)を満足し、分子末端の少なくとも一方に一般式-C2H4C6H5で示される基を有し、かつ重量平均分子量が1,000〜200,000である線状重合体」は、本願出願日前に公知であったといえる。
そして、上記引用発明の「α-オレフィンに基づく単位(A)」、「マレイン酸イミドまたはそのN-置換誘導体の線状共重合体に基づく単位(C)」および「線状重合体」が、本願発明における「構成成分(II)」、「構成成分(I)」および「合成樹脂」に、両者の具体的構成成分を参酌するとそれぞれ相当するといえるから、引用発明の線状重合体は、本願発明における「構成成分(I)がポリマー全体の40〜75モル%、構成成分(II)がポリマー全体の60〜25モル%であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1×103以上5×106以下である」態様の合成樹脂に相当するものといえる。
(ちなみに、上記A/(B+C)のモル比として、例えば1/1を選択し、B/Cのモル比として、例えば2/8を選択すると、引用発明は「α-オレフィンに基づく単位(A)」(本願発明における「構成成分(II)」に相当する)が50モル%で、「マレイン酸イミドまたはそのN-置換誘導体の線状共重合体に基づく単位(C)」(本願発明における「構成成分(I)」に相当する)が40モル%である態様の合成樹脂といえるし、また、引用発明が「無水マレイン酸に基づく単位(B)」を一部含有している点については、本願明細書の段落【0011】を参照すると、本願発明においても、構成成分(I)及び構成成分(II)に加えて、他のビニル系モノマー、例えば無水マレイン酸を共重合させることが説示されていることから、審判請求人が平成15年8月25日付け意見書において「本願発明と引用文献2の発明とは、N-置換マレイミド、α-オレフィンおよび(無水マレイン酸)からなる線状共重合体である点で同一と思われます」と主張するように、両者の成分構成に実質的な差異はないといわざるを得ない。)
さらに、N-置換マレイミドを共重合体の成分として含む透明性樹脂が、光学材料に適応可能な樹脂であることは、本願出願前に当業者において周知であったといえる。
してみると、従来発明における「N-置換マレイミドをその構成成分として含む合成樹脂」に代えて、同様に「N-置換マレイミドをその構成成分として含む合成樹脂」である引用発明の態様のものの採用を試みることは、当業者が容易に想起し得た設計上の変更であるといわざるを得ない。
なお、審判請求人は、上記意見書において、当審の拒絶の理由における「N-置換マレイミドを共重合体の成分として含む透明性樹脂が、光学材料に適応可能な樹脂であることは、本願出願前に当業者において周知であったと」する周知例に関して、「その共重合樹脂におけるマレイミド成分は、メタクリル酸エステル樹脂の特性を損なわない範囲での耐熱性向上剤として用いられているというのが、当業者における一般的な理解であ」るという前提に立ち、従来発明の合成樹脂製ミラーへ引用発明の共重合体を適用することが当業者にとって容易とはいえない旨、また、本願発明のオレフィン成分とマレイミド成分からなるプラスチックミラーが、耐熱性、形状安定性および機械特性に優れるということは、当業者であろうとも容易に類推したり、想到したりできるものではない旨を主張する。
しかしながら、上述した従来のN-置換マレイミドを共重合体の成分として含む透明性樹脂であって、光学材料に適応可能な樹脂として認識されていたものが、必ずしもメタクリル酸エステル樹脂を必須成分とするものに限られていたということはできない(例えば、特開平1-90406号公報や特開昭63-291911号公報参照)し、また、N-置換マレイミドを含有する樹脂を採用することによって少なくとも耐熱性の向上がある程度期待できることは、従来発明からみても当業者が予測し得たことといえるし、さらに、その他の特性についても格別なものということができないから、上記請求人の主張を採用することができない。
以上検討したことから、本願発明は、従来発明及び引用発明、並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

4.むすび
したがって、本願発明は、従来発明及び引用発明、並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-23 
結審通知日 2004-08-03 
審決日 2004-08-16 
出願番号 特願平3-280301
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A47G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松縄 正登大河原 裕  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 岡田 孝博
一色 貞好
発明の名称 プラスチックミラ-  

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