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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G09F
審判 全部申し立て 特29条の2  G09F
管理番号 1104351
異議申立番号 異議2003-70721  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-02-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-24 
確定日 2004-07-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3326817号「粘着フィルムラベル」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3326817号の請求項1乃至3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3326817号の請求項1乃至4に係る発明についての出願は、平成4年7月7日に特許出願され、平成14年7月12日にその特許権の設定の登録がなされ、その特許について、申立人近藤武より特許異議の申し立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年10月6日に訂正請求がなされ、その後、申立人に対して審尋がなされ、その指定期間内の平成15年12月17日に回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者の求めている訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所にアンダーラインを付した。)。
a.訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】 基材、粘着剤層および離型支持体を順次積層してなるレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベルであって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、その表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満であり、かつ該基材および該離型支持体が二軸配向ポリエステルフィルムよりなることを特徴とするレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。
【請求項2】 前記基材の印字される側の表面に、微粒子とバインダー樹脂により粗面化されたトナー受容層を設けることを特徴とする請求項1記載のレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。
【請求項3】 前記二軸配向ポリエステルフィルムが内部に空洞を含有するポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1記載のレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。
【請求項4】 前記離型支持体の離型処理されていない表面が粗面化されていることを特徴とする請求項1記載のレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。」
を、
「【請求項1】 基材、粘着剤層および離型支持体を順次積層してなるレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベルであって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、その表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満であり、かつ該基材および該離型支持体が二軸配向ポリエステルフィルムよりなり、さらに該離型支持体が半透明であり、該基材が白色であることを特徴とするレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。
【請求項2】 前記基材の印字される側の表面に、微粒子とバインダー樹脂により粗面化されたトナー受容層を設け、かつ前記離型支持体の離型処理されていない表面が粗面化されており、さらに当該粘着フィルムラベルの表裏各々の表面電気抵抗値が1×1010〜5×1011Ωであることを特徴とする請求項1記載のレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。
【請求項3】 前記基材および離型支持体がいずれも内部に空洞を含有する二軸配向ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1記載のレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。」
と訂正する。

b.訂正事項b
段落【0007】を、
「【課題を解決するための手段】上記目的は、本発明、即ち基材、粘着剤層および離型支持体を順次積層してなるレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベルであって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、その表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満であり、かつ該基材および該離型支持体が二軸配向ポリエステルフィルムよりなり、さらに該離型支持体が半透明であり、該基材が白色であることを特徴とするレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベルによって達成される。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、以下の事項を含んでいる。
ア.元の請求項1における「離型支持体」及び「基材」を、それぞれ「半透明」及び「白色」であると限定する。
イ.元の請求項2において、離型支持体の離型処理されていない表面が粗面化されていると限定する。
ウ.元の請求項2において、粘着フィルムラベルの表裏各々表面電気抵抗値が1×1010〜5×1011Ωであると限定する。
エ.元の請求項3において、二軸配向ポリエステルフィルムより構成される対象が基材及び離型支持体であるとする。
オ.請求項4を削除する。
上記ア.に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、特許明細書という。)には、「本発明において、基材としては・・・好ましくは二軸配向されたポリエステルフィルムであり、・・・さらに、二軸配向されたポリエステルフィルムの中でも内部に空洞(ボイド)を含有するポリエステルフィルムが、隠蔽性、クッション性等の印字適性の観点から特に好ましい。」(段落【0009】参照)、「離型支持体は透明タイプまたは着色タイプのいずれでもよいが、半透明マット調が好ましい。マット化は、・・・空洞等を含有する半透明ベースフィルム上に、・・・行われ・・・離型支持体は、・・・その表面(離型処理されていない側)は適度に粗面化されている(粗面化層部)ことが好ましい。」(段落【0015】参照)及び「実施例1 離型支持体として、・・・ポリエステル系フィルム(東洋紡績社製、クリスパーH7215)50μmを用い、・・・基材として、・・・内部に空洞を含有する白色ポリエステル系フィルム(東洋紡績社製、クリスパーG2312)50μmを用い」(段落【0021】参照)と記載されている。
してみると、離型支持体と基材とを透明性または色等を違えること、その一つとして、離型支持体を半透明とし、基材を白色とすることは、特許明細書に記載された事項の範囲内であるといえるから、上記ア.は、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであると認められる。
また、上記イ.は、元の請求項4における「離型支持体の離型処理されていない表面が粗面化されている」という事項を付加したものであり、また、上記ウ.に関連する事項として、特許明細書には、「本発明の粘着フィルムラベルにおいては、その表裏両面が帯電防止処理を施され・・・表裏各々の表面電気抵抗値で・・・さらに好ましくは1×1010〜5×1011Ωである。」(段落【0017】参照)と記載されているから、上記イ.及びウも、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであると認められる。
さらに、上記エ.については、元の請求項3における「前記二軸配向ポリエステル」は、当該元の請求項3が引用する元の請求項1の「基材および離型支持体が二軸配向ポリエステルフィルムよりなる」における「二軸配向ポリエステルフィルム」を指していることは、特許請求の範囲の文脈から明らかである。
したがって、上記訂正事項aは、特許明細書に記載されていた事項の範囲内で、特許請求の範囲の減縮を目的とすると共に、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
さらに、上記訂正事項a及びbは、実質的に特許請求の範囲を拡張変更するものでない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申し立てについての判断
(1)申立の理由の概要
申立人近藤武は、本件請求項1乃至4に係る発明が、特許を受けることができない理由として以下の理由をあげている。
理由1
本件請求項1乃至4に係る発明は、本件出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平3-23776号の願書に最初に添付された明細書(以下「先願明細書」という。申立人提出の甲第1号証(特開平4-240889号公報)は、その公開公報であって、先願明細書の記載内容と同一。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。
理由2
本件請求項1乃至4に係る発明は、甲第2号証(実願昭61-117334号(実開昭63-24299号)のマイクロフィルム)に記載の発明に、甲第3号証(特開平2-245082号公報)、甲第4号証(特開平3-292338号公報)及び甲第5号証(特開平2-284929号公報)に記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
理由3
本件請求項1乃至4に係る発明は、甲第6号証(実願昭62-37733号(実開昭63-144269号)のマイクロフィルム)に記載の発明に、甲第3号証(特開平2-245082号公報)、甲第4号証(特開平3-292338号公報)及び甲第5号証(特開平2-284929号公報)に記載の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
当審が通知した取消理由(本件請求項1乃至4に係る発明についての特許が拒絶の査定をすべき出願に対してされている)は、これらの理由1乃至3と同旨である。

(2)本件発明
本件請求項1乃至3に係る発明(以下、「本件発明1乃至3」という。)は、上記訂正によって訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載されたとおりのものである(上記訂正事項a参照。)。

(3)理由1についての判断
ア.先願明細書
当審で通知した取消理由に引用した上記先願明細書には、本件発明1乃至3に関連する事項として、以下のような事項が記載されている。
a.「被覆層1/プラスチックフィルムA/粘着層からなる粘着シートの粘着層面と、被覆層2/プラスチックフィルムB/剥離層からなる剥離シートの剥離層面とを重ね合わせたラベル用積層体からなり、かつ被覆層1および被覆層2は高分子結着剤と無機粒子および/又は有機粒子を含む層からなるとともに、該被覆層1と被覆層2の高分子結着剤が実質的に同種の高分子材料からなることを特徴とするラベル用積層体。」(請求項1)
b.「本発明は、・・・電子写真複写機における複写用基材として好適なラベル用積層体に関する。」(段落【0001】参照)
c.「本発明における被覆層1および被覆層2は、高分子結着剤と無機粒子および/又は有機粒子を含む層からなる。・・・無機粒子としては、例えば、酸化ケイ素・・・有機粒子としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体・・・上記粒子の平均粒径は、・・・0.1〜20μmの範囲で適宜選択するのが好ましい。」(段落【0010】〜【0014】参照)
d.「被覆層には、その表面の電気抵抗を調整するために、通常、高分子電解質や導電性粉末が添加される。・・・被覆層1の表面電気抵抗値は、1×107〜5×1013Ω/□が好ましく、さらに5×108〜1×1013Ω/□が好ましい。・・・被覆層2の表面電気抵抗値としては、1×104〜5×1013Ω/□が好ましく、さらに1×106〜1×1013Ω/□が好ましい。」(段落【0015】〜【0016】参照)
e.「被覆層1の平滑度は、30〜4000秒であることが好ましく・・・平滑度が上記範囲より低いと、良好なトナー画像が安定して得られず、また上記範囲より高いと、給紙ミスや走行不良をおこし好ましくない。・・・本発明における被覆層1および被覆層2の中には、・・・着色剤、蛍光増白剤・・・などが添加されてもよい」(段落【0017】〜【0019】参照)
f.「本発明の積層体におけるプラスチックフィルムAおよびBは、・・・異種の高分子材料からなる場合・・・カールを生じるおそれがあり、それによって給紙ミスや走行不良を起こすおそれが生じるので、実質的に同種の高分子材料としておくのが好ましい。」(段落【0020】参照)
g.「本発明の被覆層1/プラスチックフィルムA/粘着層からなる粘着シートのハンター白色度は、40%以上がこのましく・・・ハンター白色度40%以上の粘着シートを得るには、・・・プラスチックフィルムAとして白色性フィルム・・・例えば、・・・プラスチックフィルムAと非相溶(審決注「非相 」は、「非相溶」の誤記と認める。)のポリマーを分散混合・・・してもよい。・・・白色度が40%未満であれば隠蔽性が不充分となり」(段落【0021】参照)
h.「実施例1・・・2軸延伸ポリエステルフィルムの上に・・・被覆層1および被覆層2を・・・塗工した・・・得られた被覆層2の反対面に、市販のシリコーン系離型剤を・・・塗工して剥離シ-トを得た。一方、得られた被覆層1の反対面に・・・粘着剤・・・を・・・塗工して粘着シートを得た。」(段落【0027】)
以上の記載を含む先願明細書には、以下の発明が記載されていると認める。
「表面電気抵抗が調整された被覆層1、2軸延伸ポリエステルフィルムであるプラスチックフィルムA及び粘着剤が塗工された粘着層の三層からなる粘着シートの粘着層面と、表面電気抵抗が調整された被覆層2、2軸延伸ポリエステルフィルムであるプラスチックフィルムB及び離型剤が塗工された剥離層の三層からなる剥離シートの剥離層面とを重ね合わせたラベル用積層体からなり、被覆層1および被覆層2は高分子結着剤と平均粒径が0.1〜20μmの範囲で適宜選択される酸化ケイ素等の無機粒子を含む層からなり、さらに、被覆層1の表面電気抵抗値は、1×107〜5×1013Ω/□が好ましく、さらに5×108〜1×1013Ω/□が好ましく、被覆層2の表面電気抵抗値は、1×104〜5×1013Ω/□が好ましく、さらに1×106〜1×1013Ω/□が好ましいとした電子写真複写機における複写用基材として好適なラベル用積層体。」(以下、「先願発明」という。)
イ.本件発明2と先願発明の一致点と相違点の認定
先願発明の「粘着シート」及び「剥離シート」は、それぞれ、本件発明2の「基材」及び「離型支持体」に相当しており、それらの構成要素である「2軸延伸ポリエステルフィルム」は、「二軸配向ポリエステルフィルム」と同義である。
また、本件特許明細書の「本発明は、・・・レーザービーム方式等の電子写真方式によるトナー定着印字方式に好適な、トナーとび(飛散)が防止された粘着フィルムラベルに関する。」(【0001】参照)、「本発明の目的は、電子写真方式等のトナー定着方式によって印字される場合にもトナーとびの少ない粘着フィルムラベルを提供することである。」(【0006】参照)及び「本発明の粘着フィルムラベルは、電子写真方式等のトナー定着方式によって印字される場合にもトナーとびが少なく、・・・という効果を有する。」(【0030】参照)の各記載を参酌すると共に、電子写真方式において、感光体への像露光光がレーザービームかそれ以外のものかによって、その被転写シートの材料等が変わる、あるいは変えねばならないものでないことを考えると、本件発明における「レーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル」とは、「電子写真方式による印字に好適な粘着フィルムラベル」を意味していると解され、また、先願発明の「電子写真複写機における複写用基材として好適なラベル用積層体」も粘着シートを備えるもので、結局、両者は、「電子写真方式による印字に好適な粘着フィルムラベル」として共通している。
さらに、先願発明の被覆層1は、上記e.からトナー受容層であることが明らかであり、また、一般に、合成樹脂フィルムからなる記録紙のトナーが付着される面にシリカ(酸化ケイ素)等のマット剤とバインダー樹脂によりトナー受容層を設けることは、周知であるから、先願発明の、高分子結着剤と平均粒径が0.1〜20μmの範囲で適宜選択される酸化ケイ素等の無機粒子を含む層からなる被覆層1から構成される粘着シート(基材)は、印字される側の表面に、微粒子とバインダー樹脂により粗面化されたトナー受容層が設けられているといえ、また、同じく、先願発明の、シリコーン系離型剤が塗工された面の反対面の高分子結着剤と平均粒径が0.1〜20μmの範囲で適宜選択される酸化ケイ素等の無機粒子を含む層からなる被覆層2から構成される剥離シート(離型支持体)は、離型処理されていない表面が粗面化されているといえる。
さらにまた、先願発明の「ラベル用積層体」(粘着フィルムラベル)の表裏にある「被覆層1」の表面抵抗値及び「被覆層2」の表面電気抵抗値は、それぞれ、1×107〜5×1013Ω/□及び1×104〜5×1013Ω/□であるから、本件発明2の粘着フィルムラベルの表裏各々の表面電気抵抗値が1×1010〜5×1011Ω(表面電気抵抗値をいう場合、「Ω/□」は、「Ω」と同義である、以下、後者を使用。)と相当の範囲で重複している。
以上のことから、本件発明2と先願発明の一致点と相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「印字される側の表面に、微粒子とバインダー樹脂により粗面化されたトナー受容層を設けた基材、粘着剤層および離型処理されていない表面が粗面化された離型支持体を順次積層してなる電子写真方式による印字に好適な粘着フィルムラベルであって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、その表面電気抵抗値が表裏各々1×1010〜5×1011Ωであり、かつ該基材および該離型支持体が二軸配向ポリエステルフィルムよりなる電子写真方式による印字に好適な粘着フィルムラベル。」
[相違点]
本件発明2では、離型支持体及び基材が、それぞれ、「半透明」及び「白色」としているのに対して、その点が定かでない点。
ウ.判断
先願明細書には、本発明における被覆層1および被覆層2の中には、着色剤、蛍光増白剤などが添加されてもよいこと及び隠蔽性のために粘着シート(基材)のハンター白色度を、その構成要素であるプラスチックフィルムAに非相溶のポリマーを分散混合して40%以上とする(プラスチックフィルムに非相溶のポリマーを分散混合することはプラスチックフィルムに空洞を含有することであることは、技術常識である。)ことが必要であることが記載されており(上記ア.e.g.参照)、また、一般に、粘着フィルムラベルの離型支持体は、使用において、剥がされるもので、その隠蔽性をあまり要求されないものであり、粘着フィルムラベルの基材と材質及び色等を違えることも普通のことであることを考えると、先願発明において、プラスチックフィルムAとプラスチックフィルムBの非相溶のポリマーの分散混合度合いあるいは蛍光増白剤の添加度合いを違えて、本件発明2のように、剥離シート及び粘着シート(離型支持体及び基材)が、それぞれ、「半透明」及び「白色」とすることは、先願明細書の記載から自明の事項といえるかそうでなければ単なる微差にすぎない。
したがって、本件発明2は、上記先願発明と実質的に同一である。
また、本件発明1の構成要件は、本件発明2の構成要件の一部を単に除いたものであるから、本件発明1も、同様に、上記先願発明と実質的に同一である。
さらに、先願明細書には、粘着シート及び剥離シート(基材及び離型支持体)の各プラスチックフィルムA及びBを、同種材料とすることが記載され(上記ア.f.参照)、また、プラスチックフィルムAに非相溶のポリマーを分散混合する(プラスチックフィルムに非相溶のポリマーを分散混合することはプラスチックフィルムに空洞を含有することであることは、技術常識である。)ことが記載されている(上記ア.g.参照)から、本件発明3の基材及び離型支持体が空洞を含有するフィルムである点も、先願明細書の記載から自明の事項といえるかそうでなければ単なる微差にすぎない。
したがって、本件発明3も、上記先願発明と実質的に同一である。
ゆえに、結局、本件請求項1乃至3に係る発明は、上記先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件請求項1乃至3に係る発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、本件出願の時において、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件請求項1乃至3に係る発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記理由1は、理由がある。

(4)理由2及び3について
ア.刊行物
当審で通知した取消理由に引用した刊行物及びそれらの本件発明1乃至3に関連する事項は、以下のとおりである。
a.刊行物1:実願昭61-117334号(実開昭63-24299号)のマイクロフィルム(=甲第2号証)
a.-1「バーコードの記録用紙とこれと剥離自在に接着した台紙とからなるバーコード紙であって、前記記録用紙が、表面にトナ附着樹脂とマット剤を塗布し、裏面に接着剤を塗布した耐熱無吸湿合成樹脂フィルムからなり、前記台紙が、表面にシリコン樹脂を塗布し、裏面に静電防止剤とマット剤とを塗布した耐熱無吸湿合成樹脂フィルムからなることを特徴としたバーコード紙。」(実用新案登録請求の範囲)、
a.-2「印刷を高速乾式複写機で容易に行うことができる・・・バーコード紙を提供する」(明細書2頁13〜14行)、
a.-3「記録用紙1が、表面11にトナ附着樹脂とマット剤を塗布(層)111し、・・・台紙2が表面21にシリコン樹脂を塗布(層)211し、裏面22に静電防止剤とマット剤とを塗布(層)221し・・・トナ附着樹脂としては・・・アクリル酸系樹脂等の樹脂が使用され、これらの樹脂層は1μ〜5μに塗布され、樹脂上の表面固有抵抗値を1×108オーム〜1×1012オームの範囲内にすることが必要である。マット剤としては、粒子サイズ0.007μ〜0.016μのシリカが用いられ、・・・耐熱無吸湿合成樹脂フィルムは・・・ポリエステルフィルム・・・が用いられ」(明細書2頁末行〜4頁1行)
a.-4「本考案バーコード紙は、・・・その記録用紙1を台紙2から剥離して商品に貼りつければよいことになる。」(明細書4頁4〜10行)
以上の記載を対比のためにまとめると、上記a.-3の「これらの樹脂層は1μ〜5μに塗布され、樹脂上の表面固有抵抗値を1×108オーム〜1×1012オームの範囲内にすることが必要である」における「これらの樹脂層」とは、文脈から、「塗布(層)111」及び「塗布(層)221」を指していることが明らかであり、そして、これらの「塗布(層)111」及び「塗布(層)221」は、「バーコード紙」の表面及び裏面にあるものであるので、「バーコード紙」の表裏両面に帯電防止処理が施されているといえるから、上記刊行物1には、
「記録用紙1、接着剤層および台紙2を順次積層してなるバーコード紙であって、その表裏面に帯電防止処理が施され、その表面固有抵抗値が表裏各々1×108オーム〜1×1012オームの範囲内であり、かつ記録用紙1および台紙2がポリエステルフィルムよりなる高速乾式複写機で容易に印刷できるバーコード紙」(以下、「刊行物1発明」という。)
が記載されている。
b.刊行物2:特開平2-245082号公報(=甲第3号証)
b.-1「表面基材の表面及び剥離基体の裏面の表面電気抵抗が1.0×1010Ω以下である・・・粘着シート」(請求項5)
c.刊行物3:特開平3-292338号公報(=甲第4号証)
c.-1「微細な空洞をフィルム内部に生成させる方法として、従来ポリエステルと相溶しないポリマーを押出機で溶融混練し、ポリエステル中に該ポリマーを微粒子状に分散させたシートを得て更に該シートを延伸することによって微粒子の周囲に空洞を発生させる方法が開示されている。」(2頁左上欄12〜17行)
c.-2「重合体混合物を配向処理する条件も空洞の生成と密接に関連がある。たとえば最も一般的に行われている逐次2軸延伸工程を例に挙げると、該重合体混合物の連続シートを長手方向にロール延伸した後に巾方向にテンター延伸する逐次2軸延伸法・・・一軸方向にのみ配向させた空洞含有フィルムは、収縮性フィルムや易引裂き性フィルムなどに有用である」(3頁右下欄17行〜4頁左上欄11行)
d.刊行物4:特開平2-284929号公報(=甲第5号証)
d.-1「ポリエステルにポリオレフィン系樹脂を5〜30重量%添加し、2軸延伸した・・・白色ポリエステルフィルム」(請求項1参照)
d.-2「本発明でいうボイドとは、ポリエステルと添加物質との界面が延伸によって引きはがされ、フィルム中にできた空間をいう。・・・ボイドの平均球相当径が1〜100μmであることが好ましい。・・・1未満であると・・・フィルムの白さ、光学濃度が足りなくなる」(3頁右下欄14行〜4頁左上欄15行)
e.刊行物5:実願昭62-37733号(実開昭63-144269号)のマイクロフィルム(=甲第6号証)
e.-1「表面101が電子写真用複写機で複写でき、裏面102が物品に貼着できるように接着剤を塗布したのり付き紙10と前記のり付き紙10の裏面102と剥離可能に接着した台紙20とからなるのり付きはくり紙」(実用新案登録請求の範囲参照)
e.-2「のり付き紙10は、・・・ポリエステルフィルム11の表面111を電子写真用複写機で複写できるように、粒子サイズ0.007μ〜0.016μのシリカを・・・含有したポリオレフィン系樹脂層12を1μ〜5μ厚に塗布して固有抵抗値を1×108オーム〜1×1013オームの範囲にし、裏面112に物品に貼着できると共に台紙20に剥離可能に接着するアクリル系接着剤の塗布層13を・・・塗布し・・・台紙20は・・・ポリエステルフィルム21の表面211に、・・・剥離層22を設けると共に、裏面212に粒子サイズ0.07以上のシリカを適当量附着させると共に静電防止剤をその表面に塗布した塗布層23を設けている。」(明細書4頁4行〜5頁12行)
以上の記載を対比のためにまとめると、電子写真用複写機で複写できるように、粒子サイズ0.007μ〜0.016μのシリカを含有したポリオレフィン系樹脂層12を1μ〜5μ厚に塗布して固有抵抗値を1×108オーム〜1×1013オームの範囲にした「表面111」は、帯電防止処理が施されているといえ、また、粒子サイズ0.07以上のシリカを適当量附着させると共に静電防止剤をその表面に塗布した塗布層23を設けている「裏面212」も、帯電防止処理が施されているといえるので、「のり付きはくり紙」の表裏両面に帯電防止処理が施されているといえるから、
上記刊行物5には、
「のり付き紙10、接着剤の塗布層13および台紙20を順次積層してなるのり付きはくり紙であって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、その固有抵抗値が1×108オーム〜1×1013オームの範囲であり、のり付き紙10および台紙20がポリエステルフィルムよりなる電子写真用複写機で複写できるのり付きはくり紙。」(以下、「刊行物5発明」という。)
が記載されている。
イ.理由2について、
a.刊行物1発明と本件発明1との一致点、相違点の認定
刊行物1発明の「記録用紙1」、「接着剤層」および「台紙2」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「粘着剤層」および「離型支持体」に相当し、また、刊行物1発明の「バーコード紙」はその記録用紙1を台紙2から剥離して商品に貼りつけるものであるので、本件発明1の「レーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル」と、粘着フィルムラベルである点で共通しており、さらに、刊行物1発明の固有抵抗値が表面電気抵抗値であることは自明であり、したがって、刊行物1発明の「固有抵抗値が1×108オーム〜1×1012オームの範囲内であり」は、本件発明1の「表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満であり」と相当程度の範囲で重複するから、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「基材、粘着剤層および離型支持体を順次積層してなる粘着フィルムラベルであって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、その表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満であり、かつ該基材および該離型支持体がポリエステルフィルムよりなる粘着フィルムラベル。」
〔相違点〕
A.本件発明1が粘着フィルムラベルを「レーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル」としている点、
B.基材および離型支持体を構成するポリエステルフィルムを、本件発明1では、二軸配向ポリエステルフィルムとしているのに対して、刊行物1発明では定かでない点、
C.本件発明1では、離型支持体が半透明であり、基材が白色であるとしているのに対して、刊行物1発明では、その点が定かでない点。
b.判断
相違点Aについて、
本件発明1における「レーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル」とは、上述したように、「電子写真方式による印字に好適な粘着フィルムラベル」を意味していると解され、また、刊行物1発明のバーコード紙(粘着フィルムラベル)は、トナ附着されるもので、その表裏の表面固有抵抗値(表面電気抵抗値)を所定の範囲とする必要がある(上記a.-3参照)ことからみて、その印字手段の「高速乾式複写機」(上記a.-2参照)とは、転写プロセスが静電転写方式を使用する電子写真方式のものと認められるから、刊行物1発明のバーコード紙(粘着フィルムラベル)も、「電子写真方式による印字に好適な粘着フィルムラベル」といえ、相違点Aは、単なる呼称の違いにすぎず、実質的な相違点でない。
相違点Bについて、
通常、ポリエステルフィルムとして二軸配向ポリエステルフィルムを使用することは、上記刊行物4および5にみられるように周知であるから、相違点Bも、実質的な相違点でない。
相違点Cについて、
上述したように、一般に、粘着フィルムラベルの離型支持体は、使用において、剥がされるもので、その隠蔽性をあまり要求されないものであり、粘着フィルムラベルの基材と材質及び色等を違えることも普通のことであることを考えると、刊行物1発明において、ポリエステルフィルムからなる「記録用紙1」(基材)および「台紙2」(離型支持体)を、それぞれ、半透明および白色とすることは、当業者が適宜なす程度のことであり、その作用効果も格別なものでない。
したがって、本件発明1は、刊行物1発明および周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明3のように、ポリエステルフィルムに空洞を含有させることは、ポリエステルフィルムの白色度を増す為などの為に、空洞を含有させることが上記刊行物4および5にみられるように周知であるから、本件発明3は、刊行物1発明および周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものである。
さらに、刊行物1には、「記録用紙1」(基材)の表面にトナー樹脂とマット剤(粒子サイズ0.007μ〜0.016μのシリカ)を塗布すること、すなわち、「記録用紙1」(基材)の印字される側の表面に、微粒子とバインダー樹脂により粗面化されたトナー受容層を設けることが記載されているといえ、また、「台紙2」(離型支持体)の表面21にシリコン樹脂を塗布(層)211し、裏面22に静電防止剤とマット剤とを塗布(層)221すること、すなわち、「台紙2」(離型支持体)の離型処理されていない表面を粗面することが記載されているといえ、さらに、バーコード紙(粘着フィルムラベル)の表裏各々の固有抵抗値が1×108オーム〜1×1012オームの範囲内は、本件発明2の粘着フィルムラベルの表裏各々の表面電気抵抗値が1×1010〜5×1011Ωであると相当程度の範囲で重複しているから、本件発明2も、刊行物1発明および周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1乃至3は、刊行物1発明および周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから理由2も理由があるものと認められる。

ウ.理由3について、
a.刊行物5発明と本件発明1との一致点、相違点の認定
刊行物1発明の「のり付き紙10」、「接着剤の塗布層13」および「台紙20」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「粘着剤層」および「離型支持体」に相当し、また、刊行物1発明の「のり付きはくり紙」その「のり付き紙10」を「台紙20」剥離して物品に貼りつけるものであるので、本件発明1の「レーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル」と、粘着フィルムラベルである点で共通しているから、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「基材、粘着剤層および離型支持体を順次積層してなる粘着フィルムラベルであって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、該基材および該離型支持体がポリエステルフィルムよりなる粘着フィルムラベル。」
〔相違点〕
A.本件発明1が粘着フィルムラベルを「レーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル」としている点、
B.基材および離型支持体を構成するポリエステルフィルムを、本件発明1では、二軸配向ポリエステルフィルムとしているのに対して、刊行物5発明では定かでない点、
C.本件発明1では、離型支持体が半透明であり、基材が白色であるとしているのに対して、刊行物5発明では、その点が定かでない点、
D.本件発明1では、粘着フィルムラベルの表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満であるのに対して、刊行物5発明では、その表面の固有抵抗値が1×108オーム〜1×1013オームの範囲であるが、裏面の表面電気抵抗値が定かでない点。
b.判断
相違点Aについて、
本件発明1における「レーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル」とは、上述したように、「電子写真方式による印字に好適な粘着フィルムラベル」を意味していると解され、また、刊行物5発明ののり付きはくり紙(粘着フィルムラベル)は、電子写真複写機で複写されるもの(上記e.-1参照)であるから、刊行物5発明ののり付きはくり紙(粘着フィルムラベル)も、「電子写真方式による印字に好適な粘着フィルムラベル」といえ、相違点Aは、単なる呼称の違いにすぎず、実質的な相違点でない。
相違点BおよびCについて、
上記相違点BおよびCに同じ。
相違点Dについて、
上記刊行物1には、上述したとおり、本件発明1の「粘着フィルムラベルの表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満である」の要件および本件発明2の「粘着フィルムラベルの表裏各々の表面電気抵抗値が1×1010〜5×1011Ωである」の要件をみたすバーコード紙(粘着フィルムラベル)が記載されており、また、静電転写プロセス(コロナ転写)を持つ電子写真方式において、被転写体の電気抵抗の上下を適宜に設定することが本件出願当時周知であることは、例えば、「良好な転写を行うためには、・・・各種の条件が必要となる。記録紙の電気抵抗もその一つであり、一般には、109〜1012Ωcmの範囲にする必要がある。例えば、高湿度時などに108Ωcm以下になると、コロナ放電による記録紙上の電荷がアース側にリークして転写不良となる。また、転写紙の抵抗が1013Ωcm以上となると、記録紙の分離時にトナーの飛散が起こりやすい。」(電子写真学会編「電子写真技術の基礎と応用」初版第1刷、昭和63年6月15日、株式会社コロナ社、p67、(1)コロナ転写法の項参照)の記載にみられるとおりである。
ゆえに、相違点Dも、当業者が適宜なす程度のことと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物5発明、刊行物1に記載された発明および周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明3のように、ポリエステルフィルムに空洞を含有させることは、ポリエステルフィルムの白色度を増す為などの為に、空洞を含有させることが上記刊行物4および5にみられるように周知であるから、本件発明3は、刊行物5発明、刊行物1に記載された発明および周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものである。
さらに、刊行物5には、「のり付き紙10」(基材)の印字される側の表面に、微粒子とバインダー樹脂により粗面化されたトナー受容層を設け、「台紙20」(離型支持体)の離型処理されていない表面を粗面にすることが記載されているといえるから、本件発明2も、刊行物5発明、刊行物1に記載された発明および周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1乃至3は、刊行物5発明、刊行物1に記載された発明および周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから理由3も理由があるものと認められる。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1乃至3に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粘着フィルムラベル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材、粘着剤層および離型支持体を順次積層してなるレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベルであって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、その表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満であり、かつ該基材および該離型支持体が二軸配向ポリエステルフィルムよりなり、さらに該離型支持体が半透明であり、該基材が白色であることを特徴とするレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。
【請求項2】 前記基材の印字される側の表面に、微粒子とバインダー樹脂により粗面化されたトナー受容層を設け、かつ前記離型支持体の離型処理されていない表面が粗面化されており、さらに当該粘着フィルムラベルの表裏各々の表面電気抵抗値が1×1010〜5×1011Ωであることを特徴とする請求項1記載のレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。
【請求項3】 前記基材および離型支持体がいずれも内部に空洞を含有する二軸配向ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1記載のレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベル。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、粘着ラベル(例えば、工程管理ラベル、棚管理ラベル等の粘着ラベル)として有用で、かつレーザービーム方式等の電子写真方式によるトナー定着印字方式に好適な、トナーとび(飛散)が防止された粘着フィルムラベルに関する。
【0002】
【従来技術・発明が解決しようとする課題】
従来より、離型剤(シリコーン、ポリエチレン等)により離型処理された紙を離型支持体とし、その上に粘着剤層、基材(紙)が積層された粘着ラベルは、その基材上に印刷、印字等が施された後、適宜離型支持体を剥離して、目的物上に貼合わせて用いられている。
【0003】
この粘着ラベルにおいて、基材が紙である場合は、耐水性、耐摩耗性等、強度を必要とする用途には適用が困難であるばかりでなく、貼り付け使用時にラベルが吸放湿により寸法変化することにより、皺・剥がれ等のトラブルを生じ易い。
【0004】
また、基材または離型支持体が紙よりなる場合は、紙が吸湿または放湿により寸法変化を起こすことにより、基材と離型支持体との間に寸法差を生じ、シートが片側にカールする現象が起こり、後工程での実用が困難である。さらに、粘着加工時の巻取りによる巻きぐせがつき易い。
このため、できるだけ寸法差をなくするように、粘着加工時に紙に水分を与える等の工夫もなされているが、充分な効果が得られていない。
【0005】
そこで、基材および離型支持体をプラスチックフィルムとする試みがなされている。
ところが最近では、管理のコンピューター化・高速化に伴い、バーコードラベルが多く用いられており、そのバーコードはレーザービーム方式等の電子写真方式によるトナー定着方式によって印字されることが多い。そのため、かかる粘着フィルムラベルを使用した場合、トナーとびが起こり、バーコードの線に滲みが生じる。これはバーコードを読む時の誤読の原因となるので大きな問題となっている。
【0006】
本発明の目的は、電子写真方式等のトナー定着方式によって印字される場合にもトナーとびの少ない粘着フィルムラベルを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、本発明、即ち基材、粘着剤層および離型支持体を順次積層してなるレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベルであって、その表裏両面に帯電防止処理が施され、その表面電気抵抗値が表裏各々1×109Ωを超えて1×1013Ω未満であり、かつ該基材および該離型支持体が二軸配向ポリエステルフィルムよりなり、さらに該離型支持体が半透明であり、該基材が白色であることを特徴とするレーザービーム方式印字用粘着フィルムラベルによって達成される。
【0008】
本発明において、粘着フィルムラベルは基本的には、例えば図1に示した通り基材上に粘着剤層、さらに離型支持体が積層された構造を有している。
【0009】
本発明において、基材としてはプラスチックフィルムが用いられる。具体的には、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン等のフィルムが挙げられる。好ましくは二軸配向されたポリエステルフィルムであり、これを用いた場合には印字時の熱変形等の問題が少なく、より顕著に効果が発揮される。さらに、二軸配向されたポリエステルフィルムの中でも内部に空洞(ボイド)を含有するポリエステルフィルムが、隠蔽性、クッション性等の印字適性の観点から特に好ましい。
【0010】
さらに、基材の表面(印字される側)に、印字時のトナー受容層部として、トナーとの親和性に優れた樹脂よりなる層を設けることが好ましい。このような樹脂としては、例えば無機または有機の成分よりなるマット化剤微粒子を含有するバインダー樹脂等が挙げられる。
また、基材(トナー受容層部を設けた場合には、トナー受容層部)の表面は、表面の滑りやすさ、トナーの耐擦過性を向上させるため等の目的で粗面化されていることが好ましい。
【0011】
上記基材の厚みは、好ましくは10〜100μmであり、さらに好ましくは25〜90μmである。
また、トナー受容層部を設けた場合、その厚みは、好ましくは0.1〜10μmであり、さらに好ましくは0.2〜5μmである。
【0012】
粘着剤層用の粘着剤としては、この分野で通常用いられている溶剤系または水系の粘着剤、例えば天然ゴム系、合成ゴム系、アクリル系等の粘着剤が挙げられる。
また、粘着剤層の厚みは好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは5〜20μmである。
【0013】
離型支持体に用いられる材料としては、プラスチックフィルム、紙等であり、例えばポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、クラフト紙、グラシン紙等が挙げられ、好ましくは二軸配向されたポリエステルフィルムである。本発明においては、離型支持体材料としてプラスチックフィルムを使用した場合に、より顕著に効果が発揮される。
また、離型支持体と基材とは類似の熱収縮性を有しているもの(特に、同一素材)を使用することが好ましい。かくして、印刷時における熱によるカールが抑制される。
【0014】
離型支持体は、通常離型処理されており(離型層部)、その処理としては例えばシリコーン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等による表面コーティングが例示される。
【0015】
また、離型支持体は透明タイプまたは着色タイプのいずれでもよいが、半透明マット調が好ましい。マット化は、透明あるいは粒子・空洞等を含有する半透明ベースフィルム上に、無機粒子等を含有させた樹脂をコートする方法、サンドマットやケミカルマット等の方法等により行われる。
さらに、離型支持体は、フィルムラベルの印刷時の走行性、印刷物の引揃え性をよくする目的で、その表面(離型処理されていない側)は適度に粗面化されている(粗面化層部)ことが好ましい。
【0016】
上記離型支持体の厚みは、好ましくは20〜250μmであり、さらに好ましくは50〜100μmである。
【0017】
本発明の粘着フィルムラベルにおいては、その表裏両面が帯電防止処理を施されてなることを特徴とし、その帯電防止レベルとしては、通常、表裏各々の表面電気抵抗値で1×109Ωを越えて1×1013Ω未満であり、好ましくは1×1010〜1×1012Ω、さらに好ましくは1×1010〜5×1011Ωである。
表面電気抵抗値が、1×109Ω以下では帯電性が少なすぎてトナーの転移不良が生じる恐れがあり、1×1013Ω以上ではトナーとびを十分に阻止することができない。
なお、表面電気抵抗値は、23℃、65%RHの下で、JIS K6911に準じて測定したものである。
【0018】
帯電防止処理を施す手段としては、例えば帯電防止剤を塗布する方法等が例示される。
帯電防止剤としては、例えば界面活性剤(例えば、アルキル硫酸塩等のアニオン系、アルキルアンモニウム塩等のカチオン系、ポリオキシエチル、アルキルエーテル等のノニオン系等)、無機塩(塩酸、硫酸、リン酸、炭酸、亜硫酸、亜リン酸、その他の無機酸とアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンとの塩類等:例えば食塩、塩化マグネシウム等)、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等およびそれらの縮合物等)、金属化合物(例えば、チタン、錫、亜鉛、その他の金属酸化物等の導電性微粒子等)、カーボン等が挙げられる。
【0019】
当該粘着フィルムラベルは、自体既知の方法にて、基材、粘着剤層および離型支持体を積層させ、さらに、これの表裏両面に帯電防止処理を行うことによって製造される。
【0020】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例における粘着フィルムラベルの構成は図2に示す通りである。
【0021】
実施例1
離型支持体として、片面にシリコーン樹脂がコートされた離型層部を有し、反対面に帯電防止剤(カチオン系アクリルポリマー)を含有するマットコート層により粗面化された粗面化層部を有するポリエステル系フィルム(東洋紡績社製、クリスパーH7215)50μmを用い、この離型処理面(離型層部)上にアクリル系共重合体粘着剤を塗布した。さらに基材として、片面に帯電防止剤(カチオン系アクリルポリマー)を含有するトナー受容層部がコートされ、内部に空洞を含有する白色ポリエステル系フィルム(東洋紡績社製、クリスパーG2312)50μmを用い、これのトナー受容層部の反対面を粘着剤層上に貼合わせて積層し、粘着フィルムラベルを得た。
この粘着フィルムラベルの表面電気抵抗値を前述の方法により測定したところ、表面(基材表面)1.5×1010Ω、裏面(離型支持体表面)3.0×1010Ωであった。
【0022】
実施例2
実施例1で得られた粘着フィルムラベルと同じ構造で、表面電気抵抗値を表面2.8×1011Ω、裏面1.2×1011Ωとした粘着フィルムラベルを得た。
【0023】
実施例3
実施例1で得られた粘着フィルムラベルと同じ構造で、表面電気抵抗値を表面1.0×1012Ω、裏面3.0×1012Ωとした粘着フィルムラベルを得た。
【0024】
実施例4
実施例1で得られた粘着フィルムラベルと同じ構造であるが、離型支持体の粗面化層部および基材のトナー受容層部中に帯電防止剤を含有させる代わりに、それらの外表面上にカチオン系界面活性剤の帯電防止剤溶液を塗布することにより、表面電気抵抗値を表面1.2×1010Ω、裏面2.1×1010Ωとした粘着フィルムラベルを得た。
【0025】
比較例1
実施例1で得られた粘着フィルムラベルと同じ構造であるが、離型支持体の粗面化層部および基材のトナー受容層部中に帯電防止剤を含有させず、帯電防止処理を施していない粘着フィルムラベルを得た。
【0026】
比較例2
実施例1で得られた粘着フィルムラベルと同じ構造で、表面のみを5.0×1010Ωとなるように帯電防止処理し、裏面には帯電防止処理を施していない粘着フィルムラベルを得た。
【0027】
比較例3
実施例1で得られた粘着フィルムラベルと同じ構造で、裏面のみを3.0×1010Ωとなるように帯電防止処理し、表面には帯電防止処理を施していない粘着フィルムラベルを得た。
【0028】
実験例1
実施例および比較例で製造した粘着フィルムラベルのトナーとびを調べた。
即ち、基材側を上面(印字面)として、レーザービームプリンター〔京セラ(株)製、L580;印字速度8枚/分〕を用いて印字し、その印字状態を調べ、結果を表1に示した。
なお、印字状態は以下の基準により評価した。
1: トナーとび無
2: 拡大鏡で見るとバーコードの細い線が少し滲んでいる
3: バーコードの細い線が少し部分的に滲んでいる(実用許容レベル)
4: バーコードの細い線が少し滲んでいる(バーコードの読み取りには支障ないが、美観が悪い)
5: トナーとびがひどく、バーコードの細い線が滲んでいる
【0029】
【表1】

【0030】
【発明の効果】
本発明の粘着フィルムラベルは、電子写真方式等のトナー定着方式によって印字される場合にもトナーとびが少なく、例えば当該粘着フィルムラベルをバーコード用として使用した場合に、バーコードの読み取りが正確に行えるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の粘着フィルムラベルの概念を示す断面図である。
【図2】
本発明の粘着フィルムラベルの実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
1:基材
2:粘着剤層
3:離型支持体
4:トナー受容層部
5:離型層部
6:粗面化層部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-05-27 
出願番号 特願平4-180121
審決分類 P 1 651・ 16- ZA (G09F)
P 1 651・ 121- ZA (G09F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 仁木 浩  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 清水 康司
津田 俊明
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3326817号(P3326817)
権利者 東洋紡績株式会社
発明の名称 粘着フィルムラベル  
代理人 幸 芳  
代理人 土井 京子  
代理人 幸 芳  
代理人 土井 京子  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 高島 一  
代理人 栗原 弘幸  
代理人 山本 健二  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 山本 健二  
代理人 高島 一  
代理人 栗原 弘幸  
代理人 谷口 操  
代理人 谷口 操  

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