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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
管理番号 1104437
異議申立番号 異議2002-71421  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-07 
確定日 2004-07-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3236210号「法面緑化のための植生決定方法及び植栽方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3236210号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3236210号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成8年2月16日に特許出願され、平成13年9月28日にその発明について特許権の設定登録がなされ、この特許に対し、平成14年6月7日に特許異議の申立てがなされ、取消し理由を通知したところ、平成15年4月3日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正請求について
2-1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、次のとおりである(下線部分が訂正個所である。)。
(1)訂正事項a
特許明細書の【発明の名称】を「法面緑化のための植栽方法」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書の特許請求の範囲において、請求項1を削除する。
(3)訂正事項c
特許明細書の特許請求の範囲の【請求項2】の記載を、
「【請求項1】
法面緑化工を予定する切土法面の周辺地域において、植物社会学的植生調査を複数調査地点で実施し、この調査結果をもとに作成された植物群落組成表を用いて、前記周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、この群落を緑化工における目標とする植生タイプとし、この植生タイプを構成する樹種について乾燥に強い樹種とそれ以外の樹種とを前記植物群落組成表を用いて判別し、判別された乾燥に強い複数の樹種を、前記法面緑化工の植生における高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種として、前記目標とする植生タイプにおける階層と樹種の関係に基づいて割り振って導入する複数の樹種を決定し、その決定された複数の樹種を、厚層基材吹付工上に、苗木段階で階層構造を形成するように植栽することを特徴とする法面緑化のための植栽方法。」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の段落【0001】の記載を、
「【発明の属する技術分野】本発明は法面緑化のための植栽方法に係り、特に、法面周辺の生態系を考慮して、法面における自然状態の復元を目指すようにした法面緑化のための植栽方法に関する。」と訂正する。
(5)訂正事項e
特許明細書の段落【0005】の記載を、「そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、周辺の植物群落の中から法面の環境に似た立地を考慮するようにした法面緑化のための植栽方法を提供することにある。」と訂正する。
(6)訂正事項f
特許明細書の段落【0006】の記載を、
「【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は法面緑化工を予定する切土法面の周辺地域において、植物社会学的植生調査を複数調査地点で実施し、この調査結果をもとに作成された植物群落組成表を用いて、前記周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、この群落を緑化工における目標とする植生タイプとし、この植生タイプを構成する樹種について乾燥に強い樹種とそれ以外の樹種とを前記植物群落組成表を用いて判別し、判別された乾燥に強い複数の樹種を、前記法面緑化工の植生における高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種として、前記目標とする植生タイプにおける階層と樹種の関係に基づいて割り振って導入する複数の樹種を決定し、その決定された複数の樹種を、厚層基材吹付工上に、苗木段階で階層構造を形成するように植栽することを特徴とする。」と訂正する。
(7)訂正事項g
特許明細書の段落【0007】の記載を削除する。
(8)訂正事項h
特許明細書の段落【0011】の記載を、
「【発明の実施の形態】
以下、本発明の法面緑化のための植栽方法の一実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の法面緑化のための植栽方法の一連作業手順を示した作業フローチャートである。以下、このフローチャートに基づいて説明を行う。
まず、導入植生決定のプロセスについて説明する。このプロセスにおける最大の特徴は、「乾燥し土壌の薄い立地」に成立する植生タイプを構成する樹種の中から植栽の対象となる使用樹種を選び出す点である。切土により軟岩等が露出したような法面では、法面緑化工として所定厚の厚層基材吹付を行い植生基盤を造成するが、この植生基盤は層厚が非常に薄く法面勾配も急なため、十分な保水能力が得られず、乾燥しがちとなる。このため、将来、法面上に周辺の現存植生と同じような植生を成立させるには、周辺の自然中に分布する様々な植生のうち「乾燥し土壌の薄い立地」に成立している植生タイプをその目標植生として設定することがポイントとなる。」と訂正する。
(9)訂正事項i
【図面の簡単な説明】の欄に記載された「【図1】本発明による法面緑化のための植生決定方法及び植栽方法の一実施の形態を示した作業フローチャート。」を「【図1】本発明による法面緑化のための植栽方法の一実施の形態を示した作業フローチャート。」と訂正する。
(10)訂正事項j
【図面の簡単な説明】の欄に記載された「【図3】本発明の植生決定方法によって選定された導入樹種を、・・・」を「【図3】本発明の植生決定プロセスによって選定された導入樹種を、・・・」と訂正する。
(11)訂正事項k
【図面の簡単な説明】の欄に記載された「【図5】本発明の植生決定方法によって選定された導入樹種を、・・・」を「【図5】本発明の植生決定プロセスによって選定された導入樹種を、・・・」と訂正する。
(12)訂正事項l
【図面の簡単な説明】の欄に記載された「【図7】本発明の植生決定方法によって選定された導入樹種を、・・・」を「【図7】本発明の植生決定プロセスによって選定された導入樹種を、・・・」と訂正する。

2-2.訂正の適否
(1)訂正事項bについて
上記訂正事項bは請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項cについて
上記訂正事項cは、特許請求の範囲の記載において、「土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、」を「前記周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、」と限定し、「厚層基材吹付工上に、植栽する」を「厚層基材吹付工上に、苗木段階で階層構造を形成するように植栽する」と、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、」については、段落【0011】及び【0012】に記載されており、「厚層基材吹付工上に、苗木段階で階層構造を形成するように植栽する」については、段落【0019】に記載されているので、訂正事項cによる訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新規事項を追加するものでなく、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項a及びd〜lについて
上記訂正事項a及びd〜lは、発明の名称及び発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項a及びd〜lによる訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新規事項を追加するものでなく、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
3-1.本件発明
上記「2.訂正請求について」で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正後の特許明細書における特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「法面緑化工を予定する切土法面の周辺地域において、植物社会学的植生調査を複数調査地点で実施し、この調査結果をもとに作成された植物群落組成表を用いて、前記周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、この群落を緑化工における目標とする植生タイプとし、この植生タイプを構成する樹種について乾燥に強い樹種とそれ以外の樹種とを前記植物群落組成表を用いて判別し、判別された乾燥に強い複数の樹種を、前記法面緑化工の植生における高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種として、前記目標とする植生タイプにおける階層と樹種の関係に基づいて割り振って導入する複数の樹種を決定し、その決定された複数の樹種を、厚層基材吹付工上に、苗木段階で階層構造を形成するように植栽することを特徴とする法面緑化のための植栽方法。」

3-2.引用刊行物記載の発明
(1)取消理由で引用した土木工学大系編集委員会編「土木工学大系 3 自然環境論(II)/植生と開発保全」株式会社彰国社 昭和59年9月10日第1版第2刷発行 250〜271頁(以下、「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-a)「野外で植物を観察する方法には,大きく分けて二つの視座がある。
一つは,目に触れる一つ一つの植物の種類に着目する方法である。・・・
もう一つは,植物を存在している環境ごとに,多くの種の集まったもの,すなわち,『集団』として把握する方法である。・・・
後者の考えは,同一の環境に存在する植物は,個々の植物が互いに有機的に結びついた関連を有し一つの集団を形成していることを前提としたものである。この観察・整理の方法は,植物の集まりをあたかも一つの社会を形成しているように考えているところから,『植物社会学』的な方法とされている。
植物の集団をとらえる基本単位として,『群集』と呼ばれる概念が用いられる。群集は,『一定の植物種の組合せを持ち,一定の外観を有した植物の集まり』とされている。」(250頁11行〜251頁1行),
(1-b)「また,『群集』が存在する環境,すなわち植物の存在する環境について,『立地』という概念が使われる。・・・そして,一定の「立地」には,必ず一定の『群集』などの植物社会学的な単位が対応している。ある決まった『立地』には,決まった『群集』が存在すると考える。」(251頁1〜18行)、
(1-c)「植物の生えかたを規制しているのは二つの条件である。一つは『立地』すなわち『外的な環境条件』(土,水分,気候等)であり,もう一つは,『内的環境条件』である,植物自身と,その集りである植物群落の社会的秩序である。」(251頁27行〜252頁1行)、
(1-d)「植物すなわち植物種群自身の特性は,環境によって変わるものではないことから,決まった空間においては,人間の影響のような外的環境条件の変動が加わらない限り,ある種の決まった植物群落がその空間を覆い,そして,平衡状態を示し安定する。・・・すなわち,その空間が支えることのできる本来の植生が存在する。この最も適した安定した植生,つまり,『立地』に対応する植生,これを,その環境あるいは空間における『潜在自然植生』という。これに対応し,現在存在している植物群落,現在の植生を『現存植生』という。この二つの植生は植物を扱う場合に常に基本となる情報である。
環境保全林を扱う場合,何を植えるべきか,あるいは,何を残すべきかといった基本的な事項は,これらの情報をもとに判断する。例えば,参照,現存自然植生と潜在自然植生とが一致している場合は自然度高いとされる。」(252頁2行〜同頁下から1行)、
(1-e)「環境保全林の形成にあたり,その植栽樹種の選定は,潜在自然植生および,これに類似の植物を植栽することを基本とする。」(253頁1〜2行)、
(1-f)「潜在自然植生の確定は,綿密な現地における植生調査によって得られる。」(253頁9行)、
(1-g)「第2は,植生調査を行い,現存植生,潜在自然植生を確定し,植栽樹種を選定し,植栽計画を作成する段階である。」(262頁16〜18行)、
(1-h)「2)植生調査の実施 『環境保全林』づくりの作業は,具体的には対象域ならびにできるだけ広くその周辺域において,きめの細い植生調査から始まる。」(263頁16〜18行)、
(1-i)「2)植生調査の実施」の説明として、
「調査は,ふつう次の順序で行われる。
(1)調査地点対象の選定
(2)群落階層の区分
(3)群落階層別の高さと各階層別,種のリストの作成
(4)被度・群度の判定
(5)現地での立地要因の判定,観察,記録
(6)調査データの分析・整理」(264頁2〜8行)、
(1-j)「環境保全林の形成の基礎となる潜在自然植生の判定・抽出を目的とする植生調査資料(アウフナーメ)の整理は,群落組成表の組替えなど各種の作業段階を経るが,最終的には,縦軸に『種のリスト』,横軸に『立地(環境)のリスト』が並び,『どのような立地においていかなる“種の組合せ”(植生単位・群落単位)が対応しているか』という相互関係を明確に整理,位置づける。その結果,調査地区においては,植生をみればその立地条件が判明し,またその逆に立地から相関する植生が判明することになる。」(267頁13行〜268頁6行)、
(1-k)「3) 植栽樹種の選定」の説明として、
「潜在自然植生を正しく調べ,その高木層を形成する構成種を選択しなければならない。」(269頁1〜2行))、
(1-l)「3) 植栽樹種の選定」の説明として、
「天然の森は,高木層,低木層等と多層の構造を持つ。天然の森に近いものを早期に創設する場合は,高木層を形成する樹種と低木層を形成する樹種とを同時に植栽する必要がある。」(269頁18〜20行)、
(1-m)「潜在自然植生を確認するためには,植栽地周辺の綿密な植生調査を実施する必要がある。」(270頁15〜16行)。
(1-n)262頁の「図5.42 環境保全づくりの技術手順(ヤブツバキ〈群網〉クラス域における」のマル2 植栽計画の作成には、「植生調査」、「植生単位決定」、「現存植生図化 潜在自然植生図化」、「植栽適性立地図作成」、「植栽樹種選定(潜在自然植生主要構成種)」と記載されている。
(1-o)267頁の「図5.46 植生調査の一例」には、「B-1(高木層) 16m 80%」、「B-2(亜高木層) 10m 40%」、「S(低木層) 3m 30%」、「K(草本層) 0.1m 15%」と記載されている。
上記記載事項と図の記載を参酌すると、引用刊行物1には、
環境保全林の形成を予定する対象域において、植物社会学的な方法を用いて対象域ならびにできるだけ広くその周辺域できめの細い植生調査を行い(1-a)(1-h)、
その植生調査資料(アウフナーメ)を、群落組成表の組替えなど各種の作業段階を経て、縦軸に『種のリスト』、横軸に『立地(環境)のリスト』を並べて『どのような立地においていかなる“種の組合せ”(植生単位・群落単位)が対応しているか』という相互関係を明確に整理、位置づけ(1-j)、
現存植生,潜在自然植生を確定し(上記(1-h)(1-o)参照)、
潜在自然植生及びこれに類似の植物を環境保全林の植栽樹種として選定し(上記(1-e)参照)、選定した樹種を植栽し、天然の森に近いものを早期に創設する場合は、高木層を形成する樹種と低木層を形成する樹種とを同時に植栽する環境保全林の植栽方法(以下、「引用刊行物1の発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)取消理由で引用した特開昭57-127019号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-a)「法面に金網を被蔽し、適宜アンカーピンを打込んで止着されるようなさしめると共に、客土を2cm〜15cm程度に吹付け、且つ該吹付け中凡そ1m2〜3m2に1本の割合で“あかまつ”“やしゃぶし”や“かし類”などの苗木及び又は笹根などを同時に植込んで行くようになすことを特徴とする植栽緑化工法。」(特許請求の範囲)、
(2-b)「最近、山肌を切削したあとの硬化地質や岩盤などの緑化工法が豊かな自然環境を保護する上で提唱されている。」(1頁左下欄13〜15行)、
(2-c)「本発明の実施にさいし予め客土中には“かや”“よもぎ”や“めどはぎ”などの植物種子を混入させておくようにすると良く」(2頁左上欄18〜20行)、
(2-d)「上記説明に於ける客土6の吹付け厚さの下限である2cmは、本発明者の実験結果から前記苗木類が法面上で枯死することなく生育可能とする最小必要限の厚さであり、且つその最大斜度は60°位までを可能とする。このさい傾斜度が緩やかなときは吹付け厚さを小となすことができるのである。一方、上限厚さはこれを15cm以上に吹付けることも何ら差支えないのであるが、吹付けコストが上昇することから好ましくなく、通常5cm〜10cmの範囲で実施する。」(2頁右上欄3〜13行)、
(2-e)「本発明方法に於いて“あかまつ”“やしゃぶし”や“かし類”などの木や笹根などは転石地、軟岩、風化岩、破質硬土等での生育に良く適するのであつて、本発明者の実験によれば上記範囲の客土6の吹付け厚さで枯死したりすることの無いことが確認できた。」(2頁右上欄14〜19行)。
上記記載事項と図の記載を参酌すると、引用刊行物2には、
法面に金網を被蔽し、適宜アンカーピンを打込んで止着されるようなさしめると共に、“かや”“よもぎ”や“めどはぎ”などの植物種子を混入させた客土を2cm〜15cm程度に吹付け、且つ該吹付け中凡そ1m2〜3m2に1本の割合で“あかまつ”“やしゃぶし”や“かし類”などの苗木及び笹根などを同時に植込んで行く植栽緑化工法(以下、「引用刊行物2の発明」という。)が記載されていると認められる。

3-3.対比・判断
(1)本件発明と引用刊行物1の発明との対比
本件発明と引用刊行物1の発明とを対比すると、本件発明の「法面緑化工」と引用刊行物1の発明の「環境保全林の形成」は、人工的に植栽して緑化することであるから、緑化工ということができる。
また、引用刊行物1の発明の「対象域ならびにできるだけ広くその周辺域できめの細い植生調査を行い」は、環境保全林の形成を予定する区域の周辺地域において、複数調査地点で植生調査を行なっているといえるし、引用刊行物1の発明の「潜在自然植生及びこれに類似の植物を環境保全林の植栽樹種として選定し」は、潜在自然植生を環境保全林を目標の植生タイプとすることである。
そうすると、本件発明と引用刊行物1の発明とは、
緑化工を予定する位置の周辺地域において、植物社会学的植生調査を複数調査地点で実施し、この調査結果をもとに作成された植物群落組成表を用いて緑化工における目標とする植生タイプを決め、この植生タイプに基づいて複数の樹種を決定し、その決定された複数の樹種を植栽する緑化のための植栽方法で一致し、下記相違点(A)ないし(E)で構成が相違している。
相違点(A)
緑化工を予定するのが、本件発明では、「切土法面」であるのに対し、引用刊行物1の発明では、環境保全林の形成を予定する区域である点、
相違点(B)
植栽方法が、本件発明では、「厚層基材吹付工上」に植栽する「法面緑化のための」ものであるのに対し、引用刊行物1の発明では、環境保全林の形成のためのものである点、
相違点(C)
緑化工における目標とする植生タイプを、本件発明では、「植物群落組成表を用いて、前記周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し」て決めているのに対し、引用刊行物1の発明では、植物群落組成表を用いて潜在自然植生を抽出しているが、周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出しているか不明である点、
相違点(D)
導入する複数の樹種を、本件発明では、目標とする「植生タイプを構成する樹種について乾燥に強い樹種とそれ以外の樹種とを前記植物群落組成表を用いて判別し、判別された乾燥に強い複数の樹種を、前記法面緑化工の植生における高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種として、前記目標とする植生タイプにおける階層と樹種の関係に基づいて割り振って」決定しているのに対し、引用刊行物1の発明では、乾燥に対する樹種の強弱について検討するものではなく、高木層と低木層を構成する樹種を導入することは明示されているが、亜高木層、草本層を構成する樹種を導入するか不明である点、
相違点(E)
決定された複数の樹種を、本件発明では、「厚層基材吹付工上に、苗木段階で階層構造を形成するように植栽する」のに対し、引用刊行物1の発明では、環境保全林の形成のために高木層を形成する樹種と低木層を形成する樹種とを同時に植栽する点。
そこで、上記相違点について以下検討する。
相違点(A)及び(B)について
引用刊行物2には、土木作業に伴い山肌を切削した際に現出する硬質地盤や岩盤等の法面に、切土法面を緑化する基盤となる客土(すなわち、植生基盤)を2cm〜15cm程度に吹付けて構成し、この客土(植生基盤)上に複数の樹種の苗木を植栽して法面を緑化することが記載されている。
そして、植生基盤をこのような厚さに吹き付ける工法は厚層基材吹付工と認められるから、引用刊行物2には、法面緑化工を予定する切土法面の厚層基材吹付工上に、複数の樹種の苗木を植栽することが開示されており、しかも、引用刊行物1の発明と引用刊行物2に記載された発明とは、人工的に植栽する緑化工では共通しているので、引用刊行物1の発明を法面緑化工に適用して、上記相違点(A)及び(B)における本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
相違点(C)について
土木作業に伴い山肌を切削した際に現出する硬質地盤や岩盤等の法面(切土法面)は、法面勾配が急であるとともに、その法面に植生を行う場合、植生基材(引用刊行物2では客土と表記)を所定厚に吹付けて植生基盤を造成するのが一般的であるが、このようにして造成した植生基盤は、厚さもそれ程厚くなくしかも急斜面であることから、十分な保水力が得られず、土壌の薄い乾燥した立地となることは、従来周知な事項である。したがって、切土法面に造成した植生基盤に植生を行う場合、採用される種(樹種)として乾燥に強い種(樹種)を選択しなければならないことは、自明のことである。しかも、引用刊行物1の発明において潜在自然植生を抽出するのは、その環境(現在の環境)が支えることができる最終の植生(極相林)を抽出するためである。してみると、切土法面を緑化するにあたり、該切土法面に造成した植生基盤(すなわち、乾燥し土壌の薄い立地となる植生基盤)と同じような環境条件であって、その環境条件下における最終の植生(極相林)あるいはそれに近い植生である、法面緑化工を予定する切土法面の周辺地域における「土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落」を抽出することは、上記周知事項を参酌し引用刊行物1の記載から当業者が容易に想到し得ることである。
相違点(D)について
引用刊行物1には、緑化工の予定地に、高木層と低木層を構成する樹種を導入すること(上記(1-l)参照)が記載されているが、亜高木層と草本層を構成する樹種を導入することについて記載されていない。しかしながら、引用刊行物1には、環境保全林の形成にあたり、その環境あるいは空間における最も適した安定した植生である「潜在自然植生」によってその植栽樹種を選定することが記載されており(上記(1-d)(1-e)参照)、また、植生調査では、「高木層」、「亜高木層」、「低木層」、「草本層」から構成される階層構造について調査しており(上記(1-o)参照)、さらに、森(森林)は高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成されている(上記(1-l)参照)ことを考慮すると、植栽の当初から高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種を導入する程度のことは当業者が容易に想到し得ることであり、その際、植栽する場所の環境等を考慮して乾燥に強い樹種に決定することは当業者なら適宜できることである。
相違点(E)について
引用刊行物1の発明は、高木層を形成する樹種と低木層を形成する樹種の苗木を同時に植栽するものであり、植栽する樹種への日当たり等を考慮し、上記相違点(D)で決定された複数の樹種を苗木段階で階層構造を形成するように植栽する程度のことは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記相違点を総合しても本件発明が格別の作用、効果を奏するものとは認めることができない。
したがって、本件発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明と引用刊行物2の発明との対比
本件発明と引用刊行物2の発明とを対比すると、引用刊行物2の発明の「客土を2cm〜15cm程度に吹付け」ることは厚層基材吹付工ということができるから、両者は、
複数の樹種を、厚層基材吹付工上に、植栽する法面緑化のための植栽方法で一致し、次の相違点(あ)及び(い)の点で構成が相違する。
相違点(あ)
厚層基材吹付工上に、植栽する複数の樹種を決定するのに、本件発明では、「法面緑化工を予定する切土法面の周辺地域において、植物社会学的植生調査を複数調査地点で実施し、この調査結果をもとに作成された植物群落組成表を用いて、前記周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、この群落を緑化工における目標とする植生タイプとし、この植生タイプを構成する樹種について乾燥に強い樹種とそれ以外の樹種とを前記植物群落組成表を用いて判別し、判別された乾燥に強い複数の樹種を、前記法面緑化工の植生における高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種として、前記目標とする植生タイプにおける階層と樹種の関係に基づいて割り振って導入する複数の樹種を決定」しているのに対し、引用刊行物2の発明では、“あかまつ”“やしゃぶし”や“かし類”などの苗木及び笹根などを同時に植込んでいるが、これらの樹種をどのようにして決定しているか不明である点、
相違点(い)
決定された複数の樹種を、本件発明では、「苗木段階で階層構造を形成するように植栽する」のに対し、引用刊行物2の発明では、“あかまつ”“やしゃぶし”や“かし類”などの苗木及び笹根などを同時に植込んでいるが、これらを苗木段階でどのように植栽しているか不明である点。
上記相違点について検討する。
相違点(あ)について
引用刊行物1には、環境保全林の形成にあたり、環境保全林の形成を予定する対象地域において、植物社会学的植生調査を複数調査地点で実施し、群落組成表を用いて潜在自然植生を確定し、潜在自然植生および、これに類似の植物を植栽樹種として選定することが記載されており、引用刊行物2の発明と引用刊行物1記載の発明とは人工的に植栽する緑化工では共通しているから、引用刊行物2の発明において、その樹種を決定する際に、引用刊行物1記載の発明を適用することは当業者なら容易に想到できることである。
そして、引用刊行物2の発明は、法面に客土を2cm〜15cm程度に吹付けて植生基盤を造成しており、植生基盤が薄くしかも急斜面であり、十分な保水力が得られず、乾燥した立地であることは明らかである(引用刊行物2の発明においても、転石地、軟岩、風化岩、破質硬土等での生育に良く適する樹種を植栽している)から、引用刊行物2の発明に引用刊行物1記載の発明を適用する際、複数の個所で行った植生調査の中で、土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、これに基づいて潜在自然植生を決定することは当業者なら容易にできることであり、その際、この潜在自然植生を構成する樹種の中で、乾燥に強い樹種を選択することは当業者なら適宜にできることである。
しかも、引用刊行物1記載の発明において、潜在自然植生を確定するための植生調査では、「高木層」、「亜高木層」、「低木層」、「草本層」から構成される階層構造について調査しており(上記(1-o)参照)、また、森(森林)は高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成されている(上記(1-l)参照)ことを考慮すると、植栽の当初から高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種を導入する程度のことは当業者が容易に想到し得ることである。
相違点(い)について
植栽する樹種への日当たり等を考慮し、上記相違点(あ)で決定された複数の樹種を苗木段階で階層構造を形成するように植栽する程度のことは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件発明が奏する効果は、引用刊行物2及び1に記載された発明から予測できる程度のことであって格別顕著なものではない。
したがって、本件発明は、引用刊行物2及び1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、上記引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
法面緑化のための植栽方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面緑化工を予定する切土法面の周辺地域において、植物社会学的植生調査を複数調査地点で実施し、この調査結果をもとに作成された植物群落組成表を用いて、前記周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、この群落を緑化工における目標とする植生タイプとし、この植生タイプを構成する樹種について乾燥に強い樹種とそれ以外の樹種とを前記植物群落組成表を用いて判別し、判別された乾燥に強い複数の樹種を、前記法面緑化工の植生における高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種として、前記目標とする植生タイプにおける階層と樹種の関係に基づいて割り振って導入する複数の樹種を決定し、その決定された複数の樹種を、厚層基材吹付工上に、苗木段階で階層構造を形成するように植栽することを特徴とする法面緑化のための植栽方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は法面緑化のための植栽方法に係り、特に法面周辺の生態系を考慮して、法面における自然状態の復元を目指すようにした法面緑化のための植栽方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
山間部等において土工作業を伴う工事を行う場合には、必ずと言ってよいほど自然斜面に切土面、盛土面が出現する。この場合、いままで比較的安定した状態にあった自然斜面に手を加えたために、土砂の流出、法面崩壊等の安定に関する問題が発生することが予想される。従来、このような法面が発生した場所には法面安定工が行われている。また、法面保護のため法面緑化が行われることも多い。従来の法面緑化では、法面に厚層基材を吹き付け、厚層基材面に芝類の播種を行ったり、イタチハギ,ヤマハギ等からなる低木林を造成したり、各種の牧草やメドハギを中心とした草本群落を造成するのが一般的であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述したような法面緑化工では、次のような問題点がある。
(1)草本群落を造成した場合
播種される草本には生長力が旺盛な種類が選択される。このため、施工当初に急速に緑化が進むが、生長した草本群落そのものは周囲の生態系、景観とはかけ離れたものである。また、厚層基材吹付工上に繁茂した草本群落内に自生植物が侵入しにくいため、法面内での順調な植生遷移が遅れる。
(2)低木林群落を造成した場合
イタチハギ,ヤマハギ等を主体とした落葉低木の群落を造成した場合、夏期の緑量は増大するので法面全体としてボリューム感が得られ、周辺景観との違和感は少なくなる。そのため景観面を考慮した場合には、ヤマハギを主体とした低木林群落の造成が一般に奨励されている。しかしながら、自然状態ではヤマハギやイタチハギの密生した単純群落等は通常あり得ず、その後の植生遷移が停滞してしまうことが懸念される。このため、法面に良好な自然状態が形成されるかどうか疑問が残る。
【0004】
ところで、ダム工事等のように現場周辺に出現する法面が大規模になる場合、実施される緑化工は、ダム堤体付近の景観を大きく左右する。また法面部分は観光客等によく目立つ場所であるため、この法面部分における環境や生態系に対する配慮は、ダム全体の環境配慮に対する評価に大きな影響を与えることが予想される。
そこで、大規模な法面の出現が予想されるダム工事において、前述した従来の法面緑化工の問題点を解消するとともに、将来的な植生遷移を考慮して潜在自然植生に近似した群落を構成する苗木を植栽するようにした計画もある。しかし、この計画は植生遷移という経時的な自然順応プロセスが省略されている上、法面周辺の自然環境との係わりも考慮されていない。したがって、出現した法面の周辺の従来の環境を十分配慮し、自然状態の回復に寄与するような緑化を実現可能な植生の選定が望まれる。
【0005】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、周辺の植物群落の中から法面の環境に似た立地を考慮するようにした法面緑化のための植栽方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は法面緑化工を予定する切土法面の周辺地域において、植物社会学的植生調査を複数調査地点で実施し、この調査結果をもとに作成された植物群落組成表を用いて、前記周辺地域の植物群落の中から土壌が薄く乾燥した立地に成立する群落を抽出し、この群落を緑化工における目標とする植生タイプとし、この植生タイプを構成する樹種について乾燥に強い樹種とそれ以外の樹種とを前記植物群落組成表を用いて判別し、判別された乾燥に強い複数の樹種を、前記法面緑化工の植生における高木層、亜高木層、低木層、草本層から構成される階層構造の各階層を構成する樹種として、前記目標とする植生タイプにおける階層と樹種の関係に基づいて割り振って導入する複数の樹種を決定し、その決定された複数の樹種を、厚層基材吹付工上に、苗木段階で階層構造を形成するように植栽することを特徴とする。
【0007】
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の法面緑化のための植栽方法の一実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の法面緑化のための植栽方法の一連作業手順を示した作業フローチャートである。以下、このフローチャートに基づいて説明を行う。
まず、導入植生決定のプロセスについて説明する。このプロセスにおける最大の特徴は、「乾燥し土壌の薄い立地」に成立する植生タイプを構成する樹種の中から植栽の対象となる使用樹種を選び出す点である。切土により軟岩等が露出したような法面では、法面緑化工として所定厚の厚層基材吹付を行い植生基盤を造成するが、この植生基盤は層厚が非常に薄く法面勾配も急なため、十分な保水能力が得られず、乾燥しがちとなる。このため、将来、法面上に周辺の現存植生と同じような植生を成立させるには、周辺の自然中に分布する様々な植生のうち「乾燥し土壌の薄い立地」に成立している植生タイプをその目標植生として設定することがポイントとなる。
【0012】
そして、この目標植生を把握するために、まず周辺の植生調査を行い、その結果を整理し、このような立地に成立する植生タイプを抽出し、どのような植物で構成されているのかを明らかにする。さらに、樹種の絞り込み作業を行い、最終的に残った乾燥に強いと考えられる樹種のなかから植裁に使用する樹種を選定する手法をとる。このとき植裁に使用する樹種は、実際の植生タイプを構成する樹種のうちの一部にすぎないが、当初植裁されたものが目標とする植生タイプの骨格となり、植裁されない構成種が後から自然に侵入してくることによって、次第に実際の植生タイプに近づいていくことが予想される。
【0013】
以下、実際に行った導入植生決定作業の例をもとに、そのプロセス及び具体的な調査結果の内容について説明する。図2は、法面緑化を予定している現場周辺を撮影した航空写真をもとに作成した植生図の一部を模式的に示した説明図である。前述した「乾燥し土壌の薄い立地」は、当該地域では主に山の尾根部及び岩露頭地に分布することが、またそのような尾根部は主にアカマツやキタゴヨウが優占するマツ林となっていることが分かる。そこで、主にマツ林を対象に現場周辺の10数地点の植生調査を行うこととした。植生調査結果によって作成した出現種の植物群落組成表を表1に示した。なお、植生調査は、植生研究分野で広く適用されている植物社会学的植生調査法によって行った。
【0014】

【0015】
この植物群落組成表は横軸に調査地点が、縦軸に植物種名がとられており、表中の枠で囲まれた数字及び記号は各調査地点における各植物の被度(量を表す指標)を表している。なお、この植物群落組成表は同じような出現傾向を示す種同士及び同じような種組成を持つ調査地点同士が近くなるように考慮してデータ行列を並べ換え、データの適正化を図った結果を示したものである。また、表の左側に乾燥傾向の植生タイプ、右側に湿潤傾向の植生タイプがくるように並べてある。この植物群落組成表から、表上部の種群(枠に囲まれた部分)が乾燥した立地する、すなわち「乾燥に強い種類」であることを特徴づける種群であり、その下の右側に被度の数値が固まって並んでいる種群が適潤及び過湿な立地し、すなわち「乾燥にそれほど強くない種類」を特徴づける種群であることが推察できる。この適湿な立地にも生育するものは、「乾燥にそれほど強くない種類」と考えて消去する等の判別作業を行った。このようにして乾燥に強く、当該地域において切土法面の環境に適応可能樹種として抽出された樹種を、高木層、亜高木層、低木層、草本層ごとに階層を構成するようにして表-2に示した。
【0016】

【0017】
さらに、表-2に示した適応可能樹種のうち、法面の規模や現地に搬入できる苗木の生産状況を考慮し、最終的に植栽に使用する樹種を選定する。なお、導入樹種が生長するまでの当面の間に、雑草が繁茂しないようにマルチングを計画する。このマルチングに用いる材料としては人工的なものでもよいし、ナデシコ類、クローバー類等の草本を厚層基材吹付工で播種してもよい。
【0018】
次に、以上のプロセスで計画された導入植生を法面に植栽する植栽プロセスについて説明する。
まず、法面に構築された法枠内に金網(ラス網)等を張り付ける。作業手順によっては、あらかじめ金網等を張り付けた部分に法枠を構築してもよい。次いで、金網等の上に植生基材を吹き付けて下地とする。その上に樹木およびツル植物の苗木を置き、支柱等で法面上に固定する。さらに2度目の吹付けを行い、苗木の根鉢を基材で覆うとともに、所定厚さまで吹き付ける。導入苗木の十分な生育のために、充分な量の土壌(基材)を使用する。本実施の形態では、法枠の水平梁上に植生基材を吹き溜めることによって苗木導入を確実なものとしている。
植生基材には肥料分の多い有機質を主体としたものではなく、導入する自然樹種が適切に生育するように肥料分の少ない砂質系厚層基材吹付工を使用することが好ましい。また、この砂質系厚層基材吹付工の耐浸食性を向上させるために、短繊維を混入することも好ましい。さらに、法枠の下側に吸い出し防止用マットを敷設し、基材底部に雨水等がたまるのを防止することも好ましい。
【0019】
次いで、表-2で示された高木、亜高木、低木ごとに生産状況等を考慮して樹種を選択した苗木を植栽する。各種の樹種を導入することによって法面植生全体が苗木の段階で階層構造を形成するようにする。このとき各階層が一種の樹種のみにならないように、できるだけ多くの樹種を選択するのが好ましい。植裁密度は、隣接した苗木がお互いに被陰し合わないように、また周辺から自生植物が侵入できる程度とすることが好ましい。本実施の形態では、一例として1本/m2程度とした。
なお、導入苗木が供給可能となるまでの育苗期間を考慮して植栽計画をたてることが重要である。また、苗木を植栽し、根が十分活着していないうちに降雪のおそれがある場合には、支柱等を添えて苗の固定をすることも好ましい。
【0020】
導入苗木は原則としてコンテナ(ポット)苗木を用い、植裁後の活着を確実なものにするために、出荷時に圃場において熟練工が枝葉を切り詰めて切り戻しコンテナ苗木の状態で出荷する。
さらに、導入苗木が樹木として生長するまでの当面の間、土壌表面の侵食防止には、ナデシコ類・クローバー等の草本を厚層基材吹付工で播種することで対応する。これらの草本は背丈が低いため、樹木の生育を妨げず、また樹木が十分に生育すると樹木に被陰され衰退あるいは枯死することが予想される。このため林床には周辺からの自然植生の侵入が可能となる。併せて景観対策等を目的として法枠の早期被覆を図ることも好ましい。法枠を被覆するツル植物の一例としてナツヅタを、法枠延長に対して1本/m程度の密度で植裁する。
【0021】
図3〜図6は、1辺2m、梁厚30cm程度の吹付法枠10の水平梁11上に吹き付ける厚層基材12の形状、吹付厚を異ならせた2種の施工例を示したものである。施工当初(図3、図5)と10年後における予想植生状態(図4、図6)の各図から植栽後10年の年月を経る間にアカマツ、リョウブ等の高木20、亜高木21がある程度の樹高まで生長し、林床では周辺からの侵入植生22が生長し、全体として周辺の植生環境と類似した階層構造が形成されることが期待できる。
図7、図8は1辺3m、梁厚75cm程度の大型の現場打ち法枠15に本発明の導入植生を植栽した例と、10年後の予想植生状態を示した模式説明図である。このように法枠の形状、寸法の相違に応じて厚層基材の吹付形状や植栽配置を変更することにより厚層基材の使用量も軽減でき、また植栽当初の苗木の見栄えも十分確保できる。また、数年のうちに大きな法枠もナツヅタ23の生長により被覆されてしまうことが予想される。
【0022】
なお、以上の説明では、切土によって出現した法面の法面緑化のための植栽方法について述べたが、切土法面と同様に出現する可能性がある盛土法面においても、以上の植生決定プロセスを適用でき、盛土法面において予想される地盤状態に類似した周辺の植生を抽出できることは言うまでもない。
【0023】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、出現した法面の周辺の環境を考慮し、自然の生態系にかなった植生環境を将来にわたって復元することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明による法面緑化のための植栽方法の一実施の形態を示した作業フローチャート。
【図2】
本発明の法面緑化のための植生決定プロセスにおいて作成される植生図を模式的に示した説明図。
【図3】
本発明の植生決定プロセスによって選定された導入樹種を、吹付法枠に植栽した実施の一態様を示した模式説明図(施工当初)。
【図4】
図3に示した導入植生の10年後の植生状態を示した模式説明図。
【図5】
本発明の植生決定プロセスによって選定された導入樹種を、吹付法枠に植栽した実施の他の態様を示した模式説明図(施工当初)。
【図6】
図5に示した導入植生の10年後の植生状態を示した模式説明図。
【図7】
本発明の植生決定プロセスによって選定された導入樹種を、大型現場打ち法枠に植栽した実施の他の態様を示した模式説明図(施工当初)。
【図8】
図7に示した導入植生の10年後の植生状態を示した模式説明図。
【符号の説明】
10 吹付法枠
11 水平梁
12 厚層基材
15 現場打ち法枠
20 高木
21 亜高木
22 侵入植生
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-05-31 
出願番号 特願平8-53773
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A01G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 白樫 泰子
渡部 葉子
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3236210号(P3236210)
権利者 飛島建設株式会社 福嶋 司
発明の名称 法面緑化のための植栽方法  
代理人 染谷 廣司  
代理人 砂場 哲郎  
代理人 砂場 哲郎  
代理人 染谷 廣司  
代理人 砂場 哲郎  

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