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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C10M
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  C10M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10M
管理番号 1104441
異議申立番号 異議2003-70850  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-05-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-31 
確定日 2004-08-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3330755号「グリース組成物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認めない。 特許第3330755号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3330755号の請求項1ないし4に係る発明は、平成6年10月17日に特許出願され、平成14年7月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人佐藤義光より特許異議の申立てがされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年8月26日に訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、それに対し、訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求の要旨は、特許第3330755号の願書に添付された明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項a-1,a-2,b-1,b-2のとおりである。
a.特許請求の範囲の訂正
a-1.特許請求の範囲の請求項1に係る記載において、
「40℃動粘度が50〜200mm2/secである基油全量に対してエステル油が少なくとも10wt%以上含まれ、該基油に、増ちょう剤として次の一般式
【化1】

(式中のR2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基、R1およびR3は炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基または炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基を示し、R1とR3の全量中に占める芳香族系炭化水素基の割合は、50〜100モル%であり、R1およびR3は同一であっても異なっていてもよい)で表されるジウレア化合物をグリース全量に対して15〜35wt%配合したことを特徴とするグリース組成物。但し、」
とあるのを、
「40℃動粘度が50〜200mm2/secである基油全量に対して、40℃動粘度が53〜213mm2/secであるエステル油が少なくとも10wt%以上含まれ、該基油に、増ちょう剤として次の一般式
【化1】


(式中のR2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基、R1およびR3は炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基または炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基を示し、R1とR3の全量中に占める芳香族系炭化水素基の割合は、50〜100モル%であり、R1およびR3は同一であっても異なっていてもよい)で表されるジウレア化合物をグリース全量に対して15〜35wt%配合し、外輪回転密封玉軸受に用いられることを特徴とするグリース組成物。但し、」と訂正する。
a-2.特許請求の範囲の請求項4に係る記載において、
「外輪回転密封玉軸受に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリース組成物。」
とあるのを、
「電磁クラッチ、アイドラプーリ、中間プーリの外輪回転密封玉軸受に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリース組成物。」と訂正する。
b.発明の詳細な説明の訂正
b-1.明細書段落番号〔0006〕に係る記載において、
「すなわちエステル油を10wt%以上含有する基油を、」
とあるのを、
「すなわち40℃動粘度が53〜213mm2/secであるエステル油を10wt%以上含有する基油を、」と訂正する。
b-2.明細書段落番号〔0008〕に係る記載において、
「ジウレア化合物をグリース全量に対して15〜35wt%配合したことを特徴とするグリース組成物。」
とあるのを、
「ジウレア化合物をグリース全量に対して15〜35wt%配合し、外輪回転密封玉軸受に用いることを特徴とするグリース組成物。」と訂正する。

(2)訂正の適否について(特に新規事項の有無について)
特許権者は、訂正事項a-1,b-1において、基油に含有されるエステル油を「40℃動粘度が53〜213mm2/secである」と訂正し、その根拠として、「特許明細書の段落〔0027〕〜〔0031〕(特許第3330755号公報第5〜8ページ)に記載されているとおり、実施例で用いているエステル油(エステルA、D、E)の40℃動粘度が53〜213mm2/sec(エステルA:53mm2/sec、エステルD:164mm2/sec、エステルE:213mm2/sec)の範囲にあることに基づくものである。」と主張している。
しかしながら、実施例で用いているエステル油の40℃動粘度が、訂正により追加された数値限定の範囲(40℃動粘度が53〜213mm2/sec)にはいるものが記載されていることをもって、直ちに該数値限定の訂正が許されるものではなく、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載全体からみて、該特定の数値限定(範囲)についての言及があったものと認められ、数値限定の記載がなされていたと評価できる場合にのみ、新規事項の追加とはならず、訂正が許されるものであるので、この点を検討する。
本件特許明細書には、基油の40℃動粘度範囲については、効果と関連した詳しい記載がある(明細書段落〔0014〕)が、基油に含有されるエステル油については、そのような記載は全くなく、「基油に10wt%以上含有されるエステル油としては、特に限定されない」(明細書段落〔0009〕)とされ、しかも、具体的に例示されるエステル油(明細書段落〔0010〕)は、何らの物性限定も付されていないことからみて、種々の40℃動粘度値を取りうるものであって、それらの物性が「40℃動粘度が53〜213mm2/sec」の範囲のものに限定されるものではないばかりか、それ以外の特定の40℃動粘度範囲に限定されるものでもない。
したがって、本件特許明細書には、基油に含有されるエステル油を、「40℃動粘度が53〜213mm2/sec」の範囲のものに限定することについての記載も示唆もないばかりか、40℃動粘度が特定範囲のものに選定する(限定する)という技術的課題すら、何ら記載も示唆もされていない
といえる。
ここで、上記特許権者の指摘箇所である、本件特許明細書の段落〔0027〕〜〔0031〕での実施例、比較例を示す表1〜5には、エステルA(53mm2/sec,40℃)、エステルD(164mm2/sec,40℃)、エステルE(213mm2/sec,40℃)が記載されており、それらを成分として含有する実施例が記載されているが、そこには、エステル油を「40℃動粘度が53〜213mm2/sec」の範囲とする記載はなく、しかも、エステルAは比較例の成分としても用いられている(表5の比較例6:基油の40℃動粘度が規定範囲外である例)ことからみて、該実施例は、エステル油成分と他の配合油成分とを組み合わせて、全体として基油の40℃動粘度が規定範囲となる場合を示すものであって、エステル油として「40℃動粘度が53〜213mm2/sec」という「特定範囲のもの」が選定されることを示すものとは認められない。
したがって、特許権者の言う明細書段落〔0027〕〜〔0031〕にも、該特定の数値限定の記載がなされているとは認められず、本件特許明細書の記載全体からみて、該特定の数値限定(範囲)についての言及があったものとは認められない。
よって、訂正事項a-1,b-1において、基油に含有されるエステル油を、「40℃動粘度が53〜213mm2/secであるエステル油」とする訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

なお、特許権者は、訂正拒絶理由に対する意見書において、(i)『「40℃動粘度が53〜213mm2/secである」エステル油を用いることが、当初明細書(願書に最初に添付した明細書)の記載から自明な事項である。』旨主張し、当該技術分野の技術常識を示す資料として、本件出願前または出願後に発行された文献を提示しているが、それら文献に記載されている事項は、いずれも基油(全体)の動粘度が潤滑剤の特性を担う重要なパラメーターの一つであることに係るものであって、「基油に10wt%以上含有されるエステル油」の動粘度に関してはなんら記載されていないので、提示された資料を参酌しても、基油に10wt%以上含有されるエステル油が「40℃動粘度が53〜213mm2/secである」ものを用いることが、当初明細書等の記載から自明な事項であるとは認められない。
また、特許権者は、(ii)『「40℃動粘度が53〜213mm2/secである」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮であるから、補正制限の制度の趣旨からみて許されるべきである。』旨主張しているが、特許請求の範囲の減縮であっても、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない訂正が認められないことは、特許法で定めるところである。
さらに、特許権者は、(iii)『特許・実用新案審査基準(平成15年10月22日改訂)の「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の内容に基づき、本件訂正は認められるべきものである。』旨主張し、具体的には、「40℃動粘度が53〜213mm2/secである」とする訂正は、該審査基準での「新規事項の判断に関する事例18」(以下、「事例18」という。)に近いものであると主張している。そもそも、該審査基準は、「補正」に関するものであって、「訂正」に関してそのまま適用されるものではないが、その点はさておき、事例18は、「HLB値9〜11の・・・」と数値範囲の限定が当初明細書の特許請求の範囲に記載されていた発明において、実施例に具体的に記載されていたHLP値9.5、HLB値11に基づいて「HLB値9.5〜11の・・・」とする補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであるといえるとする事例であって、上記に述べたように、明細書に、基油に配合するエステル油として40℃動粘度値が特定範囲のものを選定する(限定する)という技術的課題が、何ら記載も示唆もされていない本件特許に係る訂正とは、内容的にも事案を異にするものである。
さらに、特許権者は、(iv)『「除くクレーム」とする補正が認められる点からも本件訂正は認められるべきものである。』旨主張しているが、「除くクレーム」は、原則として、「除外した後の「除くクレーム」が当明細書等に記載した事項の範囲内のもの(訂正の場合は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のもの)である場合には、許される」のである。ただし、特許・実用新案審査基準では、例外的に、「請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等を失うおそれがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正」である場合は、「当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う」としているが、本件の特許請求の範囲の請求項に係る訂正は、「重なりのみを除く訂正」ではなく、訂正後の請求項の記載表現は、上記の例外的な「除くクレーム」に該当するものではない。
したがって、意見書における特許件者の主張はいずれも採用できない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求における訂正事項a-1,b-1に係る訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。よって、上記以外の訂正事項を検討するまでもなく、本件訂正は認められない。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
上記2で示したように本件訂正は認められないから、本件特許第3330755号の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1ないし4」とい、それらをまとめて「本件発明」という。)は、特許査定時の明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】40℃動粘度が50〜200mm2/secである基油全量に対してエステル油が少なくとも10wt%以上含まれ、該基油に、増ちょう剤として次の一般式
【化1】

(式中のR2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基、R1およびR3は炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基または炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基を示し、R1とR3の全量中に占める芳香族系炭化水素基の割合は、50〜100モル%であり、R1およびR3は同一であっても異なっていてもよい)で表されるジウレア化合物をグリース全量に対して15〜35wt%配合したことを特徴とするグリース組成物。但し、(i)基油全量に対してエステル油が25〜35wt%含み、かつグリース全量に対してジウレア化合物が15〜20wt%含まれる場合、及び(ii)基油がエステル油であり、かつグリース全量に対してジウレア化合物が15〜25wt%含まれる場合を除く。
【請求項2】エステル油が、ヒンダードエステル油、芳香族エステル油の中から単独または、混合して選択されることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】エステル油の構成成分中に、ペンタエリスリトールエステル油、ジぺンタエリスリトールエステル油、トリペンタエリスリトールエステル油、ネオペンチル型ジオールエステル油、トリメチロールプロパンエステル油、コンプレックスエステル油、トリメリテートエステル油、ピロメリテートエステル油の中から少なくとも1種含まれ、かつエステル油全量に対して含有率が50〜100wt%であることを特徴とする請求項1または2記載のグリース組成物。
【請求項4】外輪回転密封玉軸受に用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリース組成物。」

(2)取消理由の概要
当審で通知した取消理由の概要は、「本件発明1ないし3は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であり、また、本件発明1ないし4は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項または同条第2項の規定に違反してされたものであるので、取り消されるべきものである。」というものである。
刊行物1:特開平1-259097号公報(異議申立人提出の甲第1号証)
刊行物2:特開平5-98280号公報
刊行物3:特開平4-236298号公報
刊行物4:特表平3-504397号公報(異議申立人提出の甲第2号証)

(3)各引用刊行物に記載された事項
上記引用刊行物には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

(i)刊行物1(特開平1-259097号公報)
(ア)「1.アルキルジフェニルエーテル油を必須成分とする基油に、増ちょう剤として次の一般式

(式中のR2は炭繁数6〜15の芳香族系化水素基、R1およびR2は炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基または炭素数8〜20の直鎖アルキル基を示し、R1およびR2中に占める芳香族系炭化水素基の割合は、50〜100モル%である)で表されるジウレア化合物を2〜35重量%配合したことを特徴とする高温で長寿命を有するグリース組成物。」(刊行物1の特許請求の範囲)
(イ)「本発明においては、アルキルジフェニエーテルの含有量は特に限定しないが、・・・併用できる基油は、例えば鉱油、およびジエステル、テトラエステルに代表されるエステル系合成油、ポリαオレフィンで代表される合成炭化水素油である。」(刊行物1の第2頁左下欄下から6行〜同頁右下欄2行)
(ウ)「また、増ちょう剤として用いられる式(1)で表されるジウレア化合物は、通常、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られるもので、本発明においては式(1)中のR1およびR3中に占める芳香族系炭化水素基の割合は50〜100モル%とするが、このようにする理由は50モル%未満ではせん断安定性および潤滑面に対しての付着性に劣り、高温下では軸受からの漏洩が大きく、長時間の使用に耐えないからである。」(刊行物1の第2頁右下欄3行〜11行)
(エ)「本発明のグリース組成物は、耐熱性、酸化安定性に優れるアルキルジフェニルエーテルを必須成分とした基油を使用し、増ちょう剤に耐熱性、酸化安定性、せん断安定性、付着性に優れる末端芳香族および末端芳香族主体のジウレア化合物を使用した事で、高温下で、長寿命である事を可能にした。」(刊行物1の第3頁右上欄4行〜10行)
(オ)「実施例1〜5
反応容器に、表1に示す基油の半量とモノアミン全量をとり、70〜80℃に加温した。別容器に、基油半量と、ジイソシアネート全量をとり70〜80℃に加温し、これを反応容器に加え撹拌した。発熱反応の為、反応物の温度は上昇するが、約30分間、この状態で撹拌を続け、反応を充分に行った後、昇温し175〜185℃で30分間保持し冷却した。これを3段ロールミルで、混練し、目的のグリースを得た。」(刊行物1の第3頁左下欄下から13行〜下から4行)
(カ)「実施例および、比較例に示されるアルキルジフェニルエーテル油は、40℃の動粘度が123.0cSt、粘度指数125、引火点284℃の性状を有する合成油、ペンタエリスリトールエステル油は、40℃の動粘度が、29.6cSt、粘度指数124、引火点254℃の性状を有する合成油を基油とした。また使用したトリレンジイソシアネートは、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートが8:2である市販品を使用した。」(刊行物1の第4頁左上欄1行〜9行)
(キ)(表1に記載されている実施例5の配合成分)
「実施例5
基油(g):アルキルジフェニルエーテル 1248.0
ペンタエリスリトールエステル 312.0
ジイソシアネート(g):トリレンジイソシアネート 168.4
モノアミン(g):パラトルイジン 165.8
オクタデシルアミン 105.8」(刊行物1の第4頁右上欄表1参照)

(ii)刊行物2(特開平5-98280号公報)
(ク)「【請求項1】アルキルジフェニルエーテル油を必須成分とし、かつ40℃の動粘度が90〜160cstである潤滑基油と増ちょう剤として次の一般式
【化1】

(式中のR2は、炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基、R1およびR3は、炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基または炭素数8〜20の直鎖アルキル基を示し、R1およびR3中に占める芳香族系炭化水素基の割合は、70〜95モル%である)で表されるジウレア化合物22〜30重量%からなり、かつNLGIちよう度グレードがNo.1〜No.3の範囲にあることを特徴とする高温・高速・高荷重軸受用グリース組成物。」(刊行物2の特許請求の範囲の請求項1)
(ケ)「【産業上の利用分野】近年の機械技術の革新により、各種機械部品に使用される軸受の使用条件は一段と厳しくなっている。特に、オルタネータ、電磁クラッチ、アイドラプーリなどの自動車電装部品に使用される軸受は、発熱体であるエンジンの高性能化による高温化、部品の高性能化による高速化、ベルト張力増加による高荷重化などの使用条件の過酷化が著しい。・・・本発明は、このような高温・高速・高荷重用軸受に使用される潤滑グリース組成物に関するものである。」(刊行物2の第2頁第1欄23行〜32行)
(コ)「従来のグリースでは軸受けが早期に剥離してしまうという問題もあった。この改善には、特開平1-259097号公報に示される中の末端基が芳香族基主体のジウレア化合物を増ちょう剤とし、基油にアルキルジフェニルエーテル油を使用したグリースが有効であるが、この増ちょう剤を使用したグリースは流動性に劣り、高荷重条件では潤滑部へのグリース流入不足から早期に軸受が焼付くという問題があった。したがって、本発明が解決しようとする課題は、高温・高速条件下で長い潤滑寿命を有するだけでなく、高荷重条件下でも早期焼付きが無く長寿命を有し、かつ、早期軸受剥離も起こすことのないグリース組成物を提供することにある。」(刊行物2の第2頁第1欄46行〜同頁第2欄8行)
(サ)「本発明においては、アルキルジフェニルエーテル油の含有量は特に限定しないが、・・・併用できる基油は、例えは鉱油、エステル系合成油、合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテル油以外のフェニルエーテル系合成油等である。」(刊行物2の第3頁第3欄1行〜7行)
(シ)「本発明では、このジウレア化合物を末端基が芳香族基主体のものとすることで、高温・高速条件下で軸受からの早期漏洩を最小限にした。また、本発明では、この種の増ちょう剤の欠点である流動性不足からの高荷重条件下での軸受早期焼付きに対し、末端基に直鎖脂肪族基導入を必須とすることで流動性を付与し、解決をみた。ここで、R1およびR3中に占める芳香族系炭化水素基の割合は、70〜95モル%とするが、このようにする理由としては、70モル%未満では、流動性が付与されすぎて高温条件下でのグリース漏洩が大きくなり、潤滑寿命が短くなるためであり、また、95モル%を超えるとグリースの流動性が失われ、高荷重条件下で軸受の早期焼付きが発生するためである。」(刊行物2の第3頁第3欄10行〜22行)
(ス)「本発明では、アルキルジフェニルエーテル油を必須成分とし、かつ40℃の動粘度が90〜160cstである潤滑基油と増ちょう剤として化2で表されるジウレア化合物22〜30重量%からなり、かつNLGIちょう度グレードがNo.1〜No.3の範囲にあることを特徴とするグリース組成物とすることで、高温・高速条件下で軸受からの初期漏洩が少なく、長寿命を有するグリースとした。加えて、軸受の早期剥離を解決し、さらに高荷重条件下でも早期に焼付きがなく、長期間の優れた潤滑性能を維持できるグリースとした。」(刊行物2の第3頁第4欄23行〜32行)
(セ)「グリースの性能評価試験後は、次に示す方法により実施した。
(イ)高温・高速 漏れ試験
軸受にグリースを詰め以下に示す条件で20時間軸受を回転させる。 試験前後の軸受重量の差から漏れ量を算出し、重量%で表した。
軸受:内径17mm×外径40mm×幅12mm深溝玉軸受
(樹脂保持器、接触型ゴムシール)
グリース充填量:1.0g
回転数:15OO0rpm
温度:180℃
荷重:Fr 10kgf、Fa 20kgf
(ロ)高温・高速 耐久試験
(イ)と同1条件で、軸受を最長1000時間まで回転させ、軸受潤滑寿 命時間をもとめた。
(ハ)高荷重 耐久、剥離試験
軸受にグリースを詰め以下に示す条件でn=5で最長1000時間まで回 転させる。なお、途中異常で停止したものは、焼付き寿命か剥離寿命かの 調査を行った。
軸受:内径17mm×外径40mm×幅12mm深溝玉軸受
(樹脂保持器、接触型ゴムシール)
グリース充填量:2.3g
回転数:18OO0rpm
温度:110℃
荷重:Fr 200kgf」(刊行物2の第4頁第6欄1行〜25行)

(iii)刊行物3(特開平4-236298号公報)
(ソ)「【請求項1】基油として40℃の動粘度が50cSt以上で、かつ流動点が-35℃以下のジペンタエリトリットの脂肪酸エステルを使用したことを特徴とするグリース組成物。」(刊行物3の特許請求の範囲)
(タ)「【従来の技術】グリ一スで潤滑される機械部品は非常に多い。この中の代表的なものに転がり軸受が挙げられる。特に、はじめからグリースを充墳し、ゴムシ-ルあるいは、金属シールでグリースを密封した密封転がり軸受の性能は、その使用しているグリースの種類によって決まるところが大きいと言われている。この密封軸受用グリースに対する要求は、軸受の使用個所によって様々である。最近の動向については、「中道治:月刊トライボロジ5(1988)11」に詳しく記載されているが、おおむね高温長寿命性、低温起動性、低漏洩性、低騒音性などが求められる。・・・上記文献にも記載されている通り、密封転がり軸受には基油にエステル系合成油を使用したグリースが多用されている。同書によると、・・・高温長寿命グリースとして、ジウレア化合物を増ちよう剤としたグリースがエステル系合成油を使用しているグリースとして記載されている。これらに使用されている基油は、エステル系合成油の中でもペンタエリトリットの脂肪酸エステルが主である。ペンタエリトリットの脂肪酸エステルは、低温からある程度の高温まで使用可能であり、均整のとれた性能を示す。鉱油に比べて、低温性・耐熱性に優れるのは言うまでもなく、ジエステル系合成油と比べては.耐熱性に優れる。・・・高温用グリ-スの基油として使用されているアルキルジフェニルエーテル油は、耐熱性には優れているものの低温性に劣り、-40℃での使用は不可である。さらに、エステル系合成油は、油性に優れており、ポリαオレフィン油、シリコーン油と比べて潤滑性に優れている。」(刊行物3の第2頁第1欄12行〜44行)
(チ)「増ちょう剤としては、・・・ジウレア、・・・等のウレア系増ちょう剤、・・・など現存する全ての増ちょう剤が使用可能である。」(刊行物3の第3頁第3欄23行〜31行)
(ツ)「本発明のグリース組成物は、基油としてジペンタエリトリットの脂肪酸エステルを使用することを特徴とするが、多種の基油との併用も可能であり、例えば使用できる基油は、鉱油、ジエステル油、ジペンタエリトリットエステル以外のヒンダードエステル油、ポリαオレフィン油、フェニルエーテル系合成油、シリコーン油等が挙げられる。」(刊行物3の第3頁第3欄32行〜36行および同頁第4欄2行)
(テ)「【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明のグリース組成物は、基油としてジペンタエリトリットの脂肪酸エステルを使用したことにより、高温下において長寿命を有し、かつ低温下から高温まで広い温度範囲で使用を可能にした。
また、実施例に示すように、本発明のグリースは、ペンタエリトリットの脂肪酸エステルより高温下の軸受潤滑試験で長寿命を有し、かつ低温トルクの増加も僅かであった。他の基油との比較では、増ちょう剤の種類によらず鉱油、アルキルジフェニルエーテル油の使用により低温トルクが低く、PAOより高温下の軸受潤滑寿命が長く、均整のとれた性能を示している。」(刊行物3の第5頁第7欄7行〜同頁第8欄7行)

(iv)刊行物4(特表平3-504397号公報)
(ト)「1.べ-スオイルと、ポリ尿素(ポリカルバミド)化合物及び通常の添加剤を含む少量の増粘剤とから形成された合成グリースにおいて、
上記ベースオイルが、芳香属ジカルボナート、芳香族トリカルボナート或いは芳香族テトラカルボナートと、1個以上のC7乃至C18のアルカノールとのエステルであるとともに、
上記増粘剤が、
A(B)n (I)
という代表式で表される化合物と、H2N-R (II)
という代表式で表されるアミンとの反応生成物であり、
ここで、
A=CH(4-n)B=芳香剤モノイソシアナート残基或いは芳香族ジイソシアナート残基、
n=1〜3、
R=C原子が8〜22個のアルキル残基或いはアルケニル残基、或いは、C原子が6〜10個のアリール残基、且つ、
上記ベースオイルと上記増粘剤との混合物は220〜385、0.1mmの針入度の稠度を有することを特徴とする、合成グリース。
2.前記(I)式におけるBは、2,4-トルイレンジイソシアナート残基、及び/或いは、2,6-トルイレンジイソシアナート残基であることを特徴とする、請求項1記載の合成グリース。」(刊行物4の特許請求の範囲)
(ナ)「斯かるグリースは、DIN(ドイツ標準工業規格)ISO 2137のNLGIクラス3乃至0に対応する。好適なベースオイルは、40℃において18〜400mm2/sの粘度を有している。
好適な潤滑剤は、ベースオイルが、フタル酸、トリメリト酸(1,2,4-ベンゼントリカルボン酸)或いはピロメリト酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)のC8〜C13アルコールエステルであり、且つ、増粘剤は、メチレン-ビス-フェニルイソシアナート、或いは、2,4-トルイレンジイソシアナートと2,6-トルイレンジイソシアートとの混合物の如きトルイレンジイソシアナート(Toluylendiisocyanat)と、C6〜C22の一種類以上のアルキルアミン或いはナフチルアミンとの反応生成物である。」(刊行物4の第2頁左下欄1行〜14行)
(ニ)「例1
フタル酸とC13異性体アルコールとのエステルから成るエステル油の785.9g中において、2,4-トルイレンジイソシアナート及び2,6-トルイレンジイソシアナート(A=CH3,n=1,B=芳香族ジイソシアナート)の混合物97gを103gのアニリン(R=C原子が6個のアリール残基)とともに反応させる。発熱反応が完了した後、混合物を160℃に加熱する。又、冷却期間中に、市販の酸化防止剤5g、市販の防食剤5g、及び、市販の金属非活性化剤0.5gを添加する。
その後、油脂状混合物を3本ロール式の粉砕機内で繰り返し粉砕することにより均質化する。この均質化工程は騒音減衰特性に関して特に重要である。この様にして、DIN ISO 2137のNLGIクラス0のグリースが製造される。」(刊行物4の第2頁右下欄11行〜第3頁左上欄1行)

(4)対比判断
(i)特許法第29条第1項違反について
(iの1)本件発明1について
刊行物1には、上記摘示事項(ア)の構成からなる高温で長寿命を有するグリース組成物が記載されており、具体例として、実施例5には、基油成分としてアルキルジフェニルエーテル1248.0gとペンタエリスリトールエステル312.0g、増ちょう剤として、トリレンジイソシアネート168.4gとモノアミンである、パラトルイジン165.8gおよびオクタデシルアミン105.8gとの反応物であるジウレア化合物を配合したグリース組成物が記載されている(摘示事項(オ)、(キ)参照)。
この実施例5に記載されているグリース組成物を検討するに、その基油は、用いられる油成分の動粘度(アルキスジフェニルエーテル油は、40℃の動粘度が123.0cSt、ペンタエリスリトールエステル油は、40℃の動粘度が、29.6cSt(摘示事項(カ)参照)及び上記基油成分の配合量から計算すると、基油の40℃の動粘度が約104.3cStであり、基油全量に対してエステル油(ペンタエリスリトールエステル)が20wt%含まれるものであり、また、その増ちょう剤(ジウレア化合物)は、上記実施例5に示される原料反応成分及び量からみて、本件発明1に記載される一般式で示されるジウレア化合物において、R2 がトリレン基で、R1,R3が原料のパラトルイジン、オクタデシルアミンから由来する、トリル基、オクタデシル基であるジウレア化合物に該当し、該R1とR3の全量中に占める芳香族系炭化水素基(トリル基)の割合が、原料反応成分の量からみて、約80モル%となるものである。さらに、該実施例5に記載されているグリース組成物の全量は2000g、ジウレア化合物は440gである(摘示事項(キ)参照)から、ジウレア化合物はグリース全量に対して22wt%配合されている。
そして、動粘度の「1cSt」は「1mm2/sec」であることを考慮して、以上の検討をまとめると、刊行物1の実施例5には、「40℃動粘度が約104.3mm2/secである基油全量に対してエステル油が20wt%含まれ、該基油に、増ちょう剤として、本件発明1に記載される一般式で示されるジウレア化合物において、R2 がトリレン基で、R1,R3がトリル基、オクタデシル基であり、R1とR3の全量中に占める芳香族系炭化水素基の割合は、約80モル%であるジウレア化合物をグリース全量に対して22wt%配合したことを特徴とするグリース組成物。」が記載されていると認められ、しかも、このグリース組成物は、本件発明1で除外すると記載される組成(i)(ii)のものでもなく、これが、本件発明1のグリース組成物に包含されることは、明かである。
したがって、刊行物1には、本件発明1と同一の発明(グリース組成物)が記載されていると認められる。

(iの2)本件発明2,3について
刊行物1に記載されている実施例5のグリースに用いられるエステル油は、ペンタエリスリトールエステルのみである(摘示事項(キ)参照)から、これは、本件発明2で選定する、ヒンダードエステル油に該当し、また、本件発明3で選定するペンタエリスリトールエステル油がエステル油全量に対して含有率100wt%である場合に該当する。
他は、上記(iの1)で述べたのと同様の理由により、刊行物1には、本件発明2、3と同一の発明(グリース組成物)が記載されていると認められる。

(ii)特許法第29条第2項違反について
(iiの1)本件発明1について
刊行物2には、上記摘示事項(ク)の構成からなる高温・高速・高荷重軸受用グリース組成物が記載されている(以下、「引用発明」という。)。
そこで、本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明は、本件発明1で除外すると記載される組成(i)(ii)のものを含むものではなく、また、動粘度の「1cSt」は「1mm2/sec」であるから、両者は、「40℃の動粘度が90〜160mm2/secである基油と、増ちょう剤として次の一般式

(式中のR2は、炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基、R1およびR3は、炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基または炭素数8〜20の直鎖アルキル基を示し、R1およびR3中に占める芳香族系炭化水素基の割合は、70〜95モル%である)で表されるジウレア化合物22〜30wt%からなるグリース組成物。」である点で一致し、本件発明1は、基油が、基油全量に対してエステル油が少なくとも10wt%含まれるものであるのに対し、引用発明は、基油として、アルキルジフェニルエーテル油以外の成分については特に規定していない点で両者は相違する。
この相違点について検討する。
引用発明の基油について、刊行物2には、アルキルジフェニルエーテル油にエステル系合成油を併用しうることが記載されている(摘示事項(サ))。 ここで、刊行物2には、アルキルジフェニルエーテル油とエステル系合成油との併用の具体例は示されていないが、刊行物2に先行技術として引用される(摘示事項(コ)参照)刊行物1には、引用発明と同様な末端基が芳香族系炭化水素基主体であるジウレア化合物を増ちょう剤とした(摘示事項(ア)、(ウ)、(エ)、(ク)、(シ)など参照)グリース組成物の基油として、上記刊行物2の摘示事項(サ)と同様に、アルキルジフェニルエーテル油にエステル系合成油を併用しうることが記載されており(摘示事項(イ))、さらに、具体的にエステル油(ペンタエリスリトールエステル)を併用した基油からなるグリース組成物が実施例に記載されている(摘示事項(キ):実施例5)。
しかも、刊行物3に記載されているように、エステル系合成油がジウレア化合物を増ちょう剤とした高温長寿命グリースの基油として用いられること、及び、ペンタエリトリットの脂肪酸エステルは、低温からある程度の高温まで使用可能であり、均整のとれた性能を示すこと(摘示事項(タ)参照)、ジペンタエリトリットの脂肪酸エステルは、さらに、高温下において長寿命を有し、かつ低温下から高温まで広い温度範囲で使用可能であること(摘示事項(チ)および(テ)参照)、一方、アルキルジフェニルエーテル油は、耐熱性には優れているものの低温性に劣ること、また、エステル系合成油は、油性に優れており、ポリαオレフィン油、シリコーン油と比べて潤滑性に優れていること(摘示事項(タ)参照)などは、いずれも、当業者に周知または公知の技術的事項である。
以上の当業者に公知または周知の技術的事項からみて、高温長寿命グリースの基油として用いられており、かつ低温特性、油性、潤滑性などにも優れることが知られているエステル油を、引用発明の基油として、アルキルジフェニルエーテル油に併用または代えて使用することは、当業者の容易に想到し得るところと認められる。
また、その際、エステル油をどの程度配合するかは、当業者の設計事項であり、しかも、具体的に、末端基が芳香族系炭化水素基主体であるジウレア化合物を増ちょう剤としたグリース組成物の基油として、刊行物1には、上記(iの1)に示したように、エステル系合成油が、基油の20wt%含まれるもの(摘示事項(キ)参照)が例示され、また、刊行物4には、基油全部に用いられること(摘示事項(ニ)参照)が例示されており、このような公知の配合割合からみて、本件発明1での配合割合が格別のものとも認められない。
したがって、上記相違点に格別の困難性を認められない。
そして、本件発明1の効果も、刊行物2に記載されている「高温・高速条件下で軸受からの初期漏洩が少なく、長寿命を有し、軸受の早期剥離がなく、早期焼付きがなく、長期間の優れた潤滑性能を維持できる」効果(摘示事項(ス)参照)及び刊行物3に記載されているエステル油の「高温長寿命グリースの基油として優れ、かつ低温特性、油性、潤滑性にも優れる」効果(摘示事項(タ)、(テ)参照)などから、当業者の予想するところであり、格別なものとも認められない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、上記刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(iiの2)本件発明2,3について
ジウレア化合物を増ちょう剤としたグリース組成物の基油として、本件発明2で選定されるエステル油である、ペンタエリスリトールエステル油やジペンタエリスリトールエステル(ジペンタエリトリットエステル)油などのヒンダードエステル油、フタル酸やトリメリット酸などの芳香族酸のエステル油やそれらエステル油の混合使用は、刊行物1、3、4に記載されている(摘示事項(キ)、(ソ)、(タ)、(ツ)、(ト)、(ナ)、(ニ)など参照)ように、当業者に周知である。
また、刊行物1に記載されている実施例5のグリースに用いられるエステル油は、ペンタエリスリトールエステルのみである(摘示事項(キ)参照)から、これは、本件発明3で選定するペンタエリスリトールエステル油がエステル油全量に対して含有率100wt%である場合に該当し、さらに、基油としてジペンタエリスリトールエステル(ジペンタエリトリットエステル)油の一種類のみの使用や、それと他の種類のヒンダードエステルとの混合使用も、刊行物3に記載されている(摘示事項(ツ)参照)ように、当業者に知られているところである。
したがって、他は、上記(iiの1)で述べたのと同様の理由により、本件発明2、3は、上記刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(iiの3)本件発明4について
刊行物2には、使用対象となる軸受として、主に外輪回転軸受けである「電動クラッチ、アイドラプーリなどの自動車電装部品に使用される軸受」が、外輪回転軸受けで問題となるベルト張力増加による高荷重化の点とともに記載されている(摘示事項(ケ))うえ、解決すべき主な技術的課題として「高荷重条件では潤滑部へのグリース流入不足から早期に軸受が焼付くという問題」が挙げられており(摘示事項(コ))、これは、本件発明の技術的課題と軌を一にするものである。さらに、刊行物2に、性能試験にゴムシールされた深溝玉軸受が用いられることも明記されている(摘示事項(セ)参照)。 したがって、上記(iiの1)(iiの2)で述べたように刊行物1ないし4の記載から当業者が容易に発明し得た本件発明1ないし3のグリース組成物を、本件発明4の如く、外輪回転密封玉軸受に用いることは、刊行物2の記載から当業者の容易に想到し得るところである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明であるから、本件発明1ないし3は、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件発明1ないし4は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-07-01 
出願番号 特願平6-275552
審決分類 P 1 651・ 841- ZB (C10M)
P 1 651・ 121- ZB (C10M)
P 1 651・ 113- ZB (C10M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 唐木 以知良
岩瀬 眞紀子
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3330755号(P3330755)
権利者 協同油脂株式会社 日本精工株式会社
発明の名称 グリース組成物  
代理人 本多 弘徳  
代理人 小栗 昌平  
代理人 栗宇 百合子  
代理人 栗宇 百合子  
代理人 市川 利光  
代理人 本多 弘徳  
代理人 市川 利光  
代理人 小栗 昌平  
代理人 高松 猛  
代理人 高松 猛  

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