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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H03H |
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管理番号 | 1104454 |
異議申立番号 | 異議2003-72955 |
総通号数 | 59 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-08 |
確定日 | 2004-10-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3414370号「弾性表面波フィルタ、デュプレクサ、通信機装置」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3414370号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
(1) 本件発明 本件特許3414370号の請求項1〜4に係る発明(平成12年7月24日出願、平成15年4月4日設定登録)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4項に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は次のとおりである。 「少なくとも二つの弾性表面波共振子を直列腕に、少なくとも一つの弾性表面波共振子を並列腕に備えるように、38°〜46°YcutX伝搬LiTaO3基板を用いて形成された弾性表面波フィルタであって、前記直列腕の弾性表面波共振子のうち最も少ない電極指対数が100対以下であり、前記直列腕の弾性表面波共振子は複数の電極指からなる励振電極を有してなり、前記直列腕の弾性表面波共振子のうち最も少ない電極指対数をN(Nは自然数)としたとき、他の前記直列腕の弾性表面波共振子のうち少なくとも一つの弾性表面波共振子における電極指対数がn×N(nは自然数)と異なる対数であることを特徴とする弾性表面波フィルタ。」 (2)申立ての理由の概要 申立人高谷 薫は、特許請求の範囲の請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証(特開平9-102728号公報)、甲第2号証(特開平10-335978号公報)、甲第3号証(特開平9-167936号公報)、甲第4号証(特開平9-223944号公報)、甲第5号証(特開平10-22767号公報)をもとに、特法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべき旨主張している。 (3)甲第1号証刊行物に記載の発明 ・甲第1号証刊行物には、圧電基板上で弾性表面波共振器を梯子型回路の直列腕と並列腕とに配置し、フィルタ回路を構成する弾性表面波素子において、直列腕に接続される弾性表面波共振器の容量と並列腕に接続される弾性表面波共振器の容量との容量積を得ようとする特性に応じた値に設定することにより、弾性表面波共振器の段数を増加したときのフィルタ特性の通過帯域のカットオフ周波数での減衰を抑制でき、平坦な特性を得ることができるようにした発明が開示されており、また、実施例の説明の段落【0030】に「図1に示す直列腕に配置される弾性表面波共振器12-1、12-4は・・・対数を85対に設定し、図1に示す直列腕に配置される弾性表面波共振器12-2、12-3は・・・対数を43対に設定したものである。」という記載がある。 ・甲第2号証刊行物には、平衡型の弾性表面波(SAW)フィルタ素子とラダー型のSAWフィルタ素子とが縦続接続され、平衡型のSAWフィルタ素子はIDT電極の電極指ピッチが異なる2種のSAW共振子から構成され、電極指ピッチが大きい方のSAW共振子の電極指交差幅、電極指対数、電極指ピッチが小さい方のSAW共振子の電極指交差幅、電極指対数を所定の関係に選ぶことにより、低挿入損失で、通過帯域端部の近傍に高減衰域を有し、かつ所望の周波数帯域に大きな減衰量が得られるようにした弾性表面波フィルタの発明が開示されており、また、実施例の説明の段落【0025】に「・・・図1のSAWフィルタFを以下のように構成した。SAW共振子4,5,9,10(A群とする)・・・SAW共振子3,6,7,8(B群とする)・・・A群の・・・電極指の対数はT1=76対、・・・、B群の・・・電極指の対数はT2=80対」という記載がある。 ・甲第3号証刊行物には、LiTaO3単結晶板のカット角を従来の36°よりも高角度の38〜46°の範囲に設定することにより、GHZ帯域において表面波の減衰が少なく、Qが高い弾性表面波装置についての発明が記載されている。 ・甲第4、5号証刊行物には、弾性表面波フィルタによりデュプレックサを構成すること、アンテナを備えた通信機に該デュプレクサを使用することがそれぞれ記載されている。 (4)対比・判断 本件発明1と甲第1号証刊行物に記載された発明(以下「刊行物1の発明」という。)とを対比すると、本件発明1は、「少なくとも二つの弾性表面波共振子を直列腕に、少なくとも一つの弾性表面波共振子を並列腕に備えるように、38°〜45°YcutX伝搬LiTaO3基板を用いて形成された弾性表面波フィルタ」であることを前提とし(以下、“構成要件1”という。)、さらに「前記直列腕の弾性表面波共振子のうち最も少ない電極指対数が100対以下であり、前記直列腕の弾性表面波共振子は複数の電極指からなる励振電極を有してなり、前記直列腕の弾性表面波共振子のうち最も少ない電極指対数をN(Nは自然数)としたとき、他の前記直列腕の弾性表面波共振子のうち少なくとも一つの弾性表面波共振子における電極指対数がn×N(nは自然数)と異なる対数であること」という構成要件(以下、“構成要件2”という。)を備えたものである。 これに対し、刊行物1の発明は、本件発明1の“構成要件1”に相当する構成を備えておらず、また、“構成要件2”については、直列腕に配置される複数の弾性表面波共振子の電極指対数の数が、その実施例において偶々形式的にその条件に当てはまっているに過ぎず、意図して「直列腕の弾性表面波共振子のうち最も少ない電極指対数をN(Nは自然数)としたとき、他の前記直列腕の弾性表面波共振子のうち少なくとも一つの弾性表面波共振子における電極指対数がn×N(nは自然数)と異なる対数である」ようにしているわけではないことは発明の詳細な説明全体の記載から明らかである。つまり、刊行物1の発明は、直列腕に接続される弾性表面波共振器の容量と並列腕に接続される弾性表面波共振器の容量との容量積を得ようとする特性に応じた値に設定することにより、寄生の容量の影響が少ない場合などに容量積が理論値に近似した値に設定できるため、容量積の小さいことによる悪影響、例えば、弾性表面波共振器の段数を増加したときのフィルタ特性の通過帯域のカットオフ周波数付近での減衰を抑制でき、平坦な特性を得ることができるというものであり、本件発明1のように、直列腕の弾性表面波共振子を構成する電極指の対数を適切な値、すなわち、最も少ない電極指対数または反射電極本数を有する直列腕の弾性表面波共振子に対して、その他の直列腕の弾性表面波共振子のうち少なくとも一つの弾性表面波共振子の電極指対数または反射電極本数を、先のものに対してその正の整数倍とならないようにし、この構成により、最も少ない電極指対数または反射電極本数を有する直列腕の弾性表面波共振子が原因となって生じるリップル(電極指対数または反射電極本数が最も少ないので、それが原因となって生じるリップルは最も大きい)を、電極指対数または反射電極本数が正の整数倍ではない直列腕の弾性表面波共振子によって打ち消すことができる、という技術的思想とは全く異なっている。したがって、本件発明1の“構成要件1”に関する事項が甲第3号証刊行物により公知であるとしても、刊行物1の発明にも甲第3号証刊行物の発明にも本件発明1のような上記課題が存在しない以上、刊行物1の発明において36°Yカット-X伝搬のLiTaO3単結晶板からなる圧電基板を38°〜46°Yカット-X伝搬のLiTaO3単結晶板に変更して本件発明1の構成を得ようとする発想は出てこない。 次に、本件発明1と甲第2号証刊行物に記載された発明(以下「刊行物2の発明」という。)とを対比すると、刊行物2の発明も本件発明1の“構成要件1”に相当する構成を備えておらず、また、弾性表面波共振子の電極指対数に関しても、平衡型のSAWフィルタおよびラダー型のSAWフィルタを構成する2種類(A群、B群)の弾性表面波共振子群における電極指対数をA群のものとB群のものとで異ならせる実施例として、それぞれの電極指対数を77対と80対にする例が示されているが、それは、ラダー型の弾性表面波フィルタにおける直列腕に設けられる複数の弾性表面波共振子の電極指対数の関係を規定しているわけではないことから、同刊行物が本件発明1の“構成要件2”を備えていることにはならない。 また、甲第4号証および甲第5号証の各刊行物は、請求項3又は4に対して提出されたもので、本件発明の“構成要件1”、“構成要件2”については記載も示唆もない。 したがって、本件発明1は甲第1〜5号証の各刊行物に記載された発明から業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (他の請求項に係る発明) 本件特許の請求項2〜4に係る発明は、本件発明1を更に限定するものであるから、同様に各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由および証拠によっては、本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。 なお、他に本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2004-09-21 |
出願番号 | 特願2000-222907(P2000-222907) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H03H)
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最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
下野 和行 |
特許庁審判官 |
矢島 伸一 治田 義孝 |
登録日 | 2003-04-04 |
登録番号 | 特許第3414370号(P3414370) |
権利者 | 株式会社村田製作所 |
発明の名称 | 弾性表面波フィルタ、デュプレクサ、通信機装置 |
代理人 | 増子 尚道 |