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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1105139
審判番号 不服2002-13389  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-07-18 
確定日 2004-10-14 
事件の表示 平成 8年特許願第296505号「映像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月29日出願公開、特開平10-143680〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成8年11月8に出願されたものであって、平成14年4月15日付けで手続補正がなされ、平成14年6月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成14年7月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、審判請求後の平成14年8月5日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成14年8月5日づけの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年8月5日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
平成14年8月5日付けの本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は

「【請求項1】作成された仮想三次元空間内に視点を配置し、仮想三次元空間の二次元映像を所定の映像生成条件に従って生成する映像生成手段と、
前記映像生成手段により生成された映像を表示する映像表示手段と、
前記映像表示手段により表示される映像によって観察者に与えようとする情緒的、感性的感覚の種類を入力指定させる感覚指定手段と、
映像生成条件を決定する定数を、映像によって観察者に与えようとする情緒的、感性的感覚の種類別に記憶する感覚別定数記憶手段と、
前記感覚指定手段から入力指定された情緒的、感性的感覚の種類に基づいて、前記感覚別定数記憶手段の記憶内容から定数を検索して設定する定数設定手段と、
前記映像生成手段によって出力される視点に関する情報と前記定数設定手段によって設定された定数に基づいて映像生成条件を算出して前記映像生成手段に送出する映像生成条件算出手段と、
を有することを特徴とする映像表示装置。」
と補正された。
前記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項の「感覚の種類」について、「情緒的、感性的」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するかどうかについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した特開平7-98772号公報(平成7年4月11日出願公開)(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の各記載がある。

(ア)「【0034】
【実施例】以下,図に従って本発明の実施例を説明する。図2は,本発明の実施例を説明するための仮想世界の例,図3ないし図6は,図2に示す仮想世界を構成する物体情報の例を示す。
【0035】本実施例では,代表的な属性として次のような属性を使用する。これらの属性の名称および内容は,説明をわかりやすくするための例示であり,本発明は,もちろんこれらの属性に限られるわけではない。同様に種々の属性を与えることができる。
【0036】この例では干渉属性として,壁・階段・障子・床がある。
『壁』属性は,この属性を持つ物体がたとえ斜めになっていても,視線が上を歩くことはできない属性である。内部への他の物体のいかなる染み込みも禁止される。物体を定義した際のデフォルトの干渉属性は『壁』である。
【0037】『階段』属性は,実際の形状を使って計算した平均傾斜角度というパラメータを持つ。その上を傾斜角度に沿って,上昇・下降することができる。
『障子』属性は,この属性を持つ物体がたとえ斜めになっていても,視線が上を歩くことはできない属性で,内部への浸透開始圧力をパラメータとして設定できる属性である。内部へは,設定した浸透開始圧力以上の力で他物体が衝突した場合にのみ,内部へ染み込むことが許される。
【0038】『床』属性は,この属性を持つ物体がたとえどんなに垂直になっていても,視線が上を歩くことができる属性である。視線の設定(目線の高さ)によっては,歩き方(床面から常に一定の高さを保つ等)のバリエーションも可能である。
【0039】また,本実施例における反応属性として,反応の動きや音などを示すものと,起動スイッチを示すものがある。動き等を示す反応属性としては,回転・平行移動・音声がある。
【0040】『回転』属性は,何らかのスイッチのトリガーによって,自動回転運動を開始する物体であることを示す属性である。この属性では,開始/終了位置と,片道/往復といった回転の種類等を設定することができる。例えば,時計の針,ドアノブ,回転ドア,本の開閉,跳ね橋等の実現に使用することができる。
【0041】『平行移動』属性は,何らかのスイッチのトリガーによって,自動平行移動運動を開始する物体であることを示す属性である。この属性では,平行移動する平面,移動開始/終了位置,片道/往復といった移動の種類等を設定することができる。例えば,襖,サッシ窓,引き出し等の実現に使用することができる。
【0042】『音声』属性(音声出力属性)は,何らかのスイッチのトリガーによって,その物体にあらかじめ登録されている音データに基づいて音声を出力することを示す属性である。
【0043】例えば,図2に示すような物体が存在する仮想世界を創るとする。最初に物体を定義する。物体の形状や位置等の定義については,従来技術と同様でよいので,ここでの詳しい説明は省略し,定義後のデータ構造について詳しく説明する。本実施例では,属性の編集画面によって各物体に属性を付与することができるようになっている。
【0044】図2に示す階段30の物体情報は,例えば図3(A)に示すようなデータとして管理される。データ型は一般型であり,通常のオブジェクトであることを示す。バウンディングボリュームは,交叉計算等を容易にするためにその物体を含む空間のサイズを示すものである。位置行列は,仮想世界の三次元空間における物体の位置を示す。名称は,この物体を特定する名前であり,ここでは「階段」とういう名前である。干渉属性データは,図1に示す属性定義・設定手段12によって設定された属性情報であり,属性タイプは『階段』である。平均傾斜角度として30度のパラメータを持ち,この角度で昇降できるようになっている。質感データは,物体の色や模様(テクスチャ)を示すデータであり,この階段の色は
焦げ茶色,テクスチャは木目と定義されている。他に形状の種類(メッシュ)や座標値を示す形状データ,質量や重心座標を示す物理データが定義されている。この階段30には反応属性は定義されていない。
【0045】図2に示す手すり31の物体情報は,例えば図3(B)に示すようなデータとして管理される。一般的なデータの内容については,階段30について前述した内容と同様であるので,以下,主に本発明に関係する属性情報を中心に説明する。手すり31の干渉属性の属性タイプはデフォルトで定義されている『壁』である。したがって,手すり31の上を視線が動くことはできず,内部への染み込みも禁止される。この手すり31にも,反応属性は定義されていない。
【0046】図2に示すガラス窓32の物体情報は,例えば図4(A)に示すようなデータとして管理される。ガラス窓32の干渉属性の属性タイプは『障子』であり,最大圧力は『25.0』と定義されている。これは耐久圧力を表し,『25.0』の圧力以上の衝突力を受けた場合にのみ,内部への染み込みを許すことを示す。反応属性データは定義されていない。
【0047】図2に示す床33の物体情報は,例えば図4(B)に示すようなデータとして管理される。床33の干渉属性の属性タイプは『床』である。したがって,視線がこの上を歩くことができる。反応属性データは定義されていない。図2に示す壁34の物体情報も,同様に定義される。壁34の干渉属性はデフォルトの『壁』である。
【0048】図2に示すドア35の物体情報は,例えば図5(A)に示すようなデータとして管理される。ドア35の干渉属性の属性タイプは『壁』である。さらに,ドア35には反応属性が定義され,その種類が『反応』になっている。アニメーションタイプが『回転』であり,回転の開始終了位置行列が定義されている。スイッチ相手は『ドアノブ』であり,次に説明するドアノブ36のクリックによって回転運動を開始するように定義されている。
【0049】図2に示すドアノブ36の物体情報は,例えば図5(B)に示すようなデータとして管理される。ドアノブ36の干渉属性の属性タイプは『壁』である。反応属性の種類として,『スイッチ』が定義されており,スイッチタイプは『クリック』である。これは,マウス等による画面上のクリックで,対象反応物体を稼動させることを示す。反応先である対象反応物体は,ドア35である。
【0050】図2に示す箱37の物体情報は,例えば図6(A)に示すようなデータとして管理される。箱37の干渉属性の属性タイプは『壁』であり,この上を跨いで歩くことはできない。反応属性として,種類『反応』の二つの属性が定義されている。一つはアニメーションタイプが『回転』でスイッチ相手は視線である。これは,後述する視線との接触によって,設定された回転運動を開始することを示す。もう一つはアニメーションタイプが『音』であり,音声を出力する反応を起こすことを示している。音声出力時に使用する使用音データは,『音31』という識別情報で管理される場所にあらかじめ登録されている。スイッチ相手は視線である。これは,後述する視線との接触によって,設定された音データを出力することを示す。
【0051】図2に示す視線38の物体情報は,例えば図6(B)に示すようなデータとして管理される。視線38のデータ型は『視線型』である。視線38は,仮想世界を歩く人の目の位置と方向を示すものであり,物理的な形状データ等はないが,処理の統一化のために通常の物体と同様に扱われる。視線38に対し,視線ボリューム定義手段13によって,通常の物体に対するバウンディングボリュームの定義と同様に,視線のボリュームを定義することができる。ここでは,視線のバウンディングボリュームから楕円体などの仮想的な視線のボリュームを決める。この視線38に対する反応属性として,ここでは『スイッチ』の属性が定義されており,スイッチタイプは『接触』である。反応先は前述した『箱』となっている。これは,視線38が箱37と接触したときに,箱37に定義されている反応属性に応じた処理を起動することを意味している。」(第5頁左欄段落【0034】〜第6頁段落【0051】)

(イ)「【0052】以上のような属性の定義・設定は,仮想世界の編集時やシミュレーション時に図1に示す属性定義・設定手段12によって行われる。図7は,属性定義・設定手段12による属性設定メニューの構造を示している。最初のメニューで『属性表示』または『属性設定』を選択することができる。『属性表示』のメニューでは,さらに『干渉属性表示』または『反応属性表示』のいずれかを選択することができる。
【0053】図8は,『干渉属性表示』のメニュー選択により表示された干渉属性の表示例を示す。『干渉属性表示』のメニューが選択されると,図3ないし図6に示す物体情報における各物体の干渉属性が参照され,例えば図8(A)に示すように,各物体の物体名と設定済みの干渉属性名とが仮想世界上で表示される。これにより,ユーザは設定済みの干渉属性を知ることができる。
【0054】表示された属性の部分を,マウス等によりクリックすれば,図8(B)に示すように,さらに小ウインドウが開示され,詳細なパラメータが表示される。図8(B)は,階段の属性部分をクリックしたときに表示されるウインドウの例である。
【0055】また,図9は,『反応属性表示』のメニュー選択により表示された反応属性の表示例を示す。『反応属性表示』のメニューが選択されると,図3ないし図6に示す物体情報における各物体の反応属性が参照され,例えば図9に示すように,各物体に設定済みの反応属性が,色分けで表示される。なお,色分け表示ではなく,干渉属性の表示例と同様に『スイッチ』や『回転体』などの文字表示で反応属性の分布を表示してもよい。ここでは,反応属性の種類により,スイッチの物体がピンク,反応の物体が水色,その他の物体が白で表示されている。このように,反応属性が設定されている物体のすべてを色分けして表示する。この後,任意のスイッチ,例えば『ドアノブ』をクリックすると,その『ドアノブ』をスイッチ相手とする反応属性物体群(ここでは『ドア』)が,さらに顕示表示される。すなわち,例えばピンク色は赤,水色は青というように反応属性物体群を強調して表示する。
【0056】図7に示すような属性設定メニューにおいて『干渉属性』の設定メニューが選択された場合,設定対象物体に対して設定可能な干渉属性の一覧メニューが表示される。例えば,階段属性を選択すると,干渉属性の表示例で説明した図8(B)に示すようなウインドウが表示され,このウインドウでは,あらかじめ定義されている物体の形状データによって,自動的に平均傾斜角度が計算され表示される。デフォルトで表示された平均傾斜角度を示すマークをドラッグすることにより,この角度を変更することもできる。キャンセル・ボタンによって設定を取り消すことができる。終了ボタンによって属性の設定を終了する。
【0057】図10は,反応属性の設定画面の例を示す。図7に示すような属性設定メニューにおいて『反応属性(スイッチ)』の設定メニューが選択された場合,反応属性設定画面が表示される。この属性設定ではスイッチタイプが外部からの起動指示によって反応することを示す『クリックスイッチ』と,物体の接触時に反応する『接触スイッチ』を選択することができる。『接触スイッチ』を選択すると,例えば図10(A)に示すようなウインドウが表示される。反応オブジェクトのリストへの追加/削除/登録/編集は,リス
ト内の該当部分を選択し,そのボタンをクリックすることにより行う。
【0058】図10(B)や(C)に示すような実際の反応物体の動きを設定するウインドウの開示方法は,次の2種類がある。第1の方法は,起動予定反応オブジェクトリスト内の該当オブジェクトの部分をクリックする方法である。第2の方法は,図9に示すような反応属性の表示等において,画面上で直接編集したい反応オブジェクトを選択し,メニューに従って反応属性を選択する方法である。
【0059】図10(B)は,反応属性の設定において『回転体』のメニューを選択したときのウインドウ表示例を示す。このウインドウにより反応物体の回転角度,回転種類等を設定することができる。『移動体』についても同様な画面により,移動開始終了位置や移動の種類を設定することができる。
【0060】また,図10(C)は,反応属性の設定において,『音声体』のメニューを選択したときのウインドウ表示例を示す。音声演奏時間,使用音源,また音声データが格納されたファイルのリスト等の設定が可能になっている。」(第6頁段落【0052】〜第7頁段落【0060】)

(ウ)「【0061】次に図11に従って,図1に示す状態変化計算手段17による処理の流れを説明する。以下の説明における処理(a)〜(s) は,図11に示す(a)〜(s) に対応する。
【0062】(a) 結果表示手段19に表示指示を出し,初期画面またはそれまでの計算結果の画像を表示装置21に表示する。
(b) 出力すべき音声データがあれば,音声出力手段20を介して音声を出力する。
【0063】(c) 現時刻tを所定の時間Δtだけ進める(t′=t+Δt)。
(d) 仮想世界を表示する画面上で,物体のクリックがあったかどうか,すなわち起動指示入力手段14からの起動指示があったかどうかを判定する。なければ,処理(g) へ進む。
【0064】(e) 物体のクリックがあれば,クリックされた物体の反応属性を調べ,スイッチ属性が定義されているかどうかを判定する。スイッチ属性が定義されていない場合,次の処理(f) をスキップする。
【0065】(f) スイッチ属性が定義されている場合,クリックされた物体をトリガーとする反応物体を探索し,起動する。
(g) 次に,仮想世界において運動中の物体があるかどうかを判定し,なければ処理(a) へ制御を戻す。
【0066】(h) 運動中の物体があれば,その運動中の物体の一つ(以下,物体Aと呼ぶ)を選択し,現時刻で仮更新を行う。仮更新とは,他の物体との干渉がないものとして仮に計算した結果を求める処理である。他の物体との干渉がなければ,その結果が有効となる。
【0067】(i) 他の物体(これを物体Bと呼ぶ)でデータ型が一般型(視線や光源等ではない形状のあるもの)のオブジェクトがあるかどうかを調べ,あれば,その物体Bと物体Aとの干渉(接触/衝突)を調べる。
【0068】(j) 物体Aと干渉する物体Bがなければ,処理(g) へ戻り,次の運動中物体の処理へ移る。物体Aと干渉する物体Bがあれば,以下の処理を行う。
(k) 干渉時の運動量,すなわち物体Aと物体Bとの衝突における接触圧力を計算する。これは与えられた移動速度や物体情報として定義されている質量等により求められる。
【0069】(l) 次に,物体Aは視線かどうかを判定する。視線の場合,処理(n) へ進み,視線でない場合,処理(m) を実行する。
(m) 物体Aが視線でない場合,物体Bの干渉属性の種類を調べ,物体Bの干渉属性に応じて次のような移動干渉計算を行う。
【0070】 物体Bの属性が『壁』である場合,一般物体(物体A)と壁(物体B)が衝突する。物体Bは内部への他の物体の染み込みを禁止するので,物体Aの運動の仮更新を取り消す。
【0071】物体Bの属性が『階段』である場合,物体Aは視線ではないので,階段属性は原則として壁属性と同様に扱われる。したがって,物体Aの運動の仮更新を取り消す。ただし,一般物体の大きさを視線のボリュームとみなして,一般物体についても視線と同様に階段に沿って昇降するようにしてもよい。
【0072】物体Bの属性が『床』である場合,床は一般物体に対して壁属性と同様に作用するので,物体Aの運動の仮更新を取り消す。ただし,一般物体の大きさを視線のボリュームとみなして,一般物体についても視線と同様に床に沿って移動するようにしてもよい。
【0073】物体Bの属性が『障子』である場合,処理(k) により算出済みの接触圧力と物体Bの干渉属性(障子)のパラメータ(最大圧力)とを比較し,接触圧力のほうが大きければ,物体Aの運動の仮更新を本位置として確定し,小さければ仮更新を取り消す。
【0074】(n) 物体Aが視線の場合,視線に視線ボリュームが設定されているか否かを判定する。設定されていれば処理(o) へ進み,設定されていなければ処理(p) へ進む。
【0075】(o) 物体Aが視線で,視線ボリューム設定されている場合,物体Bの干渉属性の種類を調べ,物体Bの干渉属性に応じて次のような移動干渉計算を行う。
(1)物体Bの属性が『壁』である場合,物体Bは視線についても内部への他の物体の染み込みを禁止するので,物体A(視線)の運動の仮更新を取り消す。
【0076】(2)物体Bの属性が『階段』である場合,物体A(視線)は階段に沿って昇降する。そのため,物体Aの仮更新を取り消し,仮想世界の重力方向に対して視線ボリュームの高さを維持するような視線の位置を,物体Bの干渉属性(階段)のパラメータ(平均傾斜角度)を利用して算出し直し,本位置として確定する。
【0077】(3)物体Bの属性が『床』である場合,物体A(視線)は床に沿って移動する。そのため,物体Aの仮更新を取り消し,仮想世界の重力方向に対して視線ボリュームの高さを維持するような視線の位置を,物体Bの形状を利用して算出し直し,本位置として確定する。
【0078】(4)物体Bの属性が『障子』である場合,処理(k) により算出済みの接触圧力と物体Bの干渉属性(障子)のパラメータ(最大圧力)とを比較し,接触圧力のほうが大きければ,物体Aの運動の仮更新を本位置として確定し,小さければ仮更新を取り消す。
【0079】(p) 物体Aが視線で,視線ボリュームが設定されていない場合には,物体Bの干渉属性の種類を調べ,物体Bの干渉属性に応じて次のような移動干渉計算を行う。
【0080】(1)物体Bの属性が『壁』である場合,物体Bは内部への他の物体の染み込みを禁止するので,物体A(視線)の運動の仮更新を取り消す。
(2)物体Bの属性が『階段』である場合,物体A(視線)に対して視線ボリュームが定義されていないので,物体Bの階段属性は物体Aに対し壁属性と同様に作用する。したがって,物体Aの運動の仮更新を取り消す。
【0081】(3)物体Bの属性が『床』である場合,物体A(視線)に対して視線ボリュームが定義されていないので,物体Bの床属性は物体Aに対し壁属性と同様に作用する。したがって,物体Aの運動の仮更新を取り消す。
【0082】(4)物体Bの属性が『障子』である場合,処理(k) により算出済みの接触圧力と物体Bの干渉属性(障子)のパラメータ(最大圧力)とを比較し,接触圧力のほうが大きければ,物体Aの運動の仮更新を本位置として確定し,小さければ仮更新を取り消す。
【0083】(q) 以上の処理(m) ,(o) または(p) による移動干渉計算の結果を,結果表示手段19への通知用領域へ格納した後,物体Aの反応属性を調べ,接触スイッチのスイッチ属性が設定されているかどうかを判定する。設定されていなければ,処理(g) へ戻る。
【0084】(r) 物体Aに接触スイッチのスイッチ属性が設定されている場合,反応先が物体Bかどうか,または物体Bの反応属性(反応)におけるスイッチ相手が物体Aになっているかどうかを判定する。物体Bが反応先または物体Bのスイッチ相手が物体Aであれば,次の処理(s) を実行する。そうでなければ,処理(g) へ戻る。
【0085】(s) 物体Bを起動し,運動中物体の一つに加える。
その後,処理(g) へ戻り,同様に次の運動中の物体の処理を繰り返す。
以上の処理説明では,代表的な属性についての処理を説明したが,新たな属性を定義した場合には,その属性に応じた移動干渉計算の処理ルーチンを登録することができる。それによって,同様にその属性に応じた計算を簡単に行うことができる。その属性に応じた移動干渉計算の実行方法は任意であり,サブルーチン化による方法,テーブル分岐を用いる方法など,CGシミュレーションのシステムに応じて各種の方法を採用することができる。」(第7頁段落【0061】〜第8頁段落【0085】)

以上(ア)〜(ウ)の記載から見て、引用例1には、次のような発明が記載されているものと認められる。
「コンピュータグラフィックス(CG)によるシミュレーション装置であって、三次元仮想世界内の物体に干渉または反応に関する属性という概念を導入し、それを定義・設定する属性定義設定手段12と、三次元仮想世界内における物体の移動または外部からの起動指示に対し、関係する物体の属性に従って物体の状態変化を計算する状態変化計算手段17とを設け、
三次元仮想世界内に仮想物体を創る時には、先ず従来の如く対象物体のデータ構造を示すデータ型、物体を含む空間のサイズを示すバウンディングボリューム、物体の位置を示す位置行列、物体の名称(例えば階段)を示す名称、物体の色やテクスチャーを示す質感データ、メッシュであるとかの形状の種類を示す形状データ、質量や重心座標を示す物理データを定義・設定し、
次に、『壁』、『階段』、『障子』、『床』等の干渉属性を定義・設定する時には、『属性設定』メニューを開き、開かれた『属性表示』メニューまたは『属性設定』メニューのうち『属性設定』メニューを開き、以下同様に次々と下位のメニューを開き、必要な項目をクリックにより選択し又は必要なデータを入力して干渉属性を定義・設定し、
さらに次に、『回転』、『平行移動』、『音声』等の反応属性を定義・設定する時には、『属性設定』メニューの下位メニューである『反応属性(スイッチ)』メニュー及び『反応属性(反応)』メニューを開き、以下同様に次々と下位のメニューを開き、必要は項目をクリックにより選択し又は必要なデータを入力して反応属性を定義・設定して対象物体の創造を終了し、
そしてすべての仮想対象物体の定義・設定が完了しシミュレーション動作が可能になった状態において、三次元仮想世界内における物体の移動または外部からの起動指示に対し、状態変化計算手段17は、関係する各物体の属性に従って各物体の状態変化及び移動干渉結果を少ない計算量で簡単に計算することにより、アミューズメント色の強い、利用者のイメージ通りの、より現実に近い感覚で、例えば階段については日常昇り降りする感覚で、CGに詳しくない一般のユーザでも仮想世界において思い通りの視線移動等を実現したコンピュータグラフィックスによるシミュレーション装置。」

(3)対比
本願補正発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載された発明の「処理装置11」、「状態変化計算手段17」、および「結果表示手段19及び表示装置21」は、それぞれ本願発明の「映像生成手段」、「映像生成条件算出手段」、および「映像表示装置」に相当することは明かである。
引用例1には、三次元仮想空間内に視線及び視線ボリュームを設定し、三次元仮想空間内の二次元映像を所定の条件に従って生成し該生成された映像を表示装置21に表示することが記載されているから、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「作成された仮想三次元空間内に視点を配置し、仮想三次元空間の二次元映像を所定の映像生成条件に従って生成する映像生成手段と、前記映像生成手段により生成された映像を表示する映像表示手段と」を有する点で差異はない。
引用例1には、物体情報記憶手段15及び属性記憶手段16の記憶内容を参照し、視線のボリュームと他の物体の属性との関係によって視線の移動位置を計算して処理装置11に送出する状態変化計算手段手段17が記載されているから、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「前記映像生成手段によって出力される視点に関する情報と定数設定手段によって設定された定数に基づいて映像生成条件を算出して前記映像生成手段に送出する映像生成条件算出手段」を有する点で差異はない。
そうすると、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「作成された仮想三次元空間内に視点を配置し、仮想三次元空間の二次元映像を所定の映像生成条件に従って生成する映像生成手段と、
前記映像生成手段により生成された映像を表示する映像表示手段と、
映像生成条件を決定する定数を記憶する定数記憶手段と、
前記映像生成手段によって出力される視点に関する情報と設定された定数に基づいて映像生成条件を算出して前記映像生成手段に送出する映像生成条件算出手段と、
を有する映像表示装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願補正発明は、前記映像表示手段により表示される映像によって観察者に与えようとする情緒的、感性的感覚の種類を入力指定させる感覚指定手段と、映像生成条件を決定する定数を、映像によって観察者に与えようとする情緒的、感性的感覚の種類別に記憶する感覚別定数記憶手段と、前記感覚指定手段から入力指定された情緒的、感性的感覚の種類に基づいて、前記感覚別定数記憶手段の記憶内容から定数を検索して設定する定数設定手段とを有しているのに対し、
引用例1に記載された発明は、表示物体の属性を定義・設定する際、メニュー及びウインドウ方式により定義・設定しており、本願補正発明の如く情緒的、感性的感覚の種類を入力して定義・設定していない点。
すなわち、引用例1に記載された発明は、感覚指定手段、感覚別定数記憶手段、及び定数設定手段を有すると明記しない点。

(4)判断
前記相違点について判断するに、一般に、人間の情緒や感性を表す情緒・感性言語を入力し、該入力された言語を物理的データや要素に変換・設定し、目的とする物理的対象を設計する「人間工学」の一分野をなすところの「情緒工学」及び「感性工学」は、当業者には周知である。例えば、
(a)電子情報通信学会誌,「情緒工学」,長町三生著,1988年3月発行,VOl.71,NO.3,pp.245-247
には、人間の情緒、感情、感性、及びイメージを言語で表現し、該情緒、感情、感性、及びイメージを表す言語を入力することにより、その情緒、感情、感性、及びイメージに対応する最適な工学的データ及びデザインをデータベースから検索設定し、それに基づいて人間が持つイメージを実現する「情緒工学」が記載されている。そしてこの「情緒工学」は、服飾のデザイン、自動車の設計、住宅の設計等に応用されていることが記載されており、例えばHULISというシステムは、住宅を設計するに際し、顧客が述べた「和室」、「洋間」等の部屋の種類を表す言葉の他に、顧客のフィーリングを表す「豪華」、「広々とした」、「ゆったりとした」等のフィーリング言語を入力し、この入力されたフィーリング言語に基づいて形状データベース及びカラーデータベースから適切なデザイン要因を決定しディスプレイに表示し顧客のニーズを容れつつ住宅を設計することが記載されている。
(b)特開平6-103347号公報
には、「感性工学」を住宅のドアの設計に応用することが記載されており、ドアを設計するに際し、人間の持つ感性及びイメージを「モダンな」、「美しい」等の形容詞で表現し感性ワードとなし、該感性ワードを入力すると対応するデータを検索設定し、入力された感性ワードに最もふさわしいデザインのドアを具体的に画像で表示しドアの設計に資することが記載されている。
(c)特開平2-259965号公報
特開平4-266165号公報
特開平4-268972号公報
特開平4-278672号公報
には、評価用語入力手段から入力された「スポーティな」、「豪華な」、「走り屋向きの」等の人間の感性を表す評価用語に基づいて推論を行い抽出された最適なデザイン要素を表示画面に画像表示し車両を設計する車両デザイン装置が記載されている。
(d)特開平4-253287号公報及び特開平5-232919号公報
には、色に対する人間の感性を表す「鮮やかに」、「鈍く」、「濃く」、「薄く」等の色調整方向を示す言葉、及び人間の量的感覚を表す「少し」、「もっと」、「沢山」等の色調整量を示す言葉を入力し、入力されたこれらの言葉に対応する均等色空間L*a*b*における最適な色データを検索設定し画像を描画するカラー画像描画装置が記載されている。
(e)特開平6-333002号公報
には、人間の心理的効果もしくは醸し出す雰囲気を表す「エレガント」、「スポーティー」、「クラシック」等の言葉に1対1に対応するキーを押すことにより、入力された言葉に相当する色定数を設定し、望み通りの配色を簡単に決定する画像処理方法及び装置が記載されている。
(f)「エースコンバット パーフェクトガイド」,1995年8月1日 初版発行,編集 The Play Station 編集部,発行所 ソフトバンク株式会社,p.8,pp.92-95
には、プレイヤーに対するゲームの難易度の感覚を表すイージー、ノーマル、及びハードのモードを指定し、各モードのゲーム実行時における必要な定数を設定し、プレイヤーの視点と該設定された定数とに基づいて各難易度に応じて映像生成条件を算出することが記載されている。
上記(a)〜(f)の例に示されるように、住宅の設計、服飾のデザイン、車両の設計、画像の色彩設定、映像の定数設定等において、人間の持つ感性、情緒、及びイメージを表現する言葉を入力し又は言葉に1対1に対応するキーを押下して、該入力された言葉又は押下されたキーに対応する最適な定数、データ及びデザイン等をデータベースを構成する記憶手段から検索しこれを設定し該検索抽出したデータ、デザイン等を表示し設計の簡略化に資することは、当業者が周知慣用している技術事項である。
以上の事実に照らすと、「感覚指定手段」、「感覚別定数記憶手段」、及び「定数設定手段」は、本件出願前既に当業者には周知慣用されていた技術手段であることは、明かである。したがって、この周知慣用の技術手段を引用例1に記載された発明に転用し本願補正発明の如く構成することは、当業者が適宜なし得ることである。

(5)むすび
以上のとおり、平成14年8月5日付けの手続補正による本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではなく、特許法第17条の2第5項で準用する同法126条第4項の規定に違反するものであるから、前記手続補正は、平成15年改正前特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

3.本願発明について
平成14年8月5日付けの手続補正は、前記とおり却下されるから、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】作成された仮想三次元空間内に視点を配置し、仮想三次元空間の二次元映像を所定の映像生成条件に従って生成する映像生成手段と、
前記映像生成手段により生成された映像を表示する映像表示手段と、
前記映像表示手段により表示される映像によって観察者に与えようとする感覚の種類を入力指定させる感覚指定手段と、
映像生成条件を決定する定数を、映像によって観察者に与えようとする感覚の種類別に記憶する感覚別定数記憶手段と、
前記感覚指定手段から入力指定された感覚の種類に基づいて、前記感覚別定数記憶手段の記憶内容から定数を検索して設定する定数設定手段と、
前記映像生成手段によって出力される視点に関する情報と前記定数設定手段によって設定された定数に基づいて映像生成条件を算出して前記映像生成手段に送出する映像生成条件算出手段と、
を有することを特徴とする映像表示装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶理由に引用された引用例、及びその記載事実は、前記「2.(2)」項に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」項で検討した本願補正発明からその限定事項である「情緒的、感性的」を省いたものである。
そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに他の特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」項に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-08-16 
結審通知日 2004-08-17 
審決日 2004-08-30 
出願番号 特願平8-296505
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 537- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 彰村松 貴士  
特許庁審判長 関川 正志
特許庁審判官 小川 謙
江頭 信彦
発明の名称 映像表示装置  
代理人 石田 純  
代理人 吉田 研二  

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