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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1105169
審判番号 不服2001-9945  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-06-14 
確定日 2004-10-14 
事件の表示 平成3年特許願第110298号「放射線画像信号の処理装置」拒絶査定に対する審判事件〔平成4年11月25日出願公開、特開平4-337874〕についてした平成14年6月11日付けの審決に対し、東京高等裁判所において審決取消しの判決(平成14(行ケ)第395号、平成15年5月29日判決言渡)があったので、更に審理の結果、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、明細書および図面の記載からみて、平成15年12月1日付手続補正書で手続補正された請求項1に記載された次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)である。
「【請求項1】
被写体を通過した放射線量を検知してデジタル放射線画像信号に変換する撮像手段と、
該撮像手段で得られたデジタル放射線画像信号の低空間周波数成分の振幅を減弱させる低周波成分減弱手段とを含んで構成され、
該低周波成分減弱手段が、前記デジタル放射線画像信号から、0.5サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以下及び0.01サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以上となる所定の低空間周波数に対応する非鮮鋭マスク信号を求め、この非鮮鋭マスク信号に0.1≦K≦0.8の範囲から選ばれる減弱係数Kを乗算した値を、前記デジタル放射線画像信号から減算するものである
ことを特徴とする放射線画像信号の処理装置。」


2.刊行物
特開昭60-192482号公報(以下、「引用例1」という。)
特開昭56-75140号公報(以下、「引用例2」という。)

上記引用例1には、「ラスタ操作イメージ増強方法」に関する発明において、図面と共に、以下の記載がある。

(ア)「[発明の分野]
本発明は放射像、さらに詳しくは、特にX線放射に曝すことによって増強板に記録された放射像を強調する方法に関する。(中略)この方法は放射に曝されることによりエネルギを蓄えて、つぎに励起させると異なる形態もしくは波長の放射を放出するけい光体を用いて使用されている。この発明の方法は励起されたけい光体により放出された像を強調するものである。」(第3頁右下欄3行ないし13行)
(イ)「この種手法においては、像は走査によって多数の“画素”に分割されている。各画素iが走査される間、像の値Diを有した画素iに中心があるn×m画素より成る移動窓がオンライン コンピュータによって調べられる。窓内の画素の算術的平均D ̄を用いて、中心画素値DiをD’i=aDi-bD ̄のアルゴリズムによってフィルタ値D’iになおしている。パラメータaおよびbは特定の像特性を与えるように選ばれるが単一像の全走査にわたって一定である。」(第4頁右上欄9行ないし18行)(なお、「窓内の画素の算術平均」については、引用例1の記載上はDの上部にバーを付した記載となっているが、ここでは「D ̄」と記載する)
(ウ)「[発明の概要]
本発明は像の端部およびコントラストの適応強調技術に関し、特に改良した非尖鋭マスク処理にもとづくレントゲン(放射線写真)像に対するものである。
原イメージ(たとえばレントゲン信号あるいはそのコピー)は種々の公知の技術のいづれかを用いてラスタ走査され、画像イメージ値(たとえば密度、透過、放射フラックス、電流、電圧等)のアレーを与えている。(中略)
フィルタ技術は像を垂直ならびに水平の両方向に動くスライド窓にもとづいている。窓の中央画素の密度は各ステップにおいてフィルタ等式によって新しい値に変換される。この等式は上述のAinety他およびWilson他によって報告されているものと同じ式、すなわちD’i=aDi-bD ̄である。従来、aおよびbは所与の特性に対して一定、あるいは最良の場合でも画像に対してDiあるいはD ̄の関数として変化されていた。」(第4頁右下欄4行ないし第5頁左上欄3行)
(エ)「低分解能イメージは低域フィルタあるいは積分器と考えられ、通常分解能イメージはほぼ全通過フィルタと考えられる。上記各項の減算は、修正された高域フィルタを形成し、従ってこれは非尖鋭マスクフィルタと関連づけられる。
(中略)
このアルゴリズムは、垂直と水平の両方向に動くスライド窓によって選択される画素に適用される。窓の大きさは5画素(隅を除いた3×3)の小さいものから非常に大きい数の画素まで可能である。画素数が大きい程、有用な細部まで除去してしまう可能性が大きい。有用な限界は15×15画素の窓(225画素)であり、5-100画素が好ましい限界である。さらに好ましい限界は窓当りの画素が5-81と5-64との範囲である。この窓の中央画素密度Dcは次の等式によって新しい値D’cに変換される。
D’c=aDc-bD ̄ (2・1)
ここでDは窓の平均レベルあるいは低分解能信号を表わす。パラメータaおよびbはオンラインによって次のように同定され調整される。簡素なシーリング係数をD’に適用する方法は当該技術で周知であるので簡単のためa=1に設定する。
D’c=Dc-bD ̄ (2・2)
bの値が増加すると、(Dc-bD ̄)の量が正であるかぎり、端部強調の程度も増加する。
(中略)大抵の場合、bの有用な限界は0<b<1の範囲と決定できた。ここでb=0は通常の分解能(原イメージ)に相応し、bが0から1に増加するにつれて、イメージの端部は尖鋭度が強調される。この技術はイメージのダイナミック信号レンジを圧縮(ヒストグラム圧縮)し、輝度の減少および重要な情報の損失をもたらすことも観察された。」(第6頁右上欄1行ないし右下欄10行)

上記(ア)〜(エ)の記載によると、引用例1には、
「放射線像、特にX線放射に曝されることによりエネルギを蓄えて、つぎに励起させると異なる形態もしくは波長の放射を放出するけい光体を用いて、励起されたけい光体により放出された像、すなわち、レントゲン像の端部およびコントラストの強調する方法に関し、各画素iが走査される間、像の値Diを有した画素iに中心があるn×m画素より成る移動窓がオンライン コンピュータによって調べられ、窓内の画素の算術的平均D ̄を用いて、この窓の中央画素密度Dcは次の等式によって新しい値D’cに変換され、
D’c=Dc-bD ̄
パラメータbは同定され調整され、0<b<1の範囲と決定できるラスタ操作イメージ増強方法」の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)、
「低分解能イメージは低域フィルタあるいは積分器と考えられ、通常分解能イメージはほぼ全通過フィルタと考えられる。上記各項の減算は、修正された高域フィルタを形成し、従ってこれは非尖鋭マスクフィルタと関連づけられる」こと(以下、「引用例1記載の事項1」という。)
「ここでb=0は通常の分解能(原イメージ)に相応し、bが0から1に増加するにつれて、イメージの端部は尖鋭度が強調される。この技術はイメージのダイナミック信号レンジを圧縮(ヒストグラム圧縮)し、輝度の減少および重要な情報の損失をもたらすことも観察された」こと(以下、「引用例1記載の事項2」という。)、
および、「窓の大きさは5画素(隅を除いた3×3)の小さいものから非常に大きい数の画素まで可能であり、画素数が大きい程、有用な細部まで除去してしまう可能性が大きく、有用な限界は15×15画素の窓(225画素)であり、5-100画素が好ましい限界である」こと(以下、「引用例1記載の事項3」という。)
が記載されている。

上記引用例2には、
(オ)「変調伝達関数が0.02サイクル/mmの空間周波数のときに0.5以上でかつ0.15サイクル/mmの空間周波数のときに0.5以下であるような非鮮鋭マスク(中略)を用いると、診断性能の向上が著しく好ましい」(第5頁左上欄18行ないし右上欄8行)こと(以下、「引用例2記載の事項」という。)が記載されている。


3.対比・判断
引用例1記載の発明は「ラスタ操作イメージ増強方法」なる方法として発明が表現されているが、これを物として発明を表現し得ることは自明であって、単なる表現上の問題にすぎない。

そこで、本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、

引用例1記載の発明は、「D’c=Dc-bD ̄」を求めており、「D ̄」は窓内の画素の算術的平均であるから、「D ̄」は「この窓の中央画素密度Dc」の低空間周波数成分の振幅であることは明らかであること、「Dc」から「bD ̄」の値を引いていることは減弱していることに他ならないこと、低分解能イメージは低域フィルタあるいは積分器、通常分解能イメージはほぼ全通過フィルタと考えられること、および、パラメータbは同定され調整されることからして、「該撮像素子で得られたデジタル放射線画像信号」の点を除き、「デジタル放射線画像信号の低空間周波数成分の振幅を減弱させる低周波成分減弱手段」を有しており、「該低周波成分減弱手段が、前記デジタル放射線画像信号から所定の低空間周波数に対応する非鮮鋭マスク信号を求め、この非鮮鋭マスク信号に減弱係数Kを乗算した値を、前記デジタル放射線画像信号から減算するものである」点で、本願発明1と相違しない。

したがって、本願発明と引用例1記載の発明とは、
「デジタル放射線画像信号の低空間周波数成分の振幅を減弱させる低周波成分減弱手段とを含んで構成され、
該低周波成分減弱手段が、前記デジタル放射線画像信号から所定の低空間周波数に対応する非鮮鋭マスク信号を求め、この非鮮鋭マスク信号に減弱係数Kを乗算した値を、前記デジタル放射線画像信号から減算するものである
ことを特徴とする放射線画像信号の処理装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は「被写体を通過した放射線量を検知してデジタル放射線画像信号に変換する撮像手段」を含み、低周波成分減弱手段で減弱させるデジタル放射線画像信号が「該撮像手段で得られた」ものであるのに対して、引用例1記載の発明は撮像手段を具備しておらず、低周波成分減弱手段で減弱させるデジタル放射線画像信号が「該撮像手段で得られた」ものではない点。

(相違点2)
本願発明は減衰係数Kが「0.1≦K≦0.8の範囲から選ばれる」のに対して、引用例1記載の発明は0<b<1の範囲で決定されている点。

(相違点3)
本願発明は非鮮鋭マスク信号が「0.5サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以下及び0.01サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以上となる所定の低空間周波数に対応」しているのに対して、引用例1記載の発明では非鮮鋭マスク信号の空間周波数特性が特定されていない点。

以下で相違点を検討する。

(相違点1について)
引用例1記載の発明は「放射像、特にX線放射に曝されることによりエネルギを蓄えて、つぎに励起させると異なる形態もしくは波長の放射を放出するけい光体を用いて、励起されたけい光体により放出された像」に対して信号処理を行うことで強調しており、信号処理による像の強調を行うためには、像を画像信号に変換する手段が必要であることは明らかであると共に、引用例1記載の発明は「各画素iが走査され」ており、このような動作を奏する手段としては画像信号に変換する手段である「撮像手段」が周知である。
そして、放射線画像信号を画像処理装置において、「被写体を通過した放射線量を検知してデジタル放射線画像信号に変換する撮像手段」を含み、該撮像手段で得られたデジタル放射線画像信号に対して画像処理を施すことは、本願明細書の【従来の技術】の欄に記載されているごとく周知な構成でもある。
このため、引用文献1記載の発明が、「被写体を通過した放射線量を検知してデジタル放射線画像信号に変換する撮像手段」を含み、該撮像手段で得られたデジタル放射線画像信号に対して低周波成分減弱手段で減弱させて画像処理を施すように構成することは、当業者であれば容易になし得る事項である。

(相違点2について)
引用例1には、「b=0は通常の分解能(原イメージ)に相当し、bが0から1に増加するにつれてイメージの端部は尖鋭度が強調される。この技術はイメージのダイナミック信号レンジを圧縮(ヒストグラム圧縮)し、輝度の減少および重要な情報の損失をもたらすことも観察される」こと(引用例1記載の事項2)が記載されており、bが0から1に増加するにつれて、「イメージ端部の尖鋭度」という画質の向上と「輝度の減少および重要な情報の損失」という画質の劣化との相反する画質の変化が生じるのであれば、bの限界範囲である0から1の間に画質が最適となる範囲があると推考することは、当業者であれば当然な事項である。
そして、bの値としては0≦b≦1の値を取り得るものであるが、b=1のときは、「イメージ端部の先鋭化」という点で最大効果が得られるが、それと同時に「輝度の減少および重要な情報の損失」という弊害も最大となり、b=0のときはその両方とも生じないという関係にあるのであるから、いずれかの弱点が過度に表れないようにするために上記数値範囲の両端近傍の数値を避けた数値を採用する方が好ましいことは当業者にとって自明の事項と認められ、数値としては、当業者ならば、たとえば、b=0とb=1の中間値であるb=0.5をまず最初に考え、次に上記相反的に生じ得る作用のうち優先したい作用に応じてその数値を加減するようにするものと考えられる。
ところで、本願発明について、明細書の発明の詳細な説明の欄の記載をみると、減弱関数Kの数値範囲に関しては、段落【0030】に「よって、減弱係数Kは、0.1≦K≦0.8であることが好ましく、さらには0.2≦K≦0.7であることがより好ましい。また、最も好ましい減弱係数Kの範囲は、0.2≦K≦0.32である。」とあり、その根拠として、直接的には関係が記載されていないが、段落【0029】に「ここで、前記非尖鋭マスク信号Suを用いた所定の低空間周波数以下の成分の振幅減弱においては、振幅を減弱する前のゼロ空間周波数近傍の変調伝達関数M0を基準とすると、その値が0.2≦M0≦0.9となるように減弱することが診断に適した画像を提供する上で好ましく、0.3≦M0≦0.8となることがより好ましい。さらには、0.68≦M0≦0.80であると、得られる画像は、従来のスクリーン・フィルムを用いたシステムと比較して違和感なく診断に供することができる」という記載があるだけである。
そして、これらの記載によれば、上述の数値範囲の両端近傍の数値を避けた数値範囲を採用する方が好ましいということを否定する理由(いわゆる阻害要因)は示されておらず、本願発明についても、引用例1における上記いずれの弱点が過度に表れないような数値を選んだという理由以上の理由は考えられないから、本願発明において、Kの値として、数値範囲の両端近傍の数値を避けた「0.1≦K≦0.8の範囲から選ばれる」と限定した点は、当業者がまず最初に考えるであろう数値(K=0.5)を含んでいる点も含めて、引用例1に記載の「0<b<1の範囲で決定する」という点から適宜容易に推考できるものと認められる。

(相違点3について)
引用例1記載の発明は、低分解能イメージを通常分解能イメージから減算してマスクされたデジタルイメージを生成しており、「bの値が増加すると、(Dc-bD ̄)の量が正であるかぎり、端部強調の程度も増加する。」(引用例の(エ)の記載)なる記載からみて、この減算により、画像の端部およびコントラストの強調が行われている。
その上、引用例1には、「窓の大きさは5画素(隅を除いた3×3)の小さいものから非常に大きい数の画素まで可能であり、画素数が大きい程、有用な細部まで除去してしまう可能性が大きく、有用な限界は15×15画素の窓(225画素)であり、5-100画素が好ましい限界である」こと(引用例1記載の事項3)が記載されている。
画素は画像空間を走査しサンプリングすることで得られるものであって、走査するスライド窓の画素数が大きくなることは低分解能イメージの変調伝達関数が減少する空間周波数値が小さくなることに相当するという一般常識を参酌すると、引用例1記載の事項3は、窓の画素数が大きく、低分解能イメージの変調伝達関数が減少する空間周波数値を小さくする程、低分解能イメージにおける有用な細部を除去してしまう可能性が大きくなって、有用な細部を含まない低分解能イメージを通常分解能イメージから減算してマスクされたデジタルイメージを求めた場合、マスクされたデジタルイメージにおいて低空間周波数成分の減弱が十分にできずに残存する画像が多くなりすぎ、強調の不必要な画像部分まで強調されてしまう。すなわち、低分解能イメージの変調伝達関数が減少する空間周波数値が小さい程、マスクされたデジタルイメージに強調の不必要な画像部分まで強調されてしまうことを意味している。
また、この反対に、低分解能イメージの変調伝達関数が減少する空間周波数値が大きい場合には、強調される画像情報が画像の高空間周波数部分のみとなり、強調したい画像部分が強調されなくなってしまうことは明らかである。
このため、引用例1記載の発明において、画像の端部およびコントラストの強調のために低分解能イメージを通常分解能イメージから減算する構成において、その数値を加減して、低分解能イメージの空間周波数応答特性に診断特性を向上させる最適な範囲を推考することは、当業者であれば当然な事項である。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載をみると、非鮮鋭マスク信号の空間周波数応答特性の数値範囲に関しては、段落【0025】に「前記非鮮鋭マスク信号Suとしては、0.5サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以下となるような非鮮鋭マスク信号を用いるのが好ましいが、更に、0.01サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以上で、然も、0.5サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以下となるような非鮮鋭マスク信号を用いることがより好ましい。」という記載があるだけであって、その数値範囲を選んだ根拠は平成16年6月10日付意見書を参酌しても開示されていない。
しかも、空間周波数応答特性において、その数値範囲の特定方法として変調伝達関数が0.5以上又は以下となる空間周波数値により特定することは、引用例2記載の事項にみられるごとく、当業者が常套的に用いる特定方法である。
このため、非鮮鋭マスク信号の空間周波数応答特性の周波数値を加減して、その最適な範囲を0.5サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以下および0.01サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以上としたことに、格別の困難性はない。

ちなみに、引用例2には、上記「引用例2記載の事項」以外にも、第3頁右上欄10行ないし19行に、
「この非鮮鋭マスクとしては、変調伝達関数が0.01サイクル/mmの空間周波数のときに0.5以上で、かつ0.5サイクル/mmの空間周波数のときに0.5以下であるようなもの、あるいは・・・(中略)・・・が用いられており、」
という記載がある。
引用例2は、本件出願より約10年前に頒布された刊行物であるが、この刊行物に、その原文を作成した当時に既に実用されていた技術の一例として本願発明の数値と全く同じ数値が記載されていることからも、画像の端部およびコントラストの強調のために用いられる非鮮鋭マスク信号の空間周波数応答特性を、変調伝達関数が0.01サイクル/mmの空間周波数のときに0.5以上で、かつ0.5サイクル/mmの空間周波数のときに0.5以下とすることは、当業者が適宜採用し得る事項の一であることは明らかである。
そして、原信号に対して高空間周波数成分を強調すれば、画像信号の端部およびコントラストの強調が行われることは明らかであることから、引用例2記載の非鮮鋭マスクは、引用例1記載の発明の低分解能イメージと同様に、画像信号の端部およびコントラストの強調を行うために用いられる信号である。
このため、該記載からみても、引用例1記載の発明における画像信号の端部およびコントラストの強調を行うための非鮮鋭マスク信号である低分解能イメージの空間周波数応答特性を、変調伝達関数が0.01サイクル/mmの空間周波数のときに0.5以上で、かつ0.5サイクル/mmの空間周波数のときに0.5以下とすることに、格別の困難性は認められない。


本願発明の効果について、以下で検討する。
本願明細書では、本願発明が奏する効果について、「放射線画像信号の低空間周波数成分の振幅を減弱させることにより高空間周波数領域での信号のコントラストが改善される」(以下、「本願発明の効果1」という。)、「低空間周波数成分の振幅を減弱させることは、疑似的に被写体の放射線透過率の変化幅を減少させることになり、被写体の放射線を透過し易い部分と透過し難い部分とを同時に観察し易い状態に再生させることが可能となる」(以下、「本願発明の効果2」という。)、および、「特に医療用放射線画像においては、診断に適した再生画像を得ることができるようになり、放射線画像を用いた診断性能を向上させることができる」(以下、「本願発明の効果3」という)ことが記載されている。
しかしながら、本願発明の効果1および2は、引用例1記載の発明も「放射線画像信号の低空間周波数成分の振幅を減弱させる」構成を具備しており、「高空間周波数領域での信号のコントラストが改善される」こと、「低空間周波数成分の振幅を減弱させること」および「疑似的に被写体の放射線透過率の変化幅を減少させることになり、被写体の放射線を透過し易い部分と透過し難い部分とを同時に観察し易い状態に再生させることが可能となる」ことは、いずれも「放射線画像信号の低空間周波数成分の振幅を減弱させる」構成にもとづく自明な効果であるから、格別な効果とは認められない。
また、本願発明の効果3は、レントゲン像を医療用放射線画像として用いることは周知な事項であるから、当業者であれば引用例1記載の発明のレントゲン像を医療用放射線画像として用いることは容易になし得る事項であって、該効果は、尖鋭度の強調やイメージのダイナミック信号レンジの圧縮によって生じる、レントゲン像を医療用放射線画像として用いたことによる自明の効果にすぎないことから、格別な効果とは認められない。


平成16年6月10日付意見書の(2-2)および(2-3)に関する検討結果を、以下に付記する。
(2-2)では、「本願の発明者は、放射線画像の空間周波数特性について考察した結果、本願の図3に示すSoのように放射線画像の空間周波数特性が0.5サイクル/mmの空間周波数あたりから急峻に降下するという性質を有すること、および、丁度この0.5サイクル/mmの空間周波数付近に診断にとって重要な情報が多く含まれていることに気が付きました。」と主張しているが、上記の周知な数値限定は、人体を診断する際に用いるX線画像の画像処理を行うに際して、画像信号の端部およびコントラストを強調する画像処理を行うか否かの境界を0.01サイクル/mm〜0.5サイクル/mmの空間周波数域に設けていることを示しており、該空間周波数帯域より高空間周波数側に人体の診断に重要な情報が多く含まれているということを示していることから、該主張の点に格別の進歩性は認められない。
(2-3)では、出願人は「引用例1では、“変調伝達関数が減少する空間周波数値が小さすぎることは好ましくない”という、本発明の知見とは180度異なる認識が示され、引用例2では、「D’=Dorg+β(Dorg-Dus)」に基づく高空間周波数成分を強調する処理において、非鮮鋭マスク信号の空間周波数応答特性の好ましい範囲が存在することが示唆されているに過ぎません。」と主張しているが、
a)「スライド窓」の画素数が大きくなると、「低分解能イメージ」の変調伝達関数が減少する空間周波数値が小さくなること、
b)「低分解能イメージ」の変調伝達関数が減少する空間周波数値が小さくなれば、高空間周波数域の信号成分すなわち細部の情報が「低分解能イメージ」から欠落すること、
c)「通常分解能イメージ」から「低分解能イメージ」を減算することで生成する「マスクされたデジタルイメージ」において、変調伝達関数が減少する空間周波数値が小さい「低分解能イメージ」を用いれば、生成される「マスクされたデジタルイメージ」は変調伝達関数が減少する空間周波数値が大きくなって高空間周波数域の信号成分すなわち細部の情報が残存すること、
のa)〜c)は、技術常識に照らし合わせれば明らかである。
このため、引用例1の「画素数が大きい程、有用な細部を除去してしまう」なる記載、および、平成16年4月13日付拒絶理由通知書の「変調伝達関数が減少する空間周波数値を小さくする程、有用な細部を除去してしまう」なる記載は、「低分解能イメージ」を生成するための「スライド窓」の画素数が大きくすると、「低分解能イメージ」が有する高空間周波数成分が少ないものとなり、該「低分解能イメージ」が本来含んでいるべき有効な細部を除去してしまうことを表わしている。そして、「低分解能イメージ」において有用な細部が除去されることによって、該「低分解能イメージ」を「通常分解能イメージ」から減算して生成する「マスクされたデジタルイメージ」では、減算されていなければならない細部が残存してしまうという弊害が生じることは明らかである。
してみると、出願人は、上記引用例1の「画素数が大きい程、有用な細部を除去してしまう」なる記載を、本願発明における非鮮鋭マスク信号の「0.5サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以下」なる構成と対比して180度異なる内容であると主張している点は、引用例1の上記記載と対比すべき本願発明の構成を、非鮮鋭マスク信号の「0.01サイクル/mmの空間周波数のときに変調伝達関数が0.5以上」なる構成と対比すべきものであるから、該主張の妥当性は認められない。
 
審理終結日 2002-05-22 
結審通知日 2002-05-28 
審決日 2002-06-11 
出願番号 特願平3-110298
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 恵一  
特許庁審判長 小川 謙
特許庁審判官 佐藤 聡史
江頭 信彦
井上 信一
関川 正志
発明の名称 放射線画像信号の処理装置  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大賀 眞司  
代理人 田中 克郎  

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